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千姫と秀頼

1962年、東映京都、三上於菟吉原作、安田重夫+高橋稔脚本、マキノ雅弘監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

元和元年五月、大阪城最後の日、攻める徳川秀忠(伊沢一郎)と家康(東野英治郎)は、これで太閤の時代も終りだと嘯いていたが、家康は孫のお千の事だけが気にかかっていた。

その頃、大阪城の天守閣の中では、目の前で舞っていた千姫(美空ひばり)が、さめざめと泣き出したので、心行くまで泣けと 夫、豊臣秀頼(中村錦之助)は優しく言葉をかけていた。

戦国の世の定めとは言え、今、攻めているのは、千姫の実の父親と祖父、攻められているのは、7才の時、側に仕えて以来、12年間一緒に成長して来た夫である。

今や、その天守閣にも火が移ろうとする中、たまりかねた家康は、お千を救え!誰か、忠義の武士はおらんか!と叫び出す。

その声はたちまち援軍全体に伝わり、姫を救えば、褒賞は思いのままとの言葉が飛び交う。

徳川の元に帰れと勧める秀頼に、千姫は、自分は上様の妻だと言うのみ。

秀頼の母、淀君(沢村貞子)は、燃え上がる城の中で半狂乱になっていた。

息子の元に来た淀君は、徳川憎しと、千姫に懐剣を突き付けようとするが、秀頼がそれを止める。

もはやこれまでと知らされた秀頼は、城に残った家臣たちの前に顔を出すと、最後まで良く尽くしてくれたと頭を下げる。

それに対し、「おさらばでございます」と応えた家臣たちは、秀頼が天守閣に戻った後、二人づつ向き合って互いに刃を突き刺しあって皆果てるのだった。

秀頼は、自分が託した懐剣を握ったまま気絶して倒れている千姫に気づいて近づくが、そこに登って来た坂崎出羽守(平幹二朗)が、持っていた槍を置いて、礼儀正しく右大臣殿とお見受けいたしますと確認して来たので、必ず千姫を幸せにしてやるよう伝えて、千姫を渡すのだった。

彦根城に、無事救出した千姫の御機嫌伺いに参上した坂崎出羽守は、戦場で受けた醜い顔の傷を恥じていたが、千姫は、側に呼んで、夫、秀頼の最後の様子を詳しく尋ねる。

それに対し、出羽守は、右大臣は稀に観る立派な武将だったと答え、幸せにしてやるように言われた秀頼の最後の言葉を教えるのだった。

その後、出羽守は、江戸まで千姫の護衛として付き添う事になる。

一方、江戸城では、家康に接見した本多佐渡守(北龍二)が、三万石程度の出羽守に千姫をくれてやるのはいかがなものかと進言していた。

それよりも格式が高い姫路十五万石城主本多平八郎(菅貫太郎)の嫁にしてはと言うのである。

望みのものは何でも与えると言った約束を反故にされた出羽守は承知しないだろうと言う家康に対し、坂崎出羽守のような男は、戦場では役に立つが、これからの時代にはむしろ邪魔な存在になるので、むしろ、事を起こしてくれた方が望ましいと、佐渡守は嘯く。

この知らせを受けた坂崎出羽守は、想像通り、憤慨して城に乗り込んで来るが、それを廊下で押しとどめたのは、柳生但馬守(近衛十四郎)だった。

柳生但馬守は、千姫が本当に幸せになるのなら諦めるが、その本心が知りたいのだと足を進めようとするが、但馬守は、我慢するよう必死で出羽守の身体を押さえる。

その後、屋敷に戻り、家臣の坂崎勘兵衛(香川良介)相手に酒で憂さを晴らしていた出羽守だったが、その屋敷の前を、千姫の一行が鉄砲隊の護衛付きで通ると言う知らせが入る。

西の丸からの姫の列が、このような道を通るはずもなく、それは意図的に出羽守を怒らそうとする本多佐渡守の陰謀だったのだが、その行動を知らされた柳生但馬守は、慌てて列の後を追うが、時すでに遅く、からかわれたと察した出羽守は、家臣たちが必死に止めるのも聞かず、槍を持って門を出た所で、待ち構えていた鉄砲隊によって撃ち殺されてしまう。

それを知らされた千姫は、驚愕する。

姫路城に嫁いだ千姫は、出羽守の位牌に手を合わせる日々が続く。

そこへ世伽にやってきた平八郎に対し、自分は名ばかりの妻であり、家康の孫という名称と、10万石の加両目当てで結婚した貴女様の相手をするつもりはないときっぱりはねつける。

それから半年が過ぎ、千もやつれたが、全く相手にされない平八郎は、酒量が増え、明らかに体調を崩していた。

そんな中、腰元の一人で、町娘出身だったこうが嫁入りすると言うので、自分の事のように喜んだ千姫だったが、いつものように酒宴の相手をするよう平八郎から呼ばれたので、姫の代わりに腰元小百合(三沢あけみ)が断りに出向くと、逆上した平八郎が、そのさゆりを足蹴にし始める。

そこに現れた千姫は、見苦しいと叱りつけるが、平八郎は、今は、心底、そなたが欲しいのだとすがりつき、やがてその場に倒れ付してしまう。

その後、こうは町人に嫁ぐ為、城を去るが、平八郎の容態はさらに悪化し、とうとう息を引取る。

家康は、労咳持ちだった平八郎を推薦した佐渡守を攻めていた。

又、独り身になった千姫に、今後は好きなようにさせてやれと命ずるのだった。

桜の季節、花見の宴を催していた千姫の元に、お目通り願いたいという町人が現れたと言う。

何か面白い話でも聞けるかも知れぬと、側に呼んだ千姫だったが、やってきた伊勢屋喜兵衛(明石潮)なる老人が自慢げに言い出したのは、今日、姫の御前で話ができる光栄は、夏の陣の折、隠れていた豊臣の事を、茶臼山に報告した褒美として、葵の御紋入りの褒美をもらった事と同じくらい孫子までの自慢になると言うものだった。

老人は、その時、徳川から拝領した印篭を持って来たのだ。

それを聞いた千姫はにわかに蒼ざめ、無礼者!と叫ぶと、その場で斬り捨ててしまう。

そして、同じ葵の紋が入った天幕の中にはいたくないと言い出すと、ふらふらと外に彷徨い出て行く。

その後を慌てて家臣たちは追うが、放心状態になった千姫は、庶民が花見を楽しんでいた場所にたどり着く。

土下座して迎えた夫婦らしき男女に向い、豊臣と徳川のどちらの時代が良いと尋ねた千姫に、徳川の今が幸せでございますと応えた夫(南方英二)に、そこまでへつらうかと嘆いた千姫は、豊臣が滅びて嬉しいか?余は豊臣の姫か?徳川の女か?、と難題を突き付けたので、思わず言葉を失い謝罪した夫を、側にいた家臣、上田栄之進(徳大寺伸)が斬り捨ててしまう。

屋敷に戻った千姫は、千は、ただ独り残された豊臣の女じゃ、父と祖父は千の敵だ泣き崩れる。

そして、側にいた清水局(千原しのぶ)に対し、私は父や祖父を困らせる悪い女になりたいと呟くと、聞いていた栄之進や小百合たちも、自分達も姫と一緒に死ぬと誓うのだった。

その後、惚けたように街を彷徨う、夫を斬られた女房の姿を観た町人たちは、口々に千姫の批判を口にし始める。

あんな横暴な姫は、将軍がお手打ちにすれば良いのにとまで悪い噂が広まる。

それからは、千姫が出向いた芝居の役者甚三郎(坂東吉弥)が殺害されたり、町人たちがさらわれる事件が頻発し出す。

こうした仕業が、全て、千姫の所行と見抜いた柳生但馬守は、これらの責任は御上にあると家康本人に直訴する。

それを聞いた家康は怒りもせず、鳴くまで待とうほととぎすじゃと軽くいなすのだった。

そんなある日、駕篭に乗って街に出ていた千姫の一行を襲ったのは、花見の日、夫を殺された女房だった。

家臣たちに取り押さえられた女房を観た千姫は、駕篭を降りると、この私が憎いか?この千とて、亭主を殺したのだと打ち明けると、相手は泣き崩れるだけだった。

そこに「売女!」と男の怒声が響く。

近づいて来た浪人が刀を抜いて近づいて来ながら、千姫を罵っていたのだ。

驚く廻りの野次馬たちも気にせず、その浪人は、「例え、尾花うちからした浪人の俺でさえ人間だが、お前はけだものだ!」と、さらに千姫を侮辱するような言葉を投げかけて来る。

やがて、言うだけ言うと、刀を捨ててしまったので、殺すなと制した姫の言葉に従った家臣たちに取り押さえられた浪人は屋敷に連行される。

名前を尋ねると、浪人はからかうように千姫太郎と答えるのみ。

千姫自ら鞭を打ち、その浪人に謝るよう迫るが、浪人は怯まず、貞女は二夫にまみえず、秀頼公は、草葉の陰で泣いておられるぞと言い放つ。

すると、その捕縛を解いてやり、自ら肌身離さず持っていた桐の紋の懐剣で浪人の胸を突こうとすると、その手を掴んだ浪人は、頭を下げ、自分は豊臣の残党片桐隼人(高倉健)と名乗り、姫様が唯一の灯火だったとお思い下さいと謝罪すると、自ら手を添えて懐剣を心臓に突き刺し、その場で自決するのだった。

その死を目にした千姫は、今でも千は秀頼公の妻じゃ、千の乱行は、徳川を辱める為…と呟くのだった。

その後、自分達の前で舞を舞う千姫の姿を観た家康は、ほととぎすが鳴いて帰って来たと喜んでいたが、途中、槍を構えた姫が、父、秀忠と家康のに向って来たので、間で待機していた柳生但馬守が、必死に手を広げて阻止する。

怯えて後ずさった家康たちに、槍を構えたままの千姫は、あなたたちは千の敵です、千は人形ではありませんと言い放つ。

そして、柳生但馬守に対し、所詮、千は弱い女であった。千の命ある限り、秀頼公と添い遂げると伝えた千姫は、その後、その但馬守に付き添われ、尼寺に入る事になるが、そこに会いに来たのは、かつて、町民の元に嫁いで行ったこうであった。

そのこうの幸せそうな様子を観て、安心した千姫は、静かに寺に向う。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

美空ひばり主演の時代劇だが、劇中一曲も唄わないと言うのが珍しい。

完全に、役者ひばりとして出ているのだ。

愛する夫を、自分の身内に殺されただけではなく、次々に、親たちの思うがままに人生を操られて行く女性の悲劇、そして、その弱い立場の姫が試みた空しい抵抗の姿を描く物語になっている。

高倉健が出ているというのも見所だろう。

時代劇出演は少ないはず。

平幹二朗も、なかなか印象に残る役を演じている。

腰元として、歌手の三沢あけみ、花見の席で斬られる町人の夫を演じているのは、チャンバラトリオの頭であるのも、今となっては貴重。

華やかで明るい作品が多いひばりの映画の中では、異色の作品かも知れない。