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恋は異なもの味なもの

1958年、東京映画、長瀬喜伴+津路嘉朗脚本、瑞穂春海監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

東京は人口800万、世界一の人口密度を誇る大都会であり、そこには多数のアミューズメント・センターが立ち並び、各館、冷暖房設備や総天然色サービス等で客を奪い合っている。

しかし、一方で、まだのんびりした都電が入っているように、東京の片隅には寄席も残っている。

寿亭という寄席もその一つ。

ここは、妻を5年前になくした主人仙吉(日守新一)、その娘で、英文科を卒業後、貿易会社で勤めている光子(雪村いづみ)、パリに絵の勉強に行っている長男コウスケの許嫁で、寄席の手伝いをしている咲子(津島恵子)、下足番の源さん(田武謙三)、下働きの時子(河美智子)らが働いていた。

源さんには、向いの鰻屋「しのぶ」の手伝いをしているうめ子(塩沢登代路)が気があるらしく、毎晩、酒の差し入れがあった。

光子から言わせれば、江戸時代の生き残りのような古臭い主人の元には、同じような古臭い「しのぶ」の主人、繁三(森繁久彌)が、しょっちゅう話し相手になりに来ていた。

今日も来ていた繁三の話題は、光子の縁談の事であった。

その頃、自室で、若手講釈師の貞志(一竜斎貞鳳)に、トルストイの「戦争と平和」の本を貸していた光子は、呼ばれて父親仙吉の元に出向くと、その話を繁三から持ちかけられる。

見合いの相手は、繁三の甥にあたり、光子も良く知る青木新太郎(藤木悠)だと言う。

さすがに、そんなおせっかいに光子は鼻白むが、翌日、さっそく、新太郎に電話をすると、銀座の喫茶店に呼出し、昨夜、あなたから私を好きだ伝えてくれと、おじさんから聞かされたと報告する。

ところが、それを聞いた新太郎の方は、自分は、君の方から好きだと言って来たとおじから聞かされていたと返事し、ここへ来て、二人は互いに、繁三の策略にはめられかけている事に気づく。

光子は、新太郎が本当に好きなのは、家にいる咲子の方なのだろうとカマをかけてみる。

しかし、新太郎は真っ向から否定する。

そんな店に、若い女性の大声が響き渡り、光子と新太郎が驚いて声の方を見ると、どうやら、待ちぼうけを食らった女性が抗議の声を上げている。

ところが、その女性が帰りかけた時、入口から入って来て、彼女をなだめはじめたのは、何と繁三ではないか。

光子は、不潔なものを観たような嫌な顔になる。

繁三の相手の女性は、キャバレーの踊子、鈴木弘子(重山規子)だった。

今日も、彼女が踊っているキャバレーでたっぷり鑑賞した繁三は、舞台裏で待ち構え、踊り終えて戻って来た弘子の足を拭ってやるサービス振り。

弘子のアパートへ戻った繁三は、弘子から「パパ、パパ」と甘えられたあげく、そろそろ面倒観てくれる?と尋ねられ、任せておけと安請け合いするのだった。

翌日、鰻屋「しのぶ」で落ち合った光子と新太郎だが、話を付けようと思っていた繁三が不在と知り、仕方なく店を出ると、時間を潰すために、新太郎は寄席に寄っていく事にする。

咲子と久々に出会った新太郎は、以前撮っておいた写真の焼き増しを彼女に手渡すのだった。

一方、娘の縁談の展開を楽しみにしている父親の元に戻って来た光子は、繁三の事を嫌いと言って、自室へ立ち去ってしまう。

その頃、商店街の宝石屋に立ち寄っていた繁三は、弘子からかねがねねだられていたネックレスの出物が見つかったと聞き、喜んでいたが、店の主人が知らない内に、店員が勝手にその品を「しのぶ」の女将に届けた事を知り愕然とする。

その頃、その真珠のネックレスを首に付けた繁三の古女房おかつ(高橋とよ)は、主人からの思わぬ贈り物に上機嫌だった。

実は愛人へのプレゼントが自分の所へ来たとは知らない彼女は、すっかり亭主の心遣いに感激し、自分も、最近モダンぶっている主人を見習って、少しモダンの勉強をしようと決意するのだった。

その後、帰宅しな、寿亭から出て来る新太郎と出会い、近所の蕎麦屋で酒を酌み交わした繁三は、銀座の喫茶店で、女連れだった事を光子と彼に観られた事を知り、口止め料をこっそり手渡すのだった。

その夜更け、写真の整理をしていた咲子に、寝床に入っていた仙吉は、青木の事をどう思うか尋ねる。

面喰らう咲子に対し、仙吉は、光子と新太郎の縁談話が進んでいる事を打ち明けるのだが、咲子はお似合いだと返事をする。

しかし、今だパリから帰って来ず、咲子の事をいつまでも放っている長男の事をぼやく仙吉の言葉を聞いた後は、隠れて涙する咲子だった。

翌日、ネックレスを自慢げにしたまま、光子の部屋を訪れて来たおかつは、自分も洋装をしたいので、洋服を一緒に見立ててくれと頼み、自分は美容院で髪型を洋服用に変更しに行く。

その頃、組合の用事で出かけるとおかつを騙していた繁三は、のんきに弘子のアパートで、目玉焼きやトーストの準備をしてやっていた。

光子に連れられデパートに出かけたおかつは、その宝飾売り場で、繁三と若い女がネックレスを物色している様子を偶然目撃したから大変!

帰宅後、憤慨した光子とおかつは、仙吉に事の次第を全て打ち明けるのだった。

おかつは、自分が家を出ていくと言い出すが、光子は、妻の座をかけて断固戦うべきだとけしかける。

その後、鰻屋「しのぶ」では、繁三とおかつの取っ組み合いの大げんかが始まる。

翌日、青木から電話をもらい、いつもの銀座の喫茶店で落ち合った光子は、繁三が新太郎の所に転がり込んで来たと打ち明けられ、あまり他人事にお節介するものではないと釘をさされるが、今や「しのぶ」の店員たち全員がすっかりおかつに同情してしまい、いつも鰻をひっくり返してばかりいるそそっかしいお春(菅井きん)が中心となり、闘争運動が始まったと打ち明けるのだった。

その頃、寿亭の演壇は、勇ましい労働歌を歌う委員長になったお春に占領されてしまっていた。

客席には、「しのぶ」の女店員たちが、そろって歌を唱和している。

もう寄席どころではなかった。

頭を抱えた繁三には、源さん一人が味方する事になり、男二人で店を開くが、不馴れな彼らにとても客をさばく事は出来なかった。

仙吉もふて腐れて寝込んでしまう。

にっちもさっちも行かなくなった繁三は、咲子に仲裁を頼み、おかつ側の全面勝利と言う事で何とか闘争劇は終了する。

おかつは、弘子と話を付けて来ると出かけていくが、当の弘子は自室のベッドの上で苦しんで呻いていた。

その直後、やって来た女医の手伝いをさせられる事になったおかつ。

外で、おかつの帰りを待っていた繁三が結果を聞くと、弘子は妊娠してつわりで苦しんでいる最中だったと、おかつは呆れて答える。

しかし、そんな事態になったのも、自分にも責任があると感じたおかつは、弘子が身二つになるまでは、自分がきちんと面倒を観てやると繁三に伝えるのだった。

その頃、仙吉は、咲子を自由にしてやってくれ、自分は後2、3年こちらで勉強したいと言う身勝手な航空宇便を受取っていた事を、繁三一人に打ち明けていた。

コウスケを待ち続けながら、家族同様、この寿亭を手伝ってくれている咲子に対し、仙吉には、どうしても、自分の口から、その事を伝えるのが出来ず、苦しんでいたのだった。

その夜、師匠から辞めろと叱られた貞志は、今後は、講釈師を辞めて、千住でメリヤス工場をしている兄の元で働こうと思うと光子に別れを言い、寄席を後にする。

そんな光子に、繁三は新太郎との縁談話を蒸し返して来る。

光子は、もうおじさんたちに任せると、身をゆだねる事にするのだった。

数カ月後のある日の午後、光子は旧友たちから、結婚が近づいたお祝をされていた。

その席で、間もなく、音楽家になってパリに行っている水島陽子(木村俊恵)が久々に帰国して来ると話題に出る。

一方、「しのぶ」にやって来た新太郎は、結婚式の日取りを検討していた繁三とおかつに、今度、仙台に転勤を命ぜられたと知らせに来る。

そんな中、「しのぶ」に弘子から電話があり、それを聞いたおかつは一人で、かねて用意の荷物を持って出かけていく。

不審がる新太郎だったが、弘子は出産間近で入院すると言う事で、おかつがその面倒を見に行く事になったのだ。

そんなおかつがタクシーを停めている所を、帰宅途中だった光子は目撃する。

後日、羽田に旧友たちと水島陽子を出迎えに言った光子は、パリで出会った兄のコウスケから伝言があると、こっそり打ち明けられる。

ある日、母親の墓参りに外出した咲子は、偶然図書館から出てくる青木新太郎と出会い、少し話す事になる。

新太郎は咲子に対し、本当にコウスケの事を待っているのかと尋ねるが、咲子はハッキリとした返事をしない。

単純に人間の世の中が、1+1が2になるように単純なものだったら、不幸はないはずと謎掛けのような事を言うだけ。

帰宅して来た光子は、兄がフランスの女性と結婚したとの知らせを仙吉に伝える。

愕然とする仙吉。

その後、戻って来た咲子にも、自ら、その事を伝える光子だった。

自室で二人きりになった光子は、咲子に、あなたは、どうして枠の中から飛び出さなかったのか?と、これまでの従順な生き方に強い疑問を投げかける。

そして、自分達が、咲子を不幸にしてしまったのだと自らも反省する光子だった。

その夜、光子を呼んだ仙吉は、もうこの寄席を止める事を打ち明ける。

翌日、新太郎を呼出した光子は、婚約を解消してもらいたいと言い出す。

あなたが本当に好きな咲子の方も、実はあなたの事が好きなのだからと。

その頃、病院で、弘子の出産を待ち受けていた繁三は、赤ん坊の泣き声と共に、ぶ然として出て来たおかつから意外な事を聞かされる。

生まれて来た赤ん坊は黒人だったと言うのだ。

茫然自失の状態で「しのぶ」に帰って来た繁三に、やって来た新太郎は、結婚を取り止める事を打ち明ける。

その夜、仙吉からも、咲子と新太郎を一緒にしてやって欲しいと頼まれた繁三は、光子との縁談は自分の目違いだったかと、反省するのだった。

やがて時が過ぎ、仙台に向う列車に乗った新太郎と咲子の仲睦まじい姿があった。

その列車を橋から見送る光子の姿があった。

そんな光子にばったりであったのが繁三。

彼は、やっぱり自分の目違いではなく、光子も新太郎が好きだったのだと気が付く。

気落ちした光子を励まそうと、彼女を誘って踊りに出かけた繁三だったが、これを最後に自分もキャバレーや酒とは縁を切ると打ち明ける。

雪が積もったその夜、寿亭に戻って来た光子を待っていたのは貞志だった。

もう一度、寄席に戻りたいと言う。

それを励ましながら、光子は、これからは自分がこの寄席を続けていこうと思うと決意を語る。

しかし、誰もいない寄席に佇んだ光子は、独り涙するのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

寄席を舞台にした下町人情もの。

古き良き時代のホームドラマを見るような展開だが、今観ても、十分面白い。

現代風のドライな考え方をする光子と、いつまでも許嫁を待ちながら、その家族の手伝いをしている古風な咲子との対比。

その中間に、新太郎と言う男性を配する事によって、微妙な三角関係が形成されている。

表面上は、三人ただの仲良しだったのだが、縁談と言う外力によって、互いの本心を各々がさぐり合う状況になる。

古風な咲子や、臆病な新太郎は、その本心に自ら向き合おうとしないが、ドライでおせっかい焼きの光子が、単身、その本音を暴いて、好き合った二人を結び付けるキューピット的役割を演じるが、結果的に、自分の本心を自ら裏切っていた事を後悔すると言う展開になっている。

実は、表面上ドライに見えた光子も又、父親の血筋を引いて古風な女だったという所が、最後の寄席を引き継ぐ決意の後の涙なのだと思う。

彼女が、浮気をしている繁三を不潔がったり、となりの夫婦の事におせっかいを焼いたりするのも、下町風の人情と言うか、実は本来古風な人間である証拠なのだ。

本当にドライな人間なら、他人の事等関心すら持たないはず。

雪村いづみが、そんな可愛げのある光子を良く好演している。

森繁は、ちょび髭姿で、いつもながらのスケベ親父の醜態を面白おかしく演じている。

それに対する女房、おかつを演ずる高橋とよのとぼけた演技もおかしい。

いつもはおっちょこちょいで、皿をひっくり返して割ってばかりいるような頼りない女店員ながら、いざ、闘争の場となると、張り切って民衆を扇動するリーダー的存在になる菅井きんも若々しく楽しい。