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はだしの花嫁

1962年、松竹大船、菅野昭彦脚本、番匠義彰監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

高松、尾道を繋ぐ連絡船が出航する。

その船上では、尾道にある中国文化新聞社勤務の倉本(早川保)の吹くハーモニカに合わせ、この船の船長中島(三井弘次)の娘で、高松で伊予絣の店の娘でもある中島洋子(倍賞千恵子)が歌を歌っていた。

二人は、周囲も認める間柄だった。

その頃、東京の出版社「週間レディ」の編集部では、編集者の矢野玲子(鰐淵晴子)が、人気作家の山根爽太郎(南原宏治)に、瀬戸内海から九州へ向う取材旅行の説明をしていた。

何かと女性関係では悪評高い山根が、玲子同伴で取材旅行する事を条件に、新作予定で、すでに映画化のオファーも来ていると言う「海を渡る花嫁」執筆の約束をしたものだから、編集長は大喜びで山根に御機嫌取りをするのだが、同じ編集者で玲子に秘かに思いを寄せていた沢村(山本豊三)などは、気が気ではなかった。

その日、酒問屋をやっている矢野商店に帰宅した玲子は、沢村から連絡を受けたと言う番頭からも、関西旅行中の後主人が戻って来るまで、今度の山根との随行は止めてくれないかと哀願する始末。

その頃、「矢野商店」の御主人、つまり玲子の父親で今は妻に先立たれ独り身の矢野(佐野周二)は、神戸のバー「加代」で、贔屓のママ篠原加代(月丘夢路)に高松へ仕事に向う話をしていた。

一緒に連れてってとせがむママに対し、まんざらでもない様子の矢野だったが、今回はあちらに住む戦友の中島という男に会う約束もあるのでと、少し戸惑いながらも断わる。

その時、入店して来た男(大泉滉)は、恋人のホステス恵美(環三千世)から、何故か無理矢理ボックス席に連れ込まれると、高いオールドパーを彼女からおごってもらう事になる。

翌日、関西汽船の「くれない丸」に乗船した矢野に、自分も松山に行く事になったと寄り添って来た加代は、後から乗船して来る顔なじみの作家山根の姿を見つけて矢野に教えるが、その同伴者が娘の玲子である事に気づいた矢野は真っ青になる。

矢野は、用意された部屋に加代も同室である事を知り驚くが、実は、先日、恵美におごってもらっていた客は、この船のボーイで、加代の依頼で恵美が彼の口から得た情報に基づき、勝手に手配していたのだった。

玲子に、女性同伴である事を知られる事を心配する矢野を観て、加代は自ら動き出す。

山根の部屋に酒持参で挨拶に行ったのである。

玲子が別室だと知り、当てが外れ退屈していた山根は、思わぬ珍客に上機嫌になる。

その頃、矢野は、件のボーイを呼んで、何とか部屋を変えてくれと頼み込むが、ボーイは出来ないとにベもない返事。

その後、とうとう矢野は玲子に見つかってしまい、一緒に山根先生の所へ挨拶に連れて行かれる。

玲子と山根の手前、その場にいた加代とは、互いに初対面を装う二人だった。

やがて、「くれない丸」は来島公園の側を通るので、玲子は山根をデッキに連れ出し、送電鉄塔をバックに写真を撮りはじめるが、そこで、以前知り合った、電源開発の職員、矢代(寺島達夫)が乗っているのに気づき声をかける。

そして、山根に彼を紹介した玲子は、送電線設置の仕事をしている彼をモデルに今回の小説を書いたらどうかとアイデアを出すのだった。

その頃、矢野が部屋にいないのに気づいた加代は、ボーイに捜しに行かせるが、デッキでぽつねんと座っていた矢野を見つけたボーイは、玲子も矢野の若い愛人だと勝手に思い込み、妙な気の使い方を見せるのだった。

その頃、倉本から、矢野が乗った「くれない丸」到着時刻の知らせを受けていた船長の中島は、自分は仕事の関係で遅れるかも知れないから、家族のものに必ず迎えに出るように連絡をしてくれと頼んでいた。

山根は、高松で下船する矢野と加代の姿を部屋の窓から眺めながら、意外と深い仲だったりすると面白いんだが…と、勝手な想像を楽しんでいたが、それを聞いていた玲子は、自分の父親は堅物なので、そんな事はあり得ないと笑うのだった。

しかし、同じく下船した矢代が、本来矢野を迎えに来た洋子と仲良さそうに会話していると山根から指摘されると、それを自分も観て、心穏やかならざるものを感じる玲子だった。

矢野は、迎えに来ていた中島の妻(桜むつ子)と洋子から、半ば強引に夕食に誘われていた。

その為、矢野に、一緒に道後温泉へ行こうとタクシーの中から呼び掛けた加代は、あっさり断わられる事になる。

その為、本当は、矢野が予約していた道後のホテルに一人到着した加代は、矢野の妻だと名乗ってその部屋に入り込む事になる。

その夜、玲子と山根を乗せた「くれない丸」は別府に到着していた。

予約していた旅館に向う二人の後から、サングラス姿の怪し気な男が後を付けていた。

それは、玲子の事が心配で、休暇を取ってわざわざ尾行して来た沢村だったが、同じ旅館に泊まろうとして満員だと断わられ、途方に暮れてしまう。

その頃、矢野と酒を酌み交わしていた中島の元へ、洋子が戻って来る。

実は、先ほど港に出会った矢代と二人で映画に行っていたのだった。

そんな洋子の姿を観て、矢野と中島は感慨深気だった。

洋子は、中島夫婦の実子ではなく、亡くなった戦友竹中の遺児だったのだ。

終戦から17年、中島がその洋子を立派に育て上げた事に、矢野は感心していた。

中島は、その洋子に、今、地元の新聞記者との縁談話がある事を嬉しそうに打ち明ける。

ついでに、独身の矢野にも、再婚する気はないのかと水を向けるが、矢野は曖昧にごまかすだけだった。

その夜、道後のホテルで矢野の帰りを待っていた加代は、今日は、中島の家に泊まるので帰らないとのでンワ連絡を受け、一人やけ酒を飲む事にする。

翌日、地元の酒問屋を視察し終わった矢野を外でしっかり待ち受けていた加代は、今日こそ、二人きりで、刊行旅行しようと誘い、予定の仕事が終了した矢野も、その言葉に従う事にする。

その頃、所長の計らいで松山行きが一日早まった倉本は、洋子を近くの公園に誘って、今後一緒に住む家の物件について話し合っていたが、その時、洋子は、同じ公園に来ていた矢野と加代の姿を遠目に観てしまう。

一方、九州の高崎山で、沢村が尾行している事に気づいた玲子は、彼を強引に帰京させると、山根に対し、矢代を主役にしたストーリーの為には予定を変更して、瀬戸内海の方へ行った方が良いのではないかと相談していた。

これまでの観察から、山根は、玲子の本当の目的は矢代に会いたいのだろうと察しをつけるが、素直に同行する事にする。

倉本と別れ、帰宅して来た洋子に対し、母親は、本当に倉本との縁談を進めても良いのだろうねと、洋子の本心を確かめていた。

というのも、倉本との縁談に熱心なのは夫の中島の方であって、洋子は、育ての親である自分達への気兼ねがあるので、本心を押さえ付けているのではないかと案じていたからだった。

しかし、洋子は、否定も肯定もせず、今日偶然見かけた矢野の事を話すだけだった。

その頃、中島は加代と矢野が宿泊している松山の宿に遊びに来ており、二人の仲をうらやましがっていた。

ところが、その同じ宿に、山根を伴った玲子がやって来たから、矢野は大慌て。

中島は、矢野の窮地を救おうと、先に一人で温泉に入っていた加代を、外で待ち受け、事情が出来たから、自分の部屋に来てくれと強引に引っ張っていく。

一方、宿の仲居さんたちに、何とか自分が女性同伴である事を隠してもらおうと、懸命に事情を説明中だった矢野の部屋に、当の玲子がやって来て、今日はここで泊まらせてくれと言う。

翌日、倉本は洋子同伴で、中四連絡線を建設中の矢代を取材していた。

そこへ、山根を伴った玲子がやって来て、矢代に親し気に話しはじめたから、近くにいた洋子は複雑な表情になる。

何となく、矢代を挟んで、玲子と洋子の間に火花が散りはじめるのだった。

その頃、連絡船に乗っていた矢野と加代に、船長の中島が、気をきかせて、西日光と言われる耕三寺にでも観光で寄ったらどうかと勧めていた。

その言葉に従い、加代を連れて耕三寺に向った矢野だったが、又しても、同じ場所に現れた山根と玲子が、とうとうその現場を目撃してしまう。

山根は、自分の想像が当っていた事に呆れるが、玲子の方は、父親の隠れた一面を知った事でショックを隠せず、自ら当てつけるように、父親の前を無言で通り過ぎて帰るのだった。

神戸のバー「加代」に戻って来た加代は、勝手に付いていった自分が悪かったと謝るが、矢野は、正直に全てを娘に告白する決心をする。

その落ち込んだ二人の姿を観ていたホステスの恵美も、自分にも責任があると反省し、たまたまやって来た恋人のボーイも、訳が分からないまま、その場の暗い雰囲気に付き合わせさせられるのだった。

そんなある日、伊予織物の店にやって来て矢代は、洋子に今度ようやく東京に帰る事ができるので、母親に土産として絣を買って行きたいと告げる。

その後、二人して海に出かけた矢代に、洋子は、自分も東京に行って、働きながら何か勉強をしたいと打ち明けるのだった。

一方、取材旅行から帰って来た玲子の方は、さっそく、山根先生から第一回の原稿をもらって来ていた。

そんな編集部の玲子の元へ、東京に戻って来たと、矢代から連絡の電話が入る。

それを側で聞いていた沢村は、またもやきもき。

その矢代、実は、上野の天婦羅屋「天八」の長男でもあり、しばらく店の手伝いをすると、母親(高橋とよ)の元に帰って来る。

母親は、そんな息子の結婚について心配するが、当の矢代は、自分のように日本各地を転々と渡り歩くような仕事をしているものには、嫁の来てはないだろうとあきらめている様子。

そんな所に、玲子が山根を伴って入って来る。

山根は、小説のモデルになっている矢代を取材する為だと言う玲子本人が、実は彼に会いたい一心で、ここへ自分を連れて来たのだと言う事を見抜いていた。

その日、帰宅した玲子は、松山から洋子が来ていると聞かされ驚く。

父親の説明では、東京の料理学校に通う目的で出て来たので、しばらく奥の部屋に預かる事になったと言う。

玲子は、そんな洋子に対し、矢代が帰京している事を知っているのかとそれとなく尋ね、洋子は知っていると答える。

翌日、洋子は、開店前の「天八」にやって来る。

それを観た板前(世志凡太)は、早合点して、表に貼り紙を出しておいた求人募集の申込者と勘違いしてしまう。

その後、彼女は、矢代の知り合いである事が分かるが、洋子はその場で、自分を店の手伝いに雇ってくれと言い出す。

そんなこととは知らず、後日、今度は沢村を誘って、「天八」にやって来た玲子は、料理学校に通っているはずの洋子が、店の手伝いをしているのを知り、愕然としてしまうのだった。

その夜、洋子は早速、その事を父親に報告するのだが、それを聞いた矢野は、事情が分からず頭を抱える。

一方、沢村の方は、山根の所を訪れ、玲子と洋子と矢代の三角関係の事を、小説のネタとして打ち明けるのだが、それを聞いた山根は、もう一人、第二の男を登場させ、四画関係にしたら面白いのではないかと、それとなく沢村の反応を観ながらアドバイスするのだった。

さっそく、洋子を呼出した沢村は、矢代にアタックするよう応援する事になる。

洋子と矢代が結ばれれば、自分が玲子を手にする可能性が出て来るからだ。

ある日、矢野商店に洋子を訪ねて、倉本が上京して来る。

ところが、その洋子が、上野の蕎麦屋で働いている事を聞いた倉本は、秘かにその店の様子を観に出かけ、洋子と矢代が仲睦まじい様子を知った後、洋子に出会って、彼女の父親からの手みやげと、自分が作った歌の譜面を渡すと、すぐさま国に帰ってしまう。

その夜、矢野商店に帰って来た洋子は、倉本から送られた譜面を静かにピアノで弾いてみるのだった。

一方、連絡船の中島船長に帰って来た報告に行った倉本は、洋子との縁談は白紙にしてくれと突然言い出して帰る。

中島は、訳が分からず呆然となる。

その頃、又呼出して、矢代との進展を聞きに来た沢村に、洋子は故郷に帰ろうと思うと打ち明けていた。

後日、上京して来た中島は矢野と、洋子の事を話し合っていた。

中島は、戦友の娘である洋子には何としてでも幸せになってもらいたく、仮に、その洋子が矢代と言う男が好きなのなら、何とか一緒にさせてやりたいと打ち明けていた。

そんな所に帰って来た洋子は、自分は国に帰るし、矢代の事を好きなのは、本当は玲子の方だと教えるのだった。

それを聞いて、二人の親たちは混乱してしまう。

矢野は、玲子に本心を聞きに行くが、もっと私の事を考えてと言われるだけだった。

その後、倉本の会社に洋子が訪ねて来る。

そして、自分は、東京に来た倉本があっさり帰ってしまった態度に打たれ、夢から醒めたと打ち明けるのだった。

そして、何時か倉本が話していた海が見える家の候補地に連れて行ってもらい、倉本作詞作曲の歌を、彼のハーモニカの伴奏付きで歌いはじめるのだった。

その頃、沢村は、原稿をもらいに行った山根に、矢代と洋子を結び付ける作戦は失敗したと告げるが、それを聞いた山根は、沢村の気持ちを忖度し、優しく力付けるのだった。

後日、矢代は、久々に出会った玲子に、今度、九州の鹿児島に仕事で、3年間くらい出かける事になったと報告していた。

それを聞いて帰宅した玲子は何か不機嫌だった。

その様子を心配した矢野が、矢代との事を聞いても、彼とは何でもなかったというばかり。

その愛想のない返事に、そんな自分勝手ばかりをと怒る矢野に対し、玲子も、パパだって自分勝手ばかりしてるじゃないと冷たく切り返すのだった。

その後、今度は矢野の方が、中島の家を訪ねていた。

その父の後を追って、玲子は神戸の「加代」を訪れるが、そこにいるとばかり思っていた父の姿はなく、逆に、ママの加代から、先日は自分の軽率な行動で誤解を与えてしまったと詫びられる事になる。

矢野は、洋子が、玲子と矢代との仲に遠慮して、自分から身を引いて帰って来たのではないかと案じていたので、その玲子は矢代と結婚するつもりはないらしく、そう今でも洋子が思い込んでいるのなら申し訳ないと、中島に報告に来ていたのだった。

しかし、それを聞いた中島は、洋子なら、明日、尾道に嫁に行く所だと聞かされる。

中島も、洋子の本心は掴みかねていたのだ。

そんな洋子の元に、突然、矢代が訪ねて来る。

矢代は、九州に旅立つに当って、こちらに作った送電線の様子を観てから向うつもりで立ち寄っただけだったのだが、そんな事を知るはずもない親たちは、二人の仲を又あれこれ想像して、居ても立ってもいられなくなる。

中島は、洋子が、自分達義理の親に遠慮しているのではないかと言う気持ちが常にあったから、心配はなおさらだった。

その頃、矢代と別れた洋子の元へ玲子がやって来る。

洋子は、矢代が、本当はあなたの事を待っているのだと玲子に教え、玲子は、今の仕事を辞めてまで、矢代の事を追って行く勇気がなかったのだと告白するのだった。

玲子は、嫁ぐ洋子をうらやましいと言う。

すっかり打ち解けあった二人の姿を発見した両家の父親たちは、そんな娘たちの態度がさっぱり理解できなかった。

翌日、花嫁姿で船に乗った洋子を見送る玲子に、船上から、すぐ近くに矢代も来ていると洋子が叫ぶ。

気が付くと、すぐ隣で手を振り合っていた矢代と玲子は、互いに嬉しそうに微笑みあうのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

同じ男性を好きになった二人の女性を中心に、その家族、仕事仲間などが繰り広げる、ちょっとユーモラスな恋愛ドラマ。

娘の幸せを願いながらも、その女心がさっぱり理解できず、最後まで振り回される佐野周二と三井弘次の情けなさそうな表情がおかしい。

活発な都会の女性に扮する鰐淵晴子と、地方に住む、ちょっと控えめな女性を演ずる倍賞千恵子との対比も面白いし、狂言廻し的な役割を演じている南原宏治も珍しく楽しい。

ストーリーの骨格自体は、良くある通俗小説めいているが、この作品では、それを小説家が連載中の小説とシンクロさせるというちょっと捻った趣向で新鮮に見せている。

瀬戸内海や四国、九州別府等、観光映画的な趣もあり、その美しい情景を眺めているだけでも飽きないし、大泉滉など、愉快なキャラクターも巧く生かされており、最後まで退屈せずに観る事ができる。

二人の女性から同時に愛される、何ともうらやましい役を演じている寺島達夫という俳優に見覚えはないが、当時は期待された新人だったのかも知れない。

特に、二枚目というタイプでもなく、あまり印象に残らないタイプのように感じるが…。

若い娘二人の行動やその心の機微は、観客にも予測が付かない所が、今観ても楽しめる原因だろう。