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呪いの笛

1958年、松竹、安田重夫+本山大生脚本、酒井辰雄監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

江戸時代、とある長家の近所で、子供達が遊んでいる。

彼らは、二人の子供を追い掛け「按摩の子」「高利貸しの子」「め○らの子」とはやし立てている。

そこへ出て来たのが、当のいじめられている兄弟、長五郎(石河通春)、長吉(松井秀吉)の父親で按摩の房市(喜多村録郎)だった。

いじめっこ達は、クモの子を散らすように逃げて行く。

そんな所にやって来たのが、房市の弟、徳蔵(大矢市次郎)だった。

高利貸しをやっている房市は、金なら貸せないと最初から牽制するが、徳蔵は、二人の甥っこに会いに来ただけだと言う。

その房市、山上という旗本の家に、借金の取り立てに出かける所だったが、ちょうど、長家に帰って来た駕篭屋の二人に、乗って行かないかと声をかけられるが、ケチな房市が乗るはずもない。

その頃、山上十兵衛(伊志井寛)は、玄関口にやって来ていた何人もの借金取りを追い払っていた。

二人の幼子を育てていた妻の茂乃(市川春代)は、蒸かし芋を食べるように、亭主にすすめるが、貧しさに甘んじているとは言えプライドが高い十兵衛がそんなものを食べるはずもなく、蹴散らしてふて寝してしまう。

少しは働いて下さいと願う妻の言葉には耳も貸さず、こうなったら、いっその事、辻斬りでもしようかなどと悪い冗談を言う始末。

そこへやって来たのが、房市だった。

彼は、入口付近で追い返された他の借金取りから、今日は無理だと聞かされていたが、そんな言葉で引き下がるような男ではなかった。

ずけずけと、十兵衛の前にしゃしゃり出ると、十兵衛の近い内に返すと言う決まり文句に、自分は道楽で金を貸しているのではないのでと、引き下がろうとしない。

さらに、町人が武士に金を貸すのは本来御法度なのだがと言い出す。

それを聞いた十兵衛は、訴え出るつもりかと気色ばむが、房市慌てず、訴えても自分には何の得にもならないが、山上家は罰せられ断絶するのではないかと、嫌な事を言い出す。

これには、さすがの十兵衛も腹に据えかね、とうとう、刀を抜いて斬り掛かろうとする。

それを観た茂乃は、必死で夫の暴挙を止めようとするが、興奮した十兵衛は、そのまま、房市を袈裟がけに斬ってしまう。

自分には、二人の子供が入るので…と、命乞いする房市だったが、もはや、十兵衛の刀を止める事は出来ず、とどめを刺されて裏庭に倒れ伏してしまう。

十兵衛は、下男の弥吉を呼ぶと、葛籠を用意させ、死体の後始末を命ずる。

夜、十兵衛と共に座敷にいた茂乃は、裏庭の房市が倒れていた付近で火が燃えているのを目撃する。

そんな所へ弥吉が戻って来て、葛籠は人目に付かぬ所に捨てて来たと報告する。

しかし、その葛籠は、駕篭屋の二人に拾われて長家に持ち込まれていた。

二人は、宝物でも拾った気分で、酒屋のお梅に酒を届けさせていた。
お梅は、拾い物をしたのなら、番所に届けなければと不粋な事を言うが、それを押しとどめて、一緒に祝おうと誘われる。

その頃、十兵衛は、肩が詰まるのでと言って、茂乃に肩を揉ませようとするが、その痛みは急激にただならぬものになる。

そして、房市の声で「右の肩から胸元に斬られた痛みは、そんなものではない…」と聞こえ、振り返ると、妻房市の顔が浮かんでいるのを観た十兵衛は、逆上して、刀を振り上げるが、その刃に切り裂かれたのは、背後にいた茂乃であった。

さらに、房市の幻覚に苦しめられる十兵衛は、そのまま刀を振り回しながら裏庭に歩みでたかと思うと、古井戸の落ちてしまうのだった。

一方、長家で浮かれていた駕篭屋二人とお梅は、ようやく、葛籠を開けてみようと言う事になり、蓋を開くが、中に入っていたのは、房市の死体だった。

その房市のこの世に残す未練は二人の息子の事だった。

やがて十五年の歳月が過ぎ、立派に成人した二人は、各々真面目に働くようになる。

死んだ茂乃の未練も、残された娘二人の事だったが、こちらも各々働いていた…。

山上志奈(高峰三枝子)は、清元流の踊りの師匠となって、近在の娘たちの人気を勝ち得ていた。

そんなお志奈の稽古場に、いきなり巨漢の娘がやって来て「自分に藤娘を教えてくれ」と御国訛りで訴えて来る。

そんな所にやって来たのが、岡っ引の金太(青山宏)と子分達。

ここへは何度も足を運んでいるようだが、大黒屋(永田光男)がお志奈に惚れているので、その橋渡しを頼まれているらしいのだ。

男嫌いで通っているお志奈は相手にしないが、何度も面子を潰されている金太は、この近辺の他の踊りの師匠たちから、人気を一人占めにしているあんたに対し、あれこれ文句を言われているのを押しとどめているのは誰のお陰だと思っているんだと、押し付けがましく言って来る。

そんな所にやって来たのが、先ほど入門を許されたばかりの巨漢お春だった。

彼女にあっては、さしもの岡っ引や子分達もかなうはずがなく、あえなく追い帰されてしまうのだった。

ある日、お志奈は、妹で、山形屋に住み込んで働いていたお文(山鳩くるみ)が風邪で寝込んでしまったと聞き早速見舞いに出かける。

お志奈は、廊下ですれ違った長五郎(名和宏)の事を、お文が惚れている事を承知していたので、あの人ならお婿に申し分ないと、病床の妹に太鼓判を押していた。

しかし、その時急に、表から、按摩の笛の音が聞こえて来て、それを聞いたお文は急に怯え出す。

姉のお志奈の方も、同じような表情になる。

そんな二人は、自分達の部屋に突然入って来た按摩に驚かされるが、その按摩は、店で呼んだ者が部屋を間違えただけだった。

一方、長五郎は、若旦那(北原隆)が悪所から帰って来た所に出くわす。

若旦那は、店から勝手に50両を持ち出していた事も承知していた。

それを注意された若旦那だったが、逆に、自分とお文との間を取り持ってくれと、長五郎に切り出す。

自分も、お文と所帯を持つつもりだった長五郎は返事をためらうが、二人の仲を承知している若旦那は、わざと、三日後の両国の川開きの日にまで返事をもらって来いと無理を押し付けるのだった。

いよいよ、川開きの日、船頭になっていた弟の長吉は、叔父の徳蔵から、悪所通いを止めるように注意されていた。

そんな長吉、花火が上がっているのに、屋形船の障子を締切った客をいぶかしく思いながら、船を走らせはじめるが、中に乗っていたのは、大黒屋と、彼に騙されて乗せられてしまったお志奈だった。

大黒屋は、何とか思いを遂げようと、お志奈に言い寄るが、お志奈は頑として相手にしない。

業を煮やした大黒屋が、強引にお志奈を追い掛けはじめた騒ぎに気づいた長吉は、障子を開けて、大黒屋を引っ張り出すと、有無を言わさず川へ叩き込んでしまう。

とある茶屋の中二階にお文を呼出した長五郎は、若旦那の意向を伝えるが、お文は長五郎が好きだと言い出すし、長五郎の方も当然ながら同じ気持ちだった。

互いに告白しあった二人は、互いに抱きしめあうが、その時、縁台に腰をかけていたお文は、その縁台がいきなり崩れ落ちたので一緒に下に落下し、竹の垣根に串刺しになって息絶えてしまう。

驚いたのは、下で様子を伺っていた若旦那、中二階に登って来ると、動揺した長五郎を人殺し呼ばわりし始める。

弁解も出来ず、その場を逃げ出した長五郎だったが、ちょうど道を歩いていた按摩とぶつかってしまう。

岡っ引達が追って来るのから逃げていた長五郎は、たまたま道ばたに立っていた女の横の御簾の中に隠れて何とか逃げおおす事が出来た。

そのかばってくれた女は、うわばみのお六(鮎川十糸子)と言う、近所の嫌われものだった。

その後、弟の長吉は、徳蔵から、兄が殺人を犯して逃げてしまった事を聞かされていた。

後日、妹の墓参りを終えて帰る途中だったお志奈は、自分を付けていた金太たち岡っ引が、ちょうど来合わせた長吉を見つけ、長五郎の弟と言う事で言い掛かりを付けたあげく乱闘騒ぎになっているのを目撃する。

たまたま、お志奈のお供として付いて来ていたお春が、あの青年は、先日、大黒屋を川に突き落としてくれた人だと師匠から聞き、又してもその乱闘の中に入り込み、あっという間に、岡っ引達をはね除けて、長吉を救ってやるのだった。

かくして、お志奈の家に上がらせてもらった長吉だったが、庭先で行水しているお志奈の姿を観て欲情し、上がって来たお志奈に抱きつこうとする。

これには、さすがの姉さん気分だったお志奈も腹を立て、出て行けと突っぱねるが、とんだ心得違いをしてしまった。自分には兄がいるのだが、今は会えなくなってしまったので寂しさのあまり…と、言い訳をして帰りかけた長吉に哀れを感じたのか、呼び止めて、自分も妹を亡くしたばかりと身の上話を始める。

その時、にわかに雷鳴が轟いたかと思うと、無気味な按摩の笛の音が聞こえて来て、それにお志奈はおびえるのだった。

そのお志奈、仏壇を見つめている内に、そこに、自分の父親山上十兵衛が、長吉の父親であった房市を切り捨てる場面が浮かび出るのをまじまじと目撃して、全てを悟るのだった。

その直後、帰って来た一番弟子のお京(伊吹友木子)は、襖の向こうに見えた師匠の着物が引きずられて行く所と、長吉の腕がその襖を閉めるのを観て、二人の間に何が起こったか想像できてしまう。

その後、すかりネンゴロの仲になったお志奈と長吉は、事あるごとに芝居見物等に出かけるようになり、踊りの稽古の方は留守がちになる。

これでは、さすがの弟子たちも不満がたまり、神保町の文字春という師匠が良いらしいのでそこに移らないかと相談が纏まるが、ただ独り、お京だけは、ここに残ると言い出す。

そんな長吉の噂は、長五郎を匿っていたお六の耳にまで届いていた。

そんな弟を心配する長五郎が、様子を観に外ヘ行こうか迷っている最中、岡っ引達が乱入して来たので、長五郎は思わず外へ逃げ出す。

逃げる途中、お志奈の家に立ち寄った長五郎だったが、追われている身では声をかける暇さえない。

そんな事は知らない長吉は、最近すっかりお志奈に冷たくなっていた。

その日も、何も仕事をしないで、ジッと自分と家に閉じ籠っているお志奈をうるさがり、予定されているおさらいの会に行って来いと勧めるのだった。

仕方なく、おさらいの会に出向いたお志奈だったが、そこには、あの嫌な大黒屋と金太たちが来ていた。

独り留守番をしていた長吉の元にやって来たのは、お京だった。

彼女は、今日は、お別れを言いに来たのだと言う。

何でも、彼女は明日から芸者になると言うのだ。

さらに、今日は、好きなあなたに抱いてもらいたくて来たのだと大胆な事を言われた長吉は、そこまで思いつめたお京の気持ちを察し、抱いてやる事にする。

その頃、又しても、金太が大黒屋の手先として、手みやげ等渡そうとするので、迷惑がっていたお志奈は、舞台で演じられている三人の座頭踊りを観ている内に胸騒ぎがして、すぐさま帰る事にする。

帰る途中のお志奈は、偶然にも、岡っ引達から追われている長五郎の姿を目撃する。

帰宅したお志奈は、お京が来ているのを見て取ると、女の直感で何があったか察し、舟徳のおじさんに会って、呼んでいたから行っておいでと、長吉を外出させると、お京に長吉を取られた恨みをぶつける。

しかし、お京の方も開き直って、好きな人に抱かれて何が悪いのか、年上のあんたは数年後にはしわくちゃの婆さんになるのに、長吉との仲がこのまま長続きするとでも思っているのかと痛い所を突かれたお志奈は、ついカッとなって、お京の首に手をかけるだった。

徳蔵の元へ戻った長吉は、彼が自分等呼んだ覚えはないと聞かされ、お志奈の策略に引っ掛かった事を悟ると、すぐさまとって帰るが、師匠の家の入口で按摩とぶつかってしまう。

そこにお京がいなくなっている事に気づいた長吉は、お志奈に尋ねるが、お京ならそこにいると押入を示す。

恐る恐る押入を開けた長吉だったが、そこから転がり出て来たのは、お京の死体だった。

殺すつもりはなかったがついやってしまった。こうなったら自首して出ると言うお志奈を押しとどめ、一緒に逃げようと言い出した長吉。

お志奈は、仏壇に会った位牌を抱えて逃げ出そうとするが、その位牌に書かれた「山上十兵衛」の名前に気づいた長吉は、自分の父親を殺したのは、お志奈の父親だったのかと問いただして来る。

正直に、自分は人殺しの娘である事を認め、今でも按摩の笛の音におびえるのは、殺された霊が自分達をなぶっているのだろうと打ち明け、どうとでもしてくれと詫びるお志奈だったが、それを聞いた長吉は、仇の子供は憎くない、昔の事はきっぱり忘れろと言って、お志奈を慰めるのだった。

その後、舟徳の元へやって来た金太たちは、お志奈の家で、お京の死体が見つかったが、長吉とお志奈を匿っているのではないかと聞いて来る。

しかし、きっぱり否定し、疑うのなら、好きなように家探ししてくれと啖呵を切った徳蔵。

それならと、仕事場に入りかけた金太たちだったが、そこには、血の気の多い屈強の船頭たちが揃って仕事をしていたので、抵抗されては面倒と、渋々、引き上げる事にする。

実は、長吉とお志奈は、そこに匿われていた。

徳蔵は、舟源に行って、網をもってこいと長吉を出かけさせた徳蔵は、お志奈を奥に呼ぶと、本当に長吉に惚れているのなら、この際、きっぱり自首してくれと頼むのだった。

こんな状況でいつまでも逃げ切れるものでもない、二人とも不幸になるだけだと言うのだ。

それを聞いたお志奈は、自首するのは構わないが、せめて、もう一度だけ、長吉に会って行きたいと答えると、徳蔵は、それでは又未練が出てしまうからと、すぐにでも出て行くよう勧める。

ちょうどその時、網を持って帰って来た長吉は、隠れていた兄の長五郎と再会する。

そのまま、徳蔵の元に帰って来た長吉が兄を連れているのを観たお志奈は、妹の仇と知りきっと睨み付けて来る。

長五郎は、そんなお志奈を前に素直に手をつき、持っていたドスを差し出すと、これで、思う存分やってくれと詫びる。

そんな中、又どこからともなく笛の音が聞こえて来て、岡っ引達がなだれ込んで来る。

長五郎は、お志奈と長吉を船で逃すと、自分が盾となって、岡っ引達と立ち前割りを始める。

船で川を下るお志奈は、簪を抜いて、一緒に死のうと暴れ出す。

しかし、長吉は、それを押しとどめて、一緒に上方に逃げてほとぼりの冷めるのを待とうと説得するが、もう自分達の運命に因縁を感じ、自暴自棄になったお志奈は、自らの胸を簪で突いて、川に落ちてしまう。

追わてた長吉は、お志奈の姿を探すが、その時、川の中から手が伸びて船べりを掴むので、引っ張ってやると、それはお志奈ではなく、兄の長五郎だった。

その長五郎も戦いの末傷付いており、舟底に落ちていたお志奈の簪を見つけると、長吉がお志奈を殺めたと思い込んだのか、自分達の身につきまとう因縁の恐ろしさに怯えたように、弟の腕に抱かれながら息絶えるのだった。

兄弟を乗せた船は川を静かに下り、夜が開けかけている中、土手には、見知らぬ按摩が佇んでいた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

怪談と言うよりは、「親の因果が子に報ゆ」と言った古いタイプの因縁話を描いた作品。

クライマックスになると、浄瑠璃風の三味線の音が重なったりし、何か舞台劇を連想させる所から見ると、歌舞伎の古典か何かに原点がある話なのかも知れない。

お志奈、お文姉妹に不運が付きまとうのは、人殺しをした父親の因果のせいなのだろうが、殺された被害者側の子供達である長五郎と長吉の方にも不運が付きまとうのは、殺された房市にも、強欲な高利貸しという悪行があった為と言う事なのだろうか?

その房市や茂乃の死体のアップに、二人の未練を重ねるように時の経過を表現している手法は、ちょっと珍しく、一見、二人の過去を表現しているのかと錯覚してしまう。

何だか、混乱させられる表現である。

葛籠を拾って浮かれる駕篭屋二人の様子や、お春という関取のような大女の表現等はユーモラスであり、当時の怪談に、こうした笑いの要素は不可欠だったと言う事なのかも知れない。

今の感覚からすると、何となく釈然としない展開に思えるのだが、昔は、人気のあった定型劇のようなものだったのかも知れない。

まだ、ほっそりとした年増女を演じている高峰三枝子や、粋な二枚目風の名和宏などに注目したい。

ちなみに、冒頭に登場する房市役の喜多村録郎がセリフを言うシーン、口がさっぱり動いてないように見えるのだが、当人がかなり高齢に見える事から、最初からセリフはアフレコか何かでやるので、口を動かしていないのか、もともと口を動かさないようにしゃべる人だったのか、判然としなかった。

後日「怪談累が淵」を観て、この作品が、それのアレンジである事に気づいた。

元々の円朝の原作設定の、男兄弟と女姉妹を取り替えているのである。

このアレンジにより、原作にあった、殺された按摩が自らの遺児(娘)たちに不幸を呼びよせる不可解さを緩和しているのが分かる。

姉妹を仇の娘とした事で、きっちり、その仇の末裔にも祟っていると解釈でき、観るものにとって、より納得しやすいものになっている。