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血文字屋敷

1962年、東映京都、林不忘「魔像」原作、結束信二脚本、工藤栄一監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大和屋の娘園絵(丘さとみ)が店を出て向った先は、近々結婚する番所勤めの神尾喬之助(大友柳太朗)の元だったが、その彼女を見張っているものたちがいた。

神尾の職場の先輩にあたる者たちだった。

実は、神尾の上司、無類の女好きと悪評高い戸部近江之介(平幹二朗)も園絵に目を付けていた為、部下にその相手を奪われたとあって、部下を引き連れて嫌がらせに来たのだった。

植木屋で、新居用の鉢植えを購入した神尾と園絵の前に現れた戸部と、先輩たちは、露骨に二人の事をからかいはじめる。

いわく、「新参者なのに逢い引きか?」だの「金目当てで町娘と結婚する男」だの「後でどうなるか知らんぞ」だの…。

後日、江戸城で、番頭、脇坂山城守(香川良介) は、甥にあたる戸部に女遊びもいいかげんにしておけと注意していた。

その日は、神尾と園絵の婚礼の日であったのだが、上司である戸部にへつらって、招待されていた同僚たち17名は誰一人、出席などしないと声をそろえる。

神尾の屋敷では、出入りの職人新太(山城新伍)が、祝いの松の鉢植えを持参して挨拶に来ていたが、城から同僚たちが一人も来ていない事を知ると、台所で飲んでいた職人仲間たちにその仕打ちを悔しがるのだった。

その頃、戸部と先輩たちは、料亭でどんちゃん騒ぎをしていた。

職人たちが帰って行った夜更け、酔った戸部と先輩たちが、不躾にも、新婚初夜である神尾邸に押し掛けて来る。

駕篭で先に帰る戸部から、思いきり暴れて来いと言われた先輩たちは、一応、茶を出そうとする神尾に対し、酒をもってこいと居直る。

ひたすら、妻の園絵と中間の忠助(明石潮)に耐えるように言い残し、神尾は、先輩たちに酒を用意するが、その内、遊女まで連れ込んで来て朝方まで暴れ廻る始末。

この非道な行いは、たちまち職人たちの知る所になり、翌朝、新太はたき火を囲んで仲間たちと話していたが、その場に来合わせたのが、身分卑しからぬ格好の武士一人。

今の噂話の主の名前を訪ねるので、神尾喬之助と答えた新太だったが、馬に跨がって去って行くその武士が、今巷で話題の南町奉行、大岡越前(大川橋蔵)だったと知り、唖然とする。

翌日、昼からの番だったはずの神尾は、遅刻して来たと戸部に難癖をつけられる。

いつから当番の順番が変わったのかと、先輩たちに尋ねても、皆知らん振り。

取りあえずは自分の不注意だったと頭を下げ、仕事に取りかかろうと机に座った神尾だったが、文箱を開けてみると、昨日までちゃんとあったはずの筆がない。

同僚たちの嫌がらせと分かっていたが、あれこれ因縁を付けて来る周囲の声には言葉を返さず、部屋を出て行こうとした神尾だったが、突然、戸部らと一緒に、大岡越前から呼び出しを喰う。

呼出された戸部たちは何事かと越前を迎えるが、越前は、今巷で、新婚の後輩を虐める嫌な上司がいると噂されているが…と、遠回しに注意をし、立ち去りかける際、神尾の横を通り、わざと扇子を落として行くが、神尾が拾ったその扇子には「忍」の一文字が書かれてあった。

その後、総登城の声がかかった際、上司、先輩たちに対し、挨拶をした神尾だったが、戸部は、立ち去りかける神尾に対し、何故自分に挨拶しないと言い掛かりを付けて来る。

今、致しましたが?と問いかける神尾に対し、先輩たちも聞いていないと口をそろえる。

黙って頭を下げ続ける神尾に対し、先輩たちは、何故答えぬ、人形か等と難癖を付けはじめ、とうとう、全員で神尾の頭を踏み付けはじめる。

それでも、頭を上げぬ神尾に業を煮やしたのか、泣いているのかと、無理矢理その身体を起こしてみると、神尾は高笑いしはじめる。

そして、戸部を睨み付けた後、黙って部屋を出て行こうとするので、無礼だと言いながら、その後を追って行く戸部。

その後に残された17名の先輩たちは、番頭、脇坂山城守の甥である戸部に逆らう方がおかしいと、神尾の真面目一徹な性格をなじりはじめるが、その時、部屋の中に、何か、布に包まれたものが投げ込まれる。

それは、何と、先ほど、神尾を追って出て行った戸部の首だった。

その騒ぎを聞き付けた越前は、とうとうやってしまったか…と悔しがるのだった。

その夜、返り血を浴び、頬被りで顔を隠した神尾は自宅まで戻って来るが、役人がすでに門を見張っている。

塀の瓦を遠くに投付け、その音に役人たちを誘き寄せたと、秘かに屋敷内に侵入した神尾は、園絵と抱き合うと、男として我慢できるだけしたが、もはや追われる身となったと別れを告げ、屋敷を後にする。

その頃、部下の水谷から事件の概要の報告を受けていた大岡越前だったが、神尾に同情しているような相手の言動に対し、今では罪人に過ぎないのだと戒めていた。

翌日から、町の岡っ引にも、この神尾捜索の手配は廻っていたが、今回、はじめて十手を預かる黒門町の壁辰(三島雅夫)と出会っていた金山寺の音松(多々良純)も又、おとなしい人を怒らせた方も悪い…と、暗に、神尾に同情的な意見を洩らしていた。

その壁辰の家に雇って欲しいと訪ねて来ていた男を応対していたのは、娘のお妙(桜町弘子)。

そんなお妙に惚れて会いに来たのが、町の大店の若旦那だったが、ちょうど、降り始めた雨の中、父親の壁辰が帰って来たので、仕方なくその場を立ち去る事になるが、諦めきれないのか、来ていると言う客が気になるのか、帰らず、窓の外で中の様子をうかがっている。

壁辰は、職人として雇って欲しいと自分を待っていた男の顔を観てどきんとする。

ちょっと席を外し、懐から出してみた人相描を確認した壁辰は確信する。

今、座敷に座っている男は、神尾喬之助その人だったからだ。

神尾は、自分が最近、十手を預かった事を知らずに来たと見える。

すぐに、お妙に自身番を呼んで来いと耳打ちするが、お妙は家を頼って来たものを訴える等出来ないと拒否する。

仕方がないので、壁辰は一人で神尾をお縄にしようと再び座敷に戻って十手を見せるが、神尾は騒がず、自らの正体を名乗り、しかし、今捕まる訳にはいかない。

自分には、非道な事をされた西の丸番所の17人全員を斬ると言う使命があり、それが終わった後は、おとなしく捕縛されるつもりなので、男一生の願いだから、ここは見逃してもらいたいと頭を下げる。

これを表で盗み聞きしていた若旦那は、ただちに自身番に知らせに行く。

壁辰は、それでも自分はお役目として逃す訳にはいかないと、表に出ると、呼子を吹こうとするが、それにすがりついたのがお妙だった。

男一生の願いと言っている相手を捕まえるような父親であって欲しくないとまで言う娘の言葉に、態度を軟化させる壁辰。

そこにやって来たのが音松。

音松は、玄関に脱いであった神尾の草履を目にすると、すぐさま自分の懐の中に隠してしまう。

少し遅れて、水谷率いる取り方たちが駆け付けて来て、座敷に座っていた神尾に詰め寄る。

ところが、そこに同席した音松は、この男は茨右近と言う別人だと言い出す。

そして、こっそり壁辰にぞうりを渡すのだった。

それからしばらく後、長家住まいの茨右近(大友柳太朗-二役)と、同居しているお弦(久保菜穂子)は、音松が連れて来た神尾の顔を観て驚いていた。

あまりに神尾と右近が瓜二つだったからである。

音松から事情を聞いた右近は、生来豪放磊落な性格だったので、すぐさま神尾に同情し、身柄を預かる事を承知する。

神尾の消息がふっつりと消えたある日、番所17人の一人、大迫玄蕃(小堀明男)の屋敷内に「お命頂戴 只今参上」と書かれた貼り紙が見つかる。

神尾の仕業と気づいた玄蕃は、中間の伊平に浅香慶之助を呼びに走らせた後、屋敷内を警戒するが、座敷内に書面が転がっている事に気づき、拾い上げると、そこには「一番首」の文字が!

暗がりの中に白頭巾を被った神尾が立っている事に気づいた玄蕃だったが、次の瞬間、神尾の刃によって首を切断される。

その玄蕃の屋敷に駆け付けていた浅香慶之助も、道で待ち伏せされた白頭巾によって、首を一刀両断の元切断されて息絶えてしまう。

白頭巾神尾は、その死体に向い、お前の屋敷もやがて、私の所同様、青竹を打たれるのだと呟く。

その言葉通り、青竹で玄関口を封印されていた神尾の屋敷内では、園絵が、神尾の行方を教えろと脅しに来ていた元先輩たちに乱暴されていた。

しかし、何も知らない園絵に答えようもなく、相手の暴力にじっと耐えるしかなかった。

後刻、右近の長家に匿われていた神尾の元に、お弦が思わぬ客を連れて来る。

園絵だった。

久々の再会に言葉もない二人を残し、気を利かしたお弦は右近を外に連れ出す。

最初は、何故、外に連れ出されたか分からない右近だったが、お弦の計らいを知るや、自ら近所の荷車の上に寝そべってしまう。

それに寄り添うお弦は、長家の灯が消えたのを見ると、人助けって、寒いね…と呟くのだった。

長家の中では、暗がりの中、神尾と園絵が抱き合っていた。

神尾の江戸城内での人情騒ぎでは、関係者として番頭、脇坂山城守も謹慎を言い渡されており、外出すらままならないので苛立っていた。

その脇坂邸にも、白頭巾が現れ、脇坂がちょっと席を外した間に、来訪していた元先輩の首を切断してしまう。

この神尾による復讐劇は、瓦版売りの格好の材料となり、町中がこの噂で持ち切りになる。

脇坂は、自分の護衛役として、神保道場の神保造酒(阿部九州男)に用心棒を依頼しに行く。

17人の一人横地半九郎(加賀邦夫)も、独自に3人の浪人者を用心棒として雇い入れ、内輪の宴席をもうけていたが、その最中、隣の部屋に飾ってあった屏風が、縁起の悪い「逆さ屏風」の状態になっている事に気づく。

その上下逆さになった屏風が倒れると、その後ろから白頭巾が出現する。

裏の坊主が、屏風に上図に坊主の絵を描いた…と、三回早口で言ってみせたら誉めてやると、おかしな事を言いながら、陽気に用心棒たちを斬りはじめたのは、長尾本人ではなく茨右近のようだ。

その知らせを受け、神保道場の者たちが横地の屋敷に急いでいると、寺の階段の上に突然白頭巾が現れたので、神保たちは面喰らってしまう。

こちらは本物の神尾なのだが、神保たちに、そんなからくりが分かるはずもなく、その場で斬り合いになるが、そこに駆け付けて来たのが音松。

大岡越前がすぐにここに来るので、喧嘩騒ぎ等止めろと言うのである。

仕方なく、神保たちは引き上げ、白頭巾も又、音松に頭を下げ去って行く。

その後にやって来た越前、出迎えた音松に、何故、神尾はいつまでも捕まらないのだと問いかけるが、その顔は何故か微笑んでいる。

越前にも、民衆の神尾に対する同情心は良く分かっていたのだ。

必ず神尾を生け捕りにしろ。つまり、殺すなと命じた越前は、我々だけの力では…と、音松が弱音を吐くと、召し捕れぬのなら逃げろと粋な事を言って去って行くのだった。

神尾の復讐の標的になっている藩士たちは、神尾の行方を知ろうと、神尾の中間忠助をも町中で追い掛け廻しはじめる。

その様子を観て、止めに入ったのが喧嘩屋右近こと、茨右近。

二人に藩士の首の後ろに、こっそり「七番」「八番」と紙を貼付けて、追い返すのだった。

残った藩士たちは全員集まり、こうなったら町奉行に訴え出ようと意見がまとまるが、その部屋の奥に硯を取りに向った一人が「忌中」の貼り紙を発見する。

そして、白頭巾が出現する。

驚く藩士たちの前に、別の襖から、もう一人の白頭巾が現れる。

二人の白頭巾は、一斉に残った藩士たちを斬り捨てて行く。

そこへ、音松、壁辰らが駆け付け、お縄を見せる。

全ての仕事を成し遂げた神尾は、壁辰の顔を見ると、約束だから…と、自ら手を差し出すが、その神尾に対し、偽者に用はないと言い捨てた壁辰が睨んでいるのは右近の方。

右近の方も、壁辰や音松の計らいを察し、自ら手を出しておとなしく捕縛されて行く。

やがてやって来た大岡越前、捕えられた右近の顔を見るや、こちらも偽者には用はないと言い、そのまま去って行ってしまう。

その後には、通行手形が落ちていた。

何もかも見通した上での、越前の心遣いであった。

それからしばらくして、十手を返上し、又元の左官屋に戻った壁辰は、新吉たちと一緒に、新居の棟上げに参加していた。

それを嬉しそうに見上げるお妙と音松。

そこにふらりと現れた右近は、あれ以来、神尾の姿は江戸で見かけなくなったので、もう江戸にはいないのかも知れない。そうなると、もう一生捕まらないだろうと笑っていた。

その頃、当の神尾と園絵は、旅姿になって、幸せそうに江戸を下っていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

過去、何度も映画化されて来た、林不忘原作「魔像」の映画化作品。

大友柳太朗自身も、1956年「魔像」で同じ主役を演じて以来、二度目の作品である。

もともと、「大岡政談」の一つとして書かれた作品だったようで、当然ながら大岡越前が登場するが、主役と言うよりは脇に徹している。

主役はあくまでも、パワーハラスメントに耐えかね、復讐の鬼と化した神尾である。

この辺、同じ原作者の「丹下左繕」に似ている。

そう言う共通項がある為か、この神尾を過去演じている大河内伝次郎も大友柳太朗も、共に丹下佐膳も演じている役者である。

非常に真面目一徹、堅物イメージの神尾と、豪放磊落な茨右近の二役を演じ分けるのが、この主役の見せ場だろうが、大友柳太朗は共にそれらしく見え、適材だと思う。

神尾の復讐に対しては、民衆たち同様、最初から事情を知る大岡越前も情状酌量で見逃してやる…と言うのは、大衆向け人情劇として分からないでもないが、途中から共犯関係になって殺人を繰り返している茨右近の方まで、あっさり見逃しているのはいかがなものか?(^^;)

上司の戸部を含めると、18人もの大量虐殺事件で、容疑者を見逃して目出たし目出たしと言うのも、いかにも戦前の大衆娯楽らしい、おおらかな原作だからだろう。

前半のシリアスな復讐劇の雰囲気が、途中、茨右近の登場によって、がらりと雰囲気が変わり、二人ヒーローの大暴れ!みたいな通俗なチャンバラ劇になるのも御愛嬌だろう。

仇役を演じている平幹二朗は、出演者の中でも抜きん出た長身で目立っているし、ちょい役で出ている山城新伍は、すでに顔がふっくらとして来ており、もう二枚目役は厳しくなっている時期だ。

悪役の印象が強い三島雅夫が、結構良い役で出ているのも珍しく感じた。