2006年、群ようこ原作、荻上直子脚本+監督作品。
これは、比較的新しい作品ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので御注意下さい。コメントはページ下です。
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フィンランドのかもめはでかい。
昔、ナナオという巨漢猫を飼っていた事があり、その猫は、私にだけ腹を触らせてくれたので、どんどんエサをあげている内に肥満が進み死んでしまった。
ナナオが死んだ次の年、病弱だった母親が死んだけど、ナナオが死んだ時ほど涙が出なかったのは、武道家だった父親から人前では泣くなと教えられたからばかりではないと思う。
私は太ったものが好き。たくさん食べて太ったものが好きなのだ。
サチエ(小林聡美)は、単身、フィンランドで「かもめ食堂』という日本食レストランを開業したが、誰も客が入らない日々が続いていた。
時々、三人づれのおばさんがガラス窓から中を覗き込んで、一ヶ月もああやって一人でいるサチエを、子供なのか大人のか言い合ったりしていたあげく、かもめ食堂ではなく、子供食堂ねなどと悪口を言っては通り過ぎて行く。
時々、サチエは、一人でプールに泳ぎに出かけていた。
そんなある日、ついに最初の客として、自転車に乗った現地の青年が「こんにちは」と言いながら入って来る。
そのTシャツにはニャロメの絵がプリントされていた。
どうやら日本気触れのオタクらしい。
案の定、彼女がニャロメの事を話し掛けると、すぐに漫画ファンと察したのか、ガッチャマンの歌を教えてくれと言い出す。
サチエはすぐに、「誰だ 誰だ 誰だ〜」と歌いはじめるが、その後が続かない。
とりあえず、記念すべき最初の客なので、トンミ・(ヤルッコ・ニエミ)という青年が注文したコーヒー代を無料にして帰すが、その後も、がッチャマンの歌の続きが気になって仕方ない。
ある時、本屋に寄ってみると、テーブルで「ムーミン谷の夏祭り」という本を読んでいる日本人女性らしき人物を見かけたので、思いきって近づき、ガッチャマンの歌を知らないかと尋ねてみると、すぐに、ノートに歌詞を全部書いて渡してくれた。
それがきっかけになり、彼女がこの国に来た理由を問いただしてみると、目をつぶって、適当に地図に指をさして行きたい所を決めてみたら、この国になったので来たのだと言う。
観光目的なのかどうかも決めていないと漠然とした事を言う。
サチエは、ガッチャマンの歌を教えてもらった礼の意味もあり、良かったら家に泊まらないかと誘ってみる。
恐縮しながらも、その好意に甘える事になったその女性ミドリ(片桐はいり)は、白夜の中、サチエから夕食として出された御飯を口にして涙ぐむのだった。
どうして、日本食レストランを?というミドリの問いに、サチエは、サーモンをフィンランド人は好きだし、日本人もシャケは好きだからと、思いつきのような返事をする。
そして、かもめ食堂のメインメニューはおにぎりなのだと教える。
翌日、店に一緒に出向いたみどりは、又やって来たトンミ・ヒルトネンを紹介された後、観光に出かける。
トンミは、最初の客と言う事で、サチエはずっとコーヒーをサービスする事にしていた。
そして、一通り観て来たと戻って来たみどりは、給料等いらないから、この店を手伝わせてもらえないかと申し出る。
サチヨは、でも暇ですよ…と、ちょっとためらうが、結局、承諾する。
次の日、いつものように、三人のおばさんが店の中を覗き、今度は大きいのがいると話して立ち去る。
ミドリが、、メニューにイラストを描いていると、又いつものように、只コーヒーに釣られたトンミがやって来たので、そのメニューを出してみると、イラストを気に入ったのか、自分の名前を漢字で書いてくれと言い出す。
仕方ないので、考えた末、「豚身昼十念」と当て字を書いてやるミドリ。
その夜、サチエが合気道の膝行とというポーズをやっていると、ミドリも、咲いたばかりの蓮の花のポーズというヨガをやってみせる。
やがてミドリは、かもめ食堂の事を観光ガイドブックに載せてみたらどうかと提案する。
私のように、異国の地で日本食に飢えている旅行客が来るのではないかと言うのだ。
しかし、サチエは、ガイドを観て来るお客は、何か違うような気がする、真面目にやってさえいれば、その内客は来てくれると思うと答える。
そんなサチエが、今度は、もし明日、世界が終わるとしたら何がしたい?と聞くので、ミドリは考えた末、美味しいものを食べたいと答える。
実は、サチエも同じなのだと言う。
たくさんものを食べる人に悪い人はいないはず…とも。
翌日、トンミ以外の初めての客が店にやって来て、コーヒーを注文する。
そして、出て来たコーヒーを旨いと言った後、でももっと美味しくする方法を教えようかと言うので、おずおずとサチエが承知すると、その男はドリップ式のコーヒー豆を入れた後で、指を入れ、「コピ・ルアック」と奇妙な言葉を言う。
今のは何か?と問うと、まじないなのだと言う。
その男、厨房の隅にあるコーヒーミルの機械を観て、それは何だと聞くので、前からあったものだとサチエは答える。
そして、男から勧められ、入れてみたコーヒーを飲んだサチエは驚く。
本当に美味しかったからだ。
男は、人から入れてもらったコーヒーは美味しいと言い帰って行く。
その頃、ミドリは、市場であれこれ珍しい食材を購入していた。
そして、店に帰って来たミドリに、サチエが先ほどのコーヒーを出してみると、美味しいと驚く。
いつのもようにやって来たトンミの反応も同じだった。
ミドリは、今、日本のコンビニなんかでも、シャケマヨなどというおにぎりもあるくらいだし。こちらの人間が、おかかや梅干しに興味を示さないのは当然だと思うので、新しい具材を試してみたらどうかと、購入して来たトナカイの肉、ザリガニ、ニシンなどを取り出してみせる。
やってみようかと言う事になって、具材を調理しておにぎりにしてみると、トンミも交えて、試食会を開いてみる。
しかし、どれもイマイチだった。
夜、ミドリが膝行を習いたいと言うので、一緒にやりながら、今日の試みは無駄ではなかったと慰めたサチエは、明日はシナモンロールを作ってみようと言い出す。
翌日、そのシナモンロールを作っていると、いつもの三ババが通りかかり、焼き立てのシナモンロールの匂いに釣られ、始めて店の中に入って来るて、コーヒーとシナモンロールを注文するのだった。
その後、サチヨはプールで泳いだ。
その頃、一人の日本人女性マサコ(もたいまさこ)が、ヘルシンキのヴァンター空港の荷物が出て来るターンテーブルの前で呆然としていた。
一方、ミドリは、自転車で町をサイクリングしていた。
かもめ食堂には、いつの間にか、三ババが常連客としてコーヒーとシナモンロールを注文していた。
ミドリは、毎日タダのコーヒーを飲みに来るトンミに、たまには友達でも連れてくれば?と嫌味っぽく言うが、トンミの曖昧な態度を観て、「いないんだ…」と確信してしまう。
そんなかもめ食堂の中を睨み付けている女性の姿が外にあった。
ミドリとサチエは、訳が分からず、愛想笑いしてみると、その女性は立ち去って行った。
その頃、マサコは、海辺でかもめにエサを与えていた。
かもめ食堂は、少しづつ客が入るようになっていたが、その日も、あの謎の女性が、店内を睨み付けて去って行く。
そんな所に、マサコが入って来てコーヒーを注文し、荷物が届かないんですと言い出す。
もう少し待ってみたら?とサチエが慰めると、もう三日も待っているのだと言う。
いつまでこちらに?と問いかけると、決めていないのだと言う。
観光ですか?と問いかけても、そうかも知れないし、そうでないかも知れないし…と曖昧な返事。
翌日、海辺でマサコは、まだ私の荷物届かないのかしら?とケイタイをかけていた。
かもめ食堂には、いつも通りトンミが来るが、今日も、あの謎のおばさんが店内を睨み付けている。
そこへマサコがやって来て、まだ届かないと言う。
大事なものが入っていたんですか?とサチエが問うと、大事なもの、何か入ってたかしら?と自問する様子。
今度は、マサコの方が、どうしてこんな所で店をやろうとしたの?と聞いて来たので、ミドリとサチエは、今まで通り答えるが、いいわね、やりたい事があって…と、マサコはうらやましそうに言う。
やがて、いつまでも同じ服では何だから、買い物に言って来ると出かけ、しばらくすると、派手なワンピースに着替えて帰って来る。
トンミはシナモンロールを当然のように食べている。
そんな所に、いつもの睨みおばさんがやって来て、ついに店の中に入って来ると、コスケンコルヴァという強い酒を注文する。
それを一気に飲み干すと、お代りをお前が飲めと言うように、グラスを差し出すので、サチヨは自分は強い酒は飲めないと断わる。
すると、今度はミドリに飲めと差出しので、ミドリも断わる。
とうとう、隣のテーブルに座っていたマサコにグラスを差し出すので、マサコは黙って頷いてみせる。
マサコが酒を一気飲みし、そのグラスを返されたおばさんが、もう一杯酒をぐい飲みした所で、その場に失神してしまう。
その後、トンミにそのおばさんを背負ってもらい、三人そろって、彼女の自宅まで送り届けてやる。
その後、自宅のソファに座らされ、水を飲まされたおばさんは、独り横に座ったマサコに対し、何やら写真を見せてとうとうとしゃべり続ける。
玄関先で待っていたミドリはサチエに、皆のんびり平和そうなここの国にも、哀しい人はいるんですねと話していた。
その後、三人で帰る途中、あの人は、夫に出て行かれ、この先どうして良いのか分からないと言っていたと、フィンランドも全く分からないはずのマサコが解説していた。
翌日、トンミがいつも通り、店に来たので、ミドリは昨日世話になった礼を言う。
すると、マサコもやって来る。
そして、自分は、病弱の両親の看護を長くやって来たが、一昨年母が、昨年父が相次いで亡くなったので、正直言って、20年間の足枷が取れたような思いがしたと話しはじめる。
父親のおむつを替えていた時、テレビで、フィンランドでやっているというエアギター選手権を観た事があり、それで、この国に興味を持ったのだとも。
ミドリもサチエも知らなかったのだが、この国には、嫁背負い競争とか、ケイタイ飛ばし競争など、奇妙な大会が色々あるのだと言う。
その何となくスコーンと抜けている所が面白いとマサコは言い、どうしてこの国の人たちはゆったりしているのだろう?と疑問を口にすると、それを聞いていたのか、突然トンミが「森です」と口を挟んで来る。
それを聞いたマサコは、すぐさま立ち上がると「森に言って来ます」と出て行く。
その後、森の中で、きのこ集めをしていたマサコは、高い木の梢を揺らす風に気を取られる。
かもめ食堂では、さらに客が増えていた。
そこへ帰って来たマサコは「森は良かった」と嬉しそうに報告する。
きのこ集めしたかとサチエが聞くと、したけど、落としたらしく、いつの間にかなくなっていたとマサコは答える。
そしてマサコがおにぎりを注文し、それがテーブルに運ばれて来ると、店中の客たちの視線が、その奇妙な食べ物に集中するのだった。
いつの間にか、マサコも店の手伝いをするようになっていた。
そこへ、先日酔いつぶれたおばさんがやって来て、世話になった礼を言うと共に、日本にまじないのようなものはないかと聞いて来るので、冗談半分に藁人形に五寸釘を刺す「丑の刻参り」を教えてやるが、その夜、おばさんは本当にそれを実行する。
すると、どこかでテレビを観ていた男が胸を押さえて苦しみ出す。
翌日、かもめ食堂は閉店の札を出していた。
サチエ、マサコ、ミドリ、それにあのおばさんの4人は、一緒に着飾って海辺でくつろいでいたのだった。
おばさんは、サチエに、以前飼っていた子犬の写真を見せ、あなたが似ていたので観ていたと教える。
やがて、おばさんの提案で一緒にサウナに行こうと言う事になり、その帰りに全員で店に寄ると、何と、入口の鍵が開いているではないか。
こわごわ店の中に入っていったサチエは、台所付近で怪しい人影を見つけ、その人影が迫って来たので、思わず合気道で倒してみると、その男は、以前、コーヒーのおいしいいれ方を教えてくれた客だった。
おばさんは、その男の顔に見覚えがあるらしく、前にここで喫茶店をやっていた男だと言う。
男はすっかりおとなしくなり、店に置いて行ったコーヒーミルの機械を取りに来たのだと答える。
おばさんが、妻や子供の事を尋ねても、何も答えようとしない。
すると、「お腹空いた!」と言い出したサチエは、急いでおにぎりを作り出す。
そして、全員が揃ったテーブルに置いて、まず日本人三人が食べはじめると、おばさんも恐る恐る手に取って食べはじめ、お腹を鳴らした男も又、おにぎりをつまんでいた。
やがて、機械を手にした男が帰って行く。
その胸元には御飯粒が一つ付いており、男は立ち止まってそれに気づくと、つまんで食べるのだった。
ある日、ミドリは、蛙の折り紙を作って、トンミから感心されていた。
厨房にいたサチエは、マサコに魔法のコーヒーと言うものを知っているかと尋ね、実は、先日の泥棒男マッティからもらったコーヒーがあるので飲んでみようと言う事になる。
ミドリとトンミもごちそうになり、その美味しさに感心するが、やがて、ミドリが、前から気になっていたのだが、どうしてここのメインメニューがおにぎりなのかと聞いてみる。
サチエは、実は、1年に二度だけ、父親が料理を作ってくれる事があり、それは運動会と遠足の日で、その時に作ってもらった不格好なおにぎりがとても美味しかったからだと答えると、ミドリは泣きそうになる。
翌日、いつものように海辺で、マサコが、私の荷物まだ出て来ないかと電話していた。
やがて、店に戻って来たマサコは、荷物が出て来たので、そろそろ帰る時期なのかと…と報告して、ホテルに帰って行く。
その姿を観たミドリは、マサコさん、日本に帰るんですかね?と気にしながら、もし私が帰る事になったら寂しいですか?と問いかけて来る。
サチエが、人間は皆変わって行くものですからと答えると、寂しくないんだと、ミドリがちょっとすねてしまったので、寂しいですよと慌ててフォローするサチエ。
良い感じに変わって行けば良いんですけどね。
ホテルの部屋に大きな荷物を運び込んで来たマサコはは、それをベッドの上に置いて開いてみると、中には黄色い花びらが大量に敷き詰めてあった。
その後、私の荷物、何だか違うと、いつも通り海辺で電話していたマサコに、近づいて来た見知らぬおじさんが、何故だか、太った猫を渡して去って行く。
かもめ食堂にやって来たマサコは、変なおじさんから猫を渡されたので帰れなくなった。又ここに置いてもらえますか?と言うので、サチエは喜んでと答える。
かもめ食堂は、いつの間にか大にぎわいになっていた。
あのあばさんがやって来て、夫が戻って来たと嬉しそうに報告する。
いつも通り、プールで浮かんでいたサチエは、かもめ食堂がついに満員になりました…と呟くと、廻りにいたフィンランド人たちが一斉に拍手してくれる。
ある日のかもめ食堂。
ミドリが、マサコのいらっしゃいの挨拶の仕方は丁寧過ぎておかしいと指摘する。
すると、そのマサコが実際にやってみて、あなたの挨拶の方が素っ気なさ過ぎない?と言い出す。
ミドリもいつも通りやってみる。
そして、そのミドリが、サチエさんの挨拶は良いんですよねと感心したように言った途端、誰か客が入って来る音。
思わず、サチエは微笑んで「いらっしゃい!」。
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フィンランドを舞台に、三人の日本人女性の出会いと、現地の人たちとの触れ合いを淡々と描いた作品。
そのゆったりとした時間経過が心地よい。
もたいまさこ、片桐はいりという個性派女優と、若い頃から元気一杯と言うイメージがあった小林聡美が、いつの間にか、すっかり落ち着いた大人の女になっていて、この三人のバランスが、実に自然体で宜しい。
変に大向こうを狙わず、何も大きな事は起きないが、凡々たる毎日の積み重ねの中にもそれなりに変化があり、それが楽しく感じられるように描かれている。
一見、いかにも女性ならではの視点に思えるが、男が観ても、違和感は何もない。
地味と言えば地味な世界だが、いわゆる作家映画のような癖はない。
舞台設定のせいか、何となく、昔のヨーロッパ映画を観ているような雰囲気もあるが、これは、昔からあった日本映画の一つの典型劇、いわゆるホームドラマの新しい発展形ではないだろうか。
すぐに家族のような存在になるオタク青年役の坊やが可愛く、物語の中でも巧く生かされている所にも感心させられた。
微妙に加えられているファンタジー風味も、魅力的。