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あらしのよるに

2005年、「あらしのよるに」製作委員会、きむらゆういち原作+脚本、杉井ギサブロー脚本+監督作品。

この作品は、比較的最近のものですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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鋭い目つきで草むらを走る狼の群れ。

その気配に気づいた母親ヤギは、子供ヤギを逃すと、敢然と狼の群れに立ち向かい、ボス格の狼の片耳を食いちぎった後、他の狼たちに襲われてしまう。

時が過ぎ、丘で仲間たちといたヤギのメイ(声-成宮寛貴)は、雲行きが怪しくなって来たので帰リはじめた他のヤギに取り残されてしまう。

やがて、突然雷雨になり、逃げ場を失ったメイは、近くにあった小屋に逃げ込む。

中は真っ暗で、何も見えない。

やがて、ひずめの音のような音が近くでしたので、仲間だと思ったメイは声をかける。

声を返して来た相手とは、狼のガブ(声-中村獅童)だったのだが、慌てて逃げて来る途中、足を挫いてしまったので、木の杖をついており、それが、ちょうど、ひずめの音のように聞こえたのだ。

しかし、互いに真っ暗なので相手が見えないし、二人とも鼻風邪をひいてしまったので、相手の匂いがかげない。

そこでは、相手の声しか分からない状態だった。

バクバク谷に住んでいると言うガブの発言に驚くメイ、と言うのも、バクバク谷には狼が住んでおり、ヤギには危険な場所として知られていたからだ。

メイは、サワサワ山に住んでいると教える。

二人の意見が一致したのは、フカフカ谷のエサの方が好きと言う事。

ガブが、エサにことを言おうとした瞬間、雷がなったので、その話は途切れてしまう。

ガブは、子供の頃は痩せっぽちだったので、母親からとにかくたくさん食べるように育てられたので、今では立派な大食いになったと打ち明ける。

幼い頃に母親を亡くしていたメイの方も、おばあちゃんに育てられたと話し、境遇といい、雷が苦手な所といい、互いに似ていると共感しあう。

ひょっとしたら、顔も似ているかも知れないと言っていた次の瞬間、雷光が走り、一瞬、互いの姿が浮かび上がるが、互いに目をつぶってしまい、互いの姿を捕らえる事が出来なかった。

すっかり打ち解けあった二人は、明日の昼一緒にご飯でも食べないかという事になり、この小屋の前で待ち合わせることにする。

互いの顔が分からない時の用心として、「嵐の夜に会ったものです」を略して「あらしのよるに」を合い言葉にしようという事になる。

やがて、嵐がおさまり、すっかり日も暮れたので、互いに帰ることになるが、メイが足が痺れたとなかなか動き出さないので、ガブの方が先に一人で出て行ってしまう。

翌日の昼、弁当持参でその小屋の前に先にやって来たメイは、ガブを脅かそうと、近くの木の裏に身を潜めると、そこへ同じく弁当を首に結んだガブがやって来る。

ガブは、木の後ろに相手の気配を感じ、約束通り「あらしのよるに…」と合言葉を言うが、木の裏から出て来たのはヤギのメイだった。

互いに相手の姿を確認し、その場に氷りつく二人。

しかし、結局、二人は約束通りに一緒に昼食を撮る為に出かけることにする。

二人とも、各々、おばあちゃんと母親から、友達は大切にするようにと育てられて来たからだった。

山を登って行く二人だったが、途中、崖崩れで道が一部陥没している所があり、先にそこを飛び越えたガブは、その途中、首から下げていた弁当を崖下に落としてしまう。

メイもそこを飛び越え、先に歩くことにするが、そのお尻を見ながら坂を登る事になったガブは、メイの身体が美味しそうなエサにしか見えず辛い時間となる。

そんなガブに、まさか、さっき落としたエサはヤギの肉だったのではないかと聞いて来たメイに、自分はヤギの肉等食べた事ないと嘘をついてしまう。

やがて、見晴しの良い山の頂上に出たメイは、持って来たクローバーを食べはじめるが、ガブは昼寝する振りをする。

弁当を食べ終わったメイは、ガブの真似をして、一緒に昼寝し始めるが、その様子を観ていたガブは、空腹のあまり、大好きなヤギが目の前にいるので、つい、その耳を食べてみようと口を近付けるが、くすぐったがりだったメイは目を覚ましてしまう。

まさか今、自分を食べようとしていたのか?と聞いて来たメイに、返事に窮したガブは、ごまかす為に、今度何時会おうかと言ってしまう。

ある日、ヤギ一族の長老(声-板東英二)が、今は狼から襲われる一番危険な時期だから、決して一人では行動しないようにと、一同に注意を与える。

そんな最中、群れを離れて行こうとするメイの姿に気づいたタブ(声-林家正蔵)が、どこに行くのかと聞くと、ソヨソヨ峠でちょっと約束があると言ってしまう。

しかし、今の長老の言葉を聞いていたタブは、ソヨソヨ峠と言えば、最近、何度もヤギが狼に襲われている所で、今では「昼飯峠」と呼ばれているくらいの場所だから一人で出かけるのは危険だと言い、近づいて来たメイのおばあちゃん(声-市原悦子)も必死で止めようとする。

しかし、どうしても行きたがるメイに、タブとミイが一緒について行ってやると言い出す。

ソヨソヨ峠に、先についていたガブは、頂上に生えている金木犀の木の下の叢に隠れて待つことにする。

そこへやって来たのが、メイだけではなく、見知らぬ二匹のヤギも一緒だと知ったガブは驚くが、そのまま隠れて様子を観ていることにする。

そんな事とは知らないタブは、頂上にある金木犀の木は匂いが強いので、その下で隠れていてやろうか等と言っている。

そんな三匹が頂上の金木犀の下に到着し、タブは相変わらず、 狼なんて怖くない。出て来たら、自分がやっつけてやる等とのんきな事を言いながら、叢を蹴飛ばす真似をする。

そのタブの蹴った足が、見事に隠れていたガブの額にぶつかり、痛さに絶えかねたガブが飛び出してしまったので、それを観たタブとミイは、一目散に逃げ出してしまう。

二人きりになったガブとメイは、やっぱり二人は、人には話せない「秘密の友達」なんだと確認しあうのだった。

メイを置いて逃げてしまったタップは、ミイから意気地なしと呆れられるが、その後、狼に食べられたのではないかと心配していたメイが、何事もなかったかのように帰って来たのに遭遇し、一安心する。

ある日、ポロポロヶ丘で会う約束をしていたメイに見せる為、先に来ていたガブが石を並べていた所に、仲間のバリー(声-山寺宏一)がギロ様が呼んでいると伝えに来る。

狼仲間のボス格であるギロ(竹内力)は、片耳がない狼だった。

彼が仲間たちを集めて伝えたのは、これからポロポロヶ丘にヤギ狩りに出かけると言う事だった。

普段はヤギ等いない場所のように思われていたが、岩場の陰に草が生えている場所があり、時々ヤギが集まっているらしいというのだった。

それを聞いたガブは、現場にはメイもいるはずなのでどうしようかと緊張感に襲われる。

ポロポロヶ丘は、その日、濃い霧に覆われていた。

メイは、狼の群れがやって来た事に気づき、岩陰に身を潜めていたが、近づいて来たギロは、風向きが悪いので、はっきりとした匂いは感じられないまでも、すぐ近くにヤギがいる気配だけは感じていた。

そのギロに近づいて来たガブは、別の箇所に太ったヤギを見つけたと嘘を言い、取りあえず、メイの側からギロを引き離す事に成功する。

しかし、その直後、メイはバリ−に見つかり襲いかかられるが、その上に大岩が落ちて来たので、間一髪、メイは助かる。

ガブはメイの手をひいて霧の中を逃げ、ほろ穴の中に取りあえず隠れると、今日ここへ呼んだのは、今夜満月がきれいで、それを一緒に観たかったからだと残念そうに言う。

その頃、ヤギの群れに戻って来たおばさん(声-KABA.ちゃん)は、ふるえながら、狼に襲われて懸命に逃げて来た事を話すと同時に、おかしなものを目撃したと言い出す。

それは、ヤギと狼が仲良く手を繋いで逃げている姿で、そのヤギと言うのはメイだったと言うのだ。

その話を聞いた仲間たちは、一斉にメイの行為を非難しはじめる。

タブも、以前からのメイの不審な行動の真相に気づく。

そんな所に戻って来たメイは、長老から、狼と仲良くしていると言うが、自分達ヤギは狼にとってはエサにしか過ぎず、お前は相手にヤギの行動情報を与えている恐れがあり、仲間たちにとって危険な行為をしているのだと忠告する。

一方、群れに戻ったガブの方も、エサのヤギを逃した事をバリ−に追求されていた。

相手に狼の行動情報を話している恐れがあり、こちらに不利益になるだけなので、相手に利用されているだけだと嘲笑するバリー。

ギロは、そんなガブを谷底の洞窟の中に放り込むよう命ずる。

その夜、独りで眠れず悩んでいたメイの元にやって来たおばあちゃんは、メイの亡くなった母親は、幼かったメイを狼たちから救おうとして、一匹の狼の片耳を食いちぎった後、他の狼たちに襲われたのだと教える。

谷底の穴の中に入れられたガブの方は、穴から見える夜空の星を観ながら、幼かった頃から、だらしなかった自分を笑っていたバリーたち仲間の事を思い出していた。

次の日、長老に呼出されたメイは、もう一度狼に会ってみるかと意外な提案をされる。

その時、相手から、狼の行動の情報を聞きだせて来いと言うのだった。

一方、穴から出されたガブの方も、本来なら処刑だが、お前の父親は俺の友人だったので今回だけは助けてやる。その代わり、ヤギに会って、あちらの仲間たちの情報を聞き出して来いと、同じ事をギロから命じられていた。チャンスはそれ一回だけだとも。

その二人が河原で会うと言う情報は森の動物たちにあっという間に知れ渡り、彼らは、二人の同行を見に行こうと、河原周辺に秘かに集まって来る。

もちろん、その現場には、ヤギの仲間や狼の仲間たちも来ており、互いに遠くから見張っていた。

そんな中、何となくぎこちなく落ち合ったメイとガブだったが、取りあえず、谷川まで降りて行こうと言う事になり、下まで降りたところで、急に雨が降り出して来たので、野次馬見物していた動物たちは、一斉に帰ってしまう。

ガブは、雨宿りする為、川向こうの岩陰に避難しようとメイに提案し、川の中の石を渡りはじめるが、途中で、メイが足を滑らせ川に落ちそうになる。

その手を思わず掴んで、何とか石に引き戻したガブは、実は、今日、あんたを騙してヤギの事を聞き出そうとしていたのだと打ち明ける。

すると、メイの方も、自分も同じ目的で来たと告白する。

川の中の石の上に立った二人は、今まで二人は「秘密の友達」だと思っていたが、もう秘密ではなくなってしまったと感じていた。

こうなった以上、互いに、元の仲間たちと巧くやっていけるはずもなく、二人とも互いに気持ちは固めていた。

又、生きて会いましょうと言い合うと、二人揃って、川のなかれに飛び込んでしまう。

その後、川岸で気がついたガブは、メイの姿が見えないので必死に名前を呼び掛けながら、こんな事になるんだったら、はじめから出会わなければ良かったと後悔の言葉を洩らすが、そんなガブに聞こえて来たのは「私は出会えて良かったと思いますよ」と言うメイの声だった。

そんな二人を見つけたリスたちは、あの二人はこれからどうするんだろうと噂しあう。

メイは、あの山の向こうにでも行ってみましょうかと、遠くに聳える雪山を見る。

誰も行った事のない場所だったが、緑の森があるかも知れないと言うメイの言葉にガブも従うしかなかった。

もう二人が帰る場所はなかったのだ。

そんな二人を、ギロたち狼は執念深く追い続けていた。

昔、ヤギから片耳を食いちぎられたギロにとって、ヤギはどうしても許せない存在だったからだ。

メイとガブは、川を渡る事で、自分達の匂いを消したりしながら、追っ手たちから逃れようとしていた。

そんなある夜、まだ寝入っていなかったメイの元に、口元を血で汚したガブが帰って来る。

草食動物であるメイにとっては、空腹のためとは言え、夜毎に動物を食べてに出かけているガブの行為が許せず、ちょっと非難めいた言葉を投げかけてしまう。

ガブが自分に気を使っている事は分かっていても、嫌なものは嫌と言うしかなかったからだ。

そんな二人も、やがて、追って来た狼たちに見つかってしまう。

ガブは、自分の背中を踏み台にして、谷の向こう側に半分かかった倒木にメイを飛ばせ、その後に自分も続く。

倒木はガブの重みで谷底に落ちてしまい、追っ手の狼たちは、そこで追跡を断念せざるを得なくなる。

山の中腹まで到達した二人は、そこから、かつて二人が暮していた小さな森を見下ろし、山向こうの新しい世界に夢を膨らませていた。

その後、さらに頂上を目指していた二人だったが、段々雪が降り出し、状況は厳しいものに変化して行く。

体力の弱いメイが先に歩けなくなり、ガブは、雪の中に倒れたメイを、急遽掘った雪穴の中に運び込む。

ガブももはや空腹で、倒れたメイが美味しそうなエサにしか見えなくなっていた。

そんな気配を感じ取ったメイは、もう自分を食べて良いと言い出す。

しかし、ガブは、メイはエサなんかじゃないと叫び、無情にも鳴る自分の腹を押さえ付けながら、何で、自分は狼なんかに生まれてしまったのだろうと嘆く。

メイは冷静に、もし、最初に小屋で会った時、自分の事がヤギと分かっていたらどうしていたかと、ガブに問いかける。

食べていた…と正直に答えるガブ。

どちらが生き残ったにせよ、独りぼっちになってしまえば、もうおしゃべりは出来なくなるのだし、命もいつかは終わるのだから、迷う事はないとメイはガブを説得する。

それでは、穴の外から偶然ヤギを見つけた事にしようと一旦外に出たガブだったが、もう、友達を食べる気持ち等なかった。

何とか、メイに食べさせる草がないかと雪を掘ってみるガブだったが、何も見つからず、見つけたのは、谷の向こうから近づいて来る狼の群れだった。

メイの事は、もう命をかけても良い友達だと確信したガブは、その場から飛び下ると、果敢にかつての仲間たちに飛びかかって行く。

しかし、多勢に無勢、ガブはギロに咬まれて倒れてしまう。

その時、彼らの頭上から大きな雪の塊が崩れ落ちて来て、それに伴って起きた大雪崩に狼全員が巻き込まれ谷底に流されてしまう。

翌日、天気が回復し、穴の中から這い出て来たメイはガブの姿を探すが、見つけたのは、山の反対側にある新しい森の姿だった。

ガブの名を呼んでみるが、声は聞こえない。

その後、一人で山を下り、新しい森に入ったメイだったが、ガブがいない寂しい時間を過ごす事になる。

時が過ぎて、独りぼっちのメイは、懐かしいおばあちゃんやタップやミイの事を思い出していた。

もはや生きる体力も気力もなくしたメイは、独り倒れてしまう。

そんな時、森の動物たちが「狼だ!」と叫びながら逃げて行く姿を見る。

メイはガブだと直感し、草原の向こうを見渡すと、はたしてそこには狼が一匹立っていた。

メイは、駆け寄って来るその狼と再会の抱擁をしようとするが、気がついた時には、その狼の住処らしきほろ穴に連れ込まれていた。

その狼は、確かにガブだったが、あれこれ話し掛けるメイの事を全く覚えてない様子。

今夜の満月を観ながら食べようと舌舐めずりしている彼は、完全に、エサを捕らえた野生の狼でしかなかった。

どうやら、雪崩に巻き込まれたショックで、記憶を全て失ったようなのだ。

それを知ったメイは、ただの狼に食べられるのは嫌だ。こんな事になるのなら、あの山を超えなければ良かった。嵐の夜に出会わなければ良かったと嘆き哀しむ。

その時、メイの言った「あらしのよるに」と言う言葉が、ガブの耳に残る。その言葉が、頭の中に残っていた、二人の楽しい冒険の数々の記憶を甦らせたのだ。

正気に戻ったガブはメイの姿を観て、こんな所で何をしているのかと尋ねる。

あなたを待っていたのですよと嬉しそうに答えるメイ。

二人はその夜、かねてより念願だった、満月を仲良く眺めて満足するのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

何巻にも及ぶ人気絵本をアニメ化した作品。

もともと、動きの少ない絵本がベースになっている為か、全体的にアクションの面白さで見せると言うより、『きれいな絵』で繋いでいる印象。

ただし、アニメの動きそのものは丁寧に作られている。

全編ち密な描き込みで、絵としての密度は抜群に高く、3DCGなども巧く取り入れているので、アニメや絵本好きの大人には、そのテクニックを観ているだけでも楽しめる作りになっている。

話も、絵本というイメージから想像する、幼児向けの無邪気な「友情話」と言うより、「仲間の中での人間(動物)関係に苦しんだ二人の逃避行」みたいな、ちょっとリアルな展開になっているので、大人には、あれこれ考えさせる要素を持っている。

ただし、これらはあくまでも、大人の目線で見ると…という感想であり、子供達がどう感じるかは、正直不明。

美術的に綺麗とか、考えさせる内容と言うだけでは子供は退屈するかも知れないと、ちょっと心配になったりもする。

何巻にも渡るエピソードをまとめたらしく、後半、やや長いなと感じる印象もある。

やはり、長編小説やコミックをまとめたようなものを期待していると、話の起伏はやや平板と言うか、地味と言うしかなく、アニメ特有の「波乱万丈」「奇想天外」と言う程の大きなドラマは感じられない。

当然、最後の感動もちんまりとした印象。

アップになったキャラクターたちに施された「軟らかいタッチのぼかし陰影」も、独特の味わいと言うより、どことなく「汚れ」のように見えてしまうのも、ちょっと気になった。

平面的なセルタッチとは違った絵本の絵らしい暖かみを狙ったのだろうが、必ずしも成功しているとは言いにくいのではないか。

丁寧に作られ、内容面でも良心的な作品だとは思うが、万人好みの娯楽作品として成功しているかと言えば、観る人の好みにより、微妙に評価が分かれそうな雰囲気を感じた。