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日本以外全部沈没

2006年、「日本以外全部沈没」製作委員会、小松左京原典、筒井康隆原作、実相寺昭雄監修、河崎実脚本+監督作品。

この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので御注意下さい。コメントはページ下です。

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クラブ「ミルト」。

♪ヨコスコ〜タソソレ〜♪と、妙な日本語の歌を歌っている外国人歌手を横目に、新聞記者のおれ(小橋賢児)と、大日TVプロデューサーの古賀(柏原収史)は、確か、全米第一を取ったグラミー賞歌手じゃなかったかなどと、カウンターで話していた。

しかし、あんな下手な日本語じゃ、国外退去だろうなどと言っていると、すると、隣で飲んでいた元アメリカ大統領ヘヒトーンが、そんな可哀想な事を言うな、彼も一生懸命なんだと文句を言って来る。

しかし、俺たちは、犯罪者、売春婦、ホームレスが一番多いのはアメリカ人だと言い返す。

元大統領は、今、日本から国外に追放されたら、チベットとか、一部の場所にしか行く所がなく、そこには野蛮人しかいないと嘆く。

隣に座っていたランバック元アメリカ国防長官も、元大統領の意見に同調する。

そこにやって来たのが安泉純二郎首相(村野武範)、その姿を見ると、急に、元大統領や国防長官は低姿勢になる。

スヴェニシコフ元ロシア大統領の姿もあったが、安泉首相が「北方四島が沈んだ時、怒った?」と聞くと、あれはわが国ではないとぶ然として答えていた。

張元中国元首と、金元監督大統領が揃ってやって来て、安泉首相にペコペコしながら、今、神社に詣って来たとおべんちゃらを言っていた。

この店は、もともと、我々、日本人マスコミが集まる場所だったが、今は、世界の元VIPが集まる場所となってしまった。

どうして、こうなってしまったのか?それは3年前に始まった…。

タイトル。

2011年。

おれは、テキサス出身のアメリカ人キャサリン(デルチャ・ミハエラ・ガブリエラ)と新婚生活を楽しんでいた。

そんなある日、アメリカで大地震が頻発したかと思うと、一週間で、そのアメリカ大陸全体が沈んでしまった。

大統領はエアフォースワンで取りあえず脱出した。

仕事先の新聞社で、こうした未曾有の大ニュースを記事にまとめていたおれだったが、妻から電話があり、国の両親と連絡が取れなくなったと言う。

500人乗りの旅客機に4000人も乗せて飛び立ったシン・アメリカン航空427便も房総沖で墜落したとのニュースが飛び込んで来る。

首相官邸では、安泉首相が、地球物理学の権威、田所博士(寺田農)から、今後、どんな地殻変動が起きるのか、説明を受けていたが、さっぱり要領を得ない。

ズバリ、日本は沈むのかとの質問には、田所博士は、その反対ですと答える。

伊達官房長官(中田博久)が、オーストラリアは、1000万人のアメリカ人を受け入れたので、ニホンもそれなりに受け入れないと…と、進言に来る。

その伊達官房長官に、懇意の石山防衛庁長官(藤岡弘。)に連絡を取らせた安泉首相は、即時、米軍基地返却を要求される。

その頃、ハリウッドスターでオスカー受賞の経験も持つジェリー・クルージング(ブレイク・クロフォード)と、その妻で女優でもあるエリザベス・クリフト(キラ・ライチェブスカヤ)は、映画監督ジョーカスと共に、日本に到着していたが、大金を持っているので、外に待ち受けていたマスコミのインタビューを受ける時も、まだ日本をバカにする余裕があった。

特に、エリザベスの方は、自分の大ファンであると言う古賀からサインをねだられたりしていた。

まだ、その時点では、ハリウッドの俳優と言う事で、日本人からも一目置かれていたのだ。

一方、帰宅したおれは、じっと、家族が映ったビデオを繰り返してみている妻を慰めていた。もう、ダラスにも、ヒューストンにも飛行機が飛ばないと嘆いてばかりだったからだ。

連日連夜、飛び込んで来る天変地異報道に、24時間かかりっきりだった古賀も、ようやくシフト制になったので久々に帰宅する。

妻(土肥美緒)は、アメリカ大陸が沈んだので、輸入食料がなくなり、食品全体が少なくなって来たと話す。

国内では、アメリカ沈没募金運動等が行われていたが、その一週間後、中国が沈没し、さらに、一週間後にはユーラシア大陸全てが沈没、その二日後にはアフリカ、その翌日にはオーストラリアも沈没してしまう。

そして、2014年、現在に至ったのだが、クラブ「ミルト」には、有名なハリウッド俳優をからかいに、作家筒井康隆なども来ていた。デンプシー国連総長は、アメ横に、その名前に因んで、アメリカ人を住まわせてくれと、ボックス席でくつろぐ今泉首相に掛け合っていたが、アメ横とは元々、飴屋が集まっていた所でアメリカとは別に関係ないと突っぱねる。

相変わらず、日本によいしょしている韓国と中国元首相たちのプライドを捨てた態度に、国連総長はきれる。

カウンターのおれと古賀の間に、田所博士の講演に取材に行っていた記者が戻って来てその内容を報告する。

日本は、現在、中国大陸の上に乗り上げた形になっているらしい。

この三年間で何もかもが狂ってしまった…と、おれは回想する。

電車の中は、外国人だらけになっていた。

ドルは、5銭にまで暴落。

町では、食料を盗む外国人が増えて来た。

日本にあった食料は、三週間でなくなってしまったのだ。

食料を欲しがる外国人たちは、恥をかなぐり捨てて、日本人に物乞いを始める。

そんな中、オスカー俳優ジェリーは、ジョーカス演出のテレビドラマ「忠臣蔵」に出ていたが、外国人がテレビに出るのが物珍しがられたのは最初の内だけで、その内、現実とは違った日本人しかいない世界が観たいとの視聴者からの要望で、外国人俳優の仕事は急速になくなってしまう。

自宅マンションで、仕事をキャンセルされた電話を受けていたジェリーは、玄関に誰か来ているので、妻のエリザベスに出て行かせると、大家(つぶやきシロー)だったので、金庫から札束を取り出して渡そうとするが、ドルの札束等、今では500円にしかならないので、後966束いると言われ、逆上してしまうのだった。

その後、ジェリーの姿は、怪獣映画「電エース」のエキストラとして、怪獣に踏みつぶされていたのを観たのが最後になる。

一方、帰宅した古賀の方は、鯨鍋が食卓に用意されているのを観て感心する。

妻の話では、今や、スーパーは、ゲテモノ食料ばかりなのだと言う。

ある日、テレビ局に出社途中の古賀は、すっかり落ちぶれたエリザベスに出会う。

取りあえず、レストランに連れて行った彼は、手づかみでスパゲッティを食べるエリザベスの姿に呆れていた。

エリザベスが言うには、どんなに小さな役でも良いから、仕事が欲しいらしい。

エリザベスの熱狂的ファンだった古賀は、思いきって、自分が彼女のマネージメントを引き受けると伝える。

おれの妻のキャサリンはと言えば、半ば、ノイローゼ状態に陥っていた。

デーブ・スペクターが校長を勤める日本語学校は、盛況を極めていた。

そんな中、古賀の妻は妊娠した事を、夫に報告する。テーブルには、その祝いの赤飯が用意されていた。

京南大学で、外国人たちにマッサージされていた田所博士にインタビューを申込んだ記者は、又しても、理解不能な説明を受けるが、実は、自分の妻を外国人男性に取られた事を告白する。

今の外国人女に囲まれた生活は、その事への復讐のようだった。

テレビでは、天気予報ならぬ、森田良純予報士(松尾貴史)による、犯罪者化する外国人がどこに出現するかを予想する「外国人予報」なる情報まで、毎日放送されるようになっていた。

すでに、日本に住む外国人ホームレスは3000万人に増えていた。

キャサリンは、日本人の冷たさを批判するようになる。

老人ホームでは、戦争ごっこなる遊びが流行りだし、その敵役として外国人が雇われ、捕虜にされたりしてからかわれているという。

おれに、ジャーナリストとして、もっとやる事があるのではないかと追求するのだ。

もっと、外国人に仕事の場を与えるべきだと言う彼女の言葉に対し、おれが、外国人メイドでも雇うか?と答えると、軽蔑したような目で睨んで来る。

その頃、ホームレスになっていたジェリーは、子供達が、ミカンの皮を奪い合っている姿を観て、仲裁に入るのだが、そこへエリザベスが、うまい棒を食べながら帰って来たので、奪い合いになりそうになる。

エリザベスは、すでに街娼に成り下がっていたのだった。

そして、仕事をせず、ジェリーがいつまでも後生大事にしているオスカー像を地面に叩き付けて壊してしまう。

防衛庁内には、外国人アタックチーム「GAT」が設立され、ホームレス一掃の為の火炎放射器攻撃等も行われるようになる。

国会では、3年経っても日本に馴染まない外国人は国外追放にすると言う強圧的な法案が通り、それを知った外国人の元VIPらは抗議するが、今や、日本そのものが世界となった状況では、抵抗も空しかった。

ハリウッドスターも、蕎麦屋の出前をやるようになる始末。

ジェリーは、立ちん坊で「日本人専用ヘルス」の広告持ちをやっていた。

そんなジェリーを見かけたのは、買い物途中のキャサリンだった。

彼女は、子供の頃、まだ無名だったジェリーが出ていた「吸血カタツムリの逆襲」の大ファンだったと言葉をかける。

話している最中、GATがやって来て、職質をかけてくるが、キャサリンは、日本人の妻である証明書を見せる。

そして、別れ際、持っていた食料品をジェリーに渡しながら、「あなたは、オスカーを取るまでの方が素敵だった」と付け加える。

ジェリーは「ハングリーだったからな…」と、呟いていた。

おれは、三人の外国人メイドを雇うようになるが、それに嫉妬したのか、キャサリンは家事を一切しなくなる。

それを注意すると、彼女は、家を飛び出して行ってしまった。

キャサリンは、小さな手袋に、たくさんの動物たちが入って来て仲良く暮す絵本を読んでいたのだった。

回想から冷め、舞台は再びクラブ「ミルト」。

店のボーイたちが、何やら目で合図しあっている。

カウンターでは、ハリウッド女優がAV落ちをしていると言う話に落ちていた。

古賀は、好きだったエリザベスと、寝たと言う記者の自慢話に不機嫌になる。

話の流れから、おれはキャサリンとの最後の日を思い出す。

キャサリンは、ジェリーと一緒に、GATの護送車に乗せられそうになっていた所に遭遇した時だった。

一緒に帰ろうと言うおれに対し、日本人に絶望したキャサリンは、ジェリーと一緒に行く事を選択する。

ボーイたちは、いつの間にか、隠していた機関銃を持ち出し、客たちに向ける。

某国の大物が、秘かに日本征服を狙っていたのだった。

某国スパイは石山防衛庁長官の元にまで乗り込んで脅すが、石山防衛庁長官は、自らの上着に仕掛けていた爆弾のスイッチを押し、国会議事堂は大爆発を起こす。

クラブ「ミルト」には、三輪車に乗った田所博士がやって来て「日本はこれまでだ!」と叫ぶ。

シーソーゲームのような状況を繰り返している地球の内部のマントル対流の動きが、又起こるというのだった。

クラブは、大地震に見回れ、大混乱に陥る。

やがて電気も消えてしまったので、ロウソクをつけ、店にいた元VIPたちは、それがこの世で見る最後の光になると知り、集まる。

今こそ、はじめて、世界に平和が訪れた瞬間だった。

古賀は、妊娠した妻と、線香花火をしていた夏の日を思い出していた。

おれは、キャサリンが読んでいたあの童話の事を思い出していた。

そして、再び地震が起こり、全ては闇に包まれた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

70年代、大ベストセラーになった小松左京原作「日本沈没」のパロディとして書かれた、筒井康隆著「日本以外全部沈没」を原作とした映画。

原作は、クラブ「ミルト」に集まった元VIPたちの様子を中心に、当時の世相を皮肉っぽく描いた短編だったが、この映画では、そのエピソードの時代を現代風に置き換えると共に、主役二人の日本人の個人的回想シーン等を加え、天変地異の後の展開の説明をより詳しくすると同時に、結果的に日本人の狭量振りを浮き彫りにした自己批判風作りになっている。

「もし〜が〜だったら」という「IFテーマ」を、バラエティコント風にまとめたような感じと言った方が良いかも知れない。

観終わった時の感想は、意外に真面目な映画になってしまったなという感じ。

もっと、ハチャメチャなおバカ映画になっていると想像していただけに、ちょっと拍子抜けしてしまった。

真面目なテーマ性を加えるのは別に良いのだが、基本となっているドタバタパロディ要素と、今一つ、うまくからみ合っていないような気がするのだ。

プライドの高いハリウッドのオスカー受賞スターが、日本に来て逆境を味わう中で、又、自らの原点を見直す…などと言うエピソード等も、悪くはないのだが、観ていて、うまく伝わって来ない。

笑いも感動も、共に中途半端な感じ。

やはり、この原作の面白さの中心は、当時現役だったVIPたちが、実名でどんどん登場する面白さだったのだが、この辺は、さすがに映像では実現不可能だった為、このような形になってしまったものと思われる。

首相役の村野武範と、田所博士役の寺田農は、こうしたバラエティっぽい演技を映画でやった事がないだけに、良く健闘しているとは思うが、やはり、どこかに照れが感じられるのも、笑いに繋がらない理由。

企画の発想自体はタイムリーだし、観客の好奇心に訴える戦略も、それなりに当ったようだが、映画としては、何となく惜しい結果に終わったように思う。


小橋賢児/日本以外全部沈没

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