1975年、ホリ企画制作+東宝、三島由紀夫原作、須崎勝彌脚本、西河克己監督作品。
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周囲が一里にも満たない小さな歌島の北西部の急斜面には、寄り添うように民家が集まっている。
水脈に乏しいこの島では、20年前から水の配分が決められており、各家庭の時間割りにそって、水を汲みに通うのは女の仕事だった。
そんな水源から、今しもうら若き女性が水を二つの桶に入れて、それを天秤で肩に支えて歩き出したが、どこかその動きにはぎこちなさが見えた。
案の定、階段で、一人の青年と出会った時、バランスを崩して、桶を取りこぼしてしまう。
そこから溢れ出した水が、下から昇って来た青年を濡らしてしまう。
青年は、残った水を二つの桶に均等に分けてやって、少女に担がせるのだった。
青年の名前は、大量丸に乗っている漁師の久保新治(三浦友和)と言った。
彼は、その日捕れたばかりのヒラメを持って、わだつみのみことを祭った八代神社にもうでると、その足で、いつものように灯台長(有島一郎)の家に持って行っていく途中だった。
新治の何時に変わらず律儀なその行動に礼を言って、妻(津島恵子)が受取る。
灯台長は、間もなく東京の大学に行っている娘の千代子(中川三穂子)が、春休みに帰って来るとの手紙を読んでいた。
帰宅した新治は、母親とみ(初井言栄)に、この島にも水汲みが下手な女がいると、さっき出会った娘の事を話す。
家では、弟の広(亀田英紀)が、修学旅行の費用を何時くれるのかと母親にせがんでいた。
海女で生計を立てているとみは、アワビ漁が解禁になるまで待てと言うが、小学生の広にはそれまで待切れなかった。
翌日、大量丸で蛸漁に励んでいた新治は、船長(花沢徳衛)から、照爺と呼ばれる宮田照吉(中村竹弥)の所に、他所へ養女に出されていた初江(山口百恵)という娘が戻って来たと聞かされる。
昨日の、あの水汲みが下手な娘の事であった。
その初江の美貌振りは島の若者たちの間でも持ち切りで、彼女が自宅でふき掃除をしている所を、近所の青年たちが一目観ようと押し掛けて来て、ちょっかいをかける言葉を投げかけるが、そこへ現れた照爺の一にらみでクモの子を散らすように逃げ去ってしまう。
その日、新治は神社で、家族の健康と、できれば、あの初江のような娘と結婚させて欲しいと祈るのだった。
ある日、舟のエンジンが壊れたので、家で休んでいた新治は、山へそだを採りに行ってくれと言うとみの言葉に従い、山を昇っていくが、頂上にある観的所で、時ならぬ美しい女の歌声を聞く。
声のする屋上へ出てみると、それはあの初江であった。
二人は、先日の事もあり挨拶をかわすが、狭い島の中で人の噂になるのを嫌い、別々の道を降りて帰る事にする。
その夜の青年会では、その山から降りて来る初江と出会ったと言う青年が自慢話を披露していたが、単に「今日は」「さようなら」と挨拶をかわしただけの事だった。
青年会の代表を勤める実力者の息子、川本安夫(中島久之)は、その日はそそくさと要件を述べると、帰宅の途につく。
何でも、照爺の家の宴会に呼ばれていると言うのだ。
それを聞いた新治は、ジッとしていられなくなり、青年会を抜け出すと、安夫にお酌させられている初江の姿を、外からやきもきと眺めるのだった。
翌日、漁業協同組合で給料をもらった新治は、安夫が照爺の家の入り婿になると言う噂を聞く。
帰り際、特儀丸と言う舟を陸揚げしている初江の姿を見かけ、自分も一緒に手伝う新治であった。
ところが、その後、帰宅して、広に修学旅行費を渡してやろうとした新治は、給料袋をどこかで紛失した事に気づき、慌てて夜の浜辺に戻っていく。
その直後、心配して家の外に出かけたとみの元へ、初江が給料袋を拾ったと届けに来る。
その頃、暗い浜辺で賢明に給料袋を捜していた新治の元へ、とみから居場所を聞いた初江がやって来て、給料袋をすでに家の方へ届けたと教えに来る。
それを聞いて安堵した新治は、思いきって、安夫の入り婿の噂の真偽を尋ねるが、初江は吹き出して、胸が苦しいと言い出す。
思わず、大丈夫かと、その初江の胸に手を添える新治だった。
数日後、鳥羽の港では、修学旅行に出かける広とすれ違う形で、千代子が帰って来る。
そんな千代子の姿を見かけた安夫は、島に戻る舟の中でしきりに話し掛けるが、当の千代子は、新治の乗った大漁丸を発見し、新治に呼び掛ける。
千代子は、前から新治の事が好きだったのだ。
その頃、初江は、灯台長の妻に刺繍を習いに出かけるが、あいにく娘の千代子が帰って来る日とあって、常連の者たちは気を利かせて誰も来ていなかった事を知る。
しかし、それではと遠慮しかける初江を止め、妻が、自分が苦手なナマコを彼女にさばいて欲しいと台所へ迎え入れる。
やがて、灯台長は、千代子を誘って灯台へ向う。
山を昇りながら、灯台長は、この島に戻って来たら謙虚な気持ちを忘れずに、余計な噂等広めては行けないと、千代子に釘をさすのだった。
その後、いつのもように、新治がおこぜを持って灯台長の自宅へやって来て、初江がいる事を知るが、その直後戻って来た千代子は、すぐに帰ろうとする新治を引き止め、土産に持って来たと言うライターを無理矢理渡そうとするのだった。
しかし、ライターの火を付けて、その火は自分の情熱だなどと意味ありげな言葉を投げかけて来る千代子の態度に困惑した新治は、自分はタバコは吸わないからと、ライターをもらわずそそくさと帰る。
帰る途中で、先に家を出て待っていた初江に、千代子とは何でもない事を懸命に弁明した新治だったが、さっき、千代子との仲を邪推して、怒りのあまり殴ったおこぜのトゲが刺さったという初江の手の平を、優しく吸ってやるのだった。
一緒に帰りながら、何故いつも灯台長の所に魚を持っていくのか初江が聞くので、中学卒業する時、落第しそうになった自分を助けてもらった礼だと答える新治。
次は何時会えるかと聞いて来る初江に対し、雨の日以外に休みはないと無念そうに答えざるを得ない新治だった。
その日から、雨の日を待ち受ける新治だったが、皮肉な事に晴天続き。
それでも、ようやく訪れた豪雨の日に、朝から浮き浮きして家で休んでいた新治は、初江との約束の場所、観的所に向うのだった。
先に到着した新治は、びしょぬれの服を乾かすために、たき火を起こすが、その日を見つめている内にうとうととし始める。
そこへ遅れてやって来たのが初江。
彼女は、新治が寝ているのを幸いに、その場で濡れた服を脱ぎ出すが、その時目覚めた新治に対し、観てはいけないとたしなめる初江。
恥ずかしいと言う初江に対し、それでは、自分も裸になるからと言って、裸になる新治。
それでも、初江は、まだ全部取っていないと言うので、新治は思いきって、下帯もほどいて生まれたままの姿になる。
それを観た初江は、その火を飛び越えて来いと言い、その言葉に従った新治は初江を抱こうとするが、自分はもう新治と結婚するつもりでいるから、だから、今はいかんと、はっきり拒否する初江だった。
その頃、千代子は、家でレコード等聞いていたが、雨が上がったので、絵を描きに山へ登ってみる事にする。
すると、その途中、観的所から仲睦まじく出て来る新治と初江の姿を見かける。
新治は、初江をおぶって山を降りはじめる。
その後、港で声をかけて来た安夫が、自分は照爺の家の入り婿になると自慢しているのを聞いた千代子は、それはどうかしら、私観ちゃったの等と意味ありげな返事を返してしまうのだった。
新治と初江の事を知った安夫は、水汲み時間表を観て、初江が一人で水を汲みに来る時を狙い、襲いかかろうとするが、どこからともなく突然現れた蜂に刺されて、目的を達成する事は出来なかった。
その後、修学旅行から帰って来た広は、京都の映画館で観たと言うインディアンの真似事をして遊びに出かけた洞窟の中で、同じ遊びをしていた仲間たちから、兄の新治と初江が出来ていると言う噂を聞かされるのだった。
その噂はたちまちの内に島中に広まり、母親とみの耳にも届いた。
とみは、新治に事の真偽を尋ねるが、新治は何もやっていないときっぱり答えるのだった。
しかし、その頃、銭湯へ出かけた照爺は、先に入っていた客たちが話しているうわさ話を聞いてしまい、怒りのあまり、初江の外出を禁止してしまう。
仕方なく、初江はそれから、台所の側にある蛸壺の下に新治宛の手紙を置く事にし、それを、大漁丸の同僚、竜二(川口厚)が取りに行ってやる事にする。
そうした良からぬ噂は灯台長夫妻の耳にも届き、灯台長は、そんな噂を広める等、この島に対する大変な冒涜だと、怒りを露にするのだが、それを聞いていた千代子は、自分のした事の浅はかさを悟り、すぐさま、逃げるように島を離れる事になる。
その舟の中から、千代子は、あの新治の為に買って来たライターを投げ捨ててしまう。
そんな中、互いに会いたい気持ちがつのる二人は、ある日、照爺に来客がある日を選び、こっそり八代神社で落ち合う連絡を手紙でするが、新治の行動を目撃した安夫の告げ口によって照爺の知る所になり、神社に着いた初江は、新治の目の前で連れ戻されてしまう。
自宅に連れ戻された初江に対し、照爺は、お前の婿は俺が決めると断言してはばからなかった。
後日、照爺の所有する沿岸輸送船日の出丸の船長(青木義郎)が、照爺に呼出されたと島にやって来る。
やがて、その船長が十吉を伴って新治の家を訪ねて来る。
船長は新治に、日の出丸に乗ってみないかと思わぬ誘いをして来る。
それを聞いたとみは、家が貧乏だから、照爺が新治を初江から引き離そうと企んでの事に違いないと反対するが、新治の方は快諾する。
その息子の判断に納得がいかないとみは、怒りのあまり、照爺の家に乗り込んでいくと、会いたくないと言う照爺に対し、こちらから初江なんかもらう気はないと怒鳴ってしまうのであった。
数日後、新治と安夫を新たに加えた日の出丸は出航していくが、港まで見送りにやって来た初江は、十吉を介し、自分の写真とお守りを新治に託すのだった。
舟では、新治、安夫とも、単調で辛い下働きをさせられる事になるが、要領の良い安夫は、途中ですぐ休憩を取ったり怠け癖を露呈し、そう言う姿を船長からこっそり観察されているのに気づかなかった。
その頃、歌島ではアワビ漁が解禁となり、とみも初江も海女として一緒に海で働くようになるが、とみは初江に対し啖呵を切ってしまった手前、どうしても距離を置いて避けるようになってしまう。
そうした両者のわだかまりを感じ取ったお春婆さん(丹下キヨ子)は、たき火にあたっている海女たちに、突然、乳比べをしようと言い出し、恥ずかしがる初江の胸をかき開いて、これが男を知らん処女の胸だと全員に訴えるのだった。
そうした所へやって来た行商人(田中春男)は、ビニールのバッグを景品に出すから、アワビ採り競争をしないかと海女たちをけしかけ、結果的に、初江が一番たくさんのアワビを採って優勝する。
景品として差し出されたバッグの、わざと年輩者向けの茶色い方を受取った初江は、それをとみに渡そうとするが、とみの方は、そうした初江の気持ちに素直になれない。
それを観ていたお春婆さんが仲介して、ようやく、とみは頑だった今までの自分を恥じて反省するのだった。
そんな中、日の出丸は嵐に遭遇し、もやい綱が切れてしまう。
誰か、綱をブイに繋ぎに行く者はないかと声をかけた船長だが、嵐の海に泳ぎ出ると申し出る者はいなかった。
では俺が行くと、船長自ら泳ぎ出そうとした時、新治が自分が行くと言い出す。
荒れる海に飛び込み、ブイまで泳ぎ着いた新治は、何とかブイに綱を結び付ける事に成功する。
そうした新治の勇敢な行動を、安夫は舟から恥ずかしそうに眺めていた。
やがて、夏が来て、新治と安夫は、無事、島に戻って来る。
新治は、前と同じように大漁丸で働くようになるが、その後照爺から何の連絡もないと言う。
一方、灯台長は、悪い噂を広めた張本人が自分だったと告白する東京の千代子から手紙を受取っていた。
それを、お春婆さんや海女たちに見せ、初江と新治の仲は清いものだったと証明した灯台長の妻は、一緒に照爺の所へ行って、晴れて二人を一緒にさせてもらうよう説得しようとするが、それを聞く間でもなく、照爺の気持ちは固まっていた。
日の出丸での行動を船長から聞いていた照爺は、「男の価値は気力だ、家柄や財産は二の次だ」と言い、初江の婿になるのは新治しかいないと言い放つのであった。
見事、初江を射止めた新治は、八代神社にお礼参りに出かけるが、そこにやって来た十吉たちが、初江と二人で舟に乗れと勧めるのだった。
若い二人は、大漁丸に乗って海に乗り出していく…。
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三島由紀夫の有名な青春小説の4度目の映画化。
公開当時は、単なるアイドルものだろうと、少し見くびって観ていなかった作品だが、改めて観てみると、実にしっかりできた名作である事が分かった。
文芸ものは、派手さこそないが、つくづく日本映画に向いていると感じた。
百恵、友和コンビ以外には、特別、有名な俳優が出ている訳でもなく、比較的、予算もかかっていないだろうと思われるのだが、観ていて不自然さやちゃちさは全くない。
むしろ、その風光明美で伸びやかな地方色が、優しく心に染み込んで来る感じ。
有島一郎と津島恵子の夫婦役とか、初井言栄、田中春男、丹下キヨ子、花沢徳衛など、要所要所を締める名脇役たちの存在感も大きい。
ストーリー自体は、吉永小百合版などとさほど大きな違いはないが、後半、日の出丸で遠洋に出かける所ははじめて観た。
嵐のシーン等、本格的にプールで作られており、なかなか迫力もある。
山口百恵も、観的所でのセミヌードシーン等、体当たりで良く演じているし、基本的に「忍」を感じさせるキャラクターと相まって、存在感のある初江像を見せてくれる。
三浦友和も爽やかで、良く健闘している。
これは、単なるアイドル映画と言う枠を超えて、誰が観ても楽しめる日本映画の一本だろう。
