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犬神家の一族('76)

1976年、角川春樹事務所、横溝正史原作、長田紀生+浅田英一+岩下輝幸脚本、市川崑監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

犬神家屋敷の奥座敷では、今しも、頭首、犬神左兵衛(三国連太郎)が息を引取ろうとしていた。

居並んだ親族たちを代表して長女の松子(高峰三枝子)が「御遺言は?」と問いただすが、左兵衛は、客の後ろの方を指差すだけ。

その先には、顧問弁護士の古館(小沢栄太郎)が控えており、御遺言は自分が預かっているが、御血縁の方全部が揃わないと披露できない、それまでの雑務は、犬神奉公会が代行すると言い出す。

その直後、左兵衛は息を引取るのだった。

明治11年、地元の神社の神官に拾われた左兵衛は、明治19年に、犬神製薬を起こし、同38年増築、大正8年に中央政界に参加すると、昭和10年諏訪工場を建設、そして、昭和22年に他界という経歴だった。

そんな那須に着物に袴姿の貧相な青年が現れる。

たまたま道で出会ったモンペ姿の娘はる(坂口良子)は、那須ホテルの場所を尋ねたその青年を、多少気味悪がりながらも旅館まで案内してやる。

何せ、はるは、そこの旅館の従業員だったので。

宿帳にその青年が書いた名前は、金田一耕助とあった。

はるから部屋に案内された金田一は、外食券の代わりにと、持参した米をはるに渡し、腹ぺこなんでと食事の手配を頼む。

その後、古館弁護士事務所の若林(西尾啓)は、金田一から電話を受け、これから伺うと返事をする。

彼こそ、金田一をこの地に呼び寄せた依頼人だったからである。

一方、部屋から湖の向こうに見える大きな屋敷を眺めていた金田一は、はるから、あれが犬神家の屋敷だと教えられる。

さらに、ボートに乗っているのは、その犬神家に同居している珠世様(島田陽子)だとも。

すごい美人だと聞かされた金田一は、好奇心から、双眼鏡を取り出すと、珠世の乗っているボートを観ようとするが、そのボートが沈みだし、珠世が助けを呼んでいるのが見えるではないか。

金田一は、旅館をはだしのまま駆け出し現場に急ぐ。

一方、ボートハウスから異変を察知した猿蔵(寺田稔)は、すぐさま湖に飛び込み、珠世のボートに近づこうとしていた。

ボートに到達した猿蔵は、珠世を抱きかかえるが、そこへ到着したのが、金田一が漕いで来たボート。

そのボートに、珠世と猿蔵を乗せると、金田一は、沈みかけたボートを何とか岸に持帰れないかと猿蔵に相談する。

明らかに、船底に穴を開けた痕が残っていたからだ。

那須ホテルに戻って来た金田一は、主人(横溝正史)から、来客があると教えられる。

部屋に上がった金田一だったが、誰もいない。

そこに、はるの悲鳴が聞こえて来る。

声のした洗面所に駆け付けた金田一は、そこに血を吐いて死んでいた若林を見つける。

那須警察署に呼ばれて来た古館は、橘警察署長(加藤武)から、若林は毒を飲んでいたと聞かされる。

橘署長は探偵と称する金田一と名乗る男を怪んでいる様子だったが、自分が東京の同業者に電話で聞いた所、間違いない人物だと聞かされたと報告する古館。

その金田一と面会し、若林が金田一に当てた手紙を見せてもらった古館は、近い内、犬神家に何かが勃発するのではないかと心配する文言を読む事になる。

それに付いて、何か心当たりはないかと尋ねる金田一に対し、事務所の金庫で保管していた遺言状を読まれた気配があると、古館は答える。

そこにやって来た橘署長が、若宮の肺臓から毒物が発見されたと二人に教える。

犬神家の遺言状には、何か問題が起こりそうな内容が書かれているのかと問いかける金田一に対し、「非常に」に答えた古館は、警察署からの帰り道で、自分が若林に代わって新しい依頼人になりたいがと、申し出て来る。

宿賃等の支払いに困っていた金田一は、渡りに船で安堵の表情を浮かべる。

金田一は、犬神家の内情に付いて、更に詳しく古館から聞きはじめる。

犬神家の血縁者は9人、左兵衛は生涯、正妻と言うものを持たず、三人の娘たちは、皆、別々の母親との間に生まれた子だった。

長女の松子には、出征した佐清という長男がいるのだが、終戦後間もなく、連絡があっただけで、その後行方知れずだったが、先日、博多に戻って来たと言う連絡があったので、今、松子はそちらに向っていると言う。

次女、竹子(三条美紀)には、犬神製薬の東京支店長をやっている夫、寅之助(金田竜之介)との間に、佐武(地井武男)と妹の小夜子(川口 晶)がおり。

三女、梅子(草笛光子)には、犬神製薬神戸支店長をやっている夫、幸吉(小林昭二)との間に、佐智(川口恒)がいた。

その竹子や梅子の家族たちは、松子から那須の屋敷に呼出されて、すでに15日が経っているのだが、いまだにその松子本人が帰って来ていない事に苛立っていたが、その松子から電話が入り、今夜帰ると言う。

夜、電話での指示通り、竹子と梅子の二人だけが、表で松子の帰宅を待ち受けていると、タクシーが止まり、松子の後から、目の部分だけが開いた黒頭巾の無気味な男が出て来たので、竹子と梅子は恐怖で息を飲む。

松子が言うには、これが、戦地から帰って来た長男佐清(あおい輝彦)だと言うのだ。

翌朝、正装をした古館弁護士が、金田一の部屋にやって来る。

佐清が夕べ帰って来たので、血縁者が全て揃った事になり、これから屋敷に出向いて遺言状を発表するのだと言う。

屋敷に揃った血縁者たちの前で挨拶をした古館は、同伴して来た人物を探偵の金田一と紹介すると、確認の為、黒頭巾の佐清の顔を拝見させていただけないかと松子に申し出る。

これに対し、松子はいきり立つが、竹子や梅子も見せるよう要求して来たので、頭巾を取ってやるように、佐清に命じる。

まず、黒頭巾を取ると、その下には、白いゴムマスク姿の顔が現れた。

松子が言うには、佐清は、御国のために顔に怪我をしたので、生前の顔にそっくりなゴムマスクを作っていたので、帰宅が遅くなったのだそうだ。

そのゴムマスクも、めくってみせると、中から、無惨にも焼けただれたような素顔が見えて来る。

これには、思わず悲鳴を上げた小夜子を始め、一同全員が息を飲んでしまった。

庭では、猿蔵も、座敷内の様子を秘かに窺っていた。

いよいよ、遺言状の発表が始まる。

犬神家の全財産と象徴である三種の家宝、斧(よき)琴(こと)菊(きく)は、野々宮珠世が次の条件を満たした時、全てを相続するものとする。

その条件とは、珠世が、佐清(すけきよ)、佐武(すけたけ)、佐智(すけとも)の誰か一人と結婚する事。

珠世が、この三人との結婚を望まない場合、もしくは、この三人が死亡した場合は相続権を失う。

又、珠世自身が死亡、もしくは結婚を望まない場合は、全財産を五等分し、その5分の一づつを、三人の息子たちに配分し、残りの五分の二を青沼菊乃(大関優子)の一子、青沼静馬に与える。

青沼静馬が死亡、もしくは行方不明の場合、全財産は、犬神奉公会に全納されるものとする…。

これを聞き終わった一同は大騒ぎになる。

遺言状に一言も記載されていなかった松子、竹子、梅子ら三人の実子たちを始め、全く無視された小夜子などはショックのあまり、座敷を泣きながら飛び出して行く始末。

それでも、少し冷静さを取り戻した血縁者たちは、自分達の息子と珠世が結婚すれば、家族全員、全財産は思いのままだし、仮に五分の一になっても、5億4、5千万は受け取れるなどと、あれこれ取らぬ狸の皮算用を始めていた。

それでも、遺言状に書かれていた、工場の女工に生ませた青沼静馬というのは、生きていれば佐清と同じ年だと言う事も分かる。

犬神家から古館運転のジープで帰宅途中、同乗させてもらっていた金田一は、珠世が若林殺害犯人である可能性もあると指摘しはじめる。

これまで、珠世自身が何度も危ない目にあって来たのも、それをごまかす狂言芝居だった可能性もあると言うのだ。

あまりに大胆な推理に、古館も、そう言えば、若林は、秘かに珠世さんの事を思っていたふしがあると言い出す。

神社に着いた二人は、神官の大山(大滝秀治)から、出征する前、佐清が、武運長久を願って、自らの手形を押した絵馬を見せてもらう。

その場には、大山から連絡をもらったと言う、佐武と佐智も同席していた。

佐武は、この手形と、今屋敷にいるゴムマスクの男の手形を照合すれば、やつが本物か偽者か分かるはずだと言う。

そもそも大山本人も、この手形がここにあった事は忘れていたのだが、ある人から知らされて思い出したのだとも。

その頃、犬神家の屋敷内にある菊人形を飾った場所で、佐清と落ち合った珠世は、昔、あなたからもらった懐中時計が、戦争中壊れてしまったので、直してもらえないだろうかと渡していたが、ゴムマスクの佐清は、受取った時計を無言で返すだけだった。

そうした様子も、菊人形の背後から、こっそり猿蔵が監視していた。

その夜、湖の観音岬の近くにある柏屋という旅館の主人(三木のり平)は、顔をマフラーで隠した、見るからに怪し気な兵隊服姿の男が玄関を入って来るのを確認していた。

同時刻、犬神家の屋敷内では、神社から奉納手形を持って来た佐武、佐智を中心に、竹子、梅子の両家族たちが、佐清に手形を押すように迫っていた。

しかし、松子は、息子がまだ疑われていると知って激昂し、手形を押す必要等ないときっぱり拒否すると、そのまま佐清を連れて部屋を出て行ってしまう。

柏屋では、主人が、客の兵隊服の男に、宿帳を書くように頼んでいたが、兵隊姿の男は、お前が書いてくれと言う。

しかし、主人も字が書けないので困ってしまう。

女房(沼田カズ子)などは客の風体を怪しみ、宿賃は大丈夫だろうかと主人と相談していたが、そんな中、その男は夜の帳の中に外出して行くのだった。

翌朝、古館から緊急の電話を受けて、犬神家に駆け付けて来た金田一は、警官隊が大勢、屋敷内を固めている中に入って行く。

菊人形の場所に、連れて来られた金田一は、古館から教えられ、犬神家の人物に似せて作られている菊人形を観察しはじめるが、最後の人形の首が、本当の佐武の生首である事に気づき、固まってしまう。

グラリと傾いた生首は、地面に落ちてしまう。

発見者は、菊の手入れをしている猿蔵だと言う。

息子を殺害された竹子は、部屋で狂ったようにあばれまわっており、夫の寅之助や小夜子らが、必死にそれを押さえ付けていた。

松子は佐清に、応接間を警察がしばらく占拠する事になったと報告していた。

ある日、その応接間では、梅子が橘署長に、今日になっていきなり佐清が手形合わせに応じると言い出したのが怪しいと密告していた。

それを適当に相手していた橘署長の元に、佐武殺害現場が判明したと、井上刑事(辻萬長)が報告に来る。

首を切断したと思しき、大量の血痕が残されていたのは、湖を望む展望台であった。

現場に立ち会った古館は、身体の方は湖に投げ込んだのだろうと無責任な推理を披露するが、それを聞いた橘署長は嫌な顔をする。

湖には、水草が女の髪の毛のように絡まっており、一旦沈んだ死体を発見するのはまず無理だったからだ。

そんな展望台の片隅で、金田一は、誰かが落としたらしいブローチを拾い上げる。

それを橘と古館に見せると、古館は、手形合わせの時に、珠世がしていたものだと証言する。

佐武の生首が発見された日、証人の一人として招かれた古館らの前で、松子同伴の佐清が、自らの手の平に朱墨を塗ると、色紙にしっかり手形を押していたのだった。

橘署長は、そのブローチを直接、珠世に見せて確認するが、前夜、展望台に呼出した佐武に、佐清の指紋が着いた懐中時計を渡して、その確認を頼んだ後、いきなり佐武から襲いかかられたので、その時、ブローチが飛んだのだろうと、珠世は冷静に説明する。

その時は、駆け付けた猿蔵が、佐清の身体を引き離し、自分は難を逃れたとも言う。

その後、子供の連絡を受けて、観音岬にやって来た警官は、血まみれの鉈と大量の血痕が底にたまったボートが岸辺に付いているのを発見する。

ボートハウスの管理人が猿蔵である事を知った橘署長は、「よし!分かった!」と、珠世猿蔵共犯説を思い付くのだった。

そんな警察所へやって来た古館は、手形の照合に手間取っており、まだ結果が届いていないといら立ちを見せるが、そこに帰って来た刑事が、妙な聞き込みをして来たと橘署長に報告する。

柏屋にやって来た橘署長は、主人から宿帳を見せてもらうが、山田三平と書かれたその下手な字は、実は本人が書いたものではなく、女房が書いたのだと言う。

そんな柏屋で、先に乗り込んでいた金田一を橘署長は見つけて驚く。

佐武の死体を運んだボートが見つかった観音岬付近を探していたら、この宿を見つけたのだと言う。

金田一が言うには、兵隊服の男は、夕べ、8時から10時までの間は間違いなくここにおり、ちょうど、同時刻に、屋敷では、手形を佐清が押す押さないでもめていた頃だったのだ。

金田一は、顔を隠した男が二人いる事を指摘するのだった。

その頃、犬神家には、鑑識課員(三谷昇)を連れて古館がやって来ていた。

鑑識課員が言うには、佐清が新しく押した手形と昔の絵馬に残っていた手形は、全く同一人物のものだとと発表する。

その夜、佐武の通夜が行われ、大山神官も招かれていた。

無言でヤケ食いしているかのように見える竹子の様子を観た小夜子は、精神に異常をきたしたのではないかと心配する。

そんな小夜子、珠世を廊下に呼び寄せると、兄の事は聞いた、それから、佐智を絶対に夫に選ばないでくれと言い出す。

実は、自分は、佐智の子供を妊っているのだからと、小夜子は脅すように珠世を睨み付けるのだった。

その様子も、廊下の影から、猿蔵が監視していた。

やがて、自室に戻って生きた小夜子だったが、そこに潜んでいた、マフラーで顔を隠した兵隊服の男がに急に襲いかかられ悲鳴を上げる。

その声を聞き付け、小夜子と猿蔵が駆け付けて来るが、怪しい兵隊服の男は、バルコニーから庭へ逃げて行ったと言う。

恐る恐る庭に出てみた珠世は、何かにつまづくが、それは、マスクを剥がされ、醜い素顔をさらした佐清の倒れた身体だっただった。

近づいて様子を観た猿蔵は、殴られて気を失っているだけだと答える。

やがて、湖の底に沈んでいた首なし死体が浮上して来る。

見つかった首なし死体を検死の結果、首を切断したのは、ボートから見つかった鉈で間違いないが、背中を刺した凶器は、植木鋏のようなものだと言う事が分かる。

死体のポケットに、珠世から受取った懐中時計が入っているはずだがと聞く金田一に、橘署長は見つからなかったと答える。

数日後、珠世は、再びボートで湖に漕ぎだし、その中で昼寝を楽しんでいた。

その頃、松子は、突然現れた実の母親お園(原泉)に、裏山で金を渡して二度とここへは来ないでくれと言い含めていた。

那須ホテルの部屋では、はる手作りの芋の煮っころがしを頬張りながら、金田一が犬神家の系図を書いていた。

その後、古館事務所を訪れた金田一は、犬神製薬が、日清日露の戦争の後、急激に業績を伸ばしている事を指摘し、その秘密を聞き出そうとするが、古館は言いにくそうに、佐兵衛は、若い頃から芥子を栽培していた事を打明けるのだった。

芥子からは、阿片やモルヒネ、ヘロインなどが抽出できる。

それを、特別な許可をもらった佐兵衛から、軍部が買取っていたと言うのだ。

そんな中、珠世が乗ったボートに、佐智が乗ったクルーザーが近づき、橘署長と金田一が呼んでいるので、こちらの船に乗って急いで行ってくれと誘う。

ところが、珠世が乗り移ると、急に麻酔薬を嗅がせ、眠った珠世を担いだ佐智は、豊原村の空屋敷に入ると、中のベッドに珠世を寝かし付け、その服を剥がすと、上にのしかかろうとしていた。

しかし、そこに突然現れた、顔を隠した兵隊服の男が、驚く佐智に言葉もかけず襲いかかるのだった。

その頃、犬神家の屋敷では、松子が、花鋏の事を橘署長から聞かれ、自分が疑われているのかと機嫌を悪くしていた。

一方、ボートハウスの猿蔵の元には、見知らぬ男から電話がかかり、空屋敷に珠世がいるので、急いで来るよう教えられていた。

那須の街では、どこかからか戻って来たはるを金田一が呼び止め、近くのウドン屋でウドンを振舞われていた。

実は、金田一の依頼で、那須ホテルのお馴染みさんの独りだった大学の先生に、若林の殺害に使用されたアルカロイド系の毒物から、奇妙な白い結晶が見つかり、それは芥子の実から抽出されたものらしいとの調査結果を聞いて来た帰りだったのだ。

屋敷の松子は、琴の先生(岸田今日子)を前に、琴の練習をしていた。

金田一は、毒の検査結果を、古館に報告していた。

その頃、屋敷内では、梅子が息子の佐智が見つからないのだがと、寝ていた夫の幸吉を起こしていた。

雨が振る翌朝になっても戻って来ない事を確認した梅子は、警察に届けた方が良くはないかと夫に相談していた。

そんな佐智を探していた小夜子は、屋根裏部屋を探している途中、明かり取り用にガラスをはめ込んだ屋根部分に、佐智の死体が倒れて雨に濡れている姿を見つけ、衝撃のあまり、気を失ってしまう。

屋根上での検死に立ち会った金田一は、佐智の首に琴糸が巻き付けてある事を指摘する。

自室で寝かされていた珠世に尋問に来た橘署長は、佐智に最後に会ったのはあなただと追求するが、泣いていた珠世は、そう言えば、自分が空屋敷で寝かされていた時、遠くで叫び声や、人が争っているような物音を聞いたような気がすると証言する。

息子を殺され、興奮状態の梅子は、珠世を捕まえてくれと橘署長に詰め寄っていた。

一方、佐智の首に琴糸が巻かれていた事を聞いた竹子は、犬神家の三種の家宝である「斧(よき)」「琴(こと)」「菊(きく)」に関係あるのではないかと打明けるのだった。

父親、佐兵衛が50を過ぎて子供を作った青沼菊乃(大関優子)を妬んだ、三姉妹は、彼女の家を探し当てると、菊乃の着物を剥ぎ取り、真冬の最中、外で水を浴びせかけたり、むち打ったりと、拷問に近い仕打ちを行ったと、竹子は告白していた。

その時、菊乃は、お前たちを呪ってやると言っていた事も。

その菊乃も空襲で亡くなり、息子の静馬は、戦争に行ったきり、行方が知れないのだと聞いた橘署長は、又しても、「良し!分かった!」と手の平を叩くと、静馬が犯人だと断定するのだった。

その頃、金田一は、神社の長もちの中に、先代神官だった野々宮大弐(那須清)の記した巻紙が残っていた事を知り、その内容を読んでいた。

それには驚くべき事が記されており、幼い佐兵衛を拾い、製薬会社を立ち上げる資金も提供した野々宮大弐と佐兵衛とは男色関係に会ったと言う事実だった。

野々宮大弐とは、遠い姻戚筋に当ると言う大山も、しぶしぶながらその筋を認めるのだった。

更に驚くべきは、血が繋がっていないと思われていた野々宮珠世は、佐兵衛の本当の子供だったと言う報告を金田一から聞かされた古館は驚愕する。

生来不能だった大弐は、処女妻のままだった晴世(仁科鳩美)と佐兵衛に、自ら不倫を勧めたのだと言う。

その佐兵衛と晴世との間に生まれたのが珠世で、その珠世を大弐は実子として認知したのだと言う。

その頃、犬神家の屋敷では、松子と佐清が珠世を呼んで、二人の兄弟が死んだ今、佐清との結婚の意思があるかと尋ねていたが、珠世はきっぱりと断わっていた。

断われば、あなたは遺産を受取る権利を全て失うのよと迫る松子に対し、この人は佐清さんではないと、珠世はゴムマスクの男を指差すのだった。

そう言われた佐清は、何も言わずその場を離れるだけだった。

その後、犬神を祭った祭壇に向っていた松子は、佐清を博多に迎えに行き、その顔が大きな傷を追っている事を知り、マスクを作りに出かけた事等を回想していた。

そんな所へやって来たゴムマスクの男は、急に笑い出すと、本当の佐清はどこかに行ってしまったと松子に言い出す。

俺は青沼静馬だと正体を明かしたゴムマスクの男は、ビルマ戦線で佐清に出会い、二人の年格好がそっくりな事に気づいた時から、長年呪っていた犬神家の一族を乗っ取る為、佐清に成り変わ事を思い付いたのだと打明けはじめる。

翌朝、湖から、奇妙なものが突き出ていた。

それは、男の足のように見えたが、近くにガマがエルを持って近づいていた小夜子は、それを発見しても「面白い事やしているわね。私も仲間に入れてよ」と呟くのみ。もう、彼女の神経は限界を超え、狂気の世界を彷徨っていたのだった。

やがて、警察がボートで現場に到着し、その足を引っ張りあげるが、その身体に付いていた顔は、焼けただれた佐清のもので、頭は斧でかち割られていた。

駆け付けて来た金田一は、その被害者の手形と指紋を取ってくれと依頼するが、それを聞いた橘署長は、珠世も同じ事を言っていたと不思議がる。

鑑識の結果、二人の手形は全くの別人と言う事が判明する。

戸惑う橘署長らに、金田一は、二人の人物がすり代わったのだと聞かせる。

湖で上がった死体は、青沼静馬だと言う。

それを聞いた橘署長は、「良し!分かった!犯人は兵隊服の男だ!」と、又しても断定するのだった。

その頃、珠世の部屋に再び入り込んだ兵隊服の男は、顔を隠していたマフラーを取ると、珠世に抱きつき、全部、自分がやったのだと告白する。

彼こそ、本当の佐清だったのだ。

その頃、金田一は、街ではるに呼び止められ、夕べ帰って来なかったけど、一緒に付いて行ってやろうかと申込まれるが、断わって逃げ出す。

一方、空き屋敷で監視していた猿蔵は、戸棚の中に隠していた琴糸と斧を始末しに来た佐清を、いきなり近づいて羽交い締めにする。

必死に抵抗する佐清だったが、一斉に踏み込んで来た田中刑事ら、警官隊によって捕縛されてしまうのだった。

珠世に電話で呼出された金田一は、彼女が佐清から預かったと言う事件の自白書を渡される。

珠世は、最初から、佐清を見間違えたりするはずもなく、ゴムマスクの男が偽者である事は見破っていたと言う。

橘署長は、警察署で佐清を追求するが、最初の若林殺害の説明の時点から、彼の自供は矛盾だらけだった。

彼は、誰かをかばおうとしている事に気づいていた金田一は、ズバリ、実行犯の名前を佐清に聞かせ、すでに事件の真相は、何もかく見抜いている事を教えるのだった。

やがて、犬神家の屋敷を訪れた金田一は、その真犯人と対座する事になる。

金田一は、最初の事件から、次々と犯行手順を聞かせて行く。

最初は、バカバカしいと、相手にしていなかった相手も、あれこれ、金田一が揃えた実証を積み重ねられると、沈黙を守るようになる。

やがて、橘署長のジープに乗って、佐清が犬神家の屋敷に連れて来られる。

その姿を屋敷で観た珠世は泣き崩れる。

竹子、梅子ら、事件関係者たちも呼び集められ、金田一の推理が披露しはじめられる。

真犯人を聞かされた一同は驚愕するが、真犯人は落ち着いており、ゆっくりタバコをキセルに詰めはじめる。

佐清の罪は重くなりそうかと心配そうに聞く犯人に、古館は、情状酌量の余地があると教えると、犯人は珠世に向い、佐清が刑を終えて出て来るまで、待っていてくれるね?と確認した後、佐清、珠世さんを、父の怨念から救っておやりと言い残した後、倒れ伏すのだった。

「しまった!タバコだ!」と叫んで駆け寄る金田一だったが、もうすでに犯人は事切れていた。

事件が解決し、那須ホテルでは、金田一を駅に見送りに行く為着替えをして玄関口に出て来たはるに、主人が「金田一さんによろしく」と伝言する。

古館は、事務所で、金田一に礼金3500円と必要経費427円を渡した後、律儀に受取りを書く金田一に、これは個人的な感謝の気持ちだと言って、別に用意した金を渡そうとするが、金田一は頑として受取らない。

自分が早く気づいていれば、5人の死者を出さずにすんだはずと、金田一は反省しているのだ。

駅には、橘署長はじめ、自分も見送りに行くと言われた金田一は、自分は見送られるのが苦手だと言って、かかって来た電話に古館が出ている間に、こっそり事務所を後にする。

犬神家の屋敷では、珠世に向い、猿蔵が「あの人の事、忘れられない」と、金田一の事を伝えていた。

駅に着いた金田一は、まだ誰も来ていない構内から、すでに到着していた列車に飛び乗るのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

角川春樹事務所が、映画製作に乗り出した、いわゆる角川映画の第一弾。

当時、角川文庫が火付け役となり、一旦忘れられた作家となっていた横溝正史の人気を復活させた横溝ブームの中で作られたもので、出版やテレビドラマも巻き込んで、空前の金田一ブームを巻き起こした作品である。

今改めて見直してみると、実に良く、脚本がまとめられている事に感心する。

元々の原作は、複雑な人間関係を織り込んだ長大な内容であり、それを2〜3時間程度の映画にまとめるのは至難の技だと思われたが、それを見事に集約した脚本家たちの手腕は賞賛に値するだろう。

美しい那須の風景をバックに、血なまぐさい惨劇が次々に起こるサスペンスは、今観ても色褪せていない。

70年代の特長であった、ホラー要素や、エロティック要素が、過不足なく盛り込まれており、推理劇の宿命である、アクション不足による一見退屈になりそうな物語を、最後まで、観客の興味を途切れさせずに運んで行く演出は、ベテラン監督の熟練の技の賜物と言って良いだろう。

金田一に扮する石坂浩二は、この作品までは、どちらかと言うと、テレビドラマの俳優のイメージの方が強かったが、この作品のヒットにより、映画俳優としても認知されるようになったと思う。

原作のイメージから入ったものの印象からすると、すこし、石坂金田一は知的に見え過ぎるのだが、この当時はまだ、相当痩せており、貧相に見える事は確か。

当時、彼は、意図的に原作を読まず、映画独自の金田一像を作ろうと語っていた。

テレビ版の古谷一行と共に、原作とは又違った、映像版金田一の原型を作り出した功績は大きい。

松竹から招かれた島田陽子も、この頃は美しい盛り。

その後のシリーズのパターンとなる、加藤武演ずる警部役の「良し!分かった!」や、三木のり平と沼田カズ子コンビ等も、この作品から出発している。

プロデューサーの角川春樹氏が、刑事役として自ら出演していたり、後の佳那晃子こと大関優子が、青沼菊乃役で、早くも裸体を披露していたり、今、チイチイの愛称でテレビで人気者になった地井武男の若き日の姿、又、身内が次々と惨たらしい犠牲者にされ、狂気に取りつかれたかのように凄まじい演技を見せる三条美紀や川口晶の熱演など、見所は多い。