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四谷怪談('65)

1965年、東京映画、鶴屋南北原作、八住利雄脚本、豊田四郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

呼び寄せた刀屋(滝田裕介)に刀を売ろうと値踏みさせていた浪人、民谷伊右衛門(仲代達矢)は、庭に干していた内職の傘の合間に、実家に連れ返されたはずの妻のお岩(岡田茉莉子)の姿を観たように思った。

民谷が困窮浪人になったのは、使えていた城主が発狂し、お家が潰されてしまったからだった。

舅に当る四谷佐門(永田靖)は、娘お岩の窮状を見かねて、実家に引き上げさせてしまっていたのだ。
しかし、その四谷家も、困窮のどん底になる事に変わりはなかった。

そこへやって来た、民谷の友人で地獄宿の主人、宅悦(三島雅夫)は、お岩が、妹のおそで(池内淳子)に誘われて、自分の経営する宿で遊女になると知らせる。

それを聞いた民谷は、いきなり、刀は売らず、この理不尽な世の中に仕返ししてやると言い出す。

その頃、おそでは、姉のお岩と出会っていたが、お岩は、お腹の中の赤ん坊が動いていると、遊女になる事をためらう言葉を伝える。

すでに、遊女であるおそでの方も、与茂七という許嫁があるのだが、その行方が分からなくなり、今は、生きて行く為に仕方なく、苦界に身を置いていたのであった。

その後、地獄宿では、元四谷家の中間時代から、おそでに気があった直助権兵衛(中村勘三郎)が、何とか、おそでと思いを遂げようと迫っていたが、さすがに、かつて実家で使用人だった直助とネンゴロになるつもりはないと、おそでは突っぱねていた。

惚れた弱味か、いくら金を払った客とは言え、おそでに嫌われてはそれ以上手が出せない直助は、女将のお色(野村昭子)に文句を言うが、お色は何とかなだめて、直助の相手は主人の宅悦に任せ、おそでの方は、おとなしい新客の間に向わせる。

その直後、宅悦相手にぼやいていた直助の前に現れたお色は、おそでと新客の小間物屋が互いに顔見知りだったらしく、再会を喜んで泣き合っていると報告に来る。

直助は、そんな話を聞かされ、ますます面白くなくなる。

客の小間物屋とは、国で大病をして長らく寝込んでいたため落ちぶれたという、おそでの許嫁佐藤与茂七(平幹二朗)だった。

おそでは、今の自分の境遇を恥じながらも、今日にも、父親に合ってくれと約束して別れる。

そんな地獄宿にやって来たのが民谷だったが、彼は、血相を変えて宿から走り出て行った友人、直助の姿を目撃する。

その夜、独り土手を歩いていた小間物屋を付けていた直助は、背後からその小間物屋に襲いかかると、一突きで刺し殺してしまう。

その頃、四谷佐門の家を訪れていた民谷は、娘二人に身体を売らせている現状を詰問するが、開き直った佐門は知らんと突っぱね、それよりも、盗み出した御用金はどうした?と、逆に民谷に詰め寄って来る。

民谷は、その事を知っているからには生かしてはおけぬと、舅をその場で斬り殺してしまう。

佐門が抜いた刀は竹みつだったので、まともに立ち向かえるはずもなかった。

その四谷家の横を流れる川で、殺した小間物屋の顔の皮を剥いでいた直助を見つけたのは、四谷家から出て来て、手に付いた血を洗おうと近づいて来た民谷だった。

民谷は、直助がおそでの許嫁を殺したいきさつを聞くと、自分の罪もごまかす為、二人で策を練りはじめる。

その後、四谷家に帰って来たおそでとお岩は、家の中に、父親と許嫁の惨殺死体を発見し、悲鳴をあげる。

その声に引かれて来たように家に姿を現したのは民谷、今はじめて、義父を訪ねて来たと見せ掛け、惨状を見ると、義父が何者かに襲われた際、救援に駆けつけて来た与茂七も、一緒に殺されたのだろうと推測して聞かせる。

その後、こちらも何気なく今来たばかりと装った直助が、わざとらしく泣いてみせて、おそでにあらぬ思いを抱いていた自分が恥ずかしいなどとしおらしく反省してみせる。

直助は、自分と一緒に今までいたと、そのアリバイをさり気なく姉妹に聞かせた民谷は、いっそのこと、直助に、おそでの仇を一緒に捜してやれば良いと、自らの小刀を渡し、勧めるのだった。

すべて、二人があらかじめ考えていた筋書き通りだった。

その後、再び、お岩と一緒に暮し始めた民谷だったが、生まれたばかりの赤ん坊の泣き声にいらつく毎日が続いていた。

そんな中、時々やって来ては、お岩の身の回りの世話等やってくれている宅悦に、小者を独り雇いたいと申し出て、外出する。

その民谷、飲み屋で、巧い事、おそでと仮の夫婦として同居する事になった直助と酒を酌み交わしていた。

直助、真に惚れた弱味で、まだ、おそでに手が出せないでいると言う。

そんな直助は、民谷に、十万石の婿に行かないかと話を持ちかけていたが、野心溢れる民谷は、自分が目指しているのは、百石、二百石どころの禄高ではないと嘯いてみせる。

その民谷、表を通りかかったおまき(淡路恵子)から、お梅(大空真弓)が、今夜待っていると、薬を渡される。

実は、民谷、伊藤家の娘、お梅から秘かに見初められ、ぜひとも祝言を挙げたいと申込まれており、おまきはその乳母であった。

渡した薬は、お岩の顔を崩す毒薬で、それで妻の容貌が変われば、民谷の気持ちも変わるだろうと言う、お梅の発案だった。

早速帰宅した民谷は、蚊帳の中で、赤ん坊と寝ていたお岩を起こすと、目眩がすると気分が優れなさそうな彼女に、血の路の妙薬と称して、もらって来た薬を渡す。

さらに、自分は、今、仕官の道があるので、すぐ出かけると伝え、お岩を喜ばせるのだった。

その民谷が向った先は、伊藤家の屋敷であった。

お梅の弾く琴の音が流れる中、待かねていたおまきに案内され、お梅の父親である伊藤喜兵衛(小沢栄太郎)に面会した民谷は、仕官の事を確認するが、伊藤は承知したと答えるが、そちらも、それなりの支度をしておくようにと、釘を刺す事も忘れなかった。

つまりは、金の要求である。

その頃、以前頼まれていた小者として小平(矢野宣)という男を連れて来た宅悦は、民谷の家に行灯が灯っていないのに気づき声をかけると、闇の奥から、お岩が胸が苦しいとうなっているではないか。

すぐに、行灯を付けた宅悦だったが、油が少ないらしく、明かりがちらちらとしかつかない。

お岩は、来るしそうに、金の在り処を教えると、それで、油と米を買って来てくれと頼む。

さっそく、宅悦は自分で油を、小平には米を買いに行かせる事にする。

その時、ちょうど帰って来た民谷は、見知らぬ小者の姿を怪しむが、素性を聞かされ納得すると、こっそり、宅悦を脇に招いて何事かと耳打ちするのであった。

その後、家に入って来た民谷は、金目のものを捜そうと、長もち等漁りはじめるが、何もあろうはずもない。

そんな民谷に、お岩が闇の奥から水をくれと声をかける。

顔も胸も焼け付くように熱い。先ほどもらって飲んだ薬は、間違いではないかと言われたので、そんな事はないと言いながら、台所の瓶から水を汲んでやっていた民谷は、突然、我慢できないように障子の影から手が伸びて来た方を振り向くと、そこにあったお岩の顔があまりに変わり果てているので、思わず身を引いてしまう。

お岩は、父親の仇討ちもしない内にこんな身体になってしまった事を悔やみながら、民谷に女が出来たのだろうとにじり寄る。

その言葉に、思わず開き直った民谷は、旧に金がいるのでと、お岩の刺している簪を取ろうとするが、それは母親代々の形見なので許してくれというお岩の着ていた着物と帯を、半ば強引に剥ぎ取ったのみならず、赤ん坊を寝かせていた蚊帳までも引きちぎって持って行ってしまう。

その直後、油を買って戻って来た宅悦は、行灯に油を加えると、後ろを向いたお岩の方に近づきながら、同情するような言葉をかけながら手を握り、腕に悪い筋があるので、それを断ち切らなければ、いつまでも男運が悪い等と戯れ言を言いながら、お岩に抱きつこうとする。

驚いたお岩から、無礼者と突き飛ばされた宅悦は、謝罪しながら、お岩の顔色を伺おうとじっくり見直すと、その容貌があまりに変化しているので驚き、彼女に鏡を見せる。

自らの変わり果てた顔を鏡で確認しているお岩に向い、宅悦は、民谷から、真男せよと命じられた事情を告白するのだった。

その頃、民谷に外で出会っていたお梅とおまきは、これを結納金代わりに使ってくれと、自分が持ち出して来た金を彼に渡すのだった。

最初から、民谷に金等用意できるはずがない事は分かっていた様子。

一方、少しでも女の身だしなみを整えておこうと、髪を梳く為に、お歯黒道具を宅悦に持って来させたお岩だったが、髪を梳き始めた途端、ごっそり抜け落ちる自らの髪の毛に思わず固まってしまう。

その様子を観ながら、赤ん坊をあやしていた宅悦は、あまりの惨さに目を背け、赤ん坊を入口付近に置いたまま逃げ出すのだった。

ちょうど、その時、米を買って戻って来た小平は、入口に倒れ込んだお岩の姿を観て腰を抜かす。

その後、再び帰宅して来た民谷は、倒れているお岩を観て、死んだと錯覚したが、いきなり物陰から小平が、あなたは非道な人だと言ってつかみ掛かって来たので、思わず切捨ててしまう。

さらに、まだ息があり、起き上がって来たお岩をも突き殺してしまう。

やがて、いつもの酒場に直助を呼出した民谷は、赤ん坊を背負った姿で、お岩と小平の死体を、不義密通の仕置に見せ掛け、押入の杉戸の裏と表にはりつけて来たので、一緒にそれを川に捨てる手伝いに来てくれと家に連れて来るのだった。

ところが、家の中に入ってみると、置いた所に杉戸がない。

水音がするので、庭先に出てみると、誰が動かしたのか、死体を張り付けた杉戸がある。

あまりの怪奇に、浮き足立ち始めた直助は、何時の間にか、民谷が背負っていた赤ん坊も死んでいるのに気づく。

後日、直助と同居し始めた墓裏の家で洗濯をしていた妹のおそでは、洗濯盥の水の中に姉の姿を見つけて目をあげると、隣の墓との間の塀の所にお岩が立っているではないか。

家にいた直助にその事を告げると、気味悪がりながらも直助は、今日は民谷様の婚礼の日、出る所が違ってやしないかと、小平とお岩は駆け落ちをしたと聞かされていたおそでには訳の分からぬ返事をする。

確かに、もう一度、裏庭に出てみたおそでは誰もいなくなっているのに気づく。

その夜、伊藤家では、民谷とお梅の婚礼が内輪だけで行われていた。

気をきかせて、伊藤とおまきは席を外し、晴れて新妻のお梅と寝所で二人きりになった民谷は、途中から、屏風の影から言葉を発しなくなったお梅を、羞恥のせいと思い込み、近づいて声をかけるが、振り向いたお梅の顔はお岩になっていた。

思わず、民谷が斬り付けると、倒れた女はお梅の姿に戻っていた。

その部屋の中には、何故か鼠が多量に走り回っていた。

その後、川で鰻を捕まえていた直助は、鼈甲細工の簪が浮いているのを見つけ拾い上げる。
売れば、五両はする品物なので、徳をしたと大喜び。

同じ頃、万年橋のたもとで、のんびり釣りをしていた民谷の元に、伊藤が現れ、婚礼の日以来姿を見せなくなったお梅はどうした?と詰め寄って来るが、民谷は白を切り続ける。

業を煮やした伊藤は、もはや伊藤家との縁は切らしてもらうと言うと、それならば、そちらからもらった毒薬の事を御上に話すので、それが嫌なら袖金を寄越せと、民谷は開き直る。

さすがに、怒った伊藤は、民谷に斬り掛かろうとするが、逆に、返り討ちにあって、お堀の中に沈んでしまう。

その直後、水面を観ていた民谷の前に、杉戸に張り付けられたお岩が浮かび上がって来る。

その顔は、見る見る内に崩れ、骸骨がのぞきだす。

ある日、洗い物の内職をしていたおそでの元に、見覚えのある着物を洗ってくれと持ち込んで来た馴染みがあった。

どう観ても、姉のお岩が着ていたものだと問いかけると、同じような着物は五万とあると、その馴染みは白を切って帰る。

洗濯竿に、すでに干してあった男物の着物は、実は、小平が最後に着ていたものだったが、おそでが何も知るはずもない。

そこへ、直助が帰って来たので、米屋等の支払いが不足しているとおそでが頼むと、直助は、気前良さそうに、懐から串を出して、これを売れと言う。

しかし、その櫛を観たおそでは又しても驚く。

それも又、姉がいつも刺していた鼈甲櫛そのものだったからだ。

その出所を聞き出そうとしたおそでだったが、直助も口を濁すだけ。

これも何かの縁に違いないと、仏壇に櫛を供えて食事の支度をはじめたおそでだったが、その櫛をこっそり盗み出して、外へ出かかった直助は、先ほどのお岩の着物が漬けてあった洗濯盥の水の中から飛び出して来た女の手に、着物の裾を掴まれて固まってしまう。

さらに、それを振払って、竿の方に逃げた直助だったが、今度は、小平の着物が、彼を捕まえるように絡み付いて来る。

洗濯盥の中からは、一匹の鼠が飛び出して来る。

何時の間にか、竿にかかった着物も通常の状態に戻っていた。

不思議な事に、直助が持ち出したはずの櫛は、元のように、仏壇に供えられていた。

民谷は、しらじらしくも、死んだ舅の仏前に線香を上げに伊藤家を訪れていた。

相手をしたおまきから、生前に伊藤は、ちゃんと、推挙状を書いていたと教えられた民谷は、満足そうな顔をする。

その民谷にしなだれかかるおまきも又、彼と組んで、ずる賢く生き残ろうとしていた。

何時の間にか、二人は深い男女の仲になっていたのだった。

そんなある日、おそでが、姉のものと思われる簪と着物を確認してもらう為、宅悦の家を訪ねて来る。

そんな事情は知らない女房のお色は、自分で勝手に簪を刺したり、着物を羽織ったりしてはしゃぎ出すが、お色がのぞく鏡には、お岩の顔が浮かび、着物を羽織ったお岩の姿が見えた宅悦は、恐れるあまり、白を切る事を諦め、何もかも包み隠さずおそでに打ち明けてしまう。

そんな頃、いつものように、女達を交え、酒屋で花札遊び等に興じていた民谷は直助に、おそでを早いとこ、ものにしてしまえとけしかけていた。

その後、帰宅した直助に、殊勝な態度で待ち受けていたおそでは、酒を勧めながら、ようやく、姉の仇が分かったので仇討ちをして欲しいと、自ら、直助に身体を任せる素振りをする。

その頃、新しい場所に移っていた地獄宿を訪ねて来たのは、驚いた事に、死んだはずの佐藤与茂七だった。

あの後、又、持病が再発し、生死の境を彷徨っていたのだと言う。

その与茂七、お色から聞いたおそでの家にやって来るが、それはちょうど、長年の念願なかって、直助がおそでを抱いた直後の事だった。

戸を叩く音に、外に出て観た直助は、そこに自分が殺したはずの与茂七の姿を観て、肝を潰す。

与茂七の方は、そんな直助とは初対面なので、おそでが呼んだ按摩と勘違いしてしまう。

しかし、与茂七の姿を観て泣き崩れるおそでから、自分が死んだと思われていた事を知ると、殺されたのは、あの夜、腹痛を起こして倒れた自分が衣装を貸してやった小間物屋仲間の笹川源吾(中村正太郎)だろうと推測する。

そんな二人の愁嘆場を観てふて腐れていた直助は、開き直って思わず、おそでを小刀で刺してしまう。

驚いた与茂七は、その直助をその場で切り捨てるが、庭に這い出た直助は、好きな相手にようやく思いを遂げた満足感の中で、息絶えるのだった。

雪の積もった冬の日、おまきは、最近、怨霊に祟られたのか、高熱にうなされるようになった民谷を除霊する為、寺の住職(東野英治郎)に祈祷をしてもらっていた。

その祈祷が効いたのか、護符の文字の書かれた御簾の中で寝かされていた民谷は、取りあえず落ち着いて眠ったように見えたが、住職がいなくなると、悪夢にうなされはじめる。

「女に惚れた事がない奴ほど悪党」という直助の言葉がどこからか聞こえて来る。

脇で民谷を看病しているおまきは、明日は殿様に仕官の日だと励ます。

民谷は、草深い草原の中に建つ庵に、お岩と二人で過ごしている夢を観ていた。

美しかったお岩の廻りには、螢がまとわりつき、火の玉が浮かび上がったかと思うと、「未来永劫、私を見捨てるつもりかえ?」と、すごい形相で睨み付けて来る。

その執念に目覚めた民谷は、狂った眼差しのまま、刀を御簾の中から振り回しはじめる。

仕官の推挙状を確認しようと、しまってあった箱を開けてみると、一匹の鼠が飛び出し、大切な書状はと開いて見ると、鼠に喰い破られているではないか。

見れば、お堂の中は鼠だらけである。

その民谷の狂乱振りにおののきながらも、推挙状を確認して観たおまきは、書状が元の状態である事に気づく。

それを、民谷に知らせようとするおまきであったが、もはや、狂った民谷に、おまきの姿は見えていないかのように、彼女を袈裟がけに斬ってしまう。

逃げるおまきを追って、お堂の入口の所で振り下ろした刀は、鴨居に当って真っ二つに折れてしまい、刀の切っ先は、外の雪の中に刺さってしまう。

表に歩み出た民谷は、その雪の中に佇む美しかった頃のお岩の姿を観る。

お岩は、「幸せはそんな事では得られないと、これほど言っても分かりませぬか?」と民谷を諌めようとするが、民谷は「生きるに甲斐ある世の中を観るまでは、負けはしない」と言い返し、それを聞いたお岩は、哀し気に去って行くのだった。

雪の中に、その姿を追おうとした民谷は、躓いて、先ほど刺さった、自分の刀の切っ先の上に倒れ込み、「負けやしねえ!首が飛んでも動いてみせる…」と最後の啖呵を切って、息絶えるのであった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

過去、何度も映画化された有名な古典の最映画化。

この年、先に封切られた、小林正樹監督の大作「怪談」(1965)を意識したものか、同作の「雪女編」に出ていた仲代達矢を主役に添え、それに、松竹から招いた岡田茉莉子、歌舞伎界からの先代中村勘三郎を加え、重厚なセットで見せる幻想文芸大作になっている。

怪談としての、通俗なケレン等は極力排している為か、あまり怖さは感じない作りになっている。

あくまでも、理不尽な運命に立ち向かおうと野心満々の悪党になった伊右衛門と、惚れた女との思いを遂げる為に、こちらも小悪党になった直助を中心に、その悪党らの犠牲となった人間達との壮絶な怨念合戦が描かれている。

中村勘三郎演ずる直助などは、意図的なのだろうが、時折ユーモラスなセリフ等も交えている。

最初の内は、怪奇現象にもさほど怯まず、女の執念等、何ほどでもないなどと豪語していた民谷が、後半は、自らの罪悪感が生んだのであろう悪夢に敗北して行く様は、人間の欲望と、その限界を象徴しているようで興味深い。

全体的には、舞台劇と映画の中間のような演出で作られており、リアリズム追求と言う感じではない。

実際、場面によっては、明らかに芝居調のセリフ回しになっていたりする。

あまり、お岩様を中心に撮っている感じではないので、岡田茉莉子の印象は、意外と薄い。

出番は多いが、存外、お人好しで世話好きの宅悦を演じている三島雅夫の印象も同様。

かえって、純朴なおそで役の池内淳子や、悪女風のおまき役の淡路恵子、意外な所では、お色役の野村昭子等の方が印象に強かったりする。

小沢栄太郎、大空真弓、平幹二朗、東野英治郎など、出番が少ない脇役人も豪華。