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陽のあたる坂道('58)

1958年、日活、石坂洋次郎原作、池田一朗脚本、田坂具隆脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

第一部

女子大生の倉本たか子(北原三枝)は、家庭教師のアルバイトを依頼された、坂の上に田代家に到着する。

玄関口を入ったところで、大きな犬が近づいて来たので、ちょっと怯むと、その後からやって来た背の高い青年が、その「バロン」というグレードデンを制し、彼女に近づいて来る。

その青年は、初対面の彼女に対し、カバンの中に入っているのが、ゴムひもや歯ブラシだったら、裏口に廻らないと、ママに叱られるぞと脅かす。

たか子が、自分が来た目的を話すと、さらに、興味深そうに彼女を観察していたその青年は、自分には独自の憲法があり、それは「はじめて会った人の身体を触る事だ」といい、指先で、彼女の胸をさっと触るのだった。

あまりの無礼な行為に驚愕と怒りを覚え、帰りかけたたか子だったが、その時、二階から、もう一人の青年が声をかけて来る。

どうやら、二階の男が、これから、たか子が教える事になる娘の上の兄の田代雄吉(小高雄二)で、自分の身体に触った方が、次男坊の信次(石原裕次郎)というらしい。

その後、母親田代みどり(轟夕起子)から、末娘のくみ子(芦川いづみ)を紹介されたたか子は、学科を教えると言うよりは、良き人生の先輩として、くみ子の話し相手になって欲しいと依頼される。

そんなたか子に対し、くみ子は、いきなり、自分は足が悪いのだが、別に気にしていないでくれと自分から言い出すのだった。

その後、たか子が家族と一緒に昼食をよばれた時も、遅れて来た信次は、兄の隣では分が悪いと言い、わざとテーブルに付かず、離れた所でカレーを食べはじめるのだった。

どうやら、信次とくみ子は揃って変わり者らしいと、たか子は気づく。

その後、くみ子に案内されて入った彼女の部屋には、信次が描いたらしいくみ子の油絵が飾ってあった。

その場で、つい、くみ子の足が悪くなった原因を聞こうとしたたか子だったが、それまで明るかった、くみ子の態度が急に硬化する。

その日、自宅アパート「あやめ荘」に帰って来たたか子は、同じアパートの向いの部屋に住むおばさん高木トミ子(山根寿子)から、国から送って来たリンゴ箱を預かっていると教えられる。

やがて、おばさんの息子の民夫(川地民夫)がリンゴ箱を持って来て、蓋も開けてくれるのだが、常日頃から、作曲家志望だという民夫は、たか子の事を「おねえちゃん」と呼んでなついていた。

二人の親切に感謝したたか子だったが、今、料理屋で働いていると言うおばさんが、昔は芸者だったと言う昔話を聞いたりする。

それに対し、たか子は、今日から、アジア出版の社長の娘さんを教える事になったと報告するが、それを聞いたおばさんは、何故か驚いた表情をする。

どうやら、社長の事を知っているらしいのだ。

しかし、それ以上、何も語らないまま、おばさんは帰ってしまう。

民夫の方は、どうした気紛れか、たか子にライターをプレゼントするのだった。

母みどりとくみ子が音楽会に出かけたある日、帰宅して来た父親の田代(千田是也)は、二階の信次の部屋から、床をトンカチで叩く音を耳にする。

音楽を聞いていた信次が、興にのって、ふざけているらしい。

やがて、降りて来て、父親と対面した信次は、パパの酒が飲みたいと甘え出す。

信次は、久々に二人きりで話す父親に対し、自分の実母が今、生きているのかどうか唐突に切り出す。

思わぬ質問に、一瞬答えに窮した父親だったが、信次の実母が柳橋の芸者で、染六という名前だった事は教えてくれたが、その現状については何も知らない様子。

やがて、母親たちが帰宅してしまったので、その話はそれきりになってしまう。
母親は、父親が取り繕っていた態度に、何か不自然なものを感じた様子。

一緒に帰って来たくみ子は、二階から、信次が歌う「小原庄助さん」の声を聞き咎め、注意しに上がって行く。

信次は、部屋に入って来たくみ子に、自分のような出来損ないを押し付けられた、今の母親の事を悪く言ってしまうが、それを聞いたくみ子は激怒する。

くみ子も又、信次が腹違いである事を知っていたのだが、自分の母の事を悪し様に言われる事には抵抗があったのだ。

そのくみ子は、今日、音楽会に出かけた帰り、銀座で食事をした時の事を話し出す。

同行したたか子が、自分が食べ残したビフテキを食べてしまったエピソードを聞かせたのだった。

くみ子は、そんなたか子に、ますます親しみを深めたと言う。

そのたか子は、雄吉と二人で酒を飲んでいた。

たか子は、民夫からもらったライターで、雄吉のタバコに火をつけてやる。

そして、男性とのデート気分に浮かれたのか、飲み付けない酒を無理して飲んでしまい、ちょっと酔ってしまった自分を「汚い顔」と面白がるのだった。

ある日、たか子は、くみ子に誘われて、ジャズ喫茶「オクラホマ」に連れて行かれる。

そこで、今人気でくみ子自身も夢中のジャズシンガー、ジミ−小池の舞台を見せたいらしい。

ところが、そのジミ−小池として登場して来た若者を観たたか子は驚愕してしまう。

何と、同じアパートに住む、あの民夫ではないか!

その民夫、二階席に来ていたたか子に手を振ってみせたから、同じテーブルにいたくみ子はびっくりしてしまう。

互いに旧知の間柄である事が分かった三人は、民夫の舞台がはねた後、トンカツ屋に揃って食事に出かけるが、そこで民夫は、実は、ジミーというのは、先輩がつけた名前、小池と言うのは、父方の姓なのだと打ち明ける。

さらに、その場でのくみ子と民夫の、あまりに仲睦まじそうな様子を観たたか子は、当てられて思わず笑ってしまうのだった。

その後、田代家を訪れたたか子は、くみ子が所用で一時間ばかり帰りがおくれるとお手伝いさんから聞き、庭で羽を伸ばす事にする。

ところが、その様子を、バロンの犬小屋の中から信次がスケッチしている事に気づき、罰が悪くなる。

好奇心から、自分も犬小屋の中に入り、信次と話始めたたか子は、いつものように、又、信次の悪ふざけに憤ったりしていたが、やがて、信次が言い出した自分の実母の名前を聞いて、つい、アパートのおばさんの事を思い出してしまう。

その顔の変化に気づいた信次は、彼女を問いつめ、高木トミ子というおばさんの名前と、彼女に18になる息子がいる事を聞き出してしまうのだった。

一方、そのあまりに傍若無人な信次の態度に呆れ、彼との絶交を言い出したたか子だが、彼の部屋で自分のデッサンを見つけ、それをもらって帰る事にする。

その途中、雄吉に出会ったたか子は、彼に誘われるまま、焼き芋を買って散歩に出かけるが、山の中で二人きりで話す中、雄吉が、彼女に好意を持っている事を知るのだった。

やがて、あやめ荘では、民夫とトミ子が、母子水入らずの正月を迎えていたが、トミ子が、亡くなった元夫の遺影を出して来たので、家に寄り付こうともせず、乱暴者だった父親が嫌いだった民夫は不機嫌になる。

しかし、トミ子の方は、そんな夫でも、今になってみると懐かしい存在であった。

そんな中、トミ子の友達たちが、揃って御大師様参詣に誘いに来る。

くみ子を連れて、郷里に弘前にスキーに来ているとの年賀状をたか子からもらった民夫が、一人きりでトロンボーンの練習をしていた部屋へ、見知らぬ青年が訪ねて来る。

田代信次であった。

自分に腹違いの兄がいる事は、母親から聞かされていた民夫だったが、いざ、目の前に、いきなりその兄と名乗る男が現れたのだから面くらい、やがて湧いて来た怒りから、信次を追い出してしまう。

その夜、帰宅して来たトミ子は、仲間連中と、陽気に酒を酌み交わしていた。

そんな所へ、再びやって来た信次を観たトミ子は、てっきり、出かけている民夫の友達と勘違いして、仲間に引き入れてしまう。

何となく名乗りそびれてしまった信次は、そのままトミ子たちに誘われるまま酒をよばれ、陽気に踊るトミ子たちの輪に加わってしまうが、そこに帰って来た民夫に発見され、またもや追い出されてしまう。

田代家の正月は、父親も伊東へゴルフへ出かけてしまい、母親みどりが一人で留守番していたが、そこへ帰って来た信次は、そのみどりに呼び止められ、少し話をしようと言う事になる。

みどりは、いきなり、あなたは実母に会った事があるかと尋ね、信次は、正直に、今日会って来た事を打ち明ける。

さらに、みどりは、くみ子の足を、幼い頃怪我させたのは、あなたではなく、長男の雄吉の方だと言う事を自分は知っているのだと打ち明ける。

必死に、あれは自分の責任だと言う信吉に対し、あなたは、自分が責任をかぶる事によって、何か、私や他の家族に対し、優越感を持とうとしているのだろうと心理分析する。

信次は、常日頃、みどりの事を 「くそババア」呼ばわりしていたが、実は、彼女が大変聡明な、一種の女傑である事に改めて気づくのだが、最後まで、くみ子の怪我の真相に関しては、自分がやったと言い通すのみだった。

一方、弘前で、足を挫いて入院していた雄吉を、毎日見舞っていたたか子は、すでに、彼の足が直っており、自分は彼に騙されていた事を知るが、同時に、その雄吉から、はっきりプロポーズされたため、その嬉しさを胸に単身、先に東京に帰る事にする。

あやめ荘に帰って来たたか子は、留守番をしてくれていた民夫から、信次がここへやって来た事、自分とくみ子には共通の兄がいる事実を、くみ子にも教えるべきだと聞かされる。

結局、その事を、後日、くみ子に打ち明けるたか子だったが、それを聞いたくみ子は、自分と同じ悩みを抱える民夫に、無性に会いたいと思うようになる。

その日は、雄吉も家に戻り、雪山にスケッチ旅行に出かけていた信次も戻り、父親もいると言う、田代家では珍しい家族全員が揃った夜となり、たか子も一緒に夕食に招かれる事になる。

先に、みどりの口から、信次が実母に会ったとの報告を受けていた父親は、食後、家族みんなの前で、信次の出征に秘密に付いて、改めて打ち明けるのだった。

すでに、全員知っていた事とは言え、改めてはっきり説明された事により、家族の結びつきは確固たるものになる。

その後、たか子は、みどりのピアノに合せ、家族全員で歌う光景を目の当たりにする事になる。

帰りは、雄吉が車で送ってくれ、信次が自分の油絵を一枚、たか子に渡すのだった。


第二部

試験勉強中のたか子の元へ、民夫が、母親が料亭からあまったごちそうをもらって来たから、食べに来ないかと誘いに来る。

さらに、くみ子から、16日の朝7時に、神宮前広場の絵画館前で会いたいと言う手紙をもらったとも報告する。

その後、トミ子の部屋で、ごちそうをよばれている所へ、突然、信次がやって来る。

信次は自らの名前を名乗ったので、トミ子は、はじめて、彼が自分が生んだ息子である事を知り涙ぐむ。 民夫は、その顔を観て又いきり立ち、追い出そうとするが、その負けん気を面白がった信次は、その内、俺がお前の兄だと言う所をガツンと見せつけてやると言い残して帰るのだった。

翌朝、絵画館前で落ち合った民夫とくみこは、一緒に朝食用にくみ子が用意して来たサンドウィッチを食べるのだが、目の前にある病院を観ていたくみ子は、かつて、向こう見ずにも、自分一人で産婦人科医塩沢博士(小杉勇)を訪れて、自分が子供を生めるのかどうか、身体の検査をしてもらった過去を告白するのだった。

ある日、昼食用の蕎麦を食べに出かけた信次は、上島(小沢昭一)と名乗るガラの悪そうな男たちから声をかけられ、車に乗せられると、見知らぬ家に連れてくられる。

そこでは、川上ゆり子(渡辺美佐子)というファッションモデルが出て来るが、彼女は、自分が呼んで来させたはずの相手がその場にいないので面喰らう。

その様子を観て、上島も信次も、別人を連れて来てしまった事が分かる。

その夜、場末のおでん屋で、雄吉と落ち合って話し合った信次は、一緒に帰宅すると、母親みどりに向って、悪いヒモが付いた女に関わってしまい、百万円寄越せと脅されているのだと告白する。

その後、雄吉は出かけてしまい、自室に戻った信次は奇声をあげるが、それを聞いたみどりは、父親に相談しようとしていた話を止め、二階の信次の部屋に入ると、さっきの話は、本当は雄吉の話として聞いていたと打ち明けるのだった。

それに対し、そう思っているのなら、何故、それを直接雄吉本人に言わないのかと尋ねる信次に対し、痛い所を突かれたと、素直にみどりは、自分の弱点を認めるのだった。

そして、自分が将来一人になった時、自分は、くみ子か、お前のどちらかの世話になろうと思うのだがと告白するみどりに対し、信次は快諾する。

それは、二人が互いに、心から理解し合えた夜だった。

翌日、バロンの犬小屋の中で、信次に自分の姿をスケッチさせながら、夕べ、雄吉が酔って帰る様子を見かけたと話すたか子は、あなたは女の事で失敗したそうだけどと、その真相を知りたいと、好奇心からつい口走ってしまう。

それに対し、信次は偽悪家ぶって、ファッションモデルの女性を二度も妊娠させた後捨てた事や、他のモデルにも手を出してしまった事を洗いざらいぶちまけ、これで自分と絶交したくなったかと詰め寄る。

しかし、その生臭い告白に驚いたたか子は、あなたの事を全部知りたいので、絶交はしないと言い切る。

その後、信次に犬小屋に閉じ込められてしまったたか子だったが、直後に帰って来たくみ子に解放してもらう。

そのくみ子と作戦を立てたたか子は、ピクニックと称し、民夫を連れて、河原で絵を描いていた信次の元にやって来る。

女性二人に騙されたと分かった民夫は、その場から立ち去ろうとするが、信次から、今日こそ、自分が兄だと言う事を思い知らせてやるとけしかけられ、向って行き、大げんかになる。

それを、女性二人は、リンゴをかじりながら、側で見物するのだった。

やがて、信次から叩きのめされた民夫は、涙ながらに、信次を兄と認めると言い出す。

その倒れた民夫に駆け寄るくみ子。

たか子も、川で手を洗っていた信次に、自らのハンカチを渡すのだった。

その後、四人揃ってクラブに向い、民夫は信次と踊り明かす。

本当は、兄が出来た事を喜んでいたのだった。

残されたくみ子とたか子は、女同士で踊るはめになってしまう。

その姿を発見した店のマネージャーから、歌を所望されたジミ−小池こと民夫は、大勢の客の前に出て、上機嫌でジャズを披露するのだった。

やがて、くみ子は民夫と、たか子は信次と踊り始めるが、くみ子たちは、たか子たちの目つきがおかしい事に気づき観察し出す。

そんな中、たか子と信次は熱い口づけをかわし、直後、たか子は、信次の頬をぶって立ち去り、それを観ていたくみ子も又、同じように、民夫の頬をぶつと立ち去るのだった。

落ち着いた後、たか子に謝罪すべきだと勧める民夫に対し、自分は何も謝るような事はしていない、たか子が河原でハンカチを俺に渡した行為は、恋の告白だと判断したからだと突っぱねる信次。

たか子は一人で帰る事にし、くみ子は民夫が送って行く事に。
信次は、独り残って飲み続ける事にする。

家の前までやって来た民夫は、くみ子から目をつぶるよう命ぜられると、初めての口づけをもらうのだった。

その夜、洗湯から帰って来た母に対し、民夫は幸せそうに、今日、信次と和解した事を報告するのだった。

一方、自室で、信次から預かった雪山の油絵を見つめていたたか子は、自らの身体の中から沸き起こる、野性的な生き物の気配のようなものを感じていた。

ある日、信次と共に、大学の雄吉を尋ねたたか子は、自分が本当に愛しているのは信次の方だと打ち明ける。

それを聞いた雄吉は、さすがに信次は芸者の子だけあって…と、口汚くからかいかけ、信次から殴りつけられるが、それは、雄吉本人が望んだ自らへの罰だった。

雄吉は、今後、嘘から始まった自分の人生をやり直すために、人目を気にする家を出て下宿しようと思っていると告白すると、二人の前から姿を消す。

その後、落ちたバッグを整理してたか子に渡そうとしていた信次の手に、拾ったハンカチがあるのを目にしたたか子は、ハンカチを渡す行為は、恋の告白だと言ったわねと、謎めいた言葉を投げかけ、それを聞いた信次も静かに微笑み返すのだった。

その頃、くみ子は、民夫に、自分の足は、手術で直るらしいと告白しており、それを聞いた民夫も嬉しそうに、これからどこまでも一緒に歩いて行こうと誓いあうのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

石坂洋次郎の原作の最初の映画化作品で、一部、二部合わせて、3時間以上になる超大作文芸もの。

地方出の女子大生が目撃する事になる、奇妙な金持ち家族の実態。

個人的には、渡哲也主演による2度目の映画化の方を先に観ていたので、ストーリー自体は熟知していた上に、異常に時間も長そうだったので、途中で退屈してしまうのではないかと恐れたが、そんな心配はいらなかった。

足が不自由な妹役の芦川いづみが、自分が子供を生める身体なのかに疑問を抱き、独断で産婦人科医を訪れる件等がある他は、基本的に同じストーリー、エピソードなのだが、こちらはこちらで新鮮に感じた。

正に、金持ちの坊っちゃんと言う役柄がぴったりと言った感じの裕次郎をはじめ、出演者全員が若いが、芦川いづみの女子高生というのも初々しい。

この役名が、そのまま芸名になったのでは?と思われるこの頃の川地民夫は、何だか今回、今の浅野忠信に、どことなく風貌が似ているように感じた。

物語上、極めて重要な役所になる育ての母親役の轟夕起子と、生みの母役の山根寿子は、共に存在感のある演技を見せており印象的。

父親役の千田是也も、渋くて捨て難い。

当時の日活が、これだけの文芸大作を作ったと言うのは、それだけ、裕次郎をはじめ、キャスティングに、興行的な自信があった証拠だろう。

描かれているテーマに普遍性があるとは言え。今観ても、十分見ごたえのある名作である。