TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

二等兵物語

1955年、松竹京都、梁取三義原作、舟橋和郎+安田重夫脚本、福田晴一監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

第一部「女と兵隊」

町役場の使いが、「日本発明科学研究所」という看板がかかった家を訪ねて、声をかけると、返事は聞こえるけれど誰も出て来ない。

様子がおかしいので、家の中を見回すと、「訪客探知器」と書かれたアンプのような機械から声が聞こえて来るではないか。

声に導かれるまま、裏手に廻ってみると、川に入った男が、おかしな釣りの道具で魚を捕ろうとして失敗している。

その男が、古川凡作(伴淳三郎)かと、確認した役場の使いは、彼に一通の書留を渡して帰る。

封を開けてみると、それは召集令状であった。

同じ頃、妻を亡くし、今は、残された子供の三太(松井晴志)と二人暮しをしていた貧しい靴修理屋、柳田一平(花菱アチャコ)の元へも、同じ赤紙が届いていた。

中部第64部隊の入隊日、大勢の召集者たちの中に混じって、乳母車に乗った奇妙な男が一人やって来る、

川に長く入っていたため、持病の神経痛が出て、腰が伸びなくなってしまった凡作であった。

しかし、その姿を目にした新聞記者たちは、身体が不自由なのに入隊志願して来た立派な日本人の見本として写真を撮って帰る。

独り息子を残したまま入隊したくはなかった柳田は、身体検査の時、軍医に事情を話して、不合格にして欲しいと願い出るが、そんな事が通るはずもなく、見事に入隊してしまう。

凡作の方も、事情を話すと、神経痛治療器という奇妙な機械に座らせられて、無理矢理、身体を伸ばさせる事になる。

入隊した凡作や柳田を待っていたのは、上等兵たちによる陰湿ないじめだった。

朝の点呼の時、軍人五箇条をきちんと言えなかった凡作は、班長から怒鳴り付けられるが、彼が発明家だったと聞くと、見直されたのは良いが、凡作が持っていた愛用の発明灰皿を取り上げられてしまう。

そんな凡作、ある日、若林隊長(山路義人)から呼びつけられたので行ってみると、新聞を読んだ山元鶴子(和歌浦糸子)とその姪の初瀬悦子(宮城野由美子)という御婦人たちが、感激して慰問に来てくれたのだと言う。

新聞記事というからには、自分の発明の事か何かが紹介してあるのかと喜んだ凡作だったが、見せてもらった新聞に載っていたのは、あの乳母車に乗って入隊したぶざまな自分の写真だった。

がっかりした凡作は、隊長が部屋を出て行った後、自分は発明をしたいのであって、早く戦争が終わってくれる事を願っているのだと本音を洩らすと、それを聞いた鶴子の方は、軍国婦人として怒りを露にし、早々に帰ってしまうのだった。

逆に、先ほどまで、何となく、叔母ほどには凡作に興味を持っていない様子だった悦子の方が、急に、凡作の人柄、考え方に共感したらしく、親し気に語りかけて来て、慰問袋まで渡すではないか。
彼女は叔母とは違い、元々、軍人なんかが嫌いだったのだ。

部屋に戻って来た隊長は、その慰問袋をここに置いて、お見送りをして来いと、凡作に命じるのだった。
もちろん、その慰問袋は、隊長が横取りする事になる。

部隊に戻ると、相変わらず、上等兵によるいじめの数々、柳田は柱に捕まって「セミ」のまねをさせられ、凡作は、二つの机の間に懸垂状態になって「自転車こぎ」の真似を延々させされる。

そんなある日、演芸大会が開かれていた最中、凡作を訪ねて来た悦子に気づいた歩哨担当の柳田は、気をきかせてこっそり凡作に知らせてやる。

喜んだ凡作は、節子を人気のいない場所へ案内し、今まで女には縁のなかった自分の寂しい過去を打ち明けるのだったが、実はその場所、弾薬庫のすぐ側で「火気厳禁」の注意書きもしてあったのだが、気づかない凡作は、そこでタバコに火をつけ。そのマッチを近くに捨ててしまったからたまらない。

火は草に燃え広がり、二人がそれに気づいた時にはもうかなりの勢いに燃え上がっていた。

慌てた凡作は、悦子をその場から逃して、一人で消化しようとするが、その異変に気づいて駆けつけて来た部隊員たちによって、事なきを得るのだった。

しかし、その事態に気づかなかった歩哨係の柳田は大目玉をくい、逆に、凡作は単身消火に立ち向かったと誤解され、誉められる事になる。

その誤解が生んだ軍功によって、隊長の当番役となった凡作は、隊長の二号の家にお供する事になる。

その後、硬く口止めをされた上、本宅に連れて行かれた凡作は、隊長の本妻、若林静江(幾野道子)を紹介されるのだが、その静江の父親と言うのが軍指令長官、つまり、その家の実権を握っているのは妻静江の方であり、若林隊長は、その入り婿のような弱い立場だった。

さらに、そこにたまたま遊びに来ていた静江の知人というのが、先日、慰問にやって来た山元鶴子だった。

鶴子は、凡作の顔を見るや、先日の彼の戦争嫌いの言葉を思い出し、静江に告げ口するのだった。

その若林家で、凡作は下働きのようにこき使われる事になる。

しかし、夜中、部隊に戻って来た凡作は、屋敷から持って来たパンを、寝ていた二等兵仲間に配ってやるのだった。

ある日、いつものように、隊長を二号宅へ送り届けた後、久しぶりに、悦子と出会って話し込んでいた所を、偶然通りかかった静江に見つかってしまった凡作は、静江に問いつめられたあげく、強引に二号のアパート「翠明荘」へ案内させられてしまう。

そうした様子は、こっそり後を付けて来た悦子によってすっかり目撃されていた。

いきなり妻がやって来た様子を窓から知った隊長は、慌てて逃げ出し、部屋の前までやって来た凡作と静江の前に現れた二号の清水マリ(関千恵子)は、いきなり凡作に抱きつくと、自分は彼の妻だと静江に説明するのだった。

不信がりながらも、一応、そのマリの言葉を信じ帰った静江だったが、残された凡作に、マリは怒りの言葉を浴びせかけるのだった。

「どうしてB-29(静江のこと)なんか、ここへ連れて来たのだ!」と。

その時、にわかに空襲警報が鳴り響き、空を見上げると、本当のB-29が飛来して来る所だった…。


第二部「蚤と兵隊」

いつものように、歩哨係で外を見張っていた柳田は、塀の外に現れた息子三太の姿を見て吃驚する。

預けられているおじさんの家では、犬のコロを捨てて来いと言われたと言うのである。

そんな三太をどうにかしてやりたいと考える暇もなく、サボっている所を上等兵に見つかり、その場でボコボコに殴りつけられる父親の姿を見た三太は大泣きするのだった。

一方、凡作の方は、若林隊長に呼びつけられると、あの2号のマリとお前が結婚してくれと言う。

先日のマリの言い訳を真に受けた妻の静江が、どうしても二人を結婚させたがっていると言うのである。

形だけで良いのかと確認し、さらに交換条件として、柳田を召集解除にしてやってくれるならと約束の上、不承不承、マリと結婚式を執り行なう凡作だった。

その式に参加した隊長は、マリと凡作が深い仲になりはしまいかと気が気ではなく、早く妻静江の前から逃げ出そうと、空襲警報が出たのを幸いに、部隊へ帰ると言い訳をしてマリの部屋にやって来るのだが、マリは一人ですやすや寝ており、凡作は一晩中不寝番をしていたとはっきり答えるのを見て、一安心するのだった。

翌日、感謝の気持ちを込めて、隊長は凡作に、自分の金鵄勲章を譲り与えるのだった。

そんな凡作は、友人柳田の息子三太を、女子挺身隊で働いていた悦子に預かってはくれまいかと相談に行くが、マリとの一件を知っている悦子は、三太に裏切られたと思い込んでおり、言う事を聞いてはくれない。

あれは隊長命令でやらざるを得なかった芝居なんだと、もらった金鵄勲章を見せて必死に説明する凡作を見て、ようやく納得した悦子は、寮暮しをしている自分には無理だからと、叔母の山元鶴子に三太を預かってもらう事にする。

ところが、ある日、部隊でその山元鶴子と出会った凡作が、三太の事を聞いてみると、あの子は、芋を盗む悪い子だと言い、とっくに家出してしまったと言うではないか。

それを聞かされた柳田は、どうしてやる事も出来ない自分をただ笑うしかなかった。
自暴自棄に見える柳田の身を心配した凡作は、早まった事は考えるなと諭すのだが、翌朝、点呼の時間になっても、柳田の姿はなかった。

三太恋しさに脱走したのだ。
自宅に戻った柳田だったが、三太の姿はなかった。

ただちに、その柳田追跡を命じられた凡作たちだったが、途中で、グラマンの機銃掃射を浴びているコロと、それを追い掛ける三太の姿を発見し、無我夢中で凡作は三太を抱きとめるのだが、コロは機銃に当って絶命していた。

その三太を、こっそり部隊内に連れて来た凡作は、取りあえず便所の中に匿うのだった。

その直後、柳田が連行されて戻って来て、懲罰のため、柳田は営巣に入れられる事になる。
その夜、凡作は、三太を肩車してやると、営巣にいた柳田に窓から面会させてやるが、戻って、もう一度便所に匿おうとしていた所を、仲間の密告によって見つかり、凡作は、上等兵たちからボコボコに拷問されるのだった。

その後、フラフラになりながらも、隊長部屋を訪れた凡作は、マリからの別れの手紙を読んでいた隊長に対し、何とか、三太を部隊内で育ててやる事は出来ないかと相談するが、全く相手にもされなかった。

翌朝、三太は、部隊から独り追い出されてしまう。

その姿を見て、「これが日本の軍隊というものか…」と、絶望する凡作だった。

その後、みじめな路上生活をしていた三太を偶然発見したのは、たまたま通りかかった悦子だった。

凡作は、それからも、毎日のように上等兵たちからのいじめに耐えていたが、そんな中、日本が無条件降伏して戦争は終わったらしいと言う噂が、部隊内に駆け巡る。

その話が広まるや否や、浅ましい事に、上等兵たちは、備蓄していた物資を一人占めにしようと、我勝ちに倉庫に走って行く。

そんな姿を見て、呆然としていた二等兵たちだったが、怒り心頭に達した凡作は、戻って来た上等兵たちに機関銃を突き付けると、彼らを壁際に並べて、「お前ら、それでも、人間か!?」と怒鳴り付けるのだった。

そして、「どうして、軍隊と言う所は、ビンタ等と言った暴力ばかりで部下たちを支配しようとするのか?部下たちの心等考えた事があるのか?…」と、切々と、今まで溜まりに溜まっていた鬱憤を全てぶちまけるのだった。

その言葉を聞いていた上等兵や隊長たちは、反省し、心動かされて行く…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

伴淳とアチャコ主演の喜劇風戦争人情もの。

喜劇風としたのは、この作品、お笑いを狙って作られたというより、最後のメッセージ性を訴えたかった作品のように思え、事実、その部分が大きな感動を呼ぶ名作になっているからだ。

もちろん、伴淳が最後にとうとうと訴える演説は正論である。

しかし、それは、戦争当時は決して口にする事が出来ない類いのものであった。

戦後の映画だからこそ、堂々と劇中で主張できたのだ。

平和時には当たり前に思える「正論」、それが通らなくなる戦争と言う狂気を訴えた作品になっている。

ドタバタ調なのは冒頭部分だけで、後は、悲惨な新兵生活の実状と、しんみりした人情話風の展開になって行く。

伴淳もアチャコも、ここでは、どちらかというと真面目な演技に終止している。

本作で注目すべきは、戦争当時は、女性の中にも、戦争を後押しした軍国婦人がいたという表現だろう。

ユーモラスに描いてはいるが、なかなか近年の戦争映画の中には登場しない描写である。

戦争を知らない世代にとっては、そんな事があったのか…程度の認識しかないが、この作品が公開された当時は、新兵生活を知っている観客も多かったはずで、その人たちの鬱憤を晴らす形のこの映画が、シリーズ化されるほど共感を呼んだ事は容易に想像できる。