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犬神家の一族('06)

2006年、角川ヘラルド、日本映画ファンド、TBS、オズ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、Yahoo!JAPAN横溝正史原作、日高真也+長田紀生脚本、市川崑脚本+監督作品。

この作品は新作であり、なおかつ、最後にはどんでん返しがありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので御注意下さい。コメントはページ下です。

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昭和22年、信州、諏訪、犬神佐兵衛(仲代達矢)は、今正に、息を引き取ろうとしていた。

長女、松子(富司純子)が、その枕元で「お父様!御遺言は?」と尋ねると、にっこり微笑みながら、佐兵衛翁が指差した先には、弁護士の古舘(中村敦夫)がいた。

遺言は自分が預かっており、血縁者が全て揃った時に披露すると言う。

やがて、那須の町に、おかま帽に着物に袴姿と言う、奇妙な風体の一人の風来坊のような男が現れる…。

タイトル。

道で出会った娘に、那須ホテルの場所を尋ねる風来坊。

偶然にも、道順を教えた娘は、そこの旅館の女中、はる(深田恭子)だった。

那須ホテルについた風来坊に、玄関口で宿帳を書かせると「金田一耕助」と風来坊は記す。

二階の部屋に通された金田一は、はるから夕食はどうするのか、外食券は持っているのかと聞かれ、腹が減っているんだと言いながら、鞄の中から持参して来た米を渡す。

その米を見ながら、いつまで滞在するのか聞かれた金田一は、それが自分でも分からないようで、思わず、神を掻きむしると、テーブルに大量のふけが散乱し、それを見たはるは顔をしかめるのだった。

古館弁護士事務所で、金田一からの電話を受けた若林(嶋田豪)は、ちょうど古館が帰って来たので、声を顰めながら、これからうかがうと返事をする。

部屋から、美しい湖や対岸の大きな屋敷を見ていた金田一は、はるから、あの屋敷が、犬神御殿と呼ばれる犬神家の屋敷である事を教えられる。

湖に乗り出していたボートに乗った女性は、直接の血縁者ではないものの、犬神家に住んでいる珠世と言うたいそう美人だとはるから聞かされた金田一は、好奇心から、双眼鏡を取り出して来ると、その珠世の顔をはっきり見ようと覗くのだが、そのボートが沈みかけているのを発見、慌てて、裏口に出ると、はだしのまま、湖に駆け付け、繋いであったボートを漕ぎ出す。

一方、犬神家のボートハウスを管理していた猿蔵(永澤俊矢)も、異変に気づき、湖に飛び込むと、沈みかけた珠世のボートに近づく。

ちょうど、金田一の漕いで来たボートが横付けしたので、珠世をそちらに乗り移らせ、猿蔵も乗せた後、金田一は、沈みかけたボーットを何とか、このままの状態で岸まで持って帰るように猿蔵に頼む。

そこに誰かが穴を開けた形跡があったからだ。

那須ホテルに戻った金田一に、主人(三谷幸喜)が、来客があったので、二階に通してあると伝える。

その後、はるに、今の人、何の商売をしてるんだね?と、興味津々尋ねる主人。

しかし、部屋には客の姿はなく、灰皿に煙草の吸いかけだけ乗っていたので戸惑う金田一に、突然、はるの悲鳴が聞こえる。

駆け付けてみると、共同洗面所に男が倒れていた。

金田一をこの地に招いた依頼人、若林であった。

那須警察署にやって来た古館は、ちょうど、粉薬を飲みかけていた等々力署長(加藤武)から、金田一と言うのは私立探偵だと言っておると聞かされ、それは本当のようだと答える。

その金田一から渡された、若林の依頼状を読んだ古館は、遺言状の中身が外部に漏れた心当たりがある、遺言状は金庫に入れていたが、誰かに読まれた形跡があるのだと答えながら震えていた。

その遺言状に何か変わった事があるのかと問う金田一に、非常に…と古館は怯えていた。

この際、若林に代わって、自分が新しい依頼人になると申し出た古館は、犬神家の血縁者を説明し出す。

血縁者は9人、一人欠けても遺言状は発表できないが、野々宮珠世は出席するのだと言う。

犬神佐兵衛翁には、正妻はおらず、母親の異なる三人の娘がおり、 長女の松子(富司純子)には、佐清と言う息子がいるのだが、戦争に行ったまま音信不通だったが、半月前頃、博多に復員して来るとの連絡があったので、今、松子が迎えに言っていると言う。

次女の竹子(松坂慶子)は東京で暮しているが、今、松子に呼ばれて、夫で犬神製薬東京支店長寅之助(岸部一徳)、長男、佐武(葛山信吾)、長女小夜子(奥菜恵)と共に、那須の犬神御殿に滞在中、姉の琴を勝手に借りて弾いていた。

三女梅子(萬田久子)は、同じく大阪から呼ばれ、夫で犬神製薬大阪支店長幸吉(蛍雪次朗)、長男佐智(池内万作)と滞在しており、今は、花鋏で生け花を活けていた。

一緒に酒を酌み交わしていた寅之助と幸吉に、佐武が、今夜、松子おばさんが帰って来ると連絡があったと知らせに来る。

その夜、裏門で待っていたのは、電話での松子の指示通り、竹子と梅子だけだった。

そこへ到着した車から降り立った松子に遅れて、一人の男が下りて来る。

佐清だと紹介されたその男は、顔を黒い布で覆っていたので、二人の妹は肝を潰す。

犬神佐兵衛翁の遺影の前には、犬神家の家宝である斧(よき)琴(こと)菊(きく)の黄金製の三種の神器が置かれており、その前に、犬神家の血縁者全員、それに、野々宮珠世が待ち受けていた。

そこへ到着した古館弁護士は、金田一耕助を若林の代理として伴って来ていたが、遺言状を披露する前に、佐清の顔を、念のため、きちんと確認させてもらえないかと申し出る。

その言葉に「佐清は、戦争で顔を負傷したのだ」と抵抗した松子だったが、竹子と梅子も賛同した為、腹に据えかねたように「佐清、頭巾を取っておやり!」と命ずる。

佐清と呼ばれた男が、黒頭巾を脱ぐと、その下には、白いゴムマスクが現れ、それをめくると、中から、顔に醜い火傷の後がある無惨な顔が現れる。

それを見て、全員怯えるが、一応、佐清と認めた事にし、古館は遺言状を読みはじめる。

それによると、全財産は、野々宮珠世が、佐清、佐武、佐智の誰かと結婚した時、相続するものとする。

三人との結婚を拒絶、もしくは、他に配偶者を見つけた場合は、相続権を失う。

佐清、佐武、佐智の3人が結婚を望まない場合は、各人全財産の5分の1づつを相続し、残りの5分の2は、青沼菊乃の一子静馬に与える。

佐清、佐武、佐智、野々宮珠世の4人全てが死亡した場合は、全財産を青沼静馬が相続するものとする。

それを聞いていた全員は蒼ざめる。

三人姉妹には全く相続権がないと記されていたからだ。

小夜子なども、全く触れられてもいないので、その場から泣きながら逃げ出してしまう。

それを追って来た寅之助が慰めるが、竹子は意外と冷静だった。

寅之助に近づいて来た幸吉は、素早く計算したと見え、5分の1の財産でも、大阪の目抜き通りに、10階立てのビルが5つ6つ建てられると喜んでいる。

しかし寅之助は、そんな夢は小さすぎると吐き捨てるのだった。

いつもは温厚な彼も、金の事となると人柄が変わったようだった。

問題は、佐兵衛翁が50過ぎて子供を生ませた女中、菊乃とその子供、青沼静馬の存在だった。

松子は独り、自室に戻ると、タンスの中に安置してある犬神の守り本尊に火を灯し祈るが、そこにゴムマスク姿の佐清が戻って来る。

翌朝、那須ホテルを訪ねて来た古館に、金田一は、珠世さんは危険な状態にあり、彼女が被害者になるケースだけではなく、被害者を装った加害者になり得る事もあると、指摘するのだった。

古館がやって来たのは、佐武と佐智から那須神社に来てくれと連絡があったからだった。

神社に出向いた二人は、待っていた佐武と佐智、そして大山神官(大滝秀治)から、武運長久と書かれ、手形が押された布を見せられる。

それには、佐清23才と記してある。

戦争に行く前、佐清の無事を願って奉納されたものだそうだ。

この手形と、今、屋敷にいる佐清と称しているゴムマスクの男の手形を照合すれば、あの男が偽者かどうかが分かると、佐武たちが説明する。

その指摘に驚いた金田一だったが、この奉納手形の事は誰が覚えていたのかと聞くと、実は、大山神官に野々宮珠世が教えてくれたのだと言う。

その頃、犬神家の屋敷内、猿蔵が作った菊人形の側で、佐清と会った野々宮珠世は、昔、佐兵衛翁から、将来、壻にやれと託された懐中時計が、戦争中壊れてしまったので直してくれないかと差し出すが、それを受取った佐清は、今は気が向かないからその内…と、時計を珠世に戻していた。

その様子を、聞く人形の影から見守る猿蔵。

湖の近くにある旅館「柏屋」に、夜の8時頃、顔の大半をマフラーで隠した、復員服姿の奇妙な客が突然訪れて来る。

同じ頃、犬神家の屋敷内では、手形を押すよう、兄弟たちが佐清と松子に迫っていた。

しかし、松子は、佐清は犬神家の跡取りであり、昔で言えば殿様のようなもので、お前たちの主人に当る人なのに、何と言う不躾な事を言うのか、佐清が承知しても、この私が許さないと激昂し、佐清を連れ部屋を後にしていた。

柏屋では、主人(林家木久蔵)が宿帳を書いてくれと客に頼んでいたが、お前が書いてくれと言う。

その様子を怪んだ主人だったが、女房(中村玉緒)の方は、家賃を払ってもらえるかを心配していた。

そんな二人を後にして、奇妙な客は、夜、宿を出て行く。

翌朝、警察署に電話が入る。

その警察から連絡を受けた古館弁護士は、急ぎ、金田一耕助に連絡を取り、犬神家の屋敷で恐ろしい事が起きたと知らせる。

息せき切って走って来た金田一は、玄関で見張りの警官に止められながらも、先乗りしていた古館から許可をもらい、菊人形が飾ってある庭先に案内される。

犬神家の家族に似せて作ってあるその菊人形を端から眺めていた金田一は、一番最後の菊人形の顔を満て驚愕する。

それは、人形ではなく、本物の佐武の生首だったからである。

息子を殺害された竹子は、屋敷内で狂ったように暴れ廻っており、夫の寅之助と娘の小夜子に必死に押さえ付けられていたが、その手を振払い、部屋を出ようとした所に、新聞を持った猿蔵と鉢合わせしてしまう。

別室では、松子が、佐武殺害犯は、何故、手数のかかる真似をしたのか不振がっていたが、同じ部屋にいた佐清は震えていた。

残されていた血痕から、佐武殺害現場だと思われる展望台を調べていた等々力警部や部下の仙波(尾藤イサオ)は、首を切断した身体の方は、ここから湖に捨てられたのだろうと推測していたが、その捜査は困難に思えた。

一方、その場にいた金田一は、展望台の傍らでペンダントを見つけたので、等々力警部や古館に見せると、それは珠世が、夕べの手形合わせの時に身につけていたものだと古館が証言する。

その前の晩、あれほど、手形合わせを拒否していた松子が、佐武殺害と言う事もあり、自分達にあらぬ疑いをかけられても迷惑だと考えたし、佐清自身も承知してくれたので、手形を押すと言い出したのだった。

朱墨を手の平に塗った佐清は、しっかり紙に自らの手形を押しつけた。

ブローチを持って珠世に会った等々力は、これが犯罪現場に落ちていた事を明かし、珠世の夕べの行動について問いただす。

珠世は観念したように、夕べ、展望台で、佐武と出会った事を認める。

佐清の指紋がついた懐中時計を渡し、その指紋の鑑定を依頼したと言うのであった。

しかし、それを胸ポケットに入れた佐武は、急に、珠世に襲いかかって来たのだそうだ。

危うい所を、彼女の側でたえず監視してくれていた猿蔵が現れ、佐武を叩きのめすと、今度やったら殺すと脅かし、自分と一緒にその場を立ち去ったのだと言う。

その頃、少年から連絡を受けた交番の巡査が自転車で、湖の観音岬へやって来ていた。

少年が指差す方を見るとボートが繋いであり、その中を覗くと、血まみれの斧と大量の血痕が付着していた。

その知らせを受けた那須警察署の中では、ボートの管理人であり、10年程前、佐兵衛翁が拾って来たと言う猿蔵と珠世が怪しいのではないかと睨んだ等々力署長が「よし!分かった!」と叫んでいた。

そこへ、観音岬近くにある柏屋と言う旅館から、怪しい人物を夕べ泊めたと言う連絡があったと言う知らせが入る。

たまたま、その警察署内で、古館とともに手形照合の鑑識待ちをしていた金田一は、同行を願い出る。

進駐軍払い下げのオンボロジープに乗った橘署長、金田一、仙波の三人は、柏屋に到着するが、宿帳に記された山田三平なる名前は、本人ではなく、宿の女房が書かされたものだとの証言を得る。

さらに、やって来た夕べの8時から、出かけた10時頃までは、確かに、その男はこの宿にいた事も確認した金田一は、同じ時刻、比較的近い地域内に、二人の顔を隠していた人物が存在した事を指摘するのだった。

数時間後、藤崎鑑識課員(石倉三郎)を伴って古館が犬神家にやって来る。

鑑識課員の説明では、奉納手形と先日、紙に押された手形とは全く同一のものであり、つまり、ゴムマスクの男は本物の佐清だった事が分かったと言う。

その夜は、亡くなった佐武の通夜だったが、竹子が狂ったように黙々と出された寿司を頬張っていたので、それを見ていた小夜子は、本当に精神を病んだのではないかと心配していた。

結局、その日は半通夜と言う事になり、一旦、客たちは解散したが、小夜子は珠世を廊下に呼出して、自分は佐智の子供を妊っているので、絶対、彼と結婚すると言わないでくれ、言ったら恨むと念を押すのだった。

その後、自室に戻って来た珠世は、顔をマフラーで隠した復員服姿の男が物色している姿を発見、驚くが、その男は彼女を突き飛ばして逃げ出して行く。

すぐに、駆け付けて来た猿蔵に介抱された珠世だったが、無気味な男の悲鳴を聞いたので、猿蔵と共に外に出てみると、何かに躓いたのでライトで確認すると、それは火傷の顔の男、佐清が倒れているのだと分かる。

駆け付けて来て佐清の脈を調べた金田一は、誰かに殴られ気絶しただけだと教える。

その側には、剥がされたゴムマスクが落ちていた。

その頃、湖では、沈んでいた佐武の首なし死体が浮かび上がっていた。

その死体の検死結果を受取った等々力署長は、佐武の直接の死因は、花鋏のようなもので背中を突き刺された傷が元だったと知る。

金田一は、その胸ポケットから懐中時計が見つからなかったかと確認するが、それはなかったので、珠世が嘘を言っていたのかも知れないと等々力が答えると、金田一は、あんなにきれいな人が嘘をつくはずがないと反論する。

それを聞いた等々力は、人間には二種類しかおらず、良い人間と悪い人間だけだと言い切る。

屋敷を訪れた等々力は、松子から借りた花鋏を持っていた梅子に事情を聞くが、梅子は疑われる事に憤慨する。

その頃、湖に久しぶりにボートで漕ぎ出していた珠世の元に、佐智運転のクルーザーが近づいて来て、今、金田一や署長が屋敷に来ており、あなたを呼んでいるので、こちらの船に乗り込んでくれと言う。

その言葉に応じた珠世だったが、いきなり佐智から薬を染み込ませたハンカチを口に当てられて気絶してしまう。

気を失った珠世を抱きかかえた佐智は、荒れ果てた無人の別荘に連れ込み、そこのベッドに珠世の身を横たえると、その上に覆いかぶさり、犯そうとするが、そこに現れた復員服姿の男と格闘になる。

那須ホテルで、寝っ転がってテーブルの上の芋の煮っころがしを口に運びながら、犬神家の家系図を書き、頭を整理していた金田一は、この料理は全部自分が作ったのだけど、どれが一番美味しかったかと聞きながら、後かたずけに来たはるに、一言「生卵」と答えて、むくれさせていた。

その頃、人気のない場所で、長く分かれていた母親お園(三條美紀)と出会っていた松子は、もうこれっきりにしてくれと、幾許かの金を渡して帰らせていた。

その後、部屋の掃除をしに来たはるに、この近くに大学があるかと聞き、そこの教授がここの主人の囲碁仲間で、時々遊びに来ると聞くと、お使いを頼まれてくれないかと頼む金田一。

それを聞いたはるは、探偵さんの助手ですか?と喜ぶのだった。

古館事務所を訪れた金田一は、戦中戦後の犬神製薬の発展は、戦争中、軍部に大量に買われた麻薬のお陰だった事を確認していた。

一方、何者かから、豊畑村の空家に珠世さんがいるので、すぐに助けに行ってくれとの電話を猿蔵が受けていた。

町で、はるの帰りを待ちわびていた金田一は、使いから帰って来た彼女を見つけるとウドン屋に誘い、大学の教授から聞いて来てもらった毒物に関する報告を読む。

それによると、若林殺害に使用された毒物は、アルカロイド系であり、それに塩酸モルヒネと思われる、生薬から抽出したらしき白色結晶が混じっていたと言う。

犬神家の屋敷には、松子の事の師匠、香琴(草笛光子)が座敷で待たされていた。

そこに戻って来た松子は、昨年、患ってから小用が近くなったと、中座した詫びを言った後、琴を最初から弾きはじめるが、その琴の音に苛立ちながら、梅子は夫の幸吉に、夕べから佐智の姿が見えないのだが?と不審がっていた。

雨が強くなりはじめた中、梅子から佐智の事を聞かれた小夜子は、屋敷内を探している内に、屋根裏部屋まで入ってしまうが、明かり取り用の天窓に倒れて雨に濡れていた佐智の死に顔を間近で発見し、絶叫する。

雨ガッパを着て屋根に登った等々力や仙波に金田一は、死因が咽に巻き付いた琴糸である事を知る。

実際に使用された凶器は、もっと太い紐のようなものだったようだが、犯人が「菊」の後に、わざわざ「琴」を連想させる糸を使った事に注目した金田一。

屋敷内では、今度は梅子が半狂乱になって等々力に、犯人は珠世に違いないと詰め寄っていた。

死体を屋根に上げたのは、猿蔵の仕業だと言うのだ。

しかし、等々力が相手にしないと、今度は松子に向って行き、さぞ満足だろう、これで、姉さんの思い通りになったからと言い放つ。

そこへやって来た竹子は、凶器が琴糸だったと聞き、打ち明けたい事があると言い出す。

その場にいた松子の了承も得て話しはじめた竹子の話は、青沼菊乃に関するおぞましい昔話だった。

「斧(よき)琴(こと)菊(きく)」と言う犬神家の三種の家宝を、生前、佐兵衛翁から預かった菊乃の家に押し掛けた松子、竹子、梅子の三姉妹は、赤ん坊を抱いた菊乃を雪の中に連れ出すと、身ぐるみ剥がし裸にした彼女に、水をかけたり、棒で殴りつける等、暴行の限りを尽くしたのだと言う。

その時、菊乃が、お前たちの事は生涯呪ってやると叫んだと言うのだ。

菊乃は、その後、富山の親戚の家に去り、そこで亡くなったらしい。

その話を聞いた等々力署長は、復員服姿の男は、その菊乃の息子の静馬に違いなく、そいつが犯人だと決めつけ、指名手配を命ずるのだった。

その三種の家宝は、もともと那須神社の守神として作られたものだったと、訪ねた大山神官から聞き出していた金田一は、佐兵衛翁と、彼を育て上げた野々宮大弐なる、先代の神官との本当の関係性を問いただしていた。

大山神官は、古文書を調べようとして櫃の中から見つけた日記を読んで知った事だがと前置きし、先代の野々宮大弐は女性に対して全く不能で、処女妻だったはるのと、若き日の佐兵衛はいつしか関係が出来てしまい、その子供のり子の娘が珠世だと言うのだ。

つまり、珠世は佐兵衛の実の孫だった事になる。

その驚愕の事実を、古館に事務所で知らせていた金田一は、今回の事件は、まるで、亡くなった佐兵衛翁がやらせているように感じると呟くが、古館は、七ヶ月も前に亡くなった佐兵衛がまさか…と蒼ざめるだけ。

犬神家の屋敷内、佐清が同席する中、珠世と対座した松子は、こうなったら佐清と結婚してくれるだろうと返事を迫るが、珠世はきっぱり拒絶した上で、この人は佐清さんではないと言い切って部屋を去ってしまう。

箪笥の中の犬神の守り本尊に祈る松子は、佐兵衛翁の幻影を一瞬見る。

その後、佐清を奥まった部屋に連れて来た松子は、お前が偽者だなんて、そんな事嘘だよね?と確認するが、それを聞いていたゴムマスクの男は突然笑い出し、珠世が言った通りで、本当の佐清はとっくに消えちまったと言い出す。

自分は、青沼静馬であり、おふくろは自分が9つの時に亡くなった、それ以来、犬神の家に復讐をする事だけを考えて来た、佐清とはビルマの戦線で会ったが、奴の部隊は全滅してしまったのだと、松子に迫るのだった。

翌朝、湖に、男の足が二本突き出していた。

そこへふらふらやって来たのが、すでに気がおかしくなり、ガマガエルを手にした小夜子だった。

その頃、金田一は、那須駅前で、事件を知らせる新聞記事を読んで慌てていた。

湖から引き上げられた死体は佐清で、頭を斧で割れていた。

警察にやって来た金田一は、被害者の右手の指紋を取ってくれと等々力署長に進言する。

すると、同じ事を珠世も言っていたと署長は驚く。

藤崎鑑識課員が調べた結果、被害者の指紋と佐清の指紋は合致しない事が分かる。

死体は青沼静馬であり、真犯人は佐清だと等々力署長は断定する。

その頃、犬神家の屋敷の珠世が部屋にいると、ドアが開いて復員服姿の男が入って来る。

立ちすくむ珠世の前で、その男は顔を覆ったマフラーを外す。

男は、佐清だった。

佐清は珠世を抱き締めると、全部ぼくがやったんだと告白し、もう逃げる事は出来ないだろうと言う。

そして、珠世に、君に会いたかったんだ、こんな家なんか捨てるんだと言い残すと、手紙を落として去って行く。

血のついた斧や琴糸を処分しに、空家にやって来た佐清だったが、猿蔵が待ち受けていた事に気づく。

その猿蔵と揉み合っている内に、なだれ込んで来た警察隊によって、佐清は逮捕されてしまう。

その頃、珠世に呼ばれ湖畔にやって来た金田一は、佐清が残して行った「わが告白」と題された手紙を受け取っていた。

珠世が佐清を昔から愛しており、その姿を見間違うはず等ない事を、金田一は見抜いていたのだった。

警察に連れて来られた佐清は、等々力署長から尋問を受けていたが、若林殺害があなたにできるはずがないと金田一が指摘すると、それは知らない、自分は佐武、佐智、青沼静馬殺害をやったのだと答えた佐清の言葉を聞いた金田一は、つまりそれは、柏屋に宿泊したのが佐清だった事を自白したようなものだと指摘する。

実は、青沼静馬から逆に脅されてやっていたのだろうと続けた金田一は、事件を再構成しはじめる。

展望台の所に、静馬から呼出されて出かけた君は、その場に珠世と佐武がやって来てもめ事があった事も、その後、猿蔵がやって来て、珠世を連れ去った後、真犯人が一人残された佐武を背中から花鋏で刺したのも目撃したのだろうと迫る。

その人物をかばう為に、君は自白しているのだとも。

その後、犬神家の屋敷で、一人佐兵衛翁の遺影を眺めていた松子の元に、金田一がやって来て、佐清が警察に逮捕されたと報告する。

バカバカしい、あの子が犯人だなんてあり得ないと吐き捨てる松子に対し、金田一は静かに答える。

その通り、佐清は犯人ではない…、『犯人はあなたですね』と。

博多に行っていた自分には、若林が殺せるはずがないと反論する松子に、金田一は、磐城村のお園さんに会って来て、あなたが駅で、若林に煙草を手渡している所を見たと聞いたと告げる。

事件当夜、展望台の下に、佐清君がいた事を御存じでないでしょうとも。

菊人形の首を挿げ替えたのは、青沼静馬がやった事、さらに、珠世は佐兵衛翁の本当の孫である事を話した金田一は、あなたは、佐兵衛翁が望んでいた事を実行して行ったんですよと畳み掛ける。

それを聞いた松子は、佐清に会わせて下さいと叫ぶのだった。

等々力署長にジープで連れて来られた佐清は、屋敷の廊下で佇む珠世と一瞥を交わす。

その佐清と再会した松子は、雨の日、長野の連隊まであなたを送って行った事を忘れはしないと抱きつく。

佐清は、自分の失敗が原因で部隊を全滅させてしまい、帰るに帰れなかったと告白する。

偶然が…、恐ろしい偶然が重なったのです…とも。

金田一が、佐智殺害を再現し出す。

空家での佐清との格闘の後、疲れきって帰宅して来た佐智の背後から近づき、帯留めで首を締めた松子は、苦し紛れの佐智から、右手の人さし指を咬まれてしまう。

その時、ちょうど、中座していた琴の師匠に先日会いに出向いた金田一は、当夜、戻って来た松子の琴の音を聞いて、彼女が人さし指に怪我をしていながら、それを隠そうと懸命に弾いている事に気づいたとの証言をえたと打ち明ける。

梅子は、それを聞いて泣き崩れる。

青沼静馬を殺害したのも松子だった。

あの日、自分の正体を打ち明けた後、勝ったんだ!俺は、犬神一族に勝ったんだ!と狂喜していた静馬の背後から、斧で頭を打ち割ったのである。

松子は、その場にいた竹子と梅子に頭を下げる。

珠世の部屋に忍び込んだ復員服姿の男は、青沼静馬だった。

自分の指紋がついた懐中時計を取り戻しに来ていたのだろう。

その懐中時計を、松子がその場で投げ出す。

自分は、指紋の事等何も知らず、静馬の服から落ちたので拾っていたのだと言う。

タバコ盆を引き寄せながら、佐清は罪に問われるのかと聞く松子。

事後従犯として、ある程度はやむを得んでしょうと答える古館の言葉を聞きながら、キセルに煙草を詰めながら、珠世に、刑期を終えて佐清が戻って来るまで待っていてくれますねと問いかける松子。

珠世が頷くと、佐清、珠世さんをお爺さんの呪縛から解いてやりなさいと言いながら、キセルをくわえた松子は、その場に倒れふす。

それを見た金田一は「しまった!」と叫ぶ。

若林殺害と同じ毒物を、松子が今吸った事に気づいたのだ。

事件が全て終わり、古館事務所で経費と必要経費を受取る金田一。

今、等々力警部や珠世さん、はるちゃんなどがやって来て、見送りの茶会の準備をしている所だと古館から聞かされた金田一は、困惑しながら、古館が席を外した隙に、事務所から出て行ってしまう。

その後、やって来た一行の中には、土産用の卵を持参したはるちゃんや花束を持った猿蔵の姿もあった。

猿蔵は、金田一さんの事、忘れられないと言う。

その金田一は、田舎の一本道をとぼとぼと歩いて行き、一度だけ振り返るのだった。

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▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

角川映画の第一弾として製作され、折からの横溝ブームにも後押しされ、大ヒットを記録した1976年版「犬神家の一族」のリメイク作品。

その角川映画三十周年記念として作られた本作は、当時と同じ市川崑監督、そしてほぼ同じ脚本で作られているため、基本的には、ほとんど前作と同じ印象の出来となっている。

金田一役の石坂浩二ら主要な役者以外の顔ぶれが変わっただけとも言える。

撮影当時90才だった市川崑監督は、特別目新しい改良等はせず、ほとんど、前作の演出をなどっただけのようにも感じられるが、その高齢を考えると、致し方ない所だろう。

とは言え、微妙に前作とは細部が異なっており、複雑で説明的だったセリフ等は、かなり簡略化されており、その分、背景が分かりやすくなっている。

70年代当時の、エロティシズム表現やスプラッタ表現等も控えめになっており、全体的に、シンプルかつ淡白な印象の作品になっている。

ケレン味もまろやかになっており、かつてそれなりに刺激的だった怪奇探偵映画も、もはや枯淡の域に達した静かな作品になった雰囲気。

その分、前作を知らない若い観客には、物足りなさを感じるかも知れない。

前作を知っている観客には、前作で登場していた俳優が、再度登場しているのを発見したり、微妙な演出の変更点などを探す楽しみがあるだろう。

新作としてどうこう言うのではなく、あくまでも、市川崑監督の御長寿祝賀作品として、暖かく受け止めるべき作品ではないだろうか。