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恋や恋なすな恋

1962年、東映京都、依田義賢脚本、内田吐夢監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

今から千年あまり昔のお話。

朱雀皇の御時、加茂保憲(宇佐美淳)と言う陰陽道に通じた博士がいた。

加茂保憲は、金烏玉兎集と言う秘伝書を用い、天変地異の意見を朝廷に具申する役目だったが、子供に恵まれなかった為、自身で占ってみた所、未の年、未の日、未の時刻に生まれた娘をもらえと託宣が出る。

その娘を探す為、阿倍保名(大川橋蔵)と芦屋道満(天野新二)に二人の弟子が諸国に旅に出るが、やがて、河内の国和泉で、葛の葉と言う妹を持つ姉の榊(嵯峨三智子)が条件にピッタリと分かり、加茂保憲の養女になった後、保名が嫁にもらう事になる。

それから、10年あまり経った頃、都の空に白い虹がかかり、世の中は夕焼けの時刻でもないのに、真っ赤な光に照らされた異様な光景となる。

時折しも、都の外では盗賊が横行するなど、世は乱れきっていたので、朝廷の公家たちは、何か不吉な前兆ではないかと恐れおののく。

関東から戻って来た武士たちは、火の雨が振っていたと噂する。

この天変地異を観た加茂保憲は、地に乱が起こり、まつりごとは二つに割れると予言する。

さっそく、屋敷内の神社に奉納してある金烏玉兎集を読む為、神社の鍵を持つ妻(日高澄子)と、巻物を納めた箱の鍵を持つ榊に鍵を開けさせる。

それを読んだ加茂保憲は、帝が身を慎まねばならぬ前兆だと知り、すぐさま太政大臣の元に出向こうとするが、この大事の時に、弟子の一人芦屋道満がいないのを悔しがるが、そこに遅れてやって来た道満が、今まで御上に対し、師匠を売り込んで来たと自慢げに報告する。

そんな世渡りなど興味がない加茂保憲は、道満の差し出がましい行動を嫌い、自分の後継ぎには阿倍保名が良かろうと呟く。

その夜、榊は、夫を後継ぎにとの義父の言葉に喜んでいたが、生来真面目な保名の方は、民心より御上の事の方を大切に考えているような師匠の心の内が今一つ掴みきれないと悩んでいた。

一方、そんな兄弟子保名夫婦の様子をねたましげに覗き込んでいた道満にすり寄って来たのは、保憲の妻だった。

彼女は、義理の娘である榊夫婦に後継ぎになられるより、自らが実権を握りたいと考え、道満を味方にしようと画策していたのだった。

翌日、下男の悪右衛門(山本麟一)を連れて、太政大臣の元へ馬で出発する事にする。

ところが、ただすの森に差し掛かった所で、護衛として随行していた悪右衛門が、いきなり他のお供の者や馬上の加茂保憲を斬り殺した上、盗賊に襲われたと嘘を言って、屋敷にその遺骸を持って帰って来る。

屋敷には、今回の天変地異の託宣を聞く為、朝廷から使いが来ていたが、肝心の保憲が死んだと聞き、それでは、後継ぎが参内するようにと言い残して帰る。

はっきり遺言があった訳でもなく、夫保名を後継ぎと思っていた榊と道満を後継ぎにしたい保憲の妻は互いに牽制しあうが、取りあえず娘である自分が参内すると申し出た榊。

その夜、万一、帝の前で榊に何かお咎めがあった場合は、自らも死を選ぶと保名は妻に告げるのだった。

翌日、帝桜木の宮(河原崎長一郎)の御前にまかりでた榊は、天子の身の祟りなれど、東宮様が御慎み、奥方に子供が授かれば難を逃れるだろうとの父親の生前の言葉を伝えるが、その後の託宣は聞いていないので続けようもない。

それを傍らで聞いていた小野好古(月形龍之介)は、保名を後継ぎにして、金烏玉兎集を読み解かせれば良かろうと進言するが、加茂保憲の妻の兄である岩倉治部大輔(小沢栄太郎)は、妹からはっきりとした遺言はないと聞いているので、一の弟子の芦屋道満を後継ぎにするように推挙する。

結局、小野好古、岩倉治部大輔両名立ち会いの元、保名と道満が金烏玉兎集を読んだ上で、後継ぎは一人に決めるように勅命が下る。

さっそく屋敷に戻り、神社から金烏玉兎集を納めた箱を取り出した榊が鍵を開けてみるが、奇怪な事に、その中は空だった。

箱の鍵は榊しか持っていないはずで、当然、紛失の疑いは彼女にかかり、岩倉治部大輔は彼女を引っ立ててようとするが、この事を公にすると朝廷にまで類が及ぶと考えた小野好古は、事を荒立てないように勧める。

その夜、保名は屋敷内の牢に入れた上、庭に着物を杭で打ち付けられ動けなくされた榊は、保憲の妻の観ている前で、悪右衛門から拷問を加えられ、金烏玉兎集の在り処を白状するよう強要される。

しかし、何も知らない榊に答える術はなく、そのまま力つき息絶えてしまう。

夜中、様子を見に彼女に近づいた下女から、その事実を知らされた保名は、榊の遺体に駆け寄り泣き崩れるのだった。

その頃、保憲の妻は、自室に呼び寄せた道満の手を握ると、自らの懐に引き入れていた。

その中には、紛失した金烏玉兎集があった。

かねてより、榊の寝所から箱の鍵を取り出し、その型を取って合鍵を作っていたのだ。

彼女の悪だくみを知った道満は呆れるが、その打ち明け話を聞いていたのは、いつの間にか部屋に近づいていた保名であった。

彼は思わず義母に詰め寄り金烏玉兎集を取り戻すが、動転した義母が倒した灯が元で、屋敷は火に包まれ出す。

義母は、悪事が露見した事への恐れとおののきからその場を動けなくなってしまい、そのまま火事に巻き込まれてしまう。

一方、亡き妻、榊の着物を手に庭に彷徨い出た保名は、すでに精神に異常をきたしており、その目にはもはや、屋敷の火事も義母の死も見えていなかった。

精神を病んだ保名は、榊の形見の着物を半身にからげた姿で、野に彷徨い出る。

子供達にからかわれながらも、春の野に出た保名は、榊の姿を求めて菜の花畑で一人舞いはじめるのだった。

すると、不思議な事に、目の前に、菜を摘む娘と小者を連れた老夫婦に出くわす。

その娘の姿を見た保名は狂喜して駆け寄る。

榊が帰って来たと思っている様子。

しかし、その娘は、榊の妹葛の葉で、老夫婦は義父の庄司(加藤嘉)と義母(松浦築枝)だった。

久々に再会した保名の様子がおかしい事に気づいた庄司は、取りあえず、彼を自宅に連れて帰る事にする。

その頃、朝廷では、瀬戸内に藤原純友、関東には平将門と言う二つの新勢力が台頭して来た事に不安を覚えていた。

巷には、富士山が噴火し、その火が琵琶湖にまで注ぎ込み、山を超えて都に水が押し寄せて来る等と言う途方もない噂がまことしやかに伝っていた。

この不安な世情を鎮めるには、金烏玉兎集を読み解いて、その解決法法を探るしかないと言う事になるが、肝心の金烏玉兎集の行方が分からない。

桜木の宮は、今すぐ、その金烏玉兎集を探し出せと岩倉治部大輔らに命ずる。

帰宅した岩倉治部大輔は、自宅に住まわせるようになっていた道満に相談するが、その道満、実は、以前、金烏玉兎集を盗み読んでおり、帝の奥方に子を孕ませる方法を知っていると言い出す。

女キツネの血を捕り、それを、奥方の寝所の床下に置いておけば良いと言うのだ。

こちらも、岩倉家に仕えるようになっていた悪右衛門は、それなら、信太の森に年老いた白キツネがいると教える。

そんなある日、その信太の森に遊びに来ていた保名は、近くの野辺で農民たちが踊っている念仏踊りを見て喜んでいたが、 一緒に付いて来た庄司夫婦は、保名の病が癒えたら、葛の葉と祝言させてやろうと相談しあっていた。

その時、今まで楽しく踊っていた農民たちが一斉に逃げはじめる。

岩倉の郎党共が、キツネ狩りにやって来たのだ。

その森の中から、背中に矢を射られた老婆が転がり出て来るのを発見した保名と葛の葉は、森の中の彼女の貧しい小屋まで送り届けてやる。

その時、中から翁(薄田研二)も出て来るが、老婆から事情を聞いて、保名と葛の葉に合掌して感謝するのだった。

貧しいので…と、決して、保名と葛の葉を中に入れなかった老夫婦だったが、実は、家の中には、二人の孫娘おこんもおり、彼女は、窓から覗いた保名の美貌に一目で見愡れてしまう。

葛の葉の事も、信太庄司のお姫さまとして、おこんは良く承知していた。

しかし、彼ら老夫婦とおこんは人間ではなかった。

森に住むキツネだったのだ。

翁キツネは、おこんに、これからすぐにあの恩人たちを御守して、信太の森に知らせに来いと命ずる。

自分はただちに眷属を集めるとも。

その頃、森の中で保名に出会った悪右衛門は、彼を捕まえると拷問し、その懐の中から、探し求めていた金烏玉兎集の巻物を見つける。

それを見ていたおこんが爺を呼ぶと、森の奥からいくつもの火の玉が近づいて来て、農民の姿に化身すると、一斉に郎党たちと戦いはじめる。

悪右衛門が持った金烏玉兎集は、突然巻き起こった竜巻きの中にいたキツネに奪われてしまう。

気絶した保名の所にやって来た二つの火の玉は翁キツネに実体化すると、これからこの保名を介抱するよう、同じく実体化したおこんに言い付ける。

翁キツネは、金烏玉兎集を出してはならない事、葛の葉に化身して庄司様の言い付けだと言って介抱する事、そして何よりもおこんが案じていた、決して人間に恋心を抱いてはならないと言い渡される。

しかし、とにかく、美しい人間を介抱できるとあって喜んだおこんは、すぐに葛の葉に化身すると、保名の傷口を舐めて直してやるのだった。

気が付いた保名は、葛の葉に化身したおこんを、まだ榊だと思い込んではいたが、そのおこんから庄司様から別宅を持たせてくれたと聞くと、たいそう喜び、おこんを抱くと熱い接吻を交わすのだった。

その夜、表に出たおこんは「わしらとて、おなごじゃ、爺、どうしよう」と、さめざめと泣いていた。

禁じられていた人間との恋心を持ってしまったのだ。

やがて、幕が開き、そこは、山の中の一軒家の舞台セット。

中では、赤ん坊を間に挟んだ保名とおこんが化身した葛の葉が暮していた。

もちろん、赤ん坊は、二人の間に出来た子供だった。

保名は、赤ん坊を抱くと、早く庄司夫妻に見せてやりたいと言うが、おこんは、今、瀬戸内には舟盗人が横行しており、詮議が厳しいので、表に行ってはならないと止める。

その話を聞いた保名は、改めて金烏玉兎集の事を思い出し、早く、東宮様の御慎みを解く鍵を見つけだして、都に報告に行かねばと言い出すが、これもおこんが必死に止める。

かねがね、おこんは赤ん坊に、怖い人間を信用してはならない、秋の野辺にはキツネの罠がたくさん仕掛けてあると教え込んでいたのだった。

外出を頑なに禁止する疑念を感じさせまいと、おこんは保名に、芝刈りに山に行って来るよう言い付けるが、その保名が出かけた間、金烏玉兎集の巻物を返す時は、赤子とも別れる時だと独り言を言いながら、呪術で木戸を閉めるのだったが、その様子を裏窓から見て驚いていたのは、彼女が織っている木綿を買いに来た男たち(野村鬼笑、潮路章、尾形伸之介)だった。

さらに、その家を訪ねて来たのが、庄司夫妻と本物の葛の葉。

彼らは、この山深い所に建つあばら家に、保名が住んでいるとの噂を聞き付けやって来たのだった。

半信半疑ながら、行方不明になった保名を長年探し求めていた庄司は、家の中に入って声をかけるが、誰の返事もなく、そこにはただ、赤ん坊が寝ているだけ。

不審に思って、奥の部屋の窓から中を覗いてみると、そこに秦を織っている葛の葉がいるではないか!

驚いて、本物の娘と妻を呼び寄せる庄司。

二人も半信半疑だったが、窓から中を覗いてみて驚愕する。

そこに、柴を刈った保名が帰宅して来たので、庄司たちはさらに驚くが、保名の方も、先ほどまで普段着だった葛の葉が、よそいきの姿でいるので困惑する。

それでも、二人に孫を見せようと、家の中に入った保名は、奥の部屋にも人の気配を感じ、そこではじめて、葛の葉が二人いる異変に気づくのだった。

その戸を開けてみようとするが、何故か障子戸は開かない。

中から、おこんが呪術で閉じているのだった。

赤ん坊が泣き出したので、保名が抱こうとすると、不思議な事に、赤ん坊は宙を飛び、隣室のおこんの元に。

そして、実は、自分はお婆キツネの孫娘であると打ち明けたおこんは、子供は置いて行くので、葛の葉の子供だと思って育ててくれと隣の部屋から言葉をかける。

そして、赤ん坊を抱いているおこんは、口に筆を加えると、障子の紙に、「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」…と書き残して、戸が開くと、白キツネの姿になって、空に飛び去って行く。

その途端、今まであったあばら家が消え去り、そこは何もない枯れ野に。

呆然としていた保名は、庄司の姿に今気づいたように驚く。

正気に戻ったのだ。

地面で赤ん坊が泣いているので近づくと、その側に金烏玉兎集も置かれてあった。

その時ようやく、保名は、菜の花畑で踊っていた頃を思い出すのだった。

誰もいない野にある岩の上に彷徨う二つの火の玉。

恋や恋、なすな恋…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「飢餓海峡」(1965)の内田吐夢監督が、こんな平安ファンタジーを作っていたとは…。

人形浄瑠璃「芦屋道満大内鑑」と清元の古典「保名狂乱」をベースにした話らしい。

演出面でも、映画的リアリズムで撮ると言うより、変身シーンの衣装の早変わりや、回転舞台など、歌舞伎の舞台を撮っているような手法や、東映動画のアニメ表現などをミックスした独特の世界になっている。

キツネの表現は、人間が木製の面を被った様式的表現、アニメ、人形など、様々なバリエーションを併用。

ストーリー的には、何となく釈然としない展開にも見えるのだが、踊る大川橋蔵の美しさや、その幻想的な美術等を楽しむ映画だと思う。

三役演じ分けている嵯峨三智子の妖しげな美しさも絶品。

ちなみに、葛の葉(実はおこん)と保名の間に生まれた赤ん坊が、後の有名な陰陽師、安倍晴明と言われている。

ひょっとすると、「帝都物語」の主役、加藤保憲の名前はこの映画の加茂保憲から…?

保名のライバルとして登場する芦屋道満と安倍晴明の名前が、魔よけの星形「ドーマンセーマン」の名称の元になっている…など、色々、調べてみると興味深い物語である。