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アスファルト・ガール

1964年、大映東京、舟橋和郎脚本、ロッド・アレキサンダーミュージカル監督、島耕二監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

銀座を赤いワンピースの赤いパンプスの女が歩く姿にタイトル。

「今晩おひま?」と書かれた名刺の大写し。

コールガール組織「東京観光クラブガイド」の事務所内で、色とりどりのワンピースを着た女性たちが踊りまくっていた。

そこへ、女たちを仕切っているボスとチンピラたちが帰って来る。

ボスは、女たちに、東京オリンピックまで間近なので英語をレッスンしているのかと文句を言うが、自分達はと聞き返され、ヒモに教養はいらないと開き直る。

女たちも負けてはいない。

不景気なのは自分達のせいではなく、ボスの外交が下手だからと嘯く。

そこへ電話がかかって来て、ホテルエトワールに来ているジャズミュージシャンからのお誘いだと言う。

さっそく、店の売れっ子たち全員を出勤させる事になるが、独り、ボスの女であるエミ子(中田康子)だけには行かなくても良いと足留めさせる。

ホテルに出向いた女性たちは、ちょうど、演奏をしていた三人のミュージシャンの音楽に合わせ、陽気に唄を歌いはじめるのだった。

事務所に取り残されたエミ子は、ボスから、お前はパンチがきいてないと説教を受けていた。

そこへ又電話があり、上品な女性が望みだと言うので、電話を受けたボスは、しめたとばかり、うってつけの女性がいると返事をする。

公園の噴水の前で、こうもり傘を持っていると言う相手に会うようエミ子は指示されるが、ただ一つ、酒は絶対飲むなとボスから厳命される。酒癖が悪い彼女が、すぐにボロを出す事を恐れたからだ。

公園の噴水の前でこうもり傘を開いていた星野平太郎(坂本博士)が、傘を閉じたのを観た別の男が近づいて来て、雨が降り出してきたねと言葉をかける。

どうやら、傘に入れて欲しそうな気配だが、相手が何故か、そのこうもり傘を開かないのに気づき、諦めて立ち去ると、そこへエミ子がやって来て、お待合せの相手は私じゃないかしら?と声をかける。

その頃、ホテルの一室では、星野が恋人を連れて来るかどうか、5人の男たちが話し合っていた。

取りあえず、喫茶店でエミ子に事情説明する星野。

何でも、ブラジルでコーヒー園をやっている星野は10年前妻に先立たれたのだと言う。

今回来日して海軍仕官学校時代の友人たちに会った所、その一人が、おせっかいにも再婚を強引に勧めて来るので、つい恋人ならいると言ってしまった。

つまり、今日のエミ子には、その恋人役を演じて欲しいと言うものだった。

名前を聞かれたエミ子は、デラックスエミ子じゃまずいし…と名前を考えはじめる。

その頃ホテルでは、友人たちが、星野が恋人を連れて来るかどうかで一人1万円づつ賭けていた。

そんな部屋に、星野に連れて来られたエミ子は、小川エミ子と名乗る。

本当に恋人を連れて来た星野に驚いた友人たちは、すぐにシャンペンを数本開け、各人しきりにエミ子に勧めはじめる。

ボスからの忠告を守ろうと、最初は辞退していたエミ子だったが、星野の顔色をうかがうと、優しく頷いているので、つい、それに甘える形で、友人たちから勧められるまま一杯、二杯…とグラスを重ねてしまい、とうとう最後には、自ら手酌で飲むようになる。

友人たちは、そんなエミ子の飲みっぷりに感心すると共に、本当に星野に付いてブラジルに行くつもりなのかと尋ねるが、上機嫌になったエミ子は、行くわと簡単に答える始末。

そんなエミ子がいきなり歌い出すと、友人たちも一緒に歌い踊り出す。

あげくの果て、星野に抱きついたエミ子は、頬にキスをする。

さすがに呆れた星野は、そんな彼女を抱きかかえると、隣のベッドルームに連れて行き寝るように勧める。

しかし、友人たちは、すっかり二人の仲を信用し、自分達はそろそろ失礼すると言い出すが、そこに又、エミ子が出て来て、私は一人にされるとすぐに眠ってしまうけど…と言いながら、花瓶に刺してあったバラの花弁をむしゃむしゃ食べ出す。

星野は、友人たちにせかされ、一緒にベッドルームに戻るが、もうエミ子は一人ですやすやと眠っており、そのあどけない寝顔を観た星野は、思わず微笑んでしまうのだった。

その頃、稼ぎを分け合っていた「東京観光クラブガイド」ボスと子分たちは、これから飲みに行こうと裏道で踊りだしていた。
あまりはしゃぎ過ぎ、警邏のお巡りに見つかってしまったので、そごすごと帰る彼ら。

翌朝、朝食のルームサービスの準備が整った星野はエミ子を起こすが、夕べの記憶をなくしていたエミ子は恐縮しながらおずおずとベッドルームから出て来る。

しかし、星野は全く気にしていない様子で、自分は君の時間を買っただけだと紳士的。

すっかり、そんな星野の人柄に惚れたエミ子は、一緒に朝食を取りながら、自分は花が好きで花壇を作っていると教え、何故、純真な君がこんな仕事をしているのかと言う星野の問いには、自分は記憶喪失で、3年前の事を覚えていないのだと打ち明けるのだった。

そんなエミ子に、何かプレゼントしたいから、欲しいものを言ってくれと言う星野に、エミ子は靴をねだる。

一緒に出かけた靴屋で購入したパンプスをはいたエミ子は、ビルの屋上の片隅に置いた鉢植えを見せる為、星野を連れて来る。

洗濯物だらけの屋上だったが、星野には、どこよりも素晴らしい花畑に思えた。

やがて、エミ子が歌い出し、タップをしはじめると、それに星野も合わせ出す。

ちょっと、寒くなって来たので、エミ子が上着を羽織っていると、今度は星野が静かに歌いはじめる。

事務所に戻って来たエミ子が履いている新しい靴を観た同僚たちは、6000円で買ってもらったと無邪気に喜ぶエミ子をうらやましがるが、独りボスだけは、そんなはした金で喜んでいる女たちを叱りつける。

相手は金持のカモなんだから、ダイヤの指輪とかミンクのコートとかをねだらない方がおかしいと言い、エミ子にもう一度行って来いと、ボスは言い付けるのだった。

又、ホテルに戻った廊下でエミ子を待ち受けていたのは、そのホテルを縄張りとする、他のコールガール仲間たちだった。

シマ荒らしだと因縁を付けられ、一室に連れ込まれたエミ子は、数人のコールガールたちに小突き廻された上、一人の女がナイフを取り出して来たのですくみ上がるが、そんな騒動を隣の部屋で聞いた星野が駆け付けて来たので、間一髪エミ子は助かる。

しかし、その洋服はずたずたに引き裂かれていたので、エミ子は恥ずかしがってホテルを出、それを追って来た星野が、表で待機していたタクシーに一緒に乗って来る。

エミ子が星野を連れて来たのは、彼女の住居だと言うが、そこは電車が脇を走る風変わりな部屋だった。

部屋一面に置かれたロウソクは、彼女が好きで集めたものだと言う。

南米のインディオんも祭りの時に使うと言いながら、全部に火を付けてみようと言い出した星野がその数を数え出すと、エミ子は23本、自分の年令と同じだと教える。

エミ子が着替えている間、その部屋を見回っていた星野は、たくさんの彫刻が置かれているのを見つける。

この家の主人の物で、その老人は今、ヨーローッパに言っているのだと着替えたエミ子が教える。

ロウソクの火に囲まれた彼女の姿を観た星野が、まるでバースディケーキに囲まれたお姫さまみたいだと誉めると、エミ子は、小さな頃、一息でロウソクを全部吹き消せなかったなど、想い出話のような事を言い出したので、星野が、もっと覚えているものはないかと聞くと、海、船、波止場は覚えていると言う。

この言葉を聞き、ひょっとしたら君は横浜に住んでいたのではないかと推理する星野。

過去の事がはっきりすれば、きっと幸せになれるからと、さらに追求しようとする星野に、エミ子は、ややこしい事は明日にする性分なのだとはぐらかすのだった。

そんな所へひょっこりやって来たのがボス。

エミ子を呼出し、かもったかと尋ねると、星野の方に近づき、別口から2倍の料金を払うと言われているのでと切り出して来たボスに、星野は、では自分は3倍払うと良い、ボスを追い払う。

エミ子は、そんな二人の会話を哀しげに聞きながら、独りロウソクを吹き消すのだった。

不機嫌な様子で帰って来たボスに、子分たちが歌で訳を聞いて来るが、結局、ボスは何も語ろうとはしなかった。

翌日、何か、幼い頃を思い出させようと横浜を訪れた星野とエミ子だったが、エミ子の方には少しも想い出を探そうと言う気配は見えなかった。

そんなエミ子の不熱心さに、徐々に苛立つ星野。

そんな中、とある場所で靴磨きに声をかけられた星野に、エミ子は、実は、自分が記憶喪失と言うのは客相手の嘘で、本当は、子供の頃から靴磨きをしていたのだと打ち明ける。

にわかにその言葉を信じられない様子の星野を観たエミ子は、たまたま一つ明いていた靴磨きの台に勝手に座ると、他の靴磨きと全く同じ動きで、客相手に見事な腕を披露しはじめる。

あげくの果てに、靴磨き連中と一緒に歌い踊り出す始末。

それを観ていた星野は、君の過去なんかどうでも良く、今の君が大切なんだと説得するが、エミ子は、そんな星野を振り切って逃げ出そうとする。

外人墓地にやって来た星野は、切々と、エミ子への思いを歌いはじめる。

一方、エミ子の方も、立ち止まり歌いはじめていた。

やがて、二人は落ち合い、その歌声は重なって行く。

星野は、実は自分の方も嘘をついており、ブラジルでコーヒー園をやっていたが、今は破産して無一文である事、これが最後の見納めかも知れないと思い来日したが、君をブラジルへ連れて行きたくなった。今夜7時半に出航するので、それまでに来てくれないかと誘う。

ボスや仲間たちに別れを告げる為、一旦事務所に戻って来たエミ子だったが、そこはもぬけの殻。

掃除のおばさんの話では、皆、ブラジルに帰るジャズメンたちを送る為、港に向ったので、ボスへの挨拶等しないで、このまま行ってしまいなさいと忠告する。

その頃、港では、星野の友人たちが、見送りにやって来ていたが、その中の一人が、星野はあの時の女を連れて行かないだろうと言う。

不思議がる仲間たちに、その男は、あの女性は恋人ではなかったからさと勘で言う。

自宅に戻り、旅行仕度をはじめたエミ子だったが、そこに現れたのがボスで、男の居場所を言わない限りここからは出さないと言いおき出て行く。

そこへ、星野が一人で車で乗り付けて来る。

友人たちは、女性が来たら後の便で送るから、先に船に乗っていろとせかし、自分達は見送り用の建物に入って行く。

一方、船内では、ジャズメンたちを送りに来た「東京観光クラブガイド」のメンバーたちが陽気に踊りだしていた。

チンピラの一人(尾藤イサオ)も、得意の咽を披露する。

独り自宅で泣いていたエミ子は、何気なく、入口のドアに向ってノブに手をかけてみる。

すると、そこには鍵がかかっておらず、何事もなく開くではないか。

船のパーティ会場には、ライバルのコールガールたちが乗り込んで来て、喧嘩騒ぎが始まっていた。

それを知った船員たちが、全員、ホールから追い出してしまう。

タクシーで港にやって来たエミ子は、見送り台の方へ登ろうとするが、そこで待っていたのはボスだった。

星野の乗った船はとっくに出て行ったと言う。

エミ子に気があるボスは、何とかエミ子の心を取り戻そうと、そこで踊るのだった。

花の鉢植えが置いてあるビルの屋上へ戻って来たエミ子は、履いていたパンプスを水たまりの中に放ってしまうが、その時、どこからともなく聞き覚えのある歌声が聞こえて来る。

信じられない気持ちで、自分もそれに合わせて口ずさんでみるエミ子。

すると、建物の影から、水たまりに男の姿が写り、その男は、水たまりに落ちたパンプスを拾い上げると、エミ子の方へ近づいて来た。

星野だった。

二人はしっかり抱き合う。

その後、街路樹の間の小道を去って行く、幸せそうな二人の姿があった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

宝塚出身の中田康子が歌って踊るミュージカル映画。

ミュージカル部分の演出を外国人が勤めているせいか、それなりのミュージカル映画になっているが、いきなりコールガールの話と言うのが、全体の雰囲気を今一つ弾ませないものにしている。

チンピラたちを中心とする「ウエストサイドストーリー」や、貧しい女が金持ちに見い出され、洗練させられて行く「マイフェアレディ」の話等をミックスしようとする意図だったのだろうが、その何かを連想させてしまう発想の安易さが、全体的な印象の薄さに繋がっていると思う。

星野を演じている男性は、どこかで観た記憶があったが、本職の役者ではなく、一時期、テレビ等でも活躍していた声楽家の坂本博士。

誠実そうな人柄だが、失礼ながら、役者としては華がない。

一方、中田康子の方は、さすがに宝塚や日劇ダンシングチーム出身だけに、歌に踊りに良く健闘しているが、その大人びた顔だちには、観る者の好き嫌いが分かれるのではないか。

他に有名人はいない。

皆、役者と言うより、歌や踊りのプロだからだろう。

かろうじて、尾藤イサオだけ、いまだに現役だが、この頃はチンピラの一人でしかなく、踊りのシーンなどでは、なるべく目立たないように、他のダンサーたちの後ろに廻っている。

後半、彼が歌うシーンがあるが、せっかくのロックンロールなのに、「蒲焼き」だの「馬と鹿とが合わさって〜」などと言う日本語歌詞が、今聞くと、なんとも泥臭くミスマッチに聞こえてしまう。

踊りのシーンは、全体的に器用にこなしているだけで、ダイナミック不足と言う感じがする。

唯一、靴磨きと中田康子が踊るシーンは見事にまとまっている。これが、本作の白眉かも知れない。

他にあげれば、夜の酒場の中、椅子を堆く積み上げた小道具を巧く使った踊りのシーンがちょっとユーモラスで印象に残るくらいか。

洗濯物が溢れるビルの屋上のセット等も面白いが、同年、東宝で作られた「君も出世ができる」の大掛かりさを知っているものとしては、本作は、今一つ、全体的にこじんまりと言うか、地味な印象を拭い切れない。

ただし、マットアートを巧く使ったロマンティックなビジュアルなど見所がないではなく、大映にも、こうした本格的ミュージカル映画があったと言う事を知っただけでも貴重だった気がする。