2006年、デジタル・フロンティア、ますむらひろし原作、西久保瑞穂監督作品。
この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので御注意下さい。
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ある夜、アタゴウルの森では、今正に祭りの真っ最中だった。
ステージ場で、変装して大盛り上がりしていたヒデヨシ(声-山寺宏一)は、変装と解くと、ベニマグロ二本両脇に抱えて、会場から逃げ出す。
突如出現したヒデヨシ型の巨大飛行船に乗ると、会場を破壊しながら逃げ去るので、テンプラ(声-内田朝陽)とツキミ姫(声-平山あや)は、いつもながらのヒデヨシのお騒がせに呆れながらも、その大混乱に巻き込まれてしまい、気がついてみると、見知らぬ湖の中に浮かんでいた。
その周囲からは、泡が沸き出し、とてつもなく嫌な匂いが立ちこめている。
その湖の中では、ヒデヨシが、大きな魚の尻尾が岩に埋もれているのを発見、巨大魚を見つけたと思い、引き抜いてみると、それは、巨大な魚の骨だった。
しかも、その直後、湖から飛び出して岸に落ちたヒデヨシは、大きな石館のようなものを抱えて「お宝を見つけた!」と叫んでいる。
テンプラとツキミ姫もそれが何なのか分からず近づいてみるが、ヒデヨシは嬉しそうに、必死で蓋を空けようとしている。
そのヒデヨシに「止めといた方が良い、それは何かを封印しているような嫌な気配がする」と声をかけて来たのは、久々に帰って来ていたらしきギルバルス(声-田辺誠一)だった。
しかし、ヒデヨシは聞く耳を持たず、ついに蓋を開けてしまう。
中から出現して空中に浮かんだのは、水の塊のようだったで、ヒデヨシはビショビショ君と呼び掛けるが、やがて、その水の塊は美しい花の妖精のような姿になり、自分は女王ピレア(声-夏木マリ)だと名乗る。
ギルバルスは、ここヨネザード大陸は、太古の昔、植物に支配されており、その伝説の女王の事だと、ヒデヨシやテンプラたちに説明する。
ヒデヨシは、助けてやったお礼に、ベニマグロを要求するが、ピレアは、眠りを覚ましてもらったお礼だと言って、美しい歌を歌いはじめる。
やがて、朝になり、その歌を聞いていた村人たちは、全員、ゆったりとした、幸せな気分に浸っていた。
しかし、そんな夢のような気分をいっぺんに覚まさせてしまったのは、ヒデヨシの「ベニマグロは?」と言う現実的で不粋な言葉。
歌等に興味は全くなく、空腹に絶えかねていたヒデヨシは、「花の漬物にしてやる!」と叫ぶと、空中に浮かんだピレアに飛びかかるが、あっという間に、遠くの森に弾き飛ばされてしまう。
地面に落ちた瞬間、どこから飛んで来たのか、大きな木の実がヒデヨシの頭にぶつかり転がり落ちる。
さっそく、その木の実を食べようと口に運んだヒデヨシだったが、その木の実はたちまち発芽すると、小さな植物人間のような姿になり、自分は輝彦宮(かがやきのみやひこ)(声-小桜エツ子)だと名乗る。
でも、その長ったらしい名前が全く通じないヒデヨシは、簡単に「ヒデコ」と呼ぶようになる。
そのヒデコは、ヒデヨシの事を、何故か「父上」と呼ぶようになる。
すっかり意気投合したヒデヨシとヒデコに出会ったテンプラとツキミ姫は、ヒデヨシが「父上」と言う言葉の意味を理解していない事に気づく。
ヒデヨシは、子供の頃から親がいなかったのだ。
そんなヒデヨシの元に出現したのは、巨大なサボテンのようなモンスター。
ピレアに従わないのならこうしてやると、トゲをヒデヨシの顔に吹き付けると、ヒデヨシの身体から、芽のようなものが突き出て来る。
同時に、立ったままのヒデヨシの意識はなくなったようだった。
生命力を外に引き出したと説明するモンスターは、続けざまに、テンプラとツキミ姫の顔にもトゲを吹き付け、両者とも意識を失い、芽のようなものが飛び出してしまう。
モンスターが、通常、一本しか芽吹かないはずの命の芽が、ヒデヨシからは複数本飛び出しているのを観て、その生命力に驚くが、その芽を折ってしまえば、命はなくなると、ヒデヨシの命の芽を折ろうとする。
その時、頭上の木の枝に現れたのはギルバルス、モンスターに飛びついた彼は、喉元にナイフを突き付け、ヒデヨシたちの命を救えを命ずる。
素直に、その言葉に従う素振りを見せていたモンスターだったが、ギルバルスが手を緩めると、その顔にトゲを吹き付ける。
たちまち、ギルバルスも意識を失い硬直すると、身体から芽が飛び出して来る。
ほくそ笑んだモンスターが、そのギルバルスの命の芽を折ろうとすると、ギルバルスの身体はヒデヨシの硬直した身体に接触し、たちまち、両者とも、生命力が身体に戻って行く。
目覚めたギルバルスは、ヒデヨシの強力な生命力は、この星の中心と繋がっているんだと説明する。
その言葉を聞いたヒデヨシは、訳も分からず浮かれだし「直結!」と叫んで飛び上がると、地上から噴火するようにエネルギー波が噴出する。
その頃、ピレアの元には、闇の声が、輝彦宮を見つけたと報告していた。
ギルバルスを父親としたのか問うピレアに対し、ヒデヨシという愚かものを父親にしてしまったと答える闇の声。
それを聞いたピレアは、驚いたように、それでは何も学べぬではないかと呟いた後、このヨネザードを秩序ある安らぎの世界に戻すと宣言するのだった。
一方、ヒデコを頭に乗せ歩いていたヒデヨシは、高い気の幹にとまって、樹液を吸っている不思議な動物を見つけ、「セミ人間」と呼び掛けて、何を吸っているのかと声をかけるが、そのものは、自分の名はアミゲン(声-谷啓)で、今、樹液を吸っているのだが、他のものには苦くてまずいものだと答える。
しかし、好奇心と食欲だけは旺盛なヒデヨシと、その影響下にあるヒデコは、すぐに木の幹にしゃぶりつき、苦いながらも旨い樹液に満足するのだった。
その姿を頭上から眺めていたアミゲンは、ヒデヨシは噂通り愚か者だが、そこ知れぬ力を秘めた愚か者だと気づくのだった。
そのそばに、何時の間にか現れたギルバルスは、あいつは、生きる事は祭りだと思っているのだと教える。
その時、遠くの森の上に漂う異様な気配を感じたアミゲンは、闇の女王が動き出した。あいつは、ヨネザード大陸全てを支配するつもりだと呟く。
一方、テンプラとツキミ姫は、仲間たちが全員、首の廻りに花びらのようなものが出来ていて、全員幸せそうに揃って歌っている姿を見つけて戸惑っていた。
空中には、不思議な光の塊があった。
やがて、ツキミ姫やテンプラ自身も、身体から葉っぱのようなものが飛び出ていて、みんなと同じように歌っていると幸せな気分になる事に気づく。
しかし、その雰囲気を壊したのは、又しても、腰に付けた太鼓を叩きながらいい加減な歌を歌って近づいて来たヒデヨシだった。
意識が戻った仲間たちは、ヒデヨシの無礼に怒ると共に、ピレア様を崇めろと命ずるが、ヒデヨシの頭に乗っていたヒデコが、謎の言葉を呟くと、全員、たちまちヒデヨシを崇めるようになる。
ヒデコは、空中に漂っていた光の花粉を操るが、先ほど空中に浮かんでいた不思議な光の塊が、又力を増し、全員、前のように歌いはじめるのだった。
その様子を観ていたギルバルスは、みんなと同じになると安心できるのだと説明する。
それでも、テンプラは、こんなに心が安らぐのなら、花になっても良いと言い出す。
ギルバルスは、何も考えなければ、苦しみや悩みがなくなるからだと続ける。
巨大ヒデヨシ飛行船に乗ったヒデヨシ、ギルバルス、テンプラ、ツキミ姫たちは、アタゴウル周辺の様子を上空から観てみる事にする。
空の上の雲も、地上から伸びて来た樹木の枝にがんじがらめに縛られているし、森も蜘蛛のように伸びた樹木たちで苦しそうだった。
他の集落の猫たちも、全員、首の廻りに花びらを咲かせた植物人間と化していた。
それを観たテンプラは、はじめて、こんな幸せって…と、言葉を失うのだった。
世界中に、ピレアの歌声がこだましていた。
船上にいたヒデコは、危うく船から落ちそうになり、それを助けようとしたヒデヨシも、船から落ちた…かに思えたが、かろうじてヒデコを手に受けとめたヒデヨシは、ロープに足を絡めていた。
そんなヒデヨシ飛行船は、巨大な樹木の塊に接近する。
ピレアの城だった。
船の上に無事戻ったヒデヨシは、そんな樹木を観て、花では腹ふくれないと文句を言う。
しかし、飛行船は、その城に激突してしまう。
船から投げ出された全員は無事に樹木に降り立ち、樹木城を登って行くが、そこには花にされた人間たちがいた。
その花人間たちの首の廻りから、花びらが消え去ると、身体からエネルギー体のようなものが分離していく。
ギルバルスから、あれは、彼らの幸せに記憶であり、生き魂だと説明されたテンプラたちは、その花にされた人間たちがすでに息絶えた事を知る。
その時、城の上の方から、うつぼ葛に似た、小さな多くの植物たちが彼らの元に歩いて降りて来る。
そんな植物を観たヒデヨシは、恐がりもせず近づいて、女王ピレアの居所を尋ねるが、植物たちは、他のものたちを取り囲んでしまう。
テンプラたちは、そんな植物たちと戦いはじめるが、ヒデヨシはヒデコを連れて、さっさと別行動で樹木を登りはじめる。
やがて、ヒデヨシは、光に包まれた王宮のような場所に出るが、そこでは、別方向から到達したテンプラたちが、先ほどのうつぼ葛のような植物から出て来た光の魂をもらって食べている醜い老婆の姿を前にしていた。
やがて、その老婆の身体は、見る見る若返り、ピレアになったではないか!
ピネアは、自分の永遠の若さを保つ為に、人の生き魂を食べていたのだった。
やっと来ましたねと、テンプラたち一行に呼び掛けたピレアの側には、タツノオトシゴと鳥をミックスしたような竜駒(声-佐野史郎)が控えていた。
その浅ましい姿や考え方を批判するツキミ姫らに対し、ピレアは、人々は秩序を求めているのだと冷たく答える。
そこに、突然、スミレ博士なる人物に変装したヒデヨシが近づいて来るが、たちまち、ピレアに正体を見破られてしまう。
ピレアは、テンプラたち一同を、細い紐状の物で絡め取ると、ギルバルス共々、生き魂を食べてみたいと言う。
すると、ギルバルスの首の廻りに花びらが咲き、やがて、その花びらが枯れて消えると、その身体から、命のエネルギーが抜け出てしまう。
ピレアは、輝彦宮の居場所を教えろと、ヒデヨシたちに迫るが、答えなかったヒデヨシも又、花にされ、生き魂を抜かれてしまう。
ギルバルスの生き魂は、空中を逃げ回っていたが、とうとう竜駒に捕えられてしまう。
一方、一旦、生き魂が抜け、死んだはずのヒデヨシの方は、その生き魂が身体に戻って行き、息を吹き返してしまう。
その近くに現れたヒデコを見つけたアミゲンは、それを捕らえてしまう。
それを観たヒデヨシは、樹液酒を飲み放題にしてやるからヒデコを返してくれと哀願する。
その言葉を聞いたアミゲンは、ヒデヨシとヒデコの間に、強い親子の絆が出来ている事を悟る。
ヒデコの姿が、予想に反し、小さな植物の姿のままだったのを知ったピレアは、そのものは役立たずだとバカにし、他の仲間たちを処刑すると宣言する。
一方、仲間たちを見捨て、その場を逃げ出そうとするヒデヨシに、ヒデコは、仲間たちを助けなくても良いのか?いつものようにサイコー!で行こうぜと渇を入れる。
ツキミ姫は、力で人を支配しようとする恐怖の女王なんて、寂しいだけじゃないかと説くが、やがて、戻って来たヒデコも捕まえたピレアは、全員処刑だ!と叫ぶ。
全員、食虫植物のようなものに挟まれて身動きできなくなった中、ヒデヨシは、ヒデコを逃してくれと、仲間を裏切るような言葉を吐く。
それを聞いたピレアは、それなら、ギルバルスの生き魂を食べろと命ずる。
秩序を乱す害虫は、生きるに値しないとも。
そして、竜駒から出て来た生き魂を自ら飲み干したピレアは、驚愕の表情を浮かべるのだった。
竜駒の身体からもう一つの生き魂が抜け出たかと思うと、それはギルバルスの身体に戻り、生き返った彼は、ピレアの身体に斬り掛かると、「手下の味はどうだった?」と聞く。
生き玉が竜駒に捕まった瞬間。ギルバルスは竜駒の生き魂とすり変わっていたのだ。
一旦は、倒れ消え去ったかに見えたピレアだったが、その後、甦ると、「今や、拡散の時だ!」と叫び、空から無数の火の粉のようなものが地上に降り注ぎはじめる。
それは、ピレアの種子であり、それが地上に到達すると、無数のピレアが芽吹く事になるのだ。
その時、飛んで来たアミゲンが、ヒデヨシとヒデコの元に来て、あいつを倒せるのは、言い伝えによると、植物の王しかいないと言う。
その瞬間、覚醒したヒデコを頭に乗せたヒデヨシは、どこかに向って全速力で走りはじめる。
ヒデコにどこへ行くのかと聞いても、ヒデコ自身も知らないようだった。
やがて、彼らは湖の中に飛び込むと、水中にあったピレアの本当の根っこと言うのを見つける。
その根っこを封印できるのは自分だけなのだと、ヒデコから説明されたヒデヨシだが、封印の意味が分からない。
しかし、封印してしまうと、自分自身も消えてしまうのだと聞かされるや、ヒデヨシは、封印なんか止めろと言い出す。
人は、とことん生きる為に生まれて来たのであり、誰かを助ける為とかの理由で死んではいけないと言う。
そこに、とてつもなく巨大なピレアが出現する。
小さなヒデコに対し、お前はしたのだ。かつて、植物の王とは、自分と同じような巨大な存在だったが、お騒がせデブ猫を父親にしてしまったばかりに、下品な言葉遣いしか出来ない役立たずにしか育たなかったと言い放つ。
しかし、ヒデヨシは、そんなピレアに敢然と挑みかかって行く。
巨大なピレアの力で、跳ね返されても、跳ね返されても、世界を自分一人にしてしまったら、遊んでくれる仲間もいず、寂しいんだと叫びながらヒデヨシは向って行く。
巨大ピレアのスカートの裾に捕まったヒデヨシだが、電流にうたれ、近くの巨木に叩き付けられてしまう。
そこに飛んで来たアミゲンは、何時の間にか様子を観ていたギルバルスからどちらが勝つと思うと聞かれ、ピレアに賭けると答える。
すでに、ピレアの身体は、巨大な闇のバリアで包まれていた。
一方、俺はヒデヨシに賭ける!と叫んだギルバルスは、自らもその闇に立ち向かって行くが、とても勝ち目はなく、簡単に跳ね飛ばされてしまう。
すると、樹木の幹に半分埋もれ、気絶していたと思われたヒデヨシが、再び闇の中に飛び込んで行く。
ピレアに捕まったヒデコは、世の中は完全じゃないから面白いんだ、素敵なんだ、俺の父親はサイコーだぞ!と叫ぶと、光の粒になって、ピレアの顔に降り注ぐ。
すると、ピレアは、一瞬の内に崩れ去って行く。
地上に降り注いでいた赤い種子は、何時の間にか色褪せ、それはやがて、地上に降る雨になっていた。
空は既に抜けるような青空に戻っていた。
テンプラたちが、その元の世界に戻ると、目撃師アミゲンは、ピレアのの胸の奥にヒデコの思いが入ったのを目撃したと呟く。
アタゴウルの村では、又、昔のように、明るく踊る仲間たちの姿があった。
全編、モーションキャプチャーによる3DCGIで作られたファンタジー世界。
ストーリー自体は、良くあるヒーローファンタジーのようなパターン的展開で、あまり新味は感じられない。
この筋書き自体が、原作にあるものかどうかは知らないが、自分が読んでいた印象だけからすると、ちょっと、この映画版は暗さが目立ち、明るくのんびりとした原作のイメージとは違うように感じた。
一方で、イメージ中心のミュージッククリップでも観るような雰囲気もあり、最新CGIのデモンストレーションと割切ってみれば、それなりに楽しめないでもない。
あれこれ、ファンタジー作品をたくさん観た事がない初心者や、逆にファンタジーなら何でもOKと言うタイプ、又、CGIテクニックに関心がある人向けであり、万人向けとは言えないかも知れない。
イメージ作品として観れば、その豊かなイメージと、目まぐるしく展開する複雑なエフェクトの連続は楽しい。
モーションキャプチャーによる滑らかな動きや、ヒデヨシたち猫の毛皮表現や、植物表現等、CGIテクニックとしては色々感心する事が多い。
オリジナル以外のキャラクター設定は、やや平凡かも知れない。
