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潜水艦イ−57降伏せず

1959年、東宝、須崎勝弥+木村武脚本、松林宗恵監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和20年6月10日、敵大型巡洋艦を発見した潜水艦イ-57号から、人間魚雷回天が発射される。

回天に乗っているのは遠藤少佐(瀬木俊一)、彼は河本艦長(池部良)と同期の山野甲板士官(久保明)に無線で交信した後、潜水艦の甲板上から離脱、見事に巡洋艦に命中する。

しかし、戦友を失った潜水艦の中に喜びの声はなかった。

そんな艦長の元へ、先任将校志村大尉(三橋達也)が本部からの指令を持って来る。

沖縄水域を離脱し、マレー半島のぺナン吉に向えと言うものであった。

すでに、サイパン、テニアン、硫黄島、沖縄と、次々に壊滅している日本の戦況下で、3年半の間に20余度出撃し、10数隻の敵艦を撃沈させて来たこのイ-57号に何をさせようとしているのか、本部の意向は計りかねたが、取りあえずぺナンに到着する。

ぺナン基地で、河本艦長を迎えたのは、戦艦大和で知り合った横田参謀(藤田進)だった。

指令室に招かれた河本艦長は、司令官(高田稔)に挨拶をした後、旧友でもある横田参謀から、思い掛けない指令を聞かされる。

ポツダム会談の席において、日本に少しでも有利になるように、親日派の某国外交官を派遣するので、それをアフリカのスペイン領カナリア諸島まで護衛して行ってもらいたいと言うのであった。

それを聞いた河本艦長は激昂し、降伏の片棒を担ぐような考えなら死んでくれと、自らのピストルをテーブルに置いて、横田参謀を睨み付ける。

横田は続ける。

もはや、日本には食料も油もない。

国民が飢え死にをして、何の栄光があろう。

竹やり精神ではもうダメだ。

今や、少しでも、我が国に有利な和平条約を結ぶ事が大切なのだと。

すでに、司令官も承諾の上の決断である…と。

結局、川本艦長は、その指令を承諾する事になる。

外交官ベルジェは、シンガポールから合流する。

喜望峰経由でパナマ島に8月4日、02:00に、油送船が待機しているので、そこで油を補給するようにと、具体的な指令が伝えられる。

帰艦した河本艦長は、指令を伝えた志村先任将校から猛反対される。

しかし、一度決断した気持ちを変えるつもりのなかった河本艦長は、俺一人でも最後までやってみせると言い切る。

その姿勢を観た志村先任将校も、自分達は戦う事しか知らないのだと伝え、あうんの呼吸で互いの気持ちを察
しあうのだった。

そんな事は知らない乗組員たち。

水雷課の太田水雷長(織田政雄)は、6本しか詰めなかった魚雷に、各々自分の6人の娘の名前を付けていた。

部下たちは、その話を知って、自分の嫁にくれなどとはしゃぎ出す。

出航前、任務に必要最小限の乗組員50人以外の20名は退艦する事になる。

その退艦者たちが集合したペナン本部前、横田参謀は河本艦長から託された手紙を読み、残された者たちの悔しさを慰めるのだった。

「散る桜 残る桜も散る桜」

出航後、間もなく浮上したかと思うと、すぐ停船。

艦内の竹山上曹(南道郎)らは、マッチ箱くらいの大きさで沖縄を全滅させるほどの新兵器を積み込むのではないかなどと噂しあっていた。

そんなイ-57号に、ベルジェ(アンドリュー・ヒューズ)と、その娘ミレーヌ(マリア・ラウレンティ)が乗艦して来る。

父親と違い、同行させられる形となったミレーヌは最初から日本人を嫌っているようだった。

一方、若い娘が乗艦して来たという噂は、たちまち艦内中に広まる。

二人の健康管理は、中沢軍医長(平田昭彦)がする事になる。

志村先任将校は、機関長(三島耕)、航海長(土屋嘉男)、通信長(岡豊)らを集合させ、今回の任務を説明し、了解を得るが、独り、山野甲板士官だけは、作戦そのものに納得していないようだった。

ある日、食事に出した卵をミレーヌが食べてくれたと喜んでいる当番兵、阿部一水(多川譲二)の姿を観た山野甲板士官は、その姿勢が外国人に媚びているように感じられ、鉄拳制裁をくわえようとするが、自分に与えられた仕事の成果を喜んでいるだけではないかと、中沢軍医になだめられる事になる。

赤道を過ぎて3日、ミレーヌの不機嫌はますますつのるばかりで、体を洗いたいので水をくれと中沢軍医長に申し出てくる。

しかし、艦内の水の消費は必要最小限に押さえられている為、中沢軍医長からその依頼を聞いた志村先任将校は、即座に拒否するのだった。

とは言うのもの、結局、盥一杯の水が倉庫に運ばれる事になり、それを目撃した竹山上等兵曹は、外国人優遇のその姿勢に腹を立て、部下たちを連れ倉庫の前まで来ると、鍵穴から、中を覗いて入浴中のミレーヌの体を観て良いと言い出す。

そこへやって来た山野甲板士官が叱りつけるが、竹山上曹は「士気を鼓舞するためだった」と平然と答えて立ち去る。

入浴を終え倉庫から出て来たミレーヌは、そうした騒ぎに気づいたのか、ますます日本兵をバカにするようになり、途中、親切心から卵を渡そうとした阿部一水までも無視して部屋に戻るのだった。

任務を知らされていない乗務員たちの鬱憤は溜まり、ついつい喧嘩騒ぎが起こったりし始める。

それを制止しに来た山野甲板士官や志村先任将校に対し、竹山上曹は、女が原因でイ-57号全体ががたがたになったと訴えるのだった。

山野甲板士官は、乗組員全員に任務を教えた方が良いと、志村先任将校に具申するが、それに答えようとしていた時、「総員、配置に付け!」とアナウンスが艦内に鳴り響く。

敵の駆逐艦が接近して来たのだ。

「爆雷、防御良し!」

艦内は、察知されないように息を潜めるが、機雷が次々と投下されて来る。

艦の危険を察知した志村先任将校は、攻撃させてくれと艦長に迫るが、極秘任務中のこちらの存在を敵に知られたくない河本艦長はなかなか攻撃指令を出さない。

そうした中、さらなる機雷投下が続けられ、恐怖におびえるミレーヌは父親ベルジェに抱きつき、「日本の軍人と一緒に死ぬ等、犬死にだ」と訴えるのだった。

やがて、潜水艦後部が被弾、応急処置で漏水を食い止めようとするが、これ以上、隠れていてもムダだと悟った河本艦長は、敵艦にぶつかる形で接近、間近の位置から魚雷を発射して敵船を撃沈させる事に成功する。

一旦、海上に出て、破損した甲板部の修理に出ていた山野甲板士官たちだったが、そこへ敵飛行隊が接近。

急速潜行する為、部下たちを引き上げさせていたが、ただ独り、阿部一水だけは、バルブの故障を止めなければ、潜行しても空気が漏れて泡が出てしまい、敵に察知させると、最後の最後まで修理の手を休めなかった。

その為、すでに艦が潜行しはじめたのに気づき、慌てて戻ろうとしたが、鉄枠に足を挟まれてしまう。

艦内で、阿部の姿が見えない事に気づいた山野の言葉で、潜望鏡を覗いた河本艦長は、甲板に取り残された阿部一水の姿を確認するが、全員の命には代えられず、やむなく急速潜行の指令を出すのだった。

そのイ-57号に、又しても爆雷が投下されて来る。

その頃、ぺナン指令本部の横田参謀は、敵の駆逐艦が撃沈されてとの知らせを受け、それがイ-57号の仕業だと察知するのだった。

その頃、イ-57号の甲板上では、亡くなった阿部一水の葬儀が行われていた。

父親と共に立ち会ったミレーヌは、死んだ阿部は、あなたが卵を食べてくれた事を大変喜んでいたと知らせれ、ショックを受けるのだった。

その後、甲板上に揃った50人の乗組員たち全員に、河本艦長は、今回の任務が、日本に有利な和平達成に向け、某国外交官を輸送しているのだと知らせる。

それを聞き終えた志村先任将校は、自分達の返事を観てくれと言い出し、乗組員全員に「和平のお先棒を担ぐこの任務に不承知な者は一歩前に出ろ!」と呼び掛けるが、誰一人動こうとしない。

「では、艦長に従う者は?」と聞くと、一斉に全員が一歩前に出るのだった。

しかし、やはり山野甲板士官だけが志村に食い下がり、「和平とはどう言う事なのか?花々しく死なせてくれ」と訴えるのだった。

思わぬアクシデントもあり、予定より2日遅れたイ-57号だが、ケープタウンの周囲半径200海里は敵の警戒が厳しくなっていると入電を受けた河本艦長は、半径300海里のコースを選択する事にする。

しかし、そこは大荒れの海域、さしもの乗組員たちも、船酔いに悩まされる事になる。

へばった様子の竹山上曹を見た金原炊事長(大村千吉)は、いつぞやの喧嘩の仕返しのつもりか、わざと飯を運んできて、竹山に見せびらかすのだった。

そうした矢先、無線機が故障してしまう。

その頃、ペナムの横田参謀は、すでにポツダム会議における連合国側の姿勢は動かし様もない状態になったと知り、もはやそれを受け入れるしかないと判断、イ-57号の任務を解き、すぐさま帰投するよう指令を送ろうとしていた。

一方、その指令を受取る事が出来ないまま進行中のイ-57号の中では、ミレーヌが熱を出して寝込んでいた。

このままでは急性脳膜炎になると危惧した中沢軍医長は、熱を下げる為に4キロの氷を作ってくれと志村専任将校に具申するが、氷を作る為には、艦内の温度を上げなければならなくなり、他の乗組員全員が苦痛を強いられる事になると拒否される。

しかし、その志村専任将校、すぐさま、その事を川本艦長に報告。

川本艦長は、氷を作る許可を出すのだった。

やがて、氷を作る為、艦内の温度は急上昇し、乗組員たちはバテはじめる。

そんな中、燃料が足りなくなって来て、このままではペナンに帰投できなくなる事が判明、今戻るべきか、進むべきか判断を迫られた川本艦長は、各課分隊長を集合させ、自分達は任務遂行の為、ペナンには戻らないと、自らの決意を伝えるのだった。

中沢軍医長には、この事をミレーヌたちには知らせないように口止めする事も忘れなかった。

そうした成りゆきを、上官から聞かされた竹山上曹は、今となっては、二人の外国人を運ぶしかないのだと、仲間たちと確認しあうようになる。

やがて、氷が出来、それを額にあてがおうとした中沢軍医長だが、高熱にうなされていたミレーヌは、もう死にたいと、その手を拒絶するのだった。

その態度を見た中沢軍医長は、日頃の温厚さに似合わず声を荒げ、この氷は、もう日本には戻れない乗組員全員が苦労して作ったものだと、つい口走ってしまう。

7月30日、ぺナン本部の横田は、ポツダム宣言を拒否しようとする本国の頑な態度を知り、落胆すると同時に、イ-57号への作戦中止指令が届かないらしい事にも苛立っていた。

そんな横田参謀に、指令長は、もう諦めようと声を掛けていた。

数日後、ミレーヌは回復して、甲板上で外の空気を吸っていた。

すっかり日本人への嫌悪感も薄らいでいたミレーヌは、中沢軍医長に感謝すると共に、自分のこれまでの態度を詫びるのだった。

ミレーヌとベルジェは、川本艦長にも礼を言いに行き、帰りはどうするのかと心配して尋ねるが、艦長は何も答えようとしなかった。

そんな穏やかな時間が過ぎていた中、敵哨戒機が接近の知らせ。

小型爆弾を投下されるが、そのまま逃げ切って潜行を続行する事になる。

司令部からの連絡がないまま、予定通り、目的地に浮上したイ-57号は、待機しているはずの油送船を探す為、発光信号を送るが何の応答もなければ、船影すら確認できない。

事態が把握できない川本艦長は、ボートで強行偵察隊を陸地に接近させ、様子を探る事を決断、山野甲板士官以下4人が選ばれる。

ひょっとすると、これが最後の別れになるかも知れないと考えた志村専任将校は、出発の準備を終えた山野甲板士官に万一の場合用の手榴弾を渡すと、酒を酌み交わすのだった。

強行偵察隊を乗せたゴムボートは、潜水艦を離れ陸地に近づくが、敵の雷火艦らしき船が接近、やむなく山野甲板士官は、イ-57号の位置を気取られないように、わざと別の方向に進むと、そこで手榴弾を破裂させるのだった。

やがて、異変を察知して接近して来た敵駆逐艦から、イ-57号は、無差別にロケット爆雷を浴びせはじめられる。

接近して来た敵駆逐艦は3隻に増えていた。

度重なる攻撃で、電動室に漏水、イ-57号は潜行できなくなる。

川本艦長は、浮上して、護衛中の外国人二人を敵に渡す事を決意、電文を打たせる。

しかし、それを聞いた志村船員将校は、頑強に降伏には反対し、思わず艦長を殴りつけるのだった。

それでも、イ-57号は敵前浮上し、連合国側非戦闘員の受渡しを打電後、川本艦長は、自ら白旗を振って敵の攻撃を阻止しようとする。

やがて、敵船より入電。

双方からボートを出し合って、中間点で非戦闘員の受渡しを行うと言って来る。

中沢軍医長が二人に同行する事になり、艦に別れを告げる事になった二人に、仲良くなった太田水雷長は、ペットとして飼っていた小猿の「珍念」を連れて行ってくれと託すのだった。

ミレーヌとベルジェは、志村専任将校にも握手を求めて来る。

ボートに乗り移る際、 ベルジェは艦長と握手しながら、降伏は耐えられないだろうが、人命はそれより貴いものだ、又会おうと説得して、艦を離れて行く。

ミレーヌも又、川本艦長に生きていて下さい、死んではいけないと訴えかける。

そんな艦長の元へ、5分以内に降伏するよう敵艦より打電がある。

河本艦長は、乗組員全員に、正装した後集合するよう命ずる。

そうしたイ-57号に、敵艦3隻は一斉に主砲を向けて来る。

その頃、そうしたイ-57号浮上の知らせを聞き付けたぺナン基地では、再び作戦中止の指令を発する。

その頃、自室で着替え終わった川本艦長は、「君子はすべからず 春風のごとく 深山のごとくあれ」という座右の銘を読んでいた。

その後、全員集合した乗組員たちの前に立ったその時、ペナンより入電、作戦中止の指令を読んだ河本艦長だったが、その場でその電文を破り捨てると、「イ-57号は、作戦を解かれたと確認するも、敵と応戦する。中沢軍医長が戻って来て5分後、イ-57号は降伏せず、戦闘開始すると敵艦に打電せよ」と命ずるのだった。

「総員配置に付け!」の号令の元、誰一人、何の迷いもなく動き始める。

中沢軍医長が戻って、5分後、イ-57号は敵艦に向け、魚雷を発射。

しかし、そうした中、ベルジェとミレーヌを乗せた船が、他船をかばうように前に出て来る。

魚雷は何故か外れ、残りの魚雷も発射できない事が分かる。

太田水雷長は、自らの初めてのミスに愕然としていた。

敵の攻撃も熾烈を極め、河本艦長と共に艦橋に立っていた志村専任将校は倒れる。

「ベルジェ船どけ!進め!進め!」と叫んでいた川本艦長も、やがて銃弾に倒れるが、イ-57号は、敵艦の脇腹目掛け突き進んでいく。

ついに、ベルジェたちが乗った船が、イ-57号の進行方向から外れる。

艦内では、乗組員たちが互いに最後の敬礼をしていた。

やがて、イ-57号は、見事、狙っていた敵艦に激突、自らも沈没して行く。

海原には水兵帽が一つ漂っていた。

それは昭和20年8月5日の事だった。

その翌日、広島に原爆が投下された…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

太平洋戦争末期の戦争秘話の形を取った娯楽戦争映画の名作。

「潜水艦映画に駄作なし」 の見本のような作品であり、 東宝特撮戦争映画の中だけでなく、国産潜水艦映画の中でもトップクラスの出来だと思う。

最後まで戦い抜く事、死ぬ事だけを覚悟した潜水艦乗組員たちが、和平の為の外国人を輸送するという皮肉な任務を与えられる…という着想がまず素晴らしい。

彼らにとって、和平のお先棒を担ぐ等、考えられない話である。

しかし、任務と割きり、やり遂げた後、最後に彼らが自らに下した決断とは…。

ラストの行動は、冒頭の回天で散って行った戦友に繋がる特攻精神、軍人としての最後の意地の発露のようにも見えるが、戦争と言う運命に殉じようとするその悲劇性が痛烈な反戦メッセージとなって迫って来る。

さらに、潜水艦に乗り込んで来た若い外国人女性が巻き起こす、乗組員たちへの心理的、物理的プレッシャーの数々がドラマを面白くしている。

乗組員たちの描き分けも申し分なく、各々、胸に焼き付くキャラクターとなっている。

初々しい阿部一水、やや野卑な印象のある竹山上曹、おどけた金原炊事長、6人の娘を持つ温厚な父親としての太田水雷長、血気に逸るあまり、最後まで生き残る為の任務に疑問を持ち続ける山野甲板士官、冷静なインテリ中沢軍医長、そして、艦長の良き相談役としての志村専任将校…どれも、魅力的な人物である。

そして、何よりも、任務を最後まで遂行しようとする河本艦長を演じる池部良が素晴らしい。

沈着冷静であると同時に、軍人としてのプライドも守ろうとする気高さ。

今の感覚で見ると、乗務員の運命まで決めてしまうラストの決断に違和感を覚える人もいるかも知れないが、乗組員は一心同体の運命共同体としての美学を感じる人もいるだろう。

おそらく「惑星大戦争」(1977)のラストは、この作品の池部良を意識したものではないか。

又、樋口真嗣監督の「ローレライ」(2005)も、明らかにこの作品に影響を受けていると思われる。

円谷英二の特撮も、自衛隊からの払い下げ潜水艦を利用した本編の海上撮影や、実写フィルムなどと巧く編集され、違和感のないものになっており、正に「本編と特撮の融合」の見事な成功例になっている。


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