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硫黄島

1959年、菊村到原作、八住利雄脚本、宇野重吉監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

硫黄島の海岸線を走るジープの姿。

昭和26年、とある場末の飲み屋で、一人の酔いつぶれた男が椅子を蹴倒す。

それを気味悪そうに観ている女給(高田敏子)。

そこへ、「又、降ってきやがった」と飛び込んでカウンターに座ったのが、東亜新聞の社会部記者竹村(小高雄二)。

それと入れ違うように、酔った男はふらふらと立ち上がり、金を叩き付けるように置いて、竹村とぶつかったのにも気づかないように外へ出て行く。

女給は、出て行った男がテーブルに汚い帽子を忘れて行った事に気づき気味悪がるが、女将が釣りもあるので、持って行ってお上げと言うので、仕方なく雨の中を傘をさして追い掛けて行く。

女給は、雨に濡れながら帰っていた酔っ払いを見つけ、声をかける。

その後、どうした事か、女給と一緒に、その酔っ払いが、又、元の飲み屋に帰って来る。

そして、竹村の隣に座り込むと、あんたは新聞記者だそうだが、どこの社だとしつこく聞いて来る。

酔っ払いを面倒がった竹村が無視していると、女将が「東亜新聞」の名を教える。

すると、東亜なら、昨日、フィリピンの奥地に隠れていた元日本兵が帰って来た事を報じていた新聞だと納得したその男、自分の話を聞いてくれないかと切り出して来る。

しかし、そんな酔っぱらいの相手をするつもりがない竹村は、話があるなら素面の時に社の方に来てくれ、これではちっとも酒が旨くないと言い捨て、さっさと帰ってしまう。

ところが、その数日後、本当に、その男が素面の状態で東亜新聞にやって来る。

半分、呆れ気味で対座した竹村だったが、自分は硫黄島にいたと男が話しはじめると、身を乗りはじめる。

2万数千人の日本兵が玉砕した硫黄島の生き残りがいたと言うのは、記者として聞き捨てならない内容だったからだ。

戦時中、海軍上等水兵だった片桐(大坂志郎)というその男は、木谷と言う同僚と一緒に行動を共にしており、アメリカ軍が島を占拠した後も、三井兵曹長(芦田伸介)以下、数名の仲間たちと共に、トーチカ下の洞窟内で生き延びていたと言う。

そんな洞窟内にも、時々、生存者がいないかどうか確認する為、米軍が銃を撃ち込むようになって来たので、三井兵曹長は、木谷と片桐に、どこか安全な洞窟を探して来る事と水の補給を命令する。

恐る恐る外に這い出た二人は、取りあえず、側溝にたまった泥水を飲んで、水筒に入れる。

やがて、適当そうな洞窟を発見したので、近づいてみると、妙な匂いがする。

中に入って、マッチをすってみると、中には、無数の焼死体が散乱していた。

米軍が、隠れていた日本兵たちに火炎放射器を浴びせかけた痕だった。

その後、二人は、もうトーチカ下には戻らず、そのまま二人で、米軍の残した衣類や食料を盗んで生き延びていたと言う。

そこまでの話を聞いていた竹村は、投降しようとは思わなかったのか?と質問するが、そうすると殺されると思っていたと片桐は答える。

ある日、海岸で楽しそうにたき火を囲んで楽しんでいる米兵たちが立ち去った後、いつものように、匍匐前進して近づき、彼らが食い散らした食料等を漁っていた時、米兵に見つかって捕まってしまったのだと、片桐は続ける。

やがて、木谷と片桐はグアム島に送られたのだと言う。

話の場所は、何時の間にか、新聞社の応接室から、先日二人が出会った飲み屋に移っている。

片桐たちは、ジェイムズ・ヘンドリックスという米兵の尽力により、その後、日本に帰って来れたのだが、自分達から聞き出した硫黄島での話は、そのジェイムズと言う米兵は放送局に売ったと言う。

そんな片桐、実は自分は、戦時中、ずっと島で日記を付けており、それを島に埋めて来たままので、今度の26日、やはり、少し前に日本に来ていたジェイムズが又、協力してくれてアメリカ軍の許可をもらえたので取りに行くのだが、日記を掘り出したら、それを出版でもしたいので、そのいきさつを新聞に載せてくれないかと続ける。

そして、それを承知した竹村に会えて良かったと微笑む片桐だった。

ところが数日後、その記事を入稿したばかりの竹村に、片桐から電話が入り、軍用機の都合で、出発が伸びて、来月の6日になったと伝えて来る。

それを横で聞いていた先輩の牧山(小沢栄太郎)は、片桐の話そのものに疑問を口にする。

すでに、米軍の要塞化している硫黄島に、日本人を渡航させるなんておかしいと言うのだ。

しかし、竹村は取りあえず、整理部に連絡して、記事の訂正を送る事にする。

その記事が載った東亜新聞を、片桐は公園の片隅で読みながら満足そうだった。

その後、再び、竹村に会いに、新聞社にやって来た片桐は、実は、硫黄島行きはダメになるかも知れないので、そのお詫びに来たと言う。

行っても、もう帰って来れなくなるかも知れないとも。

すでに、片桐の態度に疑念を抱いていた竹村は、素っ気なく応対するが、帰り際、足を引きずっている片桐に、その足は硫黄島でやられたのかと尋ねてみる。

片桐は、違うと首を振るだけだった。

後日、硫黄島の擂鉢山の中腹で、片桐の死体が発見される。

米軍が、片桐の言っていた日記なるものを必死に探したが、結局見つかる事はなかった。

編集部にいた竹村は、二三日前に片桐から届いていた葉書を牧村に見せる。

それには、島に着いたら、一生懸命やってみたいという、遺書めいた文言が並んでいた。

その夜、竹村を連れてバーに出向いた牧山は、自殺を考えていた片桐は、記者である君に出会ったので、その決定を、自分が言った内容が新聞に載るか載らないかに賭けていたのではないかと推理を話す。

そうだとすると、片桐の死は、自分のせいではないのかと動揺する竹村。

しかし、牧村は、片桐はひどく混乱していただけだろうと慰めるのだった。

しかし、竹村の気持ちは晴れず、片桐の行動の手がかりを自分なりに掴んでみる事にすると言い出す。

休日を取った竹村が、最初に会いに行ったのは、硫黄島時代、片桐がいつも一緒だったと言う木谷である。

木谷は東京から電車で1時間程の場所で、小料理屋の板前になっていた。

出会った木谷(佐野浅夫)は、片桐の日記に付いては全く覚えがないと言う。

実は、半月ほど前に、その片桐が自分に会いに来たが、その時も島の思い出話ばかりで、硫黄島に行く等と言う話は全くしていなかったと言う。

木谷は、何だか、過去にばかり囚われくよくよしている片桐に、何か打ち込むものを探して、過去の事はきっぱり忘れろと助言したが、片桐は、お前は幸せだと泣いたのだそうだ。

しかし、自分も硫黄島では恐ろしい経験をしたと、木谷は島での思い出を語りはじめる。

自分と片桐は、生き抜く為に、日本兵の死体の乾パンや水を漁っていたのだと言う。

ある日、自分が離れている間に、一人で死体の水筒を取ろうとした片桐は、いきなり、その死体から手を捕まれたと怯えた事があったと言う。

気のせいだと、木谷は相手にしなかったが、あの兵隊はまだ生きていて、手を掴まれた恐怖で、自分が蹴飛ばしたせいで死んだのだと、自分を責め続けたとも。

そんな木谷、岡田一水の事を、木谷は話したか?と聞いて来る。

実は、一時期、他で生き残っていた岡田一水(山内明)と出会い、しばらく一緒に行動を共にしていた事があるのだと、竹村が知らなかったエピソードを語りはじめる。

その岡村が、三人が一緒に出かけていたある時、アメリカ軍が仕掛けていたピアノ線に足を引っ掛け、マグネシウムが燃え上がり、銃弾を受けた事があると言う。

自分と片桐は、夢中で洞窟内に逃げ込んだが、その夜、自分が寝ている間に、片桐が一人で出かけて、置き去りにして来た重傷の岡田を助けて戻って来たのだそうだ。

その時、片桐は、どうして自分は仲間を見殺しにしようと思ったのかと、自分を責めさいなんでいたとも。

片桐の死因は、自殺だと思うかと尋ねた竹村に対し、木谷はきっぱり否定の返事をする。

先日会った時、自分が励ましたので、帰り際の片桐は、さっぱり明るい顔になって帰って行ったからだと言う。

その取材を終えた竹村は、今度は、北砂町の平和荘という、片桐が住んでいたアパートを訪ねてみる。

応対に出た大家の妻(渡辺美佐子)は、実は、片桐の片足が不自由になったのは、自分の子供ヨシオ(中西一夫)の為なのだと打ち明ける。

ある日、買い物の帰りに、片桐と道でばったり出会い、その時、ちょうど、近くで遊んでいたヨシオに声をかけ、こちらに呼んだ時、たまたま近づいて来たトラックに轢かれそうになったヨシオをかばって、片桐自身が足を轢かれたのだと言う。

話に加わった大家(宮坂将嘉)も、片桐は息子の命の恩人であり、ヨシオも、その片桐が死んだと知った時、大泣きをしてやまなかったくらいだったそうだ。

その話を聞いた竹村は、片桐の生活力と善意に溢れた行為に感心すると共に、その裏側に、無意識に自殺を願う心の動きのようなものがあったのではないかと推測していた。

そんな大家夫婦に、片桐の女性関係に付いて尋ねた竹村に、妻は、森さんと言う看護婦をしている女性と付き合っていたと、あっさり打ち明けるのだった。

その妻から聞いた病院を探し当てた竹村は、受付で、森と言う看護婦がこちらにいるはずだがと聞くと、受付にいた看護婦(芦川いづみ)が自分の事だと答える。

彼女は、片桐正俊の死を全く知らなかったようだった。

近くの公園に向う道すがら話を聞いた所によると、彼女は、片桐の硫黄島行きも日記の事も知らない様子。

彼女と、片桐が知り合うきっかけを聞くと、片桐が、硫黄島で兄と一緒だったと言って、病院のいる自分を探し当てて来たのが最初だったと言う。

片桐は、これからは自分があなたの兄の代わりになりたいので、何でも相談してくれと優しく接して来たと言う。

それからは、彼女も身寄りのない独りぼっちだった事もあり、医書に映画を観たり、遊園地に出かけたり、ボートに乗りに行ったり、片桐のアパートへ遊びに言った事もあると言う。

今、自分達がいるこの公園にも良く来たと話す森看護婦は、そんな片桐は、自分はあなたの役に立っているかと聞いて来たり、時々、急に憂鬱そうになる様子も見せていたと続ける。

何だか、戦争の償いを自分一人でしなければいけないように自分自身を責めていたようにも見え、その分りにくい片桐の心理状態に、自分は惹かれて行ったように思うと、森看護婦は独白していた。

そんな森看護婦に対し、竹村は、ひょっとすると、片桐はあなたに振られたんで硫黄島へ行ったのではないかと推理を話すと、森看護婦はきっぱり「それは、逆です」と返事するのだった。

二ヶ月半くらい前にアパートへ行った時が、片桐との最後だったそうだが、その時、何となく、どこへも出かけず、部屋で話す事になったと言う。

森看護婦が、手作りのサンドイッチを持って来たと開くと、片桐は、あんたは家庭的な事が好きなんだと感心したように言うので、お嫁に行ったらすぐに役に立つと、暗に求婚めいた言葉を洩らしてしまった彼女は、お湯をもらって来るとやかんを持って立ち上がりかけた片桐と、自分が行く行かないで、ちょっともめて、そのはずみに何となく、相手に抱きついてしまったそうだ。

しかし、片桐は何も言わず、彼女の身体を離すと、そのままお湯をもらいに降りて行く。

その後、部屋で泣きくれた森看護婦は、何か、愛情の証拠のようなものが欲しかったのだと、竹村に打明ける。

その後、病院の方に電話して来た片桐は、僕たちはこれ以上交際してはいけない、結婚してはいけないんだと伝えて、そのまま切ってしまったらしい。

女の愛情を退けてまで、硫黄島に行かなければならなかったのか、竹村は訳が分からなかった。

その後、今度は、片桐が働いていた工場へ出向き、一番親しかった人間を探した竹村は、富田(山本勝)という青年と出会う。

彼が言うには、この工場に来る前、片桐は、他の仕事仲間の為に、あちこちに職工を廻し、中間搾取がひどかったそこの親方と喧嘩をしてくれたと話だす。

結局、親方は折れて、職工たち全員の給料は上がったが、片桐は首になったので、その心意気に感じた自分も一緒に、今の製作所に移って来たのだと言う。

その富田は、片桐から預かっている写真があると竹村に見せたが、そこにはセーラー服姿の森看護婦が映っており、何でも、岡田一等水兵という兵隊のポケットに入っていたものだと聞いていると言うではないか。

岡田の妹なら、妹の姓も岡田のはずだが…と、竹村は戸惑うが、そのまま話を聞く事にする。

ある日、片桐のアパートに遊びに行った竹村は、その写真を見つけてからかった富田に、写真を観ているだけで苦しい。自分は、その人の兄さんみたいなものになりたかったんだが…と、洩らしたのだと言う。

竹村は、片桐が感じていた、生きる空しさのようなものを少しづつ共感しはじめていた。

その後、新聞社に出社した竹村に来客があると言う。

応接室へ行ってみると、木谷が来ているではないか。

木谷は、先日の竹村の訪問以来、忘れていたはずの硫黄島の事ばかり思い出すようになり、夜も寝られなくなったと前置きして、実はこの前、話さなかった事があると、新しいエピソードを語りだす。

実は、自分は、硫黄島で、片桐を殺そうとした事があったと言うのだ。

片桐も又、自分を殺そうとしていたとも。

食料も何もない毎日を過ごしていると、二人より一人になった方が楽になる。

互いに同じ事を考えていたらしく、ある夜、横になって洞窟内で寝ていた自分が、寝ている相手の首を閉めようと起き上がると、相手も目覚めて、襲いかかって来たと言う。

結局、互いに未遂に終わったが、片桐は、自分のした事を恐れて、その場から泣きながら逃げ出してしまったほどだったと言う。

その後、例の居酒屋へ連れて来た竹村は、岡田一水の写真の事を尋ねてみるが、木谷はそれを知らなかったようで、岡田は嫌なやつだったとはき捨てるように続ける。

片桐が洞窟内に助けて戻り、看病をするようになってからは、、自分達が彼を置き去りにして来た恨み言ばかり言うようになったと言うのだ。

自分は、お前たちから、どんなに尽くされてもおかしくない立場にいるとも言い出し、片桐は、その通りだと言って、従順に、彼の面倒をその後も観続けたそうだ。

一人で、外に食料調達に出ていた自分が、こっそり持ち帰って来たわずかばかりの食料も、横柄に要求する岡田の言いなりになって、片桐は、自分の分まで岡田に与え続けたと言う。

岡田は何時死んだのかと竹村が尋ねると、木谷は知らないと冷たく返した。

ある日、いつものように食料調達から帰って来てみると、寝ていたはずの岡田が死んでいたのだそうだ。

片桐が絞め殺したに違いないと酔った木谷が断定するのを、竹村は証拠がないと諌めるが、岡田は、片桐がやらなくても、いつかは自分がやっていただろうと木谷は呟くのだった。

すっかり泥酔した木谷は、表に出ても荒れ続けた。

竹村のお陰で、忘れようとしていた島の事を思い出させたとと喚きだす。

自分は、何としてでも、忘れてしまいたい。

これからは、原爆、水爆の時代で、もう、自分達がやって来たような事はないだろう?とも、竹村に絡み、片桐のバカヤロ〜と木谷は叫ぶのだった。

竹村は、硫黄島に到着したであろう片桐を想像していた。

戦没者の墓に合掌する片桐。

その後、彼は、S・グッドマン(R・V・スティッカー)運転のジープに乗って、島の山腹に到着すると、独り黙々と山を登りはじめる。

下で待つグッドマンが、時間がないので戻って来いという言葉に耳も貸さず、そのまま、山頂まで登り切った片桐は、霧の中に望む海岸線を見渡す。

竹村は、その後、片桐は、自ら身を翻したのだろうと推理する。

会社で竹村の話を聞かされたらしい牧山は、片桐には良心があったので、いつまでも苦しんだのだろうと意見を述べる。

同僚(宇野重吉)も、街で傷痍軍人に金を恵んでいる人たちの複雑そうな顔を思い出してみろよと付け加える。

結局、その話を記事に書くのか?と聞く牧山に対し、もう少し時間が来てから…と帰宅する竹村だった。

いつもの居酒屋に来た竹村は、最初に、片桐と出会った晩、彼が酔いつぶれていたテーブルに、片桐の幻影を観ていた。

そんな竹村に、片桐が最後に送って寄越した葉書の文面が甦って来る。

力一杯やってみたいです。

生きるための力を甦らせる為に…。

竹村は、片桐が残したと言っていた心の日記を、今、読み通したような気がして、その夜は泥酔するのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

俳優の宇野重吉が監督をした珍しい作品。

大坂志郎演ずる、奇妙な男の行動を追う事によって、観客は、記者竹村と同じように、戦争体験を風化させてはいけないのではないかという問いかけを胸に刻み込まれる事になる。

硫黄島での無惨な戦いを描いた作品は、過去いくつかあるが、島で生き残っていた兵隊たちの後日談という形は始めて観た。

実際に、このような生存者があったのかどうかは知らないが、全滅と言っても、文字通り、一挙に日本軍が滅びた訳ではなく、しばらくは、生き延びていた兵隊たちもいてもおかしくはない。

映画としては、会話を中心とした取材シーンと回想シーンの繰り返しと行った感じで、やや単調なのだが、内容の重さで、ぐいぐい惹き付けられるものがある。

大きな瞳の大坂志郎の、何とも情けなさそうな表情が印象的。

今なら、どちらかと言うとテレビスペシャル向きの素材ではないかと感じるが、渡辺美佐子、芦川いづみ等、当時の日活女優たちを観る事ができるのは貴重。

ちなみに、映画のネットデータベースなどには、居酒屋「のんき」の女将役は轟夕起子と記してあるが、別の女優だと思う。