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花咲く港

1943年、松竹大船、菊田一夫原作、津路嘉郎脚本、木下恵介監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

からゆきさんとしてバタビアに出稼ぎに言っていたせつ代(槇芙佐子)は、開戦の気運が高まる中、役に立たないと南から無理矢理出身地の島に引き上げさせれられて、無為な毎日を送っていた。

今日も、砂浜で、木村巡査(仲英之助)と取り留めもない話に興じている。

そんな娘を叱りに来たのは、かつて、かつお漁船に乗っていたものの、潮見役をやり過ぎて、目をやられてしまった父親袈裟次(河原侃二)だった。

彼は、今でも海に出たがっていたのに、島にいるしかない自分にいらつき、毎日のように娘に当り散らしていたのだ。

面白くないせつ代は、父親の元を離れようとするが、その時、自転車に乗って急いでいる平湯お春(水戸光子)の姿を見かけ、兄の良二(半沢洋介)によろしくと声をかけるが、せつ代の事を快く思っていないお春は、知らん振りをして通り過ぎる。

お春は、馬車会社の社長野羽玉(笠智衆)に、電報を寄越して来た人が間もなく港に到着するので、かもめ館に集まるように声を書ける。

その後、役場に向うと、助役をやっている兄にも同じ事を知らせる。

間もなく、旅館「かもめ館」を経営しながら、馬車による魚屋もやっているためおかの(東山千栄子)の元に、島一番の網元林田(東野英治郎)、妹の自転車に相乗りして来た良二などが集まって来る。

かもめ館には、すでに、野羽玉や村長(坂本武)が来ており、揃った村の有力者たちの前で、島に届いた二通の電報を再確認してみる。

長崎と鹿児島から各々打たれたその電報によると、二通共に、渡瀬健三の遺児、健介が間もなく島に着く。はじめての故郷に胸踊ると書かれてあった。

これを読んだ有力者たちは、14、5年前、この島の片の浦に、造船所を作りかけた渡瀬健三の事を思い出す。

結局、その事業は、不景気のあおりを喰って挫折し、渡瀬は南に去って行ったが、島の住民たちにとっては、島を開発しようとした偉大な先生として、今でも尊敬されていた。

その遺児が島を訪れるとあっては、大歓迎しない訳にはいかない。

二通目の電報に鹿児島を出発したと書いてあるからには、もう到着する頃だと、全員、馬車に乗り込む。

港に向う馬車の中で、村長たちは、おかのの事をさかんに当て擦っていた。

実は、おかのは、昔、渡瀬に憧れ、南のペナンまで追い掛けて行ったと言う武勇伝があったからだ。

結局、おかのは、現地で渡瀬に相手にされず、賢明に働いて稼いだ金を携えて、島に戻って来たのだった。

それだけに、いまだに渡瀬に対する思いは断ち難く、秘かにその息子との対面に胸踊らせていたのだった。

港では、すでに到着した渡瀬健吉を名乗る紳士風の男(小沢栄太郎)がおかのと感激の対面したのち、村長らに紹介され、そのままかもめ館に送り届けられる。

かもめ館に到着した健吉は、現在、東京の南方開発会社の重役兼支配人をしていると自己紹介をすると、如才なく、出席した島の有力者たちの人柄を誉め讃え、誉められた方は、すっかり舞い上がりながらも健吉の人柄にほだされてしまうのであった。

ところが、そんな最中、玄関口に客(上原謙)の姿があり、おかのが出てみると、長崎から電報を打っておいたのに、迎えに来ないのはどう言う訳だ。自分は渡瀬健吉なのだというではないか。

びっくりしながらも、まだ、最初の健吉の相手をしていた他の有力者たちをこっそり呼び寄せると、事情を話して、玄関に集める。

他の連中も、新しい渡瀬健吉の出現に驚き、戸惑いを隠せなかったが、人当たりが軟らかく、如才ない最初の健吉に比べ、今度の健吉の方は、言葉遣いもズーズー弁だし、何となく気短そうでつっけんどんな印象だったので怪しみ出す。

そんな玄関口へやって来たのが、最初の健吉。

彼は、いきなり新しい健吉に向って、「お前も来たのか」と声をかける。

一瞬、戸惑う相手を前に、最初の健吉は、この男は自分の弟で健二という。

実は、二人一緒に島に来ると迷惑がかかると思い、自分一人で来たのだが、こいつも来たかったらしいと有力者たちに説明する。

その説明ですっかり事情を察した有力者たちは、二人を歓待するのであった。

その後、二階の上等の部屋で二人きりになった健吉、健二の二人は、声を顰めて言い争いをしていた。

実は二人の本名は、野長瀬修三(小沢)と勝又留吉(上原)というペテン師仲間だった。

興信所から、渡瀬の情報を拾って来たのが、インチキ保険屋の修さんこと修三、それを元にこの計画を立てたのがペンキ屋の留こと留吉だったのだが、二人は互いに、この計画を自分一人で実行しようとして鉢合わせになったのだった。

しかし、事こうなってしまったからには、互いに兄弟と言う嘘で押し通すしかない。

二人は、ペテン師同士の、とんだ「紳士協定」を結ぶ事になる。

そんな二人の部屋におかのに案内されてやって来たのは、福岡の専門学校を二年間通ったと言う島一番のインテリ、良二だった。

彼は、二人に東京の新しい情報等伺って勉強したいと言う。

ボロが出てはまずいと感じた修三は、話を、造船所復興の方に変える。

亡父の遺志を受け継いで、自分がもう一度、造船所に島民から株を募集し、船を建造したいのだと言う。

そうすれば、新しい造船所は、島全体のものになると言う話を聞いた良二とおかのは、すっかり感心し、その話にぜひ協力させて欲しいと乗り出す。

その事を村長に連絡に行こうと、宿を出た良二は、ばったり、幼馴染みだったせつ代と出会うが、彼女の南での仕事を知っている良二は、昔のように馴れ馴れしくは出来ない。

つい冷たい態度になってしまうのを、彼を兄のように慕っていたせつ代は寂しがっていたのだった。

しかし、その日もつい、良二は、君と付き合っている暇等ないと、彼女を突き放すのだった。

この話はあっと言う間に、有力者たちの耳に伝わるが、網元の林田は乗り気ではなかった。

今頃船を作って、南に物資を持って行っても、どこも買ってはくれないだろうと冷静な分析をしていたからだ。

そんな林田の態度に焦れたおかのは、渡瀬先生たちの坊っちゃんたちの計画を成功させたい一心で、自分は、かもめ館を売っても良いとまで言い出す。

それを聞いた野羽玉も、この話は、金利より意気だ!とばかり、自分も、馬車等全部売ってしまっても協力を惜しまないと言い出す。

その頃、留吉はと言えば、お春と子供達と、のんきに船にのって歌を歌いながら遊び惚けていた。

その脳天気な姿を見た修三は、同行している良二の手前もあり、留吉を連れて造船所跡に行くと、殊勝にも、亡き父の墓参りをしたいと、線香を砂浜に立てて、わざとらしい念仏を唱えるのだった。

隣で一緒に祈らされた留吉は、修造の大袈裟さに半分呆れてしまう。

やがて、片の浦造船所株式会社の看板がかもめ館の入口に立ち、その常務の一人として留吉、株式募集の受付を、旅館の英吉(大坂志郎)が受け持ち、島人らから金を徴集しはじめる。

そんな中、せつ代もやって来て、父親の為に、自分が南で稼いだなけなしの金で10株購入して行く。

金はあっという間に集まり、小心者の留吉は、その額の多さに臆病心が頭をもたげて来る。

せいぜい5〜6000円の収入と高を括っていた修造も、5万円も集まったと留吉から聞くと、さすがに怖じ気付くのだった。

人の良い留吉等、島人のあまりの人の良さに、こんな事では悪人に付け込まれると人事のように心配し出すほど。

修造は留吉に、足が付かない内に一刻も早く、島を脱出しようと持ちかけるが、お春に気がある留吉は、まだ島に残りたそうな気配。

そんな二人がもめている「かもめ館」に、小さな女の子連れの婦人が泊まりに来る。

その女性の顔を観たおかのは驚愕してしまう。

その女性こそ、ぺナンで渡瀬先生を奪い合い、負けた相手の女ゆき(村瀬幸子)だったからである。

つまり、そのゆきが連れている女の子こそ、渡瀬先生の実子という事になる。

おかのは、今、渡瀬先生の先妻の息子さんたちが二階に宿泊していると打ち明け、ゆきが、先生の後妻である事を告白しない条件で、宿に住まわせてやる事にする。

着の身着のまま、渡瀬先生馴染みの島にやって来ただけのゆきは、おかのの配慮に感謝して、旅館の手伝いとして住み込みはじめる。しかし、本心では、渡瀬先生に先妻等いなかったはずだがと不審がってもいた。

翌日、長崎に帰る技師たちと一緒に、島を抜け出そうとしていた修造は、留吉の姿が見えないので、かもめ館の入口でいらつきはじめる。

そこにいた良二を村長が呼んでいると伝えに来た役所の小使(島村俊夫)が、自分の姿をじろじろと見つめるのに気づいた修造は、ついに正体がばれたと思い込み、焦りはじめる。

その頃、留吉は、お雪と二人で小舟に乗って、つかの間の逢瀬を楽しんでいた。

留吉は、素直に自分の事を疑っていないお雪を騙し続ける事に羞恥心を感じはじめていたのだった。

良二が役場に呼び戻された理由は、日本が米英に対し、宣戦布告をしたという連絡を報じるためであった。

役場では、随時、入電した戦況を馬車で村人たちに触れ回る仕事を始める。

かもめ館に戻って来た留吉と修造も、その知らせにはさすがに厳粛な気持ちになり、こんな状況下で、こそこそ逃げ出す事等とても出来ないと判断するのだった。

この開戦の知らせに、造船会社への株式投資を引き上げようと言い出したのが林田だった。

戦争が始まったとなれば、船で南方に物資を運んでも、誰もそれを買ってくれるもの等いない。

万一、敵の潜水艦等に、わが船が沈められる事にでもなれば、その存在は株主である自分達に直接跳ね返って来る。今の内に、返金した方が得策だと言う冷静な分析であった。

しかし、これに真っ向から反対したのが、野羽玉だった。

マレーに兵隊さんたちを運んだのは船であり、戦争が始まったとなれば、今後もなおさら船は必要になって来る。潜水艦に撃沈される事等に心配しているようでは、日本人とは言えない。何なら、自分が家財一切を売り払っても、あなたの株券を買取ってもよいとまで言い出す始末。

それでも躊躇する林田に、いきなり「それでもあなたは日本人か!」と渇を入れたのが、他ならぬ修造であった。

修造は、金を持ち出すつもりだった自分の計画等忘れてしまったかのように、金なんかなくなっても戦争に勝てば良いと、愛国心むき出しの勇ましい事を言い出す。

さらに、遠慮がちに部屋を訪れたゆきが、これを船の完成に役立たせてくれと、「釘代」と称して自分の所持金を差し出すに至っては、もう林田の出る幕はなくなってしまう。

いたたまれなくなって、かもめ館を後にしようとしていた林田の前に現れたのは目の悪い袈裟次だった。

彼は、もう一度、自分をかつお船に乗せて、海に出してくれと網元である林田に懇願しに来たのであった。

その後、真珠湾奇襲成功の知らせを伝える良二の言葉に、全員万歳を叫ぶ島民たち。

それから三ヶ月が経ち、シンガポールやジャワが日本軍によって陥落する中、船は後半年で完成しようとしていた。

その建造途中の船を、一日ごとに金がなくなって行くようだと恨めしげに観に来る林田。それを、軽蔑の眼差しで見つめる野羽玉。

そんな中、留吉だけは、のんきに浜辺で油絵等描いていた。

一応、この島では、絵描きと称していたからだ。

そんなやって来た修造に、留吉は自分達がやっている汚い行為を思い出させ、今日中に逃げ出そうと持ちかけるのだった。

しかし、修造は、船の完成を楽しみにしている村人たちの姿を観てしまうと、もう逃げられなくなった、あの船が完成するまでここにいる事にしたと告白する。

そんな二人の元へやって来た木村巡査は、海岸線を描く事は禁止だと言って、留吉が描きかけていた油絵を没収してしまう。

その内、雨が降り始める。

舟番の為、造船所の近くにあったゆきの住む小屋に雨宿りで入った留吉と修造は、独り留守番していた娘(井上妙子)から「お父ちゃんの船は何時できるの?」と尋ねられ、その意味する所を悟ってしまう。

その女の子こそ、本当の渡瀬先生の遺児である事を。

さすがに、罰が悪くなった二人だが、その後戻って来たゆきが、さなんに二人を持ち上げるので、つい互いに肉親同士だ等とその場を取り繕ってしまう修造だった。

その夜は嵐だった。

かもめ館のおかのの元に、ぐしょ濡れのゆきが、このままでは船が危ないと知らせに来る。

そんな中、島を逃げ出そうとしていた修造と留は、豪雨の中、船の元に戻ろうとして倒れた雪を発見、思わず助け起こすと、かもめ館の部屋に連れ帰り寝かせてやるのだったが、そのゆきが、うわ言のように、船を救ってくれ、自分の命より大切なのだと言うのを聞いた二人は、自分達の行為の浅ましさを悟り、船が完成したら自首して出ようと誓いあうのだった。

嵐は過ぎ去り、何とか持ちこたえた船は、半年後、無事完成する。

その完成披露式の日、島では花火が打ち上がる中、おかのや野羽玉らは、修造と留吉の姿が見えないのを不審がっていた。

その二人を捜すため、お春が自転車をこいでいる途中、大勢の村人たちが浜辺に向って走っている姿を目にする。

何事かと聞いたお春は、袈裟次が乗ったかつお船が、敵にやられたさというではないか。

浜辺に駆け付ける島民の中には、泣き崩れるせつ代の姿、さらに、こうなったら、自分自身が海に出る、一隻船をやられたからと言ってへこたれる自分ではない、どんどん船を作ってやると意気込む林田の姿もあった。

そんな林田の姿を観た野羽玉は、ついに同じ日本人として、互いの気持ちが通じ合ったと感激するのだった。

その頃、沖を走る船には、木村巡査に連行された留吉と修造の姿があった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

開戦前後の南の離島を舞台に、二人のペテン師と、それを善意で受け止めるおおらかな島民たちとの奇妙な月日を描いた風刺コメディ。

基本的には人情ものなのだが、多分に、国威高揚を狙ったメッセージ性も感じられる内容になっている。

これが、木下恵介監督のデビュー作であるらしい。

戦時中の作品だけに、どこまで作家の本音で描いているのか定かではないが、開戦の知らせに島中が沸き上がる様等は、意外に当時の真実の姿に近かったのかも知れない。

古い作品だけに、登場人物は全員若いが、中でも、フサフサの黒髪を分けている小沢栄太郎の姿には驚かされる。主役で、あらかじめタイトルに名前が登場しなければ、誰だか区別が付かなかったと思う。

島の位置は、長崎と鹿児島から船が来る場所と言う事は、東シナ海辺りにある島と言う事か?

表現としてちょっと面白く感じたのは、冒頭近く、おかのたちが馬車で港に修造を迎えに行くシーン。

おかのや野羽玉、村長らが乗った馬車の荷台の後ろはスクリーンプロセスで表現されており、そこに、走り過ぎる島の様子が写されている訳だが、会話の途中で、おかののぺナンの回想シーンが入ると、そのスクリーンに南の都市らしき情景が映し出されると言う趣向になっている。

おかのの回想が終わると、又、元の走り過ぎる島の様子に変わるのだが、スクリーンでそういう二重の使い方をしているのを観たのはこれが初めてである。

ズーズー弁をしゃべり、どこか気弱でお人好しのキャラを演じている上原謙の二枚目半振りも好ましい。