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闘牛に賭ける男

1960年、日活、山田信夫脚本、舛田利雄脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

日本からコペンハーゲン経由でスペイン、マドリッドに降り立った北見徹(石原裕次郎)は、闘牛場へ向うと、興行主のガルシア(アルフォンソ・ロハス)に会おうとするが、ガルシアは何故か日本人を嫌っており、会おうとしない。

警備員に連れ出されかけている北見の姿を客席から発見したのは、東洋銀行のマドリッド支店勤務の江藤良二(二谷英明)と、その元婚約者だった佐倉冴子(北原三枝)だった。

冴子は、遠目に北見を発見し、彼が何故ここに入るのか考える。

私を追って来たのか?…それとも…。

一昨年の秋、劇団ともしびの女優だった冴子は、日本新聞社を訪れていた。

その日本新聞社では、スペインから闘牛を呼ぶイベントを開催する予定だったが、世界中を吹き荒れていた「スペイン風邪」の流行に配慮して、公演延期をするか否かと言う大騒ぎの真っ最中だった。

事業部の担当部員だった北見と出会ったのは、その時が最初だったが、取り次ぎを頼もうと声をかけた冴子を怒鳴り返して、部長(安倍徹)に食って掛かっていたのが北見だった。

しかし部長は、公演を何とか実現したいと熱演する北見に対し、「公演中止」を言い渡すのだった。

さらに、人事部から呼出された北見は、会津若松に転勤を命じられる事になる。

その夜は、冴子の婚約披露宴の日でもあった。

相手は、江藤財閥の次男坊で、東洋銀行に勤める江藤良二、しかし、どこかその婚約に冴子は乗り気ではなかった。

そんな冴子の暗い表情に気づいた江藤は、疲れたと言う彼女のために、馴染みのスペイン料理店に連れて行く。

そこで、再び出会ったのが、酔って、彼女に無理矢理歌を歌わせようと迫って来た北見だった。

そんな彼らのテーブルに近づいて来た一人の老人が、「血だ!マタドールの死の印!」などと叫びながら、一枚のデッサンを出して、それと交換に酒をねだる。
そのデッサンは、闘牛士の絵が描かれていた。

その男は、スペインで妻を殺し、その後、頭がおかしくなった画家の宗方(芦田伸介)だと言う。

雨の降る外で、車を回して来る江藤を待っていた冴子は、三たび、雨宿りをしていた北見と出会う。

自分は体温が高いので、雨に濡れていると気持ちが良いと言う、北見の言葉をまねて、冴子は顔を雨に突き出すのだった。

その日から、冴子の心の中に、北見の存在がしっかり焼き付く事になる。

再び、現在のマドリッド。

江藤は、北見を捜していたが、どうやら、北見は、ガルシアを追ってジプシーの集落に出かけたと言う。

そのジプシーの集落で、又しても、ガルシアから追い出された北見は、踊りの中に押し込まれて、周囲の男立ち方からかわれている内、パスポートをなくした事に気づく。

ノミの市に行けば見つかるかも知れないと教えられ、そこへ向った北見は、ばったり冴子と出会う。

彼女が言うには、江藤が、ガルシアのカフェで待っていると言うのだ。

その言葉に導かれるように、カフェに向った北見だったが、その時、北見は初めて、江藤が足が不自由になった事に気づく。

グラナダで交通事故に会ったのだと言う。

ガルシアと会えると思っていた北見だったが、ウェイターから、なくしたパスポートと一緒に、「一度でも裏切られたら忘れないのが スペイン人」と書かれたガルシアからの手紙を渡されただけだった。

ガルシアは、もうパリのウエリントんホテルに飛んだと言う。

それを聞いた江藤は、自分達の航空券で行くと良いと、冴子と行くはずだったパリ行きの切符を提供するのだった。

その手配の電話をかけながら、江藤は、北見と出会ったあの夜の事を思い出すのだった。

一昨年の冬、婚約者となった冴子は、劇団の「愛の砂漠」という芝居を最後に引退する事になっており、江藤も見守る中、その稽古に余念がなかった。

そんな稽古場に乗り込んで来たのが、あの北見であった。

彼は、祖父の形見であるパターソンコルトの名品をカタに、金を貸してくれないかと江藤に頼みに来たのであった。

訳を訪ねると、会津に飛ばされた後、すぐに新聞社は辞めてしまい、今は、退職金の15万を元手に、大学時代の友人だった山川(高原駿雄)と共に、外国のテレビ映画を買い付ける会社を立ち上げたのだと言う。

明日、UBCの社長ウィルソン(カルビン・ウィック)が来日するので、掛け合いたいのだが、資金が足りないのだとも。

結局、冴子が、金を融資する事になる。

かくして、ウィルソン出席のレセプションに現れた北見は、堂々たる態度で外国人に接し、助け舟を出した江藤の力もあって、無事、契約を交わす事に成功する。

かくして、UBC日本総代理店の権利を与えられた北見と山川は、買い付けたテレビ映画を日本の放送局に売り付ける仕事を始める。

やがて、冴子の芝居「愛の砂漠」の公演後、いつものスペイン料理店で打ち上げをしていた冴子と江藤の元に現れたのは、又しても北見だった。

今度は、劇団員の人たちに、テレビ映画の吹き替えを手伝ってもらいたいと言う。

もう、仕事から引退させるつもりだった江藤は抗議するが、何か、北見と出会って以来、生き方に燃えるものを感じ始めていた冴子は、その仕事を受ける事になる。

やがて、その吹き替え付き外国製テレビ映画は順調に売れるようになり、北見の会社「世界テレビ」はさらなる飛躍「映画の自主製作」に乗り出す事になる。

冴子も交えた映画の撮影中、いよいよ、テレビ界を牛耳る東京通信社、通称東通からコンタクトを受けたと知った北見は、喜ぶと共に、日頃の過労が祟り、喀血してしまう。

その北見に付きっきりで看病していた冴子の元へ、江藤がやって来て、今度、ヨーロッパに転勤しないかと言う話があると打ち明けるのだが、冴子は同行の返事をためらう。

その態度を観た江藤は独り帰って行くのだった。

その後、気が付いた北見は、冴子にプロポーズし、来月には、丸ノ内にビルを借りるし、結婚式は裏磐梯の故郷で挙げようと夢を語りはじめる。

東通へ出向いた北見への、社長、高野圭一郎(三津田健)からの申入れは三点だった。

テレビ映画から手を引く事、UBCからの代理契約権をゆずる事、その代わり、東通の営業担当部長などのポストを与える事であったが、北見は即座に断わって帰る。

その夜、故郷での結婚式に出かけるため、上野駅で待ち合わせた北見と冴子だったが、着替えに帰った自宅に、赴任したスペインで、江藤が交通事故を起こした殿、海外電報が届く。

それでも揺れる気持ちを押して、北見に賭けるため、上野駅から列車に乗り込んだ冴子だったが、その北見も、動き出した列車から、ホームに飛び下りる事になる。列車内に冴子を残して。

UBCから、契約キャンセルの知らせがあったと、山川が駆けつけて来たからだった。

北見は、行かないでと止める冴子を振り切って、仕事を選択したのだった。

UBCが、契約違反を理由に、一方的にキャンセルを通達して来た陰には、東通の高野がいると睨んだ北見だったが、もはや、彼の持つ弱小企業には何の力も残されてはいなかった…。

回想から醒めた冴子と江藤は、パリへ飛んだ北見を見送った後、マジョルカ島へ向う。

一方、パリに到着した北見は、何とかガルシアに接近しようとするが、ことごとく裏をかかれ拒絶される。

そのガルシアがマジョルカ島のパルマへ向ったと知った北見は、早速自分も飛び、バスで移動中、偶然にも、そのすぐ後ろから走って来た車に、ガルシア一家が乗っているのを発見、夢中でバスを止めると、そのガルシアの車に便乗させてもらう事にする。

ホテルに着いたガルシアは、来る途中、娘が車から落とした日本製の猿のおもちゃを例にあげ、日本のものはすぐ壊れるし信用できないと北見に告げる。

しかし、北見は、日本製の腕時計を見せて、日本にも優れたものはあるし、良い人間もいるのだと力説するが、その途中、再び喀血して倒れる。

そこへ偶然やって来たのが、冴子と江藤だった。

冴子は、江藤が北見の身体をホテルに運ぶ間、ガルシアに、中止になった新聞社発行の日本公演チケットを見せ、これを実現させようと、どれほど北見が努力したか言い聞かせるのだった。

その言葉に心動かされたガルシアは、アメリカから帰って来た三日後、マドリッドで会おうと、北見に伝えてくれと言い残して去る。

ホテルのベッドに寝かされていた北見の元へやって来た冴子は、ガルシアからの伝言が何かないかと尋ねる北見に対し、「ただ、さよなら」だけ言っていたと嘘をついて、江藤と共に飛行場へ向ってしまう。

しかし、その空港へ向う車中、冴子は、慌てて持って来た自分の旅行バッグと北見のバッグを間違って持って来てしまった事に気づく。

北見のバッグの中に入っていた日記を見つけたからである。

それを無意識に読んでいた冴子は、北見が、UBCからのキャンセルを受けた後、次々と他社からの契約もキャンセルされ、東洋銀行からの融資も打ち切られ、クリスマスの日、世界テレビの事務所を畳んだ経緯を知る。

同僚だった山川は、かつて勤めていたソフトコーラ社に戻り、自分一人になった北見は、あのスペイン料理店に行き酔いつぶれていたが、そこへやって来た、あの画家、宗方の言葉「命を賭けて戦うんや!負けたら死ななあかんのや!」を聞いたのに啓示を受け、東通の高野の元を訪れると、闘牛を呼びたので1000万かしてくれないかと申し出る。

新聞社でさえ失敗したイベントを、再びやっても成功の見込はないと断わろうとする高野に対し、担保代わりにと、北見は、受取人を高野にした生命保険を見せて、その決意の強さを見せつけるのだった。

飛行場に到着し、今飛び立たんとする飛行機のタラップの下までやって来た冴子だったが、彼女の頭の中には、日記の最後に記されていた「失敗したら、生きては帰れない」という北見の悲痛な言葉が渦巻いていた。

やがて、冴子は、タラップを昇りかける江藤に対し、「ごめんなさい!」の一言を残して、その場から立ち去るのだった。

ホテルに戻って来た冴子が、すでに人気がいなくなった北見の部屋で観たものは、パターソンコルトの空きケースだった。

その頃、ヨットハーバーに、ガルシアの妻と娘を捜していた北見は、かろうじて、ボートで去ろうとしていた二人を発見、その言葉から、ガルシアが三日後に彼と会う約束をしていた事を聞く。

そこへやって来たのが冴子だった。

彼女は、かつて結婚式に向う列車の中で、自分より仕事を選んで、ホームへ飛び下りた北見の姿を観た時から、自分は死んでしまったので、あなたにもその気持ちを味わわせたかったと告白するが、パターソンコルトの弾倉から、自殺用に入れておいた一発の弾丸を抜き出してみせると、北見は「たった一発で人の命を奪うもの…、それは君だ!僕の人生に必要ないもの」と言い放って、その弾丸を海に投げ捨て、立ち去るのだった。

マドリッドの闘牛場で、無事、ガルシアとの契約に漕ぎ着けた北見。

一方、同じ闘牛場に来ていた冴子は、北見に会う事なく、同行していた江藤に別れを告げると、その場を後にする。

その後、北見の元へやって来た江藤は、冴子は、自分を鍛え直すために、独りアメリカへ旅立ったと告げる。

それを追おうとした北見だったが、その腕を取った江藤は、今、君が彼女を追えば、せっかく決意した彼女の気持ちがぐらつくと制止するのだった。

やがて、闘牛に夢中になって声をあげる江藤と北見の姿があった。

その上空には、冴子が乗ったアメリカ行きの飛行機が闘牛場を見下ろしながら飛び去って行くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「世界を賭ける恋」(1959)に注ぎ、大掛かりなヨーロッパロケを敢行した作品。

バイタリティ溢れる青年と誠実なタイプのエリート青年の間で揺れ動く若き女性の心を描く、いわゆる三角関係ものだが、結末は単なるラブロマンスや観光映画には終わっていない所がミソ。

主要な三人の男女の心の葛藤が克明に描かれており、かなり展開はシリアスである。

かといって陰々滅々とした暗い話でもなく、途中には、希望に溢れるサクセスストーリー要素もあり、波瀾に満ちている。

全体的には、明るいスペインの陽光のように、熱い活力に満ちた内容と言えよう。

途中何度も登場する、頭のおかしくなった画家が見せるマタドールのデッサンと、たえず、その絵に降り注がれる赤い血が象徴的。

「世界を賭ける恋」におけるヨーロッパロケは、あくまでも絵葉書趣味と言うか、観光見世物目的に見えて、あまり物語世界にフィットしていたとも思えないが、この作品では、それなりに有効に使われているように思える。

ストーリーも、テレビ創成期、海外の放映済みテレビ映画を安く買い上げ、それを日本に売るという商売発想は面白く、実際に、当時の時代背景を元にしたアイデアだと思う。

又、そのテレビ洋画に吹き替えするのを、費用節約のため、特定の劇団に依頼するなどという発想もリアルだ。

スペイン風邪の世界的流行などと共に、当時の世相を知る手がかりにもなる。

やや愁いを含んだ北原三枝のキャラクターは、この作品の役柄にピッタリという感じがする。