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鋪道の囁き

1936年、加賀プロダクション、稲津延一原作+脚本、鈴木伝明監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ベティ・ヨシダ(ベティ・稲田)の顔が大きく描かれたポスターにタイトルが重なる。

そのポスターは、町を練り歩くサンドイッチマンの背中に貼られていたもので、同じポスターを背負った何人ものサンドイッチマンが通りを歩いて行く。

その姿を、ビルの上から眺めて満足げなのは、興行主の栗田ときょう子。

栗田は、これで、今、船で横浜に近づいているアメリカ産のカナリア(ベティのこと)を十分宣伝したと納得していた。

さらに栗田は、事務所にいた子分たちに、今後、色んな記者たちが取材に来るだろうが、特に、俺の事を目の敵にしている佐竹には気をつけろと言い渡していた。

その折も折、その佐竹(鈴木伝明)本人が事務所に乗り込んで来る。

東洋丸で来日するベティの事を確認するが、栗田は今忙しいと、体よく追い払ってしまう。

横浜で会いましょうと言い残して帰って行く佐竹に、海に叩き込んでやろうかと子分たちは気色ばむが、佐竹はそんな脅しに屈する様子もなく、そちらこそ浮き袋でも用意しておきたまえと平然と去って行く。

その頃、ベティは、東洋丸の船内で歌を披露していた。

その東洋丸が横浜に入港し、ベティは栗田らに囲まれ歓迎の乾杯をした後、待ち受けていた記者たちの取材を受ける。

その部屋にやって来た佐竹とカメラマンの磯谷は、ドアの前で立ちふさがっていた栗田の子分に入室を断わられてしまう。

車でベティを東京に送る途中、栗田は興行は万事任せてくれと胸を張るのだった。

東京でも、ベティの知り合いの鈴木から紹介状をもらって、ベティに会わせろと何度も栗田の元へ出向いた佐竹だったが、その度ごとに、ベティはこんな人は知らないと言っていると、栗田の子分たちから慇懃無礼な態度で追い返されてしまう。

ベティのジャズやフラダンスを披露する公演が始まり、大阪から福岡へと、ベティは列車移動する。

その福岡での公演中、栗田やきょう子、佐川らは、売り上げ金を持って、上海に高飛びしてしまう。

その事を知ったベティは、莫大な負債を背負わされたまま、東京に舞い戻る事になる。

その後、別の興行主が、言い寄って来たりするが、栗田に裏切られたショックが大きかったベティは、もう誰も信用しようとしなかった。

その興行主たちの失踪事件は新聞記事にも載り、それを読んだ佐竹の妹、初江は、兄にベティを何とか助けてやってと言い出す。

最初は無関心そうだった佐竹だが、もし、ベティが自分だったらどうすると初江から言われると、急に洋服を着替えると、磯谷を連れ外出すると言い出す。

その頃、若いバンドマンの沖(中川三郎)は、働いていた店の女から、あれこれ根も葉もない話を店長に告げ口され、店を首になってしまう。

すごすごと、住んでいる太陽アパートへ戻って来た沖は、同じ階に住む初代から声をかけられる。

二人は、年も近いと言う事もあり、日頃から仲が良かった。

同じ頃、ホテルのベティを訪ねた新しい興行主は、彼女の置き手紙を読んでいた。

栗田たちのからくりに引っ掛かった事が分かったので自分は出て行く。持ち物は全て置いて行くので、負債の返済の足しにしてくれと言う内容だった。

全財産を失い、すっかり落ちぶれたベティは、空腹のまま雨の町を彷徨っていたが、ミルクホールののれんの前に来ると、迷った末中に入ってしまう。

そして、食パンとミルクを無心で食べるベティだったが、廻りの様子が気にかかるのか、終始おどおどとしている。

そんなベティの様子を天主は怪しみながら観ていたが、とうとう、看板になるまでテーブルを立とうとしない彼女に勘定を要求するが、彼女が何も答えないので、無銭飲食と分かり、外に突き倒してしまう。

そこにちょうど通りかかったのが沖だった。

事情を店主に聞いた沖は、15銭の料金を12銭しか持っていなかった無銭飲食だと聞かされ、たった3銭で、女性を突き倒すとは何たる事かといきり立ち、3銭を自分が立て替えてやる。

その後、ベティを立たせて途中まで送った沖は、彼女に気を付けて帰るように告げ別れるが、その後、気になって振り返った沖が観たのは、雨の中、警官から不審尋問されているベティの姿だった。

すぐに、その場に駆け付けた沖は、この女は、夫婦喧嘩した自分の妻だと警官に説明する。

警官はにわかに信じようとしなかったが、取りあえず説教をして、家に帰るように諭す。

成りゆき上、銀座1丁目の太陽アパートの前まで彼女を連れて行った沖だったが、そこで別れようとすると、又、先ほどの警官が近づいて来るではないか。

仕方なく、沖は、ベティを3階にある自分の部屋まで連れて来てしまう事になる。

ベティは申し訳ないと恐縮しながらも、結局、泊めてもらう事になったベティは、沖の部屋にピアノがある事に気づき、音楽家なのだったら弾いてみてくれとせがむが、事情があってピアノは開けられないのだと沖が答える。

翌朝、さっそく、かいがいしく朝食の準備をはじめたベティだったが、そんな沖の部屋に、洗濯屋や米屋の借金催促がやって来る。

今や無職の沖は、何も生活費が払えない状況だったのだ。

そんな沖をかばう為、思わず、今、本人は不在だと追い返したベティは、その後、起きて来て、タップの練習をはじめた沖の姿を見る。

そんな沖の部屋にやって来たのが、馴染みの初江。

二人が仲良さげに話している姿を台所から観てしまったベティは、早くも淡い恋心を挫かれ哀しむのだった。

折角作った朝食を運ぼうとしたベティは、同じく朝食を作って運んで来た初江と鉢合わせになってしまう。

ベティは泣き出し、部屋に戻って来た初江も泣き出す。

そんな妹の様子を観た佐竹は、沖に虐められたと勘違いし文句を言いに行くが、そこにベティがいる事を知り驚く。

何度も、鈴木からの紹介状を持って会いに行ったと説明した佐竹だったが、ベティはそんな紹介状を見せられた事はないと答える。

やはり、栗田が途中で邪魔をしていた事を知る佐竹。

さっそく、ベティの新しいスポンサー探しに出かけようとした佐竹だったが、大家から呼び止められ、沖の家賃の立て替えは何時払ってもらえるのかと催促される。

そもそも、滞納金の代わりに沖の楽器を差し押さえていた大家だったが、それでなくても、部屋でタップを繰り返す沖の存在には頭を悩ましている様子。

先を急いでいる佐竹に、ちゃんとした返事をもらえなかった大家は、同じ催促を、部屋にいた初江に言いに来るが、勝ち気な初江との押し問答の末、追い返そうとした初江が持っていた人形の手が取れてしまう。

ぶが悪くなったと感じた大家は退散し、ベティと初江は心を通じ合わせる。

ベティが部屋に戻った後、いつものようにふらりとやって来た磯谷は、部屋で洗濯物を干している最中の初江の写真を撮らせてくれと説得し出し、嫌がる彼女を無視して、こっそりシャッターを押し続ける。

一方、沖の部屋にやって来たバンド仲間たちは、ベティが書いたと言う譜面を読みながら、その曲を誉めていた。

しかし、大家に差し押えされている為、彼らには、肝心の楽器がないのだった。

事情を知ったベティは、アイデアが閃き、全員に耳打ちして賛同を得る。

その頃、佐竹は、レコード会社の社長に、ベティとの契約を打診していた。

町の楽器店にやって来たバンドマンたちは、商品として店頭に並んでいた楽器を試しのように吹いてみる。

その音が、街灯スピーカーから流れ出して来たのに合わせ、ベティと沖はタップを踊り出す。

それを観ていたレコード会社の社長は、二人を大いに気に入る。

そのレコード会社との契約で、ようやく稼げるようになったベティだったが、心は晴れない。

沖の恋人としてはライバルである初江の事を思うと、自然に涙が出てしまう。

そんな彼女の元にやって来たの沖は、事情も良く分からないままに、彼女を慰めるが、そんな沖にベティは、差し押さえられている楽器の代金はいくらなのかと尋ねる。

その後、一人になったベティは、稼いだ金を楽器を買い戻す代金として初江に託すと、自分はこっそりアメリカに帰る決意をしてアパートを去る。

そんな中、大家の部屋に、佐竹が交通事故に会い、入院したとの電話が入る。

急ぎ、初江にその電話を知らせると、初江は大家に楽器代を払ってすぐに病院に向うのだった。

病院についた初江は、ベッドで寝ていた兄から、金があるから、沖たちの楽器を買戻させるようにと頼むが、その楽器代なら、ベティが残して行った金を今払って来たと初江が教えると、佐竹は驚くのだった。

その頃、ミルクホールで食事をして表に出て来た磯谷は、たまたま前を通りかかったベティの姿を見かけ、病院にいる初江に連絡する。

初江は、すぐに、バンドメンバーが待っているホールにベティを連れて行くよう頼む。

その知らせを病室の兄にも伝えると、心配して見舞いに来ていた沖にも、すぐにホールへ向えと佐竹は命じる。

沖は、佐竹の容態が急変したら知らせてくれと初江に頼んでホールへ出発する。

ホールでは、バンドが演奏するジャズに合わせて、大勢の客たちが踊っていた。

病室で、初江と二人きりになった佐竹は、急に、沖の事は諦めてくれと言い出す。

さらに、磯谷がお前の事を好きなのだとも。

初江は、磯谷の気持ちは自分も気づいていたと打ち明ける。

夜の9時40分になり、ホールでは、まだ客たちの踊りが続いていた。

そんな中、磯谷は、嫌がるベティを連れて客の間で待機していた。

一旦は、そんな磯谷の手から逃れて店を飛び出そうとしたベティだったが、磯谷が取り押さえて説得する。

やがて、バンドが、ベティ作曲のあの曲を演奏し出す。

すると、意を決したかのように、ベティも上着を取ると、ホールの中央に歩み出していた。

その頃、病院では、初江が見守る中、佐竹が息を引取っていた。

ホールでは、今正に、自分作曲のメロディに合わせて、ベティが歌い始めていた。

バンドの中で、ビターを弾いていた沖も、席を立つと、ベティの横に並び一緒に歌い出す。

たまたま、その日、そのホールに来ていたメトロポールレコードの社長は、その二人の歌を聞くとすぐに気に入ったらしく、隣に座っていた磯谷をマネージャーと思い込んだのか、すぐに契約したいと申し出て来る。

磯谷は、自分一人の判断では決断できかねるので、兄貴の佐竹と相談したいと言うと、佐竹なら自分も良く知っており、前に金を渡したのも自分だったのだと打ち明ける。

やがて、タップを踏みはじめる二人。

その曲が終わると、次のセントルイスブルースは、二人がタップを踊る為に曲なので、他のお客さまたちは踊らないようにと注意する。

そして始まった演奏に、ぴたりと息が合ったタップを披露するベティと沖。

踊りが終わると、客たちは一斉に、喝采の拍手をし始める。

その拍手を受けた二人は、その後、急いで病院に向う。

場面は変わり、佐竹の墓標の前、祈りを捧げるベティ、沖、磯谷、初江の後ろには、あのレコード会社社長も同席しており、佐竹の意思を継ぐ為、君たちへの援助は惜しまないと約束する。

やがて、彼らは揃って外人墓地を歩み去って行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

さすがに古い作品で、所々、ストーリーの辻褄が分からなくなる展開だが、ユーモラスなコント風表現も満載で、それなりに楽しく観る事ができる音楽映画。

日系二世のベティ・稲田のジャズとフラダンス、そして、沖を演じている中川三郎のタップの技量は本物で、その二人の軽やかな動きは今観ても驚異的。

しかし、最後の取って付けたような悲劇は、さすがにいただけない。

病室内での佐竹の様子が、あまりにも元気に描かれているからだ。

その後の、いきなり、沖を諦めてくれ、磯谷が実は…の、初江への最後の言葉(?)も、あまりにも場面の雰囲気にそぐわず、笑わせようとしているのかシリアスなのか、にわかに判断つきにくい。

第一、冒頭から、人一倍、妹思いの兄として佐竹を描いているのに、最後になって、その大切なはずの妹の気持ちを全く忖度してやらないと言うのがげせないし、何とも後味が悪い。

単に、ベティに沖を譲ってやれと、年長者として強要しているようなものだからだ。

それまでの、コント風の演出と、シリアスなお涙演出が同じように平行して描かれているのにも問題がある。

病室での元気な佐竹の様子を観ていると、次の瞬間、頭の包帯を殴り捨て、いきなり表に駆け出して行くと言うコント風展開になっても納得してしまうような雰囲気がある。

これでは、その後、容態が急変して、いきなり息絶えると言う場面が、一瞬「嘘だろう?」と信じられないものに見えてしまうのも仕方ない所だろう。

当時の観客の反応は分からないが、今観ると、煙に巻かれたようなスッキリしない話になっているのが惜しまれる。

冒頭で、売り上げ金を興行主たちに持ち逃げされたベティが、何故、負債を背負わなくてはいけないのかも良く分からない。

そう言う契約書を交わしていたと言うような説明シーンが一切ないからだ。

映画としての完成度はともかくとして、戦前の歌やダンスのシーンが観られるだけでなく、個人的には、コント作品としても、なかなか貴重な作品ではないかと感じた。

ちなみに、加賀プロダクションとは、加賀まりこの父親の会社らしい。