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黒の超特急

1964年、大映東京、梶山季之「夢の超特急」原作、白坂依志夫脚本、増村保造監督作品。

※この作品はミステリーですが、最後まで詳細にストーリーを明かしています。コメントはページ下です。

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岡山県にわせ駅に降り立った一人の男が、桔梗不動産の社長桔梗敬一(田宮二郎)を訪れて来る。

男の名は、中江(加東大介)、銀座にある東西開発と言う会社の社長らしい。

その中江が言うには、近くこの近辺に大きな工場誘致があると情報を掴んだので、手数料を坪100円出すので、その土地買収を手伝ってくれないかと言う。

そんな話は寝耳に水だった桔梗は、どこでそんな話を聞いたのかと、警戒しながらも興味を示すと、車を用意しているので、20分程度で到着する岡山までちょっと付き合ってくれと言う。

岡山の料亭で落ち着いた中江は、実は土地買収の話しは県民党の山野大作から聞いたと言う。

中江が示した地図には、細長い土地がその用地候補として塗りつぶされていた。

何でも、フォードと提携するとある自動車会社の工場なので、ベルトコンベアを使う関係で長い土地が必要なのだと言う。

しかし、桔梗は、中江が欲しがっている土地は20万坪にも及び、坪4000円としても、8億円必要になるはずだが…と探り顔で尋ねる。

すると中江は、自分には三大銀行の一つ、三星銀行がバックに付いているので心配いらないのだと答える。

自分はこの辺の地主にとっては他所者だが、あんたなら信用があるので土地買収を一切任せたい、結果的に数百万の手数料が手に入るはずだと押して来る。

しかし、今一つ、話を危ぶんでいる桔梗の様子を見た中江は、あんたは今、金を欲しがっているはずだと断定し、興信所に調べさせたという、桔梗のこれまでの経歴を事細かに明かしてみせる。

桔梗がサラリーマンを辞めた後、立ち上げた事業が失敗し、今、細々と不動産屋をやっているが、今でも、大きな事業家への夢を捨てきれない心理を見抜かれていたのだ。

桔梗は、思いきって、中江と組んでみる事にする。

それから四ヶ月が過ぎ、周辺地主たちとの交渉をまとめあげた桔梗は、その地主たちを全員、支払いをかねて新幹線で東京へ招待する。

地主たちは、初めて乗る新幹線にすっかりお上りさん気分だったが、車内では、あの中江と言う人物は本当に信用できるのかと、心配する声が上がり出す。

興信所に調べさせた所では、中江と言う男、元は国鉄職員で、闇上がりの怪しい男と言う評判だと言う。

おまけに、東西開発と言う会社も、資本金600万程度の弱小企業で、そんな所に三星銀行が融資するのかとか散々である。

しかし、それを聞いていた桔梗は、あんたたちとは、もう三ヶ月も話しあって決めた事だし、信用できなければ、売らなければ良いと言い切る。

しかし、地主たちは内心喜んでいたのだった。

何せ、今のままでは、農地としてはほとんど収穫が見込めない痩せた土地だったからである。

東京に到着した桔梗は、地主連中を料亭に案内すると、グランドホテルで待っていた中江に会いに行く。

ホテルで出会った中江に、地主たちは、すでに決定したはずの坪7000円では不満で、8000円にならないかと不平が出始めていると伝えた桔梗に、もうびた一文出せないとぴしゃりと押さえた中江は、あんたが陰で煽っているのではないかと、疑いの目つきで問いかける。

これには桔梗もかちんと来たが、さすがに言い過ぎたと思ったのか、素直に中江は謝って来る。

そんな所にやって来た見知らぬ美人女性(藤由紀子)が、中江にこっそり茶色の封筒を渡して帰ると目撃した桔梗が、今のは誰かと尋ねると、中江は知人の奥さんだと答えるのみ。

その後、桔梗と共に料亭に出向いて、待機していた地主たちと対面した中江は、無事調印を済ませると、三星銀行発行の保証小切手で土地代を渡す。

そして、地主たちへのねぎらいのため、今夜から三日間、一流ホテルに滞在してもらって、東京見物を満喫してもらいたいとサービスする。

桔梗は、数千万に及ぶ手数料を中江から現金で受取った代わりに、地主たちの東京案内を仰せつかる。

取りあえず、これで、この買収劇は問題なく完了したはずだった…。

その後、さらなる一獲千金を狙い、大阪で、株に買収で得た大金を全て注ぎ込んだ桔梗は、投資した会社が爆発全焼すると言うアクシデントに見舞われ、株価は暴落、有金の大半を失い、すごすごと岡山に戻って来ていた。

その桔梗に金をせびりに来たのは、土地を売って大金を手にしたはずの地主の一人小林(春本富士夫)だった。

彼も又、持ちなれぬ大金をあっという間に湯水のように使ってしまい、今は借金生活に陥っていたのだった。

その小林が言うには、売った土地は、実は工場用地ではなく、大阪から福岡にのびる新幹線の新路線用の用地であり、中江は新幹線公団に、あの土地を、一坪四万五千円で売付け、膨大な利益を得たとどこかで聞いたらしい。

お前もそのグルなのだから、とんでもない金を持っているはずだ、少しこちらに廻してくれと言われた桔梗は、自分の耳を疑ってしまう。

自分が、中江に利用されただけだった事を知ったからだ。

さっそく、東京の中江の会社に出かけた桔梗は、買収劇の顛末は知った。結果的にあんたは19億儲け、地主に渡した14億を差引いても5億を手にしたはずだ。さらに、下関近辺でも同様の手口で3億儲けたはず。だから、自分に500万円融通してくれと切り出す。

もちろん、中江がそんな申し出を承知するはずもなく、新幹線工事の事等全く知らないと相手にしない。

むきになった桔梗は、必ずあんたが新幹線工事の情報を秘密裏に得た証拠を掴んでみせる。気が変わって金を払う気になったら連絡してくれと言って、自分が泊まる神田の錦と言う安宿を教えて立ち去る。

その桔梗、東西開発のビルを出たところで、何時か、グランドホテルで中江に封筒を渡していた美人とすれ違ったので、すぐさまタクシーでその後を尾行してみる事にする。

その女が戻った家には「田丸」という表札があった。

興信所の振りをして、何気なく近所でその家の内情を探った所では、病気で寝たきりの母親と、26才の女子大出で、現在新幹線公団の秘書をしている陽子という娘がいると言う。

すぐに、西日本新幹線公団に出向き、秘書の田丸陽子さんにお目にかかりたいと申し出た桔梗だったが、そんな人物はいないと否定されてしまう。

当惑した桔梗が、人事部の職員名簿で調査してもらうと、やっぱりそんな人物は今いないが、2年前に辞めたと言う事が分かる。

その事実を掴んで会社を出かかった桔梗は、一人の堂々とした人物とすれ違ったので、守衛に誰かと尋ねると、専務理事の財津政義(船越英二)だと言う。

安宿に戻った桔梗には来客が待っていた。

中江が、100万円持って来て、これで勘弁してくれと言う。

しかし、あれこれからくりのきっかけが見えて来た桔梗は、そんなはした金には目もくれず、5000万円持って来いと、中江を追い返すのだった。

翌日は、早朝から田丸の自宅で待ち受け、出社する陽子の後を尾行した桔梗は、彼女が赤坂にある「毛利マンション」という高級マンションに入って行くのを確認する。

さすがにマンションへの侵入は難しそうだったので、近所の寿司屋でそれとなく彼女の容貌を伝え動向を探ってみると、それなら長沼の奥さんで2号さんだと言う。

ちょうどその時、店の前を通りかかった陽子は、和服を着た別人のようになっていたが、肉屋に出向き高いステーキ肉を購入していた。聞けば、週2、3回、ステーキを買って行くと言う。

その夜まで、毛利マンションを張込んでいた桔梗は、何時しか新幹線公団ですれ違った財津孝義がそのマンションに入って行く姿を目撃する。

宿に帰ると、主人(上田吉二郎)から宿代の催促を受けるが、明日は必ず払うと答える桔梗は、自分の進んでいる方向に確かな手ごたえを感じていた。

翌日、堂々と、毛利マンションの長沼名義の部屋を訪れた桔梗は、中江から緊急の連絡を頼まれたと嘘を言い、陽子に中に入れてもらうと、彼女の暮らしのからくりを知っていると脅し、10万円を要求し、払えないのなら、自分と寝ろと脅すのだが、意外にも、陽子は、あっさり着物を脱ぎ、桔梗に身体を許してしまう。

彼女は寝たきりの母親の為、どうしても金は渡せなかったのだ。

そんな陽子の姿を見た桔梗は、自分と組んで金儲けをしてみないかと持ちかける。

その頃、桔梗の動きを警戒した中江は財津と会って、そろそろ陽子との仲を整理しろと持ちかけていたが、どっぷり陽子にはまっていた財津は返事をためらう。

後日、今度は陽子を呼出した中江は、彼女にマンションから出るように命ずるが、陽子は手切れ金として、もう1000万を要求して来る。

渋谷の喫茶店が2000万で売り出されているので、それを買いたいと言うのだ。

その後、桔梗が宿泊している安宿を訪ねて来た陽子は、密談の為だと桔梗が連れて行った連れ込みホテルで、中江たちから脅し取る金の半分を受取る事を条件に、自分の知っている事一切を話しはじめる。

それによると、中江と知り合ったのは、彼女が財津の秘書だった3年前からだと言う。

当時、寝たきり妻の看護に疲れていた財津は壺収集が唯一の趣味だったのだが、そこに目を付けた中江は、寝たきりの妻の父親が、県民党の大物、工藤公平(石黒達也)である事を利用し、同じ県民党の紹介状を持って近づいては、ことあるごとに珍しい壺を財津にプレゼントしていた。

一方、当時秘書だった陽子を、自分の妻が経営する「かつらぎ」という料亭に誘い出した中江は、興信所に調べさせた彼女の経歴を披露した上で、当時、月2万5000円の給料しかもらっていなかった彼女が、もっと大金を欲しがっているのではないかと問いかけて来る。

当時から、銀座にアクセサリー店を開きたいと、彼女が周囲に洩らしていた事も調べていたのだ。

中江は、財津を誘って、その2号に1年間くらいなってくれれば、毎月50万の手当てに1000万円出すと言う。

その話に乗った陽子は、2、3ヶ月かけて財津を誘っては、とうとうマンションを購入させる事に成功する。

実はそのマンションも、中江が用意していたものだった。

それから、陽子は、中江からの50万と、財津から月々もらう10万円で暮し始める。

やがて、中江は、その事をネタに、県民党の工藤と財津を同時に強請り始める。

まずは、財津から、新幹線の第二工事の予定地に付いて聞き出そうとする。

さらに、三星銀行の頭取とは盟友である工藤から、20億円三星銀行から貸してもらえるよう手を打ってくれと申し出て来た。

腹黒い工藤が、そんな要求をただで応じるはずもなく、成功報酬として得た金額の半分を要求してくる。

結果、中江が土地の買収で得た8億の半分が、工藤の懐に転げ込んだ事になる。

その話を聞いた桔梗は、中江だけではなく、財津や工藤からも金が脅し取れると感じ張り切り出し、何とか、脅しのネタになる証拠を作れと陽子に命ずる。

その言葉に従い、財津と出会った陽子は、中江から別れ話を切り出された事を打ち明けた上で、思い出の為に、自分とのツーショット写真を撮ってもらえないかと申し出る。

あっさり、それに従った財津だったが、その直後にマンションにやって来た中江にカメラを発見され、没収されてしまう。

中江はその場で、最初から騙す目的で近づかさせた陽子の正体をばらし、陽子は、今では本当に愛するようになったのだと弁解するが、幻滅した財津は、もう会わないと言い残して去ってしまう。

陽子は桔梗等知らないとしらを切っていたが、怪んだ中江は、安宿「錦」に向うと、主人に金を掴ませ、陽子がここに来た事を聞き出すのだった。

そんな事は知らない桔梗は、写真撮影が失敗したと報告した陽子に、今度は録音テープを仕掛けようと提案する。

後日、中江と財津を呼出した工藤は、陽子が生きていると、今後何かと自分達の身が危ないので、すぐに消すように中江に命ずる。

さすがに悪党の中江も、この依頼には尻込みするが、将来、大事業をやりたいのなら協力しろと、大物政治家から言われては断れなかった。

その後、中江に呼出された桔梗は一億円要求するが、中江は、明日夜6時に、赤坂の料亭に来てくれと誘い出す。

その頃陽子は、財津から、又会いたくなったから、赤坂のマンションに来てくれと言う呼び出しの電話を受けていた。

どうも罠臭いので行きたくないと桔梗に会って洩らした陽子に、桔梗は、テープを仕掛けるチャンスだから、思いきって行ってくれと勧める。さらに財津の飲む酒に睡眠薬を仕込み、二人で裸でベッドにいる所を写真の撮れとか、マンションのスペアキーをくれとか、作戦を教え込むのだった。

このままでは、お互いにうだつの揚がらない人生を過ごすだけだと言われた陽子は、結局、金を掴む為にマンションに出向く事にする。

翌日夜、7時になっても料亭に現れない中江に計られたと気づいた桔梗は、すぐさまその場を立とうとするが、女将がなかなかその場を離そうとしない。

結局、その女将を突き飛ばし、外へ出た桔梗だったが、待ち伏せていた三人の暴漢たちに袋叩きにされてしまう。

その頃、毛利マンションに先に着いていた陽子は、花瓶の中に録音テープを仕掛け、財津の到着を待ったが、現れたのは中江だった。

財津が、急遽、横浜のホテルの方で待っているというので、明らかにおかしいと気づいた陽子は部屋を動こうとしない。

その態度にしびれを切らした中江は、陽子の首に手をかけると、締め上げて殺害してしまう。

その音は、花瓶のテープに録音されていたが、犯行後の中江に発見されてしまい、テープごと持ち帰られてしまう。

陽子の死体を担いだ中江は裏階段から車に乗り込むと、死体を遺棄しに出かける。

その頃、路上で大怪我をして倒れ込んでいた桔梗は、何とかタクシーを止めると、毛利マンションの陽子の部屋に出向き、合鍵で入り込むが、室内がもぬけの殻になっているのに気づき、作戦が失敗した事を悟る。

翌日、寝ていた中江の元に桔梗から電話が入り、貴重なテープが手に入ったので、買いたいなら、8時に毛利マンションまで来いと言って来る。

すでにテープは自分が処分したので、安心して出かけた中江に待ち受けていた桔梗は、別のテープを差し出してみせる。

用心した陽子が、テープを二ケ所に隠しており、その一つが本棚の本カバーの中に残っていたと言うのだ。

そして、そのテープを再生してみると、ちゃんと陽子の断末魔の声が録音されているではないか。

逃げられないと悟った中江は、いくら欲しいと従順になるが、桔梗は2億寄越せと言った後、自分はもう、金等いらないと言い出す。

テープに吹き込まれた苦し気な陽子の声を聞いて考えが変わったんだと。

しかし、中江の方は、いくら陽子の声を再生されても平気な様子。
あげくの果てに、悪党にならなければ金儲け等出来ないと言い出す始末。

これには、さすがの桔梗も逆上し、とうとう中江の首を締め上げ始める。

中江の息の根を止めたか…に思えた桔梗だったが、陽子と同じ苦しみを教える為だったらしく、途中で力を緩めると、隣室で待機していた刑事を呼び込むのだった。

その後、中江が陽子の死体を沈めたと言う海に警察と一緒に同行し、引き上げた死体の身元確認をする桔梗は、金儲けがしたかっただけの自分が、彼女を死に追いやった事を心から後悔していた。

その後、検事から事情聴取を受ける事になった中江は、政界との裏取引の事を話せば、殺人の方は情状酌量の余地があると説得され、命惜しさに全てをさらけだしてしまう。

その政界汚職が暴かれた記事が載った新聞を、帰りの列車内で読んでいた桔梗は、隣に座った客が、すれ違う新幹線を誉めているのを聞き、不愉快になって、窓のカーテンを閉めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「黒の試走車」「黒の報告書」に次ぐ、「黒」シリーズの第三弾。

新幹線工事を巡る土地買収に巻き込まれた一人の男が、金欲しさのために、汚い人間関係の裏側を知ってしまう顛末が描かれている。

もちろん、夢の超特急と言われた新幹線東海道線が開業したばかりで、山陽新幹線は出来ていなかった時点での話だ。

いわゆる社会派ミステリーで、最初の「黒の試走車」と同じ原作の梶山季之は、当時の人気作家の一人だったが、二作目の原作者佐賀潜同様、人気絶頂の最中に亡くなった人だ。

物語としては、冒頭から中江の行動は怪し気で、誰もが土地買収自体が詐欺なのでは?と疑惑の目で見始めるが、それは一応、何の問題もなかった…と思わせておいて、その奥にとんでもない仕掛けがあったという展開になっている。

田宮が、金に執着する俗っぽい人間を演じているのが、ちょっと珍しいが、途中からは、この田宮扮する桔梗と、加東大介扮する中江との頭脳戦になっていく。

観客は、どちらが先を読んでいるのかとハラハラしながら展開を見守る事になる。

そうした二人の間で重要な位置を占めて来るのが、もう一人、金に執着する女、陽子の存在。

巨悪を暴いて大金を脅し取ろうとする桔梗、陽子コンビと、自分達の悪事を知られまいと結束する中江、財津、工藤グループの化かし合いの面白さ。

その中で、ただ愛情を信じようとしたお人好しを演じる船越英二の存在も貴重。

大阪の株屋として中條静夫もちらり登場している。

正直な所、加東大介が田宮のライバルにふさわしい狡猾な極悪人にはちょっと見えにくい点、陽子役の藤由紀子が少し印象が薄いといった些細な気になる点もないではないが、サスペンスフルでテンポの良いドラマに仕上がっている。


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