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肌色の月

1957年、東京映画、久生十蘭原作、長谷川公之脚本、杉江敏男監督作品。

この作品はミステリですので、後半、種明かしがありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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深夜を走る、大阪行き急行「明星」に独り乗った舞台女優宇野久美子(乙羽信子)は、人目を忍ぶようにスーツケースを持って洗面所に向うが、先客がいたのに気づき、慌てて隣の車両へ移ろうとする。

その時、背後から突然、「おくみさん!」と声をかけられたので、凍り付いてしまう。

知り合いの助監督楠田(堺左千夫)が、偶然にも乗り合わせていたのだ。

久美子は、和歌山まで行く途中だと言いながら、同席を勧める相手の言葉を断わって、隣の洗面所に向う。

洗面所に入った彼女は、スーツケースの中から衣装を取り出すと、素早く着ていた服と交換しはじめ、髪型もアップを降ろして変えてしまう。

ベレー帽を被り、画家風の衣装に着替え終わった彼女は、停車した豊橋駅の駅員にアナウンスのメモを頼む。

そのアナウンスは、「宇野久美子さん、お連れ様は次の列車に乗っておられます」と言うもの。

車中でそれを聞いた楠田は、一人旅かと思ったら、やっぱり…と、ほくそ笑むのだった。

しかし、その宇野久美子本人は、変装した姿で豊橋駅にこっそり降りると、「明星」が出発した後も建物の陰に身を潜めていた。 きれでもう、宇野久美子なる存在は、この世から消えてしまったのだ。

隠れていた彼女は煙草を吹かしながら、こうした行動を取るきっかけになった舞台稽古の日を思い出していた。

新しい舞台劇「肌色の月」は、劇中にシャンソンを取り入れる事で話題になっていた。

その唄を歌うヒロイン役には、フランス帰りの池谷理恵(石井好子)が抜擢された。

そしてその相手役の二枚目には滝二郎(仲代達也)、その滝に捨てられる元彼女役に選ばれるはずだった久美子は、別の新人に役を取られてしまったのだ。

久美子は、これまで滝と付き合っていたのだが、今や、その現実の方も怪しくなっていた。

役を奪われた久美子は、今夜こそ滝の気持ちを確認して、彼が受け入れてくれるのなら結婚して、女優業を辞めようと決意する。

しかし、楽屋口で出会った滝は、つれなく「おつかれさま」と言って先に帰った池谷理恵の後を追うと、一緒にタクシーに乗り込んでしまう。

それを目撃した久美子は、現実でも、自分が、滝の恋人役から捨てられた事を悟るのだった。

それでも、自分の愛情で滝の心を変えられるかも知れないと、もう一度、彼に会いに行った久美子だったが、久々の接吻の後、これで別れよう、自分には君を幸せに出来そうもないと滝から最後通牒を切り出されてしまう。

完全に絶望して楽屋から出た久美子は、やって来た理恵とすれ違い、自分自身に愛想をつかしてしまう。

回想から現実に戻った久美子は、豊橋5時8分発東京行きの列車に乗り、途中下車して、雨の中、五色湖に向っていた。

目的はもちろん、自殺であった。

誰もいないはずの山道で、後ろから車が近づいて来たので、顔を見られないように身を避けてやり過ごした久美子だったが、何故か、通り過ぎたその車が停車して、バックして来る。

車に乗っていたのは初老の男性で、雨の中、歩いている彼女を見て、乗せる気になったらしい。

断わるのも不自然なので、さり気なく乗り込むと、どこまで行くのかと問いかけて来る。

キャンプ場のバンガローにでも泊まろうと思っていると久美子が答えると、あそこは鍵がかかっているので泊れない、湖の向こうにホテルがあると教えてくれる。

しかし、そんな所に泊まる身分じゃないと久美子が言葉を濁すと、それならうちに来いと相手は言い出す。

車が向った先は「大池」と表札がかかった別荘だった。

その家の主、大池孝平(千田是也)は、彼女を独り住まいの別荘に招き入れると、濡れた衣服の着替用として、自分のパジャマを渡すと、浴室の場所を教え、自分は、車を車庫に入れに行く。

戻って来た大池が暖炉に火を入れ、そこへ久美子を招き寄せると改めて自己紹介して来たので、久美子は、とっさに戸川ひろ子と偽名を名乗る。

大池は、画家としての気持ちを聞きたいがと前置きし、4、5年前、この湖で身投げをした女がおり、その夫が探しに来て何日も遺体を探していたと話し出す。

この湖の底をさらったら、何が出て来るか分からんとも。

久美子は、何故、そんな事を大池が言い出したのか計りかねていた。

大池が、缶詰めの簡単な夕食を準備する間、散策でもして来たらと勧めるので、素直に湖にやって来た久美子は、ボートが浮かんでいるのを見つけ、今夜、用意して来た催眠剤を飲んであのボートに乗り、湖に漕ぎ出そうと、自殺の計画を立てて別荘に戻る。

しかし夕食後、大池は久美子に、二階の自分の寝室で寝るように勧めて来る。

自分は、暖炉の前の揺り椅子が好きなので、ここで寝ると言うのだ。

その申し出を辞退しようとした久美子だったが、結局大池に押し切られる形で二階に向い、ベッドに腰掛けると、面倒な事になったと考えはじめる。

下の暖炉の前で、大池が起きている間は、外に出る事が出来なくなったからだ。

夜中こっそり、ドアを開けて下の様子をうかがった久美子だったが、まだ揺り椅子は動いており、大池は起きている様子。

仕方なく、又ベッドに戻った久美子だったが、気がつくと、そのベッドの上で朝を迎えていた。

慌てて、下に降りた久美子は、大池の姿が見えないのに気づく。

急いで湖に向った久美子だったが、朝靄の立ち篭める湖には、もうボートがなかった。

見失ったボートを探そうと、水際をうろついていた彼女は、足を滑らせ水にはまってしまう。

そこに見知らぬ男が近づいて来て、どこから来たのかの聞いて来たので、大池の別荘から来たと答えると、大池さんはいたかと尋ねて来る。

久美子が、自分が出て来る時にはいなかったと答えると、そりゃ大変だと言って、男は別荘に向う。

組子も別荘に戻ってみると、先ほどの男が中におり、自分はバンガローの管理人で石倉(千秋実)と言うものだが、東京の大池さんの本宅から、大池さんが投身自殺をするという手紙が届いたので見に来たのだと言い、警察や東京に連絡してくると言って、慌てて出て行く。

二階の寝室に落ち着いた久美子は、湖の中央辺りに浮かぶボートを見ながら、厄介な事に巻き込まれたと後悔しはじめていた。しかし、こんな事で、自殺を中止するつもりはなかった。

湖には、警察の調査班ボートが集まり出す。

間もなく、東洋銀行の事を調査している刑事たちが来ると、石倉が別荘に来て久美子に伝える。

久美子が、バンガローに移りたいので鍵を貸してくれと頼むと、石倉は驚いたように、バンガローには鍵等かかってないと言う。

さらに、本宅にもあなたの事を知らせたので、今は移動しない方が良いのではないかと、石倉は意味ありげな事を言い出す。

そこへ、警視庁の神保(田島義文)、加藤(多々良純)、それに地元署の丸山(瀬良明)と言う三人の刑事がやって来る。

そんな彼らに、又、戸川ひろ子と名乗った久美子だったが、目ざとい加藤は、彼女の持ち物だと言う絵の具箱を開けてみて、筆が入ってないのは何故だと聞いて来る。

さらに、彼女が暖炉の前で乾かしていたハンカチを取り上げた神保は、ここに入っている「K.U」と言うイニシャルは誰の物だと突っ込んで来る。

住所を聞かれた久美子は、世田谷区北沢…若竹荘と答える。

大池は、浮き貸しで3000万ばかり損失を出したと神保が説明する。

久美子のパジャマが濡れているのに気づいた加藤が訳を聞いて来たので、今朝方、湖に出かけて落ちてしまったと答えると、加藤は、パジャマに付着しているヤナギモは水際にないはずだがと不審そうな顔をする。

その後、その水にはまった場所を教えてくれと、警官に伴われて出かけた久美子だったが、朝靄の中で転んだ場所を、晴れた今、見つけ出す事は出来なかった。

別荘に戻って来た久美子は、東京からやって来た大池の妻君代(淡路恵子)と息子の隆(石浜朗)と出会う。

君代は、久美子の事を大池の何かと思い込んでいるらしく、着ていたパジャマを脱いでもらうように孝に向って言う。

すぐさま、二階の寝室に向い着替えていた彼女の元に上がって来た隆は、あなたをどこかで見た事があると言い出す。

彼は、暖炉の側の箱の中にあったと、プトラインの瓶を彼女に渡すと、君が父に飲ませなかったとは言い切れないと疑念の言葉を投げかけて来る。

自分が疑われている事に気づいた久美子は、錠剤は3錠しか減っていないはずで、そんな量で死ぬ人間はいないはずと反論すると、心臓が弱っていた父親には、少量でも十分に致死量になり得ると隆は言う。

彼は、薬に詳しいインターンなのだった。

自分の母親も心臓病で亡くなり、今来ている君代は、その時世話してくれていた看護婦で、今は父親の後妻になった人だとも隆は説明して、下に降りて行く。

久美子は、自分への疑いを晴らすには、何故自分がここに来たかを話せば良いと分かっていたが、今はまだ言えなかった。何故なら、まだ自殺を諦めてはいなかったからだ。

徹底した警察の捜査にもかかわらず、大池の遺体は見つからなかった。

別荘にいた石倉は、あの湖は、底に吸い込み穴があり、他の湖に通じているので、死体等上がるはずがないと言う。

ちょうどそんな所に戻って来た加藤らは、そんな話は科学的にあり得ないと否定する。

君代らの姿が見えないのでどうしたと聞くので、石倉は、町へ買い物に出かけていると答える。

久美子は、石倉に送ってもらって対岸にあるバンガローに移ろうと別荘を出かけた所に、その君代と隆が戻って来る。

隆は、自分が潜ってみると、アクアラングを借りてきていた。

石倉が漕ぐボートでバンガローへ向っていた久美子は、大池氏と会った最後の夜、何か言っていなかったかと聞かれ面喰らう。

意味が分からないので、何も聞いてないと正直に答えると、石倉は微妙な表情になる。

バンガローには何も置いてないので、その後、石倉が缶詰めを持って来てくれたが、その缶詰めを見た久美子は、大池に振舞われた缶詰めと同じものである事に気づく。

そんな物思いに耽っていた久美子は、ふいに外に人の気配を感じ、灯を消すと、身を硬くして誰何する。

ソフト帽を被った人影が窓に写り、その相手は答えず離れて行くが、それが監視している地元の刑事であることに気づいた久美子は、今の自分には、自殺する自由さえなくなった事を直感するのだった。

翌朝、再びボートでやって来た石倉は、桟橋に久美子のものらしい靴が置かれているのに、バンガローにはその姿が見えないので、心配そうに周囲を探していたが、湖で手足を洗っている彼女を発見、安心したように近づくと、アクアラングを付けて潜っている隆が呼んでいると伝える。

久美子は、自分は全く泳げないし、何の役にも立てないと断わるが、現場で見ているだけで良いと言っているのでと重ねて頼まれたので、仕方なく、石倉のボートに乗って、その現場に向う。

そのボートの側に浮上して来た隆は、湖底で見つけたらしい大池の上着を見せた後、又潜って行く。

次の瞬間、久美子の乗ったボートが転覆し、それに気づいた隆が引き返して行く。

その様子を、別荘の二階の窓から双眼鏡で覗いていた君代は、下で待機していた丸山刑事に知らせる。

久美子は何とか助けられ、別送の二階のベッドに寝かされていた。

気がついた久美子は、隆から強心剤を注射された事を知る。

隆は、彼女が後追い心中をしたのではないかと疑いの言葉をかけて来るが、その言葉を聞いた久美子は、あなたこそ、泳げない私を沈めようとしていたのではないかと反論する。

そこへやって来た加藤刑事は、久美子の正体が分かった事、彼女が、大池失踪前夜、急行で楠田という助監督に会っている事、その列車の二等室にスーツケースが残されていた事等、調べ上げた事を並べ、それほどまでして大池に会いたかった理由は何だと問いつめて来る。

加藤の意外な推測にショックを受け、久美子は再び気絶してしまう。

その頃、石倉は、別荘の車庫の中で、ジュースに薬を混入していた。

丸山から、夕べ、バンガローでは気付かれそうになったと報告を受けた加藤と神保は、もう一晩、久美子を泳がしてみようと相談していた。

君代は、車庫にある車で、東京に戻ろうと考え、二階にいる隆を呼んでいた。

その隆は、眠っている久美子に置き手紙をしたためていた。

君の事が心配だが、先に東京に帰る。特に石倉には気を付けて…と書いた後、その「石倉〜」の部分は破り捨て、最初の文章だけ小卓に乗せて帰って行く。

やがて、そのメモは風に飛ばされ下に落ちるが、しばらく後、誰かがジュースの瓶を重し代わりに、又小卓の上に置いていた。

夜中目覚めた久美子は、咽の乾きを覚えたので、そのジュースを取り上げるが、栓抜きが見当たらない。

仕方なくそれを持ったまま下に降りて行くと、暖炉の前の椅子が揺れている。

誰か座っているのだ。

恐る恐る近づいて行くと、それは全身ぐしょ濡れ姿の大池だった。

彼は生きていたのだ!

心臓が苦しそうな彼は、水をくれとせがむ。

思わず、手に持っていたジュースを渡そうとするが、水の方が良いと言うので、水を持ってきて飲ませてやる。

そんな二人の様子を外から観察していた丸山刑事は、町で待機していた加藤に電話を入れる。

やはり生きていたか…と加藤は呟く。そうした事態も想定していたのだ。

警察を呼んでくれと言う大池だったが、今は夜中の3時半、朝までもうすぐなので、明るくなったら呼ぼうと久美子が言うと、それまで持てば良いのだがと、大池は動脈が弱っていると言う心臓を押さえる。

コップに注ぎ分けたジュースを飲みかけながら話を聞いていた久美子に、大池は事の概要を説明しはじめる。

浮き貸しとして紛失したとされる金は、実はトンネル会社に振り込んでおり、それを隠しおおせる為に、石倉に勧められ偽装自殺をする事にしたのだが、その当夜の証人として久美子を拾ったのだと言う。

ボートに乗り、湖の中に上着を捨てた後、バンガローへ向ったが、迎えに来るはずの車が来ない。

仕方がないので、山の中に隠れて今日まで待っていたが、やはり車が来ないので、夜岸に行ってみると、ボートがあったのでそれに乗って湖に乗り出した所、途中で、ボートの底に仕掛けがしてあり、沈みはじめたので、危うく死ぬ所だったと言うのだ。

心臓が弱い大池にとって、泳がされる事は大きな負担だった。

そう話し終えた大池は、ジュースを飲み終えた久美子が目の前で眠ってしまった事に気づく。

朝早く、別荘に到着した加藤らは、暖炉の前で眠っている二人を発見する。

そんな中、久美子は目覚めるが、大池に逮捕を呼び掛け起こそうとした加藤は、すでに彼が死亡している事に気づく。

近くでプトマインの瓶を発見した加藤は、その場で久美子に同行を求める。

その頃、東京の大池の本宅に、息子の隆が病院から帰って来る。

家に入る前に、庭先で買っている犬のコロとじゃれていた隆は、屋敷の中で物色している加藤、神保ら三人の刑事を発見する。

大池の隠し財産のメモでもないかと探していると説明した刑事たちは、隆に心当たりがないかとも聞いて来る。

一方、東京の留置所に入れられた久美子は、毎日のように執拗に取り調べを受けていた。

彼女が湖に行った理由が分からんと言うのだった。

しかし、久美子は、言えば、自分の恥を晒す事にもなる自殺の事を切り出せないでいた。

バンガローの管理人石倉も、久美子が証言した、大池を沈めかけたと言う穴の開いたボートを探す刑事たちに疑われていたが、バンガローは自分の退職金を全部注ぎ込んで作ったもので、大池の隠し財産等受取っていないと否定していた。

プトマインの瓶を持って取調室にやって来た加藤は、大池の死因は、解剖の結果、ジュースの瓶から検出されたこの薬が死因だったと言いながら、お前が飲ませたのだろうと久美子に突き付ける。

しかし、久美子は、そのジュースなら半分自分も飲んだのだと反論するが、大池の心臓が弱っていた事を利用したのだろうと切り返されてしまう。

大池の死体を焼く焼き場に来ていた君代、隆、石倉の前に現れた刑事は、意外にも、隆に同行を切り出す。

別送の二階に置いてあったジュースは、置き手紙を書いた隆が一緒に置いていったものではないかと言う久美子の証言を確認する為だった。

しかし、取調室に来た隆は、ジュースの事等全く知らないと否定する。

その隆が帰って行った後、探していた穴の開いたボートも見つからなかったと加藤は報告を受ける。

大池が死ぬ寸前打ち明けたと言う久美子の証言は、全て証拠がない事になり、ますます彼女の立場は悪くなっていた。

帰宅した隆は、何故か石倉も来ている事を知るが、犬小屋にいるはずのコロの姿が消えている事に気づく。

相変わらず厳しい追求を受けていた久美子は、迷った末、とうとう滝との事を打ち明けてしまう。

しかし、理恵と接吻を交わしている最中、劇場の楽屋にやって来た刑事から、久美子との仲を尋ねられた滝は、平然と、ふられたのはこちらの方で、久美子には、新聞に出ていた大池と言う相手がいたではないかと答えるのだった。

その後、又、久しぶりに帰宅した隆は、庭先で犬の鳴き声が聞こえるので、コロかと様子を見に行くと、それは、近所にいるコロの恋人犬だった。

その犬が庭の隅を掘り返そうとしている事に気づいた隆が、その場所をシャベルで掘ってみると、下から出て来たのはコロの死骸だった。

そこへ、一緒に外出していたらしい君代と石倉が一緒に帰って来る。

彼らは、病院にいるとばかり思っていた隆が目の前にいるので一瞬驚いたようだったが、君代は、一緒にお茶にしようと言い出し、買って来たサンドウィッチを隆に勧める。

何時の間にか、そんな君代の亭主気取りになっていた石倉は、この屋敷はやがて没収されるそうだが、大池の隠し財産等が本当にあるのなら、そんな事にもならなかっただろうに…と、隆に同情してみせる。

隆は、そんな二人を残し、部屋のバッグを取りに行くと、そのまま又病院に行くと帰って行く。

そんな隆に、せっかくだから病院で食べなさいと、君代がサンドウィッチの箱を渡す。

翌朝、君代のベッドで一緒に寝ていた石倉は、夜中中鳴いていたコロの恋人犬の鳴き声が気になって眠れなかったとこぼす。

窓から庭先を覗いて見た君代は、その恋人犬が、庭を掘り返そうとしている様子を見つけ、石倉にも見えると、危ないから、コロの死骸の埋め場所を変えようと外に出る。

シャベルを持って、穴を掘り返して見た石倉は、コロの死骸がない事に気づき愕然とする。

そこに、毒の効果を試すため、犬を使ったのかと言いながら、屋敷の裏に潜んでいた加藤ら刑事数名が近づいて来る。

犬の死骸なら、昨日、隆がバッグに入れて、サンドウィッチと一緒に持って来てくれたので、調べた所、どちらからもプトマインが検出されたと言いながら…。

数日後、病院の屋上で仲間たちとバレーボールをして遊んでいた隆は、濡れ衣が晴れ、無事釈放された久美子が挨拶に来た事に気づき、嬉しそうに近づいて行く。

舞台劇「肌色の月」が、今回の事件の影響もあり、大評判となり映画化される事になったので、その主演女優に彼女が選ばれた事を知っていたからだ。

しかし、やっと自由になれた久美子は、それを断わり、女優を廃業して、今度こそ郷里の和歌山へ帰るつもりだと打ち明ける。

そう言った後、下に降り、待たせていたタクシーに乗ると去って行く久美子の様子を、屋上の隆はいつまでも見送っていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

異色作家として人気の高い久生十蘭の遺作を映画化したもの。

失恋の痛手から、アリバイ工作をしてまで自殺しに向った湖で、とんでもない事件に巻き込まれ窮地に追い込まれてしまう女優を、乙羽信子が良く演じている。

登場人物も少なく、舞台も限定されており、あたかも舞台劇のように地味な内容ながら、その展開の面白さで、ついつい最後まで引っ張られてしまう見事なサスペンス作品になっている。

自分が当地にやって来た理由をあっさり打ち明けていれば、嫌疑は早い時期に晴れたはずが、自分への見栄からその時期を失したばかりに、どんどん窮地に追いつめれて行く主人公の焦燥感が見所。

それは、観客の焦燥感ともシンクロするものだから。

トリックそのものに新味があるとも思えず、最後に、大池を沈めかけたボートの行方とか、犯人たちが親しくなったきっかけ、隠し財産の場所等、すべてが謎解きされる訳でもないが、サスペンスとしては、これで十分だろう。

束縛されていたヒロインにとっては、そんな事はどうでも良い事だから。

本格謎解き好きには、不満の残るエンディングかも知れないが、もともと、原作者の久生十蘭は本格派タイプではないし、特にこの作品は遺作と言う事もあり、そのラスト部分は、夫人の久生幸子さんが加筆されている為かも知れない。

サスペンス好きには、結構、気に入る作品ではないだろうか。

色っぽい後妻を演じる淡路恵子、温厚そうな紳士風の大池を演じている千田是也、何か秘密ありげな管理人を演じる千秋実、薄っぺらな二枚目を演じている仲代達也なども各々に適材適所の存在感を見せてくれるが、中でも、石浜朗の爽やかな二枚目振りと、個性(クセ)のある刑事役を演じる多々良純が、特に印象深い。