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おとし穴

1962年、勅使河原プロダクション、安部公房原作+脚本、勅使河原宏監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

子供が、立て付けの悪い木戸を開け、外に出て来る。
その後から、その父親らしき男も続き、二人は、夜中、近づいて来る自転車のランプから身を潜めるように隠れると、それをやり過ごして逃げ出す。

タイトル。

子供連れの男(井川比佐志)は、もう一人の男(大宮貫一)と、農民依頼の炭坑を掘っていた。

掘り出して来た粘土の一部を外で待っている子供に渡すと、その子(宮原カズオ)は、もらった粘土につばを付けて、一心に何かを作りはじめる。

そこに、依頼主の農民が弁当を持って来て休憩をしろと言うので、男は、今掘り出した土地に、炭の匂いがするのでもうすぐ岩盤に突き当たりそうだと伝える。

おじさん、もうすぐ炭坑主だとおだてると、農民は喜んで帰って行く。

そんな男たちの様子を、遠くの墓から写真に撮っている白服の男がいた。

二人の男は、実は炭坑から逃げて来た元坑夫だった。

素人の農民から依頼されて、炭坑堀の真似事をしているが、炭坑を掘り当てるつもり等最初からなく、ただ、日々の食事を得る為の方便に過ぎなかった。

その夜、寝床で、そろそろ正体がばれそうなので、逃げる潮時だろうと仲間に話し掛ける男。

最近では、山から逃げ出した者を探し出す商売人もいるらしいからと、警戒心を覗かせる。

これまで、炭坑で地獄を観て来た二人は、もう炭坑に戻るつもりはなかったが、結局、行き着く所は山だろうと言う予感も持っていた。

男は、もし自分が生れ変わったら、こんな目に会うのは懲りたので、今度は組合と言うものがある所で働いてみたいと言う。

そうすれば、会社と対当に話し合う事ができるからだと言う。

それを聞いた仲間は、自分は生まれかわれるなら鬼が良いと言う。

どうせ死んだら地獄に落ちるのなら、鬼だったらまだ楽ではないかと言うのである。

それもそうだと納得する男。

翌日、朝一番のバスに乗って、農民の元を逃げ出していた男らと子供だったが、その子供は、車掌がキャラメルを渡そうとしても無視する。

一方男たちは、車窓から見えた「働き手募集」の看板を頼りに降りてみる事にする。

労働者の請負のようなその会社では、すでに人手は足りていると主人の妻から冷たくあしらわれ、主人からも移動証明書は持っているかと言われるが、持ってないと答えると、その場ではねてみろと言われる。

訳が分からずはねてみると、五体満足なようなので取りあえず置いてやろうと言われる。

そこでの仕事は、きつい港湾での運び屋だった。

男は、仕事の最中、さり気なく逃げ出そうとする者が捕まえられる所を目撃する。

何事かと仲間に聞くと「ずらかり者」なのだと言う。

子供が町で隠れると、例の白服の男がスクーターでやって来る。

男がその日の仕事を終え、日当をもらっていると、主人から、この写真はお前ではないかと言われ、差し出された写真を観てみると、確かに時分が写っている。

何事かと警戒して聞くと、心配せずとも良い、仕事の依頼だと言って、地図を描いた紙を渡される。

男は、子供を連れて、その地図に書かれた場所にやって来る。

とにかく、新しい仕事が得られたので嬉しいのだ。

ところが、目的地に着いてみると、そこは正に見捨てられた炭坑町であり、立ち並ぶ家はどこも無人であった。

不審に思い、一件だけ開いている駄菓子屋で、もらって来た地図を見せて道を尋ねるが、そこで一人暮らししているらしき女(佐々木すみ江)も、ここは、炭坑が閉山してからは、陥落の危険があると噂が立ち、皆引っ越してしまったと言う。

自分も、これでは商売にならないのだが…と言いながらも、地図の場所はやはりこの辺りだろうとしか分からない様子。

その間、駄菓子屋の店先で、キャラメルの箱を見つめていた子供は、父親が店を離れた瞬間、商品を万引きしようとしたので、男は叱りつけ、落ちた商品を一旦元に戻そうとするが、思い返し、金を置いて、持って行く事にする。

その後も、町外れの道を当て所もなく歩いていた男だったが、気が付くと、白い上下に白帽子の男が後を付けて来る。

実は、その白服の男(田中邦衛)先ほどからずっと、目的地を捜しまわっている男の様子を影ながら観察していたのだった。

男は、白手袋をはめたその白服の男を不気味に感じ、足を速めるが、その男も急ぎ足になる。

そうして、沼の近くに思わず逃げ込んだ男の後を追って来た白服の男はナイフを出すと、何も言わずに、男に突きかかって来る。

その男の悲鳴を駄菓子屋の女は聞き、表に出て様子を観る。

腹にナイフを刺されながらも、必死に逃げようとした男だったが、さらに執拗に首筋や頭を刺され、男は倒れ伏す。

そうした一連の様子を、子供は草むらの中で見守っていた。

男が動かなくなったのを見届けた白服の男は、凶器のナイフを沼に捨てると、死んだ男の側に近づき、そのズボンのポケットから、目的地を記した地図を取り出すと持って帰る。

駄菓子屋にやって来た白服の男は、震えて後ろを向いたままの女に、白服の男は「奥さん、観ましたね」と言いながら、懐から札束を抜き出すと、枚数を勘定して、かなりの金額を土間に置いてから、一つ協力してもらいたいと言い出す。

警察に届け、こう言って欲しいと言うのだ。

犯人は坑夫仲間のようで地下足袋をはいていた。

沼にナイフを捨てた後、北に逃げて行った。

顔は丸顔で、右耳の上に丸い禿があった。

年は、35、6くらい…と言いながら、男は自分がはいていた地下足袋を鞄に詰め込んで、表に止めてあったスクーターに乗ると、そのまま立ち去ってしまう。

女は、そのスクーター音が聞こえなくなると、振り返り、土間に置いてあった札束を手に取る。

その頃、沼の横では、殺された男の霊が起き上がっていた。

男の霊は、傍らに自分の死体が横たわっているのを観て、自分がもう生きてはいない事は分かったが、分からないのは、何故、自分が殺されたのかと言う事、さっぱり見当すら突かなかったのだ。

住宅地に戻ると、奇妙な事に、大勢の人間がいる。

白手袋の男を見なかったか?と声をかけても、誰も返事をしてくれない。

駄菓子屋の女を訪ねてみると、女は、ドロップの缶に詰めた落花生の中から札束を取り出していたが、何を聞いても聞こえていない様子。

男は、ようやく自分が死んでしまった為、姿も声も通じないのだろうと悟り、切なくなる。

自分の死体の元に戻ると、息子が、自分の死体の側に近づき、そのポケットから、先ほど駄菓子屋で金を払ったキャラメルを取り出しているようだ。

それは、金を払っているから大丈夫だと声をかけるが、もちろん、息子に聞こえるはずはない。

駄菓子屋の女は、着替えると、出かけるようだったので、男の霊はその後を憑いて行く。

その間、少年は、無人となった駄菓子屋の店先から菓子を盗む。

近くの駐在所にやって来た女は、白服の男から言われた通り、虚偽の証言をする。

それを聞いていた男の霊は、何故、そんな嘘をつくのかと女に問いかけるが、もちろん聞こえるはずもない。

死体の元に戻った少年は、取って来た菓子を死体の頭の近くに置く。

やがて、地元巡査(観世栄夫)から連絡を受けた刑事たちが現場に到着し、死体の検分を始めるが、男の霊も一緒にそれを観ている。

事件を嗅ぎ付けた地元の西国新報の記者もやって来て、運び出される死体の顔写真を撮っている。

そんな中、男の霊は、突然現れたヘルメット姿の男(島田屯)に声をかけられる。

首が傾いているその男、落盤事故でやられたのだと言う。

死ぬ前飯は喰ったかと聞いて来るので、喰っていないと男が答えると、死んでしまうと、死んだ時の状態のままだから、今後未来永劫腹が空いているぞと言われた上、死んでしまったのに、まだ生者の事を気にしても仕方がないので、あっちに一緒に行こうと誘われるが、男は、真実が知りたい、殺された訳が分からなければ、死んでも死にきれんと答える。

ヘルメットの男の霊は、死にたての奴は皆そう言うが、知れば知る程苦しみが増すばかりだと警告するが、男の霊は耳を貸さず、新聞記者の方へ行ってしまう。

男の死体を乗せた救急車が走り去ると、それまで、草陰で鑑識の様子を覗いていた少年が後を追って走る。

死体の顔写真を撮ったカメラマン(金内喜久夫)は、今のは平川炭坑の第二組合長だったと言い出す。

現場に立ち会っていた駄菓子屋の女が、家も引っ越さなければ‥と呟くと、巡査も、犯人が復讐に来るかも知れないので、これからマメに巡回するようにしてやると慰める。

カメラマンから話を聞いた西国新報の記者(佐藤慶)は、すぐさま、第二組合長大塚の事を問い合わせようと 平川炭坑に電話を入れると、出て来た本人が大塚だと言う。

大塚は生きていると記者が怒ると、カメラマンはそんなはずはないと、昔撮った大塚の写真と今日撮った死体の顔を記者に見せる。

見比べてみると、確かに同一人物にしか見えない。

その頃、駄菓子屋の女は、こんな所は女が一人で住む所じゃないと言いながら、引っ越しの荷物をまとめていた。

隠していた金をバッグに入れようとした所に、先程の巡査がやって来て、あんたは重要な証人だと言いながら、妙な目つきで女の身体に手をかけて来る。

平川炭坑に来た記者とカメラマンは、大塚(井川比佐志-二役)本人とその仲間(袋正)に出会う。

一緒について来ていた男の霊は、その炭坑の大きさに感心していた。

記者から、殺された男の写真を見せられた大塚は、それが自分そっくりな事に驚く。

事件現場が、高岡鉱山の炭坑跡で、犯行時刻は今朝7〜8時の間だと聞くと、大塚は、今朝8時過ぎにそこを通る予定だったが、急遽、予定が中止になったのだと打ち明ける。

どうやら、殺された男は、大塚と間違えられて殺された公算が高い事が分かる。

大塚は、第二組合と第一組合が、現在険悪な状況になっていると記者に説明する。

元々あった第一組合のメンバーの中から、人員整理を目論む会社側と交渉する上で、やむなく分派した第二組合だったが、第一側からすれば、会社の手先になった裏切者と思っているらしいと言う。

記者から、犯人の特長として分かっている、右耳の上に禿のある男と聞かされた大塚は、それは第一組合長の遠山の特長だが、彼が殺し等やるだろうかと不審顔。

しかし、記者は、目撃者もいるし、これで、計画通りに第一組合は潰される事になるだろうと答えるが、計画通りとは?と大塚が聞き返すと、記者は、そんな事は言っていないと否定して帰る。

仲間と二人きりになった大塚は、今の記者は明らかに私の事を疑っていたし、警察も疑うだろうと心配しはじめる。

どう考えても、今回の事件で得をするのは自分達のように思えるからだ。

その頃、駄菓子屋の外から、板壁の節穴越しに、少年が室内の様子を見つめていた。

室内では、女と巡査が抱き合っていた。

そこに、突然、人がやって来た気配がしたので、慌てて巡査が隠れると、玄関に入って来たのは、白服の殺し屋だった。

一方、平川新鉱事務所に電話を入れた大塚は、第一組合長の遠山(矢野宣)を呼出すが、電話に出た遠山は、裏切者と思い込んでいる大塚からの電話に最初から不審そうだった。

大塚は事件の事を話し、間もなく新聞記者がそちらに来ると思うが、目撃者があるらしいので、そこで会って話し合わないかと持ちかける。

自分にはアリバイがあると最初は相手にしなかった遠山だが、目撃者の話を聞くと気持ちがぐらつき、大塚と会ってみる事にする。

そこへ記者たちがやって来たので、遠山は裏から逃げ出す。

駄菓子屋からは、巡査が逃げ出していた。

少年は、ぼた山を観ながら一人で寝そべっていた。

そこに郵便屋が来て、女がかねがね待っていた葉書を置いて行くが、それを取ろうとした女は、どうした訳かその葉書がつかめない事に気づく。

室内には、女の死体があった。

手紙を掴もうとしていたのは、その女の霊だったのだ。

第一組合長は、打合せの駄菓子屋に向っていたが、先に着いていた大塚は、駄菓子屋の中で死んでいる女の死体を発見していた。

その大塚に、外から少年が「父ちゃん」と呼び掛けたので、話を聞こうと呼び寄せるが、警戒した少年は逃げて行ってしまう。

その後、駄菓子屋にやって来た遠山は、窓から中を覗き、そこに女の死体とその側にいる大塚の姿を発見する。

店から出て来た大塚に、「観たぞ!」と詰め寄る遠山。

驚いた遠山は、俺がやったんじゃないと反論するが、そこにやって来た男の霊は、女の霊から、自分を殺したのはあの男たちではなく、川の鞄を持った白手袋の男だったと打ち明ける。

何故、巡査に嘘の証言をしたと、男の霊が聞くと、女の霊は、恥ずかしそうに、金が欲しかったからと答える。

白手袋の殺し屋は、自分を殺して、金を取り戻して行ったとも。

男の霊の方は、まだ釈然としなかった。一体、俺を殺して、誰が得をするのかと。

大塚と遠山は、何時の間にか喧嘩をはじめていた。

沼の方で掴み合いになった二人は、やがて、沼の中に入り込み、とうとう、大塚が遠山を沈めて殺してしまった上、自分も沼から這い上がって来た後、泥の中に倒れて死んでしまう。

それを、近くの道から観察していた白服の男は、腕時計を確認し、「5時15分」と手帳に記入する。

その側に来た男の霊は、あんた誰だ?一体誰の味方なんだと問いかけるが、聞こえるはずもない白服の男は「正確だ」と呟いた後、スクーターに跨がり立ち去ってしまう。

女の霊は、その後をどこまでも追って行くが、男の霊は、空腹を感じていた。

泥の中から起き上がった大塚の霊は、しまったと沼の方を振り返ると、そこには遠山の霊も立ち上がっており、やがて二つとも消えてしまう。

近くのぼた山には、数頭の野犬が集まっていた。

少年は、無人となった駄菓子屋から、ありったけの駄菓子を盗んで、持っていた鞄に詰め込むと、無人の住宅街を駆け抜けて行くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

安部公房自らが、テレビ部門の芸術祭奨励賞を受賞した「煉獄」を脚本化したもので、勅使河原プロダクション第一回作品。

冒頭部分は、一見、社会派犯罪ドラマのような展開で始まるが、途中から、殺された男の霊が登場し、自らを殺した犯人とその動機探しを始める…と言う、奇妙な不条理劇になって行く。

霊はたくさん出て来るが、別にホラーではなく、犯人探しの要素はあるがミステリでもない。

あくまでも、シュールな不条理世界なのである。

何役も演じる井川比佐志と、駄菓子屋の女を演じる佐々木すみ江の存在感が素晴らしい。

彼ら以外の出演者も、皆、妙なリアリティがあるのだけれど、そのリアリティが、不可思議な物語をしっかり支えている。

正体不明の男を演じる田中邦衛の独特なキャラクターも印象的。

「砂の女」(1964)と並び、地味ながらも、奇妙な魅力に満ちあふれた独特の作品である。