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散歩する霊柩車

1964年、東映東京、樹下太郎原作、松木ひろし+藤田伝脚本、佐藤肇監督作品。

※この作品はミステリーですが、物語の最後まで詳細にストーリーを説明してありますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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都内の横断歩道から、とあるデパートへ、不振な動きをしながら移動する小男、タクシー運転手麻見(西村晃)。

どうやら、誰かを尾行しているようだ。

追跡者がエレベーターに乗ったので、自分も急いで隣のエレベーターに乗り込むが、それは6階までの直通だったと知り、慌てて2階まで階段を掛け降りるが、尾行はそこで失敗。

その夜、仕事を仲間に変わってもらい、住まいである団地の一室で「週刊情報」という週刊誌を腹に掛け寝ていた麻見の元に、妻のすぎ江(春川ますみ)が帰って来て怪訝そうな顔をする。

麻見は、今日1時頃、デパートでお前を見かけたとカマを掛けてみるが、すぎ江は、夕方、お店に出る前にそのデパートによっただけだから人違いだろうとしらを切る。

そこで、麻見は、週刊誌のとあるページを開いて見せ、そこに載っていた、きわどいアベックの夜間盗撮写真に写っている女の洋服が、お前のものと同じだと追求するが、すぎ江は、又しても、同じ服等どこにでもあると相手にしない。

実は、すぎ江は、若い民夫(岡崎二朗)という愛人と付き合っていたのだが、ある日、その民夫が、偶然にも、麻見の運転するタクシーの客になった。

何気なく、その民夫の唇に口紅が付いている事を教えた麻見に、民夫は小男のタクシー運転手の妻と付き合っており、小遣いには不自由していないと軽口を聞くが、それを聞いた麻見は、その相手はすぎ江の事だと直感して、その日以来、ずっと彼女の行動を車で尾行していたのだった。

しかし、知らぬ存ぜぬを押し通そうとするすぎ江の態度に業を煮やした麻見は、思わずすぎ江に飛びかかり、その首に手をかけるのだった…。

町を走る一台の霊柩車にタイトルがかぶさる。

運転手毛利(渥美清)の横に乗っているのは麻見だった。

霊柩車はとある会社に乗り付け、麻見はそこの女性社員と何事か会話した後、再び霊柩車に戻ると、4時には次の仕事があるのだがと迷惑顔の毛利に頭を下げて、結婚式が行われている、とある記念会館に横付けしてもらう。

そこに来賓として来ていた会社社長北村由之助(曽我廼家明蝶)を呼出すと、近くに停めてあった霊柩車の後ろに案内し、そこに積まれた柩を開けて見せる。

柩の中には、菊の花に埋もれて、首に生々しい痕を残したすぎ江が横たわっていた。

麻見が説明するには、男と浮気をしていたすぎ江は、その過ちに絶えきれず首吊り自殺したが、遺書には、相手の名前が「YK」としか書かれていなかったので、今、その相手を探しているのだと言う。

そう聞かされた北村は、確かに、自分はバーに勤めていたすぎ江に名刺を渡した事はあるし、2、3度食事をした事もあるが、愛人関係と言うほどではなかったと否定し、君は何が目的なのかと麻見に質問する。

それに対し麻見は、合法的な復讐をすると明言する。

もし、選挙にうって出ようとしている北村が、愛人YKだったとしたら、そのスキャンダルを週刊誌に売るつもりだったとも。

北村は、冷や汗を流しながらも、取りあえず、御焼香には後で寄らせてもらうと言ってその場を去る。

続いて、霊柩車で白十字病院に乗り付けた麻見は、その第一外科に勤める山越堅児(金子信雄)という医者を呼出す。

霊安室に招かれた麻見は、山越に先ほどと同じように遺書を見せるが、山越は、自分は一度だけ奥さんを抱いたが、彼女はあなたの事を心底愛していたと答える。

償いをして欲しい、又会いましょうと言葉を残し、一旦帰る事にした麻見は、表に霊柩車の姿がないので慌てる。

しかし、近くに座っていた毛利を発見、事情を聞くと、駐車違反を巡回中の警官にとがめられたので、霊柩車は有料駐車場に置いたので、その料金を払ってくれと言う。

そこへ山越がやって来て、取りあえずお線香代だと言って麻見に金を渡して、あたふたと立ち去る。

その後、自宅団地の麻見の部屋まで柩を運び込んでやった毛利は、大量に置かれた死亡通知状を見て、葬式をまだ済ませていないのかと訝るが、発注ミスで刷り過ぎた残りだと麻見に説明されると、明日の焼き場へ行く時間を確認して帰って行く。

その後、一人になった麻見が急いで棺桶の蓋を開けると、中に横たわっていたすぎ江が、ムクリと起き上がる。

すぎ江は死んでいなかったのだ。

全ては、北村と山越から金を強請り取る為、二人で考えた狂言だったのだ。

麻見は、タクシー運転手に飽き飽きしており、纏まった金を手に入れたら、田舎で養鶏場を作ろうと考えていたが、二人から300万くらいは取れそうだと踏むと、いっその事、養豚場にしようとすぎ江に相談する。

山越からもらった封筒には、5万入っていた。

すぎ江は、北村は心臓だか肝臓が悪く、気が弱いので大丈夫だろうかと案じるが、選挙に出る事は分かっているので、絶対、金を持って来るはずと麻見は太鼓判を押す。

二人は、改めて互いの愛情を確かめるように抱き合うと、すぎ江は、先に田舎に逃げる為、今の内に変装して団地を抜け出す事にする。

深夜、人目をはばかって裏階段を降りていたすぎ江は、その階段を昇って来る北村の姿を確認するが、かろうじて、気づかれずに通り過ぎる。

その北村社長、麻見の部屋を訪れると、柩に手を合わせた後、あえて、自分がYKになるからと500万円を渡す。

それを確認した麻見は、北村の目の前で遺書を焼いてみせる。

安心した北村は帰って行くが、階段を降りている途中で、どうした訳か、戻って来たすぎ江と出合い、驚愕のあまり、心臓発作を起こし、階段から転げ落ち息絶えてしまう。

その死を確認したすぎ江は、慌てて帰宅すると、麻見に報告する。

何故戻って来たのかと聞く麻見に、大切な化粧道具を忘れたのだとすぎ江は答える。

その直後、団地内に響いて来たサイレンに驚き慌てる二人。

明日になれば都会ともおさらばだと嘯く麻見だったが、近くで聞こえた人声を山越が来たと勘違いし、すぎ江は、再び棺桶の中に横たわるが、声の主は酔っぱらって帰宅して来た他の住民だった。

棺桶から出て来たすぎ江は、金は自分が持っていた方が安全ではないかと、北村からもらった500万を預かると再び部屋を出て行く。

その頃、山の上ホテルには、徳大寺と名乗る男がやって来て、予約しておいた309号室に入って行く。

遅れて、同じホテルにやって来たすぎ江は、308号室へ。

その姿を偶然目撃していたのが、たまたまホテルに来ていた民夫と恋人の礼子(宮園純子)だった。

二人はいたずら心を出すと、すぎ江の亭主の麻見に、この事を匿名で電話密告するのだった。

慌ててホテルに駆け付けて来た麻見は、偶然空いていた307号室を希望、取りあえず、廊下から直接308号室の鍵穴を覗こうとするが、人目があるので無理だと分かり、一旦307号室に入ると、何とか隣の様子を伺う場所はないかとあちこち探し、床近くにある換気口を開けると、隣の部屋を覗ける事を発見する。

すると、シャワーを浴びていたすぎ江が、もう一人の男と抱き合う所を目撃。

その男とは、医者の山越だった。

二人が話している内容からすると、今回の強請のアイデアは、山越が発案したものらしい。

すぎ江は、約束を果たしたと言い、持って来た500万の内250万を受取ると、山越から電話で依頼され団地に取りに戻った遺書を渡していた。

さらに、すぎ江は、この250万で、あの人から逃げると言っているではないか。

そのすぎ江がテーブルを離れた隙に、山越がコップに注いだビールに、こっそり薬を投入している所も目撃してしまった麻見は、急いで、隣の部屋をノックすると、ボーイと偽って開けさせ、中に入ると、驚く二人に、自分の姿を見せる事にする。

山越は、被害者を装った人物が、事件の黒幕だと言うのは良いアイデアだろうと開き直ると、麻見に500万を三等分しないかと持ちかけ、先ほど薬を入れたビールを飲ませようとする。

しかし、麻見もそ知らぬ振りでコップを受取ると、その一部を水槽に流し込む。

ただちに観賞魚たちは死に、毒の事を何故知っているのか分からない山腰と、自分が殺されかけていたと悟ったすぎ江は驚愕する事になる。

すぐに、すぎ江が麻見に教えたのではないかと疑いはじめ、当のすぎ江も、先ほどとはうって変わって、自分は麻見と幸せに暮したかっただけと言い出したので、逆上した山腰と麻見は取っ組み合いの喧嘩となる。

二人の男が組合っている所に近づいたすぎ江は、ビール瓶を取り上げると、山越の後頭部に降り下ろす。

頭部に怪我をした山越が身体を放して苦しがっているのを見た麻見は、先ほど、水槽に入れ残しておいた毒入りのビールのコップを持って来ると、無理矢理、それを山越の口に流し込むのだった。

山越は、悶絶の末絶命。

その死体を背負った麻見は、窓から非常脱出用の梯子を下に垂らすと、それを伝って、先に下で待っていたすぎ江と合流すると、山越を酔っ払いに見せ掛けてタクシーを拾い、白十字病院にやって来るのだった。

そして、不審がる守衛(加藤嘉)に急患を連れて来たと偽り、山越の死体を背負ったまま病院内に運び込む事に成功する。

そして、白衣を見つけた麻見は、自分同様、すぎ江にも着せ、看護婦に見せ掛けると、もう一度、守衛から、死体安置所の鍵をもらって来るように言い付ける。

先ほど出合った自分が、白衣を着て戻って来たのを怪しまれるのではないかと怯えたすぎ江だったが、どうした訳か、守衛は、別人(小沢昭一)に交代していた為、無事、鍵を入手する事ができる。

死体をストレッチャーに乗せ、シーツをかぶせて死体安置所に入ろうとしていた二人は、風変わりな担当者(浜村純)に声をかけられるが、平然と医者を装っていたので、疑われる事はなかった。

安置室で、空いたストレッチャーを見つけ、そこに死体を移動させようとしていた二人だが、ストレッチャーの角に引っ掛かったシーツが破れ、死体の顔が見えたのにすぎ江は悲鳴をあげてしまう。

それを麻見から叱られ、側にかかっていた新しいシーツを持って来いと言われたすぎ江は、それを取るが、その後ろには、あろう事か、北村の死体が立て掛けてあり、すぎ江にもたれ掛かって来たので、再び悲鳴をあげてしまう。

何とか、その場を取り繕い、団地の部屋に戻って来た二人は、さすがにぐったりしていた。

山越との悪だくみを盛んに詫びるすぎ江だったが、麻見は寛容な態度を見せる。

しかし、改心したと見えたすぎ江は、茶を入れると見せ掛けて、睡眠薬をその中に混入して、疲れ切っていた麻見に飲ませるのだった。

すぐさま、麻見が寝入ったのを見届けたすぎ江は、500万の札束の入った風呂敷包みを持つと、民夫のアパートへ逃げ込むと、明らかに迷惑顔の彼に、ポルシェを買ってやるから一緒に暮してくれと甘えながら、部屋から持ち出して来た包みを開けてみせるが、中身は何時の間にか、自分の死亡通知書の束にすり変わっていた。

逆上したすぎ江は、部屋に取って返すと、500万を探し出そうと、麻見が寝息を立てているベッドに近づくが、その瞬間、眠っていたはずの麻見から手を掴まれてしまう。

麻見は、すぎ江を信用せず、茶を飲んで眠った振りをしていたのだ。

すぎ江が、今でも、若い民夫に夢中である事を知った麻見は、ベッドの下に隠していた500万を取り出して、これは渡せないと断言する。

開き直ったすぎ江から、あんたなんか出がらしのような人間じゃないと罵倒された麻見は、ついカッとなって、今度こそ、本当にすぎ江の首を締めてしまう。

翌日、約束より若干早くやって来た毛利は、昨日と同様、棺桶の蓋が開いていると注意し、霊柩車に乗せ出発するが、焼き場に向わず、何故か人気のない墓場に霊柩車を停めてしまう。

不審がる麻見に対し、棺桶の中の仏は、今日殺したのだろうと鋭く追求して来る毛利。

長年、こうした商売をしていると、生きている人間と死んだ人間の区別くらい一目で分かるので、昨日の棺桶には、まだ生きていたすぎ江が入っていた事を見抜いていたと言うのだ。

自分は、個人タクシーがやりたいので、300万ではどうかと金を要求して来たので、渡す振りをして、近くの林の中に誘い込んだ麻見は、その毛利を絞殺すると、服を着替えて、その死体を担いで霊柩車の元に戻って来る。

すると、その様子を、たまたま犬を連れて散歩に来ていた子供に観られてしまうが、そのまま、死体を霊柩車の後ろに積むと車を走らせはじめる。

作戦が成功した事に安心したのか、運転士ながら、陽気な歌を歌いはじめた麻見だったが、何時の間にか、その霊柩車を追って来る白いスポーツカーに気づき、バックミラーで良く見ると、何とその助手席にはすぎ江が乗っているではないか。

恐怖にかられ、霊柩車を急がせる麻見だったが、白いスポーツカーはどこまでも追って来る。

さらに、走っている車の前の道に立っているすぎ江の姿も見て、思わず目を伏せた麻見は、近づいて来た巨木に気づくのが一瞬遅れ、激突してしまう。

炎上した霊柩車に近づき停まった白いスポーツカーには、民夫と礼子が乗っておいたが、面白がって、そのまま立ち去ってしまう。

巨木の枝には麻見の死体がぶら下がり、飛び散った札束が木の周囲を舞っていた。

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▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

松竹のカルト作品「吸血鬼ゴケミドロ」などで知られる佐藤肇監督による犯罪サスペンス。

西村晃、春川ますみ、金子信雄ら、本来個性派脇役俳優たちがメインであり、いわゆるスター級の俳優が出ていない所から、プログラムピクチャーの添え物作品として作られたのではないかと思うが、地味ながら、トリッキーなひねりあり、ユーモアあり、サスペンスあり、怪奇風味ありと、独特の味のある作品となっている。

ほとんど笑わない怪奇俳優風の風貌を持つ西村晃が、後半、独り、とぼけたポルカ風の歌を楽しそうに口ずさむ所等は印象的だし、途中、ちらりと登場する小沢昭一や花沢徳衛などの、ユーモラスかつサスペンスフルな使い方も巧い。

東映時代の渥美清が出ている所も注目点だが、一見真面目だが、ちょっと癖のある面白い役柄を演じている。

春川ますみも、放慢な肉体を大胆に披露しているサービスシーンもある。

しかし、何と言っても一番印象的なのは、霊柩車があちこちを走り回るシーンが多い事だろう。

後半、列車が迫って来る踏切を、衝突寸前に霊柩車が通過すると言うシーンがあるが、トリック撮影なのか、実写なのか区別が付かなかった。

万人向けとは言い難いが、かなり渋いミステリマニアなどには喜ばれそうな内容である。