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紫右京之介 逆一文字斬り

1964年、東映京都、南条範夫原作、高田宏治脚本、長谷川安人監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

江戸の雑踏の中、「スリだ!」との声が響く。

逃げるそのスリに足払いを食わし、転ばせたのは一人の若侍だった。

そのスリを近くにいた岡っ引に渡し、金を取り戻した商人風の男(多々良純)は、手助けしてもらった若侍に礼の気持ちとして金を渡そうとするが、侍は遠慮する。

そんな姿を近くで観察するもう一人の侍。

父、瀬名伝右衛門の墓を参っていたのは、さきほどの若侍、紫右京之介だった(大川橋蔵)だった。

右京之介は、酒井雅楽頭 (小沢栄太郎)の不正を暴こうとして、逆に無実の罪をかぶせられ、無念のまま切腹させられた父親の事を思い出し、その復讐を誓うのだった。

その右京之介が立ち去った後、同じ墓に近づいたのは、右京之介を父親の仇と追う隻腕の細見剣之助(内田良平)であった。

連れて来た弟、島田左兵衛(金子信雄)を今回の甲斐信濃路巡察使に推挙して欲しいと、酒井雅楽頭に頼んでいたのは、兄の島田荘五郎(稲葉義男)。

それに対し、酒井は、大老への推挙は間違いないなと、荘五郎に金を渡して返す。

大量の小判を持ったまま、帰宅の駕篭に揺られていた荘五郎だったが、何時の間にか、駕篭が止まってしまい、降りてみると、駕篭かきらが誰もいなくなっているのに気づく。

その前に現れ、巡察使になったか?と尋ねて来たのは紫右京之介。

そこは、その巡察使に選ばれたばかりに殺された瀬名伝右衛門の墓の近くである事を知った荘五郎(はおびえるが、何故、父は殺された?と迫る右京之介に対し、大老の 命令だったと答える荘五郎。

詳しい事は、瀬名伝右衛門巡察覚書に記されているはずだと言うので、それは誰が持っていると問うと、今、大老に会っているはずの左兵衛に聞いてくれと言いながら、刀を抜いて来たので、右京之介はその場で斬り捨てる。

その左兵衛は、酒井に賄の小判を渡していた。

酒井が、兄のように大番番頭になりたいかと問いかけると、甲斐信濃美濃路は、瀬名伝右衛門巡察覚書を手にしている大老にとって金倉のはずと嘯く左兵衛は、巡察士は自分が立派に勤めて来ると約束する。

酒井は、巡察士の選定は、明日、お城で節供の祝いの後、上様の裁定すると伝えるのみだった。

左兵衛が去った後、酒井は隣室に控えていた山内主計(沢村宗之助)と新庄長門(徳大寺伸)に、巡察士を任せると伝えるのだった。

酒井の屋敷から出て帰宅途中だった左兵衛は、隻眼の侍次郎丸(曽根晴美)に襲われる。

その場に現れ、左兵衛のピンチを救ったのは、右京之介だった。

奇しくも瀬名伝右衛門の墓の側で、左兵衛の右腕の怪我の傷を手当てしながら、瀬名伝右衛門巡察覚書の在り処を尋ねる右京之介に、左兵衛は江戸屋敷のどこかとしか知らないようだった。

そこへ手裏剣が飛んで来て、次郎丸の仲間たちが襲いかかって来る。

右京之介が戦っている間、その場を逃げ出した左兵衛は、大目付松平将監(北村和夫)の屋敷に助けを求めていた。

一方、捕り手たちの呼子から逃れる為、とある屋敷の庭に身を顰めた右京之介は、その家の主人と思われる女性から呼び止められ、その姿格好から、江戸の人間ではないと見破られた上、部屋の中に招き入れられる。

その頃、松平将監の部屋に案内されていた左兵衛は、酒井に裏切られたと事の次第を打ち明けていた。

女主人から、返り血を浴びた着物の着替えとして小袖を拝借した右京之介は、酒の相手をしてくれとねだる相手に、自分は秩父から来た者だとだけ名乗り、この場を去ろうとすると、相手は、必ずその小袖は返してくれよと、言外に再会を願うのだった。

その頃、江戸屋敷にいた細身剣之助の元に、次郎丸が右京介襲撃に失敗した事を報告していた。

翌日、城中では、桃の節句が賑々しく執り行なわれており、酒井は、白の珊瑚と赤の珊瑚に天竺の白珠を飾った置き物を、静月院(藤代佳子)や阿波局(久我恵子)に贈っていた。

その後、大老酒井は、八道八組の巡察使が内定したと、家臣たちに発表するが、それを聞いた松平将監が、一両日待って欲しいと願い出る。

帰宅した酒井は、松平が堅物の推挙等しなければ良いがと案じながら、山内と新庄に細見を紹介する。

次郎丸は、まだ右京之介の行方をつかめないと細見に報告しに来るが、その後、倉に入った細見は、そこに保管されていた瀬名伝右衛門巡察覚書を読み返していた。

一方、何時の間にか、寝所に小袖が返してある事を発見したかの女性、実は、上様亡き後、誰からも顧みられなくなった紫苑局(渡辺美佐子)だったのだが、女のプライドを傷つけられ憤慨していた。

その後、すぐさま酒井の屋敷に出向いた彼女は、坂井に面談を申込むが、別室で待たされている間に、庭から忍んで来たのは、あの時の小袖を貸した右京之介だった。

屋敷に忍び入る機会をうかがっていた右京之介は、紫苑局の送迎のドサクサに紛れて庭に入り込んでいたのだった。

酒井は、昔の夢をまだ追っている紫苑局と会う気はなかったので、そのまま放っておいたが、その間に、その自分が待望を抱いていると打ち明けた右京之紹介から、雅楽頭(うたのかみ)の部屋を知りたいと尋ねられた紫苑局は、素直にある部屋を教えてやるのだった。

教えられた部屋に入った右京之介は、そこで寝ているのが、酒井の娘、時姫(宮園純子)である事を知り、寝覚めた彼女が父親の身分に名を借りた虚勢を張ったので、その襦袢の肩部分を少し脱がすと、町人、農民の娘とどこが違うと叱りつけ、立ち去るのだった。

そこへ駆け付けて来て、気絶した娘を発見し、狼狽する酒井の姿をあざ笑うように、少し遅れて来た紫苑局が操を弄ばれた女の意地だとほくそ笑む。

それは、昔、付き合った彼女の進言によって、国持ち大名から大老になった酒井への大いなる皮肉だった。

一方、酒井の自室に入り込んだ右京之介は、瀬名伝右衛門巡察覚書を探していたが、それが見つからぬ内に、気絶した娘を抱えた酒井本人が戻って来てしまう。

倉の方に逃げた右京之介は、倉の中に潜んでいた細見から斬り掛かられ、肩に負傷してしまう。

細見は、瀬名伝右衛門に近づいた自分の姉は、賄賂として追い返された為、恥をかかされ死を選んだので、仇だと右京之介に迫る。

右京之介は、探し求めていた瀬名伝右衛門巡察覚書を、細見が保管している事もその時知る事になる。

そこへ酒井も駆け付けて来て、右京之介は窮地に陥るが、そこに松平将監がやって来たので、狼狽する酒井らの間隙をぬって右京之介は屋敷を脱出する。

松平将監は、巡察使に島田左兵衛を選んだと知らせに来たのだった。

それを聞いた酒井は、正気かと疑う。

一方、右京之介は、秩父から上京して来た伍平(大坂史郎)と紅(岸本数子)と再会する。

紅は、父親を右京之介に斬られた娘だったが、父親に何か落ち度があったのだろうと、右京之介を慕って来たのだった。

しかし、右京之介は、その内、必ず帰って来ると言い残して、その場を去るのだった。

酒井は、右京之介を捕まえたと言う松平将監の言葉を信用していなかった。

そして細見に、巡察使として出発する山内や新庄に、仕事を任せるなと念を押すのだった。

その頃、松平将監の屋敷に匿われた右京之介は、酒井は瀬名伝右衛門巡察覚書を巡察使に持たせるはずであり、あえて、自分が島田左兵衛を巡察使に選んだ意味は分かっているなと確認していた。

大老の陰謀を暴く事は、独り、右京之介の私怨を晴らすだけではない事も。

そして、すでに、出立した山内、新庄、島田、細見たち巡察使の後を追うよう、右京之介に命ずるのだった。

地域の正確な収穫情報が記された瀬名伝右衛門巡察覚書を持っている細見は、もっと今の献上金よりも多くの金額が搾り取れるはずだと、旅行気分を楽しんでいるだけの無能な山内らにハッパをかけていた。

同じ地域にある旅籠「鍵屋」にやって来たのは、何時しか江戸でスリ騒ぎに巻き込まれた商人風の男、天満屋才兵衛。

何気なく、宿の主人から、地元の作柄の様子等を聞き出していたが、そこに帰って来たのが、同じ宿に、伍平、紅と共に宿泊していた右京之介で、こそこそ部屋に向う天満屋の素性を主人に尋ねると、大阪から来た紙問屋の主人らしいと言う。

翌日も、村の様子を探っているような天満屋を付けていた右京之介は、和紙を作っている店の前で、お前の本当の職業は何かと尋ねてみるが、天満屋は紙屋だと言って去って行く。

その後、その場を立ち去りかけた右京之介だったが、店の中から飛び出して来た娘勢津(三島ゆり子)に呼び止められる。

自分は、作左衛門の孫だが、その祖父が亡くなったので、今ここで働いているが、今まで自分は、あなたが自分の母親を殺した仇と思っていたが、実は、母は、瀬名伝右衛門を陥れる為の囮だった事が分かったと言う。

母は、諏訪藩重役の遠山内記(三島雅夫)加藤伊右衛門(加賀邦男)から瀬名の脇差しで殺され、瀬名は罪をかぶせられたのだとも。

事の真相が分かった右京之介は喜ぶが、勢津が続けるには、今、自分の友達とよ(西崎みち子)も、同じような目に会いかけていると言うではないか。

さっそく、そのとよの家に向った右京之介は、病床の母親(山田みつ子)の為に、種籾用の米を粥にしてしまった極貧状態のとよに会う。

聞けば、巡察使の世伽相手として、夜、本陣に来るよう命ぜられたのだと言う。

従えば米5升もらえるし、断われば、村を出ろと脅されているらしい。

実は、勢津も、同じように呼ばれていたのだった。

勢津が言うには、巡察使が来る度、同じような要求がされ、断わると、村の年貢を増やされてしまうのだと言うではないか。

その夜、山内の寝所に呼ばれた勢津が、押し倒されそうになった時、右京之介が現れて、山内に同じように、とよを抱こうとしていた新庄の部屋に案内させると、両名に、自分達が良家の娘に夜伽を命じたと言う証文をその場で書かされる事になる。

血判を押させたその証文を手にした右京之介は、このまま、何喰わぬ顔で巡察を続けろと、二人に命じて立ち去る。

そんなある日、加藤と落ち合っていた遠山は、互いに心せねばならぬなと戒めあっていた。

その遠山に会いに行った細見が宿に戻ってみると、何時の間にか、机に置いておいた瀬名伝右衛門巡察覚書が紛失しているではないか。

その瀬名伝右衛門巡察覚書を盗んで表に出た島田左兵衛の後を付けていた伍平は、勢津ととよを無事逃してやった右京之介と落ち合うと、左兵衛が遠山邸に入って行ったと教える。

遠山に対面した左兵衛は、諏訪三万石の実収高は10万石であり、今の献上金より2万両は上乗せできるはずだが、それをごまかす為に淀屋喜左衛門 (高松錦之助)を呼び寄せたのだろうと詰め寄っていた。

その実収高を記した瀬名伝右衛門巡察覚書を松平将監に売り付けようかと脅して来るので、その場にいた天満屋才兵衛は、今年の秋は大飢饉になる恐れがあるのだと報告する。

その部屋に乱入して来た右京之介は、その場で遠山内記を斬り捨て、瀬名伝右衛門巡察覚書を奪った伍平は外に逃げ出すが、そこで待っていた次郎丸一派に斬り掛かられ、覚書と手形を奪われてしまう。

伍平は、最後の力で、立ち去る次郎丸の背中に刀を投げ付けるが、右京之介が駆け付けて来た時には、覚書を奪われた事を言っただけで事切れてしまう。

その後、細見ら巡察使の本陣に向った右京之介だったが、すでに、全員出立したと言う。

遅れを取ったと悟った右京之介は、馬で後を追うが、杳として巡察使の行方はつかめなかった。

細見たちは、目的地を変更したのだ。

その後も懸命に情報を探る内に、一行は三島宿に向った事を知る。

その頃、細見は、失態を演じた左兵衛、山内、新庄を宿に残し、追って来る右京之介を斬れと命じて、自分だけ先に出立していた。

その頃、一人旅を続けていた紅が、先ぶれ(河村満和)の馬のひずめにかけられ怪我をしていた。

静月院の共として西に向っていた紫苑局は、その事故の事を侍女ゆう(立川ゆかり)から聞かされると、紅を看病してやるが、うなされた紅が口走る右京之介の名前に気づき、彼女が持っていた手紙を読んでみると、そこには、大目付松平将監宛てに右京之介が書いた、酒井の悪行の実態がつぶさに記されてあった。

紫苑局は、その文の最後に、自分の署名も付け加えると、急ぎ、早馬で手紙を送るよう、ゆうに命ずるのだった。

静月院は小田原に到着したと、酒井は報告を受ける。

三島宿で待ち受けていた左兵衛ら三人の元にやって来た右京之介は、斬り掛かって来た左兵衛を切り捨てると、血判状を返せと怯えながら迫る山内と新庄に、自分が左兵衛の代わりになるので、このまま旅を続けろと命ずるのだった。

折しも、表を通りかかった静月院一行の列に、紫苑局の姿を発見した右京之介は、後刻、彼女に呼出されて会うと、酒井が天領の伊豆に所替えをしようとしており、全財産を別邸に移し替えた事を教わる。

紫苑局は、紅が持っていた手紙を読んだ事情を話し、自分も恨み重なる酒井と刺し違えるつもりで協力すると申し出て来る。

彼女としては、何としても、酒井を失墜させる為に、覚書と手形を世間に公表したいのだ。

一方、その覚書と手形を細見から渡された酒井は、再び、その保管を細見にゆだね、これで、御三家を操れと言う。

そこまで、自分を買ってくれた酒井の言葉に感激する細見。

そこに、巡察使が到着したとの報。

細見が出迎えてみると、そこには山内と新庄の姿しかなく、左兵衛の事を問いただしても、何かに怯えたかのように、二人は口を開こうとしなかった。

その頃、酒井に部屋に忍び込んだ右京之介は、大老の職権を悪用しているお前の実態を暴いてやると迫るが、そこに細見が駆け付けて来て、二人は刃を抜く。

その隙を狙い、近くにあった短筒を取って右京之介を撃とうとした酒井だったが、気づいた右京之介に跳ね飛ばされる。

庭に出た細見は、右京之介の神変無双流逆一文字斬りで倒されてしまう。

おの細見が落とした覚書と手形を拾った右京之介は、ただちに江戸へ馬を走らせるが、その後を酒井の一味が後を追う。

しかし、途中で待ち受けていた松平将監の姿を発見した追っ手は、きびすを返して逃げ去ってしまう。

上様から、酒井の詮議をする許しを得た松平将監は、その足で酒井の別邸に向い、上意を突き付けるが、ちょうどそこに、静月院到着の知らせが重なり、酒井は運が尽きた事を悟るのだった。

その後、紅が待つ場所まで近づいた右京之介だったが、何故か、側にあった竹に切れ込みを作り、そこに手紙を差し込むと、そのまま立ち去ってしまう。

紅から松平将監に届けられたその手紙には、自分はまだ侍になる気はないので、このまま旅を続けるとあり、それを読んだ将監は、憎い奴め…とほくそ笑むのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「右京之介巡察記」(1963)の続編に当る作品のようで、この作品だけを観ていると、人間関係等が良く分からない部分があるのだが、当時の東映の時代劇は、大体、勧善懲悪の単純なストーリーが基本なので、細かい事を気にしなければ、おおまかな流れは理解できる。

無実の罪で切腹させられた父の恨みを晴らす為、宿敵、大老の秘密を探る若侍の話である。

時代劇に北村和夫が出ているのがちょっと珍しい程度で、後は、大体、分かりやすいキャスティングだと思う。

女としての盛りを過ぎ、誰からも相手にされなくなった悲哀と、若い頃利用され捨てられた男への復讐をする渡辺美佐の役所が面白い。