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千客万来

1962年、松竹大船、野田高梧+柳井隆雄+富田義朗脚本、中村登監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

山歩きをする青年の後ろから、無理矢理ついて来たらしい女性が、もう歩けないと甘えるので、青年は少しむっとして、早く歩かないと今日中に帰れないよと激励する。

やがて、先を登っていた青年が、輪になって食事をしようとしているグループを発見し、その中に見知った女性がいるのでちょっと驚いて声をかける。

そのグループにいたのはOLの香取啓子(岩下志麻)、声をかけた青年は啓子の大学の先輩で、今は天婦羅屋「天銀」の若主人におさまった小林銀之助(宗方勝巳)であった。

そのグループは全員、啓子の会社の同僚たちであり、その中に小林の同輩で、技師をしている今村謙太郎(川津祐介)もいる事に気づき、銀之助は気軽にその輪の中に入る。

ところが、遅れてその場に到着した女性、銀之助の幼馴染みで、今は店の手伝いをしている多佳子(牧紀子)は、一緒に食事をしないかと誘うそのグループに何故か近づこうとせず、先ほど食事は済ましたでしょうと銀之助をせかして帰ってしまうのだった。

後日、会社で社長の前川(伊藤雄之助)に、遭難保険の現場報告書を提出しに行った今村は、君は、啓子の事をどう思っているのかといきなり質問される。

どうやら、二人で山登りをした事を知っているらしい。

ただ大学の2年先輩後輩の間柄と言うだけで、特別な気持ちはないと答えて今村が社長室を出た後、今度は、決済書のコピーを持ってやって来た啓子に、今村の事をどう思うかと尋ねる前川社長は、実は、啓子の父親の友達という関係であった。

その啓子は、社長室を出たところで、父親の香取(山村聡)に出くわす。

どうやら、前川社長に呼ばれて出て来たらしい。

戻って来た啓子に、近づいて来た今村は、それとなく、社長に自分たちが聞かれた事を明かしあっていた。

一方、天銀では、常連客(三井弘次)が、銀太郎の身を固めさせようとしきりに話を持ちかけていたが、銀太郎の方は、さっぱり興味なさそうだった。

店が終わり、いつものように、帰る多佳子の父親の為に土産の折り詰めを渡してやった銀太郎は、改めて、母親(沢村貞子)から、多佳子なら結婚相手として申し分ないのではないかと勧められるのだった。

その頃、銀座のバー「蜂の巣」で飲んでいた香取は前川から、今付き合っているツヤ子(高千穂ひづる)との別れ話を打ち明けられていた。

先日、若い男と一緒に車に乗っているのを見かけ、もう自分のような年寄りが相手をしている場合じゃないと気づいたと言うのだ。

その相談を聞いていた香取の方も、最近自分もめっきり衰えたと告白するので、山岸は心配して、自分愛用の精力剤を飲ませる。

その後、目眩を起こし、「蜂の巣」のママ(嵯峨三智子)からタクシーで自宅まで送られた香取は、ちょうど帰って来た次女の則子(鰐淵晴子)に出くわす。

則子は、そんな父親の姿を不潔と感じ、ふくれたまま自室に戻るが、それにもまして、そんな女性を、自宅にあげようとする母親(三宅邦子)の姿勢にも我慢が出来ず、姉の啓子に、自分は酒を飲むような男とは絶対結婚しないし、姉さんもそんなだらしない男とは結婚しないようにと忠告するのだった。

翌朝、多佳子の家では、隅田川を走る舟の船長をしている父親(中村是好)が、妻(桜むつ子)から起こされていた。

父親が寝過ごしたのは、主任からメリヤス問屋の次男坊と多佳子との縁談話を持ちかけられ、嬉しくて、つい飲み過ぎてしまったらしかった。

しかし、それを聞いた妻は顔を曇らせる。

娘の多佳子は銀太郎が好きなのだが、その銀太郎には別に好きな人がいるらしいと悩んでいるらしい事を気づいていたからだった。

今度は、それを聞かされた父親の方がうろたえる。そんな事は全く知らず、主任に良いように返事をしてしまったからだった。

しかし、娘の気持ちを知った父親は、気持ちを切り替え、多佳子を自分の舟に乗せて、明るく店まで送ってやるのだった。

ある日、ゴルフ場で待ち合わせた香取は、前川がツヤ子を同伴して来た事に呆れてしまう。

結局、前川には、きっぱりツヤ子と別れる決断が出来ないでいた事を知ったからだ。

その頃、今村と啓子はおでん屋で食事をしていながら、社長命令で結婚するのは互いに抵抗がある等と話し合っていたのだが、実は二人は恋人同士だった。

すでに結婚も考えており、今後は酒を辞めてくれと注文したのに、そんな事は気にせず、わざと目の前でガバガバ酒を飲む今村の態度に腹を立てた啓子は、食事もしないで席を立ってしまう。

啓子が向った先は、大学教授をしている伯父の良介(佐田啓二)の家だった。

今日の今村との話を聞いていた良介は、当番の日とかで、妻との食事の用意をしている最中だった。

その妻(岡田茉莉子)は、女性公論に載せる原稿「放射能が女性に与える影響」が書けずに苦しんでいた。

そんな妻は、最近、踊りの名取りになったとかで、暇を見つけては練習に余念がないのが、良介の悩みの種だった。

後日、香取の妻は、前川の妻(水戸光子)を訪ね、啓子の仲人を依頼していた。

そんな所に、前川の一人息子(竹脇無我)が小遣いをねだりに来る。

ある日、仕事が終わり、珍しく独り酒を飲んでいた銀之助を不審に思い問いかける母親だったが、銀之助は、兄が死んだので、大学を出たのに何時の間にか天婦羅屋を継がされていた自分の生き方に思いを馳せていたと答える。

そんなところへやって来た多佳子の父親は、明日は休日だそうだから、一緒に油壺に釣りにでも出かけて気晴らしをしようと誘う。

翌日、多佳子を銀之助と同じ小舟に乗せ、自分は別の舟から双眼鏡で、二人の様子を観察していた父親だったが、釣りに熱中できない様子の銀之助は、釣り上げた魚も満足に外せない多佳子にいらついた事もあり、舟の中で一人ふて寝をはじめてしまう有り様。

やがて、今村謙太郎と香取啓子の結婚式が行われる。

来賓を代表して、ひげの中年男(伴淳三郎)が長ったらしい高砂屋を唄い出した為、出席者一同白けてしまう一幕はあったものの、二人は無事新婚旅行に出かけ、その夜、香取はしみじみと娘を嫁がせた父親の気分を味わいながら前川と飲んでいた。

そんな前川に、近づいて来たママは、最近、ツヤ子のアパートの隣に大学生が住んでいて彼女の事を気に入っているらしいと、からかいはじめる。

前川は、そんなからかいにも、ツヤ子への未練をつのらせるのだった。

新婚旅行先でも酒を飲んで上機嫌の今村に、啓子は早速不満を表明し、自分もこのまま、家に入らずに、仕事を続けたいと言い出すが、それを承知しない今村と、早くも口げんかをはじめていた。

一方、「天銀」では、常連客たちが口を揃えて、最近天婦羅の味が落ちて来たと銀之助に告げるが、それを素直に聞こうとしない銀之助は、反省するどころか客を追い返してしまう。

そんな銀之助の様子を、心配げに見守る多佳子であった。

ある日、伯父の家を訪れた啓子は、主人の洋服から飲み屋の勘定書を発見し、それを未払いのまましているのが嫌なので、25000円用立ててくれないかと頼む。

結局、妻の方が出してやるのだが、調子に乗った良介まで自分の勘定書を出して来てみせたので、妻は怒ってしまい、又しても部屋に閉じ籠って一人で踊り始める。

その様子を観て、もめ事の原因を作った啓子はすまながるのだった。

ツヤ子は、前川との別れ話の事で、香取の会社を訪ねていたが、そんな時ひょっこり現れたのが、小遣いをせびりに来た則子だった。

則子は、父親の傍で泣いていたツヤ子を目撃し、二人の仲を怪んで、帰宅するとすぐさま、食器類等をもらいに来ていた啓子と母親に告げ口してしまう。

しかし、それを聞いても怒るどころか、仕方ないと答える母の姿に又しても怒りをつのらせる則子だった。

そんなある日、「蜂の巣」のママが、ツヤ子を訪ねて来る。

そして、女の29〜30頃は重要な年なんだからと、ツヤ子に男との巧い別れのテクニックを伝授していた。

そんな所にやって来たのが、以前、ツヤ子と熱海までドライブした所を前川に目撃されていた隣に住む大学生吉田(津川雅彦)、何かツヤ子に話したそうだったが、客がいるのでそそくさと帰ってしまうが、その様子を観ていたママは、あれはかなりあんたに脈があるとからかう。

その夜、帰宅して来た今村は不機嫌だった。

妻の啓子が、自分に知らせずに勝手に飲み屋の勘定を払った事を知り、出過ぎた事をするなと言うのだ。

しかし、啓子も負けてない。

自分も、あなたに頼まれて、続けたかった仕事を辞めてしまったのだと言い返し、口げんかの果てに、今村は啓子の頬を叩いてしまう。

これに怒った啓子は家を飛び出し、実家に戻ってしまう。

それを迎えた母親は戸惑うし、則子はすぐさま別れろとけしかける。

そんな中、迎えに来た今村に、今日の所はひとまず帰りなさいとアドバイスする香取だった。

しかし、翌日以降も、何となくギクシャクした二人の仲は、なかなか巧いタイミングを得られなかった。

面白くない今村は「天銀」で飲んだくれていた。

そんな今村を帰した銀之助は、先ほどから奥で飲んでいた多佳子の父親と、後からやって来た多佳子の母親から声をかけられる。

そして、多佳子をもらってくれまいかと頼まれるが、銀之助は、まだ気持ちが乗らない様子。

そんな会話を側で聞かされる形となった当の多佳子はいたたまれなくなって、父親の言葉を止めさせようとするのだった。

前川社長も、今村と啓子の仲がギクシャクしている事を聞いてか、今村と啓子を別々に呼出すと、各々に何かとアドバイスを与えるのだが、どうしても二人には仲直りのきっかけが生まれなかった。

そんな中、珍しく飲みに誘われた同僚のマリ(桑野みゆき)は、泥酔した今村を送って、啓子の元へ送り届けると、両者の手を無理矢理繋がせ、和解の握手を強要するのだった。

結局、それがきっかけとなり、二人はまたもとの鞘に戻るのだが、久々に甘い雰囲気に浸ろうとした啓子に、実家にいた則子から電話が入り、父親が倒れて入院したとの連絡を受取るのだった。

病院では、前川とツヤ子が、手術中の香取を外で待っていた。

何でも、ツヤ子の家に前川との別れ話を代理で出向いていた香取が、その場で急に盲腸に苦しみだしたのだと言う。

間もなく、手術が終わり、病室に別れの挨拶に来たツヤ子だったが、ちょうどそこに見舞いに訪れた前川の妻が、病室内にいたツヤ子と前川が会話を交わしている姿を観てしまう。

その後、姉夫婦と共に病院にやって来た則子も、帰る途中のツヤ子とすれ違い、以前、父親の会社で泣いていた女性だと気づいてしまう。

その夜、帰宅した前川は、妻からの鋭い追求にひたすら謝り続けていた。

そんな父親の姿をいぶかった息子がからかうように話し掛けても、前川は余計に機嫌を悪くするだけだった。

後日、ツヤ子のアパートでは、彼女の引っ越しの手伝いを隣の吉田がやっていた。

部屋では、見送りに来た「蜂の巣」のママが、前川の妻からも餞別を預かって来たと金を渡していた。

すでに、前川本人からも餞別を受取っていたツヤ子は戸惑うが、ママは今後頼りになるのは金だけだから、遠慮なくもらっておきなさいと教えるのだった。

故郷の四国へ帰る彼女の手伝いをする大学生や、今のツヤ子の謙虚な姿勢を観ていたママは、彼女が何故男性に好かれるのか分かったような気がした。

やがて、退院した香取の快気祝が自宅で開かれ、良介夫妻と啓子夫婦も招かれていたが、前川だけは、自分の面目なさに参加を遠慮し、寿司を差し入れしただけだった。

そんな目出たい祝いの席に、何故か、則子の姿もない。

二階で一人すねているのだ。

それを迎えに上がった良介夫婦は、あれこれ本当の夫婦と言うものの機微を教えてやろうとするが、則子の不機嫌は直らない。

それでも、無理矢理下に連れて来られた則子だったが、やっぱり、妻がいながら外で他の女とも遊んでいる父親や、それに反抗すらしない母親を大嫌いだと叫んで、又、二階に駆け上がってしまう。

そんあ則子の姿を観た香取は、娘も、あんな事を言う年頃になったかと感慨深気に、得意の歌を披露しはじめ、妻もそれに唱和するのだった。

いつしか、酒を頑に遠慮していた今村に、啓子が自ら進んでお酌をし始めていた。

そんな愉快そうな下の様子を聞き、ぼんやり階段に腰掛けている則子。

後日、良介の妻の踊り「娘道乗寺」の発表会。

そこには、仲睦まじい今村夫婦、前川夫妻、そして、銀之助と多加子の姿も揃っていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

結婚前後の一組の男女の家族と、それを取り巻く友人たちの、微妙な心理劇を正月映画らしく穏やかに描いたドラマ。

部分部分を取り出すと、何と言う事のないありふれたドラマのように思えるが、それを多重的に組み合わされると、それなりに面白くなるから不思議。

特に、思春期真っ盛りで、大人のやる事成す事気に入らない妹と、同じ気持ちで結婚したものの、徐々に大人の付き合いと言うものが理解できるようになって行く姉の対比が面白い。

まだかわいらしい岩下志麻と鰐淵晴子を観ているだけでも嬉しくなる。

一方、大人としての分別はあっても、なかなか若い愛人と別れられない、情けない男を演じている伊藤雄之助や、中村是好が演じている、いかにも下町のおとっつぁんも面白い。

まだ、新人青年というイメージの竹脇無我や津川雅彦の初々しい姿も魅力的だし、かたや、何ともいいようのない色っぽさを持つ嵯峨三智子や高千穂ひづるの魅力等、登場する一人一人の人柄が魅力的に丁寧に描かれており、嫌みや嘘臭さがない所が良い。

ちょっとつかみ所のない青年役を演じている宗方勝巳は、久々に観た感じがするが、この頃は好青年である事を再認識した。

最後の、岡田茉莉子の踊りの舞台は、正月映画としてのサービス演出なのだろう。