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透明人間現わる

1949年、大映東京、高木彬光原作、安達伸生脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

「科学に善悪はありません。ただ、それを使う人間によって、善にも悪にもなるのです。」

神戸にある中里化学研究所では、中里博士(月形龍之介)と、二人の助手瀬木恭介(夏川大二郎)と黒川俊二(小柴幹治)が共に研究を続けていた。

瀬木は、黒はあらゆる光を吸収してしまう。だから、純粋な黒の色素を発明すれば、それは見えなくなるはずだと、黒川に説明していた。

それに対し、黒川は、現実の黒は見えるじゃないかと反論するが、それは、純粋な黒が出来ていないからだと瀬木は答える。

今度は、黒川は自説を説明しはじめる。

問題は影だ。

どんなに物体が透明になっても、影を落とせば、その物体が透明になったとは言えない。

自分は、あらゆる光を通過させる透明な色素を研究していると言うのだ。

二人の熱っぽい議論を脇で聞いていた中里博士は、笑いながら二人を制し、先に透明薬を発明したものには中里賞を出すが、何が良いかと冗談まじりに尋ねて来る。

それに対し、二人は真顔で、お嬢さんをくれと言い出すのだった。

そのお嬢さんとは、中里博士の長女、真知子(喜多川千鶴)の事だったのだが、当の真知子は、そんな話を聞かされ、本心では恭介の方を好きだったのだが、二人の面子を保つ意味もあり、その話自体を断わってしまうのだった。

そうした最中、中里博士の後援者である河辺社長(杉山剛)が、レビューを観に行こうと、真知子と妹の素子(高原朝子)を誘いに来る。

研究室を訪れた川辺と二人きりになった中里博士は、実は、自分は黒川と同じ発想で、透明薬をすでに完成しているのだと打ち明ける。

冗談だと思い、笑って信用しない河辺に対し、洗面台の鏡の後ろの隠し扉にしまってあった薬を取り出すと、黒い水の入った容器に注ぐと、見る見るその水は透明になった。

興味を示した川辺に対し、中里博士はモルモットを手に取ると、その口にピペットで薬を飲ませると、しばらく後、そのモルモットは透明になってしまう。ただし、元に戻す還元薬は出来ていないと言う。

俄然、興味を示した河辺は、すぐにでも権利を譲ってくれと申し出るが、悪用される恐れがあるのでと、博士にきっぱり断わられてしまう。

その後、博士の娘二人を連れて、タカラ歌劇団のレビューを観に行った河辺は、今や花形スターである水城龍子(水の江滝子)が、黒川俊二の妹なのだと知らされる。

そこで、黒川を呼出し、龍子も誘って一緒に喫茶店に出かけるが、素子は、スターの龍子に色めき立った廻りの客たちから頼まれ、たくさんサインを龍子に書いてもらうのだった。

その後、真知子にブローチをプレゼントしようと言い出した河辺は、繁華街の宝石店、天寳堂に出かけるが、その店内の片隅で、「アムールの涙」と言うダイヤのネックレスを売りに来た富豪の婦人(大美輝子)らしき女性と支配人が、買取り値段の交渉をしている現場を目撃する。

店側は500万と値踏みしているようだが、婦人に同行していた畑中(荒木忍)という男は不服のようであった。

その頃、中里博士から透明にされた猫のミミは、博士の手を逃れ研究室から逃げ出していた。

ここ数日、ミミの姿が見えない事に気づいていた真知子と素子だったが、ピアノを弾いている部屋で、そのミミの鳴き声を聞いたので、二人して捜しまわるがどこにも見当たらない。

やがて、ピアノの椅子が凹んだかと思うと、ピアノの鍵盤が鳴り出す。

さらに、ピアノの上に置いてあった花瓶や、熊の人形等が次々に倒れはじめる。

気味が悪くなり、素子が呼んで来た母親(六條奈美子)も、床に置いた花瓶が倒れ、その水が付いたのか、猫の足跡が点々と絨毯に付いて行くのを目撃する。

さらに、父親の中里博士を探しに行った素子だったが、その博士の姿は屋敷内から消え失せていた。

博士がいなくなったと聞き、研究室にやって来た黒川は、実験用の動物室で、からからと独りでに廻り続けている回転板を見て、その中には透明な鼠がいるのだと気づき、自分が考えていた同じ発想の薬を、すでに博士に先に完成させられていたのだと知るのだった。

そんな所に、素子が玄関に手紙があったと持って来る。

それには、透明薬の成果を実行する為、自らの意思で留守にする。2、3日で帰るので、決して、警察等に知らせないようにと記してあった。

一緒に手紙を読んでいた瀬木は、この手紙を持って来たものを追えば、博士の居所が分かるはずと、すぐさま玄関口に走って行くが、ちょうど、そこに車でやって来たのは河辺だった。

訳を話し、車を拝借して、手紙の配達者を追う瀬木。

一方、黒川の部屋にやって来た河辺は、このままでは、同じ薬を研究中だった君は何かと疑われる事になりかねない。2、3日、旅行でもして来てほとぼりの冷めるのを待った方が良いと、旅費を渡してくれるのだった。

一旦、自宅アパートに帰り、荷造りをしていた黒川の元に、中里博士からの内密の使いという男が訪ねて来て、黒川を車に乗せると、どこへともなく走り去って行くのだった。

その翌日、天寳堂に車が乗り付け、その中から顔中を包帯で巻き、サンブラスを掛けた不思議な男が降りて来て、店に入ると「中里謙三」という名刺を渡して、主人に面会を申込む。

あいにく、主人は出張中と言う事で、支配人の谷本(上田寛)が相手をするが、中里博士を名乗るその包帯男は、アムールの涙を譲って欲しいと言い出す。

その首飾りなら、値段が折り合わず、所有者の婦人が持って帰ったと、谷本が答えると、それでは金庫を見せてくれと言い出す。

相手の様子がおかしいと気づいた谷本は、「(警察に)突き出されたいのかね?」と毅然として拒絶するが、相手の包帯男は、その場で立ち上がると、サングラスを外し包帯を解きはじめる。

谷本が不審気に見ていると、包帯を取り終えたその男の顔の部分には何もなかった。

さらに、その場でコートと洋服を脱いだ男の体も透明だった。

ちょうど、茶を運んで来た女店員は、その様子を見て悲鳴をあげ、その一瞬の隙に、谷本は部屋から逃げ出し、外から鍵を掛けてしまう。

失敗したと悟った透明人間は、今は帰るが、又来るぞと言い残し、窓から外に逃亡するのだった。

急報を受け、現場に駆け付けた警視庁の松原主任(羅門光三郎)は、部下たちを、中里博士邸と、ラムールの涙の所有者が泊まっている三ノ宮ホテルに走らせるのだった。

その夜、元町の盛り場を、一人の酔っ払い(湯浅豪啓)がふらつきながら歩いていた。

彼は、突然何かにぶつかって倒れるが、何もない空間から「洋服を脱いで行け」と命令され面喰らう。

酔っ払いは、適当に相手をしていたが、突然、何者かに組み付かれると、瞬く間に服とズボンを脱がされてしまう。

その服とズボンを身に付けた透明人間がガード下を歩いていると、たまたま通りかかった警官から声をかけられるが、帽子の下には何もなく、驚いた警官は警笛を吹いて仲間を呼び集めるのだった。

かくして、神戸元町に透明人間現わるというニュースが新聞各紙を賑わす事になる。

中里研究所を訪れた松原捜査主任は、洗面台の鏡の後ろの隠し戸棚を発見し、その中にあった博士の日記のようなものに書かれた、私が死んだら、透明薬アトミナ・ベルナの権利を川辺一郎氏に譲ると言う文章を読んでいた。

さらに、透明薬の還元薬は出来ておらず、一旦透明になったものは、死なない限り元に戻らない事、薬の副作用により、神経系統に異常をきたし、狂暴化する恐れがあるとも記してあった。

その後、出張から戻った天寳堂の主人は、支配人の谷本から透明人間に襲われた報告を受け、面白がっていた。

そんな透明人間がいるのなら、一度お目にかかりたいものだと笑っていた主人に、「お目にかかりたいか?」と、どこからともなく声が聞こえて来る。

そして、部屋に紛れ込んで来た猫を抱き上げると、それをテーブルに置き、花瓶を持ち上げると、逃げようとした主人の頭に投げ付けて気絶させてしまう。

胸元を透明人間に締め付けられた谷本は、問われるまま、アムールの涙の所有者が泊まっている三ノ宮ホテルの26号室を教えてしまう。

その頃、その三ノ宮ホテルの26号室で、もう少し粘れば700万には売れると婦人と相談していた畑中は、カーテンの後ろに透明人間が来ているのに気づく。

畑中は、透明人間が振り上げた台で頭を殴られ倒れるが、アムールの涙を持った婦人は、廊下に飛び出すと、向いの25号室に飛び込んでしまう。

そこには、水城龍子が泊まっており、婦人の訴えを聞いた龍子は、直ちに警察に電話するのだった。

その騒ぎを聞き付け、押っ取り刀で集まって来た従業員たちを前に、笑い声を残して、透明人間は何処ともなく消え去って行く。

その後、河辺は、中里博士の後見人として、博士が起こした事件に関する記者会見を中里博士邸で開いていた。

その頃、研究室では、真知子が瀬木に寄り添っていた。

そこへやって来た河辺は、黒川俊二が誘拐された事が、私立探偵に調べさせて判明したと伝える。

さらに、真知子が出て行った後、瀬木に対しては、自分は君の味方だが、今、真知子さんに近づいて、周囲から妙な疑われないように自重しなさいとアドバイスするのだった。

しかし、瀬木は自ら生田警察署を訪ねて行く。

一方、三ノ宮ホテルの前に乗り付けた車の中では、「博士、水城龍子を狙ってくれ」と、何者かが同乗者に話し掛けていた。

その水城龍子は、部屋に匿っていた婦人に対し、自分がアムールの涙を御守すると約束していた。

そこへやって来たのが、瀬木だった。

龍子の兄、黒川が誘拐されたと知らせた彼は、龍子とともに、黒川のアパートに行き、管理人から当夜の事情を聞き出していた。

そして、中里博士の日記に記してあった文字の鑑定から、ほぼ犯人の目星を付けていた松原捜査主任とも相談の上、瀬木は龍子に、犯人逮捕の協力を依頼するのだった。

後日、ホテルで河辺に会った龍子は、同席した婦人が持つアムールの涙を見せ、買取ってくれないかと相談していた。

河辺は快諾し、800万で買うと返事する。

その河辺が車に戻る間に、手帖に何やら書き込んだ龍子は、それを松原主任に渡すように婦人に託すのだった。

その河辺の車に同乗した龍子は、婦人から預かったアムールの涙を持っていたが、とあるトンネルを抜けたところで、包帯にサングラス姿の男に行く手を阻まれてしまう。

拳銃を突き付けられた龍子は、やむなくその包帯男にアムールの涙を渡し、河辺も、どうして宝石を狙うのかと尋ねるが、包帯男は何も答えず、そのまま車を走らせて立ち去るように促すだけだった。

車が立ち去った後、近くの草むらの中に駆け込み、その包帯を解きはじめた男だったが、龍子の知らせで、あらかじめトンネル付近で待機していた松原捜査主任一行が、その男を追いはじめる。

その頃、中里研究所を何者かが訪れたのを、番犬のスピッツが不審な眼差しで見つめていたが、吼えたりはしなかった。

その何者かは、研究室にいた瀬木の肩に手を置く。

驚いた瀬木が振り向くがそこには誰もいない。

やがて、俺は先生に裏切られたという、聞き慣れた黒川の声が聞こえて来る。

透明人間は黒川だった事を知った瀬木は、君は誰かに騙されているんだと言い聞かせ、詳しい話をするように促す。

椅子に腰を下ろし、煙草を瀬木からもらった黒川は、その煙草を吹かしながら話しはじめる。

中里博士からの内密の使いだとアパートへやって来た男(上田吉二郎)に、車の中で目隠しをされ、とある屋敷に連れて来られた黒川は、隣の部屋で人体実験をしていると聞かされた博士が、「助けに来てくれたのか?速く頼む」と怒鳴っている声をドア越しに聞き、それを、自分が代わりに透明薬を飲んでくれと言っているのだと思い込み、自ら透明薬を飲む事にする。

しかし、透明になった自分を、博士は一向に元の姿に戻してくれないないばかりか、副作用による凶暴振りを観察したい等と言っていると、又、例の使い男に聞かされたのだと言う。

あげくの果てに、還元薬が欲しくば、アムールの涙を奪って来いと言われたと告白する。

何とか、還元薬を手に入れてくれと頼まれた瀬木だったが、博士の日記に、一旦透明になったものは、死なない限り元に戻れないと書かれてあったのを思い出し、何とも答える事が出来なくなる。

そこへやって来たのが、真知子。

彼女は、瀬木だけしか室内にいないと思い込み、黒川との、自分を結婚目当ての研究競争なんか止めてくれ、自分が思っているのはあなただけなのだと告白してしまう。

透明になった黒川が、その言葉を聞いていると分かっている瀬木は、何とか、その真知子の言葉を撤回させようとするが、黒川は、部屋にあったビーカーを投げ付けると、窓を破って外に飛び出して行くのだった。

そして、「ちくしょう!覚えていろ!」と捨て台詞を残すのだった。

一方、捕まえた包帯男がただの替え玉だった事を知った松原捜査主任は、彼を警察に連行しようとしていたが、何かに異常に怯えた様子のその男は、パトカーに乗せられる直前、何者かにナイフで背中を刺されてしまい、さらに、松原主任が持っていたアムールの涙も、何者かに奪い取られてしまうのだった。

車の中で待っていた使いの男に、そのアムールの涙を持って来た透明人間黒川は、早く還元薬をくれと迫るが、男は冷静に宝石を見ると、これはただのガラス玉だと答えるのだった。

アムールの涙を事前に偽者とすり替えていたのは、龍子のアイデアだった。

本物のアムールの涙は、今では真知子の胸を飾っていた。

それを中里邸で聞かされていた河辺は、外の車で待っていた子分たちに、トリックに騙されたので、こうなったら、自分が須磨の別邸に真知子を連れて行ってアムールの涙を奪うと伝える。

部屋に戻って来た河辺は、お父さんと連絡が取れたので、那須の別宅で会おうと真知子を誘い出し、車で出発する。

その河辺の車とすれ違う形で、中里邸にやって来た使いの男の車は、警察車が近づいて来たのに気づき、こちらも別邸へと急ぐ事にする。

研究室にやって来た松原捜査主任から、犯人は河辺に間違いないと聞かされた瀬木は、たった今、真知子が連れて行かれたので危ないと伝えるが、その直後、今、表でサイドカーを透明人間に奪われたと、警官が駆け込んで来る。

主任の話を、側にいた透明人間の黒川が聞いていたのだ。

すぐさま、サイドカーに乗った透明人間を確保するよう連絡が取られるが、那須街道をひた走る無人のサイドカーは、道路に立ちふさがった警官たちの阻止を振り切って行く。

須磨の別邸に着いた河辺は、部屋の鍵をかけると、騙されたと気づいた真知子に、博士なら本当にここの地下室にいると教えた後、アムールの涙を渡せと襲いかかるのだった。

その頃、その地下室に包帯姿の男が近づいていた。

包帯男は、味方と見間違えた見張りが去って行った後、縛られていた中里博士を救出しようとし始める。

やがて、その別邸に、透明人間が乗ったサイドカーが到着する。

そして、窓を破って室内に侵入した黒川は、カーテンの後ろで揉み合っていた河辺と真知子を発見、河辺を突き飛ばすと同時に、真知子にアムールの涙を渡すように迫るが、真知子は、これは龍子さん以外には渡せないと拒絶する。

同時期、地下室では、博士を助けようとしていた包帯男の正体がばれ、駆け付けた子分たちが争っていた。

部屋では、とうとうアムールの涙を奪い取った透明人間黒川が、これでようやく還元薬が手に入ると喜んでいたが、その様子を観た真知子が、あなたは悪魔だと罵った為、激怒した黒川に襲われる事になる。

しかし、そこへ駆け付けて来た瀬木が、部屋にあった椅子を透明人間に振り下ろす。

その後、河辺と使いの男が打合せをしている部屋にやって来た透明人間黒川は、真知子から奪って来たアムールの涙を見せ、還元薬をくれと迫るが、そんなものはない、君は一生透明人間さと、河辺に嘲られる。

地下室の中里博士は、包帯を取った人物の素顔を観て驚いていた。

それは、黒川の妹の龍子だった。

そんな龍子の前に透明人間黒川が来る。

使いの男たちは、そんな黒川に発砲し始める。

そこへ、警察隊が乱入して来たので、使いの男は反撃しながら脱出しようとし始める。

松原捜査主任は、砂浜で見つけた河辺に、あなたじは、表向きの会社社長とは別に、宝石ブローカーとしての裏仕事をやっており、中里博士の発明した透明薬を使えば、アムールの涙を奪う事ができると考え、黒川を騙して強奪させたのだと推理を聞かせる。

しかし、河辺はしらを切りながら銃を取り出すと、その場から逃げようとするが、その銃を誰かに奪われてしまう。

透明人間黒川が側で聞いていたのだ。

河辺に騙されていたとようやく悟った黒川は、河辺を殺そうと銃を発射する。

側でこの有り様を観ていた松原捜査主任は、捕まってくれと黒川を説得、さらに駆け付けて来た龍子も、空中に浮かんだ剣銃を掴むと、兄に止めるように説得するが、もはや聞く耳を持たないまでに狂暴化した透明人間黒川は、さらに迫る警官隊に向って発砲を続ける。

もはやこれまでと観念した龍子は、松原捜査主任に、あの狂った兄を撃ってくれと頼むのだった。

やがて、警察隊が放った銃弾があたったのか、空中に浮かんでいた拳銃がぽとりと砂浜に落ちる。

そして、砂浜に付いた足跡が海に向って進んで行く。

私の舞台も観てくれないまま死ぬなんてあんまりだわと嘆く龍子。

中里博士も、今回の事件の責任は自分に負わせてくれと、松原捜査主任に伝えていた。

海の中には、死んで元に戻った黒川の姿が浮かぶ。

「科学に善悪はありません。ただ、それを使う人間によって、善にも悪にもなるのです。」

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

円谷英二が特撮を担当したSF映画。

原作者が、天才探偵神津恭介が活躍する探偵小説「刺青殺人事件」(1948)などで知られる高木彬光である事からも明らかなように、ミステリー風というか、犯罪物語風展開になっている。

この映画の主役の名前も「恭介」である所に注目!

冒頭、いきなり、二人の助手を前にした中里博士こと月形龍之介が貫禄たっぷりに出て来る所で、まずはこの当時、東映で月形の当たり役となっていた「水戸黄門」を連想してしまう。

戦前から、特に、時代劇のイメージが強かった月形が、こんなSF映画に出ている事自体に驚きなのだ。

さらに、明らかに宝塚のイメージである「タカラ歌劇団」のレビューでギターを抱えて歌っているのは、ターキーさん事、水の江滝子。

そのレビューの出し物が「花くらべ狸御殿」というのも興味深い。

映画で宮城千賀子の十八番だった題目である。

後半まで観て行くと、この映画の本当の主人公が、中里博士役の月形龍之介でも、瀬木役の夏川大二郎でもなく、明らかにターキーさんである事が分かる。

ターキーさんが大活躍する物語なのだ。

一体、サイドカーに乗った透明人間よりも、先に須磨の別邸に到着しているターキーさんは、どうやって来たのか分からないくらいスーパーヒロインとして描かれている。

登場場面も、たえず奇妙キテレツな衣装を身にまとって目立ちまくり。

「ターキーさんと透明人間」とでも題した方がピッタリかも知れない。

透明薬を飲んで透明人間になると、副作用で狂暴化するというのは、オリジナルのH・G・ウェルズ原作「透明人間」の設定をそのまま使用している事になる。

ただし、ミステリーとしては、良く分からない事だらけ。

宝石を盗むくらいだったら、覆面に手袋くらいの通常の強盗で十分ではないのか?

透明になったところで、ドアを通り抜けられる訳でも、金庫内に入り込める訳でもない。

単に、人を脅して金庫を開けさせるのが目的なら、透明になる必要はないように思われる。

いきなり「中里博士」の名刺を犯行現場に残して来るのも、意味が分からない。

透明人間の発明については、中里博士と犯人以外は誰も知らないのであり、その中里博士は捕えてあるのだから、何も証拠を残さなければ、現場で何が起こったのか、誰の仕業か永久に分からないに違いない。

それ以外にも、犯人が自分を捕まえてくれと言わんばかりの、間抜けな行動振りには呆れてしまう。

透明のままでいた方が、誰にも見つからないはずなのに、 逃亡した透明人間が、酔っ払いから服を奪う件も意味が分からない。

単なる世間を騒がせようとするいたずら感覚なのか?

黒川が、唯々諾々と犯人グループにあっさり騙されるシーンも無理を感じる。

円谷英二の特撮に関しては、後の東宝版「透明人間」(1954)よりは、あれこれ工夫が凝らされ、見せ場も多いし、出来もこちらの方が良いと思う。

ストーリーは、好みもあるだろうが、個人的には、叙情的な東宝版の方を取る。