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巨人 大隈重信

1963年、大映東京、八尋不二脚本、三隅研次監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

明治元年、イギリス行使サー・ハーリー・パークス(ピーター・ウイリアムス)は、中井弘(根上淳)、後藤象二郎(藤山浩二)が護衛に付き、皇居に向う途中、攘夷派の暴漢に襲われる。

この不始末で、時の新政府は、徹底的にパークスから糾弾される事になる。

さらに、九州のキリスト教弾圧が、アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ等列強の態度を硬化させる事になる。

この難局に頭を悩ました新政府は、誰に、パークスらとの交渉に当らせるか、人選に苦慮するが、伊藤博文(内藤武敏)と井上馨(藤巻潤)は、長崎の外国事務局判事として働いていた大隈重信(宇津井健)を強く推挙する。

しかし、突然、民間から起用された大隈との談判を、パークスと通訳(岡田真澄)は認めようとせず、会議は長時間に及んだが、大隈は一歩も後に引かず、宗教問題は内政干渉であると、これを退けるのだった。

この会議の結果、大隈の言い分を認めた諸外国は、以後、キリスト教弾圧の罪を軽減する事で納得する事になる。

この交渉術が認められ、大隈は大蔵、民部の両官僚を勤め、旗本の娘、綾子(坪内ミキ子)と結婚、築地に新居を構えるまでになる。

そんな大隈の自宅では、大隈が、自分は旧幕臣なのでと辞退する若き渋沢栄一(本郷功次郎)を閣僚に迎えんと説得していた。

そして、その説得に成功すると、自らが若かりし日、ジェファーソンの「アメリカ独立宣言」を読み、日本にも、主権在民の新しい政府を作る日が必ず来るので、一生を賭けて、その仕事に当ろうと決意した頃を思い出していた。

一方、そんな大隈邸を伊藤博文と共に訪れていた井上馨が、滋賀県知事に赴任した中井弘の元カノだったお八重(三条江梨子)を伴って来ていたので、この機会に、ここで二人の祝言を行おうと、大隈は言い出し、その場で井上に、お八重を幸せにする誓約書を書くようけしかけるのだった。

そんな折、長州藩の畑剛三(石黒達也)と名乗る来客がある。

大隈が対面してみると、新潟県知事米原一生を解任した理由を聞きたいと言う。

貧しい県民の税金を独断で半額にした米原の行為は、仁政(思いやりのある政治)ではないかと言うのだ。

しかし、大隈は、その考えは古いと断じる。

今、新政府の収入は14万程度、その僅かな予算で、あれこれ新しい事業を起こそうとする中、予算を減少させる行為は断じて許されないと説く。

しかし、その言葉を聞いた畑は、持って来た刀を抜こうとする。

それを見た大隈は、自分はいつでも斬れる、自分自身は、威嚇の為のひげを生やしたり、刀を持つ事はないと言い切るのだった。

さすがに、この毅然とした大隈の態度を見た畑は、刀を置いてしまう。

その時、あろう事か、中井弘が、イギリス政府から拝領したと言う金のサーベルを携えてやって来る。

大隈は、これから祝言を開くので出席してくれと、中井のみならず、今、自分を斬ろうとしていた畑にも声をかける。

一方、中井の突然の来訪に驚いた伊藤博文は、思わず、井上とお八重を別の間に隠してしまうが、大隈に連れられてやって来た中井の様子を見て、別に問題はなさそうだと、井上らと対面させる。

かつて付き合っていたお八重が、井上とこの場で祝言をあげる事を知った中井は、さすがに驚くが、すぐに気持ちを切り替え、自分が三三九度の盃をやってやると言い出す。

かくして、祝言は始まり、祝いの歌を求められた大隈は、「高砂や」などは知らないので、と言い訳をしながら、「宮さん宮さん、お馬の前で、ひらひらするのは何じゃいな〜」と「トコトンヤレ節」を歌い出す。

自分と同郷人品川弥二郎が作詞したその歌を喜んだ伊藤博文も一緒に歌いだし、大隈と即興で踊る姿を見た畑は、すっかり、大隈の人柄と度量に感心してしまうのだった。

その後、大隈は、参議を勤め、財政建て直しにまい進する。

明治14年、福沢諭吉(船越英二)が連れて来た小野梓(神山繁)ら秀才たちと、「国会開設奏議」の草案作りに熱中していた大隈邸を訪れた井上馨は、何となく、福沢と会うのを避けていた。

それと言うのも、大隈は、福沢や若い学生たちと、開拓使官有物払下げを批判する記事を新聞社に書かせ、民衆を煽っているという噂だったからだ。

同じく、国会開催を急ぐ大隈の急進的な動きに反発したのが、黒田清隆(小池朝雄)だった。

彼は、幕府を倒した薩長ある限り、新政府による国会等いらないと考えていた。

この意見には、大隈の盟友、伊藤博文も同感であった。

彼も又、国会開設は、時期尚早と感じていたからである。

さらに、黒田清輝が、屯田兵の選りすぐりを、大隈暗殺の刺客として送ったらしいので、大隈に、行幸のお供を止めたらどうかと言う福沢諭吉からの手紙が届く。

しかし、その任務を無事終えた大隈の元に、伊藤博文と西郷従道(石井竜一)がやって来て、太政官が罷免を決定したので辞表を出すよう、大隈に詰め寄る。

大隈は、一度、天皇に拝謁して、辞表を出したいと、翌日、馬車に乗って出かけるが、その途中、刺客数名(橋本力ら)に襲われる。

しかし、その場に駆けつけた一人の老人に助けられるのだが、その老人は、かつて、大隈を斬りに来て果たせなかった畑剛三だった。

例を言い、皇居に向った大隈だったが、すでに、手が廻っていたのか、門番が中へ入れようとはしまい、さらに左大臣有栖川宮邸に向っても、同じく門前払いされてしまう。

かくして、井上、伊藤、黒田たちに破れた大隈は下野する事になるが、これに怒った民衆の声に抗する事が出来なくなった政府は、 払い下げ中止と、明治23年に国会開設をする事を、約束する事になるのだった。

明治15年、草深き早稲田に引きこもった大隈は、立憲改進党を結成し、その総裁となると同時に、政治と学校は両輪だとして、この地に学校を作りはじめていた。

東京専門学校(後の早稲田大学)である。

築地の屋敷の時、庭師として働いていた八五郎(三角八郎)と親方は、建設途中の学校を見てたまげる。

当時の官立の学校は、全て外国語で教えていたのに対し、専門学校では日本語で教え、それまで未成熟だった政治学の分野に重点を置く事にする。

福沢の慶応義塾ではみだし者だった犬養毅なども、早稲田が引き受けるようになる。

こうした大隈の動きを、反政府分子を養成する危険な活動と判断した山形有朋(高松英郎)は、学校を潰せと、黒田に働きかけるのだった。

政府の妨害工作は、教師たちの引き抜き等に及び、経済的にも困窮を極めた大隈は、私財を全て投げ打って、狂死の給料等に当てていた。

こうした中、学生たちが、政府のスパイがいたと、都留(仲村隆)を大隈の元に連れて来る。

警官に、早稲田の内情を記した手紙を渡そうとしていた所を捕まえたのだと言う。

しかし、大隈は、その都留という学生を許してやるのだった。

明治21年、政府は、かねてより懸案だった、諸外国との不平等条約を改正しようと計るが失敗し、その責任をとって、伊藤博文は外務大臣を辞する事になる。

さらに、井上馨も下野する。

かくして、大隈の元を訪れて来た黒田清隆は、これまでのいきさつは水に流して、外務大臣になってくれと頭を下げるのだった。

やがて、その任に付いた大隈は、諸外国との交渉にかかるが、外国人判事を採用する事に対し、大衆から大きな反発を受ける事になる。

政府内でも、この件に反対する声が多かったが、伊藤博文が作った素案の修正としては最善の策なのだと、大隈は反論するのだった。

しかし、そうした大隈の真意は、国民全てに行き届いたとは言えず、ある日、馬車で帰宅途中だった大友に、一人の青年、来島恒喜(工藤堅太郎)が走りより、爆弾を投げ付けるテロ事件が発生する。

来島は、その場で自害して果てる。

何とか、命は無事だった大隈だったが、このテロにより片足を失ってしまう。

明治35年、東京専門学校創立20周年の祝賀会が盛大に執り行なわれた。

その席で、来賓挨拶に立った伊藤博文は、長年に渡る大隈重信の業績と熱意を実力を讃えた後、待機していた楽団に合図をして伴奏を始めると、壇上に腰掛けていた大隈に聞かせるように、「♪宮さん、宮さん〜」と、「トコトンヤレ節」を歌い出す。

それは、かの井上馨の祝言の席を思い出させるものだった。

杖を支えに、壇上に立ち上がった大隈重信は、あの時と同じように、自分も唱和すると、やがて出席した大勢の学生たちや賓客に向い、「♪都の西北〜」と校歌を歌い出す。

それに合わせるように、会場中が早稲田の校歌を唱和するのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

早稲田大学の設立者、大隈重信の半生を綴った偉人伝。

新東宝出身の宇津井健が、真面目一筋の主人公を力を込めて演じている。

堅苦しいと言うか、かなり臭い演技なのだが、意外と、こういう大仰なしゃべり方、立ち居振る舞いが、明治時代では普通だったのかも知れない。

実際、宇津井健だけではなく、他の政治家役の役者たちも、かなり大時代的な演技をしている。

かえって、伊藤博文役の内藤武敏や福沢諭吉役の船越英二などは、日常生活のシーンが多いので、きさくな印象を受けるが、逆に、ちょっと迫力不足に見えなくもない。

宇津井健だけは、国会の場でも日常生活でも、たえず鯱張って見えるが、そんな宇津井のキャラクターが、主役に合っていると判断されたのかも知れない。

ストーリー的には、いくつかの歴史的なエピソードを羅列した合間合間に、人間味溢れるエピソードを少しづつ挟み込んだと言った感じで、さほど掘り下げた人間描写もないし、ものすごく面白いエピソードもなく、全体としては単調な感じは否めない。

通訳として岡田真澄が出演しているのが大映作品としては珍しいが、この頃、日活から、少しづつ他社作品に移行していたようだ。

実在の有名人が多数登場する作品だけに、各々、役者たちにはメイクが施してあるのだが、宇津井の風貌は、いかにも「ヅラ」をかぶっているように見えるのが、ちょっと気になった。

途中、大隈を襲う刺客役で登場し、馬車の引き綱に捕まって、砂利を引きずられると言ったアクションにも挑戦している橋本力は、勿論「大魔神」の中に入っていた役者であり、「怒りの鉄拳」では、悪役日本人としてブルース・リ−と戦った事でも有名。