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三等兵親分

1966年、東映東京、棚田吾郎脚本、瀬川昌治監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和14年、大阪、遊廓の一角にある朝日楼に五日間も泊まり込んでいる人物がいた。

東京、神田の小さな出版社の編集部員として勤めていた中林ケンキチ(江原真二郎)だった。

彼にも召集令状が届いた為、郷里の大阪に戻って来ると同時に、今生のなごりとして、徹底的に女を抱きまくるつもりで泊まっていたのだが、その相手となったカズ子(三島ゆり子)とは、いつしか互いに情がうつってしまっていた。

一方、同じ朝日楼の一室では、ヤクザの十文字組の親分兵藤半介(遠藤辰雄)が、自らの出征祝いとして太鼓を打ち鳴らし、堺音頭を歌って、子分や芸者たちとどんちゃん騒ぎをしていた。

その兵藤が小用で便所に行くと、隣りあったのが中林。

中林は、まさか隣の人物がその中心人物とは気づかず、うるさく騒いでいる部屋の事を揶揄しながら、戦争に行く事への冷笑的な言葉を投げかけるが、出征する事は名誉な事だと思っていた兵藤は、その言葉にカチンと来て、帰りかけた中林を呼び止めようとするが、中林が相手にしないので、頭に来た兵藤は、思わず、洗面器の水を相手の顔に浴びせかけてしまうのだった。

その十時間後、あろう事か、中林と兵藤は、同じ第5連隊の補充兵として同じ班に配属される。

彼らを訓練するのは、阿部上等兵(南道郎)、カマっけがある被服係りの鎌田上等兵(南利明)、など、同期の仲間としては、もとスリの小坂千吉(小島慶四郎)、元警官の赤松千代松(田中春男)、トラックの運転手実は物資横流しのブローカーでもある清水忠吉(関敬六)、心霊布教のおかしな教祖と言う大峰角堂(由利徹)、元サーカスの玉乗りをやっていた豊川稲造(山城新伍)など、変わり者ばかりが集まっていた。

やがて、屋外で点呼が始まり、内務班長である堀軍曹(ミスター珍)と出会う。

その解散後、久々に顔を合わせた兵藤は、女郎の尻ばかり追い掛けていたと中林の事をからかい、戦争が終わったら、家の組にでも入れと勧める。

一方、二枚目気取りで女たらしの豊川は、兵隊たちにお茶を持って来た近所の安藤未亡人(春川ますみ)に、早くも色目を使いはじめる。

その頃、清水は、食料倉庫の担当者立花から、こっそり羊羹を貰い受けようとしていたが、そこにやって来た橋爪中尉(室田日出男)に見とがめられ、内務班にいる中林を呼んで来いと命じられる。

中林が出向いてみると、橋爪中尉とは、かつて中学で同級だった顔なじみだった。

橋詰は、中学時代の事は黙っていてくれと中林に頼むと、羊羹の束を土産に持たせてくれる。

部屋に戻った中林は、ちょうど上等兵たちがいないのを幸いに、それを仲間たちに分けはじめるが、中林を嫌っている兵藤だけは受取ろうとしない。

そこにいきなり上等兵たちが帰って来たので、補充兵たちは、食べかけていた羊羹を隠そうと必死になる。

大峰などは、占いで阿部の御機嫌を取ったりするが、その後、床に落ちていた包み紙の一部を阿部上等兵に発見されてしまい、兵藤などは食べてもいないのに、阿部上等兵から見つかった羊羹を無理矢理口に突っ込まれていた。

その兵藤も含め、ただちに整列させられた補充兵たちは、阿部上等兵から軍人直喩を暗唱するよう命じられ、赤松以外のものが答えられないのを見るや、制裁の往復ビンタを食らうが、気の弱い中林等は自分の番が来る前に、恐怖心から失神してしまう始末。

仲間たちから介抱されている間も、中林はカズ子の事を夢見ていた。

一方、小坂は、何故か鎌田上等兵から気に入られ、被服部屋に連れ込まれると、ズボンを脱がされそうになったので、慌てて逃げ出すのだった。

やがて、日曜日がやって来て、上等兵たちは一斉に外出して行く。

阿部上等兵などは、朝日楼のカズ子に会いに行くと嬉しそうに言っているので、それを聞いた中林の進駐は穏やかではない。

しかし、補充兵には外出許可は出ない。

彼らに外出許可が出るのは、野戦行きが決まった時だけだと嫌味を言われたあげく、上等兵たちから、大量の洗濯物を押し付けられる。

良い天気の中、洗濯をさせられていた補充兵たちは、不平たらたらだったが、中林は相変わらず、カズ子の思い出に浸っていた。

そんな中、鼻血を出した豊川が辛抱たまらんと、女目当てに部隊から抜け出そうとするが、たまたま通りかかった鎌田上等平に発見されたので、思わず、マラソンで身体を鍛えている所だとごまかすと、兵器庫の鍵を元に戻しておいてくれと預かる。

しかし、その鎌田上等兵たちの姿が見えなくなると、まっしぐらに安藤未亡人宅を訪れ、一人娘の千代を無理矢理外に遊びに行かせると、すぐさま、こちらも待ちかねていた風の婦人と抱き合うのだった。

一方、中林に石村信子なる婦人が面会に来たと言うので会ってみると、それは朝日楼のカズ子であった。

石村と言うのは本名なのだそうだが、彼女の事ばかり思いつめていた中林は相好を崩して喜ぶが、今日、阿部上等兵がそちらに行ったはずだがと聞くと、会っていないのだと言う。

そんなカズ子が、どこか二人きりになれる所はないのかと訴えて来るので、兵舎の周囲を二人であちこちうろつくが、どこも、すでに別のカップルがひしめいている。

仕方がないので、二人が向った先は便所の中だった。

たまたま便意を催し、そこにやって来た歩哨係の谷一等兵(田中邦衛)が、大便所の中から出て来たカズ子と鉢合わせになるが、何も気づくはずもなかった。

一方、炊事班の貯蔵室に来ていた堀軍曹は、一人で酒を盗み飲みし泥酔していた。

それを他班の連中に見とがめられ、制裁を受けそうになった所にやって来たのが、清水と兵藤、二人は、堀軍曹をかばって、自ら他班の兵隊たちと大立ち回りを始めるが、すぐさま、上官がやって来て止めに入る。

その後、帰りかけた清水と兵藤は、炊事班の飯島軍曹から、酒を入れた飯ごうを、部屋に戻った堀軍曹に持って行ってやれと渡される。

その二人が、軍旗を収めてある泰安室の前を通りかかった時、そのまま素通りしかけたのを見かけた橋爪中尉は、彼らが軍旗に敬礼をしなかったと呼び止めると、飯ごうに入った酒も発見し大問題になる。

その問題で、兵藤と清水がきつい咎めを受ける事になりそうだと補充兵たちが心配していた内務班に、何も知らずにのんきに帰って来たのが豊川。

そんな中、中林は、独り橋詰の部屋に出向き、二人の赦免を申し出ようとするが、運悪く、そこには堀軍曹もいた為、自分と言う上官を素通りして、さらに上の情感に直訴する等規律違反だと、体面を潰された格好の堀軍曹から叱責されたのみならず、橋爪中尉からも公私混同するなと橋詰から注意され帰されてしまう。

その後、橋爪中尉は堀軍曹に、野戦行きの名簿に独り追加の人物があると告げる。

何でも、危険思想の持主がいると言うのだ。

その頃、内務班では、洗濯物を盗まれた罰として、補充兵たちが全員、上等兵たちから徹底的ないじめを受けていた。

兵藤たちは、柱に掴まらされセミの真似、大峰などは、並んだ机に両手を踏ん張ったまま。足を浮かせた状態で自転車漕ぎの真似、中林はバケツを頭からかぶされ虚無僧の真似をさせられていた。

そんな中、鎌田上等兵は、豊川に兵器庫の鍵を返したかと聞くが、豊川はその鍵を、未亡人宅に忘れていた事に気づき、思わず、洗面所に忘れて来たと嘘を言い、兵舎を抜け出す。

ところが、安藤未亡人宅には既に先客が来ており、豊川は、台所の床下に潜り込んで様子を見るが、その相手とは、炊事班の飯島軍曹だった。

聞いていると、安藤未亡人は、自分に対した時と同じ事を言っている。

兵隊の相手をするのは日常茶飯事のようだ。

やがて、豊川、床下でおならやくしゃみをしてしまったので、飯島軍曹から見つかってしまう。

その結果、豊川は営巣に入れられてしまう。

翌日、清水が飯島軍曹から、人事係で小耳に挟んだとして、中林が、兵藤と自分の軍旗への欠礼を免罪して欲しいと橋爪中尉に進言しに行った事を教えてもらい、それを他の仲間に知らせに行く。

その中林は、カズ子からの恋文を阿部上等兵に見つけられ、みんなの前で中身を読まされていたので、兵藤は、そんなみじめな真似をさせられている中林が自分の事を救おうとしてくれた事実を知り、複雑な表情で見つめていた。

カズ子は、朝鮮の釜山に行く事になると知らせていた。

その夜、ベッドでなかなか寝つけなかった中林は、自分は明日から模範兵になり、カズコに会う為に、上等兵たちに徹底的におべんちゃらを言い外出許可をもらうつもりだから、バカにしないでくれと他の仲間たちに伝えるが、それを聞いた小坂は、お前の名前はすでに野戦行きの名簿に載ってしまったので、もう外出は出来ないのだと辛そうに教える。

何か、橋爪中尉に憎まれるような事があったのかと聞かれたので、橋爪は昔、学生運動をやっていたのを知られるのが怖いのだろうと中林が教えると、その卑怯な手口に、聞いていた全員が怒りを覚えるのだった。

その時、外で足音が聞こえるので、全員窓から外を見てみると、先に外地行きになる兵隊たちが出発する所だった。

それを、補充兵たちも上等兵たちも、複雑な思いで見送る事になる。

翌日、どこからか上等兵の服を盗んで来た仲間たちは、中林にそれを着せて、炊事用の運搬トラックに乗せ、彼を外に出そうとする。

計画の首謀者だった兵藤は、ついでに、自分の組の子分への手紙も中林に託すのだった。

こうして、中林を思うばかり、客を取りたがらなくなった為に朝鮮行きになった朝日楼のカズ子と再会し、互いの愛を確認しあった中林だったが、そこに突然、憲兵隊の見回りがやって来たので、慌てて裏から逃げ出した中林は、途中で足を挫いてしまい、さらに持っていた軍帽も落としてしまう。

その軍帽を拾ったのは、十文字組の源やん(三遊亭歌奴)だった。

一方、中林の脱走を知った橋爪は激怒し、上等兵たち総出で、その探索に当らせていたが、憲兵隊にはまだ捕まっていないとだけ分かる。

憲兵隊に捕まれば、自分達の責任問題にもなるから、彼らも必死だった。

営巣に入れられていた豊川も、見張りから、同年兵が脱走したと言う事実は知らされるが、それが誰なのかは分からない。

身軽な彼は、天井の一部に空気抜きの穴を見つけ、そこから抜け出すと、屋根伝いに、内務班の天井裏にやって来て、寝ていた仲間たちから秘かにキャラメルを譲り受けて帰る。

翌日、炊事室に食缶を返還しに来た兵藤たちは、ちょうど、物資運搬トラックに便乗してやってきた源やんから、手紙を受取った事、中林は十文字組に匿っていると教えられる。

その後、組に戻って来た源やんは、兵藤の母親(笠置シヅ子)と、足を挫いて身動きが出来ない中林に、しばらく帰って来るなと言う兵藤の伝言を伝える。

しかし、その頃軍では、中林が三日経っても戻らなければ、脱走兵として軍法会議にかけられる事が決まり、そうなったら銃殺されてしまうと、仲間たちは慌てはじめる。


そんな中、計画の首謀者兵藤は慌てず騒がず、一つの妙案を思い付く。

それは、軍隊の魂である軍旗を盗み出し、その交換条件として、中林の免罪を勝ち取ろうと言うのである。

その盗みを依頼されたのは豊川だった。

中隊から差し入れられた毛布を被って寝ようとした豊川は、毛布に貼ってある自分の名札の裏に手紙が入っている事に気づく。

そこには、「グンキヌスメ ユウショクゴコイ(軍旗盗め 夕食後来い)」と記してあるではないか。

さっそく、夕食後、前と同じように、内務班の寝台上にやって来た豊川は、仲間たちから、ロープ等必要な道具を貰い受ける。

その日、泰安室の前には見張り(大泉滉)が立っていた。

泰安室の天井裏からロープを垂らし、それを伝って中に降り立った豊川は、軍旗を棹から取ろうとして倒してしまう。

その物音に気づいた見張りが、怪んで中の様子をうかがいに来るが、間一髪、豊川は、天井からぶら下がったロープにしがみつき、見つからずにすむ。

その後、軍旗を自らの腹に巻き、屋根伝いに営巣に無事戻って来た豊川だったが、気が付くと、腹に巻いていたはずの軍旗がないではないか。

その軍旗は、屋根の上に落ちていた。

やがて、軍旗がなくなった事が分かり、兵舎全体に非常呼集がかかると、内部調査が始まるが、どこからも軍旗は見つからない。

そうした中、大便所に行った小坂は、窓の外に垂れ下がっていた軍旗を偶然にも見つけて、部屋に持ち帰る。

やがて、兵藤は、占い師の大峰角堂に、軍旗を在り処を占わせてみてはどうかと堀軍曹に進言しに行く。

神様は、部隊長に直接話がしたいと言っているとも伝え、その部隊長(玉川良一)の部屋に招かれた兵藤と大峰は、もし占いで軍旗が見つかったら、中林の罪を問わないでくれと交換条件を出すが、そんな条件にあっさり乗る部隊長ではなかった。

その場にいた橋爪も、彼らの仕業だと分かっていたので厳しく詮議して来るし、怒った部隊長は日本刀を抜き、この場で切り殺すとまで迫って来る。

しかし兵藤、そこはヤクザの親分で、腹を据えて、もろ肌脱ぐと、さあ殺せ!と、その場で大の字に寝そべってしまう。

その度胸に惚れた部隊長は、彼の条件を飲む事にする。

中林が憲兵隊にでも捕まれば、部隊長も、週番指令である橋爪も詰め腹を斬らされる恐れがあったからだ。

その頃、十文字組にいた中林は、今帰れば、自分が処罰されるだけで、他の仲間たちは助かると帰りかけるが、兵藤の母親は、彼らは今、必死で一世一代の芝居をしているのだから、それを信じて達成させてやれ、それが戦友と言うものではないかと叱りつける。

その中林の帰還時間を見計らって、大峰に占いの時間延ばしを秘かに耳打ちする兵藤。

かくして、部隊長の部屋では、大峰のインチキ占いが延々と行われていた。

約束の時間になり、中林は、立花の運転するトラックで部隊に戻る事になる。

一方、内務班の部屋にいた赤松は、隠していた軍旗を小坂から手渡されると、それを持って外に出て、屋根で待機していた豊川に渡す。

豊川は無事、泰安室に潜り込むと、元の棹に軍旗を括りつけるのだった。

しかし、そこから帰る途中、姿を橋爪に見つけられるが、何とか隠れた豊川は、橋詰が営巣の様子を見に来る一瞬前に戻っていた。

兵舎に、中林が戻って来たちょうどその時、大峰は神のお告げがあったと言い、軍旗は元の場所に戻っていると言う。

中林を捕まえて部隊長室に連行して来た橋爪だったが、もう部隊長たちは、確認の為、泰安室に走っていた。

かくして事件は丸くおさまり、中林と兵藤は初めて、硬い握手をかわす事になる。

しかし、こうした小さな抵抗も空しく、補充兵たちは全員、船上に赴く事になる。

その船内では、兵藤が十八番の堺音頭の声を響かせていた。

その甲板上では、海を見ながら、その歌声を嬉しそうに聞いている中林の姿があった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

喜劇と言うほどではないが、軍隊での生活を皮肉まじりに描いた作品。

おそらく前年ヒットした大映の「兵隊やくざ」(1965)に触発されて作られた作品ではないかと思われる。

その証拠に、軟弱なインテリとヤクザという、水と油のような二人が仲良くなると言うパターンは「兵隊やくざ」の設定にそっくりである。

又、上等兵たちによる、理不尽な新兵たち虐めの様子が描かれているが、セミの真似をさせられたり、自転車漕ぎをやらされると言う具体例は、同じく伴淳主演でヒットした「二等兵物語」(1955)ですでに描かれているものである。

この作品のオリジナリティは、その他にも異色のキャラクターの新兵を配し、彼らが各々の得意技を使い、一致協力して、上官たちに一泡吹かせると言う所だろう。

特に、山城新吾扮する元サーカス団員が大活躍するのが興味深い。

すでに、肥満が始まった頃の山城だが、往年の二枚目風キャラと、とぼけた三枚目キャラの両要素を巧く行かしている。

屋根の上を走る姿等、「白馬童子」や「風小憎」の頃のヒーローを思わず連想させたりする。

劇中、「男はつらいよ」で寅さんの盟友、ポンシュウで知られる関敬六が、人気ギャグ「アッドー」のポーズ等をさり気なく披露しているのも見落とせない。

江原真二郎の、いかにも女に参っている情けないインテリ役も珍しいが、後年、悪役や仇役(大川橋蔵主演「銭形平次」でのライバル三輪の万七役が有名)が多かった遠藤辰雄(太津朗)が、主役級の活躍を見せるのが貴重。

若々しい室田日出夫の仇役も印象的。