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「春情鳩の街」より 渡り鳥いつ帰る

1955年、東京映画、永井荷風「春情鳩の街」「にぎりめし」「渡り鳥いつかへる」原作、八住利雄脚色、久松静児監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和27年頃、向島の色街「鳩の街」にあるサロン「藤村」に、馴染みの花屋のじいさん(左卜全)が花を売りに来るが、掃除中の女将おしげ(田中絹代)は、適当に追い返してしまう。

おしげの亭主伝吉(森繁久彌)は、カフェー協同組合の役員なので、話し合いがあると事務所に出かける。

その途中、会長で「ローレライ」の店主(深見泰三)と出会い、今日、北海道から飛行機で飛んで来て、いきなり働かせてくれと言って来た娘がいたと聞かされる。

「藤村」で働く民江(久慈あさみ)は、泊まり帰りの客から、明日の土曜日も来て欲しいと頼み込んでいる。
どうやら、母親が来るから、金が入り用らしい。

風呂場では、栄子(淡路恵子)が水をかぶる音が響いていた。嫌な客の時には、 必ずやるお決まりの行為だった。

同じく、店で働いている大石種子(桂木洋子)は、3年前に夫を亡くし、 今では、幼い一人娘照子(二木てるみ)の面倒を見させている母親に二千円渡さねばならない民江の事情を聞き同情するが、自分も、大阪に出かけたきり帰って来なくなった愛人武田(植村謙二郎)に、二万五千円も渡しているので、それが戻って来るかどうか心配であるを告白する。

部屋に戻った栄子は、居残っている客の寺田(加藤春哉)から結婚を迫られ、いらついていた。

下では、民江や種子が、女将のおしげから、今日は診療所に行く日だとせかされていた。

その頃、診療所の隣にある「向島カフェー協同組合事務所」では、伝吉が、「ゴンドラ」の女将おはま(月野道代)から、元女房との話を蒸し返されていた。

実は、伝吉、東京大空襲の時、女房千代子(水戸光子)と娘トヨ子(勝又恵子)と生き別れになってしまったのだが、その時も、玉ノ井のおしげの所にいたという兵だった。

その千代子は、空襲の最中、妻と娘を捜す一人の男由造(織田政雄)と出会っていた。

終戦後、行商の途中、河原で昼食を取ろうと土手に腰掛けた由造は、同じように、昼食をとっている女を発見、良くその顔を見ると、あの空襲の最中に出会った子連れの女ではないか。

今は飴売りで生計を立てていた千代子の方も、由造に気づき、互いに再会を喜びあう。

そんな千代子が生きていると言う知らせを受けた伝吉は、ある日、地元に出向いて行き再会するが、もう、千代子の心は離れていた。

7年間、梨の礫だった伝吉より、一緒に暮す内に、娘もなついて来た由造との暮らしを優先させたい千代子だった。

その様子に愕然とした伝吉だったが、そんな所にたまたま行き会わせたのが、昔「鳩の街」で働いており、今は闇屋をやっていた鈴江(岡田茉莉子)だった。

伝吉は、事務所を出ると、男の子にいじめられ、泣いている見知らぬ女の子に、菓子を買い与える。

そんな子煩悩な部分だけが残っている伝吉を、他の店主たちは、どこか、からかう目付きで見つめていた。

最近、おしげは法華経に熱中しており、それを嫌う伝吉の方は、日々、目白に餌をやるのが趣味だったが、おしげの方は、生き物を飼うのが嫌いだった。

そんな「藤村」に、先ほど帰ったはずの、時計工、寺田が風呂敷を部屋に忘れたと戻って来るが、それが、栄子に会いたい口実だと分かっているおしげと伝吉は、適当に、栄子の部屋を捜して、見つからなかったと寺田を追い払う。

その後「藤村」にやって来たおはまは、鈴代から聞いたと、伝吉に、千代子との離婚届に判子を押すよう勧めるが、娘に未練がある伝吉の態度は煮え切らない。

一方、由造と、おでん屋「千代」という店を開いていた千代子の元に、演歌師の松田(春日俊二)と村井(太刀川洋一)と一緒に鈴代が挨拶にやって来る。

鈴代にとって、この演歌師たちの仲間に入れた事は、売春婦から足が洗えるチャンスとなり、演歌師たちにとっても、鈴代の参加は、客の受けが良くなり、互いに感謝しあっていた。

そんな鈴代は、買い物に出た浅草駅近辺で、偶然、おしげに出会うが、伝吉への伝言は、家へ直接来て言ってくれと嫌みを言われてしまう。

そんな中、民江は、持病の心臓病が悪化し、母親(浦辺粂子)と一緒に、しばらく実家へ帰る事にする。

しかし、それが、欲深いおしげには歯がゆくて仕方ない。
働き手が一人欠けてしまうからだ。

そんな「藤村」に、警官がやって来て、種子に話があるからと呼びに来る。
どうやら、大阪に行った武田が問題を起こしたらしい。

おしげも、付き添いとして種子と一緒に出かけてしまい、「藤村」に二人で残される形となった伝吉に、栄子が、自分と浮気しないかと誘って来る。

最近、おしげの老けように飽きが来ていた伝吉はその気になりかけるが、そこへやってきたのが「ローレライ」の会長。

人手が足りなくなったようだから、家に北海道から来た例の娘を世話しようかと言いに来たのだ。

その頃、雨で仕事を休んだ村井と鈴代が、最新流行のレコードを覚えようと練習を始めるが、そんな二人の仲睦まじい様子を、静かに観察していた松田は、急に咳き込みだす。

その夜、「藤村」に連れて来られた、札幌から来た街子(高峰秀子)という娘は、人を喰ったような奇妙な女だった。これには、伝吉もおしげも戸惑うばかり。

その後、種子も身体が悪いと言う事を、診療所の曽根先生から知らせられていた伝吉は、彼女の容態を心配するが、金を持たない種子には、入院する気持ちは最初からなかった。

一方、街子はと言えば、働く意欲は全くなさそうで、食べてはゴロゴロする毎日。

栄子は何時の間にか姿を消していた。

そんな事とは知らず、またまたやって来て、しつこく栄子に会わせろと迫る寺田の態度にへき易したおしげは、慇懃無礼な態度で追い返すのだった。

ある日、亀有の民江を見舞いに行くと言って出かけた伝吉は、実は、バス停で栄子と待ち合わせ、浅草に出かけていた。

その頃、当の民江は、身体がきついので、甘えて来る一人娘の照子を外へ遊びに行かせるが、その照子が、トラックにひき逃げさせれてしまう。

浅草の泥鰌屋で食事を済ませ、ホテルへ向かおうと出口に向っていた伝吉は、偶然、由造と食事に入って来た千代子と再会する。

伝吉たちが帰った後、様子がおかしくなった千代子から、今会ったのが、元夫だと聞かされた由造は、自分は若い娘と勝手な事をしている癖に、自分達を正式な夫婦にさせない伝吉の手前勝手な態度に怒り、その足で、「藤村」へ出かけ、離婚届になつ印してくれるよう、おしげに詰め寄るのだが、印鑑を持った肝心の伝吉が帰って来ないと言われてしまう。

その伝吉は、ホテルで抱いた栄子から、煮え切らない態度をなじられ、いつものように水をかぶろうと浴室に入った栄子から水を引っ掛けられてしまう。

その後、やけ酒で泥酔した伝吉は、おでん屋台で騒ぎ、他の客から袋叩きになってしまう。

一方、病気で休んだ松田を残し、村井と一緒に、いつものように、馴染みのおでん屋「千代」に寄った鈴江は、子供の使いで見知らぬ男が呼んでいると教えられ、近づいてみると、かつて「鳩の街」で合った事のある種子の愛人武田であった。

その武田から「藤村」の種子に渡してくれと、1万円と手紙を預かった鈴代だったが、翌日、出かけて行った「藤村」の店先に座っていた街子に、手紙だけ託して、さっさと帰って来てしまう。

鈴代は、横領した1万円で、病気の岡田に、転地して病気療養させようとするが、その金がやましいものだと言う事に気づいた岡田は、自分はもう田舎に帰るので、その金は、きちんと持主に帰すように諭すのだった。

その後、伝吉は、娘の為に買った人形を持って「千代」に出かけるが、2才の時別れたきりのトヨ子も、かつての妻だった千代子も、彼を避けるように店の奥に逃げ込んでしまう。

さすがに、その状況に絶えられなくなった伝吉は、印鑑をその場に投げ付けると帰るのだった。

その頃、「藤村」にやって来た「ローレライ」の主人は、おしげに、伝吉と栄子が一緒に歩いていたのを家の子が見たと告げていた。

一方、待ちわびていた武田からのつれない手紙を読んだ種子は、人生に切望し、薬を飲んで自殺しようとしていたが、そこへこっそり上がって来たのが、時計工の寺田であった。

彼は、栄子がいなくなった事を知ると、種子が飲もうとしていた薬の瓶に気づき、一緒に死のうと、種子に迫る。

部屋で死んだのでは、女将さんに迷惑がかかるからと、夜の川べりに出て着た二人は、土手で一緒に薬を飲むが、なかなか死にきれない。

そんな川にかかる葛西橋を渡って帰って来たのが、泥酔した伝吉だった。

伝吉は、鳥かごから持って来ためじろの死骸を川に投げ込むが、その後、自分もバランスを崩し、川に転落してしまう。

その音に気づいて起き上がった寺田は、起きない種子を残し、その橋に様子を見に行くが、伝吉愛用の帽子が落ちているのを発見すると、事態を察し、土手で起きない種子の事も恐ろしくなり、急に逃げ出すのだった。

その頃、娘の入院費を稼ぐために、無理して「藤村」民江が戻って来ていた。

しかし、彼女の部屋に残してあった私物の内、金目のものは、街子が持って逃げたとおしげから教えられる。

その街子は、質屋で盗んだ品を換金すると、これから熱海へ行って按摩にでもなると言い残し姿を消してしまう。

彼女は、気が進まないまま、又客を取らねばならなくなり、見るからに不潔そうな中年男(藤原鎌足)を泊まらせる事になる。

翌朝、 伝吉と、何故か、種子の水死体が一緒に発見される。

世間では、二人は心中したと言う事になってしまい大騒ぎ。

そんな所に通りかかったのが、金を帰しに来た鈴代と村井だった。

その報告を「ローレライ」の主人から聞かされたおしげは、伝吉の浮気相手は栄子だとばかり思い込んでいただけに、あまりの事の意外さに肝を潰してしまう。

すっかり気落ちしたおしげは、鳥かごに残っていたつがいのめじろの一羽も死んでいるのを発見する。

そんなこんなの騒ぎの中、しつこい泊まり客を追い返そうとしていた民江は、懐から落とした照子の写真立てを、思わず、客に踏まれてしまったのを見て、「自分は身体は売るが、心は売らないんだよ!」と啖呵を切って部屋に駆け上がって行く。

その言葉に唖然としながらも、訳が分からない客は、又、いつものように花売りのじいさんがやって来た「鳩の街」に出て行くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

貧しさのために身体を売らねばならない哀しい女たちと因業な店の女将、さらに、そんな色街で、ヒモのような生活をしながらも、かつての妻や娘の事に未練が断ち切れない、いかにも優柔不断でダメな男や、小さな幸せを掴もうと喘いでいる庶民たちらが繰り広げる人間模様を綴った文芸作品。

ダメな人間を演じさせたら天下一品の森繁、さらに、個性的な娼婦を演ずる女優陣たちの巧さが光る作品になっている。

田中絹代の、何だか、ポキポキしたような、巧いのか下手なのか良く分からないセリフ回しも印象的。

色っぽい役柄を演ずる事が多い淡路恵子はともかく、清純なイメージがある桂木洋子や高峰秀子、さらに、宝塚女優のイメージが強い久慈あさみらの、いかにも生活に倦み疲れた娼婦演技が珍しい。

さらに、この作品で驚いたのは、童顔の加藤春哉が、なかなか重要な役柄を演じている事。

確かに、その幼気な容貌が、このキャラクターにはピッタリ。
彼の代表作の一本ではないだろうか。

同年、「警察日記」で涙を誘った可愛らしい二木てるみも登場している。

正に適材適所と言った感じで、登場している役者たちが、皆、ぴったりと言う感じなのがすごい。