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怪談本所七不思議

1957年、新東宝、林音彌+赤坂長義脚本、加戸野五郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

江戸時代、本所の辺りには縦横に堀が巡らせてあり、その周囲はうっそうとした草木が生い茂っていた。

本所の七不思議とは…

一片葉の葦 二お竹林の狸囃子 三送り提灯 四消えずの行灯 五首洗いの井戸 六足洗い邸(やしき) 七おいてけ堀。

とある堀の淵で舟釣りをしている町人二人に、どこからともなく「置いてけ〜。捕った魚を置いてけ〜」と声が響いて来る。

この付近に住むという長者狸のいたずらと察しをつけた二人(鮎川浩、小高まさる)は、空元気を出して、貍め、出て来い!と挑発すると、彼らの背後には、何時の間にか袖で顔を隠した娘が立っており、その両袖を広げて顔を見せると、何とのっぺらぼうだった。

さらに、一ツ目小憎、三つ目入道、ろくろっ首などが次々と出現し、町人二人は飛んで逃げ帰る。

彼らが置いて行ったビクの中に入っていた鮒たちは、次々と空中に舞い上がる。

その頃、これから上州へ武者修行の旅に出かける小宮山弓之助(明智十三郎)を連れて、亡き母親の墓参りに来ていた父親の小宮山左膳(林寛)は、最近、後妻として自分の身の回りの世話をさせている、おさわ(山下明子)にも、墓前に手を合させた後、中間の五助(沢井三郎)も連れて帰宅途中、堀近くの草むらで、何やら町人たちの人だかりを見て、事情を聞くと、いたずらものの長者狸を捕まえたので、これから殺そうとしている所だとの返事。

墓前の帰りと言う事もあり、慈悲の心から、その狸を金で買取って逃してやった左膳は、旅立つ息子の弓乃助をその場から見送るのだった。

彼らが立ち去った後、積んであった藁の後ろに逃げ込んだ狸は、一瞬にして若い娘(橘美千子)に変身すると、命を助けてもらった左然たちの後ろ姿に向って、深々と頭を下げるのだった。

自宅に戻った左膳は、兄の息子、つまり甥に当る権九郎が訪ねて来て待っていると知り、にわかに不機嫌になる。

身持ちの悪くとうに勘当していた権九郎が、性懲りもなく、又、金の無心に来た事が分かっていたからだ。

案の定、喧嘩で痛めたとかいう左足を気にしている権九郎だったが、初対面の後妻のおさわは、彼の顔を見て、一瞬動揺する。

改めて、左膳からおさわを紹介された権九郎の方も、ちょっと戸惑っている様子。

結局、今回限りと言う約束で金をもらって引き上げる事になった権九郎は、廊下で八重(松浦浪路)と出合い、旅立っていなくなった弓之助の話をしてからかうのだった。

その夜、寝所で寝ていた左膳は、突然、隣の座敷に現れた若い娘に気づいて目覚め、刀を抜きかけるが、娘は、自分は、昼間命を助けてもらった長者狸だが、その恩返しとして、今後、お屋敷を守らせて頂きたいと頭を下げて消えてしまったのを見て、考えに耽る。

その後、使いで外出中だった五助は、権九郎に呼び止められ、奥様に渡すようにと、小遣いと一緒に付け文を渡される。

屋敷に戻り、それをおさわに渡した五助は、ちゃっかり彼女からも小遣いをせしめるのだった。

付け文には、会いたいので、両国の川平に来てくれと記されており、さっそく頭巾姿に身をやつし出かけたおさわは、待ちかねていた権九郎と、複雑な気持ちで再会していた。

実は、おさわは、昔、池之端の茶屋に勤めており、その頃から、権九郎とは深い仲だったのである。

最初は、今の立場の違いを盾に、権九郎との付き合いを断わろうとしていたおさわだったが、権九郎にその場で強引に抱かれてしまうと、又元の女に戻ってしまうのだった。

その日からと言うもの、おさわは、度々家を空けるようになり、中間の吉蔵(水原爆)も、八重に相談していた。

そんな八重に、左膳は、弓之助が、旅先で病気になったらしいと教える。

屋敷から、度々金を持ち出して権九郎に渡していたおさわだったが、その金額の少なさに業を煮やした権九郎は、自分達の事が薄々、屋敷の喜兵衛に気づかれつつあるらしいし、取りあえず50両という纏まった金もお前も欲しいので、この際、叔父貴をばらそうと持ちかけて来る。

ある日、さわが病と言うので、お供の五助と喜兵衛(小森敏)を連れて気晴らしのため、向島へ花見に出かけた左膳は、お竹林の狸囃子が始まった日暮れ時、帰り道で五助が転び、行灯の火を消してしまったので、彼が近くまで火を借りに行って入る間、少しづつ歩き始める事にするが、いきなり見知らぬ浪人ものたちから取り囲まれてしまう。

左膳は、その中に混じっていた権九郎に気づくが、いきなり斬りかかられ、応戦空しくやられてしまう。

その頃、のんきに狸囃子を踊っていた長者狸は、左膳のピンチを察知し、すぐさま人魂に変化すると、左膳の元に飛んで行くが、一足遅れで、すでに左膳は絶命しており、権九郎が手助け役を頼んだ五助に、死体の後始末を頼んで帰る所だった。

一人になった五助は、近くに落ちていた行灯を手に取ろうとするが、いきなり、勝手に火がついた行灯が自分を追い掛けて来たので、泡を食って逃げ出してしまう。

屋敷では、戻った五助と、彼から話を聞いた八重が、布団で休んでいたおさわに、左膳が賊に襲われ絶命した事を知らせ、動転する彼女を気づかって、自分達が後始末をして来ると出かけてしまう。

独り残されたおさわは、布団の中でほくそ笑むのだった。

後日、左膳の墓参りに出かけた八重は、若旦那様が早く帰って来て下されば良いのに…と呟いていた。

彼女が帰った後、娘姿で出現した長者狸は、かならず、若旦那様を守ってみせます。草葉の陰から御笑覧あれ、と墓前に誓うのだった。

ある雨の日、一人で着替えをしていた八重の部屋に、いきなり酔った権九郎が入って来て、彼女を襲おうとするが、懐剣を抜いて彼女が自害しようとするので、その場はおとなしく帰ろうとする。

しかし、突然、その懐剣にものを投げて打ち落とすと、権九郎は嫌がる彼女に抱きついて押し倒そうとする。

この様子を陰で伺っていたのが五助で、彼はすぐさまこの事を、おさわの部屋に御注進に出かける。

さらに、自分達がやった事を御上に訴え出れば、みんな同罪だと脅し始めるが、悪賢いおさわは、うぐさま色仕掛けで、そんな五助を懐柔しようとし始めるのだった。

八重の身があわや…というその時、部屋を開けたのが、ぐしょ濡れの弓之助だった。

弓之助は、着替えをするので手伝ってくれと、八重を部屋から連れ出すが、その様子をいまいましそうに見送った権九郎は、今まで、弓之助が立っていたはずの廊下が、全く濡れていないのに気づく。

おさわの弓之助の帰還を知らせに行った権九郎は、五助と抱き合っている現場を見てしまうが、その不義は許してやる代わりに、五助に弓之助を殺害するよう命じるのであった。

その直後、着替えを済ませた弓之助が、義母おさわに挨拶をしに来るが、権九郎はそ知らぬ素振り。

その夜、権九郎から早く寝ようと誘われたおさわは、行灯の火を消そうとするが、いくら消しても、又、行灯がついてしまう。

その怪異に目を凝らした権九郎は、行灯に重なるように、叔父佐膳の亡霊を見たので、驚愕のあまり、刀で行灯を斬り付けてしまう。

同じ頃、庭の井戸から水を汲み上げていた五助は、水桶に乗った左膳の生首を見て気絶していた。

翌日、その五助に案内させて、左膳の斬られた場所まで来た弓之助が、父親が倒れていたと言う松の根方を観察している隙を見て、五助は匕首で弓之助の背中を刺してしまう。

驚愕して振り向いた弓之助に、冥途の土産として、左膳殺害の張本人はおさわと権九郎と打ち明ける五助。

弓之助が倒れ、五助が去った後、権九郎の手先の浪人ものたちが、その死体を改めに来るが、不思議な事に、彼らが見ているその前で、弓之助の死体はかき消えてしまう。

その頃、屋敷では、八重の姿をぼーっと眺めていた権九郎を、おさわがからかっていた。

そして、五助も殺害するように勧める。

そこへ戻って来た五助が、意地汚く褒美を欲しがるので、権九郎は小判を渡してやるが、そこへ、殺したはずの弓之助の姿が、裏口付近にぼんやり現れたから驚愕してしまう。

その姿を見た五助は幽霊だ!と腰を抜かすが、その五助を即座に叩き斬った権九郎は、叔父を殺したのは、この五助だったと、弓之助に言い訳する。

しかし、その夜も怪異は続き、権九郎とおさわの部屋に、「足を洗え!」という声が響いたかと思うと、又しても左膳の亡霊が出現したので、それを斬ろうと刀を振り回す内に、権九郎は以前痛めていた左足の同じ場所を、自分で斬り付けてしまう。

翌日、その足の傷を治療に来た医者(広瀬康治)が、怪異の噂を聞き、それなら強い法力を持つ坊さんを知っているから、祈祷してもらったらどうかと勧めるので、権九郎はそれに頼る事にする。

実は、24日のその日、上州からの早飛脚で、父の仇を討つ為、26日頃、江戸に到着すると言う弓之助署名の奇妙な手紙が届いていたからだった。

さっそく、呼ばれた和尚、竜海(菊池双三郎)が、権九郎、おさわを伴い、とある寺で祈祷を始める。

その途端、小宮山の屋敷で休んでいた弓之助は苦しみだし、心配する八重を遠ざけてしまう。

実は、その弓之助は、長者狸の変身した姿だったのだ。

狸は、苦しみながらも、殿様の仇を討つまでは…と、必死に苦痛に耐えようとする。

一方、寺では、竜海和尚が、敵は年取った狸だと分かったので、仏法独自の経文を唱えろと全員に伝えていた。

すると、その竜海の首の数珠が蛇に変わっているではないか。

さらに、その場に集結していた権九郎の仲間たちの頭上から次々に蛇が降って来て、祈祷の場は大混乱となる。

そんな中、小宮山の屋敷に一人の若者が訪ねて来る。

本物の弓之助だった。

応対した中間の吉蔵は、訳が分からず、立ち尽くしていたが、やって来た八重は、その弓之助を見て、すぐさま部屋まで来てくれと申し出る。

本物の弓之助が、部屋にやって来ると、そこにはもう一人の自分が苦しんでいるではないか。

苦しんでいた弓之助は、本物の到着を確認すると、その場で若い娘の姿に変身し、頭を下げて、自分は以前殿様に助けられた長者狸であり、この家を守る為、あなたのお姿を借りていたと、これまでの事情を話して聞かせるのだった。

父親殺害の真犯人を知った弓之助は、ただちに公儀に訴えでて、仇を討つ事を誓う。

その後、寺に駆け付けた弓之助の姿を見た竜海は、長者狸の化身と思い込んで近づくが、本物だったので、あっさりひっくり返されてしまう。

弓之助は、その場にいた権九郎に、尋常に勝負しろと申し出る。

その弓之助の姿を囲むように、左膳、喜兵衛、五助の亡霊が出現する。

その亡霊の姿に逆上した権九郎は、刀を降り下ろすが、斬った相手は身内の浪人だった。

さらに、五助の亡霊を斬ったつもりがおさわであり、三つ目入道を突いたつもりが竜海和尚だったりで、もはや半狂乱になった権九郎は、次々に現れる亡霊や妖怪の姿を斬りまくる内に、自分の仲間たちを皆殺しにしてしまうのだった。

やがて、八重も駆け付ける中、半ば錯乱状態にある権九郎を、弓之助は見事討ち果たす。

その弓之助から、ちくしょうながらアッパレであったとねぎらいの言葉をかけられた長者狸は、娘姿で出現して微笑むのだった。

その後、竹林の中で、明るく踊る長者狸たちの姿があった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

天知茂が「東海道四谷怪談」(1959)張りの色悪を演ずる妖怪映画。

一応、本所の七不思議を全て盛り込み、のっぺらぼう、傘お化け、三つ目入道、一ツ目小憎、ろくろっ首などお馴染みの妖怪が登場するだけでなく、幽霊も登場して、恐怖とユーモアが混在した、何でもありの賑やかな内容であるだけでなく、色っぽいシーンがあるかと思えば、妙に明るく軽快な音楽での立ち回りもあったりと、大人向けなのか、子供向けなのか、さっぱり分からない珍品になっている。

今で言う「ファミリー映画」発想だったのかも知れない。

後の大映「妖怪三部作」の原型のような雰囲気もある。

それでも、若き天知茂の美貌は見物。

亡霊に錯乱して行くその姿は、後の「東海道四谷怪談」の民谷伊右衛門を彷彿とさせる。

ひょっとすると、この映画での主役が、伊右衛門役へのきっかけだったのかも知れない…などと、想像してみたりする。

助けてもらった狸が恩返しするという割には、助けてもらった張本人はあっさり殺され、幽霊になって、妖怪たちと一緒に天知茂と戦うんじゃ、全然、恩返しになってないような気がするが…。

ちなみに、脚本を担当した赤坂長義は、テレビ初期のヒーローもの「ナショナルキッド」の監督でもある。