TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

案山子 KAKASHI

2001年、EMG+プラネット+マイピック+ビームエンターテインメント、伊藤潤二原作、井上修+笠井正規+鈴木径男+廬聡明脚本、鶴田法男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

人間は古来から、人の毛髪や獣の死骸を燃やし、その煙で害獣を避ける、「焦がし」という行為を行って来たが、それはやがて、邪悪な霊魂等を追い払う「案山子」ヘと変貌して行く。

しかし、古来「人形(ひとがた)」には、様々な魂が宿ると言われ、呼び降ろしたものが、常に善なる「神」であるとは限らない…。

1週間も連絡が取れなくなった兄吉川剛(松岡俊介)を案じて、そのアパートにやって来た妹かおる(野波麻帆)は、管理人から入れてもらった部屋の中で、かおるの高校時代のクラスメイトだった古守泉から兄に宛てた手紙を発見する。

中を読んでみようとすると、中から藁クズがこぼれて来る。

手紙には、「これは夢?それとも幻?確かなのは、あなたの面影だけ。あなたに会えたら、きっとこの悪夢から覚めるかも知れない。会って下さい、愛しい人」と綴られていた。

かおるは、取りあえず、その手紙の泉の実家を訪ねてみる事にし、住所に書かれていた不来彼方(こずかた)村に車で向う。

やがて、「不来彼方随道」と記されたトンネルの前までやって来る。

その横の木立には、「サリー・チェン」と書かれた「尋ね人」のビラが貼られている。

ところが、そのトンネルを通り過ぎようとしている途中で、ラジオやエンジンがいきなり不調になり、車はトンネルの真ん中で停まってしまう。

仕方がないので、手紙だけを持って車を下りたかおるは、女の笑い声を聞く。

トンエルを抜けた所で、かおるは、たくさんの案山子を軽トラックに積んでいる男に遭遇したので、声をかけてみるが、男は無愛想で、案山子の事を尋ねても「今日は年に一度の祭りだ」、医者をやっている古守家への道を尋ねても「まっすぐ…一本道だ」としか答えてくれない。

ところが、その言葉を信じて真直ぐ行くと、道が二手に分かれている。

迷っていると、乳母車に乗った赤ん坊をあやしている、大きな帽子を被った女を見つけたので、近づいて声をかけるが、女は何も返事をしない。

怪んで、赤ん坊を見ると、それは藁で作った案山子ではないか。

驚いて、女の顔を見ると、振り向いたその顔は、明らかに正気を失った中年女のものだった。

さらに道を進むと、巨大な風車のような者を準備している村人たちに遭遇、さらに行くと、花の側で少女に中国語を教えている女性と出会う。

その女性の顔には見覚えがあった。

トンネルの前で観た「尋ね人」のポスターに写真が載っていた「サリー・チェン」なのだ。

すると、後ろからやって来た男が、その少女の側に近づくと、他所者と付き合うんじゃないと叱りながら、軽トラックに乗せて走り去って行く。

先ほど道を聞いた、案山子を積んでいた男であった。

どうやら、少女の父親だったらしい。

その後、花の方へ視線を戻すと、中国人の姿は消えていた。

その後、ようやく「古守家」に到達したかおるは、呼び鈴を押してみるが、中から返事はない。

しかし、二階には、人の気配がするのだ。

側の納屋に向うと、そこから藁クズが服に付着した母親らしき女性(りりィ)が出て来たので、かおるが自分は泉の高校時代の級友だったと名乗ると、母親は冷たく「お引き取り下さい」と取りつく島もなく言い放つと母屋に入ってしまう。

「娘はここにいない」と、呆然と佇むかおるに声をかけて来たのは、医者をやっている泉の父親(河原崎建三)だった。

泉は専門の療養所にいると言うのだ。

兄を捜しに来たとかおるか言うと、警察には届けたのかと父親が言うので、そんなだいそれた事になっているとは思わないので…と口籠るかおる。

父親は、昔はこんなへんぴな所が嫌で飛び出したが、娘の病気の為には良いのではないかと思って戻って来たと説明し、もう、あなたと泉とは会わない方が良いのでないか、すぐに帰りなさいと忠告するが、トンネル内で車が故障したので、どこかに泊まる所はないかと言うかおるを、だったら、今日はここに泊まって行けと勧める。

自宅に上げられ、無表情な母親に寝室に案内される時、ケイタイが圏外で通じないので電話をお借りできますかと聞いたかおるだったが、電話はないと冷たい返事。

夜中、布団に入ったかおるは、どうしてあんな子を泊めたのかと、夫になじる母親の声を聞く。

父親は、俺がいた頃と村の様子が違っていると呟いているが、それに対し、母親は、もうすぐ泉が戻って来るので、それで良いのだと答えている。

夜更け、母親が自室に戻ったのを確認したかおるは、布団を抜け出し、納屋に向うと、兄がいるかと呼び掛けてみるが、その中には、赤いドレスを着た案山子が立てかけてあるだけだった。

しかし、闇の奥から「どうして来たの?」と泉の声が聞こえて来る。

「いつもそう。いつもあなたは、私の邪魔ばかり…、でも良いの。今の私は幸せだから。もうすぐ私は、私になれるの。これは夢?それとも幻?…」と、その泉らしき声が続ける。

朝の布団で目覚めるかおる…それは夢だったのだ。

父親の車で役場まで送ってもらったかおるは、自分の車がそこで修理されている様子を観る。

父親は、早く帰らないと、帰りたくなくなるとかおるに警告する。

車の修理を待つ間、役場の中の図書室に入ってみたかおるは、そこで働いている女性が、昨日会った中国人サリー(グレース・イップ)だと言う事に気づき声をかけるが、女性はかおるを避けるように、奥でこちらに背を向け、書き物をしている老人の方に行ってしまう。

さらに話し掛けようとしたかおるだったが、「君だろ?車をトンネルの中に置いて来たの?」と警官(田中要次)がやって来たので、彼と共に駐在所に向う事になる。

兄の写真を見せて、ここに一週間くらい前から来ているはずだがと尋ねたかおるだったが、警官は知らないと言いながら、写真に写った兄とかおるのツーショットを恋人みたいだとからかう。

村人たちが慌ただしく準備している様子を観るかおるに、警官は明日の夜は、大切な祭りがあるのだと説明する。

結局、車の修理が終わらなかったので、かおるはその日も、父親の車に乗せられ古守家に戻ると、もう一晩泊めてもらう事になる。

その夜も、納屋に行ってみたかおるは、中に入ると、そこで赤い服を着せた案山子の顔に、口紅を塗っている兄を見つける。

その兄に近づこうとすると、赤い服の案山子がかおるに倒れかかって来た。

翌朝、布団の中で目覚めたかおるは、又夢を観ていたのかと思うが、握りしめた自分の手を開いてみると、手の平には藁クズが残っていた。

その日も父親の車に乗せてもらい、役場にやって来たかおるは、警官から車がもう直っていると声をかけられる。

図書室に入ったかおるは、昨日と同じように、こちらに背を向けて書き物をしている老人に近づき、声をかけるが、彼が書いている原稿用紙には、中国語のような文字が並んでおり、気が付くと、老人の服の間からは藁がのぞいていた。

そこにやって来たサリーが、それは自分の父親だが、この村から出て行ってとかおるを突き放す。

気が付くと、案山子がかおるに襲いかかって来ていた。

その案山子から逃げる内に、もみ合いとなり、階段から落とした案山子の横を通り抜けようとしたかおるは、崩れていた案山子から足を掴まれてしまう。

しかし、二階からサリーが「逃げなさい!」と叫ぶので、それを振払い、車に乗り込んだかおるだったが、周囲から無表情な村人たちが迫って来る。

エンジンをかけようとしたかおるだったが、どうしてもかからない。

車は直っていなかったのだ。

急遽、車を抜け出し、走って逃げるかおる。

その頃、巨大な風車がゆっくり廻りはじめる。

かおるは、道に落ちていた兄の写真を見つける。昨日、警官から返してもらって、上着のポケットに入れていたものだ。

再び、宮守家に戻ったかおるは、玄関から、赤い服の案山子を運び出す母親の姿を目撃する。

誰もいなくなったのを確認したかおるは、納屋に入り込み、兄を呼び掛けてみるが、そこには誰もいなかった。

さらに、自宅に入り込み、二階に上がると、泉の部屋にあった日記を見つけ読み出す。

そこには、泉が、かおるから紹介された兄に恋をし、その思いを綴って行ったものだったが、自分の思いが相手に伝わらない事が分かると、かおるが邪魔をしていると思い込み、最後には、かおるを呪ってやると言う恨みの言葉が連なっていた。

気が付くと、廊下に何時の間にか泉(柴崎コウ)が立っており、目と口を開けた無気味な表情で、かおるの方を指差しているではないか!

無我夢中で家を飛び出したかおるは、父親に掴まれる。

兄を返してくれと迫るかおるを車に乗せた父親は、自分の診療所に連れて行く。

車の中で、自分も妻も泉の死を受け入れられなかった、何かが狂いはじめたと呟く父親に、この村は一体なんなの?と問いかけるかおるに、死と共存している。昔から案山子に死者の霊を降ろす風習があったのだが、何時の間にか、案山子が一人歩きをし始めてしまったと答える父親。

泉の積年の怨念は、自分達の想像を超えており、村全体の怨念を増大された…と続ける父親に診療所の二階に連れて来られたかおるは、そこで兄の剛と対面する。

剛は、かおるが帰ろうと呼び掛けても、心ここにあらずと言った様子で、俺は帰りたくない。もう一人で大丈夫だろう?と答える。

兄に何をしたのか?と父親に詰め寄ると、何かをやったのは君の方だろうと、かおるは父親から切り返されてしまう。

お前といるのが窮屈になった、俺は泉の所に行かなくては…と、部屋を出ようとする兄を、思わずかおるがビンタすると、兄は正気に戻ったように、はじめて、かおるの存在を認識するのだった。

父親は、二人に自分の車のキーを渡す。

その直後、ぐったりとなった娘を背負ったあの軽トラックの男が、強く殴るつもりではなかったんだと言い訳をしながら、診療所に駆け込んで来る。

車に乗り込んだ兄が、家に帰るのかと聞くので、その前に行く所があると答えたかおるは、役場に車で乗り付け図書室に駆け込むと、サリーを連れ出そうとする。

しかし、サリーは、父親を置いて帰れないと躊躇している。

その父親が、「行きなさい」と言う中国語を原稿用紙に書いているのを発見したサリーは、思わず、案山子に変身した父親を抱きしめて泣き出す。

その頃、巨大な風車の周囲に、たくさんの案山子を立て終わった村人たちは、時間を確認して、その場を立ち去っていた。

一方、診療所では、軽トラックの男に連れて来られた少女が亡くなっていた。

哀しみに暮れるその男は娘の遺体と二人きりで部屋に籠るが、何時の間にか、その少女の手が動き出したのに気づかなかった。

車にサリーを連れて来たかおるは、兄も乗せ、エンジンをかけようとするが、その時突然、警官からつかみ掛かられる。

兄から言われ、急いでドアを閉めると、運転席には、ちぎれた警官の手だけが残る。

その手は藁だった。

風車の所に独り残っていた母親は、赤い服を着せた案山子の髪の毛を梳いてやっていたが、その途中、案山子の手が動きだし、

診療所の廊下で休んでいた泉の父親は、苦しむような男の声を部屋から聞き、振り向くと、部屋から歩き出して来た少女の遺体を発見する。

「まだ、甦るには早いはずだ、何故だ?泉?」と問いかける父親に、無表情な少女の手が喉元に伸びて来る。

巨大な風車が廻りはじめ、泉をかたどった赤い服の案山子が目を見開く。

その頃、かおるたちの車は、悪路にタイヤを取られ身動きできなくなっていた。

甦った泉に、母親は思わず抱きつくが、泉は、そんな母親の頭を手で掴み、捻ると、首の骨を折って殺してしまう。

かおるたち三人は、車の修理が不可能と分かると、走って逃げ出すが、付いた所は、巨大な風車があるあの場所だった。

呆然と立ち尽くす三人に、「剛さん?私の事忘れたの?」と泉の声が聞こえて来る。

たくさんの案山子の間から姿を現した泉。

その姿を観て、思わず近づこうとする兄に、「本当の泉はもう…」と止めるかおる。

その言葉に小さく頷いた剛は、かおるに近づき、泉が抱きついて来ると、隠し持っていた発煙筒を焚き、それを泉の背中に押し付けるのだった。

たちまち燃え上がる泉と剛。

悲鳴を上げるかおるを、必死に連れて逃げようとするサリー。

やがて、巨大な風車が止まり、その周囲に立てられた案山子たちが一斉に動き出す。

かおるを連れてトンネルの中に飛び込んだサリーだったが、もう少しで入口が見えて来た時、かおるが立ち止まってしまう。

彼女は、自分を呼び掛ける兄の声を聞いたのだ。

振り向くと、村の入口の所に兄らしい影が見える。

戻ってはいけないと制するサリーに対し、「あなただけ行って、自分にはもう帰る所等ないのだから」と呟いたかおるは、「お兄ちゃん、待ってて、今行くから」…と笑顔で、トンネルを戻って行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

伊藤潤二のホラーコミックを、香港との合作と言う形で映画化した作品。

いかにも低予算で作られた作品だが、ホラーにしては怖さが希薄なのは、魂を宿した案山子と言うキャラが、少しも強そうに見えない事が大きいと思う。

襲いかかられたヒロインが、一人で振りほどける程度の力しかないように見えるし、所詮、中身は藁なので、身体自体も脆い。

つまり、モンスターとして迫力がないので、怖さも弱いのだ。

夜のシーン等も、全体的に、かなり明るく撮ってあるので、怖く感じない。

リアルに街灯のない地方の夜を表現しようとすると、一寸先も見えない闇の世界になってしまうので、こういう撮り方しか出来なかったのだろう。

怪奇設定自体は、怪しげな風習が残る隔絶された村と言う良くあるパターンなのだが、兄が大好きで離れられない妹と、その兄に恋し、奪おうとして心を病み、亡くなったクラスメイトとの女同士の戦いと言った、いかにも少女マンガの設定がちょっと面白い程度。

もう少し、兄と妹との過去の接し方等を挿入していれば、心理ドラマとして奥行が出たのかも知れないが…と惜しまれるが、本作は、あくまでも、中・高学生くらいがターゲットの作品なのかも知れない。

柴咲コウは出演場面も少ないし、特に怖いと言う感じでもないが、その派手な風貌が怪奇キャラに向いていると判断されてのキャスティングだったのかも知れない。

娘を亡くし、無表情になった母親を演じるりりィの老けようが、一番不気味かも知れない。