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四谷怪談 お岩の亡霊

1969年、大映京都、鶴屋南北原作、直居欽哉脚本、森一生監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

遠州相良藩の武士、民谷伊右衛門(佐藤慶)は、四谷佐門(浜村純)の娘お岩(稲野和子)と婚礼を挙げていた。

その席に招かれていた奥田庄三郎(木村元)は、隣に座っていた佐藤与茂七(青山良彦)に、次はお前の番だなと話し掛けていた。

与茂七が、お岩の妹のお袖(御影京子)と良い仲なのを知った上でからかって来たのだ。

その庄三郎、さらに、お袖と結婚した暁には、伊右衛門はお前の義兄と言う事になるが、あいつは切れ者だが、虫が好かんと吐き捨てるように言い切る。

台所では、下男の直助(小林昭二)が、かいがいしく働いていた。

初夜の床に付いた伊右衛門はお岩に、舅から受けた恩は忘れぬと誓い、彼女を抱き締めるが、その時突然、屋根裏にでも忍んでいたのか、蛇がお岩の顔に落ちて来る。

天明6年、田沼意次が失脚した年、遠州相良藩は減俸され、浪人となった家臣たちは一斉に江戸に向ったが、皆、貧困生活を余儀なくされるようになる。

夏、伊右衛門は不機嫌だった。

貧困の中で、お岩は赤ん坊を生み、その養育をしなければいけなくなったにもかかわらず、内職として伊右衛門がやっている傘の貼り賃は、一枚で一文、一日働いても一朱にしかならなかった。

お岩も、縫い物等で家計を助けているが、とても満足な生活ができる状態ではなかった。

妹のお袖も、武士の娘でありながら、今では水茶屋で働いている事も伊右衛門は知っていた。

赤ん坊が泣き出したのが勘に触ったのか、ぷいと外出する伊右衛門。

その伊右衛門、茶店で偶然再会した庄三郎と与茂七が、互いの近況を報告しあっている所に出くわし、外から話を盗み聞いていた。

聞く所によると、庄三郎の方は小間物屋になり、与茂七は、お袖と相良で別れたきり会っていないとの事。

そんな庄三郎が、こんな世の中だから、日本橋の両替え屋伊勢屋喜兵衛にでも取り入って仕官の道を依頼するのが、一番出世への早道だ等と戯れ言のように話している。

しかし、こっそり聞いていた伊右衛門には、その言葉が天恵のように思えた。

水茶屋にいた裕福そうな町人たちが、按摩の宅悦が経営する地獄宿の事を噂している。

一方、薬屋になっていた直助は、その水茶屋にお袖会いたさに来るが、もうお袖は辞めてしまったと言う。

しかし、そのお袖は、今、地獄宿で働いていると言う話を聞いて、飛んで行くのだった。

その地獄宿を経営する宅悦は、表向き、お灸をすえる場所と言う事にしておかないと、裏稼業の売春宿が経営しにくいので、形だけでももぐさを揃えていた。

一方、帰宅したお袖を待っていた父親左門は、金策も巧く行かないし、近頃さっぱり、伊右衛門も姿を見せなくなった事に苛立っていた。

そんな家にやって来た金貸の女は、貸し金3両の返却をお袖に要求する。

実は、父左門が、流行り病に倒れ、寝込んでいた間、借金が嵩んでいたのであった。

そんなお袖が働く地獄宿へやって来た直助は、指名して呼んだお袖に金を払って抱こうとするが、元使用人であった直助に抱かれる事に頑として抵抗するお袖。

そんなお袖に、昔は主従関係だったが、今では、客と女郎の関係じゃないかと強引に組み付こうとした直助だったが、そこに突然現れた与茂七に殴り倒されてしまう。

聞けば、お袖の現状を聞いた与茂七は、庄三郎から金を借りてやって来たのだと言う。

その頃、伊勢屋の一人娘、お梅(真砂ちかこ)と乳母お槙(橘公子)は、街のチンピラたちから因縁をつけられていた。

そこに来合わせた伊右衛門は、そのチンピラたちを追い払ってやるのだが、礼を言いながら名前を尋ねるお槙に対し、雑司ヶ谷に住む民谷伊右衛門と答えて立ち去る。

しかし、その行為を見ていたのが、舅の左門だった。

近くの境内で、伊右衛門に声を掛けた左門は、両替え屋の娘に取り入って、仕官の道を手に入れようとする見え透いた伊右衛門の行為を軽蔑したようにとがめる。

しかし、そんな言葉に怯む伊右衛門でもなく、それなら、病身のお岩もそちらで引取ってくれと開き直る。

逆上した左門は、こうなったら何もかも伊勢屋にぶちまけてやると言い捨ててて帰って行く。

その頃、お岩様は、按摩の宅悦に身体を揉んでもらっていた。

一方、久々に再会した与茂七と庄三郎を自宅に連れて帰って来たお袖だったが、会わせようと思っていた父親左門が不在と知ると、与茂七は、今から信州へ金策に出かけると言って、お袖と別れるのだった。

その様子を陰で伺っていたのが、直助。

彼は、与茂七に旅行費用として、自分の商売用の仕入金を渡した後、信州に向う彼と別れ、一人で帰りはじめた庄三郎の後を付けはじめる。

同じ頃、草むらで舅左門の帰りを待っていた伊右衛門は、やって来た彼をいきなり斬り殺してしまう。

偶然にもその近くの道では直助が、あたかも、先を行く庄三郎が何か落とし物下かのように言葉を掛け、戻って来た所をドスで一突きにして殺してしまう。

そのして、その死骸の顔の皮を剥いでいる所に来合わせたのが、伊右衛門だった。

伊右衛門は、元下郎の直助の行為を確認しても騒がず、死んでいるのは奥田庄三郎ではないかと聞くが、直助の方も相手が元主人だった伊右衛門と知ると慌てず、着物の袖に返り血が付いていますぜと言い返すのだった。

互いに悪人同士の直感が働き、そのまま飲みに一緒に出かける。

酒を飲みながら直助が打ち明けるには、惚れたお袖をものにしようと思い、邪魔になる庄三郎を始末したのだと言う。

それからしばらくして、お袖との約束の五日が過ぎたと、再び借金の催促に来た金貸の女の声を聞き付けたのか、いきなりお袖の家に入ってきた直助は、金は俺が肩代わりすると言い出す。

何でも、いきなり隣に引っ越して来たのだと言う。

一方、伊右衛門の家には、伊勢屋の手代佐吉(南条新太郎)がやって来て、先日の礼がしたいと手前どもの主人が言っておりますので、ぜひともお越し願いたいと言って来る。

一応、遠慮した伊右衛門だったが、それでは手前が叱られると食い下がる佐吉に対し、それほど言われるならと、羽織をお岩に出させて出かける事になる。

伊勢屋の主人喜兵衛は、伊右衛門が申し出た仕官の口は必ず聞いてやると答えるが、その代わりとして、娘のお梅が、出会ったその時から、貴女様に惚れてしまったようなので、何とか夫婦になってくれないかと言い出して来る。

お槙が言うには、すでに、伊右衛門に妻と子供も入る事を承知の上での相談らしい。

飲み屋で落ち合った直助に事情を打明けた伊右衛門だったが、それだったら、前からお岩様に気がある宅悦に間男でもさせて、離縁してしまえば良いと、直助から知恵を授けられる。

そんな噂をされているとも知らない宅悦は、房州木更津在の小平(水上保宏)という青年を連れて来て、お岩に下男として使ってくれと言いに来る。

その申し出に戸惑ったお岩は、今の家の事情では、とても使用人等は置けないと断わろうとするが、宅悦は、金の心配なら入らないと言う。

その言葉に甘える形で、さっそく小平に、赤ん坊用の水飴を買いに行かせるお岩。

二人きりになった宅悦は、気があるお岩に、伊右衛門には女がいるかもなどと、冗談口を叩くが、当の伊右衛門が帰宅して後ろに立っていた事に気づき、慌てて逃げ帰るのだった。

しかし、主人を出迎えたお岩は、目眩を起こし倒れかけたので、それを見た伊右衛門は、厄介なやつだと吐き捨てるように言うと、酒を口にするのだった。

そんな伊右衛門の元を訪れたお槙は、唐から伝来した蘇気精という薬を、奥様の血の道に効く薬として置いて帰る。

その話を隣の間で聞いていた小平は、伊右衛門の前に進み出ると、自分の母親も長患いで寝ているので、その薬を少し分けてもらえないかと頭を下げて来る。

しかし、そんな了見違いな頼みをした小平を、伊右衛門は殴りつけるのだった。

相変わらず寝込んでいたお岩は、少し、小平にも薬を分けてやったら良いのにと弱々しく助言するが、伊右衛門は聞いている風でもない。

自分が死んだら、後添えはどうするのかと尋ねると、無情にも、すぐに女房をもらうだろうと答える伊右衛門は、畳に落ちていた鼈甲の櫛を拾おうとするので、それだけは母から伝わった形見なのでと抵抗するお岩。

金がいるのだと言う伊右衛門に、それならば着物をと言って、その場で脱いで見せるお岩だったが、それだけでは足りぬと、伊右衛門は蚊帳を引きちぎって持ち出そうとする。

それを持って行かれると、赤子が蚊に刺されて眠られぬと必死に蚊帳を奪い取ろうとする内に、お岩は生爪を剥がして、手を血まみれにしてしまうのだった。

しかし、そんな事には気にも止めず、蚊帳もひったくって外出してしまう伊右衛門だった。

そんな伊右衛門、飲み屋に呼出した宅悦に、お岩と間男するようけしかけて、一両を渡していた。

その帰り、伊右衛門に近づいて来たお槙は、先日渡した薬と言うのは、一服飲めば顔面が崩れ、二服飲めばたちまち命を落とす劇薬なのだと打ち明ける。

自分は、お梅の為なら命を掛けているのだから、あなたもそのおつもりかと迫って来るのだった。

家に近づいた時、伊右衛門はすれ違った薬売りから、生爪に聞くと言う薬を購入するが、その時、家からコソコソしながら出て来ると、彼の姿を見かけ慌てて逃げ出した小平の姿を見て、後を追い掛け捕まえると、その懐から蘇気精の薬袋を発見する。

家に連れて帰って来た伊右衛門は、小平を縛り上げると、折檻の為、納屋の中に閉じ込めてしまう。

そして、何事もなかったように家に上がると、お岩の爪に優しく薬を塗ってやりながら、最近イライラして住まんと殊勝にも謝って見せる。

そして、喜ぶお岩に、薬を飲んでみるかと、自ら台所で湯飲みに薬とお湯を入れて、手鏡の前に居たお岩に渡す。

お岩は、それを受取って飲み干すが、その途端に苦しみ出すのだった。

そこへやって来たのが宅悦。

表で、その宅悦に、たった今、お岩に薬を飲ませた所だと説明する伊右衛門の悪人ぶりに、怖気づいた宅悦は、金を返して帰ろうとするが、納屋に閉じ込めている小平を見せて、こんな不埒ものを連れて来たお前は、本来この場で斬られても文句はないはずだと脅迫して来る伊右衛門には、逆らいようもなかった。

恐る恐る家に入った宅悦は、行灯をつけて、お岩を呼び掛けながら中の様子を伺うが、布団にはその姿はなかった。

探していると、縁側で倒れて苦しんでいる。

その頃、伊勢屋の寮に出かけた伊右衛門は、女房は間男したので、今夜中に詮議するつもりだと喜兵衛に伝えていた。

布団に寝かせた小岩の手相を見ながら、悪い筋があるので、これを切らなければ…などと言いながら、いきなり抱きつこうとし始める。

それに驚いたお岩は、無礼者と言いながら、小刀を抜いて宅悦に斬り掛かろうとするが、よろけて、その小刀は、柱に歯を上にして突き刺さってしまう。

その抵抗振りに腰を抜かした宅悦は、謝りながら、これは全て、伊勢屋のお梅と一緒になりたい伊右衛門から命ぜられてやった事と白状し、あなたの顔は薬で崩れているのを御存じかと、鏡を見せる。

その時はじめて、鏡の中の顔を見たお岩様は「うらめしや…」と呟くのだった。

自分も今から、宅悦から教えられた伊勢屋の寮に乗り込んで行くと意気込むお岩様だったが、宅悦に指摘され、さすがに乱れた我が身を恥じたのか、女のたしなみとして髪を結い直して、お羽黒を縫って出かけようと、宅悦に道具を揃えさす。

しかし、鏡を見ながら、髪を梳き出すと、ごっそり髪が抜けるではないか、そのおぞましい顔を見たお岩様は「恨めしい〜、この恨みはらさで置くべきか…」と、絞り出すような言葉を言うと、ふらふらと立ち上がりかけるが、またもよろけて、先ほど柱に刺さったまま小刀に自ら倒れ込み、咽をばっさり斬ってしまう。

その凄まじい光景を見て、腰を抜かす宅悦。

その時、帰宅して来た伊右衛門は、自力で納屋を破って逃げようとしていた小平を見つけ捕まえると、一緒に、お岩の無惨な死体を見せつけた後、お前が間男をしたのだと言って、小平を突き殺してしまう。

そして、宅悦に水をくれと頼んだ伊右衛門だったが、その宅悦は、何時の間にか、お岩様の死体も赤ん坊も消えているのに気づき悲鳴をあげる。

伊右衛門が目を凝らしていると、暗がりの中に、赤ん坊を抱いたお岩様の姿があった。

それを斬り捨てた伊右衛門は、宅悦に雨戸を一枚持って来させ、その裏と表に、お岩様と小平の死体を張り付けるのだった。

赤ん坊の死体は、庭の隅にでも埋めておけと言う、その極悪人振りに、宅悦は顔色をなくす。

さらに、死体を貼付けた雨戸を抱えて、河の上にかかる万年橋まで持って来た二人は、それを何の躊躇もなく河へ放り込むのだった。

伊右衛門は、このまま河に流され、カラスや鳥たちに突かれ、業が尽きたら仏になれと二人の死体に言葉をかけるのだった。

その頃、お袖は、雨の中突然訪ねて来たお岩の姿に驚いていた。

すぐに座敷に上げ、濡れた着物を拭いてやっている話声を聞き付けた隣の直助がやって来て、お袖に声をかけると、姉が来ていると言うお袖の説明とは裏腹に、座敷には誰もいない。

そんなはずはないと不思議がるお袖だったが、上がって来た直助は、畳の上に血の痕を見つけるのだった。

その夜、仮祝言が終わって、安心する伊勢屋喜兵衛とお槙。

別室では、初夜を迎えて、はじめて床を同じくするお梅が、もし自分の顔が醜くなったとしても気持ちは変わらないかと尋ねて来たので、変わりはせぬと抱き寄せた伊右衛門だったが、顔を上げたお梅の顔は、お岩様になっていた。

驚いて刀を取り上げ、斬りつけた伊右衛門は、そこにお梅の死体を見て、亡霊にそそのかされた事と知るのだった。

さらに、部屋を出様と襖を開けると、そこには小平の恨めしそうな姿があるではないか!

また、それを切り捨てると、それは喜兵衛の身体だった。

庭では青白い炎が走り、空中には人魂が飛んでいた。

そんな中、井戸の水を飲もうとした伊右衛門は、後ろから誰かに肩を触れられ、思わず振り向くと、又もやお岩様が立っている。思わず斬り付けるが、良く見るとそれはお槙だった。

その頃、信州に向っていた与茂七は、旅の途中で病に倒れ、15日も人の家に寝かされていた。

宅悦の地獄宿も、岡っ引に目をつけられ、賄賂目的で脅しに来られるようになったので、そろそろ、又昔のように、外回りをしなければいけなくなったと感じていた。

ある日、河に泥鰌掬いに来ていた直助は、髪が巻き付いた無気味な櫛が流されて来たのを見つけるが、洗っていると、鼈甲の上物である事が分かり大喜び。

その後、岸でたき火をしながら着物を乾かしていると、釣りに来た侍がいる。

煙草の火を貸してくれと言われて、その顔を見合ると伊右衛門であった。

直助が伊勢屋の三人殺した訳を尋ねると、怨霊の為だと言う。

今どこに住んでいるのかと聞くと、本所、蛇山の庵室にいると答える伊右衛門。

悪と業の戦いだが、最後はこちらが勝ってみせると嘯くその姿を見て、さすがに怯えた直助は、そそくさと着物を着て帰ってしまう。

その後、一人になった伊右衛門は、燃えていた直助のたき火が何時の間にか消えていた事にも気づかなかった。

ウキが動き、何かが釣れたので引いてみると、近づいて来たのは雨戸だった。

その雨戸がにわかに立起き上がったかと思うと、お岩と小平の死体が貼付けてあるではないか。

思わず、斬り付ける伊右衛門だったが、良く見ると、ただの雨戸に過ぎなかった。

その頃、家に戻って来た直助は、古着屋の庄七(寺島雄作)と出会い、お袖に洗ってもらってくれと、着物を渡される。

寺からの払い下げものだろうと聞くと、万年橋から流されて来た男女の…と言いかけた庄七は、その後の言葉を飲んで逃げるように帰ってしまう。

その着物を持って、お袖を訪ねた直助は、言われるままに、着物を盥の水につけ、拾って来た櫛を土産代わりに渡すが、それを見たお袖は、これは姉のものに違いないと言い出す。

やがて、行灯が点滅し出し、バツが悪くなった直助が帰りかけると、盥から伸びた女の手が、その足首を掴んでいると叫び出す。

しかし、お袖は、おびえる直助に訝りながら盥の中を確認するが、そこに浸かっていた着物も、姉のものだと気づく。

そんな所に聞こえて来たのが、按摩の拭く笛。

外回りをはじめた宅悦が、何故か自分の意思とは裏腹に、こちらの方にやって来たのだった。

お袖から呼び止められた宅悦は、櫛と着物を見せられ、これはお岩様のものに間違いないと証言する事になる。

その時、行灯の火が消え、お岩様の姿を見た宅悦は、観念して、伊右衛門のやった悪行を何もかも打ち明けるのだった。

しかし、お岩様と見えた姿は、きょとんとするお袖だった。

その頃、三ヶ月振りに江戸に帰って来て万年橋を渡っていた与茂七は、そのたもとで、赤ん坊を抱いたお岩様に呼び止められ、お袖を頼むと言われる。

気が付くと、もうその姿はかき消えていた。

そのお袖は、かいがいしく手伝いをしていた直助から、いきなり襲いかかられていた。

長年我慢に我慢を重ねて来た思いを、今こそ遂げようとする男の執念だった。

しかし、その最中、帰って来たのが与茂七。

その姿を見て開き直った直助は、こうなったら、庄三郎共々殺してやると叫ぶと、与茂七に斬りかかって来る。

その直助を与茂七は斬り捨てるが、自らの傷に最後を覚悟した直助は、伊右衛門の隠れ家を二人の言い残して、息絶えるのだった。

その頃、伊右衛門は、庵室の中の護符に守られる中、寝ていたが、うなされ続けていた。

目覚めた伊右衛門に、読経を続けていた和尚がやって来て、念仏を唱えろと勧めるが、伊右衛門は、自分は刀で守ると言い切る。

その庵室に、仇討ち姿になった与茂七、お袖、そして岡っ引連中がやって来る。

又しても、お岩様の亡霊に襲われた伊右衛門は、外に飛び出し、お袖や与茂七と対峙する事になるが、「首が飛んでも動いてみせるわ」と大見得を切りながら、伊右衛門は竹林の中に逃げ込む。

亡霊に悩まされる伊右衛門は、周囲の竹を次々に斬って廻るが、次の瞬間、自ら躓いて、斜に斬った竹の切り株に倒れ込み、首を貫いてしまう。

その周りに、青白い人魂が浮遊しはじめ、それでも死にきれない伊右衛門は、因縁の万年橋までたどり着き、その中央でばったりと倒れる。

そこへ追って来たのが、お袖と与茂七、しかし、その二人の姿が、伊右衛門にはお岩と小平に見えた。

「まだまだ死なんぞ!」と最後のあがきを見せた伊右衛門だったが、二人に刺し抜かれ、河に転落。

その時、お岩様の笑い声が聞こえて来たかと思うと、伊右衛門の身体は河に沈んで行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

お馴染み、「東海道四谷怪談」の映画化。

このストーリーに馴染みがない初心者にとっては、ひょっとすると、一番分かりやすい作品かも知れない。

と言うのも、伊右衛門とお岩様が婚礼を上げる所から、藩が格下げになり、浪人になった伊右衛門たちが江戸に来て貧困暮しを余儀なくされる件までが時系列通りに描かれているので、設定がものすごく飲み込みやすい。

全体的にもオーソドックスにまとめられている印象で、特に奇抜なアレンジ等はないように思える。

従来の映画化では、江戸から話が始まるものが多く、貧困に喘いでいる伊右衛門の過去等が、セリフによる説明だけでは良く分からなかったりしたからだ。

おそらく、芝居等でも有名な話なので、かつての観客にとっては、その辺の背景説明は必要なかったと言う事なのかも知れないが、今では、四谷怪談のストーリーに精通している日本人の方が少ないのではないかと思われ、そう言う意味では、親切な展開になっている。

佐藤慶の伊右衛門も、観客を呼べるかどうかと言った興行力では疑問もあるが、酷薄な主人公のキャラクターにはぴったりと言った感じ。

他のキャスティングも、全体的に地味な印象を受けるが、各々、適材適所と言った感じで悪くない。

小林昭二の悪人キャラはどうかな?と言った不安もあったが、観てみると、結構、人の良い小悪人振りは出ている。

いわゆる、人気役者と言うか、スター級の人は出て来ないが、映画としては、きっちり出来ている秀作だと思う。

白バックに、海草のような女の長い髪が、ゆらゆら揺れているタイトルバックも印象的。