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レディ・ジョーカー

2004年、「レディ・ジョーカー」製作委員会、高村薫原作、鄭義信脚本、平山秀幸監督作品。

この作品は比較的近年の作品であり、なおかつサスペンスミステリですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので御注意下さい。コメントはページ下です。

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昭和22年、マッカサーの命令により、労働者たちによるゼネストは中止された。

あんちゃんが帰って来た日は吹雪だった…。

雪に閉ざされた貧しい実家に戻って来た物井清二(宮下裕治)は、長年勤めていた日之出ビールの神奈川工場を首になったと、家を守っていた両親に告げ、まだ小学生の弟清三には、土産だと言って瀬戸物の笛を渡す。

父親は、ここは帰って来る所ではないと呟くだけ。

その夜、退職金代わりとして会社から支給された米を焚いた飯が出たつましい夕食の席で、持参して来た日之出ビールを独り旨そうに飲んだ清二は、深夜、一人で、会社宛に抗議の手紙を書いていた。

そんな姿を、清三は、隣の部屋の布団の中から見つめていた…。

時が過ぎ、物井清三(渡哲也)は、日之出ビール本社ビルが見える街角の小さな薬局の主人として、寂しい一人暮らしをしていた。

50年以上経って、兄、清二と再会したのは緑風苑と言う老人ホームだった。

すでに寝たきり状態である清二に、時々、面会に訪れては、兄の好物だった日之出ビールを飲ませるのが清三の日課になっていた。

もう一つの趣味は、川崎の競馬上に出かける事。

そこでは、彼と同じように、不遇な人生を送っている仲間たちが集まっていた。

父親が在日朝鮮人である高克己(吹越満)と蒲田中央署のあぶれ刑事半田修平(吉川晃司)は、何か完全犯罪のようなでかい事をやりたいと冗談を言い合っていた。

重度の身体障害を持つ娘布川さち、通称レディ(斉藤千晃)を車椅子に乗せやって来るトラック運転手布川(大杉漣)は、元自衛隊員と言う変わり種。

そして、働いている工場で金型が落ちて左手を怪我をしたと言う青年松戸陽吉(加藤晴彦)に声をかける清三。

平成16年10月、日之出ビール社長城山恭平(長塚京三)が誘拐されると言う事件が発生する。

警視庁から大森中央署刑事課強行係に飛ばされてきていた合田雄一郎(徳重聡)は、同僚の大滝から電話連絡を受け、現場へ急行する。

その合田が自宅の庭先で発見した封筒には、「5億を出せ、レディ・ジョーカー」と言う文章が入っていた。

日之出ビールの本社では、重役の白井誠一(岸部一徳)が、新製品発売の一週間前の時期に起こった今回の事件に、長年、会社に付きまとってきた総会屋グループ岡田経友会の関与がないか確認を取っていた。

警視庁捜査一課特殊班捜査一係主任、平瀬悟(國村隼)は、城山の自宅で妻から事情を聞いていたが、そこに、城山の弟武郎(辰巳琢郎)と、その娘佳子(菅野美穂)がやって来る。

その頃、富士の裾野にあるとあるプレハブ小屋に、高、布川、松戸がライトバンで城山を連れて来んでいた。

相棒の青柳(光石研)と共に捜査に駆り出されていた半田が、捜査状況を店で待機していた清三に電話で知らせて来たので、写真を忘れるなと念を押した清三は、女婿で歯科医をしている秦野浩之(綾田俊樹)から、孫の孝之(三田村周三)がバイク事故で死亡したとの連絡を受けた5ヶ月前の事を思い出していた。

それからしばらくして、秦野の病院にやって来た岡田経友会の西村(松重豊)と言う男は、50年前に物井清二が会社に宛てた手紙の写しを差し出し、浩之の出生の事等ちらつかせて来る。

てっきり、強請だと感じた秦野は、いくら欲しいのかと激昂するが、西野の申し出は意外な物で、一緒に就職差別と戦おうと言うものだった。

ある朝、出社しようと車に乗り込んだ城山恭平は、突然やって来た車から降り立った秦野から、カセットテープを一本、無言で車内に投げ込まれる。

それを車の中で再生してみた城山は、それが、50年前、物井清二が会社に宛てた手紙を朗読したものだと知る。

もちろん、城山には、今朝方出会った秦野も、物井清三等なる手紙の主にも面識など一切なく、手紙の内容もはじめて聞くものだったが、そこには、当時日之出ビール神奈川工場に勤務していた清三が、たまたま被差別地域出身者の友人と某所にいたというだけで、他には何等正当な理由もなく馘首されたのは理不尽であるとの抗議が書かれてあった。

そのテープを会社の役員たちにも聞かせ、事の真偽を問いただした所、当時の記録が一部紛失している事、息子の秦野孝之と言う青年が、入社試験の途中で気分が悪くなり、途中退場した後、不採用になった事で、何か差別があったと、父親が思い込んでいるらしい事、その孝之が事故で、先月15日に死亡した事、そして、城山武郎本部長の娘、佳子の交際相手が、その孝之だった事などが知らされる。

その夜、弟の自宅を訪れた恭平は、佳子の口から、生前、孝之に、あなたの父親の出生を理由に、家族から結婚を反対されていると告げた事実を教えられる。

同席した武郎は、被差別相手の結婚でも良いのか?と、苛立たしげに問いかけるのだった。

そんなある日、いつものように緑風荘を見舞った清三は、ベッドの上の兄、清二がすでに息絶えている事を発見する。

その遺骨を自宅の薬局に持って帰って来た清三は、日之出ビールの本社ビルを見つめて、人生には鬼が訪れる事があると考えていた。

捜査本部が置かれた大森中央署課長代理土肥正行(外波山文明)は、めったにない大事件に張り切っていた。

一方、城山をプレハブ小屋に監禁していた高、布川、松戸たちは、どこか犯罪を犯しているという実感がなく、何となく時間をもてあましているような所があった。

目隠しをした城山に近づいた高は、要求金額を20億と伝え、ただし、警察には5億要求されたと言うように念を押す。

そして、人質は350万キロリットルのビールだと付け加えると、城山を人気のない道路上で解放する。

自分を乗せて来た車が走り去った後、目隠しを取り、胸ポケットに入れられたものを確認した城山は、そこに佳子の写真を発見するのだった。

不審車洗い出し最中、立ち寄ったディーラーの中で、城山の帰還を報道するテレビニュースを熱心に観ている合田。

警察で、平瀬からの尋問にも何も答えず、会社に戻って来た城山は、白井らにも、何も具体的な話はしなかったが、岡田経友会から、例の物井清二からの手紙のコピーが役員全員に配られ、揺さぶりをかけて来たとの報告を倉田(清水紘治)から受ける。

その後、城山に会いに来た武郎は、警察からテープの事を聞かれたと狼狽気味に伝えるが、城山は、家族の事は一切切り離せ、20億払えば全て終わる事だ、お前は事業本部を預かっている事を忘れるなと釘を刺すのだった。

その頃、大森署の捜査会議に出席していた半田は、一人だけスニーカーを履いている刑事に気づき、トイレでさり気なく声をかける。

元警視庁にいた合田と知っての事だった。

半田は、その後、清三の店に客を装ってやって来ると、すでに自分にも尾行がつけられているので、今後仲間たちには、川崎に行かないようにと伝える。

さらに、布川は、玉突き事故に巻き込まれ頭を4針も縫った事も知らせる。

明くる日、日之出ビールの会社の門を開けたガードマンは、落ちていた封筒の中に、東邦新聞紙上に「恭子、許す 父」と言う記事を掲載するよう要求する犯人からの手紙を発見する。

捜査本部、神崎一課長(矢島健一)から呼び出しを受けた合田は、明日から、表面上は鞄持ちとして城山の個人的警護に当るよう命じられる。

目的は三つ。

1、身辺警護 2、城山の観察 3、社内の動きの観察

その後、一課長は、城山社長誘拐事件直後、事件現場周辺担当の警官から、当夜の巡回に付いての確認をしていた理由を尋ねて来る。

当夜、毎夜、城山邸を定期的に巡回しているはずの警邏がいなかったのはどうしてなのか疑問を持ったと合田が説明すると、一課長も自分達もその事は気になっていたと答えるのだった。

日之出ビールの役員会では、白井が、一刻も早く犯人側と取引をしないと、このままではビール業界全体がダメージを受けてしまうと進言していた。

後日、自宅の新聞受けから取り出した朝刊で、「恭子、許す、父」と言う尋ね人欄の文字を確認していた城山は、その新聞受けの中からケイタイの呼び出し音を聞き、中を確認して観ると、封筒に入ったケイタイを見つける。

出てみると、今夜9時、このケイタイで連絡を待てとの指示が聞こえて来る。

その夜、21時過ぎ、社長室の外で警護していた合田は、ケイタイの呼び出し音を聞き、その時間を手帳に記録していた。

犯人からの現金受け渡しの指示は、5億を4つの紙袋に分けてランニング姿の運転手が車で運べと言うもの。

平瀬はじめ、捜査陣は全力を上げてその車を尾行するが、都内をあちこち引っぱり廻された後、入った駐車場の中で煙が発生、火災警報が鳴り響く中、紙袋を下げた運転手が逃げ出して来る騒ぎが起きただけで、結局、犯人は接触して来なかった。

平瀬たちは、運転手にケイタイで道順を教える犯人が都内の道路に精通している事に気づき、城山社長誘拐の折も、Nシステムを巧みにすり抜けた事とあわせ考え、犯人は運送業者か身内なのではないかと言う疑念に囚われはじめる。

さらに、その日、城山社長は通常通り、工場視察等をこなしていたとの合田からの報告を聞き、落ち着き払っていた会社の連中は、今日、金が盗まれない事をあらかじめ知っていた可能性があると見抜く。

そんな中、松戸は、勤めている工場の機械で日之出ビールのキャップに穴を開け、その中に高が、紅麹色素を混入していた。

そこへ差し入れを持ってやって来た清三は、いたずらっけを出した高がコップに注いでくれた日之出ビールが真っ赤だったので驚く。

その後、都内二箇所から見つかった赤い日之出ビールの事を知った本社では、出荷を全面的に中止する事になる。

日之出ビールの株価が一気に低下している様子をパソコン画面で確認していた高は、あるパチンコ店で、同じ在日の先輩から、最近儲かっているそうだな?と、無気味な圧力をかけられて来る。

一方、松戸は、今月一杯で工場が閉鎖になるので、今の仕事を辞めた後は、布川のようにトラックの免許を取って、運転手になろうと思っていると、清三に打ち明けていた。

城山社長は、平瀬から、何本ものテープに吹き込まれた男たちの声の中から、聞き覚えのある犯人の声がないかと確認作業をやらされていたが、どれも聞き覚えがないと否定する。

しかし、その場に同席していた合田は、平瀬から、今のテープの中に、城山誘拐事件当夜、夜勤だった蒲田署の刑事の声が含まれていたと教えられる。

その夜、21時過ぎ、前と同じく、ケイタイの呼び出し音が社長室から聞こえたのを確認した合田は、思いきって、城山に話したい事があると持ちかけ、犯人と接触していますねと問いかけるが、城山は答えを拒否し、君がやっているのはスパイ行為であり、明日から来なくて良いと言い渡す。

新しい犯人からの要求は、5億を積んだ車を、港町近くの工場の近くに置いておけと言うもの。

これが、警察が介入する最後になるとの知らせだった。

雨の中、同僚たちと友に、その車を見張っていた合田は、不審車が近づいて来て、そこから下りて来た若者が、5億を積んだ車に乗り移ると発車するのを確認する。

その車の処置をどうするのか、本部からの指令を待っていた彼らは、ちょうど現場近くの高架を通過する電車の騒音にイヤホーンの声を邪魔されてしまい判断に迷うが、確保しろとの声を聞き、慌てて車を止めると、運転していた若者を逮捕する。

しかし、本部からの指令は、車を止めるなと言うもので、止めろと言う指示を出したのは、平瀬の特殊班独自のものだった事が後で分かる。

平瀬に会った合田は、昨夜は、同時に、テープの声の主にも巻かれていた事実を知り、結果的に二重の失態を特殊班が犯した事を指摘するのだった。

捕まえた若者は、馬のかぶりものを被った三人組から拳銃で脅されてやっただけの無関係と分かり、捜査陣は一課長から叱責を受ける事になる。

その頃、日之出ビールの役員会議では、20億を犯人に受け渡す事を満場一致で可決していた。

ビールの箱に積められた現金が運び出された後、城山は社長室で一人、犯人から渡されていたケイタイを壊していたが、その直後、圭子から、父親が品川駅から電車に飛び込んだとの知らせを受ける。

遺体が運び込まれた病院で、城山社長と共に警察から足止めを食らっていた圭子は、やってきた合田に、警察は被害者の家族まで疑っているのかと感情を爆発させる。

レディ・ジョーカー事件が突然、終局したとの新聞報道を読みながら、久々に競馬場へやって来た清三は、怪我が直ったらしい布川と再会するが、布川は、大金を手にしても何になると、厭世的な言葉を投げかけて来る。

一方、城山社長は佳子から、父親の机の中から見つけたと、物井清二からの手紙が記録された当時の社内報告書を見せられていた。

会社の記録から紛失していたものだったが、城山は事件とは関係ないものだと慰める。

しかし、佳子はいまだに、駆け落ちしたいなどと孝之に持ちかけた自分に否があると悩み続けていたのだった。

後日、ゴルフ場で、岡田経友会の関係清算を画策しているらしき倉田と二人きりになった城山は、犯人から佳子の写真を持たされた事を打ち明け、本当の人質はビールではなく、佳子だったのだと教えた後、総会屋との関係清算は自分がやると決意を伝えるのだった。

相変わらず、尾行が付いたまま、競馬場にやって来た半田は、近づいて来た高から、もう一度やらないかと持ちかけられる。

預かっている20億に手を出してしまいそうなのだと言うが、半田は、高が何者かに気づかれ、足元を見られていると事情を見抜く。

岡田経友会と繋がっている連中から目をつけられたので助けて欲しいと懇願して来た高だったが、半田から拒否された後、その岡田経友会の連中から拉致されてしまう。

捜査本部では、犯人を半田修平と特定し、上層部会議で明朝逮捕すると確認しあうが、その場に出席していた土肥課長代理は、会議室を出ると、半田に直接電話を入れ、何故やった、自分の苦労も知らないでと恨み言を並べた後、駐車場の車の中で、拳銃自殺してしまう。

その事を知った合田は、部下のミスには自殺するしかない組織への疑問を感じ、その葬儀場にいた平瀬に電話を入れるが、結局、半田の事情聴取はなくなったと知らされる。

すっかり警察組織への幻滅感に襲われた合田だったが、同僚たちからは、本庁から来たお前は、何時も浮いていると皮肉を言われてしまい、さらに落ち込むのだった。

そんな中、自宅アパートに帰宅して来た半田は、郵便受けに封筒が差し込まれているのを発見し、その中に、お前が誘拐した。土肥を殺したのもお前だと書かれている手紙が入っているのを読むと、すぐさま差出人の見当がつき、独りほくそ笑むのだった。

後日、競馬場で松戸や清三と再会した半田は、高と布川がいなくなったとそれとなく報告する。

みんなバラバラになったなと呟く清三に対し、俺のレディ・ジョーカーはまだ終わってないと、半田が答えるのだった。

そんな半田の尾行を続けていた合田は、帰宅した自宅アパートのドアの前に、白い新品のスニーカーが置いてある事に気づく。

彼も、その送り主が半田である事に気づく。

ある日、清三の薬局を独りの男が訪れて来る。

城山社長であった。

彼は、初対面の清三に、兄、清二の手紙を何度も読み直し、その気持ちが少し分かったような気がするので、今日は、焼香に来たと打ち明けるが、清三は、なるようにしかならん生き方をせざるを得ない者の気持ち等、あんたに分かるはずがないと追い返す。

その後、城山社長が置いて行った供え物を確認した清三は、それが、兄が大好きだった日之出ラガービールであった事を知る。

一方、帰宅して、又、前と同じような封筒を郵便受けに見つけた半田は、外で見張っているはずの合田に声をかけ対面すると、贈ったスニーカーを履いてくれなかったのか?と問いかけた後、隠し持っていたナイフで、いきなり合田を突き刺して来る。

倒れた合田を観た半田は、その場で公衆電話から110番通報をし、たった今、刑事を刺した自分がレディ・ジョーカーだと名乗る。

後日、城山と倉田は、岡田経友会との取引があったと幹部会から東京地検に控訴され、役職を辞していた。

半田も拘置所の中にいた。

傷が癒えた合田は、アパートから引っ越す知人の手伝いをした後、自分は取りあえず刑事を続ける為、昇進試験を受けると決意を伝えていた。

何時のように、競馬場にレディこと、さちを車椅子に乗せて連れて来ていた布川は、彼女にリュックを置き、自分がしていたマフラーを巻いてやると、独りその場を立ち去って行く。

その後ろ姿を見かけた清三は、レースが終わった後、独り置き去りにされた車椅子のさちを見つけ、布川が彼女を捨てて行った事を悟る。

そんなさちに近づいた清三は、雪が降り始めた中、身体の冷えた彼女に手袋をはめてやると、自分の所に来るかと問いかけ、そのまま薬局に連れて行く事にする。

その日はクリスマスだったので、途中で、クリスマスケーキを買って帰る事にするが、薬局の前には、松戸が置いて行ったクリスマスケーキの箱を見つける。

コタツにさちを入れてやり、二つのケーキに火を灯した後、「メリークリスマス、レディ」と清三が言葉をかけてやると、いつもは全く無表情だったさちが、にっこり微笑むのを観る。

外は、あんちゃんが帰って来た日と同じ吹雪だった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

高村薫原作の長篇サスペンスの映画化で、日活が久々に製作に乗り出し、配給を東映が担当したと言う異色の作品。

手堅い演出が定評の平山監督の作品だけに、この作品もそれなりにまとまってはいると思う。

ただし、膨大な情報や重いテーマ性が詰まっていた原作を、手際良く整理してまとめただけと言った印象もなくはなく、観やすくなってはいるが、重厚感や衝撃感は薄く、どこか軽いテレビの2時間サスペンスを観ているような印象に近いようにも感じられる。

映画として特に出来が悪いと言う程ではなく、平均的なサスペンス映画と言った感じだが、この作品が不幸だったのは、原作が発表され、話題を呼んだ時期(1997年)から随分時間が経って映画化された事、さらに、一方の主役を演じる徳重聡が、ほとんど無名の新人であった事等の諸事情から、話題性と言うか、興行性が著しく弱まってしまった事。

もちろん、東映の基本的な興行力の弱さも背景にはあったろうが、全く興行的に奮わず終いだった事が惜しまれる作品でもある。

本作の真の主役は徳重聡ではなく、渡哲也であるとも言えるが、その渡、東宝の「誘拐」(1997)の時同様、今一つ、影のある人物と言う印象がなく、どことなくミスキャストっぽいのも気になるし、今、渡目当てで映画館に来る人は、一体どれだけいるのだろう?

癖のあるキャラを演じている吉川晃司にしても、この作品を観て、今、すぐさま彼の名前が出て来る観客も少なくなったのではないか、無名の新人と思った観客も多かったのではないだろうか。

そう言う意味では、この作品、何となく、客を呼べるスター不足と言った印象がなくもない。