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美しい夏キリシマ

2002年、キリシマ1945、松田正隆脚本、黒木和雄監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

1945年、8月、宮崎県霧島、海の上を飛ぶ蝶。

そのアカボシウスラバシリ蝶を見つけた小林中学3年日高康夫(柄本佑)は、遠くの空をグラマンの編隊が飛んでいる中、肺浸潤の治療の為、治療院に通っていた。

その治療師からお灸をすえられた康夫、治療師から、お前は誰かから恨まれてはいないか、他の患者と違い、お前のもぐさの煙だけ揺らめいている、魂がまだ身体にしっかり留まっていないと奇妙な事を言われる。

この地では、ソ満から移動して来た霧島駐屯部隊が、先に沖縄を攻めたアメリカ軍が、日向灘からの進行して来る事を予想して、それを阻止せんと日夜訓練に明け暮れていた。

治療院からの帰り道、自転車に乗って田んぼの横を通りかかった康夫は、いきなり叢の中から鎌を持った少年が飛び出して来て、追い掛けて来たので、自転車をおっぽりだして逃げる途中、道から転げてしまう。

追い掛けて来た少年は、康夫が今世話になっている祖父の日高家に女中として来ている、なっちゃんこと、宮脇なつ(小田エリカ)の弟、稔(倉貫匡弘)だった。

その後、康夫の自転車を見つけたなつが、自分で家まで持って来るのを、同じ女中のはる(中島ひろ子)が見つける。

その後、一人で家に戻って来た康夫は、なつの母親宮脇イネ(石田えり)が、祖父日高重徳(原田芳雄)に、何か頼みごとをしに来ている所に出くわしたので、そのまま家に入らず外で聞いていた。

どうやら、稔もここで働かせてくれないかと頼み込んでいるらしいが、祖父は、なつの世話だけで手一杯と断わっている。

厳格な重徳は、夕食時、康夫の食事の仕方をあれこれ口うるさく注意する。

そのついでに、康夫の部屋に飾ってある「耶蘇の絵はやめておけ」と付け加える。

祖母しげ(左時枝)は、そんな康夫に、満州の両親から手紙が来ていると教える。

ちょうどそこへ、叔母の宇知子(宮下順子)が長崎から帰って来た娘の世津子(平岩紙)を連れてやって来る。

宇知子は、最近、この近辺でもグラマンが機銃掃射を仕掛けて来ると言う話をするが、世津子は同じ年頃の康夫の部屋にやって来て、長崎で恋人が出来た等、あれこれ小娘らしい話題を披露しはじめるが、当の康夫にはどうでも良い事なので、気のない返事になってしまう。

それが世津子には面白くないらしく、その恋人とは医専の学生だとか、康夫より4つ年上なのだと、別に知りたくもない話題を次々に披露してくるので、康夫はうんざり。

その頃、台所で後片付けをしていたなつは、先輩格のはるから、色々家庭内の話を教えてもらっていた。

今のしげは、亡くなった前妻の妹である事、康夫は、都城の工場で空襲にあって、多くの級友を失って以来、精神的にも弱っている事。

この家の主人は、昔、革命によってソ連が出来た時、白軍と呼ばれた帝政派軍隊に日本から加担した日の丸部隊の一員だったと言う。

その後、外圧によって、この援軍を止める事になった時、陸軍に中止の撤回を進言して聞き入れられなかった為、軍を辞めたのだそうだ。

その為、今でも、陸軍の将校が、時々主人に頭を下げに来るのだと、はるは説明する。

その頃、日高家の納屋では、駐屯部隊の物資を預かっていた。

その夜、しげは、重徳がはるを、南方で怪我をした秀行と言う人物の所に嫁に行かせると決めらしき事を確認していた。

翌日、その重徳と共に、相手方の家を訪問したはるは、茂行と言う人物が、義足で満足に動けない重傷者であった事を知り、どうしても、この話を受けなければいけないのとか、重徳に尋ねてみたが、重徳は、あんなに悪いとは思わなかったと言うだけで、それ以上は語ろうとはしなかった。

なつが康夫に、自転車の乗り方を教えて欲しいと頼んでいた時、同級生の佐藤が訪ねて来て、都城の空襲で亡くなった級友の石嶺の妹が近くの来ているらしいので、一度会いに行ってやれと教える。

帰る佐藤を送って行っていた康夫は、広島に新式爆弾が落とされた話も聞かされる。

その頃、秀行は母親に、この三ヶ月、雨を見た事がない。フリピンでは雨ばかりだったと語っていた。

一方、帰宅して来たはるから、今日会った秀行の事を聞き出そうするなつだったが、この結婚は、周りが決めたもので、自宅ではもう支度金をもらったと言うし、自分の気持ち等立ち入る隙がない事なのだと聞かされる。

その夜、なつは、納屋から物資を盗んで行く兵隊の姿を見かける。

翌朝、康夫を起こしに行ったなつは、壁に飾ってあるキリストの絵の事を聞くが、康夫があれこれ教えても、キリストや天皇のように神なる存在が良く理解できない。

その日、畑仕事から帰って来た稔は、家の中で母親イネが、いつものように兵隊を連れ込んで寝ている様子に気づき、癇癪を起こす。

母親から、もう少し外にいろ言われるのだ。

一方、工場の空襲で亡くなった石嶺の妹が預けられていると言う親戚に家を訪ねた康夫だったが、なみと言うその少女は、毎日、屋根の上に登ってばかりいると、その家のお婆さんから聞かされるが、声をかけて、自分も登っても良いかと聞くと、帰ってくれと言われてしまう。

康夫の部屋に飾ってあるキリストの絵や聖書は、石嶺からもらったものだったのだ。

その夜、しげは、すっかり気力をなくしてしまったような康夫に、あの子が死んで、お前に乗り移ったのではないかと心配するのだった。

翌日、田んぼのあぜ道で、なつは康夫から自転車を教わっていたが、康夫が手を放したら、そのまま止まれなくなり、川にはまってしまう。

濡れ鼠になったなつが、洋服を乾かしている間、康夫は、この前絵で見たキリストと言うのは、死んで埋葬された後、復活したのだと言う逸話を教えてやる。

そして、こうした話も、全て、亡くなった友人から教わったのだとも。

その頃、なつの実家を訪ねて来たしげは、家から出て帰る途中だった兵隊とすれ違う。

イネに会ったしげは、竹やり訓練に出られない訳でもあるのかと尋ねた後、変な噂を聞いたが、この家に兵隊が出入りしていると言うのは本当かとそれとなく聞くが、イネが返事をしないのを見るや、何を考えているのかと叱りつける。

イネの夫は戦死していたと思われ、その家の中にはその仏壇が安置されていた。

その前で、イネは兵隊と抱き合っていたのである。

その夜も、勉強の仕方等、口うるさく康夫に説教していた重徳だったが、当の康夫が上の空である事に気づき、お湯をぶっかけてしまう。

そんな霧野駅に、康夫の叔母に当る美也子(牧瀬里穂)が帰って来たので、康夫が迎えに来る。

駅で切符を切っていたのは世津子だった。

日高家では、はるの嫁入り仕度の真最中だった。

その美也子、宇知子らも、嫁ぐはるを見送って行く。

その後、康夫は、もう一度、なつがいる家の屋根に登り、石嶺からもらった聖書を返したいと申し出るが、なつは、もう兄はいなかったものと考えているので、その聖書はあなたが預かっていてくれと言う。

そんななつに、康夫は、自分は兄さんを助けられなかった…と、詫びの言葉を残して帰るのだった。

霧野駅の前を通りかかった康夫は、ちょうど駅から出て来た中学の後輩三人から声をかけられたので、少し雑談をしていると、その近くを兵隊の一群が日章旗を掲げて行進を始める。

しかし、その行進に気づかなかった康夫は、憲兵に駅の一室に連れ込まれると、何故、軍旗に対し敬礼しなかったかと詰問される。

さらに、憲兵から身元を聞かれ、今、病気で自宅療養中だと明かすと、その自宅療養中のものが出歩いていても良いのかと追求され、あげくの果てに、貴様のような奴は殺してやると、相手は日本刀を振りかざしてしまう。

その様子を間近で見ていた世津子は、その日の仕事を打切り、何とか無事放免された康夫の後から付いて来ると、自分が以前言った恋人の話は全部嘘だった、自分も長崎から逃げて来たのだと、慰めるような言葉をかけて来るが、康夫はむしろ、あの憲兵に殺してもらった方が良かったと投げやりな言葉を返すのだった。

その頃、イネは、いつもの兵隊に抱かれていたが、その兵隊は行為の途中で急に止めると、自分も人を殺した事があると告白し出す。

人体刺殺と言って、現地の農民を連れて来て木に縛り付け、全員、銃剣で刺すのだそうだが。自分の父親と同じくらいの年頃だったその農民を刺した時は怖かったと呟く。

その言葉を聞いたイネは、私らはこんな事をしていると、やがて自分達の形を失って獣のようになって行き、しまいには死んでいるのか生きているのかさえも分からなくなってしまうが、それは気持ち悪いと同時に気持ちの良い事だと洩らす。

ちょうどその時、なつが結婚式の引き出物を持って帰って来るが、玄関口で立っていた弟稔は、今、中に入るなと止める。

しかし、訳が分からないなつが、扉を開くと、中から出て来る兵隊と鉢合わせになるが、その兵隊は、先日、日高家の納屋から逃げて行った泥棒だった。

事情を悟ったなつは、母親の呆れた行状に怒り、父親の位牌を仏壇から持ち出し、二度とここへは帰って来ないと言い残して去って行く。

秀行の家にやって来たはるは、その夜、秀行から、自分は幽霊のようなものだから、君は家の籍に入らず、将来、別の人の元に嫁いでも良いのだと優しく言われる。

一方、夜中、沼の近くにいた康夫は、誰か女性が美しい声で歌を歌っている様子を目撃する。

その頃、日高家では、酔った重徳が、納屋から物資を盗み出している数人の兵隊を見つけ、日本刀を持ち出して追い返していた。

数日後、外に出た美也子は康夫に、憲兵にどやされた夜はどこに行っていたのかと聞くが、康夫はまともに答えず、おばさんが歌を歌っている夢を見たと、ちょっと浮かれた調子でサンタルチアを歌い出す。

そこへやって来たのが、美也子の恋人、浅井少尉だった。

彼女が今回帰京して来た目的は、浅井と会う為だったのだ。

その頃、日高家では、懇意の大尉が、物資泥棒の話を聞き付け、重徳に謝罪に来ていたが、泥棒の顔をなつが見たと言っているので、後で首実検させたら良いと助言した重徳は、帰り際の大尉に、あなたの友人の浅井少尉が来るので、一緒に酒を飲みに来ると良いと勧める。

その後、部隊に連れて来られたなつは、あの日の泥棒を見分ける。

それは、いつもなつの母親と寝ている豊島(香川照之)だった。

豊島は、林の中で、大尉から鉄拳制裁を加えられる。

その後、日高家で大尉は、久々に再会した浅井中尉と美也子と酒を酌み交わしていたが、肝心の重徳はいなかった。

酔ってうたた寝しかけていた美也子だったが、大尉が浅井中尉の事を、貴様の死は無駄にしないと言っている言葉はしっかり聞いていた。

重徳は墓の掃除をしていた康夫の元にやって来て、石嶺の事をいつまでも気に病むのはよせと優しく忠告するが、その後、ソ連が参戦して来たので、もう両親も生きてかえって来れるかどうか分からなくなったと続けると、そんな所へ両親を行かせたのは爺ちゃんじゃないかと康夫に言葉を返されてしまう。

そんな康夫が帰宅すると、玄関先に世津子が座り込んでおり、長崎にも新型爆弾が落とされて、学校も友達もみんななくなってしまったと泣いている。

慰めの言葉が見つからない康夫は、つい、彼女にくちづけしようとしたので、驚いた世津子は、彼をビンタして帰ってしまう。

部屋に戻ってみると、浅井中尉が勝手に聖書を読んでいたので、それは人からの借り物なので勝ってに触らないでくれと注意する康夫。

浅井中尉は、キリストの絵を見ながら、復活などを信じている西洋人の非科学的な考え方は分からないと言うので、康夫も、天皇陛下万歳と言って死んで行く日本人も非科学的ではないかと言い返す。

天皇のどこか神様ですかと問いかける康夫に対し、浅井中尉は、美しいものを美しいと思うこの気持ちは説明出来ない。太古の昔から、人は聖なるものの為に戦うのだと思うとだけ答えるのだった。

その頃、秀行は、霧島を見るまで死ねないと言っていた戦友の話をはるに聞かせていた。

そんな秀行を表に連れ出し霧島を見せたはるは、その話が気になるのでもう少し問いつめると、その戦友の名は宮脇と言い、そのイネと言う奥さん宛ての手紙を預かって来たが、帰国後母に渡したので、役所にでも持っていたのではないかと言う。

戦死したと思われていたなつの父親の事だと直感したはるは、その足で役所に出向き、まだ保管してあった手紙を貰い受けると、なつに持って行く。

驚いたなつは、その手紙を持って、深夜自宅に帰ると、稔を起こして外に呼出すと、父親が生きているとその手紙を母に渡すように告げて帰る。

稔から、その手紙を渡されたイネは茫然自失の状態になる。

翌日、また、屋根の上に登っているなみに会いに行った康夫は、兄さんを救えなかったので、その代わりに、何とかなみを助けてやりたいが、何をすれば良いだろうかと問いかけると、なみは、だったら兄の仇を討ってくれと、強い調子で言って来る。

一瞬驚いた康夫だったが、やがて、帰ると、近くの林の中に穴を掘って、そこに閉じ籠ると、独り竹やりの練習を始める。

そんな康夫を、なつは叱りつける。

以前、康夫自身が、竹やり攻撃なんか何の意味もないと批判していたからだ。

しかし、康夫は、何かに取りつかれたように、竹やりを持って、畑仕事をしていた稔を襲いかかって来たので、稔も鎌を持って応戦する。

力では稔に叶わない康夫は、すぐに捕まり組み敷かれてしまうが、ヤケを起こしたように、俺が嫌いならこの場で殺せと叫ぶ。

しかし、稔は、そんな康夫を相手にせず、すぐに立ち去ってしまうのだった。

その頃、美也子は、浅井中尉を見送っていた。

一方、駐屯部隊では、林の中で縛られていた豊島が、縄を抜け出し、銃剣で食事中だった大尉を脅しつけると、そのまま脱走を計り、イネの家に来ると、彼女を連れて逃げ出すのだった。

その後を追う稔。

穴の中に籠って、蝶の絵を眺めていた康夫は、又しても、美しい女性の歌声を聞く。

その歌声は、康夫の幻聴ではなく、駐屯部隊の兵隊たちも全員聞いていた。

そんな中、豊島と一緒に逃げていたイネは、いつの間にか自分の方が先に走っており、豊島の手を引いて自ら川の中に入り込む。

さすがに、そのイネの行動に付いていけなくなった豊島は、手を放すと岸に戻ってしまう。

イネは川の中に姿を消すが、豊島が逃げ去ったその現場にやって来たのが稔。

彼は迷わず川に飛び込むと、水中に潜り、母親を救い出すのだった。

息を吹き返したイネは、父ちゃんは、母ちゃんの事を許してくれるだろうかと呟くが、稔は、黙っていれば良いのではないかと慰めるのだった。

康夫の部屋でキリストの絵を剥がしていた重徳の元にやって来た美也子は、何故か、彼に昔教えてもらったワルツを一緒に踊ろうと浮かれた調子で誘いに来る。

その美也子の異常な行動に付いていけなくなった重徳は、大声で叱りつけるが、美也子が泣き出したのを見て、恋人と永遠の別れをしたばかりの彼女の辛い気持ちを察し、謝罪するのだった。

その後、林の穴蔵から康夫を出しに行った重徳だが、自分に対し康夫が竹やりを突き付けて来たので、臆せず立ち向かうが、何故、俺の方が生き残ったのかと叫び、組み付いた康夫から投げ飛ばされてしまう。

やがて、日高家のラジオの前に集まった兵隊たちが、玉音放送を聞く事になる。

駐屯部隊で整列していた兵隊たちも、皆号泣する中、戻っていた豊島だけは、しらっとした顔をしていた。

稔は、自宅に火を放つと、母親のイネと実家を後にして村を後にする。

雨の中、康夫はまだ穴蔵の中に閉じ籠っていたが、迎えに来たなつが、もう戦争が終わったし、キリストの復活の真似をしようとしている康夫の愚かさ、無意味さを指摘する。

生まれ変わるような事が本当にできるのなら、自分も生まれ変わりたいと言い、康夫にくちづけしかけたなつだったが、途中で止めて、彼をビンタすると、その場から逃げ去るのだった。

イネの実家にやってきた重徳としげは、焼け落ちた家の痕を呆然と眺め、みんなどこに行ったのかと戸惑っていた。

やがて、村に進駐軍がやって来る。

その列に、竹やりを持って突っ込んで行く康夫の姿があった。

しかし、全く相手にされず、土手の下に放り投げられるが、しばらくすると、又立ち上がり、後を追おうとしながら、殺せ!殺せ!と叫ぶので、米兵の一人が、空に向って一発威嚇射撃をすると、その音で、康夫は何かが壊れたように、その場に倒れるのだった。

その頃、なみは、赤ん坊をおぶって子守りをしていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

おそらく、きちんとした劇場公開はなかったと思われるが、2003年度のキネ旬ベストテン1位作品である。

直接的に戦闘シーン等を描くのではなく、戦争によって傷付いた人間たちの内面的な葛藤ドラマになっている。

タイプとしては、「硫黄島」などの流れに属する作品ではないだろうか。

1930年生まれで、宮崎県立小林中学校出身の黒木監督の、私小説的な自己投影作品なのかも知れない。

純文学を読んでいるような奥深さはあり、観ていて真摯な気持ちにはさせられるが、娯楽性には乏しいので退屈とも言え、映画館にかからなかったのも仕方なかったと思える。

戦後の教育に洗脳された今の観客にとっては、半世紀以上も前の戦争の狂気のような出来事自体が、もはや遠い時代の作り物めいて感じられ、リアルな話としては今一つピンと来ないと言う恨みはある。

劇中で登場する、謎の歌声などもあって、遠い国のファンタジーを観ているかの印象もある。

それは、現実にあった出来事が、作家の目と心を通し、時を経て純化したと言う事だろうか。

だから、これを単純な反戦映画のような気分で観ていると、さほどの衝撃感はない。

おそらく、そうしたメッセージをメインテーマとして作られたものではないと思う。

あくまでも、ある時代に生きた人間の心の変貌と、その触れ合いの記録なのだ。

頑固な祖父を演ずる原田芳雄と、母親としてよりも女として生きようとするイネを演ずる石田えりが、ベテランらしい存在感を見せつけてくれる一方、若者を演じている、まだ無名の役者たちの真摯な演技も印象的。

タイトルにもなっている、キリシマの美しい風景も心に残る。