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秘録おんな蔵

1968年、大映京都、浅井昭三郎脚本、森一生監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

江戸吉原は、仲の町を中心とした2万余坪の土地の中に、230の遊女屋と、3000人の遊女がいた。

江戸の人々は、吉原を「江戸の不夜城」とも「華の吉原」とも呼んだ。

同じ吉原でも、正念河岸という所があり、別名「羅生門河岸」とも呼ばれていた。

あまりにも強引な客引きする最下層の遊女たちの横行する様が、羅生門の鬼女いばらぎに似ているからである。

吉原の周囲には、幅三間のある溝が掘られており「お歯黒どぶ」と呼ばれていた。

また、吉原の出入口は、北側の日本堤に続く一つしかない。

遊女の脱出を防ぐ為である。

この中で暮す3000人の遊女たちは、いわば駕篭の中の鳥であった…。

ある年の夏の宵、一人の女が、女衒の直次郎(田村正和)に連れられ、この吉原に売られて来た。

元、米問屋「陸前屋」の一人娘だったお夏(安田道代)だった。

彼女は、吉原からこっそり帰る僧侶らしき姿を見て驚くが、それを察した直次郎は、坊主だって人間だ、みしろ、あいつらの方が、おれたちなんかより激しいんだぜと、訳知り顔で教える。

吉原の中を警護する面番所に立っていた岡っ引長七(小松方正)が、女を連れているばくち打ちの直次郎を見ると、タツやヒデが怒ってたぜと注意する。

金の為に、父は死んだ…、お夏は、父親が死んだ日の事を思い出していた。

米問屋だった父親は、同業者に騙されて店を潰してからは、借金返済の為、毎日、身も心もぼろぼろになって金策に明け暮れたが、その日、結局、一両だけしかできなかったと、家に戻って来てお夏に告げると、目の前で倒れ、そのまま息を引取る。

その通夜の日、手代だった巳之吉(江守徹)だけが御悔やみに来てくれたが、両国屋から受取った荷受けの手形が偽物で、そこに記載されていた物品は全て、他の店の借財だった…と、お夏が訴えても、その手形には、勘定奉行吟味役の印があると教え、今後は、自分が働いて借金を返して行くから、夫婦になってくれないかと急に迫って来る。

父親の遺体の前で、そんな振る舞いをする巳之吉に驚き、必死に抵抗するお夏は、魔よけとして置いていた包丁を握りしめ、あんたなんかの助けはいらないと突っぱねるが、巳之吉は、両国屋には50両の借りがあるんだ、どうやってあんたにそんな金が返せるのか、吉原の女郎にでもなるのかと、吐き捨てて帰って行く。

回想から覚めたお夏の目の前には、これから3年間奉公する「海老新」の楼主、喜兵衛(水原浩一)が、直次郎に代金の小判を渡していた。

お夏は、お篠(毛利郁子)から、店での躾を教えるお兼(矢吹寿子)に紹介される。

店の外に出た直次郎は、見送るお夏に、金は両国屋に俺が返しておくが、骨折り賃をまだもらってないと言いながらも、良い客掴めば玉の輿だから…と、励ましとも慰めともつかぬ言葉も掛けて来る。

店に戻ったお夏は、美しい花魁が通るのを見て憧れの眼差しになる。

この店一番の誰袖太夫(長谷川待子)だと、お兼から教えられる。

その太夫が、初めての客を迎え、「あなた様、こなた様」と酒を注がれている座敷の様子を覗かせてもらいながら、あれは初回の客で、いわば三三九度のような事をしているのであり、客は、今日は一旦帰り、二度目に返しという事でやって来て、三度目でようやく夫婦の形になるのだと、お夏は、お兼から店の作法を教えられる。

随分と悠長な事をやるようだが、太夫を買うような客はガツガツしていないのだと言う。

店の前には中道には、大きな桶が置かれており、その中から「お姉さん」と玄関口の所にいたお夏を呼ぶ声が聞こえるので、近づいてみると、中に男が閉じ込められているので、驚いて飛び下がる。

お兼の説明によると、あの男は、金もないのに遊びに来た為、三日間、ああやって晒し者にされているのだと言う。

それが、侍も町人も関係ない郭の掟であり、女が郭の掟を破ると…と、お兼から連れて来られた蔵の中には、裸の女が天井から紐で吊されていた。

元侍の娘で、琴糸(三木本賀代)と言い、店から逃げ出そうとしたのだと言う。

そして、お兼は、お夏の目の前で、その裸の女を木刀で何度も殴りつけるのだった。

やがて、太夫たちの前に連れて来られたお夏は、お兼から裸になれといわれ、屏風の影で恥ずかしげに脱いで戻ると、郭における着物の着付けを教えられる。

帯は絞めるなと言う。

その後、一旦軽く結わいた帯を持って、お兼から身体を突かれたお夏は、クルクルと回転しながら、腰巻きまで剥ぎ取られてしまう。

郭では、心中を計ったり、酒に酔って乱暴する客もいるので、帯を絞めていると、相手から押さえられた時逃げられない。

だから、ゆるく結んでいるだけだと、今の要領で逃げられるのだと言う。

さらに、客には、絶対に惚れてはならない。どんな客でも、金を持っている者には、心底惚れた振りだけしろと教えられる。

要するに、男を騙して金を吸い上げるんですねと、訳知り顔でお夏が答えると、太夫が、この娘はものになりそうだよと微笑み、お兼もそう思うとほくそ笑むのだった。

そして、しばらくこれでも見ておおきと、お夏は、お兼から枕絵を投げ付けられるのだった。

翌朝再び店にやって来た直次郎は、 両国屋への利息が嵩んでいるし、葬式代もまだもらっていないと言いながら、お夏の身体を探り、懐にしまっていた一両を見つけると、まだこんな金を隠していやがったのかと奪おうとするが、それは父親の形見の品だからと、お夏が頑強に抵抗すると、そんな薄き蓑悪い金はもらってもしようがないな…と、あっさり帰って行く。

大門から出かかった直次郎は、そこに佇んでいた旧知の男の顔を発見して、思わず「仙太!」と声をかける。

佃島の人足寄せ場から帰って来たばかりで、夫婦約束したお篠という女が吉原にいると聞いて来たのだが、店が分からないのだと言う。

直次郎は、ここなら自分が当てがきくとばかりに、仙太を連れて中に戻るが、そこを長七に目をつけられてしまう。

直次郎は、いつものように袖の下を掴ませて目こぼしをしてもらうが、長七は、前科者らしき仙太の顔をしっかり頭に叩き込んでいるようだった。

そこへ、ちょうど同心村垣(戸田皓久)が到着したので、長七はへりくだってみせる。

「海老新」では、楼主喜兵衛が、神棚の鈴を鳴らし、番頭らしき男が拍子木を打つと、女たちが三味線をかき鳴らしはじめ、太夫が店に出て行く。

江戸の不夜城は、こうして始まるのだった。

お兼はお夏に、お前ももうすぐ、あそこに並ぶようになるのだと教えていた。

そんなお兼、別の店に向っている馴染み客の品さま(南条新太郎)の姿を見つけると、店の年寄りに、目的の店を突き止めてくるよう命ずる。

仙太を連れて海老新にまたまた寄った直次郎は、お夏はいつから店に上がるのかと、お兼に尋ねるが、まさかお前が最初の客になろうとしているんじゃないだろうねと嫌味を言われたので、女郎上がりの入れ手ババアめと、毒づく。

そんな海老新で、今は篠の井(浜田ゆう子)という源氏名になったお篠に巡り会う事が出来、感激していた仙太に、直次郎はそっと遊ぶ金を持たせるのだった。

お夏は、今夜はその篠の井の隣の部屋で寝るよう、お兼から言われる。

その夜は、篠の井と仙太の抱き合う声が一晩中聞こえ、うぶなお夏は一睡もする事が出来なかった。

翌朝、そんなお夏の様子を薄笑いで観たお兼は、今日から働いてもらうと言い出す。

お夏が、化粧をしてもらっていると、そこへ、あのおんな蔵で吊されていた琴糸が入って来て、「勝手をしまして申し訳ありませんでした。二度と過ちは犯しません」と、みんなに詫びさせられるが、さすがに衰弱した身体で立っている事が難しく、ふらついたので、思わず駆け寄ったお夏が支えてやるが、そんな様子を観たお兼は、あんたも二日もムダ飯を喰っているんだと嫌味を言う。

その後、化粧をし終わったお夏の様子を観に来た喜兵衛は、その美貌に、誰袖の二代目になりそうだと感心し、「小夏」という源氏名を与える。

店が始まり、階段を降りる琴糸が持っていた鈴を落としたので、小夏が拾ってやると、先ほどの親切の礼を言った後、それは母親の形見なのだが、もらってくれと小夏に渡す。

そして、私、死んだおっかさんに会いたいわ…と呟いて、顔見せに出るが、客に声を掛けても、相手にされないので、泣き崩れる。

その頃、誰袖太夫の馴染みだったお品さまが、松葉楼の紅梅太夫(宇田あけみ)に鞍替えしたらしいとの知らせがお兼の耳に入り、それを知らせた誰袖太夫は、明日の朝の卯の刻、「ふみあい」をするので、小夏も付いて来いと言われる。

「ふみあい」とは、馴染み客を奪われた太夫が、奪った太夫と、一対一の果たし合いをし、髷を崩された方が負けという、郭の習わしだった。

翌朝、呼び出しを受けた紅梅太夫と勝負した誰袖太夫は、みごとに相手を裸に剥き、髷も崩してしまう。

ちょうど、その横を通りかかった品さまを目ざとく発見したお兼は、小夏に捕まえて来るように命じ、すぐさま、男を取り押さえに行き、さらには、お兼から言われるまま、その男の髷を斬ってしまった小夏の態度は、店と太夫の面目を保ったと、その後、一同から感心される事になる。

一方、夕べ一人も客が取れなかった琴糸は、この店の厄病神だと悪し様に罵られる事になる。

そんな中、朝食を取っていた篠の井が呼出される。

玄関には、岡っ引の長七が来ており、夕べ、仙太が来なかったかと、喜兵衛らに聞いている。

長七が言うには、仙太が向島のある店に押し込み強盗に入ったのだと言う。

今度は島送りになるかも知れないそんなお尋ね者を、泊めただけで潰れた店もあると、喜兵衛を脅し付けて来る。

その場は、袖の下を掴ませて帰らせた喜兵衛だったが、あいつはこれを種に、これから何度もせびりに来るつもりだと、女房のお篠と悔しがり、店の損失は、全て篠の井に稼いでもらうと言い渡す。

その後、蔵の中で、自分の小指を斬っている篠の井の姿を発見し、呆然とする小夏だったが、篠の井は、あの人が島送りになったら、これを持って行ってもらう。あの人が死んだら自分も死ぬと、その思いの深さを打ち明けるのだった。

その夜、小夏に、この店の大切な客、根岸の御隠居なる人物から指名があったと伝えられる。

その部屋に向う途中、小夏は意外な人物と出会う。

巳之吉だった。

小夏に、昔は使用人だった自分だが、今はこちらが客で、そちらは金で買われた遊女じゃないかと居丈高な態度で近づいて来た彼は、あくまでも拒もうとする小夏の態度に腹を立て、人の好意を踏みにじったお前が、金の前に這いつくばる姿が見たいと、罵倒する。

しかし、彼は、根岸の御隠居の付き添いだったらしく、お兼に促され、お夏が対面しに行った隠居(菅井一郎)の部屋の隣で、独り面白くなさそうに、酒を飲んで時間を潰しはじめる。

同じ頃、別の部屋で客から寝る事を催促されていた琴糸は、客の上に乗った途端、口から血を滴らせて倒れ込む。舌を噛んで自害したのだ。

騒ぎを聞き付け集まって来た小夏や他の遊女たちは、その琴糸の末路に自分の最後を重ねて涙するのだった。

郭で死んだ女は、皆、「投げ込み寺」と呼ばれている、箕輪の浄閑寺に、荒筵に包まれて捨てられるのだと言う。

お兼は、すぐさま直次郎を呼出し、死体の後始末を依頼するが、その直次郎、巳之吉の姿を見かけると、お兼に、あの男は今夜ずっといるのかと尋ね、帳場で飲み続けるだろうとの返事を聞く。

棺桶に入れた琴糸を前に、喜兵衛は、来て三ヶ月足らずで死なれたら、大損だと吐き捨てる。

小夏は、もらった鈴を、棺桶の中の琴糸の死体の前で鳴らしてみせ、何度も「聞こえるかい?」と涙するのだった。

そんな小夏の姿を、脇で、直次郎はジッと見つめていた。

その後、琴糸の棺桶を運んでいた直次郎を見かけた長七は、何でも裏仕事を引き受けている直次郎の事をからかいながら、棺桶につばを吐きかける。

そこに現れた同心垣は、丁寧に葬ってうあれと、直次郎に伝えるのだった。

その頃、小夏は隠居の部屋に戻っていた。

そして、今日は初回だから、裏を返しに来てくれと言うと、隠居は素直に承知する。

その夜更け、海老新に居座っていた巳之吉を呼出した直次郎は、近くの飲み屋に連れ込むと、お前は、ケチな女衒でしかない俺よりずっとたちの良くない悪党だ。昔、陸前屋の手代だった癖に、そこのお得意を全て持って行って両国屋に乗り換え、結局、陸前屋を潰した事を知っていると言い出す。

しかも、昔雇い主の娘が遊女になったと知ると、普通、それを助けたり、かばうのが筋じゃないのか?それをなぶりに来るような奴は、性根の腐った男だ!とばかり詰め寄るが、ちょうど、そこに来かかった長七に又観られてしまい、難癖を付けかけられるが、その場は適当にごまかして立ち去る。

一方、喜兵衛夫婦に呼ばれた小夏は、根岸の御隠居と言うのは、この店の元手を出してくれている米問屋の両国屋さんなので、くれぐれも大切に扱うようにと注意される。

しかも、今日一緒にやって来た巳之吉というのは、そこの番頭なのだと言う。

小夏は、店を潰し、結果的に父親を殺した犯人が、あの隠居と巳之吉だった事を初めて知る。

翌日、裏を返しに、海老新にやって来た隠居だったが、津軽様から火急の用だとの使いが来る。

帰りかけた隠居の前に、突然手形を取り出しながら、これは偽物だ!騙りめ!と怒鳴り込んで来た男がいた。

上州屋(花布辰男)というその商売人も、どうやら、父親と全く同じ手口で騙された被害者らしいと、側で聞いていた小夏は気づく。

悔しかったら訴えてみろと、隠居がふてぶてしく言うと、上州屋は、訴えてもお取り上げにならん、何故なら、お前が裏から手を廻しているからだと答えながら、包丁を取り出す。

すぐに、店の者が、その手を取り押さえ、上州屋は外に連れ出され、不手際を詫びにお兼が頭を下げに来る。

不機嫌そうな隠居は、俺には後ろ楯が付いているのだ、勘定奉行吟味役と言う…と洩らす。

そして、喜兵衛に藤岡様に渡すようにと、その場で書いた手紙を小夏は預かる。

隠居が帰った後、小夏はその手紙を開き全部読んでしまう。

そこには、両国屋が勘定奉行吟味役藤岡某なる人物と懇意の間柄であると事実が書き連ねてあった。

小夏は、階段ですれ違った客の坊主が身に付けていた笠と着物を拝借して変装すると、その手紙を持って、店の外に駆け出す。

しかし、すぐさまその手を掴んだ者がいた。

直次郎だった。

遊女が大門から逃げ出したら晒し首になるからと、きつく叱る。

しかし、それに抵抗する小夏は、役人と両国屋がグルの証拠を見つけたと言うので、その手紙を見せてもらった直次郎は、その重要性を悟るが、所詮女郎が訴えても奉行所は相手にしないと、自分が預かり、小夏をそのまま店に連れ戻そうとする。

ところが、又しても、それを長七に目撃され、しつこい追求を受けそうになった直次郎だったが、大量の金を掴ませると同時に、女が逃げ出したのを旦那も気づかなかったとなれば、大変な事になると脅かして、その場は切り抜けるのだった。

ようやく店の前に戻って来た小夏だったが、その姿をお兼に見つかり、おんな蔵に連れ込まれると、木刀で殴られ、閉じ込められてしまう。

手紙を持った直次郎は、再び飲み屋に呼出した巳之吉に、それとなく、勘定奉行の名前を出して、千両箱一つ出せと脅してみる。

すぐさまそれを報告に行った隠居の前で、藤岡様宛の手紙は、直接御本人に渡したのか確認した巳之吉だったが、隠居は小夏に託したと言う。

それを聞いた巳之吉は、今まで話す機会がなかったが、実は、あの小夏と言うのは、陸前屋の娘なのだと打ちあける。

それを聞いて逆上する隠居。

巳之吉は、長七に相談する。

隠居はおんな蔵に閉じ込められていた小夏の元にやって来ると、手紙を返せと迫る。

すぐに、お兼が、小夏の着物を改め、借用書と一両小判を見つけだすが、もちろんそれは父親の形見で、手紙ではない。

一方、巳之吉と同行した長七は、直次郎を見つけると、脅迫の咎で縛ろうとする。

小夏は、おんな蔵の中で鞭打たれていた。

長七と組み合いになった直次郎だったが、その背中を、卑怯にも後ろにいた巳之吉から刺されてしまう。

傷付きながらも、その巳之吉を刺し返した直次郎は、最後の力を振り絞って、長七も刺し殺した後、地面に倒れ込む。

その現場に到着したのが、実直そうな同心村垣だったのを見た直次郎は、懐に入れていた手紙を差し出し、村垣に手渡したところで事切れるのだった。

どうやっても、手紙の在り処を白状しない小夏を、お兼が天井から縛吊そうとしたその時、村垣がやって来て、隠居の悪事が分かったので捕縛すると言う。

それを聞いて、しらを切りかけた隠居だったが、小夏が「私は何もかも聞いたんだ!」」と叫び、落ちていた形見の一両小判を、隠居の額に投げ付けるのだった。

捕縛されて連れて行かれる隠居の後を、おろおろしながら追い掛ける喜兵衛夫婦とお兼。

その後、太夫になった小夏は、誰袖太夫の横に座り、新しく入って来た娘に、お兼が、郭の着物の来方を教えている姿を冷ややかに眺めていた。

かつて憧れた誰袖太夫のように、堂々と廊下を歩く小夏の帯には、死んで行った琴糸からもらった鈴が下がっていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

吉原に入り、遊女となった女の復讐譚。

安田道代が、逆境にも負けず、復讐を成し遂げる気丈な女を見事に演じている。

そんな彼女を手助けする女衒に扮した田村正和の若々しい姿も魅力的。

意外なのは、嫌な仇役として出て来る巳之吉を演じているのが、若い江守徹である事。

顔はほっそり若いが、声質やセリフ回しは今とほとんど変わらないので、すぐさま声で分かった。

なかなか癖のある役所を巧みに演じている。

小松方正演じる心底嫌な岡っ引、さらに、矢吹寿子演ずる、これ又心底底意地が悪い入れ手ババアなどが印象的。

色々、吉原のしきたり等、為になる事も描かれており、地味な展開ながら、最後まで飽きずに観られる。

苦界に馴染めず、自ら死を選んだ哀れな女の末路に、小夏が形見の鈴を聞かせてやるシーンは、胸に迫り、涙を禁じ得ない。

吉原と言う、女性にとっては地獄のような風俗を描きながらも、単なる悲劇に終わらせず、そこに生きる様々な人間模様、その中でたくましく生きて行こうとする女の底力も見せつけた大人の作品だと感じた。