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女獣

1960年、新東宝、葉山浩三+志原弘脚本、曲谷守平監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

山道を走る自動車には、東和銀行の現金5500万円入りのトランクが積まれていた。

その現金輸送車の前に突然、血まみれのナイフを手にした女が飛び出して来る。

急停車した車の運転手が、運転席を開けて、訳を聞こうとすると、その女は「今、人を殺して来た所だ」と言う。

驚いて運転手が外に出かかった時、覆面姿の男二人が現金輸送車に走りより、後部座席でトランクを守っていた男二人と、逃げかけた運転手をその場で射殺してしまう。

ナイフをもった女は、覆面の男たちの仲間だった。

女は、現金入りのトランクを奪った二人に、巧く言ったと近づいて行くが、その女の腹部に向けても、男の一人は発砲すると「この女は口が軽いと」と呟く。

近くの車で待っていた、もう一人の女は、トランクをもって近づいて来る二人に、付いて来ない女の事を聞くが、男たちは何も答えなかった。

その後、警視庁では、現金輸送車強奪事件を担当する課長(細川俊夫)の元に、婦人警官瀬川路子(松浦浪路)が先輩から連れて来られる。

課長は彼女に、5500万円が強奪された事件の概要を説明すると、殺されていた女の身元が、新宿界隈を根城にしている不良少女グループにいた中田秀子であり、そこから仲間を探り出すために、君は山田鈴子という不良女に化けて女子少年院にいる秀子の親友エミ(青木エミ)に近づき、そのグループから内情をさぐって欲しいと命ずる。

女子少年院に潜入した鈴子こと瀬川路子は、所内でケンカをしていたエミに近づき、新宿を懐かしがっている彼女に、自分は秀子の友達で彼女を捜していると自己紹介した後、脱走を持ちかけ、出入りしていた鶏業者のトラックの荷台に潜り込むと、まんまと脱走に成功する。

新宿では、不良少女グループの圭子(星輝美)が、街角でシャブを売り捌いていたが、警察が来たと言うので、逃げる途中、ラッキーという店のゴミ箱の下に、自分の腹部に貼付けていたシャブを隠す。

しかし、その様子を物陰から伺っていた白い上下の男(菅原文太)に、その薬を奪われた事に彼女は気づかなかった。

その圭子は、路地裏に隠れていたエミに呼び止められ、彼女たちが女子少年院から脱走して来たと知る。
そんな圭子に近づいて来たヤクザのサブこと三郎(小高まさる)は、シャブの隠し場所を聞く。

暁興行というヤクザが仕切っているジャズ喫茶「パンドラ」では、美貌の竜子(左京路子)が客を外から引っ張り込んで来ては、店側から小遣いを稼いでいた。

そんな所に圭子に連れて来られたのがエミと鈴子。

竜子は、女子少年院を脱走して来たエミを歓迎すると共に、彼女が連れて来た鈴子の美貌に目を付け、自分が面倒見てやると言い出す。

その後、圭子を近くの空き地に呼出したサブは、言われたラッキーのゴミ箱の下にはシャブがなかった、5万円分ものブツをなくしたと圭子を殴りはじめる。

そこへ突然近づいて来たのが、暁組の社長の女で姉さんと呼ばれている木村朝子(小畑絹子)だった。

彼女は、弱いものいじめしているサブを叱りつけると、圭子を助けてやる。

「パンドラ」では、バンドの演奏するジャズに合わせ、客たちが踊っていたが、白の上下の男が、突然、鈴子に近づくと、一緒に踊ろうと誘い掛けて来る。

しかし、その場は、竜子が間に入り、きちんと仁義を切れと男を追い払う。

そんな「パンドラ」に、刑事二人を引き連れた防犯協会会長の河原田(岬洋二)という中年男が現れ、少年少女の非行を防ぐため、たえず、話し掛けてやっている等と説明している姿を鈴子は観察していた。

その後、さらに、金を払った男が待っていると呼ばれた鈴子が外に出てみると、流しが持っていた白いギターを借り、それをつま弾きながら甘い歌を歌っていた先ほどの男がいるではないか。

その男と連れ立って出かけたホテルで、相手は麻薬Gメン杉山正一だと正体を明かす。

彼が言うには、鈴子が追っている現金強奪事件で奪われた投資番号付きの新札が香港で使われた事が判明し、こちらで捜査中の麻薬密輸と関係あるらしい事が分かったらしい。

さらに、新宿を根城とする暁興行が怪しいと教えられる。

後日、その暁興行に竜子とやって来た鈴子は、組員の山村(国方伝)にその美貌を気に入られると、取りあえずヌードモデルをやらせようと、隣室で靴下を脱がされ手足のライン等を観られる事になるが、たまたまそこで他の組員が話していた「レインハットにサングラスを付け、週刊誌を持った男に接触しろ」と言う事場を聞いた鈴子は、それを書いたメモを、戻った「パンドラ」にいた杉山にこっそり渡すのだった。

そのかいあって、暁興行の組員に現金の受渡し後のその男を、警察は連行する事になる。

鈴子は、その後も、圭子に接触すると、しきりに秀子の事を聞き出そうとするが、何故か、圭子は口をつぐんでおり、そうした鈴子の行動を妨害するように、サブたちが、たえず圭子の近くで見張っていた。

ある日、仲間の少女を捜していた鈴子は、偶然、河合ピアノの店で、「エリーゼの為に」を弾いている朝子の姿を見かけ声をかける。

その朝子と連れ立って店に戻ろうとしていた鈴子は、時ならぬ人ごみに驚き、その中心に近づいてみると、圭子が倒れており、救急車で運ばれる所だった。

何ものかに口をふさがれたらしい。

その後、山村に誘われて連れ込まれたホテルの中で、抱かれる素振りを見せ、先に風呂に行かせた鈴子は、山村のバッグの中から拳銃を取り出すと、それをソファに包んで発射し、取り出した銃弾をこっそり持ち去ると、ホテルを抜け出し本部に送る。

その頃、暁興行の事務所に乗り込んで来た朝子は、組員たちに、何故圭子を殺したのか問いつめていた。

ちょうどそこに、社長の鍵本(江見俊太郎)が香港から戻って来る。

その鍵本に反抗的な態度を見せた朝子だったが、急に苦しみ出すと、バッグから麻薬を取り出し、それを打つとソファーに倒れ込んでしまう。

彼女は、鍵本に麻薬中毒にされていたのだった。

そんな脱力状態の朝子を、「俺からは離れられないのだ」とつぶやきながら、鍵本はいつものように抱き締めると、香港土産の福の字をあしらったイヤリングを耳に付けてやるのだった。

抱き終わった鍵本は、いつものように、麻薬を潜ませたカメラを浅草にあるカメラ店葉山堂の主人栗林(久重京司)に届けるよう命ずる。

薬のために、鍵本から離れられない自分を恨んで泣き崩れる朝子だった。

しかし、結局、朝子は、命じられたまま、カメラを先方に持って行くのだった。

その頃、警視庁に戻った鈴子こと瀬川路子は、会議の席で課長から、彼女が持ち込んだ山村の拳銃の弾丸は、射殺された中田秀子から見つかった弾ではなかったと知らされ、さらなる潜入捜査を続行するように命じられる。

一方、葉山堂の栗山は、警察の手入れを食らったと鍵本に連絡して来たので、急遽、彼の身柄を保護する事にする。

ある日、暁興行の事務所に呼ばれた鈴子は、この前ホテルで恥をかかされた山村から、言う事を聞くように、シャブを打たれそうになる。

間一髪、そこに現れた朝子から、鈴子は助けられる事になる。

その後、鈴子を解放してやった朝子は、浅草松屋屋上のスカイクルーザーに乗った鍵本と栗林が、過去の木村という男の殺害に付いて、互いに義理を持ち合う中である事を盗み聞きしていた。

朝子はすぐに、栗林と言うのが、殺された父親の事を自殺と証言した運転手の片割れであった事を思い出す。

実は、木村朝子は、父親が汚職の濡れ衣を着せられ殺された事件の復讐を果たそうと、身を呈して、鍵本の情婦になって独自に調査を進めていたのだった。

そんな朝子が自宅アパートに帰宅してみると、別れたはずの鈴子がいるではないか。

自分を尾行していたのだと言う。

鈴子の事を信用できる相手と感じた朝子は、自分の過去を打ち明けるが、その最中、またもや、禁断症状が現れ、鈴子に介抱してもらう事になる。

その際、薬が入った机の引き出しの中に、ピストルもしまってあった事を発見した鈴子は、朝子が薬を打ってもうろう状態にある間、そのピストルをこっそり持ち去るのだった。

検査の結果、朝子所有の拳銃こそ、中田秀子の体内から見つかった弾丸を発射したものだと判明する。

しかし、鈴子こと瀬川路子には、あの朝子が殺人犯だとは、どうしても信じられなかった。

その頃、とあるホテルに宿泊していた栗山は、ラジオニュースで、自分が指名手配になっている事を知る。

そんな彼の部屋をノックする音が聞こえ、怪んで誰何すると、鍵本の使いのものだと言う。

扉をあけると入って来たのは、朝子だった。

彼女は、自分が殺された木村の娘だと告白し、事件の真相を話すよう栗林に詰め寄る。

その時、たまたまかかって来た鍵本からの電話に出た栗林は、木村の娘が来ていると打ち明ける。

耳に、福の字のイヤリングをしていると聞いた鍵本は、朝子がその木村の娘であった事を初めて知るのだった。

港から香港に逃してやると言われ、その場に向った栗林は、パスポートと金を渡していた鍵本に注意を奪われ、後ろから近づいて来た山村に気づかず、背中を刺されて倒れ込む。

鍵本らがその場を立ち去った後、栗林の後を追って来た朝子は、倒れた栗林に気づき抱き起こすと、真犯人の名前を尋ねるのだった。

虫の息の中から、栗林は最後の力を振り絞って、意外な真犯人の名を告げる。

一方、新宿に戻った山村は、鈴子たち不良少女グループに、朝子の行方を捜させていた。

その頃、朝子はアパートへ戻り、銃を引き出しから取り出そうとしていたが、そこは銃はなく、代わりに、待ち伏せていた鈴子の姿を発見する。

鈴子から、拳銃の入手先を聞かれた朝子は、鍵本から預かったと告白する。

朝子を捜すため、彼女の部屋に不良グループと近づいて来たサブは、室内の様子がおかしいのに気づき、仲間を呼びに行かせる。

その間、室内では、朝子が又しても禁断症状を起こし、それを介抱しようとした鈴子は、逆に、朝子から銃を奪われてしまう。朝子の芝居だったのだ。

朝子は、真犯人の自宅へ向い、ちょうど鍵本と話し合っていたその男目掛けて、銃を発射するが、倒れたと思っていた鍵本らは、実は芝居で、生死を確かめに近づいた朝子を捕らえると、板に彼女の両手を縛り上げて、風呂の上にうつぶせに寝かせると、蛇口を開き、浴槽に水を張り始める。

浴槽に顔を垂れた状態のまま身動きが取れない朝子の顔に、刻々水面が近づいて来る。

一方、サブたちに部屋に潜入された鈴子は、必至に抵抗するが、ついに捕まり、犯人の屋敷に車で連れて行かれる。

屋敷に連れ込まれそうになった瞬間、とっさの金的攻撃で、サブたちの手から逃れた鈴子はを掩護して来たのは、あの麻薬Gメン杉山だった。

彼から機動部隊が間もなく到着すると聞かされた鈴子だったが、朝子の身が心配になり、自ら、杉山から渡された拳銃を持つと、屋敷の中に突入し、風呂場で溺れる寸前だった朝子を救出する事に成功する。

その間、屋敷内に、到着した機動部隊が突入するが、鍵本は猟銃を持ち出し、二階のバルコニーから最後の抵抗を試みようとする。

しかし、結局捕縛されるが、真犯人はすでに外に逃げ出した後だった。

それを追い詰める杉山と機動部隊。

真犯人は、遊園地の乗物に独り登って行く…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

後の「スケバン刑事」や「女囚さそり」などを連想させる、女潜入捜査もの。

この時代、男性の潜入捜査ものは良くあるパターンだが、女性の潜入捜査というのは珍しい。

良く考えてみると、あまりにも危険過ぎて、現実にこんな事が行われるはずもないが、その荒唐無稽さを感じさせない程度には巧く作られている。

冒頭のショッキングな現金強奪シーンから、女子少年院内での女同士のケンカ、つまりは「キャットファイト」のサービスやら、あれこれ展開に工夫が凝らされており、意外に楽しめる犯罪サスペンスになっている。

幾度か、お色気シーンを予想させる展開にはなるのだが、何せこの時代の作品だけに、期待するような過激な描写などは一切ない。せいぜいキス止まり。

主役の婦人警官を演じている松浦浪路もなかなか愛らしい容貌の持主なのだが、竜子役の左京路子や朝子役の小畑絹子をはじめ、不良少女として登場している若手女優たちも揃ってなかなかの美人ぞろいで、後の、女性アイドル映画のように、若い男性ファンを目当てに作られている事が分かる。

逆に、麻薬Gメン役として登場している菅原文太は、まるでヒロインの引き立て役でしかなく、最後まで活躍するとは言い難く、ひどくマヌケに見えてしまうのが可哀想。

いくら、可愛い女性を見せる目的の映画と言っても、この菅原文太の扱いはみじめにさえ思えて来る。

当時の夜の新宿の様子や浅草方面の情景等、今では貴重に思える古き良き時代の東京の姿が垣間見えるのも嬉しい。

ヤクザの社長を演じている江見俊太郎独特の、冷酷そうな風貌も巧く生かされている。