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黒の報告書

1963年、大映東京、佐賀潜「華やかな死体」原作、石松愛弘脚本、増村保造監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

深夜2時頃、富士山食品社長が自宅応接間で撲殺された現場に来ていた総武地検本部の検事、城戸(宇津井健)は、青銅の壺で後ろからやられている所から、顔見知りの反抗である可能性が強い事、灰皿には、ホープ、ケント、みどりの三種類にタバコの吸い殻が残っており、この内、ケントは被害者が吸っていたもの、みどりには口紅が付いており、同じ口紅が、被害者の唇にも付着していること、さらに、若い男の毛髪が発見された事等を、津田刑事(殿山泰司)たちから聞いていた。

犯行推定時刻は、今から4時間前の、午後10時過ぎ頃。

遺体の発見者は、午前1時頃に帰宅した被害者の長男で、舞台演出家の柿本冨美夫(仲村隆)、彼は、父親の後妻、みゆき(近藤美恵子)の事を、バーのマダム上がりだの、尻が軽い女等と、あからさまな嫌悪感を隠さずぶちまけるのだった。

彼の愛飲のタバコはピース、犯行推定時刻には、東京のバーで飲んでいたと言うアリバイがあった。

住み込みのばあやは耳が遠く、被害者の妻と息子は、二人とも昨日の昼頃出かけ、夕方6時頃の段階では灰皿がきれいだったと言う事くらいしか聞き出せなかった。

その後、帰宅して来た妻のみゆきは、3時頃出かけて、友人宅に寄っていたので遅くなったと言う。

彼女の愛飲のタバコは、チェスター・フィールド、凶器の壺からこぼれ出て、床に散らばっていた曼珠沙華の花は彼女が入れたものだと言う。

しかし、床に散らばっていたもう一種類の花、白菊に関しては、自分が留守にすると必ず来る秘書の片岡綾子(叶順子)が持って来たのだろうと憎々し気に言い放つ。

取りあえず、現場検証を終えた城戸は、遺体の解剖にも付き合う事にする。

翌日、本部に戻った城戸は、凶器の壺から13個の指紋が発見されたと報告を受けていた。

次席検事(里明凡太朗)は 、ここの所2つも無罪を取られているので、今回は何としてでも有罪に持って行きたい。この案件が解決したら、君には川向こうの東京へ転勤させるつもりだと、仕事を200件近くも抱えている城戸を励ましていた。

同僚で徹夜明けの草間検事(高松英郎)も、この事件は汚職など政治絡みの裁判と違い、単純な殺人事件なので、腕利きの弁護士は付かないから、裁判で有罪にできるだろうと慰めるのだった。

その後、河東警察署に出頭した片岡綾子と面会した城戸は、彼女は東京の会社を5時頃出て、被害者の社長宅には7時頃到着、経理部長の中野が来たので、8時頃帰ったと聞かされる。

アヤコのバッグから愛用の口紅を取り出させた城戸が、被害者の口にその口紅が付いていた事を指摘し、社長との愛人関係を突っ込むと、彼女は、亡くなった事を知った時、自殺を考えたくらい社長を愛していた。必ずこの仇は取るつもりだと、暗に社長の妻を疑っている事を臭わせるのだった。

被害者の元秘書で、今は深町商事の営業部になっている長人見十郎(神山繁)と、社長の妻のみゆきが以前から関係があったと言うのだった。

その後、壺に付着した指紋の内、4つは綾子のもの、8つは妻みゆきのものと判明、残り一つの男性の指紋が犯人のものと推定された。

その後呼出した、中野経理部長(潮万太郎)は、ホープを愛飲しており、事件当夜、8時頃、社長宅に行き、9時頃帰ったと証言する。

彼が言うには、被害者の柿本社長は、会社の金を勝手に他社に貸して利鞘を稼ぐ「浮貸し」をやっていたので、それを諌めに言ったのだが、今夜中に2300万取り戻すと社長は請け合っていたそうだ。

彼から提出してもらった指紋と毛髪は、現場にあったものと一致しなかった。

その中野部長が、事件当夜、社長宅の近くで人見を見かけたと言うので、須藤捜査係長(中條静夫)は、この事件は、情事ではなく、金が動機なのではないかと城戸に進言する。

さっそく、人見の指紋や毛髪を調べる為、証券会社のセールスマンを装った津田刑事は、人見の会社に赴き、パンフレットを見せる振りをして指紋を取り、人見が理髪店に入ると、同じく客を装い、床に落ちた彼の毛髪をこっそり持ち去るのだった。

こうして入手した指紋と毛髪は、現場にあったものと一致、さっそく城戸は、人見を呼出して取り調べを始める事にする。

人見は、事件当夜。8時に東京の会社を出、「ボータン」というバーの出かけ、ホステスのツーちゃんこと中里常子(弓恵子)に結婚の申込をしていたと証言する。

さっそく、その裏を取りに言った刑事たちは、売上伝票から彼女が言った当日の人見のアリバイ証言に嘘がある事を発見、人見もアリバイ工作をした事を認めたので、痴情で逮捕状を請求する事を城戸は決断、草間も同調するのだった。

しかし、逮捕して取り調べをはじめた人見は、弁護士が来るまで何もしゃべらないと、黙秘権を行使しはじめる。

仕方がないので、城戸たちは、他者の証言から、人見とみゆきの間に愛人関係があった事を立証して行こうとする。

まず、みゆきの差し金で、会社を首になったと言う片岡綾子は、自分の友人で深町商事に勤務する電話交換手から、人見とみゆきの関係を教えられたと証言するが、交換手の名前は、自分のように首にされると困るので言えないと言う。

人見とみゆきが逢い引きに利用していたと言う待屋「はやしや」の女将()は、確かに二人が、時々ここを利用していたと言う。

城戸は、みゆき本人にも直接、人見との関係を問いただすが、バーを売った金800万を、深町商事に預けて運用していただけの仕事上の付き合いに過ぎないと否定される。

息子の冨美夫は、父親は義母と離婚するつもりだったが、義母は2億と言われる父親の遺産目当てで、それに承知しなかっただけと証言。

町工場を経営している被害者の弟、柿本源太郎(上田吉二郎)も、自分がみゆきと兄の離婚届の証人になった事、みゆきが強引に離婚に応じず居直っていた事等を証言する。

そうした証言を収集していた最中、検事局に一人の男が訪ねて来る。

人見を弁護する事になったと言う山室(小沢栄太郎)であった。

その山室から、起訴したら供述調書を見せてくれと頼まれた城戸だったが、尋問から始めるので見せられないと拒否する。

それは、検事特権なのだが、そう言う事をする検事は、得てして立証に自信がない場合が多いと、山室は皮肉くる。

人見への接見は、15分しかもらえなかった山室は、人見と会うや否や、尋問の時、言って良い事と悪い事を、徹底的に教え込みはじめる。

その山室の事を、草間は、業界でも有名なえげつない弁護士だから注意しろと城戸に忠告するのだった。

人見とみゆきとの間の情事に関する裏付けが弱いと感じていた城戸は、その方面を固めようと決意していた。

しかし、その頃、「はやしや」の女将は、客として訪れた深町商事の社長(高村栄一)と山室から、店の増築の金を融通してもらえる話を持ちかけられていた。

一方、富士山食品の大株主になったみゆきは、山室と一緒に片岡綾子のアパートを訪れ、一千万慰謝料として渡すと申し出ていた。

山室は更に、柿本源太郎の町工場も訪れ、彼が兄から500万も借金していた事実を突き付け、今すぐ返済しないと工場を差し押さえると脅しにかかっていた。

その後、城戸は、人見を厳しく攻め立てるが、二十日間の拘留期限が今日にも切れる事を知っている人見は、頑として口を開こうとはしなかった。

通常、拘留されたものは三日から一週間くらいで落ちる事が多いのに、今回は異例だと次席検事は不安を口にし始める。

そんな手づまり状態の中、須藤捜査係長は、ひょっとしたら、被害者の柿本社長が2300万もの金を貸した相手と言うのは、人見の事ではないのかと発案する。

さっそく、深町商事の社長に確認に行った所、確かに人見が、柿本社長から時々金を預かっていたが、2300万もの金を預かったなら、預かり証を渡しているはずだが、自分は聞いていないと言う。

さっそく、社長宅を捜した城戸たちは、絵の額縁の裏側から、その預かり証を発見する。

それを決め手とし、拘留が切れる今日中に人見を強盗殺人で起訴したいと申し出た城戸に対し、次席検事も承認を与える。

やがて、開かれた初公判で、人見は基礎事実は全部デタラメと否定、山室弁護士も、みゆきとの付き合いはあくまでもビジネス上のものであり情事関係等ないし、調書も見せてもらえなかったので、今の被告の言葉を信じるしかないとしらを切る。

証人席に立った息子、冨美夫は、義母みゆきと人見は浮気をしており、父から離婚を持ちかけられても短刀を振り回してあばれまわったと言う。

城戸検事は、鑑定書類一切の提出を申し出、現場で入手した写真や証拠の数々を判事に克明に説明する。

裁判を担当する江崎判事(大山健二)は、証拠を重んじる事で有名だったからだ。

その日、検事局に戻った城戸に、次席検事は、東京から来てくれと言われていると、城戸を喜ばせる。
草間も、検事経験3年で東京勤務とはついていると羨む。

ところが、順調に進んでいたはずの公判が、片岡綾子が証人席に立った瞬間からおかしくなる。

柿本社長との関係を問いただすと、自分は暴力で犯されたのであり、愛情関係等なく、人見とみゆきとの関係も全く知らないと、証言をひっくり返してしまったのだ。

将来、店でも持つようにと、社長から1000万円もらい、それは朝日銀行銀座支店に預金したとも。

次に証言台に立ったみゆきも、夫との離婚の話等、酒の席での冗談でしかなく、事件当夜は、歌舞伎座の帰りに「はやしや」で10時半頃、人見と深町社長同席で会っていたと、全く新しい証言をし始める。

次に証人席についた「はやしや」の女将も、当夜、11時頃、自分が入浴中、裸で飛び込んで来た人見と出会ったなどととんでもない事を言い出す始末。

柿本源太郎さえも、兄は後妻と離婚するつもり等なく、それは、単に、愛人だった綾子を騙す方便だったに過ぎなかったと言うではないか。

それらの新証言に唖然とした城戸だったが、取りあえず、供述調書を提出する事にする。

しかし、検事局に戻って来た城戸に、次席検事は不安げな顔を見せる。

草間まで、犯行動機は金ではなかったのではないかと疑問を口にし出す。

須藤捜査係長らは、新証言の裏取りに走るが、綾子が銀行預金した事実等、全て証言通りだった事が分かる。

次の公判で証言台に立った人見は、被害者から2300万円等受け取っていないのだと言い出す。

一応、預かると言う話で、受取証は用意して行ったが、急な都合で2、3日待ってくれと柿本社長に言われたので、実際には受け取っていないのだと。

凶器の壺に付着していた指紋も、昔、交通事故で死んだ父親の遺体の首の所に曼珠沙華の花が絡まっていたのを思い出し、事件の前日につい触ったものだと言う。

綾子も又、その証言を裏づけ、白菊を壺にさしたのは事件の前の日で、その花は上野の駅前で買ったと言うではないか。

その後、証人として呼ばれた花屋も、売上伝票があると言って、綾子の証言を裏付ける。

かくして、最終弁論の為立ち上がった山室弁護士は、とうとうと今回の事件が不確かな証拠に基づく想像で語られただけのミステリーに過ぎないと言い切る。

壺に付着した被告人の指紋が一個だけと言うのも不自然だと加える。

公判の部屋を出た城戸は、その場にいた片岡綾子に、何故偽証をするのかと追求するが、綾子は、本当の事を言ってもらいたければ自分と結婚してくれ、女は金がなければ生きていけないのだと開き直るだけだった。

そこへ現れた山室は、所詮、裁判はゲームやスポーツに過ぎなく、テクニックが上のものが勝つだけと嘯いてみせる。

検事局に戻った城戸に、次席検事はまだ君は若かったと皮肉り、草間は相手が悪過ぎたと慰めるが、結局、人見の自白が取れなかったが致命的だったと反省するのだった。

その日、木戸と飲んだ津田刑事は、自分達の働きが悪かったと詫びるが、城戸はひたすら、判事を信じるだけだと言い切る。

しかし、その判事による評決は無罪だった。

城戸は、次席検事に控訴してくれと申し出るが、証拠がない以上無理だ、せめて新しい目撃者でもでないと…と、断わられる。

あきらめきれない城戸は、新しい証言を取ろうと、新しい稽古場を作った冨美夫に会いに行くが、もう相手にしてもらえない。

しかし、あきらめて帰り際、その新しい稽古場の資金を母親を脅して受取ったらしいと、仲間の声を聞いた城戸は、後日冨美夫を呼出し、金の出所と、義母の情事の証拠を見つけたのだろうとカマをかけてみたが、相手は、冨美夫は父親からもらった金と言い張り、その後、証言を取りに行ったみゆきも、その金なら夫が渡したものだと口裏を合わせるのだった。

その頃、片岡綾子は、山室に1000万もらう約束だったが、実際には100万円しかもらっていないと文句を言っていたが、山室は平然と、訴えたければ訴えても良い。その代わり、君が偽証罪で逮捕されるだけだとあざ笑うのだった。

津山は、その間にも独自に調査を続けていたが、何せ一人では手が足りない。

控訴期限ぎりぎりとなった日、城戸は次席検事に一日休みをくれと申し出る。

次席検事は、今、自分がどのくらい仕事を抱えているか分かっているのかと皮肉るが、城戸は300と答えるだけだった。

それでも何とか休暇をもらい、津田と合流した城戸は、時間ギリギリまで目撃者捜しを続け、とある電器店に立ち寄る事になる。

そこの店主も、人見が犯人だと思い込んでいるようだったが、当夜見てはいないと言う。

しかし、裁判で無罪となったと城戸から聞かされた妻は、夫に話すよう促す。

実は、この店も、人見の会社から借金をしている負い目もあって黙っていたらしいのだが、事件当夜の12時過ぎ、小学校の校庭の蛇口の所で、服を洗っていた所を見かけたのだと言う。

その新証言に勢いを得た城戸は、すぐに次席検事の所へ戻り、後一時間で控訴期限が切れるので、早く手続きをして欲しいと申し出るが、次席検事は、すでに東京の方から、控訴はしない旨伝えて来たと冷たく言われてしまう。

裁判とはそんなものなのか?再審をやってくれと息巻く城戸だったが、再審は被告に有利な場合だけと答えた次席検事は、城戸に対し、今回の君の仕事には手抜かりがあったので、東京行きはダメだ、青森に行ってもらう事になったと言い放つ。

後日、青森に左遷され、検事局を出かけた城戸の前に、片岡綾子が現れ、自分を偽証罪で逮捕してくれ、自分はバカだったと訴えて来るが、もう事件は終わった!帰れ!と城戸は怒りをぶちまけるのだった。

そんな荒れた城戸を見かねたのか、見送りに来ていた草間が、自分がその綾子を預かって事件を更に追求すると約束し、同じく見送りに来ていた津田も又、自分も諦めずに事件を追い続けるからと、車に乗り込んだ城戸に約束するのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

検事や弁護士経験を持つ作家佐賀潜の江戸川乱歩賞受賞作「華やかな死体」の映画化で、「黒の試走車」に続く「黒シリーズ」第二弾。

劇中で、山室弁護士が呟く「裁判とはゲームやスポーツのようなものだ」という言葉や、政治絡みの事件には腕利きの弁護士がつくが、刑事事件等はそうではないという現状など、さすがに、法曹界に精通した作家の作品だけあって、裁判の実状が浮き彫りにされるような内容になっている。

金で簡単に良心を売ってしまう庶民の弱さにもスポットを当てている。

全編に渡り、検事側の地味な証拠固めの行動が描かれているだけと言って良く、映画として派手さは全くないのだが、その畳み掛けるようなテンポの良さもあって、冒頭の現場鑑識の様子からラストまで、緊張感溢れる展開に釘付けになってしまう。

疑う事を知らない若き検事に扮した宇津井健は、その実直そうな人柄と役柄が見事にマッチしているし、途中で態度を豹変してみせる片岡綾子役の叶順子が印象的。

地味な存在ながら、中條静夫が出ているのにも驚かされた。