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でんきくらげ

1970年、大映東京、遠山雅之「悪女の手口」原作、石松愛弘脚本、増村保造脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

北野洋裁学院に通っている由美(渥美マリ)は、バー勤めしている母親(根岸明美)と二人暮しだったが、その母が最近、保険の外交員の男(玉川良一)と一緒に同居しはじめた為、夜等、隣の部屋から、だらしない二人の睦言が聞こえて来て、なかなか寝つけない日々を送るようになる。

今や全く働くなり、博打と酒に溺れるようになった男の事を愚痴る母に、別れればと冷たく言い放つ由美だったが、根っから男にだらしのない母には出来ない事だった。

由美は、そんな母親が19の時、初恋の相手との間に出来た娘だった。

かつてのホステス仲間だったマダム(中原早苗)が経営しているバー「タッチ」で働いている母親は、最近、泥酔しては、他の若いホステス目当てにやって来る客に絡んでは、嫌がられていた。

そんな母親の事を、陰に呼出して注意するママだったが、彼女も、男に惚れっぽい母親と同居している今の男が8人目である事を知っていた。

ある日、隣の奥さんの服をミシンで縫っていた由美に、一日中部屋にいっぱなしの男が、ポーカーでも息抜きにやらないかと誘って来る。

元来、ポーカーだけは大好きだった由美は、つい、その誘いに乗ってしまうが、次の瞬間、男に襲われてしまう。

その夜も、他のホステスを送って行く客が乗ったタクシーに便乗して帰宅して来た母親は、由美から、この男と分かれてくれといきなり切り出され面食らう。

訳を聞くと、自分はもう生娘ではなくなったと言うではないか。

事の次第を知った母親は激怒するが、男は平然と、由美を連れて出て行ってやると開き直る。

母親は、台所から包丁を取り出すと、迷わず、男の腹を突き刺すのだった。

そして、由美に警察に知らせるように言うと、決して、犯された事だけは打ち明けるなと口止めするが、当の由美は、お母さんを助ける為、言うと答える。

「杉並で、ホステス、内縁の夫刺殺」と言う記事は新聞にも載り、裁判中の母親は一旦、まだむに連れられてアパートに戻って来る。

裁判の結果では、2〜3年で出てこれるらしいと言う。

由美の将来を心配する母親に、マダムは自分が仕事を世話しようかと持ちかけるが、ホステス稼業を嫌っている母親は、即座にその申し出を断わる。

それを聞いたまだむは、態度を豹変させ、それなら、自分が立て替えておいた保釈金や裁判費用等をすぐに返してくれと言い、帰って行く。

そんな母親に、由美は、硬い会社の事務員でもやると安心させるのだが、その母が服役すると、由美はマダムの店で働らくようになっていた。

その店にふらりやって来たのが、地元のヤクザ風間(木村元)、新入りの由美に目をつけるが、その由美は、客から求婚されていた。

しかし、由美は、母親が一人で栃木の方にいるので…と言葉を濁すので、その母親と会ってみたいと迫る客を、後日、相手の車で刑務所まで案内すると、さすがに、客は尻込みをして逃げてしまうのだった。

由美は、母親と面会すると、自分から頼んで「タッチ」で働くようになったと報告する。

バーに勤めないと、とても、裁判費用等が払えなかったからだ。

その後、出勤前、美容室から出て来た由美に声をかけて来たのは風間だった。

彼は、近くに自分の店があるからと、由美を連れ込むと、そこにいた舎弟分(平泉征)と、いきなり彼女に乱暴しようとし始める。

こんな所では嫌と抵抗する由美を二階に連れて行き、今夜からここで働くんだと詰め寄る風間に、酒が欲しいと由美は言い出す。酒がないと燃えないと言うのだ。

これは脈があると読んだ風間は、油断して自ら下に酒を取りに戻るが、その隙に、由美は二階の電話から警察を呼出していた。

風間の勧める酒を飲みながら時間稼ぎをしていた由美の元に、警官たちが駆け付けて来て、はじめて風間は計られた事を知る。

由美は、ヒモなんて大嫌い、絞られるからと呟く。

三日後、釈放された風間と舎弟が「タッチ」にいた由美に嫌がらせに来るが、たまたまそこに来ていた客の野沢(川津裕介)が、彼らに金を渡し帰らせる。

野沢はマダムに、あの由美を僕に預けてくれないか、引き抜き料は十分支払うかと切り出して来る。

野沢は、銀座の高級クラブに勤めるマネージャー兼スカウトだったのだ。

野沢は、一旦、銀座のクラブ「桐」のママのマンションに由美を連れて行き、今晩一晩ここに置いてくれと頼み込む。

その後、刑務所に面会に出かけた由美のあか抜けた姿を観た母親は、その様変わり振りに驚く。

由美は、銀座で、月5万稼げるようになったと報告する。

そんな娘に、男を作ったら商売に身が入らないよと、自分の経験から忠告する母だった。

その後、クラブ「桐」にオーナー(西村晃)が来た所へ、風間が因縁を付けに来る。

自分は北井組の幹部だと凄む風間の話を聞いていたオーナーは、自分は北井とは2、3度飲んだ事があると言うと、風間は顔色を変え、お見それしましたと引き下がって行く。

そんな中、大会社の重役である高崎と言う客がやけに君を気に入り、一晩抱かせてくれと言っていると、マンションまで車で送ってやる事になった野沢が由美に伝える。

由美は、そんな話には乗らず、むしろ、野沢の方に興味を示して来るが、彼は、昔は弁護士だったが、除名されて、今はこんな仕事をしていると打ち明けた後、再び、高崎との事を蒸し返して来る。

高崎は、店で月100万は使ってくれる上得意なので何とかならないかと言うのだ。

少し考えた由美は、それなら、私とポーカーをやって、私が勝ったら3万もらい、負けたら寝ると言う事にしてはどうかと提案する。

さっそく、翌日から高崎相手に店でポーカー勝負をはじめた由美だったが、元々得意だった事もあり、5回連続勝ち続け、一晩で15万を稼いでしまう。

これを見せられた他のホステスたちは面白くない。

新人の由美が、一晩で、相場の5倍にも客と寝る値段を吊り上げてしまったからだ。

しかし、相手の高崎も面白がり、とうとう6度目で勝って、由美をものにした満足感は最高のようで、翌朝、由美に、毎月20万出すから二号にならないかと持ちかける有り様。

このポーカー勝負するホステスの話題はあっという間に客たちに広まり、それから毎晩のように由美は客を相手にポーカーをするようになる。

こうした状況に、他のホステスは露骨に嫌味を言うようになるし、次々と来る客がポーカーをやりたがるので、店の雰囲気が変わってしまった事を嫌がるママは、野沢に止めさせるように言うが、野沢は、客が喜んでいるからと相手にしない。

とうとう、その夜は、12回も続けて勝った由美は、帰りに野沢を誘い、踊りに出かけた店で、好きだと告白し、キスをするのだった。

ママからあなたを取ってしまったと呟く彼女を観察していた野沢は、男と寝ても決して汚れない、素直な性格に感心するのだが、一応、ママが嫌がっているので、ポーカーだけは止めにしないかとアドバイスする。

すると由美は、これからは、店以外の場所でポーカーをやれば良いのではないかと思い付く。

その日、自宅マンションまで送って来た野沢に、このまま帰らないでとわがままを言う由美だったが、ママの所で泊まると答える野沢にすねて、そのまま帰らせるのだった。

その後、ママと寝ていた野沢は、自分達はいつ結婚するのか持ちかけられるが、人生、一度つまづくと、ひねくれてしまうと答えはぐらかす。

ママは、そんな野沢に、一緒に店を持たないかと誘って来る。

ある日、とあるホテル内で、野沢立ち会いの元、由美と客がポーカーをしていると、突然刑事たちがなだれ込んで来て、賭博現行犯で逮捕すると言う。

誰かがチクったのだ。

しかし、元弁護士の野沢は、売春の当事者は処罰されないのだと教える。

その言葉通り、由美は無罪釈放されるが、野沢に、店のオーナーのマンションに連れて行かれる。

オーナーは、男と寝ると肌が荒れるからポーカーを止めて、旦那をもったらどうかと進言する。2、3人掛け持ちすれば良いと言うのだ。

しかし、由美は、金をできるだけ溜めて母に楽をさせてやりたいのでと乗り気ではなさそうなので、それでは月100万出すから自分と暮らさないかとオーナーは持ちかけて来る。

由美のような正直ではっきりした女は初めてだったらしく、オーナーも一目で気に入ったらしい。

自分には5億の財産があるが、自分の死後、浅ましい親族に渡すくらいなら、お前に注ぎ込んだ方がましだとまで言う。

しかし、それを聞いた由美は、野沢に相談させてくれと言う。

それに対し、マンションの屋上で二人きりになった野沢は、自分はあのオーナーには義理があり、昔、株で、社長の金に手を出した時助けてもらったのだと説明する。

そんな理屈を言う野沢に対し、自分の事を好きなのかどうか確かめた由美だったが、野沢は大好きだと答える。

だったら、自分が二号になっても平気なのか、自分と結婚して欲しいと頼んだ由美だったが、それに対し野沢は、君よりママの方が好きなんだと答えるのだった。

じゃ、自分に死ねと言う事かと詰め寄ると、死んだら、君のお母さんが困るだろうと冷たく返されたので、由美は、オーナーの二号になる事を決意する。

その後、刑務所に面会に出かけた由美は、妾になったと報告し、母を驚かせるが、60の爺さんは疲れなくて楽よと嘯いてみせる。

そんなオーナーは、由美の身体や性格に満足しているようだった。

優しいだけの人間は自滅するが、お前は抜け目はないが、情けは深いと、褒める事しきり。

一汗かいたオーナーは、入浴するが、なかなか上がって来ないので様子を見に行った由美は、湯舟の中で眠っているように死んでいるオーナーを発見する。

その頃、クラブ「桐」では、最近ぼんやりする事が多い野沢の事をママがからかっていた。

そんなママの事を、野沢は、ホテルでやっていたポーカーを警察に知らせた密告者だろうと指摘した後、今夜限り他人になろう、自分にとって由美がいかに良い娘だったかがいなくなって初めて分かったと言うと、ママの方も、1500万持ったパトロンを見つけたと言い返すのだった。

そんな野沢は、由美からオーナーの死を電話で知らされる。

マンションに集まったオーナーの親族一同は、遺産をあれこれ勘定しながら喜んでいた。

そんな中、全く無視されているような由美は、同席していた野沢を別室に呼んで、遺産相続に付いて尋ねると、妾には一銭も入らないのだと教える。

ただし、妊娠していたら話は全く逆になり、全部、妾の子が遺産を相続し、親族たちは一銭も受け取れないと聞いた由美は、じゃあ、今夜作ってと、野沢に迫る。

オーナーの悪口を言ってはばからない親族は大嫌いだと言うのだ。

その夜、モーテルに出かけた二人は、朝までベッドを共にし、互いに満足感を得る。

後日、オーナーのマンションに集められた親族たちは、野沢から、4億5000万にのぼる遺産の全ては、ユミのお腹に出来た子供が相続すると報告していた。

その由美から、医者からの診断書を見せられた親族たちは、すぐさま逆上し出し、中には、その場で由美につかみ掛かって来るものまでいた。

しかし、そんな相手に、相続人を殺したら死刑だと冷静に説明した野沢は、1億5000万親族に渡す事で、互いに手を打たないかと切り出す。

由美のお腹の子供が本当にオーナーの子であるかどうかの判定等裁判に持ち込めば、血液検査だけではすまず、骨格等も調べる事になり、一審だけで2年、2、3審で10年はかかってしまうし、負ければ、裁判費用だって膨大に負担せねばならないと説き伏せると、相談しはじめた親族は、野沢の提案に乗る事にする。

結局、話し合いの結果、2億5000万受取る事になった由美は、刑務所の母に面会に一緒に行ってくれた野沢に心から感謝する。

ところが、後日、産婦人科に行った由美は、独断で野沢の子供を堕ろしてしまい、それを野沢の自宅マンションに教えに行く。

驚いた野沢は、あれは自分の子だったんだぞと逆上し、由美を捕まえようとするが、由美は冷静に、あなたとは結婚もしないと決別を告げる。

自分は、あなたから二号になれと突き放された時にすでに死んでいたのだと告白する。

そんな由美に対し、君が新しい社長になって、自分をマネージャーにしてくれと哀願するが、由美はそれを拒絶し、オーナーのものは全部売って金にしてくれ、自分はマンションを建てて、母親と二人で暮したいと言い放つ。

しかし、その後、あなたとは別れるけど、一生忘れないわ…と言い残してその場を立ち去った由美は、並木道を独り歩きながら、空を見上げるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

軟体シリーズの一本。

男にだらしなく、その甘さゆえに身を滅ぼしてしまった母親とは対称的に、男を愛しながらも、その愛が叶わないと知るや、とことん男を利用しつくして、自分と母親だけの幸せだけに心を閉じてしまう、寂しいながらもクールに生き抜く強い女性を描いたストーリーである。

一見、身体と才覚一つで成り上がって行く女性版サクセスストーリーみたいにも思えるが、決して、ヒロインの心は満たされていないはず。

そう言う意味では、割と分かりやすい失恋復讐物語と解釈しても良いのかも知れない。

それでも、ヒロインの最終判断に拍手を送りたくなるのは、彼女に捨てられた野沢と言うキャラクターが、一見クールな優男に見えながらも、実は優柔不断で狡い男だからだろう。

だが、男は誰しも、この野沢的な部分を持っているので、観ていて苦さも感じる。

男女両方が互いに深く傷つけ合う失恋物語は、恐ろしくも哀しい。