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絶唱('75)

1975年、ホリ企画制作、大江賢次原作、西河克己脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

30年以上も前の事、東西の国の境に当り、谷一番の分限者と言われた家の結婚式が盛大に行われたが、不思議な事に、その時、その花嫁はすでに死んでいたと言う…。

昭和17年、山陰のある地方。

山に銃声が鳴り響き、園田家の屋敷に奉公に出されている若い娘小雪(山口百恵)が一人、懸命に走っていた。

彼女は、 母サト(初井言栄)がいる実家に飛び込むと、訳も言わず泣き出すのであった。

間もなく、山番をしている父親正造(大坂志郎)も帰って来て、娘の様子を見守る。

何かそそうをして叱られたのかと、心配して尋ねる母親に対し、小雪は首を振り、自分の事が原因で、旦那様と若様が喧嘩をなさったのだと答える。

その頃、屋敷では、乳母のせき(菅井きん)と源助(吉田義夫)が、門前で、家を出て行こうとする若様こと園田順吉(三浦友和)を何とかなだめようとしていた。

今正に、順吉の許嫁である美保子(木内みどり)と、その父親である橋本(中村伸郎)が来ている最中だからであった。

しかし、順吉は聞かず、そのまま外出してしまう。

屋敷の中では、園田家の主人惣兵衛(辰巳柳太郎)が、手持ち無沙汰に洋楽のレコードを聞いていた美保子や、その父親の橋本に、息子の不作法を極まり悪気に詫びていた。

その頃、両親を当惑させていた小雪は、若様が来ると突然言い出して、家を飛び出していく。

足音が聞こえると言うのだ。

しかし、両親には何も聞こえなかった。

小雪は、山の中の小さな祠に手を合わせていた。

そこへやって来た順吉は、何を祈っていたのかと尋ねると、バチが当りませんように、当るなら、自分だけに当ててくれと祈っていたと答える小雪。

そんな小雪の謙虚な姿勢に打たれた順吉は、高校時代、身体を悪くした自分が帰郷して来た時も、同じように祈っていた、当時、小学6年生だった小雪の姿を思い出し、感謝するのだった。

しかし、それを聞いた小雪は、ただ勿体ないと恐縮するばかり。

順吉はその場で、自分は確かに大地主、山園田家の息子だが、順吉個人として小雪と添いたいのだと明言するのだった。

その後、京都の大学に戻った順吉は、読書会の集まりの場で、他のメンバーたちに、小雪とのいきさつを隠さず打ち明ける。

木こりをしている吉原(藤江喜幸)や、小学校の教諭をしている大谷(大和田伸也)等、毎日の労働を通して、しっかりと骨のある発言をしている他のメンバーたちに対し、何不自由ない暮しに慣れて来たお坊ちゃま育ちである順吉は、常日頃からコンプレックスを感じていたのだった。

そんな彼らも、外に聞こえて来る出征兵を見送る人声に、迫りくる暗い時代と自分達の運命を感じ取っていた。

ある日、下宿先に帰宅して来た順吉は、来客があると聞かされ、戸惑い気味に二階に上がると、待っていたのは、美保子であった。

郷里の父親から手紙を預かって来ていると言う。

それを読むと、美保子に身の回りの手伝いをしてもらえと言う内容。

しかし、順吉は、自分は一人で帰省すると、美保子に告げるのだった。

その後、帰郷して来た順吉に会わせまいと、源助が仲介し、小雪を津山の親戚の家に送ってしまおうとする計画が進められていた。

小雪は、何とか、若様に別れの手紙を書かせてくれと頼むが、両親にも源助にも聞き入れられない。

しかし、秘かにしたためた手紙を持参した小雪は、それを園田家の順吉に渡そうと出かけ、窓の外から投げ込むが、順吉には気づかれないままだった。

その後、津山へ向うため、山を出発しかけていた小雪は、又、若様が来ると言い出す。

その直後、本当に姿を現した順吉は、自分は家出して来たと言い、小雪をひしと抱きしめるのだった。

その後、順吉と小雪は、日本海と砂丘に挟まれた街の大雅堂という小さな経師屋の二階で、二人暮しはじめていた。

順吉は、運送屋を始めると張り切っている。

そんな所へ、読書会のメンバーたちが、各々、土産持参でやって来て、二人の新婚生活を祝福するのだった。

しかし、小雪の実家では、園田家の逆鱗に触れる事を恐れた近隣の村人たちから村八分状態にされた両親が、肩身の狭い暮らしを強いられていた。

若様をたぶらかした小雪は、魔性の娘とまで噂される始末。

その頃、順吉と小雪は懸命に仕事に励んでいた。

やがて、順吉は、吉原の世話で、より見入りの良い材木か次の仕事に転職する。

しかし、思いのほか仕事はきつく、毎日帰宅した順吉は、粉雪の膝枕ですぐ寝入ってしまう有り様だった。

その内、読書会仲間だった笹本と田中に召集令状が届いた事が知らされる。

さらに、消火訓練中だった大雅堂の主人の元へも、役所から召集令状を届けにやって来る。

宛名は、順吉だった。

それを聞いた小雪は、バケツを階段から落としてしまう。

その後、園田家を訪れ、惣兵衛に面会を申込んだ大谷は、これまでのいきさつを忘れ、順吉を、園田家の長男として立派に送りだしてもらえまいかと相談するのだが、惣兵衛は、その為には、順吉が小雪と手を切り、ここで手をついて謝らなければ無理だと言い返す。

300年の歴史を守っている園田家の人間の気持ち等、他の者には分からないだろうとも。

その惣衛の事を大谷は、後日、順吉とのお別れ会の席で、古い因習に縛られた哀れな人だと思うと報告する。

その席で、順吉から木挽き歌をせがまれた小雪は、恥ずかしそうに披露するのだった。

その頃、息子は帰って来ると信じ、出征の祝いの準備もして待っていた惣兵衛は、帰って来ぬ息子を思いながら、「アホ…」と独り呟くのだった。

小雪との別れの時、順吉は「心に翼を持つんだ」と励ます。

小雪は、飼っている十姉妹を友達にして暮すと気丈な所を見せる。

やがて、戦場に向った順吉は、毎日、午後3時になると、決まって、部隊から少し離れ、日本にいる小雪を思いながら木挽き歌を歌う事を日課とし始める。

同じく、内地でヨイトマケの仕事をしていた小雪も、3時になると、決まって、仕事を離れ、戦場にいる順吉の事を思いながら木挽き歌を歌うのだった。

その内、小雪は、材木運びまでするようになる。

そんな所へやって来た大谷は、笹本と田中が戦死したとの知らせを持って来る。

哀しい気持ちで家に帰りついた小雪は、あれほど大切に飼っていた十姉妹も死んでいるのを発見して、不安感を一層つのらせるのだった。

その三ヶ月後、とうとう、大谷にも召集がかかる。

その頃になると、小雪には、戦場の方から毎日聞こえていた順吉の歌声が聞こえないように感じられた。

その後、看護婦の手伝いをする事になった小雪は、無理も祟り、ある日、病院内で喀血をしてしまう。
何時の間にか、胸をやられていたのだった。

その帰り道、砂丘で久々に出会った吉原から、自分の所に順吉から軍事郵便が来て、戦争が終わったら、山園田に詫びを言い、父親の言う通り嫁をもらう事にしたと知らせて来たと、小雪は聞かされる。

そのショックもあり、それ以来、寝込むようになった小雪を、大雅堂の主人は何かと勇気づけるのだった。

その頃、園田家では、惣兵衛に呼ばれてやって来た吉原が、源助とセキに対し、自分は旦那様から、小雪に嘘を言うように命じられたと告白していた。

言う事を聞かないと、木こりである彼の一家は、この先、この山で生きていけなかったからである。

昭和21年、戦争が終わり、大勢の兵隊たちが帰還して来たが、その中に順吉の姿はなかった。

そんな中、無事帰還を果たし、久々に小雪を見舞いに訪れた大谷は、その、小雪のあまりの変貌振りに驚愕する。

もはや、小雪は生ける屍のような状態だった。

それでも、痩せ細った小雪は、午後3時になると、順吉との約束通り、か細い声で木挽き歌を歌うのだった。

その頃、セキは、小雪の両親のいる小屋へ向っていた。

家にたどり着いたセキは、先ほど、旦那様が急死したと報告する。

使用人を怒鳴り付けている最中、頭に血が昇って倒れたのだと言う。

それを聞いたサトは、これまで旦那様に遠慮があって、行きたくとも行けなかった小雪の見舞いに出かけると言い出す。

自分は、本当は、旦那様を恨んでいたのだと。

セキも、そうしたサトの気持ちを察して駆けつけて来たのだった。

一方、小雪を見舞いに来ていた吉原も又、旦那様が亡くなったとあって、手紙の件は嘘だった事を打ち明けていた。

それを静かに聞いていた小雪は、この世の中から、そんな辛い事、哀しい事がなくなって欲しいと呟く。

ある日、大雅堂の主人が、寝たきりの小雪に、手鏡を覗かせて表の砂丘を見せていた時、読書会のメンバーたちが見舞いに訪れ、今度、大谷と川田マサ(服部妙子)が結婚する事になったと小雪に報告する。

それを聞いた小雪は自分はもう生めないからと、自らの赤ん坊用にと用意していた小さな衣類の入った箱を、マサに譲り渡すのだった。

そこへ駆けつけて来た両親は、半分息絶えかけた小雪に、葛湯を飲ましはじめるが、その時、急に「あの人がかえって来ると」小雪が言い出しはじめる。

その様子を観た大谷たちは、様子がおかしいと医者を呼びに行かせるが、小雪はなおも、「あの人遅いな〜」と呟き続ける。

そんな時、本当に「ただいま!」と、順吉がかえって来たから、その場にいた全員は驚いてしまう。

小雪の耳には、本当に、砂丘を歩いて帰って来る順吉の足音が聞こえていたのだ。

しかし、小雪の変わり果てた姿を観た順吉は言葉をなくす。

小雪は、最後の力を振り絞って、妻の仕事が出来なくなった事を詫びた後、ああ、山へ帰りたいと囁くのだった。

それは、二人が出会って愛を育んだ、あの故郷の山の事だった。

息絶えた小雪を看取った順吉は、婚礼と葬式を一緒にしようと思うと、その場にいた全員に打ち明ける。

やがて、園田家の婚礼の日、すでに死化粧され、花嫁姿の小雪を抱いた順吉は、婚礼の席に運び、厳かな結婚式が始まる。

大雅堂の主人が祝いの歌を歌い、大谷が祝辞を述べる。

順吉は、やって来た村人たちに、今後は、小雪のような不幸な女を作らぬよう、園田家の財産を使っていきたいと挨拶する。

訪れて来た村人たちは、皆、物言わぬ花嫁に涙するのであった。

その夜、花嫁姿の小雪の身体を抱いた順吉は、黙って山の中に入り込み、静かに木挽き歌を歌いはじめる。

何時の間にか、それに唱和するように、小雪の歌声も聞こえていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

過去、小林旭、浅丘ルリ子コンビ、舟木一夫、和泉雅子コンビで二度映画化された悲恋ものの、三度目の映画化。

今回、この山口百恵、三浦友和コンビ版を観て、三作とも観た事になるが、どれも甲乙付け難い名品である事が分かった。

古臭い「お涙頂戴」パターンと言ってしまえばそれまでだが、どのバージョンも同じように泣ける。

今回も又、後半の山口百恵の薄幸な運命が胸に迫る。

ストーリー自体は熟知しているのに…である。

やはり、ちょっと陰があると言うか、哀し気な眼差しの百恵ちゃんのキャラクターが、ピッタリ小雪のイメージに重なっている事も大きいと思う。

からっとした陽性のイメージの和泉雅子版も、ギャップがあって良かったが、本作もなかなか捨て難い魅力を持っている。

心象風景を象徴するかのような砂丘イメージの挿入も印象的。

頑固一徹のイメージを演じた辰巳柳太郎の存在も大きいと思う。

ちなみに、本作で、吉原を演じた藤江喜幸とは、東映の戦隊もの「大戦隊ゴーグルV」のゴーグルイエローこと黄島太役などでも有名な伍代参平の事である。

歌手が本業だった百恵ちゃんはともかく、共演の三浦友和の伸びやかな歌声も聞けるのが貴重である。