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怪談おとし穴

1968年、大映東京、舟橋和郎脚本、島耕二監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大東京の朝は、ベッドタウンからの集まる膨大な数のサラリーマンから始まる。

しかし、夜になるとビル街に人はいなくなり、今、夜警が見回っているこのビルも、できるまでに何十人もの犠牲者が出たとかで、夜な夜な不可思議な現象が起こっていた…。

深夜、誰もいないはずのビルの廊下に響き渡るタイプの音。

不思議に思い、文書課の部屋を明けて中を確かめた警備員だったが、もちろん中には誰もいない。

しかし、その警備員が立ち去った後、暗闇の文書課のとあるタイプライターの前の椅子に、一人の女の後ろ姿が浮き出る。

その女が振り返ると、この顔は、世の者とも思えない凄まじい形相であった…。

その翌日、日本貿易の業務部長、倉本(成田三樹夫)は、社内に幽霊が出ると言う噂を聞く。

部下からも直接耳打ちされたし、トイレに入っても、誰彼となく噂している。

バカバカしいとは思い聞き流して倉本だが、二つあるはずだと資料を捜しに行かせた部下が、どう捜しても、一つしかないと報告に来たので、倉本自らが資料室に行ってみる事にする。

資料室に入った倉本は、突如、棚の上から落ちて来た書類の怪異を観て、こういう事は前にもあったと思い出す。

それは、倉本が、まだ社長秘書をしていた半年前の事であった。

南米の企業との契約に成功した湯川社長(見明凡太郎)は、上機嫌で重役会議に望んでいた。

他の重役たちも、まさかこの契約が成功するとは思っていなかったようで、全員、社長の手腕を誉めたたえる。

その時、秘書の倉本に、社長令嬢のみどり(三条魔子)が来たとの電話が入ったので、社長に断わって、部屋を後にする。

倉本が部屋を退出した姿を確認して、湯川社長は、実は今回、ミスター・ハンコックから契約を取ったのは、倉本の手腕だったのだと、重役連に打ち明ける。

大学の夜間部しか出ていないやつだが、語学も堪能だし、かねてより使える男と思っていたとベタ誉めする。

その倉本、やって来たみどりから、ゴルフのコーチをねだられ、そのまま練習場へとお供をする。

そうした噂は、すぐに社内中に広がり、文書室の女子社員たちも社長令嬢と倉本の中を噂しあう。

その話を聞いて、そわそわしだしたのが西野悦子(渚まゆみ)だった。

ゴルフのお供から帰って来た倉本が、エレベーターに乗り込むと、悦子も乗って来て、キスを迫り出す。

実は、彼女がはじめて倉本からキスされたのも、このエレベーターの中だったのだ。

それから、二人は、恋人関係になっていた。

今日も倉本のアパートへ行っても良いかと甘えて来る悦子に対し、今日はお得意との会食があるのでと断わった倉本だったが、実際には、その夜、みどりと会っていた。

みどりは、倉本の生い立ちを知りたがっていた。

倉本は、貧しい生い立ちで、定時制高校から、大学の夜間部を卒業した後、外国人の家に住み込みでボーイとして働いた経験があるため、自然と語学力が身についただけと謙遜する。

その夜、帰宅した倉本は、部屋で待っていた悦子からせがまれ、いつものように抱く事になる。
そんな悦子は、倉本が今夜みどりと会っていた事を見抜いていた。

翌日、社長専用車に同乗して出社していた倉本は、湯川社長から、娘をもらってくれないかと持ちかけられる。

その話は、運転手経由で、たちまち社内を駆け回る事になる。

もちろん文書課の悦子の耳にも届き、悦子は絶望の崖っぷちに立たされてしまう。

すぐさま倉本を見つけ話し掛けた悦子だったが、人目をはばかる倉本は、彼女を屋上に連れて行く。

みどりとの結婚話を切り出された倉本は、社長命令のようなものだから仕方ない。
この話を受ければ、自分は重役、取りあえずは部長にはなれる。
貧乏だった昔の事を思うと、皆を見返したいのだと説明する。

しかし、そんな倉本の独りよがりな理屈は悦子には通らなかった。

実は、ミスター・ハンコックに契約を飲ませる為、倉本に懇願され、自ら身体を投げ与えたのは悦子だったのだ。

倉本を愛し抜いていたからこそ、そんな彼の無理を聞いたのに、今になって、自分が除け物にされる等、信じられなかったのだ。

しかし、自分との結婚を迫る悦子に、倉本は、みどりとの結婚は表向きだけ、あくまでも冠婚葬祭用の妻に過ぎない、お前こそが本当の妻なのだ、今後もドライに割切って付き合おうと、さらに手前勝手な言い分を押し付けて来る。

そんな倉本の酷薄な言葉を聞かされた悦子は、それなら、自分との仲の事を社長に言い付けて、結婚をぶち壊してやると息巻く。

これには、さすがの倉本も愕然とし、その場から、悦子を地上に突き落とす幻想までも見てしまう有り様。

しかし、翌日、社長室に出向いた倉本は、何事もなかったかのように、みどりとの縁談を慎んでお受けすると申し出る。

しかし、社長室を出た倉本を待っていたのは、悦子だった。

又しても、人目をはばかりながら、悦子を廊下の隅に連れて行った倉本は、妻の座をくれという悦子に対し、きっぱりやらないと突っぱねるのだった。

それでは、すぐそこに社長がいるのだから、自分達の事をばらすと言い張る悦子が気づかぬ内に、防火シャッターボタンを押した倉本。

そんな事は知らず、我を忘れ、振り向きざまいきなり社長室に向おうとした悦子は、半分降りかけたシャッターに気づかず体当たりして頭部をぶつけ、その場に失神してしまう。

医務室に運び込まれた悦子が、妊娠三ヶ月である事を倉本は知らされるが、人事のようにとぼけてみせる。

その後、社長宅に招かれ、みどりの手料理等振舞われた倉本は、社長から、今度君を業務部長に抜擢したいと伝えられる。

3000万円もする本物のルノアールの絵がさり気なく飾られたその暮らし振りに感心した倉本は、みどりから、結婚したら離れに住む事になるが良いかと聞かれても、快諾するだけであった。

しかし、その日帰宅すると、又しても悦子が待っていた。

シャッターにぶつかった脳しんとうの後遺症なのか、しきりに頭痛を訴える彼女から、みどりとの結婚をメチャクチャにしてやると脅された倉本は、やむなく、縁談を断わると嘘を言ってしまい、その言葉を裏付ける為に、その場から、社長に縁談を断わる電話をかけさせられるはめとなる。

悦子の目をごまかすため、電話をかける振りをする途中、ライターを落とし、それを悦子が拾ってやっている一瞬の隙に、電話のフックを押して切ってしまった倉本は、あたかも、電話に出た社長に縁談を断わるかのような独り芝居のセリフを言って聞かせて、悦子を安心させるのだった。

もはや、悦子を始末するしかないと決意した倉本は、翌日、残業すると言って、一人部屋に残ると、ビルの地下三階の図面を取り出して、死体の始末について考え始める。

貯水槽の文字を発見した倉本は、ここに沈めてしまえば安全だろうと、悦子を殺す妄想に耽るが、良く考えると、貯水槽で死体が腐敗したら、すぐさま蛇口に痕跡があらわれる恐れがある事に気づき、考えを改める。

次に、パイプシャフト基部の文字を図面で発見した倉本は、ここなら絶対安全だと確信する。

シャフト抗への扉を下調べした後、悦子に電話した倉本は、今、一人で会社にいるのだが、君との結婚について話し合いたいので、八時半に秘書室に来てくれないかと伝え、それを聞いた悦子は喜んで会社に忍び込んで来る。

いつものようにエレベーター内に誘った倉本、キスをしながらさり気なく最上階の9階を押すと、ポケットに忍ばせていたスカーフを取り出し、悦子が最上階へ向っているのに気づいた瞬間、その首を締め上げて絞殺する。

その時、地下3階から呼ぶボタンが押され、エレベーターが降り始めた事に気づいた倉本は、急いで6階のボタンを押して、その階に死体を引きずり下ろすと、ちょうど見回りに来た守衛から身を隠したりしながらも、計画通り、シャフト抗への扉を開けて、悦子の遺体を放り込む事に成功する。

その瞬間、思わず腕時計を見た倉本は、8時53分という時刻を確認する。

その後、無事、みどりとの結婚式を挙げた倉本は、義父となった湯川社長の発案通り、二週間を掛け世界旅行に出かける。

帰って来て、業務部長としての仕事をはじめた倉本は、文書課の西野悦子が蒸発したと言う報告を部下たちから聞かされ、さりげなく驚いてみせる。

そんな倉本に、面会人が来ていると言う電話が受け付け(渥美マリ)から入り、悦子の兄、文雄(船越英二)と会う事にする。

文雄は、医務室の医師から、悦子が妊娠していた事を聞いたらしく、深く付き合った男の存在を捜しているようだったが、倉本は、あくまでも無関係の上司を装おう。

その日、帰宅した倉本は、頭が痛いと言ってベッドに臥せっている妻の姿を見て不機嫌になる。
殺す前、しきりに頭痛を訴えていた悦子を連想したからである。

妻のみどりは、エレベーターが途中で泊まって閉じ込められる悪夢を見たと言うし、運転手の池上が会社に幽霊が出ると言っていると話すので、さらに倉本は嫌な気分になる。

その後、一人で残業していた倉本は、タバコを吸おうとつけたライターの火が自然に消えたり、どこからともなくタイプを打つ音が聞こえて来るのに気づく。

不審に思い、文書室の様子を見に行った倉本は、誰もいない部屋の中から「頭が痛い〜」とうなる無気味な女の声を聞くが、あくまでも錯角だと自分を納得させようとする。

ある日、再び会社へやって来た西野文雄から呼出された倉本は、悦子が付き合っていたらしいハンコックというブラジル在住の男から、悦子宛に手紙が届き、もうすぐ来日するらしいので、事情を聞くつもりだと言って帰った文雄を見て、まずい事になったと焦りはじめる。

その後も、倉本が残業していると、無言電話がかかって来たり、ひとりでにドアが開くので、廊下に出てみると、そこに悦子の亡霊が立っているではないか!

驚いて警備員たちを呼び寄せるが、もちろん、何もいるはずがなく、警備員たちは倉本の気のせいだと言う。

帰宅しても、近づいて来た妻の気配にまでおびえる倉本。

鏡台に座ったみどりの顔が、悦子に見えるのだ。

さすがに、最近の自分はノイローゼ気味だと感じた倉本は、パイプシャフトのの底にあるはずの死体を確認しに行こうと、夜中、車で会社に向うが、バックミラーに悦子の顔が浮かんだり、確認の為、後部座席を二度確認した所、そこに悦子が座っているのが見えたので、慌ててハンドルを切り損ね、事故を起こしてしまう。

前頭部を二針縫う怪我を追って入院した倉本は、見舞いに来たみどりの前で、何かにうなされているような「貴様!」と怒鳴る夫の声を聞く。

その後、退院した倉本が自宅でくつろいでいると、嵐のせいか、いきなり停電になってしまう。

ロウソクをつけ、入浴中のみどりにも渡して、居間に戻って来た倉本だったが、ガラス戸から見える雨が降りしきる庭先に、悦子がびしょ濡れで立っているのが見える。

さすがにおびえてうずくまる倉本に、風呂から上がって来たみどりもただならぬものを感じるのだった。

我慢の限界に来た倉本は、もう一度、悦子の死体を確認しようと、タクシーで会社に出かけ、守衛に断わって、一旦ビルの中に入ると、裏階段からの扉を開けておいて、用事がすんだように一旦ビルの外に出ると、裏階段を登って、警備員たちに気づかれないでビル内に侵入する。

地下3階のシャフト抗に入り込んだ倉本は、そこに死体がないのを見て一瞬驚くが、良く観察してみると、女物のハイヒールが一つ落ちている。

それで、梯子を少しづつ登ってみると、途中で引っ掛かった悦子の死体を発見する。

それをそこに蹴落とすと、悦子の死体の顔は、砂のように崩れ落ちる。

ようやく、悦子の死を確認して安心した倉本だったが、後日、倉本が休暇中だった先週の土曜日、西野悦子から電話があったと言う部下からの報告に驚く。

誰かの仕業に違いないと疑る倉本だったが、社長が読んでいるとの事でエレベーターに乗り込んだ倉本は、途中で停電してエレベーターに閉じ込められてしまう。

暗がりの中で、ライターを灯した倉本の目に飛び込んで来たのは、隅に立っている悦子の亡霊だった。

思わず「悦子!貴様〜!」と叫んだ倉本だったが、電気が灯ってみると、隅に立っていたのは、悦子の兄の文雄だった。

文雄は、今の言葉で、悦子を殺したのは倉本であると確信し、いきなり飛びかかって来る。

それに無我夢中で抵抗する倉本だったが、妹の仇を取ろうとする文雄の力は凄まじかった。

9階に降り立ち、そこでももみ合いを続けた倉本は、手に触れた金づちで、文雄の頭を殴りつけてしまう。

ようやく、立ち上がった倉本だったが、又しても、自分が手にした金づちを見て、犯罪を繰り返した事に愕然としてしまう。

その時、倉本の横のシャフト抗の扉が開いたかと思うと、倉本の身体は、暗い穴の中に吸い込まれるように落ちて行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

渋い脇役として有名だった成田三樹夫主演の現代怪談。

低音の若山弦蔵のナレーションから始まる。

ストーリー自体は、良くある、出世の為、男から裏切られた女の怨念話であるが、現代のビルを舞台にした所が目新しい所かも知れない。

この当時の成田は、何となく、ピーウィー・ハーマンに姿形が似ている。

怖いのは、悦子を演じている渚まゆみの熱演。

生きていて成田を脅す姿も怖いが、殺されて、目を見開いたその顔も更に怖い。

普通、この手の話では、男に踏みつけにされた女性の方に観客は同情心を持つのが普通だが、このヒロインのキャラクターだと、逆に、成田三樹夫の方に同情したくなって来るから不思議。

それほど、生前の悦子を演じる渚まゆみは、ストーカー風と言うか高圧的。

こんなタイプの女性に魅入られたら、どんな男でも、殺すしか他に解決方法はないだろうと思ってしまうほどだ。

男の観客にとっては、このストーリー、二重の意味で怖いのではないだろうか。

冒頭で、倉本が回想シーンに入る資料室でのエピソードが、全体の流れの中でどういう位置に来るのか、はたまた、倉本の頭で想像した幻想と現実のエピソードが錯綜していたりで、時間経過が良く分からなかったりもするが、その辺も、怪奇性を増す為の意図的な演出なのかも知れない。

警備員の一人は、大魔神を演じた橋本力、ちらり登場する受付嬢は渥美マリであるが、爽やかなOLにはぜんぜん見えない所がおかしい。