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出口のない海

2006年、『出口のない海』フィルムパートナーズ、横山秀夫原作、山田洋次脚本、佐々部清監督作品。

※新作ですが、物語の最後まで詳細にストーリーを説明してありますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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敵駆逐艦から爆雷攻撃を受けているイ号潜水艦の中、「総員配置につけ!」

戸田航海長(田中実)は、新人の回天整備員伊藤(塩屋俊)に「しっかりしろ!」と檄を飛ばす。

敵艦の真下、深さ80の所に停止した潜水艦は、一旦、爆発音がしなくなったので、爆雷を撃ち尽くしたかと様子を伺っていたが、音響係りが敵艦が二隻いる事を確認、さらに仲間の船が来るのを待っているらしい様子を聞き分け、持久戦の様相を呈して来る。

回天の乗組員として乗り込んでいた並木少尉(市川海老蔵)らに、しばらく敵艦にこちらの音を察知されないように扇風機が使えなくなるので艦内が暑くなる、気分が悪くなったものは、すぐに軍医長の所で観てもらえを伝えられる。

その場にやって来た伊藤は、並木に野球のボールを手渡す。

やる事もなく、寝台に横になった乗組員たち。

同じく回天搭乗員の沖田(伊崎充則)に、現在の室温を尋ねると、40°だと言う。

艦内は蒸し風呂状態である。

そんな中、ボールを見つめながら、並木少尉は、学生野球をやっていた昔を思い出していた。

明治大学の野球部でピッチャーを勤めていた並木は、最後の試合でストレート勝負を挑み、打たれて負けてしまう。

高校時代、甲子園の優勝投手だった並木は、すでに肩を壊していたのだ。

馴染みの喫茶店で、野球仲間たちとあれこれ話し合っていた並木は、今、新しい魔球を考案中だと打ち明ける。

そこへやって来たのが、陸上部を辞めたと言う同期生の北(伊勢谷友介)がやって来て、のんきに野球談義して談笑している仲間たちを冷ややかに眺める。

何故陸上を辞めたのか問いかけた並木に対し、北は、もう六大学野球も秋は中止になり、ロンドンオリンピックも中止になった今、走る道がなくなったからだと答える。

再び潜水艦の中、酸欠状態も限界に近づき、寝台でじっと耐えている乗務員たちも苦しみはじめる。

すでに、持久戦が始まって3時間半が経過していたのだ。

もう、敵は諦めたかと、何となく全員がそう思いはじめていた瞬間、「爆雷防御!」の艦内放送が響く。

再び、敵駆逐艦が攻撃を開始して来たのだ。

そんな中、鹿島艦長(香川照幸)は、潜水艦を浮上しはじめる。

爆雷の爆発深度設定は80なので、艦をその上の40まで浮かび上がらせれば、爆発が全て下になって避けられるとの計算だった。

後は、讃岐出身の艦長には金比羅様が付いているので、その御加護を信じようと言う事になる。

深度65…50…40…、やがて思惑通り、爆発が下の方で聞こえるようになって来る。

並木は、雨の神宮外苑で行われた学都出陣の壮行会の日を思い出していた。

その帰り、いつもの喫茶店に寄った並木は、濡れていない北の姿を見つけ訝るが、北は海軍に仕官したので、壮行会に出る必要がなかったと打ち明ける。

軍人への道を選択した北に驚いた並木が、戦争が終わったら、又走れるようになるかも知れないじゃないかとと、その早過ぎた決断を諌めようとするが、生きて帰れる訳ないだろう!と、強く反論する北だった。

並木の女房役とも言うべきキャッチャーだった剛原(平山広行)も、先日、母校の中学校に帰ってみたら、予科連に入ったものが大勢いた。年下の中学生たちでさえ、自ら進んで戦地に向おうとしている中、自分達はこのままで良いのだろうかと問いかけて来る。

それに対し、並木は、お前がいなくなったら、俺の魔球はどうなるんだと詰め寄るのだった。

そんな中、が流れる店内に流れるボレロは敵性音楽なのでまずくはないのかと、時局を心配して店長と尋ねる学生たちだったが、店長は、誰かにとがめられたら、ボレロはフランスの音楽と誤魔化すと答えるのだった。

その後、自宅のある東京中野に帰って来た並木は、妹の幸代(小高杏奈)から、お客さんが来ていると知らされる。

その客とは、付き合っている美奈子(上野樹里)であった。

今日は、並木を探しに、神宮外苑まで行っていたのだと言う。

その為、着ていたセーラー服はずぶ濡れになり、それを乾かしている間、着替えとして、今、並木の母親(古手川祐子)のワンピースを借りているのだと言う。

その夜は、可奈子も家族と一緒に夕食をとった。

教師をやっている父親(三浦友和)の学校で、生徒たちが作った芋だと言う。

その食事中、並木は父親に向って、志願しようと思っていると打ち明ける。

まだ、赤紙も来ていないのに…と反対顔の母親だったが、父親は反対をしなかった。

海軍の方が人間扱いしてくれそうだからと、海軍を選んだ事も打ち明ける並木だった。

食後、二階の自室で二人きりになった可奈子に、つい今の日本は負けはじめていると洩らしてしまった並木だったが、可奈子は気丈に、ピッチャー時代の並木が写った写真をくれと願い出る。

これから、自分の机に飾って歌を歌ってやると言うのだ。

そして、何時の間にか二人で、「五尺のからだ、ひっさげて〜」と歌いはじめる。

その歌声を、下で聞いていた両親の思いは複雑だった。

やがて、下から登って来た幸代が、美奈子のおばあちゃんが心配するから、もう帰った方が良いと母親が言っていると伝えに来たので、並木は駅まで送って行く事にする。

乾いたセーラー服に着替えた可奈子は、帰り道で、並木の母親から口紅をもらったと、恥ずかしそうに並木に打明けていた。

さらに、祖父を日露戦争で亡くしている祖母から、浩二さんは国の宝なんだから、あまり好きになるなと言われたとも。

その時、空襲警報が鳴り響き、並木は、可奈子をはじめ、逃げて来た人々を近くの防空壕に誘導するのだった。

再び、潜水艦の中。

炊事班が、咽をうるおす柑橘類の切れ端を、全員に配りはじめる。

敵艦の音源が消滅し、危機は去った事が分かる。

潜望鏡を海面にだし、敵の姿がいなくなった事を確認した艦長は、潜水艦を浮上させ、艦内各部総点検を命じる。

伊藤たちは、ただちに潜水艦の甲板部に設置してある回天を点検しはじめるが、四機搭載している内の一機、4号艇のシャフトが折れている事が分かり、その機に乗り込む予定だった沖田は悔しがるのだった。

並木は、回天という特殊兵器の事を教えられた久里浜対潜学校時代を回想しはじめていた。

司生徒たちを一同に集めた講堂で、指令(平泉成)は、戦況変化の折、挺身肉迫、一撃必殺の特殊兵器を開発したので、それに乗る元気はつらつな者を必要としている。

二時間猶予を与えるので、 今から渡す短冊に、参加したいと思う者は名前と◎、どちらでも良いと思う者は名前と○、参加しない者は名前だけ書いて、それを箱に入れろと命ずる。

さらに、特殊兵器はその性格上、特に危険を伴うものになると付け加えるのだった。

解散を命じられた並木は、取りあえず、便所で用を足すが、気持ちの整理は付かず、つい、何時の日か、可奈子と一緒に歌ったあの歌を歌いはじめていた。

すると、大便所の中からも、それに唱和する声が聞こえて来る。

手洗い場で手を洗いながら、並木は可奈子の事や野球をしていた頃を思い出していた。

学校内で出会ったかつての野球部マネージャー小畑(黒田勇樹)は、自分は予備士官だから…と言葉を濁し、丸を書かなかったと打明けて来る。

並木はといえば、結局、短冊に名前と、ちょっと迷った末、◎を書いて提出するのだった。

その後、山口県光基地で、回天への搭乗者としての訓練が始まり、並木も他の生徒たちと共に、実物の回天を見せてもらう事になる。

富山操船長から各部の性能等を説明された後、この回天には、前進あるのみで後方には進めないし、脱出装置もないと釘をさされる。

一度出撃すると、二度と帰る事は出来ない特攻兵器という事だった。

そんなある日、浜辺で読書をしていた並木の元に一人の男が「3対0で慶應を完封した夏の甲子園支優勝投手の並木浩二さんですね」と声を掛けて来る。

伊藤整備士だった。

彼も、中学時代は一塁を守り、クリンナップを打っていたと言うのだった。

その夜、ボールと簡易グラブを持って来た伊藤は、並木にキャッチボールをしないかと勧める。

軽くキャッチボールをはじめた並木は、自分は肩を壊してしまったので、今、変化球を考えているのだと打ち明けるが、その時、転がった球の先を走って来た一人の青年の顔を観て驚く。

陸上部を辞めたあの北だった。

北は、懐かしそうに声を掛けて来た並木に拾ったボールを投げ返すと、俺は今、北中尉なのだから、口の聞き方には気をつけろと言い残して去って行く。

その北は、一度出撃したものの、生き残って戻って来た事を、並木は伊東から教えられる。

回天の操縦訓練はその後も続けられたが、複雑な操作手順であった為、文系の並木はなかなか飲み込めなかった。

そうした中、実地訓練が執り行なわれる事になり、並木も初めて、実物の回天に乗って基地に隣接する海に出る事になる。

友達になった伊藤の励ましもあり、何とか海に出た並木だったが、操縦が巧く行かず、スピードが出過ぎ、艇がイルカ運動を起こしたかと思うと、その補正に手間取っている内に目標位置を見失ってしまい、何時の間にか、出発した浜に向って突き進む事になる。

随行していた将校たちが危険を感じ、連絡用の銃声を響かせたので、何とか浜に追突する直前で止まる事が出来たが、フラフラになりながら艇から出来てた並木を、「心配させるな!もう少しで死ぬ所だったんだぞ」と上官は殴りつけるのだった。

その上官たちが去った後、呆然とその場に崩れ落ちていた並木は、一挙に自分や周囲への怒りを爆発させたかのように、その場で絶叫しはじめるが、付き添っていた伊藤らは、必死にそれを上官たちに聞かせまいと、並木の口や身体をを押さえ付ける。

その後、並木は、久々に東京の実家に帰る事が出来た。

母は久々の息子の帰還を喜び、少し成長した幸代は気を利かせて、八王子に移り住んだと言う可奈子に電報を打って来てもらうと言い出す。

しかし、並木は、ここまで来るだけで一昼夜かかったので、泊まるのは今日一日だけだから、可奈子は呼ばなくて良いと止める。

その後、その幸代から、小畑さんのお姉さんから預かったとグローブを渡され、小畑さんは輸送船に乗っている時、敵潜水艦にやられて戦死したと聞かされた並木は、回天に乗るかどうかの申告投票の日、自分は予備士官だから…と言い訳のように言っていた小畑の姿を思い出し、その死の知らせに愕然とするのだった。

夕食の時、幸代は、可奈子さんに本当に会いたくないのと、責めるように問いかけて来るが、並木は答えなかった。

その夜、並木は、父親の書斎を訪れると、以前、出征の時、父親からもらった懐中時計を返そうとする。

いよいよ息子の出発の日が間近である事を悟った父親に対し、並木は、小畑の仇を討たなきゃ…と、決意を伝えるが、父親は静かに、君は敵の姿を観た事があるのかと問いかけて来る。

昔、マクベインと言う外国人の良い先生がいて…と語りはじめる父を制して、敵は個人ではない、国なんだと反論する並木。

しかし、父親は、浩二、国と言うのは何だろうな?と、又問いかけるのだった。

そして、この懐中時計は持って行きなさいと手渡してやった父は、出発の事は母さんには私から伝えておくと言って、床に付くのだった。「そうか…、行くのか…」とつぶやきながら。

翌日、駅の列車に乗り込んだ並木を見送りに来た母と幸代だったが、幸代の方は、可奈子さんに電報を打ったのに、まだ来ないと、群集の中を探しに行き、やがて、列車が動き始めた時、その可奈子を伴って戻って来る。

何とか、車窓の並木に近づいた可奈子は、約束して、今度来る時は前もって連絡すると!と訴えるが、すでに動き出した列車に乗った並木は、二度と再び会えないと分かっていただけに、何も答える事が出来なかった。

夜の海上に静かに浮かぶ潜水艦。

つかの間のおだやかな時が流れている時であったが、その内、敵と遭遇し、回天に出撃命令を出す事になるのは辛いな…と、鹿島艦長が呟いていた。

その出撃命令が、何時おりるか、艦内で待機していた沖田は、その日、食事も食べずに、独り、思いつめたように沈黙を守っていた。

そんな緊張している沖田に対し、仲間たちが、お前の得意な歌でも歌ってくれと声を掛け、沖田も「♪花積む野辺に、日は落ちて〜」と歌いはじめる。

その歌声が艦長にも届き、「俺たちも、帰れるかどうか分からない…」と感傷的な気分に浸っていた次の瞬間、敵艦を発見、回天出撃用意の指令を発する事になる。

故障した4号機の登場予定者だった沖田を残し、北、並木ら三人は、三機の回天に各々搭乗、3号艇に乗り込む並木に伊藤はボールを手渡し、御成功を祈りますと伝えるのだった。

回天に乗り込んだ並木らは、艦長からの出発指令を待つが、敵は輸送船一隻と言う事で、今回の出撃は一隻だけと言う事が伝えられる。

3号艇に乗っていた並木は自分への出撃指令を期待していたが、艦長は1号機に出撃を求める。

しかし、その1号機に乗っていた北は、発進しようとしようとしてもできない事が分かる。 故障だ。

結局、2号機が出撃し、敵船を撃沈する。

艇内で出撃のチャンスを失った並木も高ぶった気持ちを押さえきれず、もう敵はいないのかと、艦長に声高に問い合わせるのだった。

その後、甲板にいた並木の元に近づいた北は、その場に土下座し、お前の回天を自分に譲ってくれと懇願する。

そんな事は出来ないと断わると、それなら俺も一緒に乗せて行ってくれと言い出す。

二度も出撃に失敗した自分は、日本に戻っても生き恥をさらすだけだと、北は自暴自棄になっているようだった。

さらに、北は、貧しい小作農家出身の俺は何とか這い上がりたかった。今の俺に残された道は、軍神になる事だけだと続けるので、それを聞いた並木は、それじゃ自殺と同じじゃないかと諌める。

そんな中、再び「総員配置!」の放送が流れる。

回天船用意!敵船団5隻!

3号機に乗り込んだ並木に、艦長は「何か言い残す事はないか」と問いかけて来たので、「ここまで無事に連れて来て下さって、ありがとうございました。皆さんの御無事を祈ります」と返した並木だったが、出撃スイッチを入れても発進しなかった。

3号機も故障したのだ!

結局、潜水艦自体が、敵駆逐艦に発見された為、攻撃中止となる。

張り詰めていたものが一挙に消滅し、回天を降り立った並木は、嬉しそうに野球のボールを渡そうとした伊東を「何故笑うんだ!」と殴りつけてしまう。

イ号潜水艦は光基地に帰還する事になるが、豊後水道で、出撃する戦艦大和とすれ違うのだった。

基地に戻った並木は、生きて戻って来た自分は、罪人のように周囲から見られると伊東に打ち明ける。

しかし、並木を尊敬していた伊藤は、自分の整備不良が、結果的に並木の命を救ったと複雑な思いを持っていた。

基地の砂浜で、久々にキャッチボールをする事になった並木は、「戦争が終わったら、何をする?」と問いかけ、伊藤は「教師になって、母校で野球を教えたい」と答える。

「ドイツ、降伏したな…」と続けた並木は、「敵の姿を見た事があるか?」と、かつて、父親が言っていたのと同じ疑問を投げかけるのだった。

「日本が負けるのは、俺が死んだ後だ」「何の為に死ぬのかと聞くんだろう?」もう、並木は独り言のように語り続けていた。

「今はただ、回天を伝える為に死のうと思っている。人間魚雷という兵器があった事を…」そう言いながら、振りかぶって投げた球は、伊藤の手元でガクッと落ちる。

並木の変化球が、初めて成功したのだ。

その横を、北が黙々と走っていた。

翌日、二度目の出撃連合訓練があり、それがなかったら、並木は生きていたかも知れない…。

昭和20年8月15日、日本は敗戦を迎え、9月、枕崎台風が瀬戸内海の町を襲った後、光基地に米兵のジープに乗せられ連れて来られた伊藤は、近くの海底から引き上げられた回天の残骸を確認させられる事になる。

ハッチを開け中を覗いた伊藤は、そこに訓練中に息絶えた並木の死骸を発見し、号泣する。

艇内には、酸素が切れ死ぬ間際まで、書き続けていたと思しき日記も残されていた。

並木は、訓練中、故障して海底に沈没した回天の中で、薄れ行く意識の中、日記を書いていた。

自分が出撃に失敗して、回天から降り立った時、本当はほっとしていたんだ。

でも、その気持ちを、笑って迎えてくれた伊東に見透かされたようで、思わず殴ってしまった。悪かった。意識が朦朧として来た…。

お母さん、海は僕です。蒼い海は今の僕です。

幸、すくすく伸びろ!兄さんはいつまでもお前を見ているぞ。

父さん、父さんのヒゲは痛かったです。

美奈ちゃん、お願いがある。
僕が見る事ができなかったものを君に見て欲しい。

そして、1年経ったら、僕の事を忘れて欲しい。そして、他の誰かを見つけて、幸せを見つけて欲しい。

生きて生きて、もう嫌だと言うまで生きて欲しい…。

八王子の美奈子は、独り黙々と農作業を続けていた。

時が流れ、現在、山口、大津港に降り立った一人の老人がいた。

年老いた伊藤であった。

彼は、記念館に飾ってあったかつての仲間たちの写真の中から、並木の姿を探し出す。

そして、海岸に来た伊藤は、持って来たあの野球のボールを、海に向って投げるのだった。

海はたちまち、野球場に変化していた。

そして、そこには、ピッチャーとして球を投げる並木の姿があった…。

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▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

大平洋戦争末期、特攻兵器として開発された人間魚雷「回天」に乗り込み、若くして散って行った、元野球部大学生を中心に描いた作品。

基本的には、新東宝の「人間魚雷回天」(1955)と、ほとんど同じような内容になっている。

ただし、一時間半程度の長さだった「人間魚雷回天」に対し、こちらは2時間を超える長尺になっている。

どう見てもちゃちなミニチュア使用だった「人間魚雷回転」に比べると、本作はCGによる潜水艦描写等が加わり、一見大作風になっているのが特長。

ただし、伊号潜水艦内部や、回天の実物大模型などはちゃんと作ってあるが、海中シーン、海上シーンなどは、暗さで誤魔化しているとしか思えないようなCGとセットだし、敵艦などは、シルエット的にチラリとしか出て来ない事もあり、迫力は今一つ。

ドラマとしても、全体的にじみきわまりない展開で、映画的見せ場やアクションがほとんどない事もあり、真面目なメッセージ性は感じるものの、かなり退屈な仕上がりになっている。

家族や恋人との辛い別れと言うドラマも、ありふれたパターンだし、キャラクターも真面目なだけで、面白みのない人物ばかりと言う感じがする。

特に、娯楽性を重視した作りと言うより、真面目なメッセージ映画という色合いが濃いので、こうした演出になったのだろうが、大作としてはあまりにも平板で、魅力に乏しいように思える。

こういうレベルの内容だったら、終戦記念のテレビドラマスペシャルか何かで十分だったのではないだろうか?

1時間半程度に絞り込めば、もう少し違った印象になったのではないかと惜しまれる。

唯一、並木の妹、幸代役を演じた尾高杏奈の愛らしさは印象に残った。


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