1968年、東映動画、井上ひさし+山元譲久脚本、矢吹公郎監督作品。
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太陽の後ろから現れたコウノトリの一団。
その中の一羽がくわえた袋の中から「この辺で良いじゃろう」の声が聞こえ、中から飛び出して来たのは、パラソルををパラシュート代わりにした風変わりなおじさん。
色んな形の雲と遊びながら、地上に降りて行く。
それを、教会の上から発見して驚いたのは、ケケ(声-九里千春)と三匹の子ねずみたち。
そのおじさんの真似をして、パラソルで地上に降りる。
それにつられて、同じ教会内にいた黒猫のゴロ(声-鈴木やすし)も空へ歩き出したが、パラソルを持っていないので、そのまま地上に落下。
それに呆れる間もなく、ねずみたちは、この異変を仲良しのハンス(声-藤田淑子)に教えに行く。
そのハンスは、クリスマスの日に町にやって来る王立劇場のオペラが観たくて、劇場内部を覗いていたが、それを番人に見つかり追い出されていた。
そんなハンスに、ケケは、空からパラソルを持ったおじさんが降りて来たと伝えるが、ハンスは相手にしない。
何故なら、そのおじさんは、自分が昨日ケケに話して聞かせた「眠りの精 オーレおじさん」そのものだったから。
きっと夢でも見たんだろうと、ケケに別れを告げ帰ってしまう。
しかし、教会に戻って来たケケは、もっと驚くべき光景を目にする。
窓から入って来た、あの奇妙なおじさん(声-高島忠夫)が、部屋にあったケケたちの家財道具を魔法の力で消してしまったからだ。
ケケたちが怒るが、おじさんは、太陽が窓から差し込んだからと言って怒るのかい?、そよ風が吹いて来たからと言って怒るのかい?と、奇妙な言い訳をする。
その内、おじさん、靴のかかとが取れた事に気づき、靴屋を捜しに部屋を出て行く。
そのおじさんに、「靴屋なら、良い店を教えてあげる」と言いかけたケケだったが、もう、おじさんの姿は消えていた。
おじさんは、町中の靴屋に出かけて、靴の修理を頼むが、どの店でも相手にしてくれない。
その訳は、今、町内は、優れた赤い靴をこしらえた靴屋には賞金がもらえる「赤い靴コンクール」の真っ最中で、どの店も、その靴作りで夢中だったからだ。
そうした中、一軒の靴屋だけは、のんびり作業をしていた。
ハンスの家だった。
ハンスの父親(声-富田耕吉)は、評判の靴職人だったが、今は貧しくて、赤い靴コンクールに出品する新作のための皮さえ買えない有り様。
皮さえあれば、ハンスにオペラを見せてあげられるのに…と、申し訳なく思う父と母(声-平井道子)だった。
しかし、そんな事は気にしないハンスは、いつものように、庭の花畑で、植木鉢をお城に見立てて空想を楽しんでいた。
そんな所へやって来たのが、あの奇妙なおじさん。
おじさんは、今、ハンスの父親に靴を修理してもらっている所だと言って、植木鉢を本当の城に変身させたり、不思議な力を見せる。
その後、直った靴を受取ったおじさんは、持ち合わせがない事に気づき、どこからともなく、上等のアラビア皮を取り出すと、それを修理代としておさめてくれと言う。
父親は、その皮を受取って、これで自分も「赤い靴コンクール」に出品でき、ハンスにオペラを見せてやる事ができると大喜び。
しかし、帰りかけたおじさんは、「その皮で作った靴は、はく人の心のままに動くんだよ」と、不思議な言葉を残して行く。
ハンスの靴屋の隣の家には、花屋をやっているおばあさんとエリサ(声-杉山佳寿子)という少女が二人で住んでいたが、こちらも貧しいため、大家である町長に家賃を払えず、今日も、町長の娘のカレン(声-増山江威子)にタダで花を全部持って行かれてしまう。
そんなエリサとハンスは、二階の窓同士、いつも仲良く話していた。
今日も、鉢植えのバラがしおれているのを発見し悲しむエリサに対し、ハンスは、バラは夕べ、舞踏会に行って来たので疲れているのだと、夢のある話を聞かせて、エリサを慰めるのだった。
ハンスは、大人になったら、オーレおじさんのように、世界中を旅して、子供達に素晴らしい話を聞かせてあげたいと望むのだった。
そんな二人の家の下では、黒猫のゴロが、メス猫のミミ(声-三輪勝恵)に求愛の歌を歌っていた。
ところがミミは、今お腹が空いているので、町長の屋敷から食べ物を取って来てとわがままを言う。
仕方なく、ゴロは、町長の屋敷に出かけるが、そこには、門番犬のブル(声-三波伸介)が待ち受けていた。
そんな中、コペンハーゲンからやって来た監督官(声-藤村有弘)が、町長の家に泊まる事になる。
その歓迎の食卓にのぼった監督官用の鴨の丸焼きには、ゴロがむしゃぶりついていた。
ゴロは、その鴨の丸焼きを何とか、屋敷から持ち出そうとするが、ブルに追い掛けられ邪魔されてしまう。
その夜、ハンスは、オーレおじさんに、教会の屋根の天辺の十字架に連れて行ってもらう。
そして、夜空にきらめく星は、毎週土曜日に、おじさんが全部下ろして磨いているのだと説明してくれる。
星の裏には、全部番号がふってあり、それに合わせて、元の穴に戻すのだが、間違って入れた星は、こぼれて、流れ星になるんだとも。
貧しくて、毛布さえかけずに寝ているエリサの姿を見て、おばあさんは毛布を買ってあげられたら…と呟いていたが、その様子を見ていて同情したのがゴロ。
町長の屋敷のベッドで寝ていた監督官の毛布を盗み出そうとするが、その拍子に、監督官が帽子掛けに掛けていたカツラまで取れてしまう。
翌朝、カツラと愛用のマフラーがなくなっている事に気づいた監督官はカンカン。
それを知った町長は恐縮して屋敷内を捜すが、何と、カツラをかぶっていたのは、番犬のブルだったので、大激怒。
しかし、当のブルは、朝起きたら、知らない間にかぶっていただけだと弁解するが、町長はその言い訳を聞かず、残りのマフラー探索をブルに命じるのだった。
町へ出たものの、捜す当てもなく途方に暮れるブルを、キキたちは助けてやろうと、あれこれ持って来るが、どれもマフラーではない。
あきらめかけて帰ろうとしたブルだったが、ひょんな事から、エリサの家のお婆さんが足に掛けているのを発見、屋敷に報告に帰る。
その頃、ハンスは、赤い靴の夢を見ていた。
バラの花から、小さな親指姫が生まれる瞬間の夢だった。
親指姫は、悪いクモの巣に引っ掛かり、危うく、クモに襲われそうになるが、ハンスが助けて、小さな仲間たちの元へ、親指姫を連れて行ってやる。
翌朝、エリサの家を訪れた町長は、老婆から理由も聞かず、乱暴にマフラーを奪って行ってしまう。
訳が分からない老婆は、その騒ぎで、通りに倒れ付してしまうのだった。
そこへ駆け寄り嘆き悲しむエリサ。
ハンスは、エリサの家がもぬけの殻になっている事に気づき、エリサの行方を捜そうとするが、オーレのおじさんは、インドでは尋ね人がある時は、川に火を流すらしいと教えてくれる。
火が消えずにどこまでも流れて行けば、尋ね人はまだ生きており、途中で火が消えてしまえば、もう亡くなっているのだと。
その頃、エリサと病床のおばあさんは、町外れの風車小屋の中にいた。
その日は、「赤い靴コンクール」の当選者発表の日だった。
集まった町民たちの目には、誰しも、ハンスの父親アンデルセンの靴が一番見事な出来映えに見えたが、その靴を、いきなり町長の娘のカレンが自分がはくと言って奪い取ってしまう。
その結果、当選者は別の職人が選ばれてしまい、ハンスト父親はがっくりして帰りかけるが、そこに近づいた町長は、靴の代わりに、これまで父親が滞納して来た家賃を帳消しにしてやると伝える。
それでも、ハンスがオペラを観るお金を得るチャンスは失われてしまった。
がっかりして落ち込むハンスだったが、それを慰めようと、キキたちが歌ってくれたので、その歌に勇気づけられたハンスは、自分で働いて、オペラの入場料を稼ごうと決意する。
しかし、なかなか仕事は見つからず、見つかっても、手伝ってくれるはずのゴロのへまなどで失敗ばかり。
町長の屋敷の仕事も結局失敗し、追い出されるが、何とか、オペラの入場料分だけは稼ぐ事ができたので、公演が始まる直前の劇場へ走って行く。
ところが劇場の前で、ハンスは、マッチを売っていた少女が馬車に接触し倒れたのを発見、助け起こしてみると、その少女は、いなくなっていたエリサではないか。
訳を聞いてみると、おばあさんが病気なのに、薬代がないのだと言う。
意を決したハンスは、自分が持っていたオペラの入場料をエリサに渡して、マッチを全て買い上げるのだった。
そんな中、劇場内ではオペラが始まり、オーケストラの音楽が鳴り渡るが、不思議な事に正面席に座っていたカレンの赤い靴が球に光だし、音楽に合わせるかのようにひとりでに動き出す。
それをはいたカレンは、何かに取りつかれたように踊り続け、劇場内を飛び回ったあげく、外に飛び出してしまう。
それを追う町長や観客たち。
監督官も又、馬車で、カレンの後を追う。
教会の前まで踊りながらやって来たカレンの身体は、教会の窓から出現したパラソルが抱え上げるように空へ持ち上げ、彼女自身の部屋に運んで行く。
そんな騒ぎのために、オペラの上演がなくなったと、嘆き悲しむ少年に、面白い話を聞かせてやってとキキや、何時の間に現れたのか、オーレのおじさんも勧めるので、ハンスは手に持っていたマッチを観ながら、「マッチ売りの少女」の話を、泣いていた少年に聞かせるのだった。
その話が終わった時、ハンスは思いもかけない大勢からの拍手を聞いて我に返る。
何と、何時の間に集まったのか、町中の人たちが、ハンスの目の前で拍手をしているではないか。
ハンスの話の才能を認めた監督官は、彼を、コペンハーゲンの自分の家に連れて行き、しっかり勉強させると言い出す。
翌日、コペンハーゲンに向う監督官の馬車に乗ったハンスを見送りに、ハンスの両親や、町長と、すっかり人柄が良くなったカレン、そして、町長が面倒を見ると約束してくれたエリサとお婆さんの姿があった…。
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世界的童話作家アンデルセンの少年時代に材を取ったメルヘンチックなミュージカルアニメ。
ストーリーの面白さで見せると言うよりも、アニメの特性を最大限に生かしたイメージの広がりで見せる作品になっている。
オーレのおじさんの声を当てているのは、東宝ミュージカルでお馴染みの高島忠夫。
東映動画の作品に参加していたとは意外な感じがする。
イメージ的には、相当、工夫が見られ、当時としては、かなり野心的な作品だった事が分かる。
ひょっとすると、日本版「ファンタジア」のような路線を狙っていたのかも知れない。
ただ、こういうイメージ優先の作品は、リアリティが希薄なだけ、よほど絵柄が魅力的でないと途中でだれてしまうものであるが、この作品のキャラクターデザインにはかなり癖もあり、好き嫌いがはっきり分かれると思う。
全体的に、動きやデッサン力も不安定だし、背景の絵柄等も、今のリアルなタッチに見慣れた目で見ると、相当、ラフな感じに見える。
それが当時の絵の味わいだったのだが、今の子供にはどう写るだろう。
東映動画の中でも、ちょっと異色なタイプの作品ではないだろうか。
