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地獄('79)

1979年、東映京都、田中陽造脚本、神代辰巳監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

山崎ハコのけだるい主題歌が流れる。

地獄と言うものは、現世の法律だけでは裁けない、人間の罪を裁いてくれる場所として、人間が想像した場所である…と解説をする、天本英世のナレーション。

昭和30年、山の崖っぷちを逃げる男女。

女は、あの人が追って来る、私たちは殺されると怯えている。

その二人の後を猟銃を持った男が追い掛けて来る。

逃げる男は生形竜造(西田健)、追う男はその弟、生形雲平(田中邦衛)、竜造と一緒に逃げている女は、雲平の妻ながら、兄の竜造と過ちを犯してしまったミホ(原田美枝子)だった。

小屋に逃げ込んだ竜造は、兄弟なので、何とか命乞いしてみると答えるが、ミホはあの人は、お腹の子を殺すだろうし、あの人が許したとしても、竜造の妻であるシマ(岸田今日子)が絶対に許さないだろうと怯える。

やがて、その小屋に入って来た雲平は、有無を言わさず猟銃を発砲して、兄を撃ち殺してしまう。

ミホは命乞いをしながら逃げるが、山道に仕掛けてあった獣罠に足を挟まれ倒れ込んでしまう。

近づいて来た雲平は、動けなくなった妻の腹を、容赦なく踏み付けるのだった。

やがて、本家で待つシマの元に戻って来た雲平は、ミホは、獣罠にかかったまま死にかけている、クリシミを長引かせる為、わざと殺さなかったと報告するが、とどめを刺さなかった雲平をなじるように、自ら、ミホが倒れている現場にやって来たシマは、瀕死の状態のミホを観て、助けるどころか、子供は地獄で生めば良いと言い残し、そのまま立ち去るのだった。

ミホは、最後の力を振り絞って、お腹の中の子に、以前から女の子が生まれると思い決めていたアキと言う名前を告げて息耐える。

その時、近くの笠卒塔婆に付いていた金輪が廻り出す。

やがて、ミホを発見した村人たちがやって来るが、すでに死んだミホの股間から赤ん坊が産み落とされる瞬間を見て驚愕する。

赤ん坊のへその緒は、その場で鎌で斬り取るった村人たちだったが、不思議な事に、ミホの死体は独りで坂道を滑るように登って行き、彼女が着ていた着物は崖の下に舞い降りるのだった。

ミホは、大勢の子供達が石を積んでいる三途の川を歩いていた。

やがて、懸衣翁(浜村純)と懸衣嫗(毛利菊枝)に出会うと、着ていた赤い襦袢を剥ぎ取られ、その襦袢はそこに生えていた木の枝に吊されてしまう。

姦通の罪は重いぞと彼ら地獄の番人たちから言われたミホだったが、自分の腹にすでに子供がいない事に気づく。

赤ん坊は現世で産み落として来たのだと説明されたミホは、雲の狭間に見える現世の世界の赤ん坊を見る事になる。

生まれながらに地獄を背負った赤子の生きざまを見届けるのだ…と、懸衣翁はミホに告げる。

村人たちは、本家のシマの元に、生まれたばかりの赤ん坊を持って行くが、死んだ人間が子供を生む等信じられないとシマは蒼ざめる。

そこにやってきた二人のシマの子供は、連れて来られた赤ん坊を物珍しそうに見つめていたが、すぐに、シマに追い立てられてしまう。

そこへ、泥酔状態でやって来た雲平は、赤ん坊の顔があまりにミホの面影そっくりなのを見て、思わず嘔吐してしまうのだった。

その赤ん坊の身体を拭いてやっていたシマは、赤ん坊の左の腰の部分に奇妙な痣がある事に気づき、それがミホの特長と同じだったので、思わず風呂の中に漬けて殺そうとするが、窓の外から様子をうかがっていた下男の山尾治一、通称山治(加藤嘉)が、村人が全員、どう赤ん坊を育てるのか注目している中、殺してしまっては生形家の名前に傷が付くと思いとどまらせる。

部屋に入って来た山治は、赤ん坊が入った籠を背負っており、離れた町で捨て子にされていた女の子なのだと説明する。

ミホの子供を育てるのは我慢できないだろうからと、その場で赤ん坊を入れ替えると、山治は、ミホが生んだアキの方を籠に入れるとどこかへ連れ去ってしまう。

時が経ち、カーレース場では、カーレーサーになったシマの次男、松男(石橋蓮司)が、競争相手に女性ドライバーがいるのを観て舌打ちしていたが、その顔にはどこかで会ったような気がしていた。

その女性ドライバーこそ、孤児院で成長した水沼アキ(原田美枝子-二役)だったのだが、松男が知る術もない。

スタートしたアキは、コース場で突然、アキと自分を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、車の上に女の生首が落ちて来たのを観て、思わずハンドルを斬り損ね、事故を起こしてしまう。

その後、アキは二度も事故を起こし、休養を勧められた事もあり、鬼湧温泉という場所に列車で向っていたが、一番最後尾のデッキで、旅行雑誌を読んでいた彼女は、突然カーブで扉が開き、車外に放り出されそうになる。

必死に、扉にしがみついていた彼女を助けたのは、東京の美術雑誌の出版社に勤めていたが、見切りを付け、故郷の窯で家元である生形焼きを継ぐ事を決意して帰る途中だった生形幸男(林隆三)、つまり、シマの長男であった。

幸男は、アキが行きたがっていた鬼湧という場所は、有名な地震地帯で、すでに温泉は枯れてしまっていると教える。

さらに、列車から降りて一緒に歩く事になった幸男は、当地にある独特の笠卒塔婆というのに付いた金輪を廻してみて、止まれば天国に行く事が出来、逆回転すると地獄に落ちると言う地元の教えも、アキに教えるのだった。

やがて、生形家の実家に連れて来られたアキは、玄関口で、幼い頃、赤ん坊だった自分を観ていた二人の男の子の幻影を見る。

そこに迎えに出て来たのは、幸男の妹久美(栗田ひろみ)だった。

座敷で幸男の帰りを待っていたシマは、一緒に付いて来たアキの顔を満て驚愕する。

一方、アキの方は、何時の間に付いたのか、自分の首筋から落ちた蛭が、畳の上で蠢いている事に気づく。

アキの首筋から血が流れているのに気づいた幸男は、母親に薬を取りに行かせた後、その血を吸ってやりながら、何時しかアキの身体を抱きしめていた。

シマは山治を呼ぶと、入浴を勧めたアキの左の腰部分に痣があるのを、確認させるのだった。

風呂から上がったアキには、着物を着るようにと勧めたシマは、その後二人きりになった幸男に対し、あなたが窯元を継いでくれるのなら、本家の面目が立つと喜びながらも、あの娘は何しに来たのかと聞く。

九能寺の卒塔婆を観に来たと幸男が答えると、思わず、違う!あなたに言っても通じやしないと、意味不明な事を言い出すシマだった。

その夜、用意された部屋でアキが寝ていると、壁に掛けた着物が怪しく蠢くのだった。

仏壇の前で山治から、赤ん坊だったアキは東京の養護施設に預けたと聞かされたシマだったが、成長したそのアキの事を、幸男が好きになったらしいと母親らしい直感で教える。

それを聞いた山治は、しかし、あの二人は腹違いの…と言いかけて止める。

やがて、地元では頻繁に起きる地震が又起きたので、仏壇のロウソクを消したシマは、アキに着せた着物は、ミホの形見なのだが、生形家ゆかりの品なので何とか取りかえすように命ずる。

村には精力をもてあました若者がいるので…と、 山治は にやりと笑う。

翌日、首に包帯を巻いたアキは、笠卒塔婆を観に一人で出かける。

何気なく、一つの卒塔婆の金輪を廻してみると、金輪は、すぐに逆回転を始める。

二つ目の卒塔婆を試しても結果は同じだった。

やがて、そこにあった卒塔婆の全ての金輪が逆回転しはじめる。

その間、夢中で首に包帯をほどくアキ。

その時、突然地震が起き、アキの足元が崩れたかと思うと、そのままアキの身体は崖下に落ちて行き、ほどけた包帯の端が、廻る金輪に引っ掛かり、首吊りの状態のようになって崖の途中で止まったアキは、崖のすぐ横にあった滝つぼの中に、地獄の亡者たちが蠢いている姿を垣間見るのだった。

そこは針地獄で、登っている亡者の中には母親ミホの姿があった。

ミホは、足や手を大きな針に突き刺されながらも、アキ!と、娘の名前を呼んでいた。

私は雲平に殺された!私をこんな目に会わせたのはシマよ!あなたは死人の私から生まれたのよ!アキ!お前は私の分も生きて、私の恨みを受け継ぐのよ!というミホの声、さらに、お前の身体には、私と同じく淫蕩な血が流れている…と地獄からの声が聞こえて来る。

竜造も地獄の針の山からアキの名を呼び、山の頂上で出会ったミホと抱き合うと、二人の身体は炎に焼かれ燃え上がるのだった。

アキは見知らぬ小屋の中で目覚める。

横には、何故か松男がいる。

どうやら、崖で引っ掛かっている所を助けられたらしい。

アキは、その松男に苦しい!もう待つのは嫌!抱いて!と叫び、自ら身体を求めて行く。

その直後、再び失神したアキは、ようやくはっきり目覚めるが、自分が犯した松男との過ちは覚えていたのか、狼狽するのだった。

地滑りが起きて、地獄を観た!私は地獄から生まれて来たと混乱した言葉をはくアキだったが、松男の引く荷車に乗せられて本家に帰って来る途中、松男が呟いた「悪い巡り合わせだ…」という言葉に対し、「私にとっては良い巡り合わせ、これから地獄が始まるの…」と、無気味な言葉を吐くアキだった。

生形家に帰り付いたアキは、幸男に対し、どうして卒塔婆の所まで付いて来てくれなかったのか、20年前の恐ろしいものを観てしまったとなじり、抱きつく。

そんな様子を脇で観ていた松男は、この女は地獄を見ると男が欲しくなるらしいと教える。

その後、部屋で幸男と二人きりになったアキは、自分にはミホと同じく悪い血が流れていると告白するが、何故、ミホの名を知っているのかと言う幸男の質問に対しては、私のは母だからと答えるのだった。

助けて、怖いと怯えるアキを抱いてやる内に、二人はキスをしていた。

そこへ突然入って来た久美は、アキの包帯を取り替えると言って外すが、その傷口が膿んでいるのを観て、「汚い!」と叫ぶのだった。

その後、一人きりになった幸男は、アキと自分との関係を知ってしまった事で苦しみ、鏡を殴りつけて割ってしまう。

一方、久美と部屋で二人になったアキは、自分の着物の中にお守りが入っていたのだと話していたが、その時、壁に掛けていたその着物が、ひとりでに久美の身体にかぶさる。

やがて、その着物を着た久美が外出していた所、突然、近づいて来た男から目隠し用の袋を被され、その後、複数の若者たちに滝の側まで連れて来られると、乱暴されてしまう。

久美が着ていた着物を羽織った若者の一団とすれ違った雲平は、何があったか悟る。

久美は、本家の風呂場で、一人何度も水を被り続けていた。

本家の庭先では、シマが、久美が着ていた着物を燃やしていた。

その場には、着物を持って来た雲平と幸男の姿も会ったが、雲平嫌いな松男の姿はなかった。

雲平は、20年前に染み込んだ血が消えないんだ…と呟く。

さらに、久美は本家の娘ではなく、捨て子だったとも。

ミホの娘の事を言い出す雲平に対し、シマは、今見せてやると言い、老婆にアキを呼びに行かせる。

やって来たアキを観た雲平は、ミホと売り二つのその姿を観て、これは悪い夢だ!…と驚愕する。

シマから、死んだ主人の弟雲平だと紹介されたアキは、雲平?と名前を思い出すように繰り返すと、その場で突然気絶してしまう。

やがて気が付いたアキに対し、シマは、この村に何しに来たの?と問いかけるが、すっかり落ち着いたアキは、逆に、あなたは何を怖がっているの?と返すのだった。

その時、突然、襖から手が突き出し、襖諸共、久美が部屋の中に倒れ込んで来る。

シマは、こうなる事が分かって、着物を久美に着せたのね、出て行って!と迫るが、アキは出て行きません。こうなったら、もう出て行く訳には行かないのだと開き直る。

その後、久美を慰めながら、この苦しみを100倍にして、あの女に返してやると、シマは呟くのだった。

アキは、祟りを恐れて谷底に孤立して建てられていた母ミホの卒塔婆に、尼(佐藤友美)に案内されて来ていた。

その卒塔婆に付いた金輪を廻してみたアキだったが、やはり金輪は、逆回転しはじめる。

それを必死に止めようとするアキだったが、金輪は止まらない。

尼に助けを乞うても、尼はどうしようもない様子で立ち去ってしまう。

アキは、分かったわ母さん、救いなんてないって事が!と叫び、金輪にしがみつくのだった。

陶芸小屋で、独り轆轤を廻していた幸男の元に帰って来たアキは、自分の胸の苦しみを打ち明けるが、互いに腹違いの兄妹である事を知った幸男も同じらしく、苦しみながらも求めあうように、しっかりアキの身体を抱き締めるが、そこに突然入って来た久美は、自分は、アキの身替わりとしてこれまで育てられ、さらに犯されてしまった。自分はどこにあるのか?自分も子供の頃から幸男の事が好きだったのだと言いながら、抱き合っていた二人を棒で殴りつけて来る。

本家を飛び出したアキは、独り入水しようと川に入り込んで行くが、その後を追って来た幸男も川に入り、破滅するわ、私には地獄が付いているというアキに対し、それでも良い、もうおれたちは歩き始めたんだ、妹一人、地獄に行かせる訳には行かないと言い、川の中で抱き合う。

裸で抱き合う二人の様子を、滝の上から久美が見下ろしていた。

アキは、今夜来て…と、幸男に囁く。

その夜、シマから呼ばれ、蔵の中に入ったアキは、母親ミホの形見だと言う三味線を見せてもらう。

ミホは、温泉場私の女芸人だったが、3年前、雲平が見初めて連れて来たのだと言う。

最初は、女中か何かにさせるのかと思っていたら結婚すると言い出したので驚いた…と、シマは軽蔑したような口ぶりで話し続ける。

男を狂わす魔力があるのね…と言いながら、アキの首を締めようとする。

さらに、ミホの写真を見せてやると言い、古びた写真をアキの目の前に差し出したシマは、次の瞬間その写真をずたずたに引き裂いてしまうのだった。

やがて、竜造を身体で誘って…と、執拗に侮辱の言葉を投げかけるシマに対し、アキは苦悩の表情を浮かべる。

ようやく、父と母は愛しあっていたのだと反論したアキだったが、動物同然だとシマは叫ぶ。

やがて、床の一部を開いて、ここに竜造がいるのだと、その下にある地下室を見せるシマ。

そして、その中を覗き込んだアキを突き落としてしまう。

落ちたアキが観たものは、壁に貼り付いたような男のミイラだった。

穴の上から、不義を働いた男を、生形家の墓に入れる訳に行かないので、そうやってお腹の中に防腐剤をたくさん入れて保存しているのだとアキが教える。

そして、三味線も一緒に落とすと、入口を閉めてしまうのだった。

その頃、部屋に独りいた幸男の元に松男がやって来て、アキの事を冷やかしたかと思うと、自分も惚れているし、すでにアキとは、九能寺の墓で寝た仲だと挑発して来たので、二人は殴り合いの喧嘩になる。

その喧嘩を止めに来たシマは、久美が帰って来ないのだと打ち明ける。

三人して窯の方に向ってみると、窯の中が真っ赤に燃えているので、シマは直感的に中に組がいると察し、入口をふさいだレンガを崩そうとする。

見かねて幸男が代わってやるが、崩した入口から覗いた内部には、案の定久美が座っており、その身体は瞬く間に炎に包まれ焼けてしまう。

その頃、地下室に閉じ込められていたアキは、ミイラ化した父親の横で、習った事もない三味線を弾いていた。

何故か、聞いた事もない歌も何時の間にか口ずさんでおり、昔、母親ミホが歌っていたらしいその曲を聞いたのか、ミイラの目から涙がこぼれ落ち、やがて、その背後の壁が崩れ落ちて、通路が現れる。

アキは恐る恐る、地獄への道なのかと思いながら進んで行くが、やがて、上に続く穴を見つけたので助けを呼んでみる。

すると、上から、誰かいるのか?と声を掛けて来たのは、雲平だった。

彼の説明によると、この穴は、何代か前の先祖が、山攻めされた時の為に作った抜け道らしい。

雲平に助け出され、座敷で二人きりになったアキは、すっかり着替えて、三味線を弾きながら歌っていた。

かつての妻と同じ顔と声を持つアキを前に酒を飲んでいた雲平は、久美が窯の中で死んだ事や、昔、兄の竜造とミホを殺したのは自分だ等と聞かせていた。

段々酔って来た雲平は、アキに抱きついて口づけすると、殺したいな〜、抱きたいな〜…と呟いた後、アキの頬をぶつと、殺してやると迫って来る。

その時、アキを呼ぶ母親の声が聞こえて来て、思わず振り上げたアキの三味線のバチが、雲平の両目を切り裂き、雲平は資格を失ってしまう。

さらに、アキの名を呼ぶ声に誘われるように、表に逃げ出したアキを、目が見えなくなった雲平は、ふらふらしながら追い掛けて来る。

そんな雲平に、アキは三味線を弾きながら、私はミホよ、もう一度殺せる?と、挑発的な言葉を投げかける。

その三味線は何かに引かれるように道を滑って行き、それを追って行った雲平と共に崖から落ちてしまう。

その頃、本家では、久美の葬式が執り行なわれていたが、来客たちは「幸男がミホの娘を連れて来た」だの「ミホが祟っとるんじゃ」などと噂していた。

分家の雲平の姿がない事に気づいたシマは、顔が立たないと探しに行かせる。

幸男は、アキの姿も見えないので、どうしたのかと母に聞くが、シマは、罰を受けて出て行ったと言うのみ。

そこへ、村の消防団が走り込んで来て、雲平が崖下で死んでいたと報告に来る。

やがて運ばれて来た遺体の両目が斬られているのを観たシマは、ミホ?…と呟いて、一人で蔵の中に出向く。

地下室の入口を開き、階段を下ろすと、それを伝って降りて行ったシマは、壁のミイラもなくなっているのに気づき、周囲を探すが、床に転がっていた土塊のようなものが、そのミイラである事に気づき、愛おしそうに頭の部分を抱き上げたところで地震が起きる。

すると、階段が持ち上げられる。

上にはアキの姿があった。

あなたが瀕死のミホを見殺しにしたように、私も見殺しにしてやるとアキが言えば、負けない!あなたには負けない!地獄で待っているわと、シマは地下室の中から答える。

死んでしまえば良いと言い放ち、入口を閉じたアキだったが、同時に、地獄の運命に操られた自分の生きざまを嘆くのだった。

やがて、葬式が行われていた座敷にやって来たアキに、雲平の妻は、三味線のバチに血が付いていた、あなたが殺したのに違いないと迫って来るが、やがて、松男と幸男も兄弟ゲンカ始める。

その騒ぎを観た山治は、すぐさま来客たちを追い返すのだった。

松男はアキの首を締めようとするが、それを制した幸男がアキを連れ外へ飛び出して行く。

残された松男に、村の若い衆が、ここまま行かせて良いのかと焚き付ける。

その後、蔵の中の地下室の中に入った松男は、ミイラと寄り添うように死んでいた母シマの姿を発見し、ぶっ殺してやる!と呟くのだった。

やがて、かつて両親がたどったと同じように、幸男とアキは山を逃げて行く。

その後を、猟銃を持った松男、山治、そして村の若衆が追跡する。

自分が自首するから思う通りやれとけしかける山治の忠義面をうるさがった松男は、山治を猟銃で殴りつけるのだった。

そして、崖の上を逃げる二人に向って発砲するが、その音響で周囲の岩肌が崩れはじめ、松男や村の若衆たちは下敷きになってしまう。

一方、崖の中腹にあった小屋で抱き合っていた幸男とアキも、その雪崩に巻き込まれ、小屋ごと崖下に滑り落ちて行く。

アキは、幸男に、地獄へ連れて行く事を詫びていた。

やがて、小屋は大爆発を起こし砕け散ってしまう。

アキの身体は、渦巻きの中に飲み込まれて行く。

そして、かつて母ミホが来たのと同じ三途の河原へやって来たアキは、待ちかまえていた懸衣翁と懸衣嫗から、母と同じように着物を剥ぎ取られ、その着物を気の枝に吊される。

道を進んで行ったアキは、ふらふらと別の道を彷徨っている久美の姿を見かける。

閻魔大王(金子信男)の前に出たアキは、罰を受ける前に言いたい事はあるかと聞かれたので、母に会いたいと答えると、茶吉尼天(天本英世)が登場し、これがお前が行かねばならない地獄だと大鏡を見せる。

そして、その中に入り込んで行ったので、アキも同じように鏡の中に入り込んで行く。

そこは火炎地獄で、久美を犯し、その後、岩に潰されて死んだ村の若衆たちが焼かれていた。

さらに、巨大な鬼に掴まれたシマが、これ又巨大な石臼の中に落とされ、ミンチ状態になるのを見せられる。

石臼の下から溢れでた血の川の中から、再びシマの肉体は復活し、アキの顔を引っ掻こうとするが、アキが抵抗しない様子を観た茶吉尼天は、何故戦わない?そんな事では母のいる所へは行けぬぞとけしかける。

アキが母を呼ぶと、声をたてると、さらに深い地獄へ落ちると茶吉尼天が注意する。

水たまりを見つけ、そこで咽の乾きを癒そうとしたアキは、水の下に巨大な木が生えており、そこを雲平、幸男、松男らがよじ登っている姿が見える。

彼らは、木の上にいるアキの姿を求めて必死によじ登っていたのだが、そんな彼らの背中に、先が剣になった無数の枝が襲いかかり傷つけて行く。

あれは「とうようりん」と言う、色情に取りつかれた男たちの地獄なのだと言う。

さらに道を進んだアキは、巨大な扉がいくつも並んでいる場所にたどり着く。

一つの扉を選べと言うのだ。

アキは一つの扉を選び、その中に入ってみると、共食いをしている、身体の部分が芋虫のようになった化物が生息する世界に入り込む。

そこにいるのは、食肉犬と化した亡者たちだり、ここがお前の母親がいる地獄なのだと言われたアキは、互いに食い合っている亡者の中に、すっかり山姥のような姿に化身してしまったミホの姿を発見する。

やって来たアキの気配に気づいたミホは、新しいエサと思い近づいて来る。

戦え!さもないとエサにされるぞという茶吉尼天の声が聞こえるが、アキは「お母さん!」と叫んでしまう。

声を出すなと再度注意する声。

もう、アキの足は植物のように地面に固定され動けなくなっていた。

アキは、声を出した罰として樹木に化身させられたのだった。

巨大な桜の木に変身したアキに近づいたミホは、何を思ったか、その木肌を叩きはじめる。

さらに、木に身体後とぶつかりはじめたミホを観た茶吉尼天は、止めろ!さもないと、さらに深い地獄へ落ちるぞ!と声をかけるが、そんな声も聞かず、ミホが身体をぶつけ続けた結果、木肌の一部が砕け、中からまぶしい光芒が見える。

やがて、どこかの海岸に、生まれたばかりの赤ん坊が出現する。

その腰の部分には、ミホやアキと同じ痣がしっかり付いていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

親子二代に渡る因縁物語をテーマにした怪奇幻想映画。

トンデモ映画とも思えるし、シュールな不条理劇とも思える。

若き日の原田美枝子が、体当たり演技の二役を演じている。

金輪が付いた特徴的な卒塔婆は、東北地方に実際にあるもので、その金輪を廻して、天国行きか地獄行きかを占う風習も、その地方に実際にあるもののようであるが、この作品では、地震地帯と言うだけで、架空の地方と言う設定になっている。

カーレーサーとして東京にいたはずの松男が、何時の間にか実家に戻っていたり、色々理屈で考え始めると訳が分からない部分も多いが、あくまでも、幻想映画として、その奔放なイメージに身を委ねるような感覚で観るのが良いのではないだろうか。

ドラマ自体は、当時流行っていた金田一ミステリー風と言うか、ややオドロオドロしい旧家の内紛劇的展開。

全般的に、恐怖映画と言うほどの怖さはないが、地獄の描写等は、矢島信男の特撮とも相まって、なかなか面白く出来ている。

ツツジや椿の花が咲き乱れる山の様子等、耽美的な美術も印象的。

この時期、悪役風の役柄を演じる加藤嘉なども、ちょっと珍しい。