1969年、松竹大船、広瀬襄脚本、斉藤耕一脚本+監督作品。
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田代信子(尾崎奈々)と悦子(早瀬久美)は姉妹である。
けん玉を持った妹の方はまだ幼く見えるが、姉の信子の方は、時々山に行って、物思いに耽る事が多かった。
そんな信子と、清水たち5人組は、同じ学園の演劇部仲間だった。
信子が、シェークスピア劇の姫を演じている時、清水たちは、舞台裏で効果用の煙を焚いていたが、その煙りがけむくて涙を流しはじめる観客の様子を、感動していると勘違いする程度のお粗末さだった。
それでも、その舞台は学園内で大成功を収め、その思い出を胸に、信子と五人の仲間は、卒業後も互いの友情を大切にしていこうと誓いあうのだった。
卒業して一年後、五人組はヒゲをはやし、長髪になって「ベッガーズ」というGSとして、舞台に上がるようになっていた。
一方、彼らのアイドル的存在だった信子の方は、CFタレントになっていたが、実際にやっているのは、監督(白木みのる)にしごかれながら、怪獣の着ぐるみに入ったりする、裏方的仕事が多かった。
父親が長らく不在中の田代家で、そんな娘の行末を心配した母親(福田妙子)は、彼女に見合いをするよう勧めるが、その見合いの当日、見合いの現場にいきなり乱入して来て来たベッガーズのメンバーが、信子と以前、ラーメンの食い逃げをした等とでまかせの世間話などをぶちまけ、呆れる見合い相手(佐藤蛾次郎)の前から、信子を連れ出すと、そのまま、横浜ドリームランドに遊びに出かける。
もちろん、見合いに乗り気ではない信子の計略だったのだ。
その頃、一人の青年純(藤岡弘、)が、線路を歩いて上京して来る。
彼は、漫画家志望の22才の清純な青年だった。
彼が描くマンガは、田舎から上京して来た実在の少女をモデルにして描いた「のっぽのノンコ」と言うもので、叙情的ではあるが、持ち込んだ「コミックパンチ」の編集長(柳沢真一)は、一目見るなり、今流行りのエロやナンセンス、バイオレンス表現がないこんなものは時代錯誤で売れないと、にべもなく追い返してしまう。
しょんぼり帰る純を追い掛けて来たのは、その編集部で話を聞いていた編集者の高木亜紀(香山美子)だった。
彼女は、今の世の中では、こんな純情な内容では売れないけど、絵には魅力があるので、毒を持って毒を制すの精神で、自分があれこれ今風のアイデアを考えるので、一緒に組んで仕事をしてみないかと持ちかけて来る。
しかし、純は、自分は本当の事しかつまらないと思う。しまも、生まれてこの方、人を憎んだ事がないので、暴力表現等も描く気がしないと乗って来ない。
亜紀は、そんな純が描くのっぽのノンコの事を問いただすと、2年以上会っていないが、確か東京にいるはずで、今CMの仕事をしているらしいのだが、まだ、その仕事振りは実際に観た事ないのだと言う。
今、生活はどうしているのと亜紀が心配すると、ペンキ屋で働いていると純は答える。
そんな純が煙突のペンキ塗りの仕事中だったある日、下にいた親方の秋山(中村是好)から声をかけられたので、何気なく下を見ると、近くの道を、あれほど捜しまわっていたノンコが歩いているではないか!
驚いて、地上に落ち、そのまま急いでその後を追って声をかけた純だったが、人違いである事が分かる。
声をかけられたのは悦子だった。
悦子は、純の謝罪の言葉を聞く内に、それは自分の姉の信子の事ではないかと言う。
信子もノンコと呼ばれていると言うのだ。
しかし、ノンコに妹等いなかったはずと、純は首をかしげるのだった。
その純との出会いを、後日、ベッガーズの面々に話した悦子は、その純と会ってみた姉の様子がおかしくなったのだと相談する。
純の事に興味を持った信子が、彼が仕事をしている現場に出向いてみると、自分に似たマンガを壁に描き、それをその後、塗りつぶしている。
純は、そんな信子の事を、ノンコと親しげに呼び掛けて来るが、信子に心当たりは全くなかった。
その後、殺虫剤のCFの仕事で、又しても着ぐるみに入っていた信子の仕事現場に現れた純は、撮影中だったにもかかわらず、何度もNGを連発している彼女に駆け寄って来て、こんな仕事は辞めろと忠告するので、そのおせっかい振りに信子は怒ってしまう。
又、デパートの美容セールスのモデルをやっていた時も、純が邪魔をしに来たので、怒った信子は逃げ出してしまい、販売員(山本リンダ)がつけようとしていたクリームが純の顔についてしまう有り様。
とうとう、純のストーカー行為に切れた信子が交番に駆け込むと、純もやって来て、ノンコは2年前から記憶喪失だと弁解するので、聞いていた警官二人(獅子てんや、瀬戸わんや)も、恋人同士の痴話げんかと思い込み大混乱。
純は、ノンコの2年前の12月14日までの事だったら、自分の方が良く知っている、真っ赤に染まった紅葉の中を歩いていた彼女の姿も鮮明に覚えているとのだと言い張る。
その日、帰宅して来た信子は、そんな純の話を聞かされ、頭が混乱状態のままだったので、まだ懲りずに、見合い写真を見せようとする母親を嫌って、自室に引きこもってしまう。
そんな姉を心配した悦子が入って来ると、信子は、2年前の12月14日、自分は何をしていたのだろう、日記にもその日だけ記述がないと悩んでいる様子なので、その日だったら、熱が出て寝込んでいた日ではないかと教える。
しかし、納得できない信子は、とうとう精神科医に相談に行くが、それは、一部GSの音楽で失神する人と同じように、非人間的な仕事をやっている人等に多い、自律神経過敏症というものだと診断される。
そんな信子の事を悦子から聞かされていたベッガーズは、学園生活を一緒に過ごした自分達の言葉なら信じるだろうから、学園時代の事を話してやれば良いと考えるが、良く思い出してみると、信子が転校して来たのは2年前の事で、それ以前の事は、彼らも良く知らない事に気づく。
取りあえず、いつものように、ノンコのマンガを描いている壁塗りをしていた純の元にやって来た悦子とベッガーズは、自分達は信子の事は幼稚園頃から良く知っていると嘘を言い、いたずら半分に、自分達もそのノンコに色づけしはじめ、純を怒らせてしまうのだった。
その夜、今まで描き溜めて来たノンコのマンガを、たき火で燃やしていた純の元にやって来たのは亜紀だった。
純が、ノンコなんかいなかった、あれは人違いだったと言うのを聞いた亜紀は、はじめて観た時から、純のマンガには何か惹き付けられるものを感じたので、原稿を自分に預からせて欲しいと伝える。
その頃、コミックパンチの会社では、返本が大量に帰って来、エロやアクションだけで売っていた編集長は頭を抱えていた。
他の編集者たちは、これからは純愛ものなどが良いのではないかと提案するが、コミックパンチのお抱えマンガ家たちには、そのようなものが描ける人材は一人もいなかった。
そこに現れたのが、純を連れて来た亜紀だった。
秋は、純が描くものは全て実話がベースになっているので、実話マンガとして売ったらどうかと提案し、編集長も乗り気になる。
かくして、純のマンガは、コミックパンチに載る事になる。
そのマンガを秘かに買って来て、自室で読んで不機嫌になっていたのは信子だった。
そんなふさぎ込んだ信子の元にやって来た悦子は、ベッガーズの二本松たちが今度、ピクニックに行こうと誘って来たと教える。
信子と悦子、そしてベッガーズの5人は、サイクリングで海の側の山裾にやって来るが、休憩している時、悦子は、ベッガーズの5人が、誰かに似ていると言い出す。
そんな中、水を汲みに行ったはずの信子がなかなか戻って来ないのを心配したベッガーズは、彼女を捜しに行くが、紅葉の下でぼんやりしている彼女を発見する。
その後、又、CF撮りしていた信子の元にやって来た純は、あの5人組は何なのだと怒るのだった。
そうした5人を相手に、純が戦う様子を描いたマンガで読んでいた編集長は、内容の変化に喜ぶと共に、今後、5人組が復讐に来るのではないかと無責任な予想をする。
一方、そんな暴力的な作風に変わって来た純の事を、亜紀は心配して、これは本当の事を描いているのかと純に尋ねると、やがて、こうなるはずだと、純も答える。
その言葉通り、その直後、電話で呼出されてホテルに向った編集長や亜紀は、ベッガーズたちから、こんな自分達をモデルにしたようなものを載せられては困ると抗議を受けてしまう。
主人公になっている女性等、ノイローゼ状態になっておるのだと言われた編集長は、せっかく、又、雑誌が売れはじめただけに頭を抱えるが、亜紀はめげずに、あなたたちは個性が有り過ぎて、マンガになりやすいのだと反論する。
それを側で聞いていた悦子も、その亜紀の言葉に賛成し、ベッガーズたちの風体は不潔すぎるので、この際、綺麗さっぱり、ホテル内の理髪店でヒゲと長髪を切ってもらった方が良いと言い出す。
何となく、その言葉に従う事にした5人組、さっそく、綺麗になって戻って来るが、それを観た悦子は、あなたたちが誰に似ているのか、今、分かった、ヴィレッジ・シンガーズだと叫ぶ。
その5人組、今夜、信子を慰めるパーティをしようと言う悦子の提案に賛成するが、その直後、そのホテルの支配人らしき人物から、有無を言わさず楽屋に連れ込まれてしまう。
その日、たまたま、そのホテルでショーが予定されていたヴィレッジ・シンガーズと間違われたのだ。
その頃、遅刻して車でホテルに向っていた本物のヴィレッジ・シンガーズは、到着したホテルで、偶然、一人になっていた悦子から、ベッガーズと間違われ、そのまま田代家に連れて行かれる事になる。
訳が分からないながら、ヴィレッジ・シンガーズの面々は、成りゆきに任せて信子のパーティに参加するが、信子が話す、先日のピクニックの話について行けない彼らが、正直に、自分達はそんな事をやった記憶はないと答えると、信子は又しても混乱し、頭痛がすると言って自室に戻ると、心配して入って来た悦子に、あのペンキ屋の小憎に言われた事が本当になって行くと、不安げに呟くのだった。
一方、ヴィレッジ・シンガーズに間違われたベッガーズの方は、客の前で、自分達のいつもの曲を演奏していたが、それに不審を抱いたマネージャー(佐々木梨里)から追い出されてしまう。
そんな間抜けなベッガーズの様子をマンガで描いていた純は、亜紀に対し、もう、これ以上、描きないと弱気の発言をするようになる。
心にもない事を描いたと言う純に対し、亜紀はただ慰めるだけだった。
そんな純が、いつのものように壁塗りをやっていると、やって来た信子が、自分達の過去を話してくれと言い出す。
その真剣そうな視線を感じた純は、自分達が育って来た山奥の故郷について、詳細に語るのだった。
子供時代から同じ村で育ち、冬はかまくらの中で遊び、美しい田園風景の中で一緒にいた様子を詳細に話す純の言葉を聞いている内に、信子は、忘れていた何かを思い出したような気持ちになって行く。
しかし、純の方は、信子に昔を思い出してもらいたい反面、今は幸せに暮している彼女を、自分の世界に引き込んでしまう事への疑問も感じていた。
しかし、純と別れた後の信子は、何かスッキリした気分で並木道を帰るのだった。
その頃、マネージャーの元にやって来た本物のヴィレッジ・シンガーズの面々は、又偽者ではないのかと疑われたので、「虹の中のレモン」をマネージャーに歌って聞かせていた。
一方、田代家では、最近出歩いてばかりいる信子の事を母親や悦子が心配していた。
信子は、純と一緒に、ペンキ塗りの仕事を手伝うようになっていた。
壁だけではなく、ポストや、車、ゴミ箱、古い校舎、銅像や公衆電話ボックス…、とにかく、町中にあるものを真っ白なペンキで塗りつぶしてしまい、二人はすっかり御機嫌になってしまう。
ようやく、互いの気持ちが打ち解けたと感じた時、信子は、どうしてノンコが記憶喪失になったのか尋ねてみる。
純が言うには、木を切り出していた自分の所に、弁当を届けに来た時、倒れて来た木に跳ね飛ばされ、崖下に落ちて、それ以来だと言う。
その後、純の部屋にはじめて行った信子は、何かに思い悩んでいるようだった。
すぐに、彼女が混乱していると事情を察した純は、頭痛薬を渡してやり、今まで話して来たのは、君の事ではないのだと説得するのだった。
その後、秋山ペンキ店から帰りかけていた信子は、たまたま尋ねて来た亜紀と出会う。
互いに自己紹介する時、信子は自分の事を「のっぽのノンコです」と言って帰る。
自分から、ノンコだと認めた信子の事を見送った亜紀は、これから本当のマンガが描けそうねと、純を励ます一方、信子の方は、これから5人の事で悩む事になるだろうと予測するのだった。
その後、信子は、ベッガーズの面々と一人づつデートをしては、今度の自分のバースディパーティに絶対来てくれと念を押す。
やがて、そのバースディパーティの当日、約束通りやって来たベッガーズの5人組は、彼女にプレゼントだと言い、学生の演劇部時代に彼女が着ていた王女の衣装を贈る。
暗闇の中で、その衣装に着替えさせられた彼女は、感謝の言葉を返すと同時に、皆さんとは今日でお別れだと、意外な告白を始める。
今から自分は、生きて行く手ごたえを捜す為に旅に出ると言うのだ。
それを聞いた悦子は、純の事が好きになったのだと見抜く。
信子は、このままの生活を続けていると、少しづつ自分が死んでしまうようだと打ち明け、ベッガーズの連中が演奏を始めると、自室に戻り、赤い服に着替えると、そのまま、そっと裏口から家を抜け出すのだった。
やがて、純と二人で列車に乗り込んだ信子は、彼の故郷へと向う。
彼に導かれ、山奥深くに入り込む信子。
行けども行けども、目的地には到達しないので、急に不安感に襲われた信子だったが、純の方は嬉しそうに、さらに山奥へと彼女を導いて行く。
やがて、ようやく、純が言う故郷へとたどり着いた信子が観たものは、何もない岩場だった。
そこには、純が言うような村等、元々なかったのだ。
その時、信子は初めて悟る。
純こそ、記憶喪失だったのだ。
何もない山奥に二人きりになった信子は、今後どうすれば良いのか分からなくなってしまう。
呆然として、ただ、信子に謝るだけの純。
コミックパンチの雑誌には、落葉の中に埋まって二人揃って、地面に横たわっている姿が描かれている。
それを、亜紀から見せられていたベッガーズたちは、この二人は、眠っているのか、死んでいるのか分からないと迷う。
しかし、亜紀は、あなたたちにも、そう言う所に行ってみたい事があるでしょうと、問いかけるのだった。
翌日、山の中で起きた信子は、私の家を捜すのよ、なければ自分達の手で作れば良いじゃないと言い出し、純を誘って霧の中に入って行く。
その頃、田代家から出て来たベッガーズの5人は、何だか変な気持ちに襲われていた。
それは、失恋なのかも知れなかった。
彼らはただ、歌い続けるだけだった…。
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GS(グループサウンズ)の一つ、ヴィレッジ・シンガーズ主演のアイドル音楽映画。
一見、単純な青春もののような雰囲気で始まりながら、やがて不条理な世界に入り込んで行く、不思議な世界になっている。
決して、ファンタジーと言う訳ではないが、幻想味が加わった異色の作風である事は確か。
まだ可愛らしい藤岡弘、が演じているマンガ家は、何だか、永島慎二描く「黄色い涙」に出て来る人物のようだし、CFタレント、実はスーツアクトレス(?)のような仕事をしているヒロインは、松竹の怪獣ギララや、何故か「ウルトラセブン」のダリーなどが登場している所が時代を感じさせる。
宇宙空間を飛ぶアストロボート等も出て来るし、劇中に登場する「コミックパンチ」の表紙画を描いているのは、明らかにモンキー・パンチであったりと、特撮ファン、コミックファンにとっては、意外な発見がある作品にもなっている。
七三分けの佐藤蛾次郎は愉快だが、香山美子が、この手のアイドル映画にさり気なく出ているのも意外な発見だった。
この後、テレビの青春ものなどでも人気者になって行く、妹役の早瀬久美に対し、姉でヒロイン役の尾崎奈々の方は、可愛いながらも、ちょっと微妙に個性(クセ)のある顔だちなので、観る人によって、好き嫌いがはっきり分かれるタイプではないだろうか。
「亜麻色の髪の乙女」をはじめ、ヴィレッジ・シンガーズのヒット曲はたくさん出て来るし、ゲスト的に、オックスも登場して「スワンの涙」などを歌っているのも貴重で、音楽映画としても、何を作っても、泥臭さが付きまとって、今一つ弾けにくい作品が多かった当時の松竹作品としては、割と楽しく出来ている方だと思う。
清潔なイメージが売りだったヴィレッジ・シンガーズが、全く逆の、薄汚いスタイルのグループに扮しているアイデアなども面白い。
