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図々しい奴

1964年、東映東京、柴田鎌三郎原作、下飯坂菊馬脚本、瀬川昌治脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和6年、岡山市、その日は、土地の殿様として知られる伊勢田公爵の見合いの相手として、烏丸公爵とおひい様がやって来られると言うので、朝から、巡査(花沢徳衛)が道を通行止めにして、道路整備に余念がなかった。

そんな中、立て札を無視して、道路に侵入して来る荷車があった。

近づいてみると、荷車を引いているのは子供で、荷車には棺桶が乗っているではないか。

訳を聞いてみると、母親が亡くなったので、これから丘まで一人で埋めに行くのだと言う。

巡査は慌てて事情を聞かせ、烏丸公爵の車が通り過ぎるまで、ここにジッとしていろと、道路脇の藁山の後ろに子供を連れて行く。

その頃、伊勢田公爵邸でも大騒ぎが起こっていた。

見合いを嫌った当の若様直政(杉浦直樹)が、いなくなったと言うのだ。

乳母役のお多嘉(浪花千栄子)は、苦りきる仲介役の津森公爵(北龍二)に、恐縮していた。

いつも勝手な事をする直政に、津森公爵は呆れるのを通り越し、怒りを露にしていた。

やがて、屋敷に出入りしている植木屋がやって来て、仕事中、若様に、自分の半纏を取られてしまったと報告する。

その植木屋の半纏を着た直政は、丘の上で寝っ転がっていたが、気が付くと、すぐ横にやって来た少年が、穴を掘りはじめたではないか。

名前と何をやっているのかを尋ねると、尋常小学校6年の戸田切人で、切人と言う名前は、母親が厩で生んだのでそう名付けられたが、もう父親も亡くなり、他に身寄りもないので、今、母親を埋める穴を掘っているのだと言う。

この辺は、伊勢田のお城が見える絶景の場所で、本当は伊勢田様の土地なのだが、今は、何も使われていないので許してもらえるだろうとも言うので、当の伊勢田家の若様としては苦笑いするしかない。

結局、植木屋の格好をしている直政は、何も知らない切人の手伝いをさせられて、母親の埋葬を手伝わされるはめになる。

日頃、力仕事等した事がない直政は、すぐにへばってしまい、切人から呆れられるが、その直政、最後に、切人が、墓の上に置こうとしている大黒様の置き物を観て仰天する。

それは何かと聞けば、墓石の代わりだと言う。

切人の自宅に連いて行った直政は、そこに無数の備前焼きの逸品を発見する。

聞けば、全て切人の父親が作ったものだそうだ。

焼き物の観賞眼のある直政は、一目でその力量に感心するが、生前、その父親の力量を見抜くものは誰独りなく、生涯貧困に喘いで亡くなったと言う。

将来、赤ん坊時代から観て育って来た伊勢田のお城に負けないような城を作ってみせると、でっかい夢を語る切人の姿を観た直政は、すっかり彼の事を気に入ってしまう。

その後、直政は、切人手作りの夕食をごちそうされるが、見知らぬ食材の正体が豚の内臓と聞かされると、さすがに表に吐きに出てしまう。

その時、やって来たのが、生前、切人の父親の焼き物を僅かな金で買っていた骨董屋。

母親の葬式の心配をして来たのだが、そこに伊勢田の若様がいるので驚愕する。

その時始めて、目の前にいた青年が若様と知り、切人も驚くが、そんな切人を気に入った直政は、切人を自宅に連れて帰る事にする。

途中、直政は馴染みの遊廓に寄って行くが、その間、表で待たされていた切人に、いきなり赤ん坊を預けて去って行ったきり、二度と戻らなかった母親がいた。捨て子だったのだ。

仕方なく、その赤ん坊もつれて自宅に戻った直政は、お多嘉に、今後切人を書生として自宅に置くよう頼むと、自分は又上京したいと言い出す。

お多嘉は、時々東京に出かけてはアカに金等渡して警察沙汰を起こしているらしき若様の事を心配するが、すっかり華族と言う身分に自己嫌悪を抱いき自暴自棄な考え方に染まっていた直政は聞く耳を持たなかった。

お多嘉は、本の間から見つけた写真に写った園田美津枝という人妻に、いまだに直政が思いを寄せている事に気づいていた。

直政は、切人が連れて来た赤ん坊が女の子だったので、麻理耶と名付けてやる。

昭和11年、成人した(16才になった)切人は東京の若を訪ねて上京するが、その列車の中で、三田村荘吉(西村晃)と言う元満州馬賊の活動家に知遇を得る。

三田村は、たまたま向いの席が軍人だった事を利用し、彼がトイレに立った隙に、置いてあった制服を拝借し、やって来た車掌に運賃をまけさせた切人のちゃっかり振りを観ており、話し掛けてみると、何と中学校は5回も落第したと平気で言う切人のとぼけた人柄に惚れ込み、東京に着くと、すぐに彼を吉原に連れて行くのだった。

その目的は、その遊廓の一部屋に集まっていた運動仲間たちとの会合を、尾行していた警察の目からごまかす為でもあったが、そんな事は知らない切人は、三田村から紹介された女(関千恵子)に、童貞を捧げるのだった。

そんな中、遊廓に踏み込んで来た警察から逃げる為、三田村は切人の部屋に入り込み、別れの挨拶をすると、窓から脱出する。

その後、三日三晩、直政の行方を捜しまわった切人は、ようやく若様をとあるカフェーで見つけ、久々の再会を果たす。

直政は、自分を頼って上京して来た切人を、虎屋と言う羊羹屋で働かせる為、その家の娘である園田美津枝に紹介状を書いて渡す。

その紹介状を持った切人は、園田家を訪ねようと、道で出会った美しい女性に声をかけるが、偶然にも、その女性こそ、当の園田美津枝(佐久間良子)であった。

そうとは気づかない切人は、彼女に目的の家まで案内される道々、つい、紹介状の相手である美津枝と言うのは、若様の愛人の一人だろうなどと、無責任な想像を話してしまい、当の美津枝を呆れさせる。

しかし、その明け透けな性格を気に入った美津枝は、虎屋で働く事を承知した上に、取りあえず、自宅で居候していた同郷の小野田(長門裕之)を紹介すると、 一晩、彼の部屋で泊まって行くよう勧める。

一高、東大とエリートコースまっしぐらの小野田は、美津枝の日記を読んで知り得た情報として、冷笑的に、美津枝と大学で教鞭を取っている夫の園田(今井俊二)がうまくいっていない内情や、昔、園遊会で会った直政とは互いに愛しあっている癖に、相手の直政に告白する勇気がなかったので、今の夫と結婚したいきさつなどを切人に教えてやるが、華族の直政の事をバカ様と侮蔑したように言う一方、自分も美津枝に惚れていると告白した小野田に対し、呆れた切人は、あんたと若様とでは相手にならぬと笑い返すのだった。

その頃、カフェーの直政の元にやって来た津森公爵は、直政がかねてより望んでいた通り、廃嫡されたと報告した後、ヨーロッパへ行くよう冷ややかに勧めるのだった。

翌日から、虎屋に奉公する事になった切人は、番頭の長六(中村是好)から、皇室御用達も承っている創業500年を誇る老舗独特の厳しいしきたりを仕込まれる事になる。

特に、虎屋独自の高級餡を作る技術を全て拾得するには、合計48年もかかると説明された切人だったが、その後、近所の駄菓子屋で買って来る十銭の饅頭の餡との違いが良く分からなかった。

半年後の休養日、とうとう園田と離婚して、実家の虎屋に戻って来ていた美津枝は、他の従業員が全員外に遊びに行った後、独り餡を作っている切人の姿を目撃する。

翌日、その餡を事情を知らない長六に味見させた所、悪くないと言うので、正直に、自分が作ったものだ、本来48年かかる餡作りを、自分は半年で拾得したと告白した切人だったが、激怒した長六や先輩たちから、駄菓子の餡との違いを教えてやると、無理矢理、大量の和菓子を食べさせられるはめになる。

しかし、そこへやって来た美津枝が、実は、切人の餡作りは自分も手伝ってやったので、折檻するなら自分にもやってくれとかばってくれたので、切人は難を逃れる事ができた。

その後、その真面目で硬い態度も気に入られ、小田原に住む烏丸公爵邸に菓子を持って行く美津枝のお供を仰せつかった切人は、あの時助けてもらったお礼をしたいと申し出るが、偶然、その列車で乗り合わせた三田村が声をかけてきて、吉原での遊びの事を大声で話出すので、美津枝の手前、冷や汗をかいてしまうのだった。

小田原に到着した美津枝は、城が観たいと言う切人の為に、わざわざ、烏丸邸に行く前、寄り道に付き合ってやるが、そこに直政がいるのに気づき、先ほど、切人が言っていたお礼とはこの事だったのかと気づく。

直政も、切人に呼出されて来ただけで、まさか、美津枝とあえるとは想像だにしていなかっただけに、何も言い出せず、その場を立ち去ろうとする。

そんなふがいない両者の姿を観ていた切人は、互いに好きなら、どうしてはっきりそう言わないのかと檄を飛ばす。

しかし、その後、その切人の言葉に従い、自ら直政を引き止めた美津枝は、5年前に出会った時、はっきり告白しておけば良かったと反省し、今こそ自分との結婚して欲しいと願い出るが、自らの生活能力に自信の持てない直政は、ヨーロッパに旅立つ事を知らせるだけだった。

その後、烏丸邸の外で待たされていた切人だったが、気になって庭の様子を覗いていると、野立てをしていた烏丸公爵(左卜全)が、いきなり側にいた美津枝に抱きつこうとしている現場を目撃し、慌ててその中に入り込むと、烏丸公爵を殴りつけ、あろう事か、初代窯衛門の作と言われる高価な茶碗を、知らずに投げ付け、割ってしまう。

その後、警察に留置された切人だったが、美津枝の尽力によって釈放され、虎屋を解雇された切人の新しい住まいとして用意した「南風荘」と言うアパートに案内される。

その部屋に入った切人は、家財道具を整理しているお多嘉様と女の子に成長した麻理耶(上原ゆかり)がいるのに驚く。

麻理耶は、自分の嫁になる為、今教育しているとお多嘉から聞かされた切人は面喰らうが、当の麻理耶は、その意味を理解しているのか、まだ子供の癖に妙な色目を使って来る。

そのお多嘉から、直政から渡されたと言う自分名義の貯金通帳を開いてみると、何と一万円も預金してあるではないか。

さらに、鏡台と背広は、美津枝からも贈り物だと言う。

皆からの暖かい気持ちに感激した切人は、今後、この一万円を元手にして100倍に増やすまで、絶対自分は遊ばないで働き、恩返しすると誓うのだった。

その夜、鏡台の前で、着慣れぬ背広を試着していた切人は、鏡の中に憧れの美津枝の姿を見ていたが、何時の間にか、酔った見知らぬ女が玄関口に勝手に入って、こちらの様子を見ている事に気づく。

女は、隣に住む、女給のキリ子(筑波久子)だと自己紹介するなり、いきなり、切人の頬にキスするのだった。

三田村の道場にやって来た切人に対し、18才で独立するとは大したものと誉める。

人生とは、船で川を渡るようなものかと問いかける切人の例えにも感心し、流水の最も早い所に棹をさすのが流れを乗り切るコツだろうと教え、成功したければ、その時の最高の権威者に近づくのが手っ取り早い策略だろうともアドバイスする。

さっそく、陸軍大将荒川寛太郎(上田吉二郎)に目標を定めた切人は、毎日のように、自作の羊羹を贈り続けて、面会のチャンスをうかがう。

最初は全く相手にしなかった荒川大将だったが、訓練場にも自宅にも遠慮もなく現れる切人から逃げ回っていたが、ある冬の日、馴染みの料亭に出かけた大将は、茶菓子として出された羊羹が、艶かしい女体の形である事に気づき、ここまでもあの男が手を廻したかと呆れながらも、その面白さをいたく気に入り、翌日、切人に面会を許すと、陸軍の御用達として羊羹の納入を認められる事になる。

切人は、戸田製菓という会社を起こし、虎屋時代の同僚の安吉などを集め、自ら陣頭に立って餡を練ると、大量の人形羊羹を量産し出す。

折しも、日本軍は中国へ進軍し始めた時期でもあり、慰問用の羊羹の需要はうなぎ上りになる。

瞬く間に、7万8000円もの貯金を溜めた切人は、従業員らと慰労会を盛大に催すが、招待した美津枝は、とうとうやって来なかった。

安吉の言葉に寄ると肺結核を患ったらしいと言うではないか。

後日、改めて、美津枝を食事に誘った切人は、家を建てたので、そこに来てくれないかと頼む。

本当は、嫁にしたいのだが、若様の手前、自分の側にいてくれるだけで良いのだと説得するが、美津枝は断わる。

美津枝の病気の事も承知していると切人が打ち明けると、美津枝は、その真心に感謝するが、やはり固辞する態度は変えなかった。

キリ子の勤めるバー「黒猫」で、彼女と踊っていた切人は、今夜泊まりに行って良いかと聞かれたので承知し、いざ一緒に寝ようと張り切っていた所に、安吉から電話があり、羊羹を納入した近衛連体に赤痢が派生し、その原因がどうやら、うちの羊羹らしいので、今、軍が調査に来ていると言う。

電話を変わった軍人は、切人に、向こう一ヶ月の出入り禁止を言い渡す。

信用は失墜し、事実上の倒産であった。

無一文になり、すっかり落ち込んだ切人が、ある日自宅に戻ると、家の中の様子が違っている。

気づくと、何と、美津枝が部屋の整理をしているではないか。

卓袱台には、鯛の尾頭付きまで用意されていた。

何時か、自分が受けた切人からの真心へ返礼をする為、美津枝はこの家にやって来たのだ…と気づいた切人は、感激する。

美津枝は、自分が持って来た横山大観の富士の絵を示し、大観は、自らが美しいと感じた富士山を生涯かけて描く事にした人だと説明した後、あなたにとって、生涯追い求めるに足る一番美しいものとは何かと問いかける。

切人は、すぐに、それは美津枝様だと答えるが、美津枝は、それはお城だったはずと釘をさす。

その言葉で、切人は子供の頃に抱いた夢を思い出し、すっかり気持ちを入れ換え張り切るのだった。

しかし、そこに電報が届き、そこには、召集令状が来たので、すぐに国に戻るようにとの、お多嘉からの文章が記されていた。

その夜、一人で布団に入った切人は、何度も軍人直喩を繰り返すが眠れず、ついに起き上がると、美津枝の写真の入った写真立てを見つめる。

しかし、その下には直政の写真があったので、切人には両者の姿がダブり、心は乱れる。

その乱れた気持ちのまま、別室の美津枝の部屋の前に出向いた切人の気配に気づいていた美津枝は、彼を呼び込むと、自分をあなたにあげると言い出す。

今夜が最後の夜になるかも知れず、戦争に出向くあなたに今の自分にできる事はこれしかないと言う、美津枝の言葉を聞いた切人は、自分は獣同然の恥知らずだったと謝罪し頭を下げる。

結局、美津枝の言葉だけで十分だと引き返した切人は、何事もなくその夜を過ごし、やがて東京を去る日、黒猫のキリ子や、三田村、美津枝などの見送りを受け、自分は絶対に戦死したりしないと、大声で誓う切人の姿があった…。(第一部完)

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

柴田鎌三郎原作の映画化で、本作は前編に当る。

この年は、この手の商人立志伝ものが流行った年で、この原作は、同年、丸井太郎主演でテレビドラマにもなっている。

地方の貧しく学もない青年が、志を抱いて上京し、そのバイタリティと夢だけで伸し上がって行く物語である事、憧れのマドンナがいる事、気の合う丁稚時代からの親友がいる事、アドバイスをくれる知遇を得る事、何度も事業の失敗や成功を繰り返す波瀾の人生である事などは、色々な点で加東大介主演の「大番」にそっくり。

本作では、その主人公切人の他に、伊勢田直政と言う、何事にも自信が持てないブルジョア青年が登場し、こちらのキャラクターも興味深く描かれている。

この頃の杉浦直樹は、役柄にピッタリの二枚目である。

この杉浦直樹が主役を演じた、松竹版の「図々しい奴」という作品もあるらしく、そちらも観てみたいと言う好奇心を掻き立てられる。

映画初主演と言う谷啓は、決してうまい芝居と言う訳ではないが、その憎めないキャラクターが、役柄にピッタリだと感じる。

きりっとした乳母役を演ずる浪花千栄子と、当時、明治マーブルチョコのCMで人気を博した子役「マーブルちゃん」こと上原ゆかりが印象的。