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グエムル-漢江(ハンガン)の怪物-

2006年、韓国、ハ・ジョンウォン脚本、ポン・ジュノ脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

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2002年、2月9日、韓国米軍基地内、薬品部で働いていた韓国人キムは、上司であるアメリカ人から、ほこりにまみれたホルムアルデヒドの瓶の中身を全て下水に捨てるように命ぜられる。

毒物を投棄する事は禁止されているはずだし、下水に捨てると、毒物が漢江(ハンガン)に流れ込んでしまうと反論したキムだったが、アメリカ人は、漢江は大きな河だから何でも流してくれるのだと、聞く耳を持たない。

仕方なく、キムは、大量のホルムアルデヒドをシンクに流し込むのだった。

2002年6月、漢江の中で釣りをしていた二人の釣り人が、突然変異のような小さな生き物を見つけ、カップにすくってみるが、死んでいるように見えたのですぐに興味を失い、河に戻してしまう。

2002年10月、雨の中、ある会社の社長が、漢江に飛び込み自殺しようと欄干に身を乗り出しており、同僚らしき男二人がそれを止めようとしていたが、自殺しかけていた男は、眼下の河の中に何かが動いていると言って、そのまま飛び下りてしまう…。

大勢のピクニック客が座って余暇を楽しんでいる漢江の川岸にある小さな売店では、店番のカンドゥ(ソン・ガンホ)が、だらしなく居眠りをしており、危うく、小さな子供が万引きしかけているのにも気づかない。

そこへやって来たのが、彼の父親パク・ヒボン(ピョン・ヒボン)。

彼は、女性客の買い物の釣り銭を、寝ていた金髪頭のカンドゥの顔の下から取って渡した後、カンドゥに4番席の客がイカヤキを注文していると仕事を命ずるが、表に出たカンドゥは、オーブンの使い方も慣れていないし、焼きはじめたイカの足を自分が一本引き抜いて食べてしまうやる気のなさ。

そんな所に帰って来たのが、カンドゥの一人娘で、タンサン女子中に通っているヒョンソ(コ・アソン)だった。

彼女は、今日の授業参観に、父親本人ではなく、叔父のナミル(パク・ヘイル)が来ていたと呆れてみせる。

しかも、そのナミルは昼間から酒を飲んでいたと言うのだ。

何度も電話したのだがと言い訳するカンドゥだったが、ヒョンソは、持っているケイタイが古いので、電波が届かないと不満を洩らす。

そんな二人は、売店の中にある自宅に入り込むと、すぐさま、テレビで叔母のナムジュ(ペ・ドゥナ)が出ている、アーチェリー大会の中継を見始める。

カンドゥは、自分と同じく、未成年のヒョンソにも缶ビールを渡してしまう無責任さ。

しかし、カンドゥは、ヒョンソにカップ麺の空箱に入れておいたへそくりを見せる。

新しいケイタイを買う金だと言う。

しかし、そんな小銭ではケイタイは買えないし、店の釣り銭をねこばばするのは良くないと、ヒョンソはダメおやじに説教するのだった。

そんな所に入って来たのが祖父のヒボンで、先ほどの4番席の客からイカの足が一本足りないとクレームが来たので、お詫びの印として缶ビールを持って行けと、仕事をしない怠け者のカンドゥに命ずる。

仕方なく、トレイに缶ビールを載せて、4番席の客を探しに川岸を歩き始めたカンドゥだったが、大勢の客たちがジャムシル大橋の方を観ている事に気づき、自分もそちらを観てみる。

何やら、黒くて大きなものが橋の下にぶら下がっているのだが、工事用の設備なのかどうかも良く分からない。

やがて、その黒いものは、滑るように動き出すると、河に落ちてしまう。

さらに、その黒い影は、川岸で注目していた人たちの近くに近づいて来る。

人ごみのまん中にいたカンドゥは、いきなり、トレイに乗せていた缶ビールを一本、その黒い影の方へ投げてみる。

それにヒントを得たように、野次馬たちは自分達も各々持っていた食べ物等をその黒い影の方へ投げ付け始める。

すると、突然、みんなの目がすぐ近くの土手の方に移った。

何か得体の知れぬ巨大な怪物が土手に上がって、こちらに向って走って来たのだ!

いきなり、川岸にいた群集たちはパニック状態に陥る。

一部の群集は、近くに止まっていたキャンピングカーの中に逃げ込んでドアを閉めるが、かいぶつはやすやすとそのドアを破って、中に入り込み、中は阿鼻叫喚の地獄と化す。

反対側のドアは鎖で繋がれており、中の人間たちは外に出られないのだ。

これを見かねた一人のアメリカ人が、その人々を救い出そうとするが、怪物に教われ、片腕を喰われてしまう。

カンドゥも、その姿を見習って、近くにあった道路標識を持ち上げると怪物の尻尾の方に投げ付けるが、その返り血を頬に少し浴びてしまう。

そんな騒ぎが、外で起きているとは全く気づいていないヒョンソとヒボンは、一緒に、ナムジュのテレビ中継を観ていたが、ナムジュは、モチベーションを高める為の時間調整に失敗して、時間切れになってしまう。

がっかりしたヒョンソが売店の外に出てみると、川岸の群集が逃げ回っている異様な光景が飛び込んで来る。

訳が分からず、呆然としていたヒョンソの手を引いて逃げ出したのはカンドゥだった。

カンドゥは、その後も、夢中になって娘の手を引いているつもりだったが、気が付いてみると、それは別の娘の手だった。

慌てて、後方を見ると、ヒョンソが怪物の尻尾に巻かれ、そのまま河に飛び込む姿を見る事になる。

慌てて、河に飛び込んだカンドゥだったが、彼は泳げなかった。

やがて、軍隊が現場に出動して来て、付近一体には厳重な警戒体制が敷かれる。

惨劇の夜、怪物の犠牲になった人々の合同葬が大きな体育館で行われていた。

ヒョンソの遺影の前で泣いていたカンドゥとヒボンの元にやって来たのは、銅メダルを取った叔母のナムジュだった。

彼女は、可愛い姪の遺影の前で泣き崩れる。

さらに、酒をラッパ飲みしながら、叔父のナミルもやって来る。

彼は、カンドゥが別の娘の手を引いて逃げた事を聞いたらしく、それを公然となじりはじめる。

やがて、パク家族4人が揃って、のたうちまわって号泣したり喧嘩しはじめる様を、取材に来ていたテレビ局の取材班が一斉に撮りはじめる。

少し落ち着きを取り戻したヒボンは、ヒョンソの母親が死んで13年経つ事、はずみで出来た子だったが、事故でなくしてしまったと、孫娘の事を不憫がっていた。

やがて、一人の防護服姿の男が遺族たちの前に出て来て、ヨイドの現場にいたもの、又、そこにいたものと接触したものに手をあげるように言い出す。

会場には、消毒班が来て、すぐに噴霧消毒を始める。

さらに、怪物に触ったものはいないかと聞かれたので、カンドゥは血が飛んで来たと正直に答える。

すると、カンドゥは防護服の男たちに。有無を言わさず捕まって隔離される事になる。

テレビニュースでは、今回の怪物事件の現場で勇敢な行為を見せ、その結果、片腕を失ったドナルド下士官の身体から、ウィルスが発見された事を報じていた。

つまり、今回、漢江に出現した怪物は、SARSの伝染媒体となったジャコウネコのように、ウイルスを持つ「ホスト(宿主動物)」だと判明したと言うのだ。

病院に隔離されていたカンドゥたちパク一家。

特に、血に触れたカンドゥは、明日の検査のために、今晩は絶食だと言い渡される。

しかし、ベッドに横たわったカンドゥは、その夜、何時からか痒くなった背中をかきながら、こっそり貝の缶詰めを食べていた。

そんなカンドゥのケイタイがかかって来て、出ると、何と「パパ、助けて!」と、死んだはずのヒョンソの声が聞こえて来るではないか!

確認しようと、必死に娘に呼び掛けるカンドゥだったが、通信状態の悪い中でかろうじて聞き取れた言葉は「大きな下水溝にいる」という言葉だけだった。

同じ病室のベッドに寝ていたヒボンを始め、ナミル、ナムジュも一斉に、カンドゥのケイタイを見つめていた。

その頃、漢江の側道を一台の消毒車がゆっくり走っていた。

やがて、止まった車から降りて来た防護服の男は、道路脇に落ちていた濡れた一枚の紙幣を拾い喜ぶが、次の瞬間、怪物に襲われ、その身体は、怪物の住処である下水溝に落とされる。

怪物が立ち去った後、その下水溝の横穴から出て来た一人の少女が、今落とされた防護服の男の服からケイタイを抜き出し、かけようとするが伝わらない。

少女は、死んだはずのヒョンソだった。

怪物は、人間を咽に飲み込んで、この下水溝に一旦吐き出しに来るのだが、彼女は幸いにも、吐き出された後、息を吹き返したのだった。

その頃、カンドゥは、娘が生きているて電話がかかって来たと、病院にいた警官に話していたが、誰もまともに信じようとはしなかった。

ヒボンは、遠い知り合いに頼んでヒョンソ捜査の準備をしてもらい、自分達は秘密裏に病院を脱出する計画をカンドゥたちに伝える。

やがて、一般患者に変装したカンドゥたち4人家族は、エレベーターに乗り込み、地下駐車場へ降りる事に成功する。

用意されていたワゴン車に乗り込んで、一気に脱出のはずが、ナムジュが乗っていない。

乗り遅れたナムジュを何とか拾い上げて駐車場を脱出。

その後、ヒボンは、準備を頼んだ連中から、法外な金額を請求されて、カードごと財布を奪われてしまう。

全財産を奪われて手に入れた道具は、ライフル3丁と曖昧な地図など、かなりいい加減なものばかりだった。

車内テレビでニュースを観ていると、すでに、自分達が脱走した事が事細かく報じられている。

ナミルは、自分だけフリーターだと言うだけで、ニュースにほとんど紹介されなかった事を不満がるが、やがて、検問所に差し掛かる。

4人は、車中で、用意されていた防護服に身を隠していたが、車を止めた区役所の人間と称する人間は、執拗に、4人を怪しむように睨み付けて来る。

仕方ないので、ヒボンは、最後の現金をその男に賄賂として渡して、その場を切り抜ける。

最後の現金とは、カンドゥが隠し盛っていたカップ麺の空箱に入ったへそくりの小銭だった。

その後、取りあえず下水溝に入り込んだ4人だったが、はっきりした目的地かどうかは分からない。

暗闇の奥を覗き込んでいた4人だったが、何かを見つけたと思い、いきなり発砲してしまう。

その音にびびっていたのは、4人のすぐ横を、弟を背負ってこっそり通っていた兄だった。

二人の兄弟は、コソ泥をして食べ繋いでいた兄弟だった。

その日も、河に出て、土手にある無人の売店に忍び込むと、食料品を盗み出し始める。

弟のセムジュの方は現金を見つけ、それも盗もうとするが、兄から、おれたちは荒しであって泥棒ではないと止められる。

その兄弟が店を出たところで、怪物に襲われる。

その後、売店に戻って来たカンドゥたち4人は、すぐさまカップ麺などで空腹を満たしはじめる。

そこには、何時の間にかヒョンソも加わっており、他の4人たちは、めいめいに彼女に食べ物を食べさせるのだった。

その頃「現実の」ヒョンソは、下水溝に垂れて来る水滴で乾きを癒していた。

そこへ、戻って来た怪物が、今飲み込んで来た兄弟の身体を吐き出して行く。

死んだ真似をして横たわっていたヒョンソは、怪物が立ち去ると、その弟の方の身体を揺すってみると、セムジュは息を吹き返す。

兄の方は、もう死んでいるようだ。

売店に戻って来た所までは現実だったが、ヒョンソに食べ物を食べさせているのは、カンドゥの夢だったのだ。

そんなカンドゥの事をあまり悪く言うなと、ヒボンは兄弟たちに諭しはじめる。

ヒボンは、カンドゥは子供時代から母親を知らず、腹を空かせて育って来たので、頭が弱くなったのだから…とあれこれ思い出話をするが、すでに眠っていたナムジュとナミルの耳には届いていなかった。

ところが、何時の間にか起きていたカンドゥが、売店の外を観ている。

何かがこちらを観ていると言うのだ。

ヒボンとカンドゥは、窓から狙いを定めると、ライフルを発射する。

その途端に、怪物が売店に襲いかかり、売店は傾いてしまう。

さらに、売店の上にのしかかった怪物目掛け、銃を発射すると、怪物は下に落ちてしまう。

様子を観に、外に出た4人だったが、死んだように見えた怪物は、すぐさま立ち上がると河に逃げようとする。

遠くを見ると、数名の軍人たちが近づいて来るではないか。

それを追いながら、後一発弾が残っていると言うライフルをカンドゥから受取ったヒボンは、ナミルとナムジュに車に乗り込んで逃げるように命ずる。

ナムジュは、アーチェリーで怪物を撃とうとするが、そんなものが効くはずもない。

ヒボンは、迫りくる怪物目掛けて、ライフルの引き金を絞るが、弾は出なかった。

カンドゥの弾の数え違いだったのだ。

呆れて、カンドゥを振り返るヒボンだったが、そのまま怪物に弾き飛ばされてしまう。

怪物が河に逃げ込んだ後、カンドゥは横たわる父親の側に近づくが、もうヒボンは事切れていた。

呆然としたカンドゥは、駆け付けて来た軍人たちになす術もなく捕まってしまう。

その後、テレビのニュースでは、治療を受けていたドナルド下士官が死亡した事、WHOと米国が事件に介入を発表し、半径数十キロに効果があると言う最新鋭の科学薬品「エージェント・イエロー」を散布する事に決定したと伝えていた。

韓国の市民たちは、皆、マスク姿で生活をするようになり、ウイルス感染におびえるようになる。

そんな街の片隅で、逃亡したパク家族の情報提供を求めるポスターの、ヒボンの写真の上に死亡の判子が捺されているのを哀し気に見つめていた男がいた。

ナミルだった。

ポスターを剥がそうとしていたナミルを暗がりに連れ込んだのは、ナミルが先輩と呼ぶ太った男だった。

ナミルは、その通信会社に勤める先輩の知恵を借り、ヒョンソの通話記録を会社のパソコンで解析すれば、発信位置を特定する事ができると知り、一緒に通信会社に乗り込もうとしていたのだった。

ナムジュの事を聞いて来る先輩だったが、彼女とはどこかで離ればなれになったと答えるナミル。

しかし、会社に忍び込み、いざその情報の入ったパソコンを開こうとすると、パスワードが必要だと分かる。

先輩は、部長の机にあるはずだと、隣の部屋に向うが、その部屋には、大勢の社員たちが息を顰めていた。

全員、ナミルを警察に突き出せば、賞金がもらえると知り、最初から罠を張っていたのだった。

そんな事は夢にも知らず、パスワードを探していたナミルは、机の側でそのパスワードが書かれた紙片を発見し、すぐさま、地図を開いて、発信地を観ようとするが、その時、隣の部屋から、先輩と一緒に社員たちが乗り込んで来る。

何とか、モニター上の発信位置を頭に叩き込んだナミルは、コンセントに細工をして室内を停電させると、襲いかかって来る社員たちから脱出する。

会社の表には、パトカーも駆け付けるが、ナミルは、高速道路からぶらさっがって隠れていたが、やがて力つき下に落ちてしまう。

頭を強打し、遠のく意識の中、ナミルはナムジュに「ヒョンソ、ウォニョ大橋北側」とメールを送信し終える。

その頃、別の下水溝の中にいたナムジュは、受信音に気づき、メールを確認すると、ただちに、ウォニョ大橋に向う。

そこで、あの怪物と出会ったナムジュは、又しても、アーチェリーで対抗しようとするが、あっけなく怪物に跳ね飛ばされ、側溝に落ちて気絶してしまう。

怪物は、なおも、落ちたナムジュに食らい付こうとするが、側溝が狭過ぎて、口が入らない。

一方、再び、病院の検査室に入れられたカンドゥも、ウォニョ大橋というメールを受取っていた。

彼は、麻酔薬を注射されるが、不思議な事に、全く効かない事が判明し、医者たちは狼狽しはじめる。

そこへやって来たアメリカ人医師らしき防護服の男は、ウォニョ大橋に娘が生きていると言うカンドゥの話を興味深く聞くと、何故、警察に知らせないのだと尋ねるが、誰も信用してくれないのだと頭を抱えるカンドゥを見つめ、ウィルスが能を汚染している、否、いてもらわなくてはならんのだと、同行していた韓国人に囁く。

これは国家機密だが…と、その韓国人を部屋の隅に連れて行くと、アメリカ人医師は、死んだドラルド下士官の死体からは、全くウィルス等発見されなかったのだと打ち明ける。

しかし、そのヒソヒソ話を、カンドゥはしっかり聞いていた。

ウィルス感染等、全くのデマだったのだ。

しかし、そのカンドゥは抵抗空しく、脳の手術を無理矢理受ける事になる。

その頃、下水溝では、ヒョンソが死体の衣類を掻き集めて、それを縛り付け紐状にしていた。

セムジュには、気を紛らわせるように、食べ物の事を勝手に話させていた。

そして、出来上がった紐を、側溝の上部にある柵に引っ掛ける事に成功するが、何と、長さが短過ぎて、手が届かない事に気づく。

そこへ戻って来た怪物は、大量の骨を吐き出すと、すでに死んでいたセムジュの兄を食べてしまうのだった。

ロボトミー手術でも受けたのか、全く外界に興味を示さなくなったカンドゥに、注射をしようとしていた看護婦は、いきなり立ち上がったそのカンドゥに羽交い締めにされ、注射器を喉元に近付けられると、そのまま人質になってしまう。

カンドゥは、その状態のまま病院から外に逃げ出すと、救急車を奪って逃亡に成功する。

その頃、気が付いたナミルは、ホームレスの男に助けられていた事を知る。

ナミルはウォニョ大橋の場所を聞き出し、火炎瓶を作る為に空き瓶を売ってくれと、勝手にそこにあった空き瓶を手に取りはじめるが、逆に、男に頭を殴られ財布を奪われてしまう。

しかし、そのホームレスの男、根っからの悪い人間ではなかった。

ナミルの話に興味を持つと、自分も一緒にウォニョ大橋に行くと言い出し、一緒にタクシーに乗り込むのだった。

そんなタクシーの横を、「エージェント・イエロー散布」に反対する市民運動のデモ隊が、ウォニョ大橋目指して向っていた。

その頃、側溝の横穴内で気が付いたヒョンソは、セムジュも鼻血を出しているが、まだ生きている事を確認していた。

横穴から側溝の方を覗いてみると、あの怪物が背中をこちらに向けて眠っている。

こっそり、横穴から降りて、落ちていた缶ビールを怪物に投げ付けてみても起きる気配がなかった。

思いきって、ヒョンソは怪物に向って走りはじめると、怪物の背中をステップ台替りにして、上から垂れ下がっていた紐に飛びついて掴む事に成功するが、そんなヒョンソが視線を下げると、自分の胴に巻き付いている怪物の尻尾に気づく。

何時の間にか、床に降りて様子を観ていたセムジュも立ちすくんでいた。

怪物は起きていたのだ。

床に下ろされたヒョンソは固まってしまうが、やがて、そんな彼女に怪物が襲いかかって来る。

ちょうど、そこへ駆け付けて来たのがカンドゥだった。

細い側溝に落ちていたナムジュも気が付いていた。

上に這い上がったナムジュは、怪物に追われて、こちらに走って来るカンドゥの姿を見かける。

アーチェリーで撃とうとすると、怪物の腹の中にヒョンソがいるから止めろと制止される。

怪物は、河の中に逃げ込む。

その頃、渋滞に巻き込まれたタクシーから降りたナミルとホームレスの男も、歩いてウォニョ大橋に到着していた。

やがて、「エージェント・イエロー」の散布装置の発射カウントが始まったウォニョ大橋で、到着した阻止デモ隊が警官隊とが衝突。

シュプレヒコールを上げるデモ隊の中の一人の女性が、河の中から出て来る怪物を目撃、デモ隊は大混乱になる。

岸に上がった怪物が散布装置の真下に来た時、「エージェント・イエロー」が発射される。

怪物は苦しみのたうちはじめるが、そこへ駆け寄って来たカンドゥは、怪物の口の中をこじ開けて、中からかすかに見えた手を握ると、強引に外に引っ張り出す。

ヒョンソは、セムジュをしっかり抱きしめた形で息絶えていた。

そんなヒョンソに駆け寄り、泣き崩れるナムジュ。

一方、怪物に近づいたナミルは、タクシーの中で作っておいた火炎瓶を投げ付けはじめる。

橋桁の踊り場付近に登っていたホームレスの男は、弱った怪物の上からガソリンを浴びせかけていた。

怪物は、降り注ぐガソリンを旨そうに飲んでいるではないか!

そんなガソリンまみれになった怪物に、ナミルは、最後の火炎瓶を投げ付けようとするが、手が滑って、その火炎瓶は自分の後ろで砕け散ってしまう。

最後のチャンスは失われたのだ!

しかし、その燃え尽きようとする火炎瓶の残骸に、矢の先端に付けた布を浸して点火したのは、何時の間に近づいていたのかナムジュだった。

ナムジュは、一瞬のためらいもなくアーチェリーの矢を放つと、火矢は、怪物の口に向って真直ぐ飛んで行き、たちまち怪物の身体は火炎に包まれる。

苦しむ怪物は、目の前に広がっている漢江に飛び込もうと最後の力を振り絞って走りはじめる。

もうすぐ河が目の前だ!

その時、橋桁の影から躍り出て来たカンドゥが、持っていた長い鉄棒を、満身の力を込めて怪物の口の中に差し込んだ。

それは、娘を殺された父親としての全ての怨念を込めた一撃だった。

さしもの怪物も、とどめを刺され、その場に倒れて息絶える。

その後、倒れていたセムジュの元に歩み寄ったカンドゥは、お前は誰だ、ヒョンソの事を何か知っているのかと揺り起こすが、その声に呼応するかのように、死んでいたかと思われたセムジュはゆっくりと目をあけるのだった。

その年の冬、黒髪に戻っていたカンドゥは、凍り付いた漢江を窓から油断なく警戒していた。

何時又、新たな怪物が現れるかも知れないと言った厳しい目つきだ。

部屋では、セムジュがすやすやと眠っていた。

かいがいしく、夕食の準備を終えたカンドゥは、そんなセムジュを起こし、二人だけの夕食を食べはじめる。

テレビでは、今回のウィルス事件は、情報の混乱に原因があったとのアメリカ側の発表を伝えていたが、セムジュに促され、途中で、カンドゥはスイッチを切ってしまう。

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▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

2006年のカンヌ映画祭で絶賛された、モンスター映画の快作。

モンスター部分としてのイメージ作りには、おそらく「エイリアン2」や「ジュラシック・パーク」「GODZILLA」などを参考にしたのではないかと思われる。

全体の印象も、何となく「エイリアン2」に近い感じで、全体的には、アジア人ばかりが出ているハリウッド映画を観ているような感覚である。

リプリーという典型的な戦うヒロインの代わりに、欠点だらけのダメ家族が、愛する家族を救い出す為に、最後の最後まで奮闘する姿が、ユーモアも交えながら描かれている。

このユーモア表現、一見オーバーなドタバタ表現のように見えながら、実は、主要人物となる家族のキャラクター紹介と、彼らの結びつきの強さを、すんなり観客に納得させる巧い演出になっている。

笑いが、サスペンスの邪魔をするどころか、逆に、観客を家族の気持ちと一体化させる役目になっているのだ。

怪物映画の例にもれず、本作も寓話的展開なので、観る人によって、色々、中に含まれている寓意を見つけだす楽しみもある。

分かりやすいのは、後半に登場するホームレスに象徴されるように、一見、社会の中で「負け組」と思われがちな人々の「一寸の虫にも五分の魂」を描こうとする一面だろう。

主人公の家族たちは全員「負け組」である。

もう一面は、アメリカに服従してばかりいると、その内大変な目に会うよと言う、小国の依存体質への警告。

さらに、主人公カンドゥの大人として、父親としての成長物語「親は子に育てられる」の寓意だろう。

他にも、韓国人なら、色々、ピンと来る皮肉等も、数多く含まれているのではないか?

VFXは、海外の一流どころへの外注なので、正にハリウッドレベルだし、モンスターの造型、奇妙な動き、迫力等も申し分ない。

モンスターの全体像は、何やら、おたまじゃくしと言うか、ナマズと言うか、両生類を連想させるのだが、顔の正面は、おそらく女性器からイメージされたのではないかと感じる。

エイリアンが、男性器をモチーフにデザインされていて、突き刺される怖さだったのに対し、このモンスターは「吸引される」怖さを狙ったのだろう。

ラスト、ヒョンソの身体をカンドゥが引きづり出すシーンは、馬や牛の出産シーンを連想させる。

本編部分の映像もVFX部分の完成度に良く馴染んでおり、全く違和感を感じさせない所も感心させられた。

これだけの迫力ある作品が、わずか12億の予算で完成したという事実が、今後の日本映画に重くのしかかるのではないか。

もう、ハリウッド映画は桁違いの予算を使っているから、日本映画とは比較できないとか、特撮映画は、予算の大半を特撮部分に取られてしまうので、本編部分がどうしてもちゃちになってしまう等の言い訳が出来なくなったからだ。

これだけの本編を撮れる監督が、はたして今の日本にいるだろうか?

日本の特撮怪獣映画は、衰退すべくして衰退したのだと、改めて感じさせる作品でもあった。