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無頼平野

1995年、ワイズ出版+M.M.I、つげ忠男、石井輝男脚色+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

この物語の時所不明…。

白い手袋の金髪女が、煙草に火をつける。

それは、下町のレビュー「カジノ座」の舞台上で演ずる女優、風間ナミ(岡田奈々)だった。

次の瞬間、場内に銃声が響き渡り、ナミは倒れる。

それが芝居ではない事が分かり、場内は騒然となり、急遽、緞帳が下ろされる事になる。

倒れたナミの胸元は血で染まっていたが、それは血のりを撃たれたのであり、ナミはショックで気絶しただけだった。

客席にいたナミファンのヤクザもの、通称狂犬サブ(加勢大周)や、つげ忠男(佐野史郎)は、心配しながらもカジノ座を後にする。

忠男は、血液銀行で働いていたが、その仕事と言うのは、産婦人科病院から貰い受けて来た胎盤等を処理して血を絞り出すと言う汚れ仕事だった。

今日も、同僚の尾瀬(金山一彦)と一緒に、病院から出た汚物入りの樽を血液銀行に持って帰って来た所だったが、そこの玄関口で、はじめて血液を売りに来たらしい赤ん坊を背負った女から、どうしても3000円欲しいのだが、どうすれ良いののかと相談を受ける。

忠男は、女の採血は400ccまでと決まっているので、そんなにもらえないと諭すが、女は必死そうだった。

それでも、さすがに忠男に連れられ銀行内に入って、血を売る人たちの行列を見ている内に怖じけずいたらし女の前で、何やら、たたきをやって逃げて来たらしき犯人(由利徹)と刑事との捕物騒ぎが始まる。

そんな騒ぎが終わり、玄関口に戻って来た忠男と尾瀬は、目の前に現れたサブから、血の付いた布を見せられる。

それは、先ほど、女優ナミがいたずらで撃たれた血のり弾の血だった。

忠男と尾瀬は、何時か、自分達が内臓処理をしている地下室にやって来た黒竜会のチンピラ二人から、パチンコ弾作って欲しいと依頼された事を思い出していた。

尾瀬は、金を多めにもらって、本物の血液で作った血のり弾を作る事を承知したのだが、今になって、それが汚い事に手を貸す結果になってしまった事に気づく。

尾瀬は、サブに、黒竜会と戦うのかと問いかけるが、サブは無言で去って行く。

その姿を見た尾瀬は、ナミファンである事を知っている、ライバル出現だなと言葉をかける。

そんな忠男は、やっぱり400ccしか血を採ってもらえなかったと落胆して出て来た先ほどの女に、黙って3000円、自分の金を渡すのだった。

カジノ座では、気が付いたナミに、支配人(横山あきお)が、黒竜会の親分が一度だけ食事をしてくれと言って来ているので、受け手はもらえないかと頼み込んでいたが、ナミはきっぱり断わって、同じ踊り子仲間で幼馴染みの桃子(五島悦子)と分かれて一人帰る事にするが、洋品屋のショーウィンドーでマネキンに着せられた服を見ていた所、又、血のり弾をガラスに投げ付けられる。

ナミに迫って来た黒竜会のチンピラ二人を、その場に現れたサブが、こてんぱんに叩きのめして助けてくれる。

しかし、その後、ナミと一緒に歩き出したサブは「日本は法治国家だから大丈夫」と、ナミからたしなめられる。

小学校中退のサブには、良く分からない話だったが、どうやらナミは自分を避けているようだった。

ある日、尾瀬から趣味を聞かれた忠男は、知らない人の後を付けて行って、その家を突き止めると、後から、その家の主人宛に差し障りのない手紙を書くのが趣味だと答える。

差し障りがない内容なので、時々返事をもらい、こちらが誰なのかうかがうような気配もあり、それが面白いのだと言う忠男だったが、その日、自宅アパートに帰ると、突然、何時か金を渡した女が訪ねて来る。

何でも、主人を探しているらしいのだが、その主人がもらった手紙の中に、あなたからのものがあったので…と言うではないか。

ほんのいたずらのつもりでやった事が、思わぬ再会をもたらしてしまった訳である。

忠男は、自分がやったいたずらを説明し、御主人など全く知らないので帰って欲しいと頼むが、春子(水木薫)というその女は家には借金取りがいるので帰れないと言い出す。

その夜、泥酔した尾瀬が、忠男のアパートに泊まろうとやって来るが、見知らぬ女が寝ているのに気づき、忠男に良い日だったようだなと妙な感心をして帰る。

一方、サブは、町中を肩で風を切って歩いていた。

その姿に、町中の人間が頭を下げて来る。

黒竜会を一人で敵に廻した狂犬サブの名前が広まっていたのだ。

尾瀬はと言えば、バーの二階で、元々は化粧品会社で働いていたが、義理の父親に犯されてからこんな身分になったという女を抱いていた。

忠男のアパートには、赤ん坊連れのあの女が居座ってしまっていた。

女は、何となくふさぎ込んでいる忠男に、歌でも歌たってみろと勧め、忠男が「雪の降る町を」を歌い出すと、自分もそれに唱和するのだった。

ハーモニカを吹く娼婦が街角に立つ夕暮れ時、カジノ座から出て来て、クラブでバイトがあるからと、一人歩き始めたナミは、屋台の饅頭屋で饅頭を二つ買うと、その一つを後ろから付いて来るサブに投げ与える。

そして、どうして私の事を守ってくれるのか?好きなの?と問いかけるが、サブは趣味さと答える。

ナミは、私があなたと付き合わないのは、父親が無頼だったからと打ち明け話を始める。

ほとんど家に居着かなかった父親は、ある時から9年間も帰って来なくなり、ある日、家を出た母親の後を付けて行くと、そこは刑務所だったと言う。

父親が服役後3年目に母親が死に、出所して戻って来た父親には、自分から親子の縁を切ってくれと頼み、それ以来会っていないのだとも。

そして、無頼の人とは今夜でさよならよ、永遠に…と言い残して、ナミは去って行くのだった。

その頃、忠男のアパートでは、女が、色々世話になりっぱなしなのに何のお礼もできないので、せめて自分を抱いて欲しいと、戸惑う忠男を前にして自分からさっさと服を脱いで抱きついて来る。

童貞だったただおは、何となく、そのまま女と抱き合う事になるが、その時突然「つげ忠男さん、いますか?」という声が入口に響く。女は「主人だ!」と慌てた様子。

その頃、黒竜会のチンピラ二人が、サブが仕切っている縄張り内にある酒場を荒しに来る。

客を全部追い出した二人だったが、どうしても帰ろうとしない一人の客をビール瓶で殴りつけてしまう。

殴られたのは尾瀬だった。

気絶したかと思われた尾瀬だったが、隙を見て、殴ったチンピラの顔を割れたビール瓶でど突き返す。

しかし、もう一人の相棒から腹部を刺されてしまい、そのチンピラもガード下に連れ込み叩きのめしたが、事情を知らない娼婦から声をかけられた時には、もう瀕死の状態で、そのまま座り込むように事切れてしまうのだった。

忠男のアパートでは、春子が、卓袱台に忠男からの手紙が老いてあったのでここが分かったと言う亭主と対面していた。

亭主は、大量の札束を春子の前に投げ出すと、賭けた穴馬が10年に一度の大当りとなったと説明する。

喜んだ春子は、すぐさま、寝かせていた赤ん坊のしげる(近藤達也)を連れて、亭主共々アパートを後にする。

雪の中、親子揃って春子らが帰って行く姿を二階の窓から見送っていた忠男は、春子がはき忘れて行ったズロースを手に取って「さよなら」と振ると、バカバカしくなって自分がはいてしまうのだった。

その頃、クラブで歌い終わったナミは、席に熱狂的なファンンがいるので会って欲しいと支配人から言われ、そのテーブルに向うと、そこには黒竜会の親分、梶山(南原宏治)がニヤついて待ち受けていた。

戻ろうとしたナミだったが、子分たちが取り囲み、万事窮すと言う時、「待たせたな!」との声がかかりサブがやって来る。

邪魔されて、顔を歪ませる梶山。

ナミは、指揮者に「螢の光」を注文すると、ジャズ風にアレンジされたその曲に合わせ、サブと踊り歌うのだった。

しかし、すっかり浮かれ気分で店を出たサブとナミは、黒竜会の連中に待ち伏せされていた。

サブは果敢に立ち向かって行くが、ナミを捕まえたヤクザが、自らの右手にはめた指輪の内側についた二枚刃の威力をハンカチを裂いてみせると、ナミの顔が傷つけられると知り手出しできなくなったサブは、チンピラたちから袋叩きにされてしまう。

しかし、パトカーの音が近づいて来たので、梶山らはその場は帰る事になり、解放されたナミは、倒れたサブに賭け寄るのだった。

しかし、翌日から、サブが女に惚れて、黒竜会から叩きのめされたと言う噂は町中に広まり、たまたま声高にその事をしゃべっていた屋台客の横を通りかかったサブは、その三人をこてんぱんに叩きのめしてしまう。

その後、サブは、死んだ尾瀬の遺骨を拾う忠男に付き合った後、雨が降り始めた火葬場の前で別れる。

燃料屋の隣の軒先きで雨宿りをしていたサブは、その燃料屋の軒先きに座っていたサングラス姿の中年男から煙草の火を貸してくれと声をかけられる。

何となく言葉を交わす中、自分は橋の向こうの昔、赤線地帯だった辺りに住んでいたと話したサブは、自分の子供時代の事を思い出す。

子供時代のサブ(野上亜裕多)は、同じく子供だった尾瀬(田中恭平)と、毎日いたずらしては小銭をくすねて遊んでいたが、二人暮しだった祖父(河合紘司)から叱られた事がきっかけとなり、家を飛び出てしまう。

そのサブは、すれ違ったヤクザの一団に、後ろから近づいて来た着流し姿の男が、橋の上で大立ち回りをはじめる現場を目撃する事になる。

リュウ(吉田輝雄)というその着流し姿の男は、若き日の梶山と刺し違え、自分は足を刺されてしまう。

その時、落としたサングラスを拾って、リュウの後を追ったサブは、自分もおじさんみたいになりたいと憧れを口にするが、すぐさまビンタを食らわせられた後、去られたので、思わず、おじさんのバカヤロ〜と叫んでいた。

回想から覚めたサブは、松葉づえをついている目の前の男に「リュウ!」と声をかける。

そして、自分は、昔、あんたからビンタされた子供だと名乗ると、ようやく思い出したらしいリュウは、サブの今の様子を察し、あの時のビンタは役に立たなかったらしいなと呟くと、そのまま立ち去って行く。

電柱に貼られていたナミのポスターの顔の部分が風に破かれ飛び去ろうとするのを追う松葉づえ。

それを見かけた忠男は、ポスターの切れ端を拾ってやり、追っていたリュウに渡すと、ファンと思ったのか、明日は初日なので、観に行ってやって下さいと勧めるのだった。

その後、一人飲み屋で飲んでいたリュウの姿を発見したのは、風呂から帰って来た店の女将で、桃子の母親でもあった。

母親は、昔なじみのリュウが、娘恋しさに街に戻って来た事を喜ぶ。

リュウは、桃子も、今や中堅のトップに育ったナミと一緒に踊子になっていると聞くと、二人の為に花束を買って贈ってやってくれと金を渡す。ただし、自分は勘当された身だから、名前は出さないでと付け加えて。

女将は、ナミが今、黒竜会から付きまとわれているのだと打ち明ける。

その頃、黒竜会の事務所では、用心棒として雇われた男が、仕事が物足りないと梶山に文句を言っていたが、梶山の娘貴美子(麻生真宮子)が小遣いをせびりにやって来てので、用心棒は事務所を出る。

カジノ座の近くに来た用心棒は、劇場の中にいた女と合図をし始める。

その女は、黒竜会から金をもらって、ナミ追い出しに加担していたのだった。

女は、他の踊子に金を掴ませると、本番間際だと言うのに仮病を装わせ、急遽、踊りの演出を変えさせてしまう。

そう言う事態になり、急遽、振り付け師の杉村先生(杉作J太郎)まで、コミカルな衣装を着て、舞台で踊らされるはめになる。

そんな変更があったにもかかわらず、ナミは懸命に新しい踊りを披露して、客には気づかせなかった。

さらに、女は、そんな舞台途中のナミに、楽屋口に面会人が来ていると嘘を言い、外におびき出すと、待っていた用心棒が、パンフに載ったナミの写真を煙草の火で穴を開け脅かすと、強引に彼女を車に乗せ、走り去ってしまう。

開演中、主役のナミが姿を消した事を知った楽屋は大騒ぎになるが、支配人は、厄介ごとになるのを嫌い警察に連絡しようとしない。

それを見かねた桃子は、まだ、手品師(大槻ケンヂ)が奇術をしている真っ最中に館内放送を使い、客席にいたサブを呼出すと、ナミがいなくなった事を教えるのだった。

サブは、すぐさま黒竜会の事務所に向うが、そこで待っていたのは貴美子一人、父もナミもここにはいないと言う。

その頃、自宅で待ち受けていた梶山は、連れて来られたナミに迫り、拒否されると、腹を殴って気絶させ身体にのしかかって来る。

あわやと言う時、電話がかかり、出てみると相手は貴美子だった。

娘がサブに捕えられている事を知った梶山は、泣く泣くサブが言う通り、ナミを劇場にすぐ帰す事を約束する。

しかし、その貴美子の電話は、彼女自身が発案した芝居だった。

まんまと作戦が成功した事を知った貴美子は、それほどサブに惚れられているナミに嫉妬心を抱き、自ら挑発して、サブに抱かれるのだった。

その頃、カジノ座では、主役のナミがいないまま、罠を掛けた女が代役として出番を待っている所だった。

しかし、桃子が心配する中、ナミが戻って来て、そのまま素早く衣装を着替えると、ペンダントの中に納めた父親の写真を観た後、舞台に上がって踊り始める。

客席でその姿を確認したサブは、梶山に電話し、これで互いに貸し借りなしだと伝える。

客席には、リュウも忠男も観に来ていたが、ほどなく、サブが黒竜会の若いのに連れ出される所をリュウは目撃する。

ナミは、マスクをして、女豹のコスチュームに着替えると、最後の激しい踊りを始める。

同じ頃、倉庫街では、連れて来られたサブが、黒竜会の連中と壮絶な喧嘩をはじめていた。

多勢に無勢、いよいよ傷付いたサブが用心棒からやられようとするその瞬間、どこからともなく、松葉づえが飛んで来て、用心棒を直撃する。

その場にいた梶山は、近づいて来る人影に目を凝らし、「リュウ!」と叫ぶ。

あの時、とどめを刺しておかなかったのが、俺の一生の不覚だったと呟きながら近づいて来たリュウは、持っていた日本刀でチンピラたちを斬りはじめる。

用心棒を刺し殺し、梶山の手首をも切断した後、とどめを刺したリュウは、傷付いたサブに近づくと倒れる。

リュウも傷付いていたのだ。

その後、街角で詩を読みながら詩集を売っている女(田村翔子)にその詩気に入ったと声を掛け、詩集を一冊買ったリュウは、そのまま詩集を手から落とすと、そのまま地面に崩れ落ちるのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

つげ忠男の劇画を原作に映画化した作品。

石井輝男晩年の作品と聞いて、もっと訳の分からない世界が展開するのかと思っていると、案に相違して、ちょっとレトロな舞台設定である以外は、至極真っ当な、仁侠映画風純愛ものの世界になっている。

冒頭に出て来る血液銀行の内部の様子等が、ややグロテスクに描かれていたりするが、それ以降は、しごく普通の娯楽映画と言った印象。

大作と言う雰囲気でもないが、さりとて、チープと言う感じでもない。

狂言回し風のオタクキャラ、つげ忠男を演じている佐野史郎、どこか女性に安らぎを追い求めながらも、自暴自棄的な生き方をする尾瀬役の金山一彦とサブ役の加勢大周、変質者的なキャラの悪役を演ずるベテラン南原宏治と、昔気質風のヤクザ像を演じている吉田輝雄、全員が主役と言っても良いくらい各々が印象的である。

南原宏治と吉田輝雄の若い頃の作品を知るものとしては、二人の老け具合に感慨ひと塩と言った所か。

又、あちこちに登場する異色のゲスト陣を発見する楽しみもある。

そして、何と言っても、この作品を輝かせているのは、ナミを演じている岡田奈々の、アイドル時代と変わらぬ美貌である。

ストーリー自体はやや単調で、ややもすると退屈と感じないでもないが、彼女の美しさを観ているだけでも、十分最後まで持ちこたえるような気がする。

派手さはないが、独特の味わいがある大人の作品だと思う。